偽漆黒の英雄事件
「おまえさー。」
と、
「はっ?」
と、大きな荷物を担ぎながら老婆の手を引く執事セバス・チャン。
「何しに来たか……わかってる?」
「……お許しください、モモン様。
さりとて、難儀している者を見過ごすことは、我が創造主の面目に賭けて……」
「あぁー!わかった、わかった!
好きにしてくれ!」
雲一つない晴天下、城塞都市リ・ボウロロールの大通りを二人は歩いている。
周囲には既に随分な人だかりができていて、中にはアインズに向かって手を合わせて
これが……。
これがデミウルゴスの仕込みでないとしたら、何だというんだ!
ペカーーーッ!
漆黒の甲冑が全身から神々しい緑色の光を放つと、周囲の町衆のざわめきはなお増して口々に喚呼が起こる。
「「偉大なる漆黒の英雄!」」
「「慈愛溢れる陛下!」」
あー。
こんなわけのわからないことになるなら、誰かに任せりゃよかった。
*
「恐れ多くもアインズ様の名を騙る不届き
ナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間。
狡知の参謀デミウルゴスから緊急事態として招集がかかり、主だった階層守護者たちが
開口一番、やたらと愉快げに両手を振り上げつつそう告げたデミウルゴスに、たちまちに玉座の間はざわめきに包まれた。直情傾向の強いシャルティア、アウラ、比較的情緒の安定して見えるコキュートスまでもが「今すぐ打って出るべし!」といった構え。
ふと、思うところのあったアインズは、それらには目もくれず自身の
「<
をつないだ。
もちろん相手はナザリックの記憶を司る
「あ、シズ。オレオレ……そう、
ちょっと調べて欲しいんだけどさー……あ、ごめん、ちょっと待ってね。
騒々しい、静かにせよ!」
喧々諤々騒ぎ立てる下僕の声にただでさえ控え目のシズの声の聞き取りを邪魔されて、やおらアインズは怒声を放った。たちまちに玉座の間が静寂に包まれる。
「……あ、ごめんごめん。
そうそう、オレの偽物……あー、やっぱりそうか!
ありがと、助かったよ。また今度遊びに行くわ、じゃーな!」
ぷつ、と<伝言>が切れ、何事かと注目する下僕たちをやはり無視したままに、アインズはひょいひょいと骨の手を振ってデミウルゴスを手招きした。
招かれたデミウルゴスは、一旦「
しばしば手ずから創造した下僕パンドラズ・アクターが彼に対してそうするように、骸骨の相貌を接吻せんかの如くデミウルゴスに寄せて問う。
「……おまえか?」
「はっ?」
デミウルゴスは「一体何の事で御座いましょう?」の表情を崩さない。
「また、おまえの仕込みか?と訊いている。」
「御冗談を、アインズ様!何を証拠に……」
「コレだ!」
とアインズは、さきほど自身の
<オレの偽物が現れたらデミウルゴスを疑え!>
と書いてある。
「な!
いったい、いつ
こ、この……便利な空っぽ頭めが!
アインズは、自分自身を棚上げして苛立った。
「さっきシズに確認した。既におまえには二度前科がある、らしいぞ!
そして……二度あることは三度ある、って言うよなー?そうだよなーーー!」
デミウルゴスに悪気などなく、ただただ退屈な日々を過ごす
おかしいのは、そもそもそれを詳細に記録していたのもデミウルゴス本人だ、という馬々鹿々しい事実なのだが、この際そんなことはどうでもいい。
「誓ってそのようなことは!
アインズ様は、無二の忠誠を尽くすこのデミウルゴスめをお信じ下さらぬ、と?」
いったいぜんたい、おまえのどこを信じろと言うんだ!
「……まぁ、いい。
ただ、今度もおまえの
……何故そこで三日月型の笑みになる?いったい何を期待してるんだ、おまえは!」
このような無駄なやり取りを経て、改めてデミウルゴスから事態の説明が始まった。
曰く、人間たちがリ・ボウロロールと呼ぶ城塞都市があり、その周辺はアインズの狩りの獲物に捧げるに相応しい阿呆どもがよくよく現れる土地柄でもあるのだが、ここしばらくそういった連中が鳴りを潜める一方、新たな王が立った、と街が沸き返っているのだという。
その王が、こともあろうに<
「……んなこと、オレ、した?」
自信なさげにアインズが問う。
記憶にないことが自身の潔白証明にまったくならないことは、これまた百も承知だ。
「よろしいのではないでしょうか?」
と、楽しげな声を発したのはもちろん守護者統括アルベド。
「その者を転移強襲しアインズ様がその座に成り代わってしまえば、労なく一国が手中に収まりましょう!」
……なんでオレがそんな面倒臭いことに乗り出さにゃならんのだ!
「あちきにお命じありんせば……」
と、続いたのは鮮血の戦乙女シャルティア・ブラッドフォールン。
「……都市住民諸共皆殺しにして参りんしょう。幸いあちきなれば、人間どもに容姿を疑われることもありんせん!」
殲滅するつもりなのに……見た目、関係あるか?
「アインズ様ハ無為ナ虐殺ハオ望ミニハナラヌ。
<漆黒ノ英雄>ノ名ヲ騙ル不届キ者ト、ソノ取リ巻キデ十分デハナイカ。」
オレは……コキュートスの方がまともだ、と評すべき、なのだろうか?
「待て待て!
そもそもだな。そいつらが真似てるのがオレだと決まったわけでもあるまい。何ならツアーの
アインズがここしばらく外界での狩りに際して用いる
「いよいよアインズ様におかれましては、かの不遜な
と、眼光鋭く至って真顔の執事セバス・チャン。
なんでそうなる!
この……お気楽極楽な
もっとも、読者諸兄の目線からすればアインズ含め、五十歩百歩、目糞鼻糞であろう。
「これを報じた
と、語り始めたのは御曹司パンドラズ・アクター。
「漆黒の全身甲冑を纏った人物は確かにその人間の街の
十年ほど前、ツアーによって発見されたユグドラシルからの来訪者、仮称
一方で、恐怖公眷属の報告は僅かに、ではあるもののその可能性を匂わすものであり、ナザリック地下大墳墓がこちらの世界へやって来るよりも以前にやって来て潜伏していた来訪者が関わっている可能性が、決してゼロではないのもこれまた事実。
「オレが見てくる。」
「「アインズ様!」」
自ら品定めをしてくる、と宣じたアインズに、たちまちにアルベドとデミウルゴスが噛みついた。
「至高の御身自ら
「そうで御座います、どうか
アインズがその知に全幅の信頼を寄せる
「オレが見てくるの!」
疑心暗鬼が振り切って半ばキレ気味のアインズは、そう言い切って二人を黙らせた。
「セバス、
それからアルベド。」
「はい、アインズ様!」
名を呼ばれれば、それだけでアルベドは声が踊る。
「オレが出ている間、こいつが余計な手出しをしないか見張っておいてくれ。悪気がないのはわかってはいるが、こいつが良かれと考えて何かすると、大抵
アインズは、
「承知いたしました。デミウルゴスもいいわね?」
「……なるほど、そういうことで御座いますね!」
最早突っ込む気力の起きないアインズは、無言のままに出撃の準備を始めた。
で……コレだ。
オレを自分たちの王だと思い込んだ人間たちに囲まれ、セバスは迷子の手を引いて親を探しに行ったまま帰ってこない。
阿呆かと!
馬鹿かと!
デミウルゴスが演出した状況にしてはいささかおとなしすぎる感がなきにしもあらず、ではあるが、今頃このオレの様子をアルベドと並んで
やっべ……酔いそう。
アインズ、こと本物の<
そして、
あー、今、<
と、思考が物騒な方向へ傾き出したとき、人混みの向こうから武装した二十人ほどの一団が近づいてくるのを認めて、辛うじてアインズは正気を保つことが叶った。
もっとも、何らかの危険を感じてのことではない。レベル総計で言えば、人混みも武装集団も大差はなく、魔法的な欺瞞も検出されないので、アインズからすれば単に人混みが少し増えただけだ。
が。
その武装集団を率いていると思しき髭面筋肉質、今目前にいる人間の中では確実に抜きん出てレベルが高い戦士風の男から、アインズに向けて声が発せられた。
「陛下、お忍びでお出かけとはお人が悪い!」
男はこれみよがしな大声でそう言いながら、アインズに親しげに近づいてくる。
こんな目立つ格好で……お忍びもクソもないだろうに。
こいつは、オレのことを偽<漆黒の英雄>と思い込んで近づいて来るのだろうか。曲がりなりにも、陛下、と呼ぶ自身の主君と別人を間違えるかフツー?
逆に、こちらが本物かどうかはともかく、自分たちが担いでいるそれとは別の<漆黒の英雄>と承知の上でこれをやっているのだとすれば……
いい度胸をしている!
そして、驚くべきことにさきほどアインズが自らに発した問いの答えは後者だった。
アインズのすぐ横まで達した男が小声でこう言ったのである。
「思うところはおありかと存ずるが、仔細は追って説明するゆえ、今は群衆に手を振りつつご同道いただけないだろうか。」
はぁ?
しかし、ここでキレてしまうほど大魔王アインズ・ウール・ゴウンは
戦士風の男が歩き出すのに合わせて、アインズは、若干の馬々鹿々しさを覚えつつも右手を軽く上げて群衆の歓呼を受けつつ男の
こうして、このわけのわからない一行はリ・ボウロロールの
やがて男は一室の扉を開き、右手を振り下ろす礼を執ってアインズに先の入室を勧めた。特に何の脅威も感じないので、そのまま中に入る。そこは簡易の謁見室か何かのようで、壁が紋章らしき模様が織り込まれた
背後で男が立ち止まったのを感じてアインズは振り返るが、目に入ったのは土下座する男だ。
はぁ……?
「<漆黒の英雄>殿とお見受けする。」
はて……どうしよう。
殺すことを前提としてないヤツと会話するのは……自分が余計なことを口走らない自信がないので……避けたいところなのだが。
「そういう
とりあえず、一体何が起こっているのか、いたのかには少なからず興味があるので、当たり障りなく応じてみるのも悪くないだろう、とアインズは判断した。
「いつか、このようなことになるだろう、とはわかっていたのだが、それでも我々にはこれ以外に手がなかった。貴殿がお噂通りの英傑と信じ、許しを請いたい。」
「許すも何も。」
とアインズ。
「そもそもオレは、おまえが何を詫びているのかが……さっぱりわからん。」
「えっ?」
と男が床にこすりつけていた
*
「んじゃ何か?
おまえらは玉座にからっぽの全身甲冑を置いて、それを王だと言って国を治めてるのか?
そんなことあり得るか?あり得んだろー常識的に考えて!」
男が土下座した際の床の位置から動かないので、アインズも差し向かいに石床に
およそこの世界においてもっとも常識から逸脱した人物から常識の欠如を問われているのだから、この男も随分と損な役回りを引き当てたものではあるが、怒鳴っているアインズの主観からすればそれが事実なのだから、どうしようもないことだ。
「貴殿の仰せはごもっともかとは思うが、とにかく我々には他に手がなかったのだ。」
男はガジーボ・ストロノーフと名乗った。肩書きはリ・ボウロロール戦士団戦士長。
男の祖先に今は亡きリ・エスティーゼ王国の戦士長があって……もっとも本人は、それは自身の祖父、あるいはその先代辺りが騙ったもので真実ではないと考えているらしい……その血筋を買われてこの地位にあるのだそうだ。
ガジーボが、無理もないことではあるものの、アインズには記憶の片隅にすらない種々の固有名詞をわかって当然の口調で話すので、どうにもからっぽの骸骨頭には筋がうまく入ってこないのだが、大枠はこんな感じだ。
当地、城塞都市リ・ボウロロールとそれを含む今は実体のないボウロロープ侯国は、長く支配秩序を欠いた状態が続いている。百年ほど前に有徳の子爵が出て一旦はリ・ボウロロールを掌握したかに見えたが、彼の死後にお世辞にも有能ではなかった実子たちの間で跡目争いがおき、逆に民からの信望厚く後継者に望まれた男爵が謀殺されて以降は誰も彼もが互いに疑心暗鬼の状態で、誰が統治者で誰が民で誰が賊なのか、混沌としたままだったのだそうだ。
一方で、この状況下でも何とか日々の暮らしを繋いできた民達の間では、新たな自分たちの王として<漆黒の英雄>が立って秩序を回復してくれることを望む声が、ずっと燻り続けてきた。
この名が世に聞こえるようになったのも百年以上も昔の話で、常識的に考えれば百年前のそれと
<漆黒の英雄>は、ある特殊な剣技を一子相伝する者の間で代々継承される称号らしいぞ!
とか。
甲冑の中は実は
とか。
エ・レエブルに不死の
とか。
転機となったのは、<漆黒の英雄>に続けて現れると噂の<進退を問う
「貴殿に対しては極めて礼を失する物言いかとは思うが、民にとってみれば、目に見えさえすれば内実などどうでもよかったのだ。実際、彼らの間では貴殿が何者であるかについて百人いれば百通りの説があり、しかも皆、それのどれが真実であるかになど興味がなく、互いの話の気持ちのよい部分は気持ちよいままに呑み込んで、さらに
ガジーボを含む一団は生存者の証言を元に全身甲冑を拵え、これを玉座に据えて<漆黒の英雄>の新生リ・ボウロロール王国国王即位を宣言したのだという。
そりゃ恐怖公眷属もよもや……鎧だけ玉座に置いて王様扱いしてるとは夢にも思わんわな!
玉座にあるのが
と言うのも、アインズ自身の記憶としてはここ数ヶ月この辺りで狩りをしたことはないはずなのに、ガジーボはつい先日もそれをやったばかりだ、と言うのだ。余程のことがないかぎり一ヶ月程度の記憶ははっきりしているので、この話にどこにも誤りがないのだとすれば、ガジーボたちが祝した賊狩りをやったのは<漆黒の英雄>ではない誰かだ。
こんなわけのわからない話があるか、フツー?
じゃぁ、こいつらの崇め奉る<漆黒の英雄>って……何処の誰なんだよ!
一方でアインズは、ガジーボ・ストロノーフなる人物の胆力に感心しないでもなかった。
市中を
「……こんなことを貴殿にお願いできる義理でないのは百も承知の上で」
「
ガジーボが
感心こそしたものの、こんな向こう見ずな連中の尻拭いで王様ごっこに付き合わされて
「そもそも、おまえらは大きな誤解をしている!
いいか?オレは一度たりとも自ら<漆黒の英雄>などと名乗ったことはない……はずだ!」
「いや、それでも貴殿は実際に」
「それも誤解だ!
耳の穴をかっぽじってよーく聞け。
オレはムカつくやつを殺すのが、ただただ好きなんだ!」
「えっ?……えぇ!」
「おまえたちのために殺しているわけじゃない。それに……。
今この瞬間は、勝手に
ゴクリ、とガジーボは息を呑んだ。
目前にある<
「ま、いいよ。そこは。」
ガジーボが二の句を継げずにいると、存外きさくな助け舟が出された。
そもそもアインズとしては、どう考えても間抜けに過ぎるこの話に、これはデミウルゴスの仕込みではなかった!という安堵感が勝ち過ぎて、その仔細などどうでもよくなっている。
皆さん、ご存知ですかな。中世欧州の大神学者トマス・アクィナスは、その遺骨を
一方で、これらを一概に荒唐無稽と
不意に脳裏に聞こえてきたギルド迷物タブラ・スマラグディナの蘊蓄にアインズは苦笑した。
当時は面白くありこそすれ何の益体もないものだ、と考えていたそれは、存外
「だが、こんな茶番は遅かれ早かれ露見して破綻するに決まっている!」
敢えてアインズは、タブラの蘊蓄が示唆したところとは逆のところを口にしてみた。
が、各種
「それはそれで構わないのだ!」
……はぁ?
「たとえ僅か五年、十年であっても、この茶番で安堵する民があるのであれば……束の間の平和を享受できるのであれば、茶番は茶番ではない!ないはずだ!
最近では町衆の婦女から、これで安心して子をもうけることが出来る、との声を耳にする機会が増えた。もちろん、今なお領内に少なからずある無頼どもから、我々が彼女らを守りきれるのかどうかはわからない。が、彼女らがそういう希望を
モモンガさん、気負う必要などないんですよ。モモンガさんが非公式ラスボス、大魔王
が、結局のところ、何をしたところで、モモンガさんがどうありたいと願い実際どうあるか、と、我々ギルメンを含め
しばしばそんな言葉をかけてくれたのは、例によって死獣天朱雀だ。
当時の鈴木悟は、いろいろと気遣って慰めてくれる死獣天朱雀に感謝しつつも、その真に意味するところは理解していなかったはずだが、今なればこそ、アインズには痛いほどに死獣天朱雀がモモンガに伝えんとしたことがわかる。
それが、こうして自分が死獣天朱雀の言葉を思い出すからなのか、死獣天朱雀を含む至高の四十一人の記憶の上に自身が成り立っているからなのかは判じる
思えば、だ。
ユグドラシル時代、非公式ラスボス、大魔王
中身のない鎧が周囲の期待を得て力を現じた、という点では、当時のモモンガも同じだ。
そして、こちらの世界に顕現して以降は比肩する者なき強者、恐るべき大魔王にして
「わかった。」
とアインズは簡潔に応じて立ち上がる。
「<漆黒の英雄>は、おまえらが勝手に言っている
オレはおまえらのやることに興味なんかないし、どうせすぐに忘れる。」
ガジーボは再び両手を床について、
「かたじけない!」
と謝意を示した。
アインズとしてはすこぶる居心地が悪い。
「いや、だから……そういうのは
うーん、そうだな……。
そう、たとえば、だ!」
アインズは半ばやけくそ気味に放言する。
「たとえば……毎日自宅前の原っぱで、健康によかれと体操する男がある、とする。
男が動き回るのを恐れて、鳥は原っぱに降り立たないわな。
すると原っぱの虫たちは思うわけだ。あぁ、この男は我々を鳥から守ってくれている!」
ガジーボの口がぽかん、と
どう考えてもこの文脈における、原っぱの虫、は自分たちのことだ。
「で、ある日虫は男に話しかける。あなたは我々の王です。
男からしたら……はぁ?何言ってんだこの虫は、だろ!
そもそも男は虫が居たことに気づいてないし、何なら体操しながら虫を踏み潰したことだってあったはずだ。その虫から謝意を捧げられて……どうしろと?どうしようもないよなーーー!」
今しばらくぽかーんとした表情だったガジーボは不意に、はははっ、と笑い声をあげた。
「貴殿は……空恐ろしい御方だが、同時にとても愉快な御仁だ。」
アインズも思わず、ククク、と笑いを漏らす。
「それだけが取り柄だ。これがなかったら、オレはただの化け物だ。」
何かを悟ったものか、ガジーボは改めて居住まいを正し、目前の<漆黒の英雄>に問う。
「いささか順序が狂ったが……差し支えなければ、ご芳名を承りたい。」
これにアインズはさらりと返す。
「オレの真名を知ることは、すなわち知る者の死を意味する。それでも敢えて名を問うか?」
あぁ、この御方は我々如きにその名を問うことが許される存在ではないのだ、と感じ入ったガジーボは深々と最伏礼を捧げた。言っている本人は、
決まった、オレ超
と悦に入っているだけだ、などということは彼に思い及ぼうはずもなし。
ふと眩い光が生じたのを感じて顔をあげると、既にそこには<漆黒の英雄>の姿はなかった。
ガジーボは、この邂逅を自身の胸一つに
*
それから一週間ほど経った頃。
「何かお役目があってのことかとは思いますけど、絶対に困る、というほどではないですが、それでも権限上のことで問題が生じることもあるので、セバスを長く不在にするのであれば代行を立ててもらわないと。」
守護者統括アルベドに対し
「おまえらさー……見てたんだろ?
何でその時点で言ってくれないのよ?」
とアインズは訴えたが、
「
と、例によって口を三日月型に歪ませて笑うデミウルゴスに切り返されて言葉を失った。
うーむ、これもやはりデミウルゴスの仕込みだったのだろうか。あいつのことだ、きっと絶賛放置プレイ中のセバスがあの人間の街でひたすら益体もない人助けを続ける様を何処からか覗き見て、手を叩いて大爆笑していたに違いないが、そんなことのためにこんな仕込みするか?しないだろ、常識的に考えてー!とは思うものの、さりとてこれを言下に否定できない自分がいるのもこれまた事実。
あー、誰か代われるものなら代わってくれ!
結局、偽<漆黒の英雄>事件がデミウルゴスの仕込みによるものなのか、現地住民の創意によるものなのかは
新生リ・ボウロロール王国はこの後三十年も経たぬうちに、目敏くその虚偽性を見抜いたボウロロープ侯爵家の末流を自称する一団に蹂躙され、その命脈を絶った。新たな統治者は、自分たちの正統性を主張しつつも未だに徘徊の噂が絶えない<漆黒の英雄>を憚って、新生リ・ボウロロール王国が<漆黒の英雄>の名を騙った僭称者であったと声高に喧伝したため、<漆黒の英雄>が国王として即位したという
馬々鹿々しいことには、この自称ボウロロープ侯爵家の末流たちも、当初こそ慎重に振る舞っていたものの何処かで
完
<次話予告>
「おまえたち……何の真似だ?」
億劫のオーバーロード余7話『
嗚呼!
まさにアインズ様はキェルケゴール、ショーペンハウアー、ニーチェを