クレマンティーヌの憂鬱
「
と声を掛けられて、はっ、とクレマンティーヌは
「ドウシタイ?ボーットシテ、ラシクモナイ!」
そう言いながらガハハハ、と笑うのは、
「……いやー、ちょっとねー。」
とクレマンティーヌは気のない返事を返す。
「夜半の吸血鬼の力に頼る癖がつくのはよくない。」
と勧めるキーノに従って、敢えて全力の出せない日中に、村の
際しては、キーノの予備を譲られた、日中の日差しが彼女たちに与える悪影響を最小限に
真祖吸血鬼は吸血を介して眷属を迎えるに当たり、どの程度まで自身の力を分け与えるか融通が効くのだそうで、キーノに真に永遠の旅の
かつて漆黒聖典第九席次であった時分に誇った武技の数々は、一切発揮することが叶わなかった。どうやら不死者化は人間として身につけた各種の能力を一旦
一方で、クレマンティーヌ自身はそのことは問題視はしていなかった。鍛錬を重ねるにつれ回復、どころか人間であった頃のそれを遥かに超えて発揮されるようになった
かくして、既にかつての絶頂期のそれを上回る力を手に入れたクレマンティーヌではあるが、最近になって、自分でもそれが何であるのかはっきりとはしないものの、そこはかとなく不安に感じていることがある。
途中、ちょいちょいおかしな
対して今の自身の肉体は人間基準に考えれば三十歳少し手前、もっとも脂の乗り切った世代のそれで、元より漆黒聖典で鍛え上げられた加算がある。実際、村の少なからぬ人間や
が、本来であれば自身の死について真面目に考え始めるであろう時期を迎えたことで、改めて彼女は、自分が不死者、吸血鬼になってしまったことの意味を、存外深く考え込んでしまっていることを認めざるを得なかった。
そもそも。
相手が人間であれ亜人であれ、自分が忌まわしい殺人狂であったことに自覚はある。
自分は従うべき
自身の記憶は、
だが、自分は変わった。何処かで決定的に変わってしまった。
でなければ、今目前にあって声を掛けてきた
「ドコカ具合デモ悪イノカイ、
引き続きクレマンティーヌの顔を心配そうに覗き込むベルグソンに、クレマンティーヌは「ありがとね、大丈夫だから」とその頬に軽く口づけした。
対してベルグソンは、やや頬を赤らめながらこう応じた。
「オレハ難シイコトハヨクワカランケド、何カ悩ミガアルナラ
「……先生?」
「アア、先生モ
*
クレマンティーヌが、ベルグソンの言うところの先生、の訪問に意を決するまでさらに三日を要した。
目下、
「私が不在の間、くれぐれも村のみんなに迷惑をかけたりはしてくれるなよ。」
との言葉を残してキーノは旅立って行ったが、そんなことは言われるまでもないことだ。
一方で、今思えば、これを、言われるまでもないことだ、と考えた自身への疑問が、そもそもの発端なのではないか、とクレマンティーヌは考えてもいる。
人外、英雄の領域に片足を掛けたクレマンティーヌ様は、誰彼憚ることなく襲い、
そんな自分が、キーノ不在の間に村人に迷惑をかけるななんて、言われなくてもそんなことするはずねーだろ!と考えているのは……何故なんだ?
これは、ある種の
誰かに相談事をする、というかつての自分らしからぬ行為が人目につくのを憚って、クレマンティーヌは日が暮れるのを待ってベルグソンに教えられた小屋を訪ねてみた。既に小屋の
ある程度の力を有した不死者は、不死者の気配を敏感に察知することができる。あちらは自分が近づいてくるのに気づいて出迎えてくれたのだろうか。それにしては彼女は彼の気配を察知できなかったのだが。
その姿は、クレマンティーヌにとっては嫌なことを思い出させる骸骨姿の
対する骸骨は、
「キーノ
と、やおら両腕を開いてクレマンティーヌを
「な、何っ!」
と、ドン引き気味に表情をひきつらせたクレマンティーヌはぴょいと引き
「……え?」
一方の骸骨、ド・クロサマー王国の
キーノ・インベルンには何かと恩義もあるし、その眷属に形ばかりの親近の情を示すつもりの振る舞いだったのに……そもそも彼は、不死者である自身の接触が生者に大なり小なり悪影響を与えることを憚って、よほどの
「……ゴホンッ。
まぁ、なんだ。よく訪ねてくれた。何もないが入ってくれ。」
勧められるがままにクレマンティーヌはデイバーノックの小屋の中に入った。不死者が住まっているわりには綺麗に片付いていて、唯一例外なのは机の上に大量の紙束が無造作に積み上げられていることだ。室内は香の薫りが漂っていて、不思議とそれは彼女の心に落ち着きを与えた。
「おおよそ、おまえの考えていることは察しがつく。」
デイバーノックはクレマンティーヌに席を勧めながらそう切り出した。
「……どゆこと?」
来訪の目的すら告げぬうちにそう言われて、クレマンティーヌは首を傾げたが、
「ある程度の自我を保って不死者となったものは、人間であったならばそろそろ寿命か、という時期になれば何やかやと悩みだすものだ。違うか?」
いきなり真を射られて、いささか居心地が悪い。
「話の順序がおかしかったか?
オレはデイバーノック、見ての通りの
おまえは?」
「……クレマンティーヌ。」
クレマンティーヌは、どうにも自分がこの
対してデイバーノックは、骨の指を自身の顎に当てて呻吟することしばし。
「昔に聞いた名だな。法国にいたか?」
隠すことでもあるまい、とクレマンティーヌは頷いた。
「三百七十年ほど前の漆黒聖典に、そんな名の殺人狂がいたな。おまえか?」
ケッ、知ってやがんのかよ、と内心クレマンティーヌは毒づく。
そんな彼女の反応はデイバーノックにはお見通しだ。
「ならばより悩みも深かろう。」
「……はっ?」
クレマンティーヌには、どうにもデイバーノックの話の進め方が、合間、合間の理路を欠いていて俄についていき難い。その辺りもデイバーノックには見透かされているようで、改めて仔細が説明される。
「オレは
が、過去にはオレも含め少なからず禁呪を以て己を不死者化せんと図った者たちがいる。そいつらは、皆、不死者化すると同時に生者への情愛を一切失った。」
……そりゃ、そうだろう。とクレマンティーヌは思う。
言われてみれば、母親を復活させる
「情愛と憎悪は表裏一体、情に厚い者ほど憎も深い。一方を失えば天秤は一気に傾く。道理だろ?
だから、不死者化を成し遂げた者の多くは、何を企図してそれを為したかとは無関係に、ただただ生者を屠る化け物に落ちぶれて、遠からず討伐されたものだ。」
どうにもクレマンティーヌには、デイバーノックの言わんとするところがよくわからない。
「おまえが、オレが噂に聞いた漆黒聖典のクレマンティーヌなのだとしたら、おまえには天秤の片方が
「な!」
歯に衣着せぬ物言いで人格の欠落を指摘され俄に気色ばむクレマンティーヌだが、デイバーノックにはそれを気にする様子もない。
「まぁ、そういきりたつな。別におまえを軽んじて言っているわけじゃない。」
と宥めてこう続ける。
「かく言うオレもそうだった。曲がりなりにも整合した自我を保って不死者化するには、情愛、憎悪、が限りなく
クレマンティーヌの目が、驚きの余り真ん丸に
一方のデイバーノックは、
「意外だったか?
それともおまえは、当時リ・エスティーゼ王国の裏社会にいたオレの耳に届くほどの快楽殺人者の悪名を馳せておきながら、自分は情愛に深い人間だった、とでも思っているのか?
であれば、オレの言っていることは的外れで、キーノ
と事も無げに言う。
これを聞いて、クレマンティーヌには確かに思い当たるところがあった。
漆黒聖典の席次を得るまでの道程は筆舌に尽くし難いもので、他の連中がどうであったかは知ったことではないが、少なくとも彼女は、自分自身を含めこの世にあるすべての生きとし生けるものは所詮はいずれ腐って塵となる肉の塊に過ぎない、と心の底から割り切ることで正気と狂気を
殺人を楽しんでいなかったわけでは決してないが、強いて殺したかったわけでもない。どうせいつか死ぬのだから、今殺してやったからとて何が違う、と思っていただけだ。
「不死者は本能的に生者を屠ることを望む。だが、その動因となっているのは生者であった時分の情愛の裏返しの憎悪だ。これを欠くと、生者を屠ることを望みながら、それが
見透かされていることに不愉快さを覚えつつも、まさに今の自分が感じている違和感がそれであるので、クレマンティーヌは黙ったまま頷いた。
「そして、もし自分が人間であったならばそろそろ死ぬんじゃないか、という時分になって、はたと考えさせられるわけだ。何もしなくとも
「あんたも……デイバーノックもそうだったの?」
不意にデイバーノックは遠くをみつめるような仕草を見せる。
もっとも、既にその眼球は失われて存在しないので、どこを見ているのかはわからない。
「さぁ、どうだかな。自慢にもならないが、オレは本当に魔導の探求がすべてだったから、そういうことにすら思いを馳せなかった、というのが正直なところだ。この村に暮らすようになって、漸くその辺りのことがわかってきた。遅れてやって来た思春期、とでも言うべきか。」
この骸骨らしからぬ物言いに、思わずクレマンティーヌは、ふふふ、と笑いをこぼし、慌ててそれを隠した。
「おまえが存外人間らしい思考を維持しているのは、キーノ
最早笑いは隠しようもない。
「だが。」
と、やおら真面目な口調に戻るデイバーノック。
「それが人としてあるべきものであったかはともかく、人間としての成熟した自我を得た後に不死者に至ったオレやおまえとは違って、キーノ・インベルンは容姿にも現れている通り、自我を成熟させる以前に不死者化した特殊な
あいつは、疑いなく強者ではあるが、存外脆いところがある。余計なお節介かとは思うが、おまえが支えてやってくれ。」
ぽかん、とクレマンティーヌの口が
「あんた……キーノちゃんのことが好きなの?」
今度はデイバーノックの口がぽかん、と
「いったい何を聞いてたんだ?オレには情愛や憎悪が欠落していた、と言った
……キーノ
なるほど、とクレマンティーヌは北叟笑む。
「不死は、端的に言えば能力、ではなく呪いだ。」
とデイバーノック。
クレマンティーヌは、キーノも以前にそう言っていたことを思い出して頷く。
「この呪いの厄介なところは、生者の時分はその呪いの呪いたる
「あぁ……わかるよ。」
「オレたちには滅びたいときに滅びる自由がある。おまえもそこは好きにすればいいが、今しばらく呪われた我が身を享受するのであれば、呪われたがゆえに為せることに意を注ぐことだ。それが出来る
ここに至ってクレマンティーヌは、決して完全に解決したわけでもないとは思うが、自身がもやもやと心の内に抱えていたものが一気に軽くなるのを感じた。誰かにこうして相談する、というのも悪くないものだな、と思う。
「今日は、あんがとね。この借りはそのうち返すわ。」
とクレマンティーヌは立ち上がる。
「ややこしいことを言ってくれるな。キーノ
クレマンティーヌを送り出そうとしたものか、デイバーノックも立ち上がったが、その漆黒の
「あんた、いいやつだな。」
静かにデイバーノックもクレマンティーヌの腰にまで骨の腕を伸ばして抱き返す。
クレマンティーヌはもはや恐怖を感じることがなかった。
「村の連中からもそう思われているのが目下最大の悩みだ。あいつらは、いくらなんでも不死者に対する警戒感がなさ過ぎる。」
「……くくっ。だよねー!」
二人はしばし、はははっ、と笑いながらその場でくるくると回った。
*
クレマンティーヌは深夜のトブの大森林の中を一人駆けている。
吸血鬼化した直後は、これを試みようものならあっという間に何処ぞの幹に顔面から突っ込んでいたものだが、今やそんなことはまったくない。それ自身が意思を持った矢であるかの如く、自在に木々の間の僅かな隙間を縫うように飛び回る事ができる。
休息や睡眠を必要としない彼女は、夜半はこうやって過ごすことが多い。そもそも鍛え上げられた
デイバーノックとの対話で得られた示唆は、彼女にとって非常に価値あるものとなった。
何故、あれほど人殺しを楽しんだ自分が今ではそんなことをしようとも思わないのか?
それは、彼女にとって最早そんなことは何の意味もないからだ。
そんな自分が不死者として存在し続ける理由は何か?
それは、強大なれども危うげな
わかってしまった今となっては、どうしてこんな当たり前のことに自分は思い至らなかったのだろう、と疑問にすら思うが、吸血鬼化は人間であった時分に比べて破格の力を彼女にもたらしはしたが、頭の回転が以前と変わったようには思えないので、それは考えても仕方のないことだ。
その一方で。
決してこれは悩み、といった
改めて、彼女はここまでに至る自身の記憶を遡ってみる。
淀みなく思い出せるけど……これ、
漆黒聖典に至る修養過程で一通りの医学知識は教授されていたが、それは作戦中に負った怪我の応急措置に関するもので、クレマンティーヌの人体に関する理解は復習を兼ねた人体解剖で得たものだ。
腕を切り落としても、足を切り落としても、目玉をくり抜いても、耳鼻を削ぎ落としても、肚を
これらの人体実験からクレマンティーヌは、脳に人間の思考や記憶が局在するのは間違いない、と考えている。
ひっそりと静まり返った夜の森に立ち止まったクレマンティーヌは、周囲に獣も含め
あへ
うひ
ほにゃ
…………
うへー、気持ち
さきほど自身を実験台にしておこなった実験に際し、その瞬間クレマンティーヌは思考を失ったし、自分が何処の誰かもわからなくなっていた。
その体験は、十代の半ばだった時分に訓練名目で麻薬、ライラの粉末を
とまれ、これが思い出せる、ということは、肉体の回復に伴い記憶もまた元通りになったことを意味するが、ここがクレマンティーヌの好奇心をくすぐるところになる。
脳が壊れた状態の自分は、思考ができず記憶も辿れなかった。構造の回復に伴い思考と記憶が回復するということは、思考と記憶は脳の構造に依存しているのだろう、と考えることができる。
では、これを再構築してみせた
が、クレマンティーヌの記憶は彼女に固有のもので、脳がその記憶の記録装置なのだとすれば、これを無作為に破壊すれば、修復に際して
それを言えば、これまた彼女固有の事情になるが、少なくとも過去二回、自分の肉体が完全に失われたに違いないことを彼女は理解している。
骸骨野郎の即死魔法を喰らってから驚天動地の復活魔法で呼び戻されるまで、百年の時間が経過している。よもやその間彼女の遺体を無傷に保管した者など居ようはずもないから、父母から直接に生を受けた
キーノの話を素直に信じれば、あの骸骨野郎はとてつもない異世界からやって来た想像の埒外の化け物で、振るう位階魔法も桁違いだと言うから、無からクレマンティーヌを再構築することもできるのだろう。
が、生まれてからアベリオン丘陵での即死までの記憶を、無から再生されたクレマンティーヌが引き継いでいることには一考の余地がある。それは何処かに保存されていたのでなければ、再構築できたはずがないからだ。
もちろん、そういった無理を排する別の仮説を考えることはできる。
今のクレマンティーヌが、にもかかわらず自分の記憶は継続している、と考えているのは、まさに自分の記憶だと考えているそれと実際の記憶が一致するからだが、よくよく考えてみればこれは同じものが同じだ、と言っているだけのことで、何の証明にもなっていない
今の自分は、そのように感じるよう意図的に
つまるところ、先程来振り返り続ける記憶の最終端である今現在に疑いなく存在するクレマンティーヌ、という枠組み自体が、まったく自然にそうであると信じることができるにもかかわらず、実は存外真偽が怪しげな前提なのだ。
そもそも
キーノに対する借りを返すのだ、と言って随分な広長舌を披露してくれたデイバーノックは、本人も言っていた通り無駄な長生きの甲斐あってかなかなかに聡明で蓄えている知識も幅広い。が、どう見てもあいつの骸骨頭の中に脳があるようには思えなかった。では、あいつの無駄知識はどこに蓄えられているんだ?
自分を酷い目に合わせてくれたあの骸骨野郎とて脳がある気配はなかった。あれは随分とおかしな存在だし、キーノもそんな感じに言っているから、人骨の見た目に意味などはなく、そもそもこの世界に生じた時点から脳なんかとは縁がない存在であるのかも知れない。一方でデイバーノックは、本人の言を素直に信じる限りはクレマンティーヌ同様に元は人間だったはずだ。
クレマンティーヌは脳を壊すと一時的に思考も記憶も正しく機能しなくなるが、デイバーノックには壊す脳がない。にもかかわらずデイバーノックは自分と同程度かより明晰な知性を備えているように見えた。これをどう解釈すればよいのか?
当の本人に問うてみるのも一興か、とは思うが、クレマンティーヌは極短い対話の機会ではあったがデイバーノックを典型的な不可知論者だ、と考えている。
あいつは一連の会話の中でも自分がわからないことについては包み隠さずわからない、と言ってまったく悪びれなかった。論理的に説明がつくことは事細かに分析してみせるが、その範疇を超えることについて、アレは「それはそういうものだ」で済ませる、と言うか、立証反証不可能命題を考えるのは時間の無駄、と思っている
だから、いくら博識なデイバーノックといえども、おそらくこの問いには答えられはしまい。むしろ、そんなことにかかずらう理由はまったくない、と理路整然にお説教されるのが関の山だろう。キーノ……にこれを問うのは、それこそ時間の無駄だ。
スレイン法国に生を
だが、自身の肉体消失と復活と不死者化、デイバーノックの有り様から類推すると、生者、不死者を含め、この世の知性ある存在は、物理的肉体と、記憶や思考の癖などを
その一方で、クレマンティーヌ自身の自覚としては、肉体を失っていた期間の記憶は一切ない。自身の魂魄はその間、
両者が生者としての誕生から
そもそもこの、
自分が最初に死んだのがアベリオン丘陵だったのはわかっている。最初に復活させられた玄室の所在はわからないが、鯖折りコンボの後に城塞都市リ・エスティーゼ近くへ打ち捨てられたのは確かだ。二度目の死はリ・ボウロロールの近郊だったが、復活させられたのは見たこともない恐ろしく調度の整った部屋で、<
死と復活の場所はまったく無作為かつ恣意的なもので、死に際して肉体と分断された霊魂がその場に
むしろ、既に今の自分は必要としなくなってしまったが、かつては
仮にそうだとすると、今自分はトブの大森林の中にぽつんと一人佇んでいるが、実はこの周囲にも太古の昔から生まれては死に、生まれては死にしてきた多数の魂魄が漂っていて、骸骨野郎の弄ぶような、破格ではあるが適切な手段さえ講じれば、自分がそうされたように再構築することが叶うのだろうか。
だとすると自分は……かつて無為に殺しに殺しまくった人々の魂魄に囲まれて、今、此処に立ち尽くしているのだろうか。
嗚呼、図らずも自分はエラいところへ踏み込んでしまった、と改めてクレマンティーヌは思う。
愛しい
デイバーノックは、強大ではあるが特殊な出自ゆえに脆いところがなくもないキーノを支えてやれ、それを続ける限り正気を失うことはない、と言った。そんなことは言われるまでもなくそうするつもりだったことで、それは最早自分の唯一の存在理由だ。そこには一切の疑いも迷いもなく、むしろ喜びすら覚えている。
一方で、ここ数日考えた一連の疑念について、自分はこれを永遠に考え続けていかざるを得ないのだ、という気づきは、番外席次と骸骨野郎を例外に……否、もう二度と挑みはしないが、それでも自分はあの化け物どもにも初見では戦いを挑む者だった……何者をも恐れず戦いを挑み続けてきたクレマンティーヌをして、武者震いを抑えられない空寒さを感じさせてもいた。
キーノは、骸骨野郎の玩具に供せられることでクレマンティーヌの贖罪は終わった、と言った。
彼女自身はそうは考えていない。むしろここが出発点だ、と。
完
<次話予告>
宝物殿金貨蕩尽が警告されている。
残数は五十枚未満で、次のギルド維持資金の要求に耐えない。
「許されざる罪に、然るべき報いを。」
億劫のオーバーロード余10話『カルタン・ヌルの最期』
何でおまえら、嘘か