24.眠りの
ふと思うところがあって、ここしばらくアインズは
どうせ寝入っているのだろう、邪魔しても悪いからまたの機会にするか、を繰り返すこと三ヶ月。流石に心配になってきたアインズは不興を被ることを覚悟の上で、ツアーの鼻先に<
目に入ったのは予想通り鼻提灯をぷかぷかしながら眠りこけるツアーと、そのすぐ隣でこれを見守るように佇む透き通る
「おや、アインズさん。思っておったよりも遅いお
「……誰だっけ?」
「父から聞いてはいたが、本当にそなたは……綺麗さっぱり忘れるのよなぁ。」
慌ててアインズは
こいつはツアーの娘、
「首に……」
「……首に?何かえ?」
「首に
「この世界に相並ぶ者の
「親父同様に
「そなたに友として、名前だけでも覚えておいてもらえる身になりたいものぞな。」
はははっとアインズは笑って見せる。
「で……親父はどうした?
寝坊助なのは先刻承知だが、いくらなんでも寝入り過ぎだろう。」
「それをそなたに伝えんとて、こうしてお越しを待っておった。」
コニーの語るところはこうだ。
この話を聞いたとき、一瞬アインズは自身が「ツアー、おまえまでもがオレを置いていくのか!」と地団駄踏んでキレ散らかす
考えてみれば、だ。
ツアーは死んだわけではない。千年の後かも知れないがきっといつかまた目を覚ますのだ。
そして、記憶を維持できない自分は、そのときツアーに再会しても憶えてはいまい。そんな自分に、断りもなく深い眠りに落ちた、とツアーを責める権利などあるだろうか。コニーのことすら憶えていなかったのに、だ。
オレもツアーに感化されて……気長になったのかな?
過去千年の間、邂逅した少なくないユグドラシルプレイヤーが自分、かつてのモモンガを見知っていたのにも関わらず、アインズ自身が相手をまったく知らなかったことも同様だ。
モモンガが有名人であったから仕方がない、と言ってしまえばそれまでだが、相手の立場になって考えれば、右も左もわからぬ異世界に顕現して、漸くユグドラシル時代の記憶に繋がるプレイヤーと出会ってみれば、自分が一方的にモモンガを知っているだけでモモンガは自分のことを知らないしそもそも関心もなかった、という構図は、ひょっとするとかなり
「父は、アインズさんがああ見えて寂しがり屋だと気にしておった。このようなことになってそなたも気落ちするやもしれぬが……ん?何をしておいでか!」
コニーはアインズを睥睨しながらその心中を
「そのようなことをせずとも、父は
「いや……コニーもこんな黴臭い城に閉じ籠もっていたら気が滅入るだろ?」
そう言いながらアインズは召喚を続けて、その総数は既に二十体を超えた。
「
とコニーが懐から取り出して見せたのは、キラキラと輝く
「それって……もしかして。」
ぽっ、と元から赤いコニーの頬が更に
「そなたの
上空一万メートルの情事、仔細を聞きたいかえ?」
ぷるぷる、とアインズは顔を横に振りつつ、なおも不死者の召喚を続ける。
何が悲しくて獣の惚気話、しかもその一方が自身の
「であればなおのこと。閉じ籠もったままだと胎教にも悪かろう!」
コニーは、はて、目前の骸骨は、胎教、という言葉の意味をわかって言っているのだろうか、と首を傾げる。
「それにおまえはオレの意図を勘違いしている。
別にオレはツアーを守りたくてこれをやっているわけではない!」
「……では、何のためぞな?」
「考えてみろ。百年だか千年だか知らんが、おまえの親父が目を覚ますわな。」
「ふむふむ。」
「ふわー、よく寝たな、と目を
アインズの野郎、何してくれてやがんだ!と。
……面白いだろ?」
「……そんなことのために魔力を?」
「どうせ回復する、元手は
「ふふふ、まことにそなたは楽しい御仁だ。」
「それだけが取り柄だ。」
アインズはそのまましばしコニーと由無し事を語らった。
聞けば、竜王の卵は孵化に三百年ほどを要するのだとか。幼い日のコニーはセバスに対する恋心を、共に卵を温めたい、と表現したものだがこれはあくまでも言葉の綾であり、実際に雄性の竜王が抱卵を含む子育てに関与することはほとんどなく、むしろツアーの
自分の娘を「気に入らないなら殺して結構」とかケロッと言っちゃうヤツがそうなの?と、アインズは今更ながらツアーのみならず、竜王という種族全体がよくわからなくなりつつある。
そしてこのとき初めて知ったことになるが、ツアーがさも当たり前のように用い続けてきたユグドラシルプレイヤーの来訪を意味する語彙、<百年の揺り返し>は、本来は雌性の竜王が百年に一度卵の天地を裏返して胚の生育を促す習性を指す言葉であるのだそうな。
これを知ってアインズは、しばしばツアーが愚痴気味に語った「他の竜王は<百年の揺り返し>に関心を示さない」の要因は、ツアーのこの言葉の選択の不味さもその一因なんじゃないだろうか、と考え込まざるを得なかった。
「今後もあるだろう<百年の揺り返し>の最悪の
緊急のことに備えて<
「
と問うた。
アインズは、胸を張ってこう答えた。
「こう見えて、友の遺した子どもの扱いには慣れているんだ。」
*
対外的にはアインズ出撃時の近衛を務めることの多い執事セバス・チャンではあるが、本来の職務は執事であるゆえに、ナザリック地下大墳墓
その彼がここしばらく疑問に感じているのが、メイドの一部が彼に対してやけに
そしてよくよく観察してみると、メイドたちに順に与えられている一日の休暇が明けると、決まってそのメイドの態度が変わる法則性に気づいたセバスは、いささか
「フォアイルちゃん、フォアイルちゃん!」
回廊を歩いていたフォアイルに、分岐路の影から顔を半分だけ出して声を掛けたのは
「あら、ルプーにシャルティア。何かしら?」
「今日は休暇っすよね?とびっきりのネタがあるんすけど……いかがっすか?」
「うひひひひ、でありんす!」
「?」
フォアイルは、何のこっちゃ?と思いつつも、順に巡ってくる休暇とは言え特にやることがあるわけでもないので、なんの必要があってか忍び足で進むルプスレギナとシャルティアの
「衝撃的っすよ、覚悟はいいすっか?」
じゃーん!と言いながらルプスレギナが示したのは数葉の写真。
フォアイルは、たちまちには「何これ?」というポカンとした顔をしていたが、ややあって顔が真っ赤になった。
「え、うそ!やだ!そんな……え?うわ!凄ーーーい!」
などと黄色い声を上げながら、ぱらぱらと手元で入れ替えつつ写真を食い入るように見つめている。
「何を楽しそうにご覧になっているのでしょう?」
と尋ねる声に、フォアイルと一緒にウヒウヒ言いながら写真を覗き込んでいたシャルティアが答える。
「現地の雌竜と
セバスも一緒に見るでありんす!
……ん?
セ、セバスーーーッ!」
背後にあったセバスは
たまらずフォアイルは腰を抜かし、数葉の写真がその手を離れて宙を舞う。
「ひ、
抗議するルプスレギナを、仁王立ちのセバスは目線で
「
睨みつけられたまま動けぬルプスレギナとシャルティアに、じりりとセバスが迫る。
「尋ねるまでもないような気もいたしますが、この写真の出処を教えてくださるのはどちらですかな?」
ルプスレギナは早々にその眼力に屈して目を
実力ではセバスに拮抗するシャルティアではあるが、自身に非があることがわからぬほどポンコツではないゆえか、流石の彼女も強気には出られぬ様子。
「そ、そ、そんな眼で睨みつけられても、デミウルゴスからもらったなどとあちきが明かすと思ったら大きな間違いでありんす!」
はぁー、とセバスが深い溜息を漏らす。
「……何と申しますか。
「ん?
……あ゛ぁーーーーーー!」
この後、玉座の間でアインズ、アルベドと語らうデミウルゴスを見つけたセバスは、たちまちに自身の真の姿、
続いてアインズが、困惑しつつも的確に<
デミウルゴスは無関係を装って退出しようとしたが、アインズに命じられたアルベドによって即座に取り押さえられ、セバスから事情を聞き出したアインズに、玉座の前に二人並んでの正座を命じられる。
かくして。
ちなみに。
このとき小一時間デミウルゴスとセバスを説教……というかほとんど罵倒し続けたアインズは、不意に神々しい緑の光を発した後ぷいと姿を晦ましたのだが、自室に戻って独り感情抑制されてもなお晴れきらぬ憤りを昇華すべく、
こんな気分のときは鯖折りに限る!
ところが、貴重な蘇生アイテムを消費しておこなわれたその行為に実りはなかった。
「こ……ここに至って蘇生拒否だとーーー!
この糞がーーーッ!」
怒り狂ったアインズは力を失った短杖を腹立ち紛れに踏み潰し、書付を<
このような次第で、クレマンティーヌの名はアインズの記憶から永久に失われたのである。
*
「どうかね、シズ?」
ナザリック地下大墳墓第十階層
閲覧室の一つがナザリックの
その中央にあって、機械仕掛けの
「なんとかなりそう。でも遠からず限界は来る。」
物理的な配置の工夫もさることながら、近年では<索引>を介しての検索も所要時間が馬鹿にならなくなってきたため、ティトス配下の骸骨司書たちから提案された<索引>の
大雑把な
これは確かに検索効率の向上に一定の効果を上げたが、かつてに比べれば増加速度はやや緩やかにはなったものの、デミウルゴスの日記の総量は増えることはあっても減ることはないので、シズ自身はこれを付け焼き刃の対応と考えており、ティトゥスの問いに答えた通りどこかの時点で限界がやって来る、と考えていた。
「将来的には、ある年次以前のものは破棄……まではしないものの、特別な事情がある場合を除き検索対象としない、といった割り切りが必要になるやも知れんな。つまり、我々の短期記憶と同じような措置を、ナザリックの記憶に対してもおこなう、ということになるが……」
「それは危険。本来的にすべての
「それはその通りじゃが、シズ一人では
この問題解決のため、エドモン・ウェルズのギルド遺構に島流しにされた司書Jが、同地に放置された六体の少年忍者支援
*
「今日ハ此処マデトシヨウ。」
「
「コ、コキュートスさん、稽古、ありがとうございます。」
ナザリック地下大墳墓
五代目ベラはカラリとした性格の女の子で
「オマエタチ、ナカナカ腕ヲ上ゲタナ。」
満足そうにコキュートスが言う。無論、レベル九十に達したばかりの二人がコキュートス相手に一本取る、ということはまだないが、双子ならではの連携攻撃を自在に繰り出す二人に対し、既にコキュートスは四本のすべての腕に得物を構えて応戦することを余儀なくされている。
「一族の血が為せる技ですよォ!」
「ね、
コ、コキュートスさんのご指導が素晴らしいからだと、お、思います!」
フフフ、とコキュートスは愉快げに
彼自身の記憶としては、アウラ、マーレと言えば常に脳裏に浮かぶ姿はナザリックがこちらに転移してきた直後の少年少女の二人で、しかも今のベラとベロはややそこから長じた上に容姿が入れ替わっているが、同時に昔からまったく何も変わらないのだ、という安心感もある。
ただ一点の例外を除いては。
「コノ後、何カ予定ハアルノカ?」
「特にはないですゥ。」
「コ、コキュートスさんの見送りついでに、お化けのお
お化けのお
「ウム、デハソノ前ニ少シ付キ合エ。」
コキュートスは、ベラ、ベロを
「「「乾杯!」」」
コキュートスはジョッキ一杯の生
「オマエタチニ大切ナ話ヲシテオキタイ。」
いつになく真剣なコキュートスの声色に、二人はグラスを一旦置いて計四つのきらきらした瞳を
「私ハ、ソシテ他ノナザリックノ皆ハ、絶対忠誠ノ縛リヲ受ケテイル。」
こくこく、とベラは頷いた上で言う。
「わかっています。
「ウム。」
満足そうに頷いたコキュートスは、今一度ジョッキに残ったビールをぐぃっと煽った上で続けた。
「今カラ話スコトハ、私ノ独断デ、オマエタチノ両親ヤ祖父母ガ、丁度今ノオマエタチクライノ時分ニモ言ッテ聞カセタコトニナル。トテモ大切ナコトデアルカラ、心シテ聞イテクレ。」
常ならぬ
「アインズ様ハ、私ガ狩リノ供ヲスルニ際シ、常ニ、万ガ一、アインズ様ガ無分別ナ殺戮ヲ際限ナク
「そ、そ、そんなこと起こり得るんでしょうか、あのお優しいアインズ様に限って?」
不思議そうにベロが尋ねる。
「アインズ様御自身ガ、無イトハ言エヌ、ト仰セダ。
私ハソノオ求メニ忠実ニ従ッテキタシ、少ナカラズソウイッタコトデオ役ニ立ッタコトモアッタノダロウ、ト考エテイル。」
二人は変わらず素直な瞳を師匠に注いでいる。
「オマエタチガ狩リノ供ヲ命ジラレルコトハナカロウガ、アインズ様ガ御自身ノ暴走ヲ常日頃カラ忌避サレテイルコトヲ
「「はいィ!」」
二人は揃って了解を示した。
「大切ナコト、トイウノハ他デモナイ。私ヲ含ム絶対忠誠ノ縛リヲ受ケル者ハ、憚リ多キコトナガラ、暴走ナサレタアインズ様ガ暴走ノママニオ命ジニナラレルコトニ逆ラエヌ身ダ。タダ、オマエタチ一族ダケガ、ソノヨウナ場合デアッテモ、アインズ様ノ御命令ニ反スル行動ヲ採リ得ル自由度ヲ有スル。」
ベラ、ベロの表情が緊張に強張った。
師匠の言葉の重みに、否応なしに気づいたからだ。
「オマエタチ自身、
「承りますゥ!」
「ぜ、絶対に忘れません!」
「アインズ様ノ
ガ、コレダケハ思イ巡ラスコトガ叶ウ。」
「「それは?」」
「此処デオ
二人は目をまん丸にしてこの言葉を聞いた。
「
「それって……」
と躊躇いがちにベラ。
「……トンデモなく責任重大、ですよねェ?」
「で、でも
「ベロ、もちろんわかってるわよォ!
でもこれは、だからって、はい、わかりました、任せといてくださいィ、なんて安易に言ってはいけないこと。そうは思わない?」
「う、うん、ボクもそう思う。わかっているし絶対に忘れないけど、でも、わかった、って言い切っちゃいけない。そういう大切なことだよね!」
「フハハハ!」
自身の甲殻に刻んだ記憶に視線を向けていたコキュートスが、不意に大きな声で笑った。
「オマエタチノ両親モ、祖父母モ、私ガコノ話ヲシタトキ、マッタク同ジコトヲ言イ交ワシタモノダ!」
二人の顔がパァと明るくなった。
「ピッキー、
「え、私たちまだ二百にもなってないのに!」
「ユ、ユリ先生に叱られちゃいますよぉ!」
「内緒ニシテオケバヨイ。
祖父母、両親ト同ジ思イニ至レタオマエタチハ、私ノ目ニハ既ニ成人ダ。」
ふふふ、と二人が笑顔で応える。
「サァ、乾杯シヨウ。至高ノ
「とってもお強いアインズ様に乾杯ィ!」
「と、とってもお優しいアインズ様に乾杯!」
三人はグラスを交わして一息に
「「に、
*
「父上、死都エ・ランテル事件をご記憶ですかな?」
とパンドラズ・アクター。
「……何それ?」
「聞きたく……は、御座いませんか?
千年前の大陸に暗躍した秘密結社ズーラーノーンの四百年の陰謀史。」
「……いや、別に要らんけど。
あー、わかった、そういじけるな!
はい、聞きたいです、聞かせてくださいパンドラさん!」
「あ、父上も聞きたいそうですので。
お願いします。」
「……今のなに?」
「こちらの話ですので、どうぞお気になさらず。
それでは聞いていただきましょう、パンドラズ・アクターが一席講じますところの、聞くも涙、語るも涙のズーラーノーン陰謀史、の始まり始まりぃーーーーー!お代は聴いてのお帰りでぇ!」
バンバンッ!
(……
バリバリバリッ……チーン!
チャリ。
*
「飽きもせず、また増やしてこられたのですか?」
とアルベド。
ナザリック地下大墳墓
豪華な
「どうせ
アルベドが言っているのは、
一度だけアルベドはアインズに付いて様子を見に行ってみたが、最早ツアーの巨躯を視野に捉えることは叶わず、互いに肩を組んでぐるりとツアーを取り囲んだ
「獣とは言え、お寂しゅう御座いましょう。」
「ん?
そんなことはないぞ、オレにはアルベドがいるしな。」
さらりとアインズは答え、アルベドは、あらまぁお上手、と頬を赤く染める。
「あいつのことを完全に忘れる前にこれを繰り返しておけば、少なくとも、目を覚まして再会したとき名前まで忘れてしまっていて礼を失する、などということはないだろう?」
はて、至高の
そんなわけないわよね。
「とっとと目を覚まして欲しい、というのは偽らざるところだ。
コニーは思ったよりはやるが、まだまだツアーの代わりにはならん。」
アインズは、ツアーの娘である
「それに……獣とは言え雌だ。
あれと行動を共にするのは、どうにもアルベドの手前気が引けて、な。」
うふふ、とアルベドが笑う。
「
と言った
ぐはぁ!怖ぇーよ!
これだからツアーに早く目を覚まして欲しいんだってば!
「正直に言えば、だ。」
とアインズ。
「ツアーが永い眠りとやらに入ったとコニーに知らされたとき、ツアー、おまえもオレを置いていくのか、かつての仲間たち同様に!と憤りを覚えたのは偽らざるところだ、と思う。」
その言葉を不安に感じたのか、アルベドが身をよじってアインズに向かい合った。
「だが、不思議と腹が立つことはない。
考えてみれば、だ。せいぜい一年程度の記憶しか保てないオレは……まぁ、オレたち皆がそうなわけだが、その記憶の一番古い時点にユグドラシル時代の記憶一式を持って突然生まれた者だ、と考えても辻褄は合う。」
「デミウルゴスの日記が御座いましょう?」
「それだって怪しいものだ。日記自体がオレたち同様にすべて書き込まれた状態で突然現れた、と考えることも出来るし、そもそもデミウルゴスが書き残したことがありのまま真実だ、と信じる理由もない。」
「
「あぁ、バートランド・ラッセル……だったか?
タブラさんの蘊蓄で、アダムとイヴに
先の
「その真に含意するところはオレ如きにはわからん。
だが、至高の四十一人との黄金の日々が、かつて<
同様に、縦横無尽に飛び回り傀儡を操るツアーがかつて存在していようが、いなかろうが、あいつとの共闘の歴史が本当だろうが、オレの妄想であろうが……オレが
結局のところ、今この瞬間がすべてだ。
今このときに
過去がどうだった、などということでいちいち心を動かすのは無意味だ。
これも死獣天朱雀さんあたりからの受け売りかも知れんが、オレ自身は、自分が実感していることだと思っている。」
アルベドは、彼女が力を抜いてうつ伏せにもたれかかり易いように微妙に姿勢を調整しつつ、超然とそう語って見せた愛する至高の主にうっとりとした視線を向けた。
「それでよろしいかと存じます……よろしいのではないでしょうか!」
「そしてアルベド。
今この瞬間のオレにとっては、おまえと愛を交わすことだけがすべてだ。」
そう言いつつも、アインズが常にナザリック地下大墳墓の永続、
アルベドにとってもまた、この瞬間、アインズを愛していることだけがすべてなのだから。
「うれしいわ、アインズ!」
「うおっ、いきなりおま……あっ……凄いよ、アルベドォ!」
*
幾百年か、あるいは幾千年か経たある日。
いつものように
どうしたことか、それらの不死者が一体たりともその場に居なかった。その代わり、壁という壁が超高温で何かが焼きつけられた煤で真っ黒になっている。
遂に目覚めたツアーは、謁見の間を埋め尽くした不死者に気づくや一息に薙ぎ払ったのだ。
飽きもせずに不死者を積み増しすべく再訪する腐れ縁が、確実にそれに気づくと知った上で。
「ツアー、狸寝入りは終わりだ。
パンッ、と鼻提灯が割れ、アインズに近い方の片目が静かに開く。
「キミに物忘れをどうこう言われる筋合いはないと思うがね。」
「ふふ、当てにしているぞ。
寝起きで悪いが
ふわぁー、とツアーが大きな口を開けて欠伸を一つ。
「まったく、今なお世界は騒々しいのだね。」
「今なお楽しみに満ちている、と言って欲しいものだな、ツアー。」
「……まったくキミときたら。
よろしい、今日は特別にボクへの騎乗を許可しよう。
「そいつはいい、寝坊助を待ちくたびれた甲斐がある!」
颯爽とアインズがその背に飛び乗ると、
アインズは確かに、自身の跨る下に頼もしい竜王の体躯を感じ、非常識な空中機動に応じた反動を覚え、途轍もない飛翔速度に見合う向かい風を受けた。
これが夢、幻であるだろうか?
いや、それはどちらでもよいことだ。
今このとき、こうして此処に在ることがすべて!
「あらためて……おはよう、アインズ!」
「おはよう、ツアー!」
高らかな笑い声を発しながら、骸骨を背に乗せた竜はこの世の
彼らの冒険は、それを望む誰かがある限り果てなく続くだろう。
完