正義降臨
「変身ヒーロー……だとぉ?」
ナザリック地下大墳墓
アルベドが、なにやらフィオーラ、アウラ、シャルティアと議することがある、と席を外した隙を見計らったかのように、<
「左様で御座います。
昨今人間どもの自由都市にてそのような者が目撃されて……」
「出オチだ。」
現地住民の間で正義の変身ヒーローが話題になっている、と言い出したデミウルゴスに対し、その話を遮ってアインズはそう返したが、デミウルゴスは何のことやら、という表情だ。
「はっ?……いかがなさいましたか、アインズ様。」
「おまえがわからんはずがないだろう!
あー、
そう、オレが悪い。すべては
アインズが、オレのせいだァ!と叫ぶよりも前に、デミウルゴスの右手がすっと差し出されその発言を封じた。左手の平は耳に当てられていて、どうやら何者かからの<
「……あぁ、そう。アインズ様とご一緒している。
早速こちらへ繋いでくれたまえ、ありがとうニグレド。」
「オレは見たくないし、知りたくもない!」
既に鏡にはどこかの人間の街の様子が映し出されている。
アインズは骨の両手で自身の顔を
「まぁ、そうおっしゃらずに。
折角ニグレドが見つけてくれたのですから、一緒に楽しみましょう!」
……段取りが良過ぎるだろ、いくらなんでも。常識的に考えて。
そんなアインズの思いを知ってか知らずか、デミウルゴスはいつものように口を三日月型に歪めてすこぶる上機嫌だ。
(きゃー、およしになってぇ!)
若い女の声が突然聴こえてきてアインズは驚く。
「ニグレドに、傍受した音声を中継させております。」
あーそーか。
ナザリック地下大墳墓の主人たるこのオレには、見たくないものを見ない、聞きたくないものを聞かない権利すらないんだな。
(
しかも何なんだ、このベタな悪役台詞は。
とアインズは憤るも、
(待てぃ!)
と、これまた威勢のよいベタな台詞が聴こえてきて、思わず鏡の方に視線を向けてしまう。
決して不細工ではない若い女が一人。
これに絡む不細工な男が五人。
そして、片手をこれまたベタに大きく振りかざしながら止めに入った男。
歳の頃は十七、八、といったところか。筋骨隆々
(なんだぁ、テメェは?)
(貴様ら如き無頼に、聞かせる名は……ない!)
はぁ……とアインズは溜息をつく。
くそっ。こんなにベタなのに……続きが気になってしまう自分がいる!
「ここからが見せ場で御座いますよ、アインズ様!」
デミウルゴスが
おまえのその前向きさ、ちょっと分けてくれないか?
鏡の中の五人の男たちが、銘々に
きゃー、誰かー!と女が悲鳴をあげている。
すると若者が、身体を右に捻りながらL字に立てた右腕に、水平に伸ばした左腕を重ね、ギリリと
(
とぉぅ!)
両手を振り上げて若者は飛び上がり、
その身体が眩い光に包まれる。
「な!……あ、アレは!」
思わずアインズは声を漏らしてしまった。
光の中から飛び出し、スタッ、と着地したその姿は明らかに異形の者。
一見して純白の全身鎧に見えるそれは、コキュートスがそうであるような甲殻のようだが蟲のそれではない。むしろその
(
聞かせる名は……ないんじゃなかったかーーー!
んでもって、
だがしかし。
奇妙なことにその姿は変身前……いや、こいつからするとこっちが本来の姿なんじゃないのか?……に比して一回り小さくなっていて、何なら
しかも、その背後にぷかぷかと浮かぶ文字がある。
<正義降臨>
「……またおまえかーーー!
だよなーーー?そうだよなーーーっ!」
たちまちにアインズはデミウルゴスに食ってかかるが、
「ご冗談を。
こちらを御覧ください。」
と、デミウルゴスは鏡の一部を
「
おまえは……。
それでいったい何を証明してみせたつもりなんだ?
(やっちまえ!)
アインズたちがそんなことをやって遊んでいる間にも、五人の男たちは全身甲冑を取り囲んで襲いかかった。
おいおいおぃ……よくもまぁ、こんな見るからに化け物に喧嘩を売るな、おまえらも!
ところが。
五人の男たちが得物を手に襲いかかると、自称
(痛い痛い、
はぁ?
……何これ?
ペカーーーッ!
五人の男たちが力任せに振り下ろす小剣や短剣の刃がその
(けっ、馬々鹿々しい!
興が冷めちまった、行こうぜ!)
五人の男たちはそういい捨て、攫おうとしていた若い女を
それを見送った後、全身鎧はすっと立ち上がり、
(お嬢さん、お怪我はありませんでしたか?)
パンドラかおまえは!と突っ込みたくなるような芝居がかった口調で問うたが、問われた女は寒々しい一瞥を投げた後は、いかな形であれ自身の窮地を救ってくれた存在に対し、一言も口を利かずにどこかへ行ってしまった。
バンバンバンッ!
デミウルゴスが
「傑作!で御座いましょう?」
あぁ……。
おまえがとても楽しそうで……オレも嬉しいよ。
「ではアインズ様、お召し替えを。」
「……はっ?」
とここで、執務室の扉の外から
「セバスが参りました。」
「……えぇ?」
困惑するアインズを
「アインズ様が急遽お出掛け、とのことで近衛を務めるべく参上いたしました。」
「ささ、参りましょうアインズ様。」
「デミウルゴスも同行するので……御座いますか?」
「待て待て!
いったい何処へ行くというんだ!」
ニッ、とデミウルゴスが三日月型の笑みを浮かべる。
「もちろん……」
「嫌だ、絶対に嫌だ!
オレはあんな面倒臭いものに関わりたくない!」
アインズは自分で問うておきながら、デミウルゴスの言を中途で遮って鏡を指差しながら叫んだ。
自然とセバスの視線が骨の指の先へ走る。
「これは……」
見るからにセバスの表情が不快そうに歪む。
そりゃそうだわな、
「この者をお狩りあそばすのですな。参りましょう、アインズ様!」
たちまちに
「セバスもこのように申しておることで御座いますし。」
どいつもこいつも……。
どうなってもオレは知らんぞ!
半ばやけくそになったアインズは、自ら<
*
「キミたちは……私の活躍を遠くから覗き見ていた人たちだね?
名前もわからない小さな人間の町の裏路地。
アインズ一行が目前に現れるや、
なんと!
活躍……のつもりだったのか?
アインズの脳裏を占める疑問は、いつものように焦点が斜め半分ずれている。
「
流石のセバスも、目前のこの何だかよくわからない存在に闘気を
「セバス、キミの息子だよ。」
さらりとデミウルゴス。
「何を馬鹿なことを。」
あー、お互い空っぽ頭でつける薬ねーよなー。
「証拠を見せよう。」
そう言いながらデミウルゴスが懐に手を差し込んだので、アインズは慌てて、
「<
時間を止めた。
右手を懐に差し込んだままのデミウルゴスに近づいて、その手が
「<
この様子を純白の
どうやら
要注意だな。
そして
「これだ!……
デミウルゴスが懐から颯爽と手を出すと、指先で地獄の業火が燃え上がっている。
セバスには、意味するところがわからない。
「一人で何をやっているのですか、デミウルゴス?」
「……なるほど、そういうことで御座いますね、アインズ様!」
わかってくれたのならさっさと帰ろう!
「キミたちは、何か困ったことがあるのかね?」
いち早くここから立ち去りたいと願うアインズの思いとは裏腹に、首を突っ込む必要のないところにばかり首を突っ込んで騒ぎを起こしつつ、当の本人だけは自身のお節介を顧みることがまったくなかった旧友そっくりの口調で純白の
あぁ、困っているよ……おまえの存在になァ!
「私でよければ力になろう。何でも言ってくれたまえ!」
その言葉に俄にセバスが苛立ったのがアインズにはわかった。
あれだろ?同族嫌悪……とかいうやつ?
「おまえ如き餓鬼が我が至高の主に対し……いささか礼を失する言葉、だとは思いませんか?」
だが、問われた側は悪びれもせず、さらりと
「誰かが困っていたら助けるのは当たり前!」
セバスの瞳が怒気に満ちる。
しまった!
<
次の瞬間!
ズガッ!
「痛い痛い、
純白の
立ち位置はさきほどからまったく変わっていない。
その足元は彼中心に球形に石畳がへしゃげて窪んでいる。周囲の建物の外壁が崩れ、屋内にいて突如丸見えになった数人の人間が「ひーーーっ!」と声を挙げて逃げ散っていった。
その目前で拳を突き出したままの姿勢で立ち尽くすセバスは、その目を見開いている。
「……
アインズの見る限り、見境のないセバスは一切の手加減なしに、爆砕瞬殺のつもりで踏み込んだように見えた。
が、まだ幼体であるはずの純白の
ただその場にしゃがみ込んで、
「痛い痛い、
と呟くだけ。
これはまた……。
トンデモない化け物だな!
「……これでわかったか、セバス。
こいつはおまえの息子、
ん?と、ここに来て初めて、しゃがみ込んだままの化け物の視線がアインズに向かった。
「キミはお
これにアインズはさらりと返す。
「おまえとて会って話したことはあるまい。先だって
「なんと!」
純白の
「ということは、キミが噂の……アインズさん、なのかな?」
「ほぅ……オレのことを知っているのか?」
「母上から聞かされた。
お
「愉快な、は余計な気もするが……まぁ、事実だわな。」
「挨拶が遅れてすまなかった。私は
「いや、待て待て!」
「……はっ?」
「おまえらの糞長い名前は憶えておれん!
「そうか。
では……私のことはタッチ、と呼んでもらえれば。」
だと思ったよ!
「では、さきほど私に殴りかかってきたのが?」
タッチの視線が自然とセバスに向かう。
「あぁ、誠に遺憾ながらおまえの父親、ということになるな。」
流石に初対面の
「キミが私のパパなのだな。」
パ……パパ!
「キミについても母上から聞いている。
パパとよばれても顔色一つ変えなかったセバスは、息子のこの言葉にやや目を
「して……そちらの悪魔は腹でも下したか?
あいにく薬の持ち合わせはないのだが。」
見れば、デミウルゴスが地面をのたうち回って笑い転げている。
ペカーーーッ!
「……そいつはそれが平常運転だ。気にしなくていい。
それはそうと、タッチ……よ。二つほど訊かせてくれるか?」
躊躇いがちに名を口にするアインズに、タッチは無言のまま頷いた。
「まず、それは……何だ?」
とアインズが指差したのは、タッチの後背に浮かぶ<正義降臨>の文字だ。
「はて。世を忍ぶ仮の姿から竜に転じれば自然と浮かぶもので、私自身何であるかはわからない。」
世を……忍んでんのかよ?
「アインズさんはこれが何か心当たりがあるのか?
文字であるらしきことはわかるが、私には読めない。」
「厳密には少しおかしなところもあるが、正義降臨、とあるな。わかるか?」
「正義降臨……か。私にはいささか不似合いだな。」
いや、ぴったりお似合いだよ!
「おまえの
「なんと!
それは、パパのパパ、ということか?」
ペカーーーッ!
「……まぁ、そんなところだ。
オレの親友であり、恩人でもあった男だ。おまえは彼によく似ている。」
「そうか……アインズさんは随分と厄介な性癖の持ち主と交友があったのだな。」
まったくもってその通りだが……それ、おまえが言うか?
「して、もう一つ、とは?」
「なぜ反撃しない?」
簡潔にアインズは問うた。
最初に見た五人組はともかく、タッチはセバスに対しても頭を抱えてしゃがみ込むだけでまったく反撃の素振りすら見せなかった。防御力だけが突出して高い、という可能性もなくはないが、それはあまりに不自然にアインズからは思われたのだ。
「すべきだろうか?」
タッチは、首を
「この世に私を傷つけられる者など居はしない。
皆、しばし放置すれば疲れ果てて抗うを諦める。
そんな者たちに反撃など不要だ。」
こいつ、本気で言っているんだろうか?
その一点のみについて言えば、二人の祖父、ツアーとたっち・みーよりもまともだ、と言えなくもないが……極端だ、という意味では
おれの必殺
いや、これで「痛い痛い、
「あぁ、こんなことをしている場合ではなかった!」
とタッチ。
「救いを求めて私を待つ者たちの元へ駆けつけねばならん。
キミたちも、困ったことがあれば私の名を呼びたまえ。」
冗談……のように聞こえるが。
呼べば本当に
「では、さらばだ!」
タッチはひょい、と飛び上がって真っ赤な翼を開き、それをパタパタと羽ばたかせて飛行を開始した。
その速度は、鳩でももう少しマシだろう、と思われる牧歌的なもの。
わざとボケているのか?
あるいは、本当にあいつは極端なまでに打たれ強いだけ……なんだろうか?
「アインズ様。」
セバスが深々と頭を下げつつ言う。
「愚息が至高の御身に対し無礼な物言いをいたしまして、慎んでお詫び申し上げます。」
あ、意外と素直に息子だと認めるのね?
まぁ、逆に認めないと、竜人渾身の一撃で仕留められなくておまえも立つ瀬ないわな。
「よい、セバス。
いささかおかしなところもありはするが、なかなか見どころのある餓鬼じゃないか!」
「
いつの間にやら立ち上がってアインズの傍らにあったデミウルゴスが楽しげにそう言う。
「馬鹿を言え。あんなのを当てにするようになったらオレも終わりだ。」
まだ視界の片隅をパタパタと飛ぶその後ろ姿を見送りながら、アインズはそう呟いた。
*
「おまえはトンデモない餓鬼を世に放ってくれたもんだな!」
唐突に
「お訪ねの際は事前に
ツアーの娘コニーは、かつて
当地の
空き家のまま放置されていたホウガンの王宮を見つけたコニーは、
「ご覧の通り人型も採れる
「んなもん、知るかッ!」
コニーの言葉にアインズはそう返しつつも、そうだったっけ?と不安になり、左手は
ちなみにアインズは、何度かツアーの居城でアーグランド評議国の代議員たちと鉢合わせたこともあるが、都度アインズは大慌てで引き返したし、代議員側も「ヴァイシオン卿がまた妙な者とおかしなことをしている」程度の反応しか返さなかったので、問題になることはなかった。
「そなたも長い付き合いで少なからず
ペカーーーッ!
「その様子からすると、
ったく……ツアーの一族はどいつもこいつも碌でもないことこの上ない!
と、アインズは自分たちもそうであることを棚上げして憤る。
「して、何用かな?
その様子からすると、アレと出食わしたか。」
パタン、と書物を閉じたコニーは身を委ねていた
「
どうして
ツアーから教えられたか?」
自身もコニーに対面するよう着座しつつアインズがそう問うと、コニーは不思議そうな顔をする。
「タチウスドラコーナ、がタッチで何がおかしいのかえ?」
「そういう意味じゃない。
よりによって縮めてタッチになる名を付けたのは何故だ、と訊いている!」
コニーは、アインズの真似をしているつもりなのか、ぱかりと
「……なんだ、その顔は?」
「名を……付けた?」
「……そんなに驚くようなことをオレが訊いたか?」
「名は当人が名乗るものであって付けるものではなかろうに。」
「……はぁ?」
聞けば、
そんな馬鹿な話あるかぁ?
古代インドの聖者が生まれてすぐに
いや、それは後世に言われたことで本当は違う、とかタブラさんが言ってたか?
「アインズさんも、自らアインズ・ウール・ゴウン、と名乗ったものであろう?」
「それはまた意味が違う!
と言うか、生まれた
「そなたとて
「ふぁーーー?」
このコニーの言には流石のアインズも呆気に取られ、コニーを鏡写しにしたように口をパカリと
「そもそも、タッチ、だったら何だ、と言うのかえ?」
あ、
「タッチ……正しくは、たっち・みー、だが、それはタッチの父親セバス・チャンの創造主、ユグドラシル時代のオレの親友の一人の名だ。しかも、タッチの外見は、しっぽが生えていることを除けば、たっち・みーの
アインズがセバスの名を口にすると、その瞬間だけコニーは切れ長の目を物欲しそうに妖艶に潤ませたが、なおまして奇っ怪なことを言い始めたのでアインズの関心はそこへは向かなかった。
「ほぅ……それは奇妙な一致じゃの。
されば
「……はっ?
いったい何を言っている?」
「さして驚くことではあるまい。この世に生まれる者は
コニーに平然とそう問われ、アインズは困惑した。
オレが……自ら望んでこの世界へやって来た、だとぉ?
「他の種族がどうかは知らぬが、
な……!
それじゃまるで、タッチが、たっちさんの生まれ変わり、じゃないか!
「されど、
この世界の真理について深い知識と洞察を有しつつも迂遠に断定を避けて語る傾向の強いツアーに対し、娘コニーは存外無遠慮に思ったことをそのまま口に出すきらいがある。
アインズは、コニーの語るそれが、天下り的な真実を問わず語りに示したものなのか、彼女の雌性
「しかし……アインズさんの言で、ひとつ得心のいったことがあるぞな。」
とコニー。
「何が、だ?」
「<翻訳の神秘>ぞ。」
ん?
唐突に持ち出されたその意味がアインズにはわからない。
「タッチが孵化して、初めて名乗りをあげたときなぁ。」
目下
「
なんと!
「ふふ……はははっ!
そいつは、傑作だな!」
アインズは思う。
その真相に関心を向け、コニーに問うて何の益あろう。
これは……笑うしかない話だ、と。
「さもあろう?
アレが、そなたの友人、たっちさん、とやらの生まれ変わりであるや否やは誰にもわかるまいが、アレは疑いなくそなたの
「あぁ、コニーの言う通りだ!
ツアーが目を覚ますのが楽しみだな、
「父も大概変わり者じゃが、我が子には
親馬鹿の発露にしては変わった物言いだ、とアインズは思うも口にはしない。
この親娘孫の三代
だがそれを言ったら、こいつらとの交流を存外楽しんでいるオレ自身も偉そうなことは言えまいよ。
アインズとコニーは、しばし未だ目覚めぬツアーをネタに笑い合った。
*
「……とまぁ、そんなことがあってな。」
ナザリック地下大墳墓第十階層
大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、この世界の実相について語らう相手にしばしば二本
「興味深い話……では御座いますなぁ。」
ティトゥス率いるナザリックの司書団は、今も気儘に種々の実験観測を通してこの世界の実相を理解する研究を進めているが、必ずしも大きな成果を上げているわけではない。
一方で、この世界がすべてを必然足らしめる共通の基盤、一意の法則を有しておらず、個々の事物がかくあるべくしてそうあるように見える、というのは随分と早い段階からティトゥスたちから指摘されていたものだ。
直近の例では、転移歴1300年代に現れた
鉱物資源は、そこにかくあるべくそうあるだけで、それを必然足らしめる来歴がない、とティトゥスたちは考えている。丁度ユグドラシルにおける鉱山が、<
「コニーはオレに、自身望んでこの世界にやって来たのではないのか、と問うた。
これを……おまえはどう考える?」
アインズとしては、既に関心の中心はセバスとコニーの子、タッチが何者であるか、ではなく、コニーから語られた
「世界を形作っているのは、
ティトゥスは、まずさらりとそう言った。
「敢えて想像を
と言葉を切るティトゥス。
真偽定かではないがこのように考えることもできましょう、というときに、しばしばティトゥスはこういう言い回しを好む。沈黙は、何の益体もないことを申しますが構いませんでしょうか、とアインズの承諾を求めてのことだ。
黙ってアインズは頷いた。
「アインズ様……この場合、ユグドラシルのモモンガ様、と言った方が正しいかと存じますが、モモンガ様が余人の手にせぬ膨大な魔力を有しておられたのは事実で御座います。
そして、ユグドラシル最後の瞬間に、モモンガ様、ひいてはスズキサトル様が、この上なくも有り難いことに我らナザリック地下大墳墓の永続をご祈念あそばされたのであろうことは疑いようも御座いませんから、モモンガ様の膨大な魔力がそれを実現すべく今在るこの世界を生み出した、と考えることは可能で御座います。」
「しかし……オレたち以前にこちらの世界に来ていた者もあるだろう?」
<翻訳の神秘>をもたらしたエドモン・ウェルズ。
今なお在地の人間たちの文化に色濃く影響を残す六大神。
位階魔法をこの世界に持ち込んだと言われる八欲王。
<
などを想起しつつアインズは問い返す。
「恐れながら。」
と前置きしてティトゥスは言う。
「アインズ様は、世界をお望みあそばすに際し、すべてが
「うーむ、ティトゥスには悪いんだが。」
とアインズ。
「正直なところ……物は言いよう、という印象も受けるな。」
「それは仰せの通りで御座います。
むしろ、コニーとやらとセバスの息子がたっち・みー様に似ることも、アインズ様がそれをお望みになられたからだ、と考えたほうが納得がいきましょう。」
いや、オレはそんなややこしいことを望んだ憶えはないぞ……憶えてないだけなのか?
「ただ、疑う余地もないことは。」
とティトゥスが居住まいを正す。
「ユグドラシルからやって参ったすべての者が次の<百年の揺り返し>を待つことなく滅び去っていくのに対し、我らがナザリック地下大墳墓が千年の
誠に以て、有り難いことで御座います。」
実際のところ。
ティトゥスもアインズもたちまちには記憶の中にないが、この時点でも転移歴300年にやって来たカーター・ツィマーマン、1200年にやって来た
が、それがユグドラシル時代と変わらぬ、あるいはそれ以上の繁栄を呈しているか、と問えば、確かにティトゥスの言う通り、ナザリック地下大墳墓が唯一無二の存在であることは、アインズ自身とて疑いようもないことではあった。
「ふふ……千年以上経っても、相変わらずわけのわからんことだらけだな。」
そう呟くアインズに、ティトゥスはやはり、カカカ、と笑いながらこう返した。
「それもまた、御身がお望みになられたことで御座いましょう。」
完
<次話予告>
五百年の<永い眠り>から、遂に
「アインズ様が
億劫のオーバーロード余19話『
降り積もった違和感がツアーに問いを発させる。
「で、アインズ。
本当のところを聞かせてもらおうか。」
11月吉日公開予定。