異世界転移以降ナザリック史上最大規模の来訪者との全面対決が勃発。
11.水晶の塔(1)
転移歴400年代を通じて新たな
かねてより想定されていた通り、ユグドラシルプレイヤーはこちらの世界に渡り来て後、ギルド拠点を維持したまま何らかの活動開始に到れること、それ自体が稀な事象なのではないかとの仮説にますます信憑性を与えることになったのだが、その楽観的な見通しは転移歴500年を迎えてたちまちに打ち消されることになった。
カルサナス都市国家連合のほぼ中央、広大な平原地帯のさらにその中央に、突如として高さ百メートルほどの水晶の塔が出現したからである。
恐怖公の眷属から第一報がもたらされた時点で、ナザリックの
水晶の塔は沈黙したままで、何も起こらなかったからだ。
つまり、外見からは拠点レベル二千前後、ナザリック地下大墳墓には及ばないが決して侮れないそれは、であるがゆえにその維持に大量のユグドラシル金貨を必要とするのであり、転移直後たちまちに枯渇が生じてプレイヤーは忠誠心を失ったNPCに弑され、そのNPCたちはやることもなく拠点内に閉じこもっているのであって、たまたまそれが極めて目立つ場所に出現したに過ぎない、との解釈である。
これに探査や威力偵察を試みることはやぶ蛇になる公算が高いと判断したアインズたちは、引き続き
幸いなことに、現地勢力もたちまちには余計な手出しをしなかった。
水晶の塔が出現したのは、カルサナス都市国家連合の中でもその名に反して自身は都市を形成せず、他都市から専有が認められた大平原を数年毎の過分に儀礼的な闘争によって縄張り分けすることを旨とする
只今の半人半馬の族長は、彼ら自身は「触れ得ざる塔」と呼んだそれについて、自族についても連合の他都市についても固く接近を戒め、自らは哨戒の一団を率いて塔に対する無用の介入を阻んだ。元より、連合においては他の都市国家内の出来事に対して何らかの実力行使をおこなうことは、領域を実効支配する者の同意なくしてあるべからず、の法が徹底されていたため、しばらくの間は平穏が維持された。
実は半人半馬の族長が下したこの決断には、遡ること五十年ほど前に当地を訪れ、かの族長の父と情誼を交わして語らった
仲間四人で流しの冒険者として世界を旅し続ける彼女は、この者は、と見込める現地で知り合った者に対しては、あくまでも触り程度ではあるが、この世界にはしばしば触れ得ざる者が現れること、それは恐ろしく強大であると同時に理解不能であること、多くの場合触れ得ざる者自身はこちらに無関心であること、ゆえに、万が一にも巡り合ってしまった場合の最善手は第一に無視であり、仕掛けられた場合は取り急ぎ逃げることだ、と説いた。
ちなみに。
連合諸都市にこの施策を説明するに際し、現族長は「触れ得ざる塔は、五十年前に当地を訪れた予言者、
事によれば半人半馬の国は
俄に動きが生じたのはこの状態が一年と少し続いてからのことで、意外にもきっかけになったのはバハルス帝国であった。
転移歴400年代を通してバハルス帝国も再びの中央集権化を果たしつつ穏やかな繁栄のときを享受していたものだが、反面、動乱のない時代が人々の心を次第に弛緩させていくことは避け難かった。
キーノたちは少なからず帝国領内も旅して、カルサナス都市国家連合の有志に対して積み上げてきたような働きかけをおこなっていたのだが、あくまでも都市、村落に隠れる賢人に対するそれに留まっており、専制が安定するにつれ末端との乖離を生じつつあった帝国中央にその声は届かなかった。
そして、現皇帝ジルクニフⅪ世の御代もそう長くはあるまい、と誰もが薄々感じ始めていた時分になって大地溝帯を越えてカルサナス都市国家連合から伝わってきた触れ得ざる塔出現の噂は、次代皇帝への推挙を競う者たちをいたずらに刺激した。
幸か不幸か彼らの手元には、再びの帝国統一を成し遂げたジルクニフⅥ世以来近衛に継承されてきた、彼ら自身からすれば向かうところ敵なしの帝国の至宝、装備者の
無論、帝国軍人が誰も彼も好戦的向こう見ずであったわけではなく、無用な出兵を戒める声もないではなかったが、皇帝選挙が事実上の人気投票になりつつあったこの時代、そういった真っ当な見解は、やれ度の過ぎた慎重論よ臆病者よ、と揶揄する声に掻き消され、声高な目立ちたがり屋が一旦主導権を握ってしまえば最早その流れを止めることは、他ならぬ皇帝ですらも叶わなかった。
かくして「大遠征」と称し、主力となる魔法剣団二百に重装歩兵八百を加え、輜重隊等を含めて総数一万と号する大軍団が二ヶ月を費やして大地溝帯を通過したのが転移歴501年の初頭。当然、彼らの行軍経路に近い連合都市は、これを迎え撃つ軍こそ出しはしないものの、過去八百年に渡って不文律としてあり得ざることと観念されてきたバハルス帝国軍到来の真意を糾問する使者を派した。
対して帝国側は、自分たちの大遠征は触れ得ざる塔を調査するためのものであり、連合に敵意あってのことではないと弁明の上で、手土産に持参した帝国の物産を大盤振る舞いすることで応じた。半人半馬族長の周辺封鎖の初動が早かったこともあり、必ずしも塔に対する直接の危機感を共有していなかった連合側は、帝国軍が各連合都市に対し行軍半日以内の距離に立ち入らないことを条件にその通過を黙認した。
一方、触れ得ざる塔の所在を自身の事実上の領土……といった観念は本来彼ら自身にはないのだが……とする半人半馬たちは、突如押し寄せた帝国軍に対し一旦は部族を糾合して対陣し、一触即発の気配を見せた。
やがて甲斐のない板挟みに精根尽き果てたものか、ついには、
「この試みによってもたらされる災いはおまえたち自身が
との、呪いとも取れる言葉を発して帝国軍の自領内行軍をしぶしぶ認め、自身の部族に対しては大平原南端への一時退避を命じた。
そして、果たせるかな災厄が溢れ出ることになる。
*
「起こってしまえばさもありなん、では御座いますが、よもやこちらの世界の弱者たちが強いて寝た子を起こすとは……いやはや思いもよりませんでした。」
ナザリック地下大墳墓
いつものようにアインズは三賢者の面々と今回の事態の対処について協議している。
デミウルゴスが
嘘つけ!
おまえがそれを事前に読み切らぬはずもなく、ひょっとしなくとも裏であの馬鹿共を煽ったのもおまえなんじゃねーのか?
とアインズは思わないでもなかったが、今更そんなことを論じても意味のないことは百も承知だ。
こちらの世界の人間たちが原則として位階魔法を軍事利用しないことについて、ナザリックの面々は早い段階で気づいていた。
アルベドとデミウルゴスが論じたところによれば、一部例外があるもののこちらの人間が扱い得る魔法がせいぜい第三位階までであること、肉体容量の限界から
およそ百七十年前に、
「恐怖公眷属からの報告によりますと、バハルス帝国軍が水晶の塔に
守護者統括アルベドが簡潔に状況を要約した。
天使の群れは直接対峙したバハルス帝国軍に対するそれを筆頭に、きっかり六十度ずつ方位を
そのあまりに機械的な対応に、アインズは当初想定された通り、プレイヤーは既に落命しているか少なくともギルドの指揮を掌握しておらず、さほど高い知性を与えられていたでもなくただ機能停止した拠点内に閉じ籠もっていた
さりとてアインズは事態を楽観しているわけでは決してなかった。六方に散ったそれぞれの一団と対応するものかと推測されるが、塔の頂上付近に六方位を
「この際、愚かな行為で最悪の事態を招いた者たちに、超位魔法を以て懲罰の鉄槌をお
やめてくれ!これ以上事態をややこしくしてどうするよ?
んなことしたら、まるでオレがすべてを裏で糸引く大魔王じゃねーか!
「無用だ。そもそも既に潰走したという愚か者たちも、よもや帰国は叶うまい。
ましてや、その……なんとか帝国を殲滅したとて何の益がある?」
アインズはアルベドの提案をさらりといなした。
「放置するわけにも参りますまいが、六方分散したものの各個撃破はいささか面倒で御座いますな。」
と口を挟んだのはパンドラズ・アクター。だが、これに対しアインズは、その発言を予期していたかのように受け流した。
「パンドラ。わかった上で問うてるんだろう?
ズバリ訊こう。おまえの見積もりでは何時間いける?」
「二十四時間は裕に全力稼働可能ですが、三時間のうちに
アインズとパンドラズ・アクターの意味深な会話にアルベドが目を見開きつつ問うた。
「アインズ様……まさか
「パンドラの見積もりは、もちろんガルガンチュアを含んでのことなのだろう?」
アインズはそれには直接答えず、息子に念のための確認をおこなった。
「無論で御座います。今回の状況ではかの者を用いねば意味は御座いますまい。」
ルベド、ガルガンチュアともに、ナザリックの一員でありこそすれ、彼らはパンドラズ・アクターやアルベドのようなNPCではない。武器、兵器の
パンドラズ・アクターの見積もりとは、ナザリックの収支、各種の非常事態に備えた予備も踏まえた上で、残る余剰金貨でいかほど彼らを稼働させることが叶うかを計算したものであった。
「アルベドが
ユグドラシル時代、その性能をギルドの皆に披見すべくたっち・みーとの模擬戦に望んだルベドは、
「が、これが今回の状況に対する最適解だ、とオレは確信しているし、繰り返してきた
それでもアルベドは一抹の不安を払いきれない様子を見せたが、異論はないようだった。
重ねてアインズはデミウルゴスに問う。
「デミウルゴス、オレの考えに抜けがあれば遠慮なく言ってくれ。」
デミウルゴスはお決まりの両腕を左右に大きく開いた
「よもやそのようなものなどあろうはずもなし……と愚考する次第で御座います。」
と右腕を斜めに振り下ろして恭しく同意の礼を執った。
「では決まりだ。
アルベド、外に出ている者は他にはいないな?」
「はい、今回の事態発覚を受けて撤収を完了させております。」
「重畳だ、早速銘々準備に取り掛かってくれ。
作戦開始は現地時間の日没とする。敢えて現地人にこの祭りを見物させてやる必要もあるまいよ!」
「「「ハッ!」」」
足早に退出していく三賢者を見送ったアインズは、次なる一手に着手する。
「<
ツアー、オレだ。
今から言う場所で日没に落ち合おう!」
*
突如!
半人半馬の平原の地平線に夕日が沈むや、突如として水晶の塔の前に出現した身の丈三十メートルを越える戦略級攻城
戦略級攻城動像ガルガンチュアは、他の多くのナザリックの
ユグドラシルの
シャルティアが開いた<
もっとも、たちまちに水晶の塔の構造を突き崩すことがガルガンチュアに期待されていたわけでは決してない。遠目にも
狙い通りだ。
ガルガンチュアに群がる、敵方NPCにより随伴戦力として召喚されたと思われるレベル三十前後の天使の群れは、攻城兵器であるがゆえに膨大な
ついに、頂上付近に浮遊していた六体の熾天使がこれに気づき、殲滅せんと静かに下降を開始するが、ガルガンチュアの影から飛び出してこの前に立ち塞がる者がある。
血を想起させる赤黒いドレス。
素足に徒手空拳。
熾天使の一体が先行して
彼女……ニグレドとアルベドの設定上の末の妹ルベド、はガルガンチュア同様にNPCではないが、紛れもなくアインズ・ウール・ゴウンの稀代の錬金術師、タブラ・スマラグディナの手になる被造物であり、そしてユグドラシルの仕様の間隙を突いた
ユグドラシルの最盛期、その運営者たちはギルド間抗争を超えるギルド集団間の戦争のゲーム化を夢想した。が、云千人のプレイヤーが一堂に会しておこなう戦闘を処理するのは
そこで、三千人以上が一丸となって行動する際の特別な
ユーザー数の
が、実装された処理系は、利用されないままにユグドラシルの奥底に眠り続けた。ここに、ユグドラシルの画期を為したメジャーアップデート、いわゆる「ヴァルキュリアの失墜」で実装された
集団戦用拡張処理が未だユグドラシル上で生きていることに目聡く気づいたタブラ・スマラグディナは、自動機械のアルゴリズムに従って自律的に挙動する小さなユニットを三千個以上連動させることにより、集団戦処理を励起可能であることを見出した。
そして、一時はアインズ、当時のモモンガを困惑させた大量のデータクリスタル浪費によって、それ以上に、タブラ・スマラグディナ以外では到底なしえようもない複雑怪奇なアルゴリズムを組み上げて、総計一千六百万余……ユグドラシルの仕様上、連動可能な自動機械の理論上の上限数……の自動機械が連動して一体の殺人兵器の如く振る舞うそれに、お気に入りの
こうして生まれたのが魂なき
つまるところ彼女は、個としてのルベドとして存在するのではない。
無数の意思もたぬ機械の粒がアルゴリズムに従って振る舞うことにより生じる幻影……。
それこそがルベドなのだ。
徒党を組んだ百レベル級プレイヤーがナザリックを襲った「千五百人の大襲撃」においても、ほんの数分ほどの稼働ではあったが、ルベドは第八階層に至ったプレイヤーを駆逐するべく投入されている。これを生き延びた者は直後にモモンガ玉の力を解放したアインズによって悉く葬られ戦いは決したのであるが、このとき、少なくないプレイヤーが「あれは
が、そもそも使われなくなった集団戦処理を撤去しないままに放置していたのが他ならぬ運営であったこと、それ以上に、事前予告された大襲撃に備えて一時的にサーバーを増強し、生中継に
運営側も、自動機械の仕様に従って個数に適用アルゴリズム
とまれ、さきほどルベドが被った熾天使からの一撃は、もしルベドが他のNPC同様に一体の個であったならば、HPの大半を削られていたか、あるいは一瞬にして塵と消えていてもおかしくないものであったが、一千六百万余の個からなる集団であるルベドは、陣形上の一部、すなわち御使いの剣の接触を受けた部分の微小な自動機械が代表してこの
逆に、ルベドから放たれる一撃は、それぞれは小さいながらも一千六百万余の集団の総計として算出され、しかも自身の被害を勘案する必要なきがゆえに超近接して放たれる無属性純粋物理攻撃の威力は、特殊攻撃への備えに傾きがちな高レベルプレイヤー、キャラクタに対しては必至の一撃となり得た。
無論、そんなルベドにも弱点がないわけではない。
ルベドはそれ自体は知性を持たない自動機械多数の集合であるがゆえに、敵味方の識別能を持たず、ただただ自身に攻撃を加えてくる者を反射的に殲滅する存在だ。どちらかと言えばそれは
ガルガンチュアに天使への反撃が命じられていないのは、万が一ガルガンチュアの攻撃がルベドを掠めでもしようものなら、ルベドはガルガンチュアをも敵と見做して殲滅してしまうからである。ガルガンチュアが塔の壁面破壊のみに集中し続ける限り、そのような事態はまず起こらない。
守りの点においては、実はルベドにはいくつかの比較的容易な攻略方法がある。その最たるものは非物理系の範囲攻撃魔法であり、個々の自動機械の耐久力は微々たるものであり魔法に対する抵抗もさしたるものではないので、十分に高い位階のそれであれば攻撃は通る。
一方で、相手の視点からは究極最強の
「あの
と
「気が合うな、ツアー。オレもそう思う。
あれはタブラさんの悪趣味の極北が為せる技だ。」
と、金糸銀糸をあしらった豪奢な漆黒の
二人は、水晶の塔の直上千メートルで落ち合い、上空から戦況を伺っている。
この距離と各々の
「ルベドは、物の見た目そのものには意味などない、というこの世の真理を象徴している。」
「なかなかに含蓄深いね。
あ、また一体熾天使を屠ったよ。エゲつない強さだが、あれ、いったいどうやっているんだい?」
「おそらく説明してもおまえには理解不可能で、そもそもオレにも説明は出来ん。タブラさんが得意げに円卓の間で語ったアレのからくりについての蘊蓄をオレは一字一句
「……自分でもわからないものを戦場に投入していると?」
「ツアーらしからぬ
それを言い出したら位階魔法も何故そうあるのか意味不明だし、おまえだって<
「うーん、そう言われてしまえばその通りだね。」
「
所詮は道具だ。
そして、道具そのものの性能の多寡に溺れることなく、それを如何に用いるかこそが本質であることを忘れない限り、恐れるものなどない。」
「キミのそういう冷徹さがときどき怖くなるよ。」
「冗談はよせ、ツアー。
オレに言わせれば、
疑う余地なく世界最強の二人はそう言って笑い合った。
が、眼下でルベドに蹂躙される熾天使もそうであるが、彼らの最強も、敢えて不利な相手や、そうでなくとも勝算
「……思ったよりも早く片が付きそうだ。」
ルベドが、最後に残った熾天使に飛び蹴りを加えたのを確認したアインズがそう言う。
「オレはルベド回収のために一旦ナザリックに戻らねばならんが、その間に万が一想定外のことが起こるようであればよろしく頼む。間違っても天使を蹴散らそうなんて思わないでくれよ。ガルガンチュアが一身に
「無論、それは承知している。」
「あ、終わったな。
わかってはいたことだが、熾天使六体を九十分と少しとは……。
呆れた化け物だなアレは。
<
シャルティア、ルベドを回収しオレが行くまでコキュートスとセバスと共に押さえつけておけ。
じゃぁツアー、あとで。」
見境なく潜在敵の排除を試みるルベドを停止させる手段は、ギルド武器スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを以て命じるしかない。ルベドの本来の運用は、ナザリック地下大墳墓の特定階層または領域に侵入してきたギルドの一団を封じ込め、そこへ投入することが企図されていたため問題がなかったものだが、まさかギルド拠点の命運と一心同体のかの至宝を戦場に持ち出すわけにはいかないので、アインズは正式の停止命令発効までの間、三人の百レベルNPCでルベドを捕縛しておくことを命じていた。
もっとも、これが可能なのは只今のルベドが最弱の
すぐの再会を約して<
アインズに、手の内を他者に晒すことを偏執的に避けるきらいがある一方で、こうしてツアーに対してはまるで自慢でもするかのように開けっぴろげに見せびらかすことがあるのは随分と前から気づいていた。存外自身がユグドラシル時代のギルド、アインズ・ウール・ゴウンの
万が一想定外のことが起こるようであればよろしく、とアインズは言ったが、彼自身、そのようなことがあり得ると考えているようには到底見えなかった。そして、暴走し隘路へと迷い込んだ
では、どうしてアインズはこうして自分をここへ呼び、この光景を目の当たりにさせているのだろうか。
自分の力を誇示するため?
否、今更アインズにそんなことをする理由があるとも思えない。
であれば、ツアーにはその理由は一つしか思い浮かばない。
折に触れてツアーにナザリック地下大墳墓の秘密を見せつけるアインズの真の狙いは、万が一にもアインズを含むナザリックの面々がこの世界を
「何を言っても無駄だとは思うが……相変わらずの背負い込み
無数の天使に群がられつつ黙々と水晶の塔を殴り続け、既にいくつかの大穴を壁面に穿った
*
(恐怖公より言伝てですぅ。
散開していた天使の最後の一群がガルガンチュア迎撃に加わったのを確認したとのことぉ。)
エントマからの<
「連中がすこぶる単細胞だったのは幸いだ。」
それを横で聞くツアーとしては、他に事態収拾の手立てがないことは承知しつつも、少なからずアインズが自身の決断と行為に心痛めていることを知っているだけに、強いて偽悪的に振る舞う大魔王に同情せざるを得ない。
さりとて、アインズに投げかけるべき言葉も思い浮かばない。
「ではそこで見ていてくれ。
巻き込みたくはないから
言うが早いか、アインズは真下へ向かって急降下を開始した。
身体を包み上げる風圧を感じながら、両の骨の手を大きく左右に振り上げる。
「<
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
頃合いを見て最後の一手を講じる。
「<
シャルティア、ガルガンチュアを回収しろ!」
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
三拍空けて天使
シャルティアが見た目にそぐわぬ馬鹿力で<
少なからず巻き込まれた天使もあったろうが、それらは転移先、ナザリック地下大墳墓地上部で待ち構えるコキュートス、セバスに漏れなく掃討されることになるだろう。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
風切り音の背後に何処からともなく聞こえる秒読みの鐘の音。
水晶の塔の頂上からの距離が数十メートルを切ったところで、
「<
これで仕込みは終わりだ。
眼下の天使たちはもちろん、既にガルガンチュアによって穴だらけにされた塔に潜む者たちにも、
ゴーン……ゴーン……
俄に
「これも
ゴーン……カチリッ!
水晶の塔は、アインズの必殺
これを見届けたツアーの
アインズもこれまたいつものように、ソリュシャン率いる戦利品回収班を動員し、夜明けまでに水晶の塔からあらゆるユグドラシル由来の品々を接収するよう命じた。目的とするところは、現地人の手にそれらが渡って後々の災いの芽となることを防ぐためで、本来のギルド内における所在を失ったそれは若干の情報価値の低下を招きもしようが、詳細な検分は持ち帰ってからで構わない。
合わせて、シャルティア、コキュートス、セバスに、こちらも夜明けまで三方に分かれて残敵の索敵をおこなわせた。
「戦いを挑む者は即時殲滅。
ただし会話が成立するようであれば捕縛して連れ帰れ。」
コキュートス、セバスはともかく、シャルティアにそんな器用な真似が出来ようはずもないが、仮に
南へと向かったセバスは、ほどなくして前方から
彼らはセバスの発するただならぬ気配に立ち止まった。
「脅威は、慈悲深い至高の御方により取り除かれました。」
事前の
「夜明け以降は皆様の縄張りに自由にお戻り頂いて差し支え御座いませんが、それまでは遠慮なさるが賢明かと存じます。」
とも。
この一見丁寧な言葉遣いながらも傲岸不遜な物言いは、一部の血気盛んな半人半馬の若者をいきり立たせもしたが、それは族長に抑えられた。言わずもがな族長は悟ったからである。
この者こそが……
伝え聞いた、触れ得ざる者、とはまさにこの者である。
こうして、半人半馬の一族は辛くも一族存亡の危機を乗り越えた。この顛末がキーノ・インベルンの耳に届くことはなかったが、もし知れば、自分の試みは決して無駄ではなかった、と満足したことであろう。
対して北西に向かったシャルティアは、天使の群れに追われ潰走したバハルス帝国軍に追いついた。総勢一万余と号した威容は最早跡形もなく、彼らの誇った魔法の武具もその大半は折れて屑と化していた。
「戦いを挑む者ではありんせんが……会話が成立する者でもありんせんなぁ。」
真正直にシャルティアは荒れ地に呆然と座り込む幾ばくかの生存者に話し掛けてはみたものの、誰の目の焦点もシャルティアを捉えることはなく、皆ぶつぶつと意味不明の独り言を呟くばかり。惨劇の記憶を反芻しているものか、はたまた、思い上がりに端を発した己の愚行を呪ってのことか。
だがしかし。
真の恐怖はこれからだ。
「捨て置いても詮もなし。美味しく頂戴するでありんす!」
そして。
北西へ向かったコキュートスは、本来目的としていた敗残兵に突き当たり、これを
それは、翼を生やした全裸の半陰陽、