それではどうぞご覧ください。
情け。
それは思いやり。情けは人の為ならずという"ことわざ"があるが、意味は人に情けを掛けるとその人の為にならないという。
と、誤用している人もいるが、本来の意味は人に優しくすれば巡って自分に返ってくるという意味を持つ良い言葉。
では、カナシミはどちらの意味での情けを掛けたのだろう。否、どちらの意味でもない。
半情もそれは理解している。
「私はカナシミに情けを掛けられた」
「半情さん……」
「あぁ、なんて私は愚かなのだろう。生物は作ってはいけないんだ……産まれてくるものなんだ!カナシミは作られたのではない……産まれてきたんだ……!」
「私もそう思います。この世に生を受けて、その命は誰もが平等です。その筈なんです。ただ種族が違えば彼らとわかり合うことは、きっと数年単位では不可能だと思います」
「そうだね……きっと彼は私を友達だから逃してくれたんだろう。唯一心を許せる存在だったから。自分を対等に見てくれた生き物だったから………なんでわかり合う事を拒んだんだ、私は……ッ!」
「カナシミがリラティブドライバーを欲したのは、きっと半情さんが亡くなったと勘違いしたからでしょうね。もう自分には何もないから、分かり合えるものがいないから……カナシミはきっとエモーショナリデミックを始めようとしている」
氷の話を聞いた半情は、自分について話し始めた。
「あの子は優しい子なんだ………実を言うと私も家族は早くに亡くしていてね。1人は病気、1人は不慮の事故、1人は自殺さ。私も独りぼっちだった……」
「半情さん……なんて声をかけたら……」
「君も優しい子だ。わかるよ、君の気持ちが。ありがとう……だから私もカナシミは家族の様なものだったんだ……だが、その信頼を私は易々と裏切ってしまった。家族ではなく、世界を取ってしまった……ハッキリ言って正しい事をしたとは言いきれない。ただ間違いなく私が引き金に指をかけたのは確かだ」
そして氷は半情の手を握り、真剣な眼差しで言う。
「止めましょう。半情さん」
「氷ちゃん……」
「エモーショナリデミックも……燈も、どっちも全部!」
「……あぁ、そうだね。止めよう。君がリラティブドライバーに選ばれた理由がそこにある」
「あっ!」
ようやく氷は思い出す。
「リラティブドライバー……燈の所にあるんです」
「そうだろうね。彼に襲われているのを見た時に察したよ」
ここに来るまで氷は半情に質問をしていた。
何故自分たちの場所がわかったのか、と。それは万が一リラティブドライバーが盗まれた事を想定して発信機をつけていた様だった。
それを辿って長い事探し続けた結果、絶好のタイミングで駆けつけられたらしい。
「だが、安心したまえ」
「え?」
そう言って半情が立ち上がると、奥の方にあった機械を弄り中から何かを取り出す。
それを持って氷の前に置くと、彼女は声をあげて驚いた。
「こ、これってリラティブドライバー!?」
「そうだよ」
「そうだよって……もう1つあったんですか……?」
「いや、造ったんだ。急遽時間とお金を掛けて、ね」
「エモーションに対抗する為にですか?」
「それもあるが………ゴホッ!」
「半情さん!」
すぐに半情の元に駆け寄ろうとする氷を、半情は手のひらを出して静止させる。
「はぁ……私は病を患っていてね。ははっ……そう長くないと医者から言われた。あぁ安心して欲しい。私のこれは他人に移らない」
「そ、そういうことじゃなくて!」
「いいかい氷ちゃん。このリラティブドライバーは君に託す。それと君に対応するカンジョーメダルも渡しておく。オウトツバイダーも既に君たちの手にある筈だ」
「これ正式名称そうだったんですか……じゃなくて!半情さん、ありがとうございます」
「頼んだよ、氷ちゃん………」
すると、急に半情の顔が険しくなる。
「どうしたんですか?」
「氷ちゃん、君に伝えなくてはいけないことが2つある」
「………なんですか?」
「氷ちゃんはこれから彼、燈くんと戦う事となる。ハッキリ言うと戦闘面から今の氷ちゃんが勝てる確率は限りなく低い。ただ感情という点においては別だ。彼は怒りよりも殺意が表に出ている。これは本来のリラティブドライバーの性能を十分に発揮できていない。君は感情豊かで知恵のある子だ。きっとそこが勝負の分かれ目だと私は考えている。これが1つ目だ」
「はい、わかりました」
「そしてこれが…………」
「半情さん?」
半情は険しい顔のまま暫く黙っていたが、ようやくその重い口を開いた。
「君の言うモヤシくんはもうこの世にはいない」
「えっ……」
「君の話から燈くんの攻撃が一瞬止まったとあるが、あれは彼の記憶が混合して起きた一時の現象に過ぎない」
「…………」
「そして彼はもう人間ではない。身体を取り戻したと言っているが……実際は人に近いエモーション。そう、彼はもうエモーションの1体と見て間違いない」
「はい………」
「……………それからこれが2つ目。もう君なら気づいているね?………燈を、エモーションを倒すという事は─────」
「モヤシが消えちゃうって事ですよね」
氷は意外と冷静に答えた。
それを見て半情は驚くが、氷は淡々と伝える。
「でも、しょうがないです。これから先、私みたいな被害者を出す訳にはいきませんから。私は燈を倒します。みんなの為に」
「氷ちゃん……」
「ありがとうございました!あ、これ連絡先と住所です!何かあったら電話してください!」
「………君は強い子だ」
半情が一言そう言うと、
「はい」
と、氷もまた一言だけ言ってその場を去った。
*****
「氷……結局戻ってこなかったね……」
「だね〜」
文化祭の日、氷が姿を眩ませてから数日が経過しており、可奈達は氷を心配して何度も連絡をしていた。が、彼女から返信が来る事はなかった。
それどころか巷では殺人鬼が再び現れたとして話題になり、その姿はあの仮面ライダーリラティブときたもので、今はエモーションの被害よりも話題がこちらに持ってかれている状態だ。
可奈たちは教室でその話をし始めた。
「ねぇ、あの仮面ライダーリラティブってもしかして……」
「そんな訳ないじゃん!あんなの偽物だよ!」
可奈がそうやって別の友達を否定すると、
「そうよ、私じゃないから」
聞いたことがある声。
可奈たちが振り向くと、ブワッと涙が溢れ出てきた。
「氷ィィィィィィィィィィッ!!!」
「うわっ、ちょ、わかったから涙拭いてよ!!」
───────暫くして落ち着いた可奈。場所を変えて氷は友人たちを前に今までの経緯を話す。
それは信じらない様な話ばかりで可奈たちは戸惑っていたが、一度も疑う素振りは見せなかった。
「氷、頑張ったね!」
「ええ、ごめんね。連絡遅れちゃって」
「一応学校には連絡取ってたんでしょ?」
「無断で休むなんて常識ないでしょ」
「そこ気にするのかーい!」
久しぶりに友人同士で笑い合う。
氷の心も少し軽くなった。
「……それで氷は数日間エモーションと戦いつつ、もう1人の仮面ライダーリラティブを止めようとしてたんだ」
「真っ向から勝負は挑めないけどね……エモーションたちを連れて邪魔をするって事を何度か繰り返すうちに、あっちはエネルギー使い果たしたのか。そのまま行方を眩ましてるし」
「そういえば最近話題に上がってるけど被害出てないもんね!氷、すごい!」
「はははっ、でも勝てる訳じゃないしね……勝たなきゃいけないのに」
「氷……」
「ねぇ、可奈」
「なぁに?」
「やっぱり殺さなきゃダメなのかな……」
氷の言葉に驚いた可奈たちではあったが、冷静に聞き返す。
「殺さなきゃダメなの?」
「……あいつは仇だけどさ。見た目も声も私が知ってるモヤシなんだ。本当は凄く憎んでるし許せない……筈。なのに、声を聞く度にね。モヤシの顔が思い浮かんで、辛くなって、苦しくて……どうしていいかわからなくて……」
氷がポロポロと涙を溢し始める。
それ見た可奈たちは冷静に、そしてハッキリと伝える。
「モヤシさんのこと好きでしょ」
「………え?」
「モヤシさんの、事が、好き!!なんでしょ!!」
「はっ、え、待って!」
「氷、普段から他の男の話することない癖に、モヤシさんの事となると結構長めにお話しするもんね〜みんな〜」
「「ねぇ〜」」
友人たちは呼応する様に頷く。
氷は思わず恥ずかしくなり顔を背けた。
「だからさ。そういう言い方しないでよ」
「可奈……」
「"殺す"でも"倒す"でとなくて、"助ける"って言い方に変えよ!」
「助ける……」
「言い方とかじゃなくて本当に!助けようよ!モヤシさんのこと!」
「ありがとう……うん、助ける!」
「それから大好きって伝えて!」
「それは……考えと────」
「考えなくていい。言って!!」
「………うーーーー、わかった!!言ってやるわよ!!」
「約束だからね!?絶対だからね!?」
「わかったわかった!絶対!……絶対言うから」
「えへへ、私たちの氷を泣かせたんだからね。後でモヤシさんにはそれ相応の罰を与えてやるんだから〜」
「ええ、そうして。首根っこ掴んで連行する」
再び彼女たちは笑い合う。
友達の為、世界の為、自身の為、そして────モヤシの為に。
*****
「─────燈、また来たわよ」
「今度こそお前を殺してやる」
「私はあなたに興味ない。私は……モヤシを"助ける"」
「まだ言うのか」
今まさに人を殺害しようとしていた燈。手にはナイフを持っている。
彼の前には怯えて呼吸が荒くなった女性がいた。助けを求める様に氷の方を向き口をぱかぱかと開く。
「彼女から離れて」
「はっ、この女を助けたいのか?」
「もちろん」
「へぇー……」
次の瞬間、燈はナイフを突き立てる。
同時に氷は動いていた。
「はぁッ!!」
「ちぃ……!!」
氷は脚を振り上げてナイフを蹴り飛ばし、更に勢いをつけ、燈の顔面に回し蹴りを食らわせた。
鮮やかで強烈なコンボに燈は怯んで後退る。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……!」
「早く逃げてください。こいつは私が」
そうして女性はフラフラと千鳥足ながらも一生懸命にその場から立ち去った。
残された2人は互いを見つめ合う。
「……すぅー……なんだこの威力」
「私こう見えて多才なの。でも、いつの間にか殆どモヤシに任せて、甘えて……自分で倒すって事がいつの間にかなくなってた。けどね。もう私は1人。やらなくちゃいけない。助けなきゃいけない!だからモヤシッ!帰るわよ!私たちの家にッ!」
その時、彼女のカンジョーメダルが光を帯び、新たなメダルが生成される。
青色のメダル────"グリーフカンジョーメダル"。
最大限の悲しみ、慈悲を手にし、氷は腰にリラティブドライバーを装着すると、そのメダルとアイスバーグカンジョーメダルを差し込む。
《グリーフ!》《アイスバーグ!》
《アイスブレイク!コネクト!》
氷は右の手のひらを天に向け、それからなぞる様に下へ持っていく。
そして最後に胸元で親指を上に突き立てる。
「変身ッ!!」
掛け声と共に左の親指でリラティブドライバー上部のボタンを押すと、辺り一面を凍らせ、背後には氷山の一角が現れる。
氷の身体は"氷"に包まれ、まるでクリスタルを彷彿とさせる姿になると、ピキピキと音を立てて砕け散る。
《大氷結!リラティブ!ウィズグリーフ!》
「さぁ────凍てつかせる」
遂に氷にも強化形態!
果たしてモヤシは─────?
次回、第21話「氷結≠冷血」
次回もよろしくお願いします!!