今話は、そもそも大魔王アインズ・ウール・ゴウンがその一日をどのように過ごしているのか、という
日常的でない日常
ピピッ、ピピッ、ピピッ……。
「もうそんな時間か。」
アインズの朝は早い。
骨の指が伸びて目覚まし時計の
時刻は
ユグドラシルのゲーム内時間は<
この仕様はこちらの世界に転移して以降も継続されているようで、ナザリック地下大墳墓内の時刻同期機能を有する時計は
つまり、只今の現地時刻は午前四時、ということになる。
アインズの前身、人間鈴木悟は、勤勉な男では決してなかったが
彼自身は
これは、少なからぬ
「さて……と。
<
アインズの一日は、これまたユグドラシル時代からの習慣となる、効果時間一日の各種防御系
彼自身、こんなことしなくてもいいんじゃないか、と思わないでもなかったが、万が一にもそれを怠った日に限って「あー、やっとけばよかった!」と悔いる事態に陥るのに耐えられない性格のアインズは、馬々鹿々しくもあろうはずもない難敵への備えを欠かすことができないのだ。
「<
……ニグレド、おはよう。特に何も変わりはないか?」
ナザリックの防衛の
ニグレドはアインズ同様睡眠や休息を必要としない存在で、何か異常を察知すれば速やかにアインズにそれを知らせてくれるが、何らかの事情でニグレドが即応不可能な状態に陥っていない保証はない。だから、日に一度ニグレドが変わらず監視を継続してくれているのだ、と確認することで安心する、という、これまた心配性のアインズらしい日課になる。
(あたしィィィの赤ちゃあァァァん!)
……あ、忘れてた。
今、ニグレド壊れてるんだった!
「ゴホンッ!
あー、今日もベロ、ベラを可愛がってやってくれ!」
(はーーーい、アインズ様ぁ!)
……タブラさんも、罪な設定を仕込んでくれたものだ。
仕方がないので本件対策に召喚しナザリック外苑に配している多数の
続いてアインズは、小さな
書付の先頭は、
<ニグレド故障中>
だった。
こっちを読むのが本来先だよな、そうだよな!
昨日の朝も多分同じことをやってるよな、オレ!と自分自身に突っ込みつつ、ザッとアインズは書付を流し読んだ。そこには目下のナザリックの運営体制、最も留意すべき外界の存在としての
「おはようございます、アインズ様。
本日のアインズ様当番、リュミエールで御座います!」
正直なところアインズ自身は、そんなことしてくれなくてもいいのに、と思わないでもなかったのだが、
緊急事態が生じている場合を除き、アインズが自分で勝手にそれをおこなおうものならその日のアインズ様当番がヨヨと泣き始めて収拾がつかなくなるので、これまた馬々鹿々しくもアインズはその来室を待たねばならないのだが、下僕たちの欲するところに応えるのもこれまたナザリック地下大墳墓の
簡素な部屋着から金糸銀糸が彩られた
「おはようございます、アインズ様!」
すれ違うメイドたちがリュミエールに羨望の眼差しを注ぎつつ朝の挨拶を捧げ、アインズもまたこれに軽く片手を挙げて応じていく。
「アルベド、アインズ様の御成りで御座います。」
そう言いながらリュミエールが執務室の扉を開くと、中には守護者統括、アインズにとっては事実上の
「おはようございます、アインズ様。」
「あぁ、おはようアルベド。」
リュミエールを外に残してアインズは執務室に入る。以降リュミエールは、執務室の扉の前でアインズの謁見を求める者の取り次ぎをおこなうことになる。
アルベドは、アインズ同様に睡眠を必要とはしない存在だが、アインズとは違って眠ることはできる。これには彼女自身に対し一定の
決まってアインズとの情事の後に数時間の眠りを貪るのみで、他は、玉座の間か、あるいは此処、執務室にあってナザリック地下大墳墓の管理運営に二十四時間体制で従事している。アインズとのお楽しみの間、または月に一度の休暇を兼ねたアウラ、シャルティアとの女子会に際しては、デミウルゴス、またはパンドラズ・アクターがその任を代わって執り行う。
「昨夜来、特に異変は御座いませんでした。
目下、アウラ、マーレ、デミウルゴス、コキュートスが外征中で御座います。」
跪礼のままそう報告するアルベドの横を通り過ぎてアインズは執務机に着座し、片手を挙げてアルベドに自身の傍らに来るよう促した。アルベドは素直にこれに従う。
「コキュートス……が外に出てるんだっけか?」
何だったっけ?とアインズは頭を捻るが、たちまちに思い出せない。
「御身の新たな狩りの獲物を探して、と聞いております。ナーベラル・ガンマを伴っておりますのでご心配には及ばぬものかと。」
「……じゃぁ、デミウルゴスには誰が?」
階層守護者が外征するに際しては、不測の事態に備えて<
「デミウルゴスは、非常勤政治顧問としてスレイン報国を
「あぁ、そういうことか。」
デミウルゴスがこの任に当たるに際しては、訪問先がかつての六大神のギルド拠点遺構内部に限られることから、よもや不測はあり得まい、といつからか助手の同伴が特例免除されている。
そもそも訪問の目的が、けしからんことに非常勤政治顧問だけではないので、
「……で、今日は何だったかな?」
ナザリックにおいて、何かをする、しないの、すべての決定権はアインズにある。
一方で、具体的に
君臨すれども統治せず……絶対権者が
そもそもアインズには、ナザリックを存続させる、下僕たちに面白
「エドモン・ウェルズのギルド拠点遺構を守護しております
とアルベド。
……何だったっけ、それ?
太古の昔、フランス人プレイヤー、エドモン・ウェルズが操った
そういう
「それはこういう次第で御座います。」
アルベドは、事前に用意していた書面から<憶持のオーバーロード>のあらすじを掻い摘んで説き聞かせる。聞かされているアインズは、いつものように口が半開きだ。
毎度のことながら……エラいことをしてきてるな、オレ。
「セバスが参りました。」
そんなことをしているうちに、室外からリュミエールの声がする。アルベドが「中へ」と告げると、こちらもいつものように乱れ一つない執事服に身を包んだ竜人セバス・チャンが、つかつかと背筋をぴんと伸ばした姿勢で入って来た。
「少し早いか、とは思いましたが、本日はアインズ様のお出かけの
三賢者が立案する行動計画は前以て
アインズ自身は、地下深くに埋もれる密閉空間を訪問するのに前衛なんぞ要らんだろ、と思わないでもなかったが、アインズの外出に際して近衛がつくことを決めたのも
これもまた、延々と繰り返されてきた日常だ。
「ゴホンッ!
では、アルベド。行ってくる。
留守を頼むぞ。」
「はっ、ご武運をお祈り申し上げます。」
……誰と戦ってこい、と言ってるんだ、おまえは?
とアインズは思うが、この台詞はユグドラシルの時分から、ギルド拠点を出撃していくプレイヤーに対してNPCから発せられることが定められた定型句で、意図を問うことに意味はない。
「<
アインズは、自身が召喚した
*
「これはこれはアインズ様。慰問に当地をお尋ねくださるとは何とも有り難いことで御座います!」
エドモン・ウェルズの遺産、<翻訳の神秘>をもたらすところの<
……え?
なんで、おまえ、こんなとこに居るの?
と、これまた身勝手にもアインズは思うのだが、もちろん、自身が仕込んだ
……ま、いっか!
「うむ、出迎えご苦労。
おまえたちの働きあって、世界は今なお<翻訳の神秘>に満たされている。改めて礼を言わせてもらおう。」
「な、な、なんと勿体ないお言葉!」
司書Jは深々と平伏し、周囲の
アインズ、セバスはもちろん、この場に居る誰もが物を見るのに灯りを必要としない者ばかりだ。エドモン・ウェルズのギルド遺構の玉座の間は、<
ふと、アインズは、かつてギルドの円卓の間であった部屋の壁に、何か模造紙のようなものが貼られていることに気づいた。その視線を察知したものか、すかさず司書Jが説明を加える。
「如何せん変化のない毎日で御座いますので、皆の士気を高めるべくいろいろと工夫をして御座います。」
見れば、こんなことが書いてある。
<今月の標語:
おかしいな、と思えば報連相!その気づきがよもやを防ぐ
敵無侵入継続中 七〇〇五日目
今日も一日ご安全に!>
……なんじゃこりゃ?
日数の部分は差し替えられるようになっているが、その期間は出立前にアルベドに聞いた、当地に
「あ、アインズ様!
日数のところは、
司書Jはアインズの懸念を即座に見抜いて補足してみせたが、むしろアインズを当惑させていたのはあろうはずもない侵入者の有無ではなく、この張り紙の調子が否応なく思い起こさせた、同志ヘロヘロと語らったところの
こういうの……
これも<アインズ・ウール・ゴウンの
「ゴホンッ!
いや、Jよ。素晴らしい工夫だ、今後もよろしく頼むぞ!」
まぁ、こう言っときゃ不満もないだろう。
「ははっ、お褒めの言葉を頂戴し恐悦至極で御座いまするー!」
ん?
「……オレだ。あぁ、エントマか。」
突然<
「ふむふむ……ん?
なに!在地の者から話しかけられただと!
……ほぅ、相手は以前からこちらを知っている様子?
相手は名乗ったのか?……ピニスン?……なんだそりゃ?」
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータからの報せは、アウラ、マーレとトブの大森林を巡回中に、ピニスン、と名乗る
「わかった、折り返すので少しそのまま待て!
Jよ、おまえたちの慰問に来たのにすまないが緊急の連絡がはいってしまった。」
「いえいえ、
引き続き平伏したままの司書Jを余所に、アインズはこの手の緊急事態の対処を開始する。
「<
あ、シズ?
……そう、オレオレ。そう、出先からー。」
ナザリックの記憶の管理を丸投げしている後ろ暗さを誤魔化さんとするためか、
「ピニスン、って何か調べてみてくれる?ごめんねー。
……あ、もうわかった。流石だよねー、シズ!
ふむふむ……あぁ、そういうことか!
いや、助かった。ほんとありがと!またねー!
ふぅ……。
<
アインズは矢継ぎ早に、エントマに約した折り返しの<伝言>を飛ばす。
「あ、エントマか。
ピニスンについてはわかった、そいつは敵じゃない。トブの森、そのものだ。
このまま待つから用件を聞き出してくれ。
……ふむふむ。
一度ほど気温を下げて欲しい?」
オレは……
一瞬苛立ちを覚えたアインズではあるが、そもそもトブの森に対して「必要があればいつでもオレが一発かましてやるから呼んでくれ!」と約束したのが
なに安請け合いしてんだよ百年前のオレ!と思わないでもないが、今更そんなことを言っても仕方がないし、ナザリック地下大墳墓の維持費を支えるトブの大森林の実りに世話になっていることは疑いようもない事実であり、なればこそ、森との協約成立によって最大の懸案が解決したことに狂喜した当時の自分が大盤振る舞いを約したことは想像に難くなく、実際それが真相なので、彼らの求めに応じない理由はまったくない。
「……すぐに行くから、そのまま待たせてくれ。
うん、じゃぁな!
重ね重ねすまないが、急ぎの用ができたのでちょっと行ってくる。」
アインズが申し訳無さそうにそういうと、いよいよ司書Jも恐懼した。
「恐れ多いことで御座います。どうぞ、御心のままに!」
*
「超位魔法!
<
求められるままに、アインズはトブの大森林全域の気温を一度下げた。
「うわー、ナザリックのみなさんはやっぱり凄いなー!」
聞けば、ここ三十年!ほどやや気温の高い夏が続いていて、アインズを含め外界の気温になぞ影響を受けないナザリックの面々はその事実にすら気づいていなかったのだが、森の木々はずっと「
今年の夏が特に暑さが厳しく、決して致命的なほどのものではないが、協約を結んだナザリックの連中もいつでも頼ってくれていい、と言ってくれているんだから、今年の夏くらいは少し贅沢をしてもいいんじゃないか、という話になって、ピニスンはアウラたち一行に声を掛けたらしい。
別にもっと早く言ってくれてもいいのに……三十年とは。
しかも求めるのは、たった一度の冷却。
当然といえば当然だが……底抜けに気長な連中だよなぁ。
「ありがとうございました、今年の実りは最高のものをお約束しますよ!」
上機嫌にピニスンは言うが、アインズ的にはこれ以上ユグドラシル金貨の実入りが増えても使い道ないんだけどなー、今でさえ増える一方なのに、などと考えつつも、流石にこれは口に出さなかった。
「いや、こちらもおまえたちには世話になっているからな。
今後も、必要があればいつでも遠慮なく声をかけてくれ。」
「ボクたちは気長なので、そうそうはないと思いますけどね!」
知ってるよ!
森の木々の中に溶け込むように消えていったピニスンを見送っていると、入れ替わりにアウラ、マーレが気まずそうに声をかけてきた。
「申し訳ありません、アインズ様ァ。急にお呼び立てしてしまって……。
こればっかりは、私たちではどうしようもなくってー!」
「だ、大地を割いて、とかだったらボ、ボクでも何とか、で、できたんですが。」
そりゃそうだろうよ。
っつーか、大地割いて何するつもりだよ、マーレ?
「ゴホンッ!
おまえたちが気にする必要はない。むしろ、我らの盟友たるトブの大森林の求める声を、迷うことなく速やかにオレに知らせてくれたのは大手柄だ。エントマにも合わせて礼を言おう。ありがとう!」
「「「ア、アインズ様ァ!」」」
感涙に咽びつつ抱き合う三人の様子に、思わずアインズのない頬が緩むが、
「ん?」
またもの<
「すまんな、ちょっと呼ばれた。」
と骨の片手の平を差し出してアウラたちを制し、呼び掛けに応じる。
「……オレだ。
あぁ、ナーベラルか。いや、問題ない。今は出先だが……いや、死んでお詫びとかそういうのはいいから。」
続いて<伝言>を届けてきたのは、今朝アルベドから、コキュートスに随従していったと聞かされたナーベラル・ガンマだった。
「ふむふむ……見たこともないような大物がいる、と。
ほぅ……アベリオン丘陵?……なんだっけ、それ?……あ、いや、おまえの<伝言>の発信座標はわかるからいいよ、別に……いや、だから死んでお詫び、とかはいいから!」
要約すればナーベラルの報せは、コキュートスと共に訪れたアベリオン丘陵でアインズの狩りの獲物に相応しい何かを見つけたが、相手が野生の動物であり今を逃すと機を逸する恐れがあるので、差し支えなければ来訪を乞う、というものだった。
ま、ここしばらく何にも狩ってなくて飢え気味だったのも確かだし……ここは素直にコキュートスの好意に甘えさせてもらうか!
「アウラ、マーレ、エントマ!
すまんが急用ができたのでオレは行く。今日はよくやった!」
「「「お褒めいただき光栄です、アインズ様ァ!」」」
「<
感極まって叫ぶ三人を尻目に、アインズは次なる目的地へ飛ぶ。
*
「……これが大物?
目付きの悪さだけは天下一品だけど。」
ナーベラルが<伝言>を発した座標に飛んでみれば、そこはぎりぎり草原、と言えなくもない半砂漠で、
「アインズ様ニモ見エマスカ、コレガ?」
とコキュートス。
「……いや、これを屠れ、って呼んでくれたんじゃないの?」
大物、と聞いて
どうにも事情がよくわからないが、アインズは目前に見える目付きの悪い女から、屠るべき生者の気配も、同類である
それはただ、見えている、だけだ。
「コレハ、ネイア・バラハ、ト申ス人間デシテ。」
人間?
こんな
アインズの脳裏に浮かんだ疑問は、微妙に
「ゴ記憶デハナイト思イマスガ、百五十年ホド昔ノ当地デノ狩リニ際シ、アインズ様ガゴ助命ニナッタ者デス。私モ仔細ハ
自身の甲殻に刻んだ記憶をチラ見しつつそう語るコキュートスに対し、まったく予期していなかったデミウルゴスの名が現れたことで、アインズはまたぞろ碌でもないことに違いないからなるべく仔細には触れたくない、という気分に陥っている。
「ナーベラル、ニハ、コノ者ガ見エヌソウデス。」
「はぁ?
……そうなのか、ナーベラル!」
「申し訳ありません。私にはコキュートスとアインズ様のおっしゃることがまったくわかりません。この上は死んでお詫びを!」
即座に膝をついたナーベラルが抜刀した刃を自身の首筋に当てる。
「待て待て!そういうのはいいから!」
一方、コキュートスに、ネイア・バラハと紹介された女は、この様子が見えているのかいないのか、声どころか何の反応も返すことなくその場に佇み続けていた。
「コノ者ト、何ラカノ
あ、おまえもコレ、酷い目付きだ、って思ってんのね。
よもやとは思ったけど、デミウルゴスにとってのシロクロみたいな感じかと思って、内心ドキドキしたわ。
「まぁいいよ、毒にも薬にもならないんだったら、興味ないし。
で、肝心の大物ってのは?」
「アァ、ソレハコチラニナリマス。
<
コキュートスが一本の腕を差し出して
ドガッ!
大量の土砂が巻き上がり、太さが差し渡し2メートルもありそうな
あぁ……こりゃ大物だわ。
定石だと<
「コキュートス。」
「ハッ。」
「あれ、一匹か?」
「ハイ。ソレハ確認済ミデス。当地ニハ普遍的ニ存在スル生物カ、トハ思ワレマスガ、アレハソノ中デモ突出シタ個体デハナイカ、ト。」
「ミミズ……だよな、あれ。」
「左様カト。」
「いっぱいあるよな、心臓。」
「ゴ推察ノ通リカト。」
「んじゃ、今一度眷属を召喚して釣り出してくれ。食われる前に上空へ飛ばして可能な限り引き出せ。それでいけるはずだ。」
「仰セノママニ!」
コキュートスは、再び巨大なトンボを召喚してさきほど超巨大蚯蚓が現れた辺りへと飛ばした。俄に地中から尋常ならざる気配が伝わってくる。
「<
八の字に両の手を開いたアインズが
刹那、獲物の頭が地中から突き出し、コキュートスは言われたままにトンボを中空へ向かわせ超巨大蚯蚓をさらに高く引きずり出した。
「<
「コキュートス、そいつをこちらへおびき寄せろ!」
何処からか響き渡る鐘の音を背景に、トンボがアインズに向かって飛ぶのに合わせ、超巨大蚯蚓はその身に見合った巨大な口を開いて、まさにアインズを丸呑みにせんと迫る。
「<
そのときコキュートスとナーベラルは、蚯蚓に向かって何かを掴み取らんと突き出されたアインズの骨の腕が、無数に分裂する
その姿は、さながら千手観音!
ゴーン……カチリッ!
「終わりだ!」
まさにアインズの目前僅か数十センチへ蚯蚓の口先が迫った瞬間、連鎖する炸裂音が鳴り響き蚯蚓の各体節が次々と弾き飛んでいった。辺りは撒き散らされた蚯蚓の体液で泥沼の如き様相を呈すが、アインズの
ぷっはーーー!
こりゃ、
久々の、大物を死霊系魔法で一撃の
これだから狩りはやめられない!
あ……これ、<
ま、いっか。減るもんでもなし!
「……コキュートス、ナーベラル。よくオレを呼んでくれた、感謝しよう。」
アインズが厳かにそう告げると、素早く二人の下僕は共に跪礼を執って、
「恐レ入リマス!」
「有難き幸せ!」
と恐懼した。
ただ、ネイア・バラハ、とされる幻だけが、変わらず立ち尽くしたままジト目でアインズを見つめている。
うーん、薄気味悪いやつ。
ま、いっか!
ん?
嘘だろ!また<
アインズが突然あらぬ方角に視線を向けたのに気づいたコキュートスが「如何ナサイマシタカ?」と気遣う様子を見せたが、アインズはいつものように骨の片手の平を差し出してこれを制し、
「しばし待て、<伝言>だ。」
と遮る。
「オレだ。
……ん?
誰だ、おまえ?」
アインズは、あろうはずもない男性の声が聴こえてきて当惑する。ナザリック勢でアインズに<伝言>してくる者は
「はっ?
でびっど……ほー……そん?
うーむ……すまん、掛け直すからちょっと待っててくれ。
いや、すぐだから。ごめん、ほんとちょっと待ってて!
<
あ、シズ?ごめーん
アインズは、<伝言>してきた謎の男の正体を探るべく、再び
「……あ、わかった?助かるー!
ふむふむ……はぁ?……あ、そういうこと!
ってことは、何か死にそうな声してたけど、ほんとに死にそうなんだ。
うんうん……ともかく死んじゃう前に掛け直すわ。
ありがとねー、シズ!
<
あ、ピー?まだ生きてる?」
シズから、デイヴィッド・ホーソンが五十年と少し前にアインズと戦った
「あ、生きてた!
あー、でももう長くないんだー。そっかー、まぁ、しかたないよな人間だもんな。
え?生きてるうちにギルド武器の引き継ぎがしたい?
いやいいよ、別に。
……あー、いやいや、昔のオレは借金のカタとかそういうこと言ったのかも知れないけどさー、もういいじゃん、そういうの。時効だよ、時効。こっちも返せ、とか督促してたわけじゃないしさ。
いや、泣くなよー。別にいいよ、気にしなくて。
……うんうん、あぁ、オレもおまえが楽しんでくれたのなら嬉しいよ!
あぁ、そうだな、そうだよな。また何年後かにギルド拠点の遺品は貰いにいくから。
……うん、わかった。達者でな、いや、もう死ぬのか。あぁ、冥福を祈るよ。じゃーな!
待たせたな。」
振り返ると、コキュートスが大顎を大きく
「あぁ……気にしなくていい!大した話じゃないから。
……いや、どう考えても忘れるよな、これ。
<
何だか今日は慌ただしいなぁ、と思いつつさらにアインズは<伝言>を飛ばす。
「……あ、パンドラ?
そう、オレオレ。
ピーがもう寿命で死ぬんだって。
……あ、そうか、そりゃおまえもいきなりこれじゃ意味わからんよな。
うーむ……。
とにかく、だ!
五十年ほど前にやり合ったプレイヤーがもう死ぬんだ、って連絡くれたんだよ。
え?いや、今さっきだよ。
で、こっちが遺品を貰うことになってるんだけど、どう考えても忘れるからさー。
うん、そうそう。
死にかけのとこに押しかけても悪いからさ。そうだな……あと二十年もしたら確実に死んでるだろうから、それから回収班を送り込めるように、適当に算段しといてくれる?うん、そうそう。折角連絡くれたんだし、忘れたら悪い、と言うかもったいないでしょ?
あ、何とかできる?すまん、面倒臭いこと頼んで。
じゃ、後始末は任せたからー!
待たせたな。」
振り返ると、引き続きコキュートスは大顎を大きく
……いろいろとおかしいのは自分でもわかっている。
笑ってくれるな!
「……コキュートスもナーベラルもここにはもう
<
*
「……という慌ただしい一日だったんだが。」
ナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間。
コキュートス、ナーベラルを連れて帰投したアインズは、アルベドといつの間にか戻っていたデミウルゴスの出迎えを受けた。
「念のために訊くが……おまえの仕込み、じゃないよな?」
「御冗談を、アインズ様。私はスレイン報国へ非常勤政治顧問の任に出ておりましたので。」
とデミウルゴス。
言下に否定してみせるわりに……その三日月型に楽しげな口はなんだ!
それに、シロクロのところに行ってた、というのもあからさまな
「お疑いであればシロクロに御下問あれば……」
おまえに身も心も捧げてるヤツの証言に何の意味があるんだよ!
「さしものデミウルゴスも、トブの大森林の
うふふ、と微笑みながらアルベドがそう執り成しを図るが、本当にそれはデミウルゴスにできないことなのだろうか、とアインズの不安は募るばかりだ。
「それに。」
とデミウルゴス。
「仮に
まぁ、そう言われりゃそーだけど、オレが困惑してりゃそれだけでおまえ楽しそーじゃねーか!と思いつつも、何か証拠があるわけでもなく、とりたてて被害があったわけでもないので話はそのまま沙汰止みとなった。
それから一週間ほど経った頃。
「何かお役目があってのことかとは思いますけど、絶対に困る、というほどではないですが、それでも権限上のことで問題が生じることもあるので、セバスを長く不在にするのであれば代行を立ててもらわないと。」
守護者統括アルベドに対し
このオチに、やはりこれはデミウルゴスの仕込みに違いない、と確信したアインズは、そうであるとして、アイツはこれをいったいどうやって実現しているんだ、としばし眠らぬ幾夜を過ごす羽目になったが、やがて雑事に紛れて忘れ去っていった。
なればこそ!
なればこそ大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、仔細こそ異なれども似たような日常……何故か毎回セバスが何処かに置き去りにされる……が、十数ヶ月に一度欠かさず繰り返されているという冷厳な事実に、
「親愛なる読者諸兄の皆様。
皆様も
完
<次話予告>
「恐れ多くもアインズ様の名を騙る不届き
いや待て!
それ、
億劫のオーバーロード余6話『偽
あー、今、<