それではどうぞご覧ください。
ヨロコビと名乗った知能あるエモーションの攻撃により、愛ノ川高校は再び休校を余儀なくされた。
今の時代リモート授業ができるので、各々支給されたタブレットを使用して授業を受ける。
「────で、あるからして、ここの問題はー……氷さん答えてもらっていいかな?」
「そこはこの式で───」
相変わらず正確な答えを提示する為、先生は驚いていたが、同時にうんうんと頷き、氷の凄さを改めて実感しているようだった。
授業が進み、午後を過ぎた頃、先生が時計を確認して昼休憩を入れるという事を皆に伝えた。
一旦休憩であるので、退室する者もいれば、そのまま画面だけミュートにして休憩を取るものもいた。
氷は後者で、タブレットをどかし、朝早く起きて作っておいた料理を食べ始める。
『氷さん、美味しそうですね』
「ふぁあね。わはひはふふったはらほうへんよ」
『なんて言ってるかわかんないです』
そんな会話を挟みつつ、料理を食べていると、スマホに着信が入る。
相手はもちろん可奈たちだ。
グループ通話で繋ぎ、今日の授業でわからなかった事や世間話など、他愛もない話をし続けていると、時間はあっという間に過ぎて授業開始時間となった。
「───って、もうこんな時間」
「早いねー!」
「それじゃあ可奈、みんな。また後でね」
「はいはーい!」
────キーンコーンカーンコーン。
タブレット越しから聞こえるチャイムの音。最後の授業が終わり、挨拶を済ませると、氷は身体を仰け反らせる。
「あー、やっと終わった」
『お疲れ様です』
「さ、買い出し行こ」
『今からですか?』
「今日は何もない日だからね。こういう日に買い溜めておくの」
『明日休みですよね?』
「わかってないわね、モヤシ。明日は土曜日。人が沢山来ることは目に見えてるわ。明日ゆっくりしたいなら、混まない今日を狙って行くってこと」
『なるほど!』
「それじゃあ行こ」
氷は身支度を済ませ、大きめの鞄を待って外に出た────。
*****
外はすっかりオレンジ色。日が沈み掛けている。
店から出た氷は、鞄いっぱいに詰め込んだ食材を重そうに運んでいる。
『氷さん、そろそろ変わりましょう』
「いいの?」
『居候してますから。これくらいはお任せください!』
「助かる〜。ありがと」
そう言って一瞬のうちに氷は、ひょろっとした男に姿を変える。
「ホント不思議な現象ですよねこれ」
『自分の身体が自分のものじゃないみたい……って、実際私の身体じゃないのか』
「とにかく荷物運びはお任せくださぁぁぁい……」
いくら背が伸び、ガタイがそれなりに良くなったからと言ってモヤシはモヤシ。
彼には男としての力なんてないのだ。
「重いですぅ……」
『え、弱くない?』
「ごめんなさい……」
『全くもう……』
そんな彼らの足元に影が伸びる。
その影は彼らのものではない。不自然に長く、まるで彼らを逃さんとばかりに重なり合う。
気味悪く思ったモヤシはすぐに後ろを振り向いた。
「…………」
影を重ねた本人と目が合った。
その人は目から一筋の涙を流し、帽子を取って会釈をすると、また帽子を被った。
「なにか……?」
「初めまして。『仮面ライダーリラティブ』」
「リラティブ?か、仮面ライダー?」
モヤシは仮面ライダーという呼称に眉を顰めたが、それが変身した後の自分たちである事を氷から言われてハッとなる。
この人物はモヤシと氷の正体を知っているようだ。
「あなたは何者ですか?僕たちに何の用が?」
「君は科学者を知っているかね?」
「はい?」
「彼らは人間という種族の中でも突出して好奇心旺盛な生き物だ。好奇心を持つことは大切な事。今まで知り得なかった情報を好奇心のまま習得し、理解し、知恵をつける事でこの人間社会は大きな発展を遂げた……だが、科学者という人間は好奇心が強過ぎる故に、本来ならば逆らってはいけない自然の摂理を変えようとする者もいる」
突然の事に動揺するモヤシ。
その人は急に質問をしてきた。
「君は生物を造れると思うかね?」
「え……?いや、無理でしょう」
「普通はそう思うだろう。ただ
「さっきから何を……」
モヤシが発言しようとする所を遮るように。
「私はエモーション。名は『カナシミ』。科学者によって造られた存在だ」
オレンジ色の空が青くなる。
街灯の明かりが2人を照らした─────。
*****
「あぁ……悲しい……」
街中にあるビルの最上階に位置する社長室で、カナシミは静かに涙を溢す。
社長室は奥側が全面ガラス張りになっており、それを背にする形で社長用のデスクが置かれている。部屋の真ん中にはテーブルと、それを囲う様にソファが設置され、それぞれに仲間のエモーションであろう面々が座っている。
モヤシもその1つに座っているが、囲まれているのでそう簡単に逃げる事はできないだろう。
「お前はッ……!」
モヤシは気づく。
目が合ったのは“ヨロコビ"。やはり死んだ訳ではなかったが、平然として傷もない。
「マジあん時は死ぬかと思ったわマジで!」
「ひ、ひぃ……」
他に目を移すと、目が合った途端に"キョウフ"は頭を抱えてうずくまる。
見た目は人間で、動作も言動も人間と差し支えない。ただ彼らは総じてエモーションである事は変わらない。
カナシミは椅子に座り、早速と本題に入る。
「先ほど話した科学者についてだが……」
「……何故、僕たちに接触を?それにそんな重要そうな事まで……」
「これは交渉だと思えばいい」
「交渉?」
「この話を聞いて君たちがどうするかを聞きたいのだ」
カナシミは続けた。
「科学者たちが欲しいのは名声や栄誉の為ではない。彼らが欲しいのは知識である。そしてそれを実現してみたいと思う。あぁ……悲しいかな。科学者はあろう事か禁忌を犯してしまった。それは────『生物を創り出す』という事」
「それがあなたたち……エモーション」
「そう、我々を生み出した彼らだったが、そこに行き着くまで永い時を研究に費やした。人生を捨て、時間を少しでも増やし、何人と犠牲が出ようとも続けた。そして彼らが『感情』すら忘れてしまいそうになった時、私が生み出された」
「という事はあなたが最初のエモーションという解釈で?」
「そう私こそ最初に生み出されたエモーションだった……が、私には欠如していた。それは感情。人間、生き物にとって感情とは、円滑なコミュニケーションを取る為には必須。科学者たちは長年の研究により作り出した装置で、私に感情を植え付けた。何人もの人間の感情を犠牲にして……」
「───うおっと!?」
次の瞬間、モヤシがその場からパッといなくなったかと思うと、スラッとした少女が現れた。
氷が耐えきれなくなって飛び出してきた様だ。
「つまり科学者たちは自分の欲のままに人を犠牲にして、新たな生命を創造したってこと!?ふざけてるわ!!」
「悲しい……悲しいかな……我々も好きで生まれた訳ではない。だが、感情を与えられた生物としてこれだけは言える。死にたくはない。生きていたいと」
「そ、それはわかるけど……」
「『エモーショナリデミック』は聞いた事があるだろう」
「2年前の惨劇よ……この地球上の誰もが知っている事件だから」
「私は1人で悲しかった。孤独は嫌だった。だから私は科学者を見習って個体を増やす事にしたのだ」
「つまりエモーショナリデミックはあなたがッ……!!?」
「左様。大元は科学者ではあるが、元凶はこの私だ」
「…………」
カナシミはこの一言で、氷が何かしらのアクションをしてくると思った。
だが、彼の予想は斜め上を行くことになる。
「でも、あなた達は自分たちの為に生きてきたんでしょ」
「ほう?」
「人間も同じ。生きる為に命を貰ってきたんだから。それがただ逆ってだけ。それよりも命を奪わない分、あなた達の方が少しだけ優しいのかもね?」
「あ………」
「………それでもね。やっぱり私は人間だから、あなた達とは敵対しなきゃいけない。倒さなきゃいけない。いつかわからないけど、大切な人がエモーションになったら助けたいし。なんだったら助けたし。悪いけど、カナシミ。あなたが私に持ち掛けようとしている交渉は受け入れられない」
氷はカナシミにキッパリとそう言った。
それに対し、カナシミは涙を流すと、椅子から立ち上がる。
「やはりこうなってしまうのか……あぁ、悲しい」
「私からも質問していい?」
「どうぞ」
「この『リラティブドライバー』って知ってる?それと私たちが1つになった理由とかって」
「それに関して全く見当もつかない。が、君達が感情を操り、私の
「攻撃ッ……!!?」
「なにエモーショナリデミックを引き起こした時にやった手だ。しかし、全くの無意味だった」
キョウフ、ヨロコビも立ち上がる。明らかな戦闘体制。
氷はリラティブドライバーを装着する。
「モヤシ」
『はい』
「全力で逃げるわよ」
『ですね!』
ビルの高層階の一室。
異様な力を持つエモーションを前に突破できるのか。
次回は8月の前半には出せます!お待ちを!
あと他の詳細を次の回で!
次回、第9話「逃走=爆走」
次回もよろしくお願いします!!