億劫のオーバーロード   作:wash I/O

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転移歴604年。
来訪者(ユグドラシルプレイヤー)の気配を追うキーノ・インベルンたちにスレイン報国の魔の手が迫る。


15.死肉喰らい(2)

「町の大事、とやらを吹聴して歩いておられるのは、あなたたちでしょうか?」

 

 たちまちにキーノは身構えたが、男はまったく印象に残らない風体の中年男性で、肉体的な強さも魔法の気配も一切感じない人物だった。

 

「申し遅れました、(わたくし)こういう者で御座いまして。」

 

と差し出された名刺に目を通せば、

 

   アレイン報恩団第十三市支部長代理

       ジョン・ショウクロス

 

とある。

 

「アレイン……報恩団?

 それは国の機関か何かなのか?かつての六色聖典のような?」

 

 キーノはそう問うたが、

 

「いえ、そのような大それたものでは御座いません。

 ただただ、慈悲深きアレイン皇子に報いんと誓う、そのような私設の組織で御座います。」

 

と、わかったようなわからないような回答。

 

「で……その報恩……が我々に何の用なんだ?」

 

 この喫緊のときにこんなわけのわからないやつを相手にしている場合じゃない、とキーノはいきり立ったが、自称ショウクロスは事もなげにこう応じた。

 

「いえ、御用がおありなのはそちら様、と承知しておりますが……違うのですか?」

 

「はぁ?」

 

「いえ、何か町の大事があるので緊急の連絡先をお探し、と耳にいたしましたので、私どもでお役に立てるかはわかりませんが、ひとまず承ってみよう、と考えた次第でして。」

 

 思わずキーノはクレマンティーヌに視線を送って助言を求めたが、求められた方もクゥイナがよくやるお手上げの身振り(ジェスチャー)でわけがわからないと返すのみ。

 

 いっときキーノは思案する様子を見せたが、

 

「わかった。駄目元でおまえに話そう。」

 

と意を決した。ショウクロスは片手を差し出して、どうぞ続きを、と促す。

 

「まず私たちについてだが……」

 

「それは結構です。」

 

 な……何なんだ、これは?

 

「……私たちが信用に値するか、判断する必要はないのか?」

 

「それは私が判断することではありませんので。」

 

 やはりこの国はわけがわからない。

 これでは朝から声を掛けて歩いた町衆と何も変わらんじゃないか!

 

 だが、男は自分がおかしなことを言っているとは露とも思っていない様子で、

 

「お急ぎなのでしょう?本題をどうぞ。」

 

と続きを促す。

 

 ええい、ままよ!

 

 キーノは馬々鹿々しく感じながらも簡潔にここまでの経緯を説明した。

 

 この辺りの町に出没する透き通った姿の女が、この町を発してアベリオン丘陵の豚鬼(オーク)の集落を襲っていた野盗を探っていたことを突き止めたこと。

 この女を操っているのが、かつてスレイン法国において神、と考えられていた存在である可能性が高いこと。

 既に野盗がこの町を発して豚鬼を襲ったことは相手方に把握されており、遠からず豚鬼に肩入れしていると思われる存在からの反撃が懸念され、その危険は周辺の町にも及びかねないこと。

 

「おまえに言ってもわからんかも知れんが、この神、というのは、おまえらの国家元首、人の子シロクロ……様よりもさらに輪をかけてヤバい奴かも知れんのだ。場合によってはこの辺りの町衆が皆殺しにされる恐れもある!」

 

 キーノは一気に捲し立てたが、ショウクロスは今一つ響いていないのか、あるいは話について来れないのか、顔色一つ変えない。

 

「……終わり、ですか?」

 

「……はぁ?」

 

「いえ、あなたのお話は以上、ということでよろしいのでしょうか?」

 

「……敢えて付け加えるならば、こちらで他国へ野盗に向かうことがどんな罪に問われるものかは知らないが、元を糾せば豚鬼の集落を繰り返し襲ったとみられる野盗に真因があるのは明らかだ。それについても当局に善処してもらいたい!」

 

「はぁ……まぁ、それはどうでもよいでしょう。」

 

 え?よくはないだろ!

 

「冒険者、をやっておいで、とお見受けしますが、謝礼はご入用でしょうか?」

 

 な!こいつは何なんだいったい?

 

「んなもん要るわけないだろ!

 然るべき筋に連絡がついて然るべく対処してくれさえすれば、こちらはそれで満足だ。」

 

「あぁ、何ともはや!

 アレイン皇子もかくあらんの如き高きお(こころざし)(まこと)に感服いたしました。

 では、(わたくし)はこれにて。」

 

 え……何だよそれ!

 

 途端に(きびす)を返して立ち去ろうとするショウクロスにキーノは呆気にとられるが、やはり彼の方にはそれを気にする様子はない。

 

(わたくし)の支部に<伝言(メッセージ)>が使える魔法詠唱者(マジックキャスター)がおりますので、差配をいたします。」

 

 結局どこかへ丸投げするのかよ!

 しかし……<伝言>を使うというのは、当然ではあるが大陸ではあまり一般的ではない対応ではある。

 

「皆様ご機嫌よう。余所からおいでの方には何も()れがないやも知れませんので、危険とお考えなのであれば皆様もこちらから退去されるのがよろしいでしょう。」

 

 立ち去り際に大きな声でそう言いながら、男は雑踏の中に消えた。

 

 こんなので大丈夫なんだろうか?

 だがしかし。

 

 やはり万全を期すべく神都へ向かうべきだろうか、としばしそのまま討議……と言っても、話しているのはキーノとクレマンティーヌの二人だけなのだが……していると、クゥイナがちょいちょい、とキーノの外套(マント)の裾を引いて注意を促した。

 

「ん、なんだ?」

 

 クゥイナが黙ったまま周囲の人の流れを指差す。

 誰一人慌てた様子はなく、普通に日常の用事をこなすべく歩いているように見えるが、不思議と向かう先は皆同じ、町の外につながる門の方向だ。逆方向へ向かう者もないではないが、やがてその者もやはり門の外へと、ちょっと用事があるので出掛けよう、といった(てい)で歩いていく。

 

 そして、だんだんと人通りが減っていって、日が傾き始めた時分にはしーんと町は静まり返ってしまった。

 

「そんなわけないとは思うが……スレイン法国の頃からこうだったか?」

 

「答える必要……ある?」

 

 キーノとクレマンティーヌは、ただただ呆然とその様子を見つめる他なかった。

 

 

                    *

 

 

 とっぷりと日も暮れ、キーノたちは第十三市を概ね見渡せる高い鐘楼の屋根の上に集っている。

 

 町には驚くほど人気(ひとけ)がない。

 あの、アレイン報恩団とやらが手配して、町衆皆に避難を呼び掛けたのであろうか。それにしては何の()れが出された様子も見受けられなかったが……とまれ。キーノが目指したところの一つ、町衆が予想される災厄に巻き込まれることを防ぐ、は達成されたことになる。

 それでも彼らがこうしてまだ当地に留まり様子を伺っているのには、もちろん理由があった。

 

 今、キーノの念頭にあるのは、百年ほど昔に大陸東方で生じ、キーノ自身は事後的に聞き及んだ大異変だ。

 

 カルサナス都市国家連合のほぼ中央に突如天を衝く水晶造りの塔が出現し、連合は当初これを危険なものと見なして周辺を封鎖し接触を控えたが、何を思ってか噂を聞きつけたバハルス帝国皇帝が総勢一万と号する軍団を派して襲撃、呼応して現れた天使の群れに壊滅させられた、という物語である。

 この話は、これが契機となって中央集権にまとまるやに見えた帝国が再び群雄割拠の混沌に帰したことは雄弁に語るものの、それを為した天使の群れについては、ただ忽然と消えた、とするのみで説明を欠いている。

 

 が、もちろんキーノは、この天使の群れとやらを誰の目に触れることもなく撃退したのは、間違いなく白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツアーか大魔王アインズ・ウール・ゴウンのいずれか、あるいは両者の共闘によるものだ、と確信していた。

 

 この話を初めて耳にしたとき、キーノは随分と複雑な心境に陥ったものである。

 

 連合が当初この塔を「触れ得ざる塔」と呼んでいたことから、自身が先立つ百年に同地を巡って有志に説いて歩いた話が無駄ではなかったことを彼女は正しく理解していた。大地溝帯を挟んだ距離の問題もあり、今なお当地においては「触れ得ざる」の語……今は亡き戦友(とも)ガ・ギンが来訪者を言い表すのに好んで用いた語……を伝えた自身が、美しい吸血()に従った三人の小人(こびと)の一人として語り継がれていることをキーノは知らないのだが、知らないで幸いだ。

 一方で、キーノは同じことを帝国領内でも少なからず語って歩いたにも関わらず、これは功を奏さなかったことになる。このことに自責を覚えるのは思い上がり甚だしいものと思わないでもないものの、もう少しうまくやれていればこの悲劇は避けられたのではないか、と考え込まざるを得なかったのは否めない。

 

 そして、結果的に帝国軍に突然攻め込まれたといきり立って反撃に転じた来訪者(ユグドラシルプレイヤー)は、ツアー、アインズから最早殲滅以外に鎮める手立て無しの魔神と見做され滅ぼされたのだろう。これを、アインズはともかくツアーが喜々としておこなったはずはないし、そもそも来訪者の反撃は帝国の浅慮が招いたものであって彼ら自身には非はなかったはずだ。

 

 自分はそれを防ぐべく行動していたつもりであったのに、今一歩及ばなかったのだ。

 

 そして今だ。

 

 来訪者と疑われるそれはキーノに「賊を送り込むのを()めろ」と求めた。理解し合えるかどうかはともかく、対話が不可能でないことはわかっている。そして、どういった経緯によるものかはわからないが、その来訪者が繰り返し賊に襲われた豚鬼(オーク)の境遇に義憤を抱いているのであろうことも。

 

 であるならば、これは贖罪の機会(チャンス)なのではなかろうか。

 

「あ……来たわ!

 これは……かなりヤバいんじゃない?」

 

とクレマンティーヌが口にするよりも前に、もちろんキーノもその気配に気づいていた。

 

 不死者(アンデッド)の群れが迫ってきている。

 

 その数は総数ざっと二十と少しかとは思うが、問題はその質だ。

 先頭に立っているのは一見死者の大魔法使い(エルダーリッチ)のようにも思われるが、感じ取れる強さはド・クロサマー王国の守り人デイバーノックよりもむしろかのアインズ・ウール・ゴウンに近い。

 その後ろに、隊列を組んで従うのは上位死霊(ハイレイス)。先に送り込まれた幽霊(ゴースト)とは比較にならない恐怖を撒き散らす存在で、単体であればキーノでも何とかならなくはなかろうが、こんなものが二十体もいれば応戦など不可能だ。

 

 そして。

 

 これらの背後から、あの大魔王アインズ・ウール・ゴウンに勝るとも劣らない強烈な負の気配が伝わってくる。

 

 間違いない、あれこそがこれらを率いる本体、来訪者(ユグドラシルプレイヤー)だ!

 

「みんな……巻き込んでしまって申し訳ないが、私は何とかアレと対話して落とし所を探りたいと思っている。」

 

 三人の仲間は、皆、おまえがそういうなら仕方ないよね、という笑みを浮かべていた。

 覚悟を決めて歩み出るより他にない!

 

 そう意を決したキーノが動き出そうとしたその刹那!

 

「<転移門(ゲート)>?」

 

 突如として、かの不死者の軍勢の前に禍々しい気配が立ち上り、キーノには見覚えのある<転移門>が開かれた。

 

 最初にそこから姿を現したのは白銀の鎧武者。否、武者に(あら)ず。鎧に見えたのは皮甲(ひこう)であり、重厚な胴から生え伸びる腕は四本。キーノ自身に見覚えはないが、隣でクレマンティーヌの顔が引きつっている。これが、アインズ・ウール・ゴウンの眷属でないはずがない。

 

 そして続いて現れたのは……執事服姿の老人!

 そう、二百五十年ほど前に帝国北部の都市で出食わして慌てて逃げ出した爆砕執事だ。

 

「いかん、撤収だ!<脱出(エヴァキュエイション)>!」

 

 キーノは慌ててガ・ギンの墓所へとつながる<転移門>を開き、仲間たちをそこへ送り込む。そして、自身も飛び込む間際に振り返って見えたのは、先に出現した<転移門>から悠然とその姿を現した、金糸銀糸に彩られた漆黒の装束(ローブ)を纏った最強最悪の化け物、大魔王アインズ・ウール・ゴウンその人だったのである。

 

 またしても、自分は今一歩届かなかったのか!

 

 

 

「ん?」

 

 デミウルゴスに言われるままに蟲王(ヴァーミンロード)コキュートスと執事セバス・チャンを伴って<転移門>を潜ったアインズの鋭敏な索敵能力は、自身の前方にある不死者(アンデッド)の軍団とそれを率いているのであろうプレイヤーに加えて、自分たちとすれ違いざまに<転移門>を開いて逃げ出した者たちをも捉えていた。

 

「……ま、いっか。とりあえずは目前の相手から、だよな。」

 

と自分に言い聞かせて、まずは<無詠唱(サイレント)>で自身と近衛に各種の防御系能力向上(バフ)を仕掛ける。既にアインズの視覚は正しくプレイヤーの姿を捉えていた。

 

 面倒な……相手だな。

 

 不死者二十数体を前面に押し立てたそれは蟲の死霊使い(ヴァーミンネクロマンサー)。墓地で遺骸を喰らいその魂魄を使役する、とフレーバーテキストに謳われた種族(クラス)だ。もっともそれは、雰囲気を醸すための設定に過ぎない。

 ユグドラシルにおいては、アインズ同様に死霊系攻撃魔法を得意とし、不死者召喚の能力(スキル)にも優れ、加えて、無論コキュートスには及ばないもののある程度の近接戦闘にも対応可能な比較的攻性よりの設定。

 反撃(カウンター)を備えていないはずはないので敢えて能力把握(スキャン)は試みてはいないが、見た目の雰囲気は確実に百レベル(カウンターストップ)。これはとりもなおさず、互いの最も得意とする攻撃手段が相殺されてあまり役には立たないことを意味している。

 

 が、同時にアインズは、その挙動と隊列から、相手が従えている怪物(モンスター)が相手自身の能力で召喚された戦術級単位(ユニット)であり、自身が従えている戦略級のそれ、すなわちNPCでないことにも気づいていた。

 

 妙だ。

 四年も潜伏していた以上、何らかの方法でギルド拠点を維持してきたんじゃないのか?

 であれば、アインズ同様に下僕(しもべ)たちが単騎出陣を許すとも思えない。

 (あるじ)を囮に立てて自身が伏兵と化しているなら、舐めれん相手だが……。

 

「デミウルゴスは荒事にはなるまい、と言ったが。

 これが荒事でないなら……何が荒事なんだ?」

 

 

                    *

 

 

「アインズ様、アベリオン丘陵の一件の手掛かりが掴めました!」

 

 少し時間を遡って。

 

 愉快げなデミウルゴスがそう声を掛けてきたのはやはりアインズがたまたま一人で居たところに対してで、自然とアインズは、また禄でもない話に違いない!と身構えた。

 

(ニグレドの探査も控え、恐怖公眷属も遠巻きの監視に(とど)めている現状でどうやって?)

 

 疑問を覚えつつ、アインズはやはりない余裕をあるように振る舞う。

 

「まずは聞こう。」

 

「アレイン報恩団に第十三市に神襲来の恐れあり、と告げて参った者たちがおりまして。」

 

「……」

 

「……如何なさいましたか、アインズ様?」

 

 アインズが口をパカリと開いたまま動かなくなったので、デミウルゴスが話を中断してそう尋ねた。

 

「いや何と言うか……いろいろ説明が必要だとは思わないか?」

 

「そうで……御座いましょうか?」

 

 デミウルゴスは、意外だ、という顔で(あるじ)を見つめている。

 

「そりゃそうだろう!

 

 アレイン報恩団って何だ?

 第十三市?

 神の襲来?

 告げて参った者……って、誰だよ!っつーかそれは報恩なんとやらとはまた別物なのか?」

 

 アインズは何一つ自身の記憶と照合されない言葉にいきり立った。

 

「……なるほど、そういう事で御座いますね!」

 

 またそれかよ!

 

「つい先だって、アインズ様は仰せになりました。

 ただ(わたくし)めが『聞きつけ、気づいたことを話してくれればそれでいい』と。

 

 ですので、そのようにさせていただいた次第ですが。

 ……何か不都合がおありだったでしょうか?」

 

 はい、故意(わざと)確定!

 おまえがそれはそういう意味じゃない、ってわからんはずねーだろよー!

 

 なんか年々(たち)が悪くなって来てるような気がする……。

 

「言った!確かに言った!

 が……流石に記憶にない言葉をぽんぽん出されても、オレがどうしようもないことはおまえだって……」

 

 わかっててやってんだろ!グゥォルァーーー!

 

と怒鳴りかかりたい気持ちをアインズはぐっと堪えた。

 

「こ、これは!

 失礼いたしました、アインズ様。どうか(わたくし)めの思慮の浅さをお許しください。」

 

 そう言いながら随分と楽しそうだな、お・ま・え・は!

 

「アレイン報恩団と申しますのはスレイン報国の皇子アレインの親衛隊の一つでして……」

 

 ……わからん単語がまた増えてるじゃねーか!

 

「だ・か・ら!

 アレインだとかスレインだとか、何なんだよ、それは!」

 

「何と!

 よもや、とは思いましたがアインズ様は、我が愛息にしてウルベルト・アレイン・オードル様より片諱まで賜りましたアレインまでもご記憶にないと!」

 

 逆ギレ気味のアインズに対し、デミウルゴスはそう答えながらヨヨと嘆いて見せる。

 

 そんなこと言われてもなぁ……と言うか、愛息?息子?

 デミウルゴスに子どもが居たんだっけか?

 

 なんなら目下のアウラ、マーレが三代目で、既に姉アウラが四代目を身籠っていることすらアインズはたちまちには記憶してはいない。近頃では事前の予習なしに下僕(しもべ)、特にデミウルゴスの話を聞くのが加速度的に(つら)くなってきているような気もする。

 とは言え、流石にデミウルゴスの息子とやらのことまで失念しているのを不用意に晒してしまったのは流石に不味かったか……ああ見えて存外繊細なデミウルゴスを傷つけてしまっただろうか?

 

 しかし、ではいったいどうしろと!

 

「まぁ、無理も御座いませんな。

 かく申します(わたくし)めも、しばしば息子アレインのことを忘れますので!」

 

 一転してからりとした様子でカカと笑って見せるデミウルゴスに、アインズは眩暈を覚える。

 

 結局……故意に(わざと)コレやって、オレをおもちゃにして遊んでんじゃねーか!

 

 漸くにしてデミウルゴスから背景知識も含めた説明が始まり、アインズは安堵する一方で、これからもこれがずっと続くのか、幸いなのは今のやり取りもすぐに忘れてしまうことだが、だからこそ、これが未来永劫繰り返されることが確定している、という身も蓋もない事実に暗澹たる気分に陥っている。

 

「で、その何とか団に、ユグドラシルプレイヤーが攻め込んでくる恐れがある、と告げて来た者がある……と。そういうことなんだな?」

 

「左様で御座います、流石はアインズ様!」

 

 そこで「流石はアインズ様(さすアイ)」は()()()やめてくれ!

 

「しかし、ユグドラシルプレイヤーそのもの、も気にはなるが、その存在を予期して知らせてくるやつが居る、というのはいささか剣呑だな。」

 

「ご案じ下さいますな、そちらはそちらで目星はつけておりますのでご心配なきよう。

 まずはユグドラシルプレイヤーの捕捉殲滅こそが肝要かと愚考する次第です!」

 

「いや待て待て、デミウルゴス!

 捕捉はともかく、殲滅は確定事項ではあるまい!」

 

 剣呑なことなどないと否定しつつ自らは剣呑な方向へと話を進める参謀の言を、アインズは大慌てで窘めた。

 が、デミウルゴスにそれを気にする様子はない。

 

「左様……で御座いましょうか、アインズ様?」

 

「そりゃそうだろう!

 ツアーでもあるまいに、オレたちはこの世界を守るべくユグドラシルプレイヤーを迎え撃ってるわけじゃないんだから……」

 

「……」

 

「ん、どうした?」

 

「ツアー……とは?」

 

 嘘つけ!この文脈で、んなワケねーだろ!

 アインズがぐっと身を乗り出して睨めつけたのに、この辺りがからかって遊ぶのも限界、と気づいたものか、デミウルゴスは……

 

「あぁ失敬、あの小憎らしくも頼もしい白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)で御座いましたな。」

 

と取り繕う。やっぱわかってんじゃねーか!

 だが、続くデミウルゴスの言葉がアインズをいささか困惑させた。

 

「私の察しますところ、おそらく此度のプレイヤーとは戦いにはならず、むしろあちらからアインズ様の御手にかかることを望むものではないか、と愚考する次第で御座います。」

 

「はぁ?

 どういう……ことなんだ、それは?」

 

「……アインズ様には疾うにお気づきのことかと。」

 

 またそれか……。

 キリがない、いつもの手で逃げよう!

 

「ゴホンッ!

 あぁ、その通りだ。だがオレは、最も信頼をおく我が懐刀デミウルゴス、おまえの口からそれが聞きたい!」

 

「嗚呼、何と勿体なくも有り難き仰せ!」

 

 そういうのはいいから、早く続きを!

 

 かくして語られたデミウルゴスの推理はこうだ。

 

 賊に襲われる亜人に肩入れして、とはいえたちまちに実力行使に及ぶことなく背景の調査を、この世界の存在たちと比してさして過剰な強さを誇るでもない下僕(しもべ)にやらせた今回の来訪者は、少なくともコキュートス程度の安定した知性と人格を有しているに違いなく、一方で、元々は<現実(リアル)>において人間であったプレイヤーが豚鬼(オーク)などに肩入れしているのは、おそらくその者はユグドラシルにあっては人間からはほど遠い身体を備えていた者であるはずだ、と。

 人間でない身体と人間に近い知性、という矛盾を抱えたそれは、最早隘路にあると評せざるを得ず、アインズ様の慈悲に縋って自ら屠られることを望むに違いない……とか何とか。

 

 この話にアインズは愕然とせざるを得なかった。

 思えば、自分自身は存外あっさりと現在の境遇を受け入れてはしまったものの、これまで考えもしなかったことにはなるが、まともな感性と記憶を有したプレイヤーであれば、最初に考えるのはログオフしたい、人間に戻りたい、元の世界に帰りたい……となるのは、自然と言えば自然だ。

 

 そしてその(すべ)は絶対的に存在しない!

 

 何故こんな当たり前のことを今の今まで考えなかったのだろう。

 

「仮にそうだとすれば……新しい類型(パターン)ということになる、よな!そうだよな!」

 

(わたくし)は必ずしもそうは思いません。未だ確証は御座いませんが、ツアーとつるんで英雄ごっこをやったという人間種プレイヤーもまた、外見はともかくとして似たようなものであったのではないか、と愚考いたしておる次第です。」

 

「で……オレはそいつをどう迎えてやるべきだろうか?」

 

 ここまでの腹心とのやり取りで疲れ果てたアインズは、もうおまえの言う通りにするから一旦解放してくれ、という気分になってきていた。

 対してデミウルゴスは、コキュートスとセバスを供に連れ、アレイン報恩団が既に露払いを終えているスレイン報国第十三市へ転移すればあちらからやって来るだろう。念のために後詰めにアルベド、シャルティア、アウラ、マーレを控えさせるが、彼女らの出番はおそらくないはずだ、と応じて、転移先の座標が示された。

 

 これに素直に従って<転移門(ゲート)>を開いたアインズは、二人の近衛を先行させた後振り返ってデミウルゴスに問うた。

 

「結論は簡単な話だったのに、やたらと時間をかけたのは何故だ?」

 

 デミウルゴスは三日月型に口を歪めた笑みを浮かべながらこう応じた。

 

「相手方が襲来するであろう夜半までいささか時間が御座いましたので、それまで少しお楽しみいただくのも一興かと愚考いたした次第です。」

 

 深々と礼を執ってそう告げるデミウルゴスに、

 

「確かに楽しかったよ、おまえはやはり最高のオレの懐刀だ!」

 

と、言っている本人は嫌味のつもりで返したが、それが伝わった確信はアインズにはなかった。

 

 

                    *

 

 

 改めてアインズは目前にある不死者(アンデッド)の群れと、それを召喚したに違いないプレイヤーへと向かい合った。

 

 あちらもこちらの存在に気づいていなくはないはずだが……などと考えていると、ゆっくり接近してきていた不死者の群れがぴたりと動きを止めた。

 

 そして、野太い男性の声が聞こえてくる。

 

「そんな……まさか!」

 

 どうやらあちらはアインズの存在に気づいたようで、しかも、これまでにもしばしばあったように、ユグドラシルにおいて比類なき知名度を誇った非公式ラスボス、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのモモンガを見知っているのだろう。

 

 が。

 

 ここで意外な言葉が相手から発せられてアインズは面食らうこととなった。

 

「ひょっとして……スルシャーナさんですか?」

 

 はっ?

 

 スルシャーナ……って何だっけ?

 

 丁寧な口調からして、たちまちに襲いかかってくることもなかろう、と判断したアインズは、

 

「ごめん、ちょっと待って(タイム)!」

 

と骨の左手の平を開いて相手に差し向け、空いた右手で所持品(インベントリ)紙片(メモ)を探った。相手も意を察したものか、素直に待っている様子。

 

 あった!

 

 主に白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツアーとの因縁を自分なりに書き留めたそれにザッと目を通してみれば、スルシャーナはツアーが最初にそうだと認識したユグドラシルプレイヤーで、スレイン法国建国をおこなった六大神の一人であり、アインズと同じ死の支配者(オーバーロード)であった、とある。

 

「すまん、待たせたな!」

 

 何か妙な具合になってきたな、と思いつつも、アインズはたちまちにわかっている事実だけを簡潔に伝えた。

 

「オレはスルシャーナさんじゃない。

 そういう女性が以前にいたことは知っているが、既に故人だ。」

 

と。

 

 すると、蟲の死霊使い(ヴァーミンネクロマンサー)は、読み取れる表情などコキュートス同様ありはしないのに、見るからに動揺する様子を見せた。

 

 無理もない。

 スルシャーナと知り合いだったのだとすれば、あまりにもさらりと言い過ぎただろうか?

 

「まさか!そんな!」

 

 再び相手から声が発せられる。

 やたらと驚く奴だな。まぁ、ガチで戦闘(バトル)になりそうにないのは、いささか残念ではあるが有難い話でもある。

 

「ではあなたは、あのアインズ・ウール・ゴウンのモモンガさんなんですか?

 ユグドラシル非公式ラスボスの!」

 

 はぁ?

 

 オレのことを知ってんのかよ!

 ……じゃぁ、なんでスルシャーナが先に出て()んだよ!

 

 内心アインズはいきり立つが、もちろんそれを相手に悟らせるような真似はしない。

 鉄則だ。

 

「スルシャーナさんは昔の仲間の奥さんです。

 あなたの大ファンで、外見についてはあなたをそっくり真似てキャラクタを組み上げ(ビルドし)たと聞いたことがあります。」

 

 なんと!

 六百年越し……本人の降臨を含めば実に千二百年越しの衝撃の事実だ。

 

 さきほど確認した書付(メモ)によれば、アインズはこちらに渡って来て以降、何度となくスルシャーナと勘違いされる羽目にあっていて、他ならぬツアーも初対面に際しては「スルシャーナなのかい?」と問うたようだが、その時点でこちらの世界では六百年前に降臨し建国の神と認識されていたスルシャーナに自身が知名度で劣ったのは仕方がないとして、そもそもの混同の原因が、スルシャーナの方が自分を真似ていたからだったとは!

 

「それは存じ上げませんでした。スルシャーナさんが既にお亡くなりになっていることについては、謹んでお悔やみを申し上げます。」

 

 千年以上前のお悔やみを口にしながら馬々鹿々しく感じなくもないアインズではあったが、相手の態度に応じて自然と自身の口調が鈴木悟のそれに近づいていることを自覚する。

 

「私は田中(すぐる)と申します。」

 

 コキュートスよりも、より昆虫っぽい形態(フォルム)のそれから名乗られたあまりに気を衒わない名乗りに、思わずアインズは吹き出しそうになる。よもやキャラクタの名前ではあるまい。ユグドラシル時分の背後にあった<現実(リアル)>のプレイヤーの名前だ。これを最初に名乗る者と出会う、というのも、出会ってしまえばさもありなんだが、これまで考えもしなかったことだ。

 

 ひとまず……礼儀で名乗っておくか。

 

 どうせ相手もすぐに忘れるだろう!

 

「鈴木……悟です。」

 

「……存外平凡なお名前なんですね。」

 

 おまえが言うかーーーーー!

 

「……許されるものならば、鈴木さんにはいろいろとお伺いしたいことがあるのですが。」

 

と、田中、と名乗る蟲は礼儀正しく切り出した。

 

「……立ち話も何ですので、お茶でも用意させますので飲みながらお話ししませんか?

 と言っても、オレはご覧の通りの身体なんで飲めないんですけどね。」

 

 何がツボに入ったものか、田中蟲……他にどう表現すりゃいいんだ?……は大顎をカチカチ言わせて笑……ってんだよな、多分?……った。ひとまず、安定した人格の持ち主であることにアインズは安堵する。

 

 これを、たったあれだけの状況証拠から事前に見抜いてみせたデミウルゴスは(まこと)に侮れんな、とひたすら感心しつつ。

 

 <伝言(メッセージ)>を飛ばしてナザリックから茶の用意を命じれば、シャルティアがあちらから<転移門(ゲート)>を開いて現れ、メイドたちが続いてあっという間にささやかな茶会の用意が整った。

 セバスが「どうぞ」と椅子を引いて着座を勧めたが、田中の身体の構造から着座は難しそうだ。これに気づいたコキュートスがアインズに耳打ちし、意を察したアインズは<道具創造(クリエイト・アイテム)>で田中が身体を委ねるに苦しからぬ寝椅子(ソファー)を用意した。田中は素直に謝意を示してそこに腰……どこが腰なんだろう?……掛けた。

 

 ここに至ってアインズは、自身の鼻腔が擽られていることに気づいた。明らかに田中の蟲の身体から発せられているものだが、それが何であるのかは判然としない。闇妖精双子(ダークエルフツインズ)にしばしば届ける焼き菓子や皇子アレインに勧められた香木のそれよりは、むしろ愛妃アルベドの体臭に近い、アインズの本能に突き刺さってくる香りだ。

 田中は何か香水のようなものでも使っているものだろうか、そんなことはあるまいな……それを問うよりも前に田中から声が掛かった。

 

「アインズ・ウール・ゴウンは異形種のみから成るギルド、と聞いていましたが、そうでない方もおられたのですか?」

 

 田中は<転移門(ゲート)>に去っていったメイド、デクリメントの背を見送りつつまずそう問うた。隠すこともあるまい、とアインズは気楽に、

 

「あれはうちのNPCです。可愛らしいでしょ?」

 

と応じたが、たちまちに田中は驚きを示した。

 

「NPC!あれがNPC!」

 

 こちらへの転移直後は、自分だって同じように驚いたものではあろうが、少なくとも四年はこちらで生き延びてきたに違いない田中がそこに驚くことに違和感を覚える。

 

「田中さんのギルドには拠点防衛NPCがなかったんですか?」

 

「もちろんいました。」

 

 では、そのNPCたちは何処に?

 

「この世界に来てからとても忘れっぽくなってしまって、正直なところ何があったのかは憶えていないんです。」

 

 そりゃそうだわな、と思いつつもアインズは田中の様子に不穏なものを感じ取った。てっきりギルド維持資金獲得の(すべ)をみつけて四年潜伏していたもの、と思い込んでいたが、どうやら事情が異なるらしい。

 

「もし差し支えなければ、ですが。」

 

と断った上で、アインズは問う。

 

「こちらの世界に来られた前後の話、ログオフが出来なくなったことに気づいた辺りの記憶ではっきりするものを伺って構いませんか?」

 

 田中は特に警戒を示すこともなく素直に話し始めた。

 

「ユグドラシル最終日のことは不思議とはっきりと憶えています。あの日までしばらくユグドラシルからは遠ざかっていた、と言うか、実質上の引退済みだったんですが、お恥ずかしながら当時の私はいささか手元不如意でして。」

 

 なるほど、その類型(パターン)か、とアインズは得心する。

 田中はユグドラシル最終日に、来訪者としては禁忌中の禁忌となる現金払戻し(キャッシュバック)をやってしまったんだ。

 

「コンソールから口座への入金……まぁ、焼け石に水ではあったんですが、それを確認した私は、翌朝に会社で重要な会議を控えてはいたんですけれども、やはりどうしてもギルドの全盛期が懐かしくなって、拠点内をうろうろしながら眺めて歩いているうちに、これまたお恥ずかしながら寝落ちしたようなんです。」

 

 案ずるな、田中よ。

 ほとんどの来訪者がおまえと同じことをやったはずだ。

 

「……そこから記憶が曖昧になります。最も古いはっきりしている記憶は、自分がこの姿で薄暗い巨木の(うろ)のような場所で休んでいて、ユグドラシルの豚鬼(オーク)に似た怪物(モンスター)が気安く、でありながら、まるで私に対して神様か何かに恭しく接するように話し掛けて来ました。」

 

 嗚呼、前回の逆だ、とアインズは思い当たった。

 水晶の塔の射手の天使(キューピッド)は、自分と同じNPCが、(あるじ)であり創造主でもあったプレイヤーを血祭りにしたことを憶えていた……と自身の書付(メモ)にある。

 

 田中はその逆だ。

 

 転移直後、ユグドラシル金貨蕩尽と、むしろ、長くログインして来なかったにも関わらず、彼ら自身の視点から見れば拠点維持資金の()()にしか思えない行為に及んだ田中に気づいたNPCに襲われ、反射的に反撃したのだろう。

 自分と同じ死霊系攻撃魔法を操るこの蟲であれば、おそらくは<嘆きの妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンシー)>だ。一般に即死耐性は維持費用(コスト)が高くつくから、NPCに対しては必要時に魔法で強化(バフ)するものだ。暴走NPCにその(すべ)があったとは思えないから、ギルド拠点内で放たれたそれはNPCを皆殺しにしてしまったに違いない。

 ここまでの会話から感じられる田中の人柄からすれば、彼とて自身のNPCにはアインズ同様の愛情を少なからず感じていたはずだ。そんなNPCを自ら葬ってしまった田中はその現場に留まることに耐えられず、ギルド拠点から彷徨い出てしまったのだろう。

 

 そして、自ら短期記憶の問題に思い及ばなかった田中は、幸か不幸か、この世界における自身の拠点の所在を含むすべてを、忘却の彼方へ押し流したのだ。

 

「田中殿(どの)ハ……」

 

と、問われてもいないのに珍しくコキュートスが口を挟む。

 

「田中殿(どの)ハ丘陵ノ亜人ドモカラ、私ト混同サレタモノデハナイカ、ト。」

 

 自身の甲殻に忘れまじ、と刻んだ記憶を読み返しつつ無骨な武人がそう言う。

 曰く、自身を正義の神の使いと思い込んだローブル聖王国の人間種の女性、ネイア・バラハが教え弘めた宗教モドキによって自身は神様扱いを受けており、田中の出で立ちから彼らが御蟲様(おむしさま)と呼び習わし、御蟲(ヴァーミン)と祈りの言葉を捧げるそれと勘違いされたことはあり得るのではないか、と。

 

「いま、そちらの武人(コキュートス)さんがおっしゃった『御蟲(ヴァーミン)』という言葉は、まさに今日、ここに来る前に豚鬼(オーク)さんたちから見送りに掛けられた挨拶、そのものですよ!」

 

 田中が興奮気味にそう応じる。

 

 何てことだ!

 アインズは深い目眩を感じつつも納得した。

 

 田中が何故豚鬼に肩入れしてスレイン法国に召喚した幽霊(ゴースト)を送り込みなどしたのか謎だったが、豚鬼(オーク)たちに神様扱いを受けて恭しく接し続けられた田中は、生来の義理堅い性格もあって彼らの難儀を放ってはおけなくなったのだ。

 結果、こうしてナザリックに捕捉されるに至ったわけだが、そもそものきっかけはコキュートス、ひいては自分が六百年前に当地でおこなった気まぐれの人狩りだ、ということになる。

 

「で、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

と田中。

 

「あ、すいません、オレの方から質問ばかりしてしまいました。

 お答えできることであれば何なりと。」

 

と言いつつも、田中が何を訊きたいのかは聞かずともわかる。

 

「どうすればログオフできるのでしょう?

 <現実(リアル)>へ戻る方法は?」

 

 記憶している限り、アインズ自身はそんなことをする必要を考えたことも感じたこともなかったので、よもや<現実>に帰りたいなどと言い出すプレイヤーに出会うとは思ってもみなかったことになるが、デミウルゴスが予想してみせたように、それはそれであって然りの渇望ではある。

 

 そして、それは悲しいかなそもそも原理的に不可能なのだ。

 自分も田中も、元の鈴木悟、田中卓、そのものでは決してないのだから!

 

 これを彼に……告げるべきだろうか?

 

 アインズがどう返したものかと沈黙していると、その意味するところを悟ったものか、田中の方からぽそりと一言。

 

「……ないんですね。」

 

「正直に言いますが、オレの知る限りはないです。」

 

 嗚呼、最悪の流れだな。

 

「鈴木さん。」

 

 そんな(ふう)にオレを呼ばないでくれ!

 

「不躾なお願いを一つさせていただけないでしょうか。」

 

 言わなくてもわかっているさ。

 

「いろいろと自分でも試みてはみたんですが、果たせませんでした。」

 

 まぁ、そうなるわなぁ。

 

「鈴木さんなら……ユグドラシルを遍く震え上がらせた必殺連続技(コンボ)をお持ちのモモンガさんなら、私のこの身体の耐性を突き破ってそれが為せるに違いありません。」

 

 あぁ、もちろん出来るとも。

 

 やんぬるかな、デミウルゴスが事前に予測して見せたとおり、田中は考えられるうちで最悪の要望(リクエスト)を何の躊躇いもなく口にした。

 

「鈴木さん、私を殺していただけませんでしょうか?」

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