それではどうぞご覧ください。
「あなた……モヤシなの!?」
その問い掛けに燈?……否、モヤシは一言。
「僕です……」
意識を保つのもやっとな程、か細い声で、うめき声の様にも聞こえる声量で氷に伝えた。
氷の表情は明るくなる。
「良かった!本当はもうダメなんじゃないかと思って……でも、あなたが無事ならそれでいい。それじゃあまずはそいつから引き剥がして、それから─────!!」
「ダメですよッ……!!」
モヤシの返事は氷を拒絶するものだった。
「どうして……?」
当然、氷は戸惑いを見せる。
「私の家族の事よね?あれはモヤシじゃないんだから……私は気にしてない!だからほら……」
「本当に気にしない……ですか?」
「え?」
「僕は燈と顔も声も、背丈も……全部。全部僕であり燈なんです。氷さんは僕が戻ってきたとして耐えられますか……?あなたの隣にはずっと恨み続けた親の仇がのうのうと暮らすことになるんですよ……氷さんにそれが耐えられるんですか!?」
モヤシの言う事は全くその通りだ。
氷はあの日のショックによって、殺人鬼の顔にノイズが入り、燈と相対するまでは記憶の奥深くに沈んでいる状態であった。
そして今、全ての過去が明らかとなり、その記憶は呼び起こされた。
憎い。当初と変わらないほど憎い。
「……私は今でも両親を殺し、大切な弟もその手にかけた犯人を許してない」
「それなら─────!」
「でも!!」
氷は叫ぶ。
「あなたにはそう感じないの!最初は私も戸惑ったし、怒りが込み上げてきた……けど、モヤシは違うんだってわかる!少しの間だけど一緒に暮らしてきて、あなた事は十分に理解できた……私が楽しい時、辛い時、悩んでる時、いつもいつも気にかけてくれたお人好し。一緒に出かけた時だって車道の方を歩いてくれたり、テーブルの角に頭をぶつけそうになったらそっと手を添えてくれるし、一見すると地味だけど所々気を利かせてくれる。それから……それから……!!」
「でも……」
「お願いだから戻ってきてよ!!……お願いだから……」
「…………ッ!!」
「私をもう………1人にしないで……」
彼女の表情は仮面に隠れて見えない。
ただモヤシだけは彼女の気持ちを、仮面の向こうで涙を流す彼女の悲しみを。
「氷さん。僕は─────────うぐっ!!」
「モヤシッ!?」
突如、モヤシは喉を掻きむしりながら苦しみ出す。
氷は心配になってゆっくり近づいていくと、モヤシはピタリとその動きを止める。
「モヤシ……?」
そして突然、モヤシの拳が真っ赤に燃え出し、次の瞬間には氷の頬まで拳が伸びていた。
それを氷は脅威的な反射神経で躱す。が、少し掠めただけで仮面にヒビが入った。
すぐに彼女は距離を取る。
「また出てきたの?"イカリ"」
「スゥ───────イカリじゃねぇよ。てめぇいい加減にしやがれ?」
「じゃあ私が納得のいく説明しなさいよ。モヤシが出てきた訳を……消えたんじゃなかったの?それとも今のは演技だった。意外とセンスあるわね」
「このアマァァッ……!!─────ぅ、まぁいい……ここでお前を殺せば、こいつが絶望して感情が暴走し、もう2度と顔を出さねぇ筈だ」
そう言い切った燈?に対し、氷は首を横に振る。
「無駄よ。あなたの攻撃は私には通用しない」
「なに寝言をッ!!」
「モヤシッ!!」
殺意を増して真っ直ぐに向かう燈?に対し、氷は棒立ちのまま動こうとはしない。
「はっ!死を選ぶか!」
「──────あなたを信じてる」
この一言が燈?の動きを変えた。
灼熱の拳を突き出した燈?だったが、その拳は彼女の眼前でピタリと動きを止める。
「なっ、ば、バカなッ……!!」
「モヤシ、ちょっと痛いけど我慢しててよ!」
その問い掛けに対し、彼の表情は変わって一言。
「お願いしますッ……!!」
氷はその言葉にニッと笑い、氷のスパイクを纏った脚で彼の金的を蹴り抜いた。
「「────────ッ!!?」」
その一撃は洒落にならないレベル。
誰もが一見ふざけている様にしか見えない行動ではあるが、意識が集中していない時、不意に急所を強固な脚で蹴り抜かれる。内臓が外にある様なものだ。ショック死したケースもあるほど、脳天から足先まで、一瞬にして全身に流れる激しい苦痛。
「「ァ……ッ……ッッァゥッ……!!!」」
それは2人が分離を始め掛けるほどの衝撃。
氷は手を伸ばす。
「モヤシィィィィィィィッ!!」
その声は彼の耳にちゃんと届いていた。
モヤシも手を伸ばす。
「氷ッ……さん!!」
2人の指先が触れ合う────────。
*****
モヤシの元へと向かう最中、氷のスマホの着信が鳴った。
その電話主は半情であった。
「はい、もしもし寒波です」
「氷ちゃん、突然申し訳ない。君に伝えたい事があって連絡したんだ。今大丈夫かい?」
「今は大丈夫です。これから彼の所へ行く途中だったので」
「そうか……こんな大事な時に、いや、こんな大事な時だからこそ君に伝えたい」
「どうしたんですか?」
半情は謝罪を入れてから話し始める。
「改めて申し訳ない。君の様なまだ若い子に苦しい決断をさせてしまうなんて……大人として、人として、君には本当に辛い思いをさせる……」
「いいんですよ、もう。ふふっ、本当に優しい方ですね」
「ありがとう……では、君に伝えたい事なんだが、私は前にこう言ったね?燈を倒せばモヤシ君も死んでしまうと……」
「はい、覚悟はできています」
「……もしもの話だ。これはあくまで私の希望であり、確率的には極めて薄く、なんの根拠もなく突拍子もない事なんだが……」
「ん?」
「リラティブドライバーは感情を主に原動力にしている。1人では感情をコントロールするには難しく我々も調整が難航した。ただ君たち2人がそれを可能にした。1つのドライバーに2つの魂……感情。それが2つあった場合、尚且つ2人が分離した状態で全く同じドライバーを使用していた場合、更に君たちの間に強い同調作用があれば…………彼を救い出せるかもしれない」
その言葉に氷は声が裏返る。
「ぁえっ!?……コホン。ほ、本当ですか!?」
「すまない……はっきりとした根拠はないけれど、リラティブドライバーの特性と君たちに起きた出来事を踏まえると可能性は0ではない」
「ならっ……!!」
「あくまで可能性の話なんだ……これにはモヤシ君が生存している事が前提となる。だからこれは慰めに近い形になってしまうかもしれな────」
「それでもいいんです」
氷ははっきりと言った。
「可能性が0じゃないなら、私はそれに賭けます。どんなに確率が低くたって構わない。どこに至って何してたって必ずモヤシを救い出してみせます!!」
「……本当に君は強い子だ。君なら必ずやれると信じてる。私も全力でサポートさせてくれ」
「はい!……それじゃあ行ってきます」
「ああ、頑張ってくれ。氷ちゃん──────」
*****
半情はその時、特殊なノートパソコンを持って彼女たちの様子を陰で伺っていた。
このノートパソコンはリラティブドライバーや使用者の状態をリアルタイムで受信できる。これによって両者の状況を把握する事が可能だ。
「こ、これはッ……燈の方に2つの意識………モヤシ君がいるのか?抗っているのかッ!!」
すると、
どちらも似ているが白と黒に分かれ、発するオーラもまるで違う。
氷は白い方がモヤシだと感じ取った、
「モヤシッ!!手をッ!!」
「氷さん!!」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ……!!!」」
2人は互いの手をガッチリと掴み合う。
そして氷は全身全霊で彼を邪悪な器から引き抜いた。
「あっ……!!」
その時、
2人は激しい衝撃と共に吹き飛ぶと同時に変身が解除された─────。
暫く時間が経った。
モヤシは誰かに揺さぶられているのに気づくと、ゆっくりと目を開けて起き上がる。
「………うぅ……ここは?」
「気づいたかいモヤシ君?」
「あ、あなたは……?」
「安心してくれ私は味方だ。私の事は後で詳しく話そう。半情という。微力ながら氷ちゃんに力を貸した者だよ」
「どうりで氷さんはリラティブドライバーを……じゃなくて!氷さん!!」
モヤシは辺りを見回そうとすると、指が何かに触れる。
小さくてか弱い手。しかし、その手は辛い戦いを切り抜けた誰よりも強い手。
「氷さん……氷さんッ!!大丈夫ですか!?」
「─────ん、んー……?」
氷はゆっくりと目を開ける。
「ご迷惑をお掛けしました……氷さん」
「モヤ、シ……?モヤシ……モヤシッ……!!!」
氷は起き上がるな否やモヤシを強く抱きしめて、その胸に顔を埋めた。
「こ、氷さんッ!?」
「バカ……」
「………」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
人の目も気にせず、硬い結び目が解けた様に、彼女はその綺麗な瞳から大粒の涙を溢した。
今まで大人の様に振る舞っていた氷だったが、その姿を見るとまだ年相応の少女である事が認識できる。
モヤシも彼女をそっと優しく抱きしめた。
「………ただいま戻りました」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「ははっ、泣き過ぎですよ氷さん。このままだと溶けますよ」
「……ぐすっ……もう溶けてる─────」
その瞬間、氷はモヤシに唇を重ねた。
あまりに突然のことにモヤシはフリーズし、半情はわざとらしく虚空を見つめた。
「おかえり」
一言。たった一言ではあったが、何ものにも変え難い価値がある。
「氷さんもう何度も謝ったと思いますが、それでも言わせてください。申し訳ございませんでした……」
「……氷って呼んで」
「え?」
「氷って呼んだら許す。敬語も使わないで。それから暫くご飯作って、あと────」
「わぁぁぁぁっ!!待ってくださいわかりました!!」
「敬語」
「敬語だけは勘弁して下さい!僕のアイデンティティがなくなります!」
「アイデンティティだと思ってたことに驚いたんだけど」
「僕だってそりゃありますから!」
「ふふっ……」
「……はははっ」
その微笑ましい光景に半情は、かつて共に過ごした家族を思い出し、目頭が熱くなる。
「よかった……本当に君たちが再会できて……くっ」
「ふふっ、ありがとうございます。半情さん。お陰で私は大切な人を取り戻す事ができました……あ、モヤシ。この人は半情さん。リラティブドライバーの開発者なの」
「は、え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
3人が楽しい会話で場を和ませていると、黒い影がそれを妨げた。
「てめぇら……よくも、よくもこの俺をぉぉぉぉぉ……」
燈はもう人ではない。
その姿は醜悪なエモーションへと姿を変えていた。
エモーションの特徴である触手が身体のあちこちから生え、鋭利な先端とノコギリの様な触手に変化し、特徴的だった怒りの仮面は焼け爛れ、中から殺意を感じられる表現するには難しい悍ましい顔をしている。
奴は"イカリ"。ただの化け物だ。
「全くしつこい奴ね。おんなじ顔してる癖にモヤシの方が100倍かっこいい」
氷とモヤシは即座に立ち上がり臨戦体制に入る。
それから氷はリラティブドライバーを腰に装着すると、半情報が彼女の前を横切りモヤシにもう1つのリラティブドライバーを託した。
「リラティブドライバー!……半情さんこれは……」
「どさくさに紛れてさっき拾ったんだよ。あんな輩に渡すのは死んでもごめんでね……任せたよ。"仮面ライダーリラティブ"!!」
半情はそう言って一歩彼らから遠ざかる。
そしてモヤシは腰にリラティブドライバーを装着し、氷と互いの顔を見合わせ微笑み合う。
すぐに前に向き直り、2人はそれぞれボルケーノカンジョーメダル+レイジカンジョーメダル、アイスバーグカンジョーメダル+グリーフカンジョーメダルを装填する。
《レイジ!》《ボルケーノ!》
《バーンアウト!コネクト!》
《グリーフ!》《アイスバーグ!》
《アイスブレイク!コネクト!》
火山と氷山。
相反する2つの感情の山は今度は並び立ち、熱気と冷気が邪魔する事なく入り混じる。
全く違う感情同士。
だが、互いを受け入れ、共に歩み出す。
─────それが仮面ライダーリラティブ。
「「変身ッ!!!」」
2人は同時にリラティブドライバー上部のボタンを叩く。
《大噴火!リラティブ!ウィズレイジ!》
《大氷結!リラティブ!ウィズグリーフ!》
そして互いに背中合わせとなりイカリを指差してこう言った。
「さぁ燃やしてッ!」
「凍らせてッ!」
「「ぶっ倒すッ!!」」
ただいま帰還!!!!!
イカリを!過去に!引導を渡せ!!!!!
次回、第23話「相棒=最高」
次回もよろしくお願いします!!