「……ちょっと待ってくれ、デミウルゴス。
まったく……意味がわからんのだが。」
ナザリック地下大墳墓
守護者統括兼愛妃アルベドと共にナザリック運営の諸々の雑事をこなしていたアインズを、助手ナーベラル・ガンマを伴ったデミウルゴスが訪ねて来た。
何か報告したいことがあると告げるデミウルゴスに、アルベドが「残る書類仕事は
「
開口一番、さも楽し気にそう言うデミウルゴスに、アインズは深く首を傾げるしかなかった。
誰それ?
何処それ?
オレと……何か関係あんの、それ?
「
咀嚼し終える前に固有名詞を増やしてくれるな!
「すべて御身の思惑のままで御座います!」
と、デミウルゴスは諸手を振り上げて見せるが、これを聞かされるアインズとしては、
オレの?
……おまえの、の間違いじゃね?
と
「やっぱりわけがわからんのだが……」
「ご冗談を、アインズ様!
かの
……あの後先考えない馬鹿の話か?
でもアレは、おまえが「ここで待っとけ」と言った場所で待ち受けていたらいきなり仕掛けて来た馬鹿を返り討ちにしてやっただけじゃねーか!
「これで、恐れ多くも御身のご尊名を騙った阿呆共も進退窮まり、遠からず神聖アインズ・ウール・ゴウン帝国などというふざけた名前も忘れ去られていくことで御座いましょう!」
そこは……わからないでもない。
今回の一連の作戦が、前回の<百年の揺り返し>の
承知してはいるが。
それと王がどーのこーの、という話がどうつながるのかが……さっぱりわからない。
ところが、困惑し続けるアインズを
「しかも、かの
……はぁ?
口パカ、ペカペカ。
「なんで……」
「……はっ?」
「いや、なんでそこでツアーが出てくるんだ?」
あちらが先に気づいて声を掛けてきた場合はともかくとして、よほどの難敵でもない限り、それこそ無闇に借りを作るのは望むところではないので、来訪者を捉えたとていちいちアインズはその旨をツアーに知らせることはない。今回の件もそうだったはずだ。
「またまたご冗談を、アインズ様!」
これ、本気でそう思って言ってるのか?
それとも……オレをおもちゃにして遊んでるのか?
「あー、駄目だ。降参だ!」
アインズは骨の諸手を振り上げながら、捨て鉢にそう言う。
「いつも言ってるように、オレの知恵はおまえには遠く及ばん。
もう降参でいいから、頼むからわかるように話してくれ!」
言われたデミウルゴスは、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
いやいや……そりゃ嘘だろ、おまえ!
「どうにもアインズ様の真意は測り兼ねるので御座いますが。」
測ってくれなくて結構!
オレがわかるようにさえ説明してくれればそれで
「リ・エリュキュリーゼ王国の王に推されておりますサミュエルソン・エルキュルハウゼンなる
「……そうなの?
と言うか、なんでおまえがそんなことを知ってるんだ?」
「本人が申しておりましたので。」
「……その
「まさか!
ツアーが申しておりました。」
「……いつ?」
「ツアーが傀儡を飛ばしてナザリックを訪れ、アインズ様に神聖アインズ・ウール・ゴウン帝国の一件を報じたときで御座います。」
……?
「このときツアーが、本題に触れるのを躊躇って話題にしましたアーグランド評議国の
「……いや、ちょっと待て。」
「はっ?」
「なんで……。なんで、おまえがそんなことを知ってるんだ?」
「ですから先程来申し上げておりますように本人が……」
「そこじゃない!」
と、アインズは声を
「もちろんオレは顛末を何一つ憶えてないが、傀儡のツアーがナザリックにやって来たんだとすれば、最初は地上で二人で話したはずだ。よほどの一大事でなければおまえらを呼ぶことはないし、ましてや神聖アインズ・ウール・ゴウン帝国、と聞いてオレは真っ先におまえのイタズラを疑ったはずだから、ツアーを帰した
今この瞬間、同じことが起こったら間違いなくそうする、その確信からアインズは問うた。
「仰せの通りで御座います。」
と素直に認めるデミウルゴス。
「そして、どう考えてもオレが、本筋とは無関係なその、何とかいう
「はい、されませんでした。」
バン、と
「じゃ、おかしーだろそれ!
なんでおまえが、オレとツアーが二人で話した内容、しかもオレが関心すら持たなかった話題を知ってる!」
デミウルゴスが恐怖公眷属、さらには彼等が情誼を通じた現地産ゴキブリを通じて自身の言動を盗み見、盗み聞きしていると知って以来、アインズは何をするにしても細心の注意を払ってそれに対策してきた……つもりだ。
ましてやナザリック地上部ともなれば他のいかなる魔法的手段を以てしても盗撮、盗聴は不可能なはずなのに、目前の頼もしくも
「ですから先程来申し上げておりますように本人が……」
ここまでとまったく同じ言い訳をしようとするデミウルゴスに、アインズは身を乗り出してその胸ぐらを掴んだ。
「あーん?デミウルゴス。
言い訳に芸がないじゃないか、同じことを二度繰り返すだなんておまえらしくもない!」
そこに勝機を見出したアインズは、一気に畳み込まんと
「ご失念か、とは思いますが。」
と、胸ぐら掴まれたまま、やはり顔色一つ変えないばかりか、むしろ楽しそうなデミウルゴス。
「ツアーと面識ある<
……はぁ?
口パカパカ、ペカペカペカペカ!
「こちらに控えますナーベラル・ガンマも、ツアーに<
と、デミウルゴスが
「そう……なのか、ナーベラル?」
辛うじてアインズがそう問うと。
「デミウルゴスがそうせよ、と申しますので、御身とツアーが語られました
ナーベラルもまた、デミウルゴス同様に悪びれもせず復命する。
「御身の失念対策のためアインズ様との会話内容を承りたい、と告げますと、いつもあの獣は
「ふぁーーーーーーーー!」
「それが
素早く抜刀したナーベラルが刃を自身の首に当ててそう迫るも、言われた本人は奇声を発しながら椅子ごと仰向けにひっくり返っていて、ナーベラルからは
「そこまで派手な
お楽しみいただけたようで幸いで御座います、アインズ様!」
デミウルゴスはひっくり返った至高の主に手を差し出すでもなく、感極まった声色でそう叫んで立ち上がり、
「
さぁ、行こうか、ナーベラル!」
と言うが早いか、すたすたと執務室から出て行ってしまった。
呼ばれたナーベラル・ガンマも、一瞬ひっくり返ったままの至高の主を顧みて躊躇う素振りを見せたものの、結局そのままデミウルゴスの
カリカリカリ……。
しばし執務室には、何事もなかったかのように事務仕事を続けるアルベドの筆の音だけが続いた。
「ア……アルベド。」
と、ややあってアインズの声。
「はい、アインズ様。」
書き仕事を続けたままに応じるアルベド。
「今の話……聞いてたか?」
「聞いておりましたが……それはともかく。」
ぴた、とアルベドの筆の音が止まる。
「お
そのままでは
「……そ、それもそうだな。」
アインズはもそもそと起き上がり、ひっくり返った椅子を起こして座り直した。
アルベドも
「で……さっきの話だが。」
「お考えの通り、ツアーはそんな話には関心を持ちませんでしょう。」
涼し気にアルベドはそう応じるが。
「いや、そこじゃなくて。」
「はぃ?」
「いや、ツアーはそんなこと気にしないだろう、というか、伝えたところで、誰それ?になる、ってのはオレもまったく同意だが、それはデミウルゴスだって同じだろう?
だとしたら……アイツは何を狙ってこんなことをやってるんだ?」
自身に絶対の忠誠を誓う
対して問われたアルベドは、やはり涼し気な表情を崩しもせず。
「あぁ、そこで御座いましたか。
おそらくあの
「デミウルゴス。」
丁度同じ頃、まったく同じことを問おうとする
デミウルゴスは、助手ナーベラル・ガンマを伴ったままにナザリック
もっとも彼は、これを面倒に感じたり不満に思ったりすることはなかった。至高の主アインズ・ウール・ゴウンがそうであるように、彼デミウルゴスもまた、ナザリックのあらゆるすべてを愛しているからだ。
そのデミウルゴスの名を、背後からナーベラルが呼んだ。
「どうしたね、ナーベラル?」
振り返りもせずにデミウルゴスが問う。
「さっきの……どういうこと?」
デミウルゴスの歩調は緩むことがないが、それでも。
それでも微かに口角の端が吊り上がり、その内面の喜びを漏らす。
「ツアーのことはよく知らないし知りたいとも思わないけれど、あの獣が、お気に入りの
「そうかね?
では今後は、ツアーについてわからないことがあればナーベラルに聞くことにしよう!」
振り向かぬまま諸手を振り上げてそう言うデミウルゴスに、ナーベラルのいささか怒気を孕んだ言葉が投げかけられる。
「はぐらかさないで!
私は
「詰問……とは、穏やかでないねぇ。」
「アインズ様に真意を隠して何か為そうとしているのであれば、看過はできないわ。」
ふふふ。
と、やはり足並み軽やかに進むデミウルゴスから微笑みが
嗚呼、ポンコツな彼女でも、こうして忠義の道に励もうとするものか!
「隠しているわけではないさ。
すべてはアインズ様の
「どうして
ここでやはり歩みは緩めぬままにデミウルゴスの
「秩序、というものには二面性がある。
わかるかね?」
そのあまりに唐突な問いに、一瞬ナーベラルの足が
「秩序の二面性?」
アルベドから唐突にそう言われて、まったく意味がわからないアインズは、そのままに
「大陸西部の下等生物どもは、自らの拠って立つ秩序を外部権威に依存するきらいが御座います。」
「まー、そうなんだろうな。
神聖アインズ・ウール・ゴウン帝国、なんて茶番に付き合ってたくらいだから。途中から中身が入れ替わったのにすら気づかんなんてお
とりあえずアインズは、自分はちゃんと話についていけているぞ、と示すべくそう言ってみる。
対するアルベドの表情は、見るからに、いえ、そこではなくて、と言いたげだ。
「恐れ多くも御身の
アインズはふと気づく。
余計な相槌を打つと……
「あー、なるほど。アルベド。続けてくれ!」
骨の手をひょいひょいと振って続きを促せば、その辺りは愛妃にはすっかりお見通しのようで、しばしその猫の目は胡乱な色合いで愛する至高の主を見つめていたものだが、ややあって何か割り切ったのか説明が再開された。
「下等生物どもは、外部権威に貢納を捧げることで秩序を得た、と思い込むので御座いますが、実際にはそれは得られてはいなかったのです。が、それでも連中は秩序を欲します。ですから、自ら秩序を成すので御座います。」
「……?」
「ここしばらく、大陸西部に狩りにお出ましになられたこと……御座いませんでしょう?」
「あー……しかとは憶えていないが。
ここしばらく狩りと言えば、ベラ、ベロと遊ぶついでの森での獣狩りばかりだな。」
「つまるところそれは、御身が狩りの獲物としてお楽しみあそばしますところに頃合いの悪党が皆無であった、ということで御座います。下等生物どもはありもしない秩序を求めることに汲々として、御身をムカつかせるような余裕がなくなるので御座いましょう、残念なことです。」
はぁ、とため息をつきつつ、アルベドは本当に残念そうにそう言った。
対するアインズの、
「……はぁ?」
は、残念だから漏れたものでは決してない。
「そこに、だ。」
ここに至って、ここまでまったく、ナーベラルが歩みを
「目に見える秩序として、
その口元は、割れ裂けんばかりに三日月型に歪んでいる。
問われたナーベラルは、どう応じたものやら見当もつかない。
「彼等は与えられた秩序に満足し、その秩序の中で自らを律する
もちろん、そんなわけはないのだよ。それは与えられたものであるがゆえに、自ら秩序を維持する苦行から解き放たれた
辛うじてナーベラルはこう言う。
「デミウルゴス……が楽しそうなのは、わかるわ。」
その言葉に満足したものか、再びデミウルゴスは彼女に背を向けて歩き始める。
「我らがこちらの世界にやって来た直後、何とかいった間抜けな王国が大陸西部を支配していた時代、あそこはアインズ様の狩りの獲物に捧げるに相応しい阿呆どもが、それこそ
そんなこと、私はもちろん、
と、ナーベラルは思う。
「私はね、ナーベラル。
今一度、あの素晴らしい世界を我らが至高の主に捧げたい、と、こう考えているわけさ。」
「どうして。」
不意にナーベラルが問う。
「ん?なんだね?」
「どうしてデミウルゴスは、
もっともな疑問だ。
が、このナーベラルの問いをデミウルゴスは鼻で
「キミは、アインズ様が我が
「……アインズ様はご承知であられると?」
「当然だよ!
でなければ、場合によっては
アレは、百レベル階層守護者をその任に当てては、その
既にナーベラルは目が点だ。
「対して、
すべて、アインズ様の深慮遠謀の為せる
こいつ……。
とナーベラルは思う。
さきほどデミウルゴスは、彼女に「アインズ様がお見通しではない、と本気で思うのか」と問うたが、今のナーベラルはまったく逆のことをデミウルゴスに問いたい気分だった。
デミウルゴス。
彼女の知性はこれをうまく言葉で表現する
そんなアインズが、こんなややこしくも迂遠な陰謀を巡らせているとは到底思えない。何となく思いつきでやったこと、やってしまったことが、結果的にナザリックの益に繋がっている、と考える
そしてナーベラルは思った。
至高の主の真意はともかく、これを言わずもがなにデミウルゴスにやらせていること、それこそが至高の主、大魔王アインズ・ウール・ゴウンの端倪すべからざる真の力なのではないか、と。
そして、それまで無表情なままであった頬をやや緩ませ、
「確かに……身に余る栄誉だ、という点はまったく同意だわ。」
と微笑むのであった。
「……といった辺りがデミウルゴスの狙いではないか、と。」
大陸西部に新たな王をもたらすことで、
口パカパカパカ、ペカペカペカペカペカペカ!
「お気づきでは御座いませんでしたか?」
気づくわきゃねーだろ!
っつーか、おまえ、それ。
なわけねーよな?そーだよなー!
「し、し、しかし……何だな。
デ、デミウルゴスのやることだからそうだ、と言ってしまえばそれまでだが、これまた、ず、随分と気の長い話だな!」
アインズは、ところどころで言葉を詰まらせつつも辛うじて相槌を打つが、
「ほんの二、三百年のことで御座います。
と、どこまでも涼やかなアルベド。
漸くにして話が呑み込めてきたアインズではあるが、自身が考えも及ばない謀略をデミウルゴスが勝手に巡らせることなど既に慣れっこのその脳裏は、別の懸念に占められつつあった。
なるほど、大陸西部に新しい王を立ててやれば、大昔にそうであったような堕落と腐敗に塗れたそれに落ち着いて、アインズの嗜む
一方でそれは、決してその王とやらをナザリックが擁立したわけでも使嗾したわけでもないものの、結果的にアインズの利益に資する国家を大陸西部に間接的に打ち立てたことを意味している。
それは名実ともに。
……神聖アインズ・ウール・ゴウン帝国、ってことになるんじゃないのか?
アルベドがデミウルゴスの真意をいとも
お気に入り云々は別にして、その王に推された……相変わらずアインズは、ツアー一党の
うーむ。
またぞろ世界を
そんなことを考え込んだアインズの様子にその意図を誤解したものか、アルベドは猫撫で声でこんなことを言い出す。
「デミウルゴスの策がお気に召さぬとあれば、その新たな王とやらをお手にかけるのも……よろしいのではないでしょうか?」
おいおいおい!
その王、とやらはツアーのお気に入りだったんじゃ……なかったかぁ?
「冗談はよしてくれ、アルベド!
ツアーはナザリックの所在を知ってるんだぞ。」
「そうなればなったで、我らは全力を以て歓迎申し上げるのみ、で御座いますわ!」
そう微笑みながら応じるアルベドの表情に、これを冗談……だよな?そうだよな?……と判じたアインズは、ひょいひょいひょい、と骨の手を振りながらふんぞり返りつつ引き続き思いを巡らせる。
一方で、遥か云千年前……主観的な記憶としてはほんの一年と少し前まで、自分は極普通の何処にでもいる人間だった、という自己認識も併せ持つアインズは、自身が既に人間ではなく
その折り合いをつけるべく、人間、またはそれに準じる種族を狩るに際しては、狩りの対象を
だから、ツアーの言う、世界を
が、だからといって、自分こそがこの世界に秩序をもたらす
「正直に言って。」
とアインズ。
「デミウルゴスの度を逸したお節介には頭が痛いばかりだが……何を今更だわな。」
アルベドは、うふふ、と笑って、
「すべては至高の主にして
と、猫の目を細めながら可愛らしく首を傾げて見せる。
おまえはそう言うが。
存外オレの思し召しのままにならんことの
そう思いつつ、アインズは敢えてそれは口にはしなかった。
*
「サミュエルソン
と、
ナザリック地下大墳墓で既に見たような会話が交わされていたが、サミュエルソンはこの時点ではまだ王の名乗りを正式に
「私ハ、
自分から酒が呑みたい、と口にしてしまうとトンデモないご馳走が届けられてしまうことを憚って遠慮していたサミュエルソンに、ゲンは対価を支払って入手した村の酒を手土産に持参していた。これを木の椀に注いで差し出しながらゲンはまずそう言った。
「ガ、
差し出された酒をチビチビと煽りながらこれを聞いていたサミュエルソンは、
「よせよせ、俺はおまえが考えているほど立派な
と
「富貴に関心がないのはおまえさんの言う通りだが、そんな俺にも欲はある。」
ン?と不思議そうにゲンの顔が突き出された。
「知っての通り、俺の親父は自身が継がなかった実父の名を、お袋は儚くも夭折した前夫の姓を俺に与えてくれた。何故だかわかるか?」
この文脈を無視した物言いに、なおましてゲンは困惑しつつも、
「……名ヲ、
と応じて見せる。
この返しに満足気に頷きながら酒をもう
「俺をややこしい境遇に産み落としてくれた両親に思うところがないでもないし、それはおまえら自身のせいじゃねーか、と思わないでもないんだが、それでも、俺は両親が望んだ名の継承を果たさんと努めた。が、子を得ることが叶わなかった。
親父のそれを王の名として、お袋のそれを王家、王都の名として遺してやれば、よもや
「
ゲンは兄貴分の心情を慮ってそう呟くが、サミュエルソンはそれに気づいて慌てて諸手を振った。
「あー待て待て、ゲン!別に俺は、やっても意味のない死者への孝養のために己を捧げる、なんて殊勝なことを言ってるわけじゃないんだ。もちろん、俺自身に益あってのことだ。
俺は、ずっと子を
ゲンは黙ってサミュエルソンの椀に酒を
「俺の子分たちや村人たちは、みな素直で善良な性分だが、なればこそ、自身に安堵を与える王を得れば
幸か不幸か、あいつら自身が言ったように、俺には今ある連中が死に絶えてもなお続く寿命がある。それを使って、皆の子孫たちがそういうところへ落ち込む
とどのつまり、これは俺自身の……」
「……
「俺自身の……我儘なんだよ。」
クク、と思わずゲンは笑いをこぼした。
王に登るを己の我儘と評するこの男は、まことに王に相応しかろう、と!
「余計ナ気ヲ遣ッタヨウデ、返ッテ礼ヲ欠イタナ。」
そう言いながらゲンは大きな後ろ頭を掻いたが、サミュエルソンに気にする様子はない。
「なんのなんの、おまえさんの心遣いには感謝しているさ。
そして、おまえさんに臣従なんぞを求めるつもりは毛頭ないが、願わくは俺の友として、今
「
ゲンは、差し出されたサミュエルソンの手を強く握り返し、そう応じた。
この会話が後世に残ることはなかったが、これが新生エルキュル王家の事実上の誕生の瞬間となった。
これからしばらくの後、サミュエルソンは村の槍隊の半数と、ゲンをはじめとする残留を決めた森の義勇兵数人を率いて、新王擁立を謳った村々を巡った。第一義的には対神聖帝国の戦勝を祝してくれた村々への答礼だが、同時にそれはサミュエルソンが村々の求めに応じて王位に登ることを受諾する旨を報せる宣撫の旅だ。
特に明言はされなかったが、サミュエルソン自身は未だその
こうしてたちまちの懸念を払拭したサミュエルソンは、国王即位を宣言するに当たり、最後に通すべき筋を果たすべく独り旅に出ることになるのだが、それについては次回の講釈で。
新9話へ続く
<次話予告>
「
だが同時にそれは、誰かによって常に為されねばならぬもの、でもある。」
億劫のオーバーロード新9話『戴冠の旅』
「父上。」
「……なんだ、パンドラ?」
「あの王冠、
「
八月吉日公開予定