(アインズ様。東約五十キロにこちらへ向かってくる高速移動体を検出。総数4、うち
「……わかった。今からそちらへ行く。
映像の準備をしておいてくれ。」
少し時間を遡って、ナザリック地下大墳墓
ナザリックの目、ニグレドからの前以て想定されていた一報を受けて、大魔王アインズ・ウール・ゴウンは<ギルドの指輪>の力でそこへ跳んだ。
こちらの世界の住人の中にナザリックの所在を掴みつつある
ニグレドの報告は、まさにその予期されていた事態の発生を告げていたが、彼女が推定するレベル総計は、明らかにこの一団がこちらの世界の並みの住人ではないことを示唆している点が予想外である一方、たちまちには何であるか思い出せないが、アインズには、ニグレドのやたらと推定レベルに幅がある戦力分析に
アインズがニグレドの傍らに姿を現した時点で、既に彼女が覗き見る侵入者の様子が<
が、アインズの注意を惹いたのはその人物ではない。
「……なんでシズちゃんズが居るんだ?」
「<
あ、シズ?そう、オレオレ!念のために訊くんだけどさー、シズちゃんズを外に出してる?……だよな、んなワケないよな。あー、ゴメンゴメン、またねー!」
<黒の
「もう一体は詳細不明。何らかの偽装アイテムを使用中と思われ補足が叶いませんでした、申し訳御座いません。」
皮膚を欠くおどろおどろしいニグレドの顔が、しゅん、と項垂れつつそう釈明するが、アインズは骨の手をひょいひょいと振って「気にするな」と受け流した。
「それにしても……どうにもワケがわからんな。」
その骨の手を改めて顎に当てて首を捻りながら、アインズは食い入るように鏡を覗き込んだ。
挙動と装備から見て、詳細不明の黒服の男はプレイヤー、しかも
珍しい。
と、アインズは思う。
夜間は絶大な
アインズの印象としては、それでも
そして、
まぁ、そういうこともあるわな。以前もあった……ような気もするし。
それはともかく、さらに輪をかけてよくわからないのは、問題のプレイヤーとニグレドが最初に検知した四人のうち、やはり
「ニグレド、音声を拾えるか?」
「ただいま。」
ザザザッ、と
(……四十そこそこ、てめぇで汗水流して働いたことのない世間知らずの坊っちゃん、ってところか。どうだ?)
……はぁ?
いきなり聴こえてきた妙に平板で、でありながら確信犯的に相手を煽っているような女の声に、さらにアインズは困惑する。いったい何の話をしてるんだ。
だが、続く言葉を聞いて女が、さきほど自身思い描いた男
(口だけ達者なおまえみたいなヤツは、夜郎自大ってんだよ!)
いやー、きっついわー!オレだったらへこむわーーー!
多分、まったくこの女の言う通りだけど、ユグドラシルにハマッた奴にそこまで言うのは反則だわーーー、
と、苦笑いを浮かべながら何故か男の方に同情するアインズ。
続いて、
(おまえは……アインズ・ウール・ゴウンの足元にも及ばねー。)
……はぃ?
なんでオレの名前がでてくるわけ?
おまえはオレの友達かよ!
この時点でアインズの記憶にないだけで……友達なのである。
これに対する、そう言われた男の返しがアインズの興味を惹いた。
(私はあの連中を恐れてはいないのだ!)
……ま、そりゃ別に構わないよ。
と言うか、ユグドラシル時代からちょっと怖がられ過ぎ、と思ってなくもなかったから。
と、存外淡白な大魔王。
そもそもアインズ、鈴木悟の理解としては、ユグドラシルにおいては、高い
(非公式ラスボス、などと呼ばれたあのモモンガでさえ、私の敵ではない!
何故なら、私は奴と同じ必殺技を持っている。)
……ほぅ。
それは面白い!
(そして、奴はそのことを知らん。)
残念、今知ったぞ!
(先制すれば私の勝ちだ!)
んなわけあるかい。
自分が使える手段は相手も使えるかも知れない、と備えるのは基本中の基本。
(<
おぉ!
他人がやるのを見るのは結構新鮮だなーーー。
……え?
「エェェェェーーーーーッ!」
このとき、アインズの未だその実態が何処にあるのかよくわからない脳裏に稲妻が走った。
今自分が考えていてやろうとしていることが馬鹿げていることは百も承知。
なんなら愛するアルベドには
が。
最早アインズには。
そうする以外の選択肢はなかったのである。
たちまちにアインズは<ギルドの指輪>の力で第二階層のシャルティアの居室に跳んだ。
「なん……じゃこりゃ!」
アインズの目に飛び込んできたのは、全裸で
だが、アインズには呻吟している猶予がない。
無理やりはぎ取った
次の瞬間、アインズは指輪の力で跳べるギリギリ限界、ナザリック地下大墳墓上空の東の端にいた。
「ア、ア、アインズ様ァ?」
わけがわからないのは全裸のまま連れ出されたシャルティアも同様で、素っ頓狂な驚きの声を上げるも、カッ、と東へ向けて俯角で差し向けられる骨の指先。
「シャルティア、オレをありったけの力であそこへ投げつけろ!」
と、命じれば。
「合点承知の助でありんす!」
至高の主の
「えいやッ、でありんす!」
骨の足先を前に向けて投槍のように全力で投擲するシャルティア。
その速度は音速を軽く凌駕し、衝撃波がシャルティアを
「いやーーーん、なのでありんすーーー!」
股間と隠しても詮無い胸に手を当ててナザリック地上部目掛けて落ちていく
敵の出方によっては可哀想なことになるが……何を今更だ!
アインズは、場合によっては元は同じ人間であった何者かを永劫の苦しみの中に閉じ込めかねない切り札中の切り札、の使用を既に決断していた。
「<
「セーニョ!」
土煙の中から意味不明の言葉を聞いた黒服の男は、それが何であるのかを見極めようと少し身を乗り出すような姿勢を取ったが。
「<
続けて回避不能の最強攻撃魔法の詠唱が聴こえて、大慌てで魔法の
ゴーーーン!
が、こんなものは問題ではない。
このとき、彼は<
金糸銀糸に
ゴーーーン!
あ……あれは?
非公式ラスボスと謳われた、アインズ・ウール・ゴウンのモモンガ?
だが、その姿は再びの意味不明の言葉「ダルセーニョ!」と共に視界から消失した。
どういうことだ?何が起こっている!
と、呻吟するも束の間。
ゴーーーン!
「<
「馬鹿な!」
こんな高火力の、ましてや<
男は大慌てで再び魔法の<
ゴーーーン!
あと一秒だ、と男はほくそ笑むも。
ゴーーーン!
「<
「何の冗談だーーーッ!」
魔法の<
そして男は悟った。
信じ難いことではあるが、自分は
だが。
ここに至っても男には、今一つの切り札が残されていた。
使い切りアイテムの消費は惜しいが、背に腹は代えられない。
ゴーーーン!
男は十指に嵌めた指輪の一つを抜き、握りしめて機能発動を宣言する。
「<
同一戦闘に限り、特定魔法の詠唱を無効化する
ゴーーーン!
「<
成功だ!
指輪の力で封じられた<
ゴーーーン!
突如として場の空気が転じ、男は攻撃を封じたことによって
「勝ったぞ!」
「帰って来てくれて安心したよ。」
勝利を確信した男の
見れば、最上段に振り上げられた
「させるか!」
男は両手で掴んだ
今度こそ勝利だ!
男は勝ち誇ってやろうと骸骨を見上げるも、骸骨の
なんだと!
ゴーーーン!
「あいよ!」
残り二秒を告げる鐘の音と同時に、たちまちにアインズの意を察したクレマンティーヌは、自ら一閃の矢と化して男の胸元に飛び込んだ。両手を振り上げて防戦した男のそこはがら空きで、かつて漆黒聖典において疾風走破を贈り名されたクレマンティーヌに対し、男には
クレマンティーヌの
「まだまだ終わりじゃないんだよぉ!」
得物を男の胸に残したまま、猫のような身軽さで飛び
「キーノちゃん、とどめ!」
「お、おぅ!<
ゴー……どじゃーーーーーん!
四方八方から呼び集められた雷撃が男の胸に突き立つ
儚くも黒服の男の
残り一秒。
満願成就を告げる最後の鐘の音は……ない。
「た、助かった……のか?」
実のところキーノ自身は、あまりにも
見れば、こちらに背を向けて得物を振り下ろした姿勢のままでいた大魔王が、やおら手にした
……
キーノはその意図がわからずに呆然とそれを見上げていたが、先に意を察したクレマンティーヌが、さささっ、と駆け寄ってその骨の手の平を、パンッ、と
すると骸骨はキーノに視線を向け、クレマンティーヌに叩かれた方の手の指で、
そ……そういうこと?
怖ず怖ずと立ち上がったキーノは、遠慮気味に歩み寄り、そっ、と差し出された骨の手の平に軽く触れた。
「見事な
と、上機嫌な声色の我儘気儘な大魔王。
「で……。」
……ん?
「おまえら……誰?」
ズコッ!
肩透かしを喰らってずっこけつつも、キーノはその意味するところを自ずと悟った。
この陽気な大魔王、アインズ・ウール・ゴウンの秘中の秘、記憶を極短期間しか保持できないという問題をキーノは大昔に本人から聞かされて承知しており、何なら邂逅する都度、こちらの存在を思い出さないままのアインズに殲滅されることを覚悟の上で臨んでいたものだが、呆れたことにこの能天気な大魔王は、こちらが何者であるかわからぬままに、それでもとてつもない勢いですっ飛んできて……<
「キーノ……キーノ・インベルンだ。
キーノが感銘を受けつつそう応じると、アインズはごそごそと中空からいくつか紙片を取り出して
「……あぁ、ツアーの舎弟か。
いや、舎弟はいくらなんでも失礼だよな。
などと独り言ちている。
「すまない、どうやら助けてもらったようだ。」
キーノは深く頭を下げて詫びるも、骸骨にそれを気にする様子はない。
逆にこんなことを言い出す。
「いや、詫びるのはむしろこっちの方だ!
実は……途中から覗いてたんだ。」
「「……はぁ?」」
と、驚くキーノとクレマンティーヌ。
「ど……どの
顔から血の気……なんてそもそも彼女にはないのだが……が引いたクレマンティーヌがそう問えば、
「おまえがあの男の痛いところを突き出した辺りかな。
いやぁ、アレはなかなか痛快だった!」
と、アインズは骨の手を、パンッ、と合わせる。
「あいつがオレと同じ
まぁ、おまえらも覚悟の上でやってたんだろうから万が一
大魔王のこの物言いにキーノは目が点だが、クレマンティーヌは直立不動のまま固まっていた。
「あ、そう言えば!」
と、再び骨の手の平を、パンッ、と打ち合わせるアインズ。
「クレマン……だっけ?いや、違うな。クレマンティー?あ、クレマンティーヌな、そうだな?そうだよな!
おまえ、オレの名前を出して啖呵を切ってくれたな?まぁ、今回はオレの出足が遅れた詫びもあるし、何より最高に面白かったから見逃してやるが……次はないと思えよ。」
「ひ、ひぃーーー!」
アインズに向かってペコリ、と頭を下げる眷属の姿に、思わずキーノの頬が緩んだ。
元より言っている大魔王本人も、クレマンティーヌが自身の名をプレイヤーの前で口にしたことに本気で腹を立てている感はない。その証拠に、無造作に後ろ頭を掻きながら、
「とりあえず毎度のことながらわけがわからんのでちょっと事情を訊きたいんだが。」
と、ボヤくアインズ。
「もちろんだ。そもそも事の起こりは……」
ない胸を張って語り始めようとするキーノを「待て待て!」と骨の手の平が制する。
「何も言わずに飛び出してきたからちょっと連絡を入れさせてくれ。
……<
あ、オレだ!いや、すまん、ちょっと緊急で飛び出してしまったが片付いた……あぁ、大丈夫だ、何も問題はない。で、すまんが
あと、多分地上の
……すまん、待たせたな。」
ニグレドへの通信を切って再びキーノに視線を向ければ、待っていたのは、いったいアンタ何をやってるんだ?と言いたげなキーノの胡乱な視線。
「……そんな目で見てくれるな!こっちはこっちで……いろいろあるんだ!」
このアインズの投げ遣りな返しがツボに入ったのか、アハハ、とキーノは笑い、釣られてアインズも、ワハハハッ、と高らかに笑った
*
「なるほど……とすると、アイツは既にギルド拠点を失ってた
ナザリック地下大墳墓から東へ数十キロの取り立てて何もない平原。
夜空の下、大魔王アインズ・ウール・ゴウンと<黒の
キーノからここに至る顛末を聞き出したアインズは、開口一番そう言った。
「ギルド拠点を失う、なんてことがあるのか?」
「あー、キーノには話してなかったっけか?」
アインズは掻い摘んで、この世界で行き当たる
第一にはナザリック地下大墳墓がそうであるように、ギルド拠点がプレイヤー、
第二にはどこかの時点でギルド維持資金が尽き、ギルド拠点が崩壊済みである場合。こうなるとプレイヤーは
「本当のところどうだったのかは最早誰にもわからんし、下手をすれば
何をすればよいかわからぬままにこの世界を
いつになく饒舌なアインズに、キーノは不安げな表情を浮かべた。
それに気づいたアインズは「どうした?」と問うが。
「いや、私がそんな話を聞いてしまって……よいものだろうか、と。」
初めて知り合った……あちらはこちらを憶えておいてはくれないのだが……時分以来、アインズが自身の能力、ナザリックの全貌を含めて、あらゆる情報の漏洩に神経質であったことはキーノもよく承知していた。
だが、アインズは事も無げにこう応じる。
「キーノたちはオレが思っていた以上にプレイヤーに
続けてアインズは骨の指を一本立てて、キーノの注意を惹いた。
「いいか?総戦力で言えば、その配分は様々だが最低でもレベル総計300にはなるはずのギルド拠点と共に在るプレイヤーの方が脅威だ。が、その行動は拠点の維持、という大目標の縛りを受けるから存外読み易い。
むしろ
「にしては、奴の手の内はすべてお見通しであったように思えたが?」
キーノは素直に自身驚きを隠せなかったアインズの対応への感想を述べるも、アインズは骨の口をパカリと
「戦略と戦術、はまた別物だろ?
ユグドラシルの戦術でオレの右に出れる奴はそうはいない。が、そんなオレでも、プレイヤーの戦略目標がはっきりするまでは迂闊には手を出したりはしないさ。今回は流石に緊急事態だったし、あのアホはおまえらにペラペラと手の内を語って聞かせていたからな。例外中の例外だ。」
と、嘯くアインズ。
この物言いに、常にそういった視点でキーノに助言を与えてくれるクレマンティーヌが冗談交じりに告げた「ワタシは、あのアインズ・ウール・ゴウンと気が合うような気もする」の言は、存外的外れでもないのかもしれない、などとキーノは考えていた。
クレマンティーヌだけではない。
付き従う
「キーノは、プレイヤーとは対話が可能だ、と信じているだろう?
それはオレも否定はしない。そもそもオレからすれば、プレイヤーは元は
オレは、キーノがやっていることに、危ないから
「お節介だなんてトンデモない!
忠告は胸に刻み置く。」
と、ない胸を自らバンッ、と叩いてキーノは応じた。
それにしても、耳元で
「今回の、名も所属ギルドもわからんままの阿呆が本当のところどういうつもりだったのか、については、<
やはり事も無げにそう言うアインズに、キーノは困った表情を浮かべた。
「……どうした?最低位の蘇生魔法を使うから、レベルダウンに伴って
「いや、そうではなくて。」
「?」
意外にもキーノの真意を察する様子のないアインズに、キーノはぼそぼそ、と躊躇いがちに思うところを語る。
「あのプレイヤー……彼は、決して善良な
このキーノの言葉にしばしアインズは沈黙していたが、
「……おまえの言う通りだ。
せっかく終わった悪夢に、もう一度放り込んでやる必要はないわな。」
と、簡潔に同意を示した。
「キーノが聞いてきてくれた話のおかげで人間たちの事情もだいたいわかったしな。対策はこっちで考えるからキーノも適当に、お得意の、触れ得ざる、でも何でもいいから、人間たちが不用意にこの辺りに立ち入らんよう言いくるめておいてくれ。
おまえらも、概ねナザリックの位置はわかったものだろうが、訪ねてくるのは勝手だが、普段はナザリック近傍はシャルティアが一人で
そもそもアインズとしては、極稀に、ではあるが、
むしろ、人間たちの企図が大陸西方への道のりを拓くことにある、とわかったからには、それを可能にさえしてやれば、意図してナザリック近傍へ向かう
「今ならオレが一緒だから大丈夫だぞ。何ならナザリックに寄って行くか?何でも食べたいものをご馳走するぞ、どうせ
気安くそう言うアインズに、キーノたちは謝絶で応じた。
アインズのみならいざ知らず、ナザリックの
「ここまで足を延ばしたついでに、自分の目でカッツェ平野の現況を確認して一旦東へ戻るつもりだ。」
そう応じるキーノを、アインズは、
「おまえは相変わらず苦労性だな!」
と
「一命を救われておいて言うのもなんだが、それはお互い様じゃないか……アインズ?」
キーノが遠慮気味にそう言うとアインズはなお愉快げに笑い、やがて神々しい緑色の光に包まれた。