「少しいいかね、アルベド?」
ナザリック地下大墳墓
執務机に座してたくさんの書面に何やら慌ただしく書きつけていた守護者統括アルベドは、少しだけその手を
確かめるまでもない。
小憎らしくも頼もしい同僚、狡知の参謀デミウルゴスである。
「丁度よかったわ、
そう言いながら、既にアルベドの目線は書面に戻され、筆先を自身のここまでの書き付けを
「では、
デミウルゴスは片手を差し出し、柔らかく腰を折ってアルベドに先を譲った。
アルベドは、同僚のらしからぬ様子を訝しく思いつつも手を
「戦利品回収班に加えて、
撤収はシャルティアとソリュシャンに任せるとして、ギルド拠点調査のパンドラズ・アクターの助手にはナーベラルを当てることになるから、本百年紀の来訪者が片付いてうずうずしている貴方には悪いのだけれど、調査完了まで外出は控えてもらえるかしら?」
転移歴1500年に入って以降、いつものようにトブの大森林を管理する
「そんなことかね?もちろん構わないとも!」
言われたデミウルゴスは、やはりいつものように三日月型の笑みを浮かべて大袈裟に両手を左右に開く。
「それに……まるで私が原住民たちに何か使嗾したくてうずうずしているかのような物言いは
アルベドは、もちろん思っているわよ、と言いたげな冷めた視線を返した。
「……コホンッ!
では、私からよいかね?」
「執務しながら、でよいのならね。」
と、再び書き物に視線を戻すアルベド。
その様子に、改めて
「今回のアインズ様のご采配について、
はた、とアルベドの手が
どうやらこれは、仕事の片手間に論じることが叶う話題ではないようだ。
「……貴方らしからぬことを問うのね。」
アルベドはそう言うと筆を
「流石で御座いますぅ、アインズ様ぁ!」
言うまでもなく、普段のデミウルゴスを揶揄気味に真似たものだ。
「……で、よろしいのではなくて?」
この返しに、デミウルゴスは悪びれる様子もなく答える。
「それはもちろん
口調を真摯なそれに転じ、デミウルゴスの指先が自身の眼鏡の山を鼻に押し当てる。
「アインズ様は鬼顔城に対するにあたり、
この指摘に対するアルベドの返しは飄々としたものだった。
「永い眠り、とやらから目覚めたツアーを含め、
そう問われたデミウルゴスは、軽く頷きつつも持論を譲らない。
「それも
だが、
アインズは、
いささか理解に苦しんだのは、この中継地点の防衛に当てられたのが、
この命令を受けた時点でアルベドも当惑を覚えたのは事実だ。後方支援とは言え自身が戦場に駆り出されることは稀であり、対ギルド戦に当たって玉座の間において戦況を俯瞰することが常のアルベドは、事後処理に当たっても改めてパンドラズ・アクターから引き継ぎを受けることを要し、それは目下の書類仕事にいささか難儀する理由にもなっているのだから。
「アインズ様が、ご自身の目の届かぬところに私とセバスを配することなど、これまでには決してなかったことだ。」
と、デミウルゴス。
……そりゃそうでしょ。
とアルベドは思うが、口には出さない。
ちなみに、今回に限っては正しくセバスはアルベド、デミウルゴスと共にナザリックへ帰還しているが、これはデミウルゴスがアインズの一連の采配に対して一抹の疑念を有しており、自身の
「思うのだがね。」
と、改めてデミウルゴスは
「これまで邂逅した
あぁ、デミウルゴスもそこに気づいていたか、とアルベドは思う。
当然と言えば当然だ。おそらくアインズ自身
「だが、アインズ様は鬼顔城の名、拠点レベルをご承知であられた。
しかも、その鬼顔城との
「そこまでよ!」
強い口調でアルベドは、デミウルゴスの言葉を中途で
「アインズ様は、
そこに探りを入れることは、
もちろんアルベドは気づいていた。
鬼顔城が何者で、アインズがどのような思いをそれに抱いているか。そして、その思いをそのまま
だが、このアルベドの発言に対し、デミウルゴスはニヤリ、といつもの三日月型の笑みを浮かべた。
「
もちろんそれも
この物言いにアルベドも、うふふ、と笑みを返す。
当然だ、デミウルゴスも気づかぬはずはない。
「
私が
これだけは……私には叶わぬことなのだからね。」
何か得心を得たものか、既にアルベドは再び筆を取り、書類仕事をしながらこれに応じた。
「謙遜する必要はないわ。アインズ様は当然
デミウルゴスも何か納得したようで、身を翻して執務室から退出する歩みを進めつつ、右手を肩越しに上げてこう告げる。
「あぁ、そうだね。よろしく頼むよ。
いささか余計な口出しが過ぎたようだ。不快に感じたのであれば許してくれたまえ。」
ふん、
と思いつつも、やはりアルベドは、それを口には出さなかった。
代わりにこう言う。
「もっとも……」
不意にデミウルゴスが立ち止まって振り返り、その眼差しがアルベドを捉えた。
「アインズ様は上機嫌でご帰還なされることでしょう。
ツアー……も気付かないはずはないもの。」
天上を仰いだデミウルゴスがハハハと
「……あぁ、そうだね。
なんともはや、忌々しいことだ!」
*
「で、アインズ。
本当のところを聞かせてもらおうか。」
背に
ふ。
ふふ。
あははははっ!
「参ったなぁ、ツアーに隠し事はできないな!」
その声色は、普段の大魔王然としたそれではなく、遥か昔、アインズ、かつてのモモンガの
「で。
……オレはどっちに向けて語りかければいいんだ?」
改めて日常演じるところの威厳あふれる口調でそう問いながら、アインズは骨の頭を左右に振って、ツアー本体となる巨大な
「……ハハハッ!それももっともだね!」
竜の大きな口を開いて笑ったツアーは、身を屈めて微睡みの姿勢を取り、続けて傀儡がひょい、と竜の背から飛び降りてアインズに並び立つ。
「この方が語らい易かろう。」
「おまえを試みよう、というわけじゃないんだが。」
とアインズ。
「まず、おまえがどう思ってそう問うのかを教えてくれるか?
純粋に興味があるんだ。」
そう尋ねられたツアーの傀儡は、いつもそうするように握った拳に兜の顎を当ててしばし考える様子を示した後、淡々とした口調で語り始めた。
「今回の
「あぁ、その通りだな。」
アインズは、ツアーのこの言に素直に首肯して見せる。
「ギルド拠点こそ見た目はナザリックに伍すると見える威容ではあったが、彼らはさしたる脅威ではなかった。
キミにリ・ボウロロールを……」
「あの城塞都市、そんな名前だったか?」
「……リ・ボウロロールを守る義理があったはずもないから、敢えて殲滅に乗り出したのは、彼らの
「あぁ……ご明察だよ、ツアー。」
「そして……キミは敢えてナザリックの仲間たちを差配せず、ナザリック地下大墳墓維持の
となれば、その意図は明らかだ。」
「……なんだと思う?」
「キミは、鬼顔城とやらの連中をナザリックの仲間と
しかも、これまで如何なる来訪者に対しても苛烈に振る舞いこそすれ最低限の礼儀は欠かさなかったキミが、かの
その理由は……ボクには一つしか思い当たらない。」
ふふふ、と微笑みながらアインズはツアーの結論を待つ。
「鬼顔城は……千五百人の大襲撃、と関わりがあるのだね。」
わっはっはっは!
突如、アインズは諸手を叩いて大笑いした。
「見事だ、ツアー!」
事も無げに楽しそうな骸骨の友人に、ツアーの傀儡は肩を落としながら溜息をついた。
「キミ……大丈夫かい?」
アインズは本当に愉快そうだが、対するツアーは心配
「何を案じてくれているんだ?」
「もう随分と昔の話でボク自身、どこまで記憶が正確であるか自信はないんだけれども、八欲王を殲滅したとき、随分とボクは
八欲王は、ナザリック地下大墳墓に先んじること五百年前にこの世界へやって来た
仔細はともかくそのことは、ツアーが何者であるかの定義の超重要な項目として、常にアインズの脳裏にある。
なるほど、そういうことか。
ツアーらしい気遣いだ、とアインズは心地良さを覚える。
「その心遣いには感謝しよう。正直なところ、最初に鬼顔城の出現に気付いたとき、オレの中に迷いがなかった、と言えば嘘になる。
……おまえも疲れていようから、続きは後日でも構わんが。
聞くか?」
返された意外な気遣いに、ツアーは黙って片手を差し出し続きを促した。
今この瞬間の思いの丈は、今語らねば忘れてしまうアインズだ。
語りたいときに語らせてやるがよかろう。
「犬っころ自身がそこに加わっていたか、までは知らん。
が、鬼顔城を拠点としたギルド、
「も、ももきん?」
ひょいひょい、と骨の手の平を振るアインズ。
「あー、そこは気にするな。
しかもムカつくことに、連中自身は千五百人の大襲撃には参加していなかった。」
「それは……確かに胸糞悪いね。」
アインズから語られたことこそないものの、ツアーは僅かながら情誼を通じたユグドラシルプレイヤーを介して、シャルティアがかの千五百人の大襲撃で命を落としたことを知っている。
そしてツアーは、そこに戦略的な利点があることは十二分に承知した上で、それでも自身の利益のために他者を使嗾しつつ自らは安全圏に
ある意味そのような一面を有するデミウルゴスがそこから漏れているのは、デミウルゴスが疑う余地のない陰謀家でありながら自身は矢面に立つことを好み、かつ、アインズを含む使嗾される
「オレは詳細を思い出せないんだがな。」
そう言いながら、アインズは右手の骨の人差し指を立ち上げ、左手は二本の指で
「おまえと一緒に、十二番戦術で屠ってやった奴がいたろう?」
その回想のされ
「あぁ……名前は知らないが、
やはりアインズは上機嫌に、パン、と骨の手の平を合わせる。
「そうそう、そいつだ!
オレも名前を思い出せないが、あいつはユグドラシル時代の、しても仕方のないアインズ・ウール・ゴウンのモモンガに対する嫉妬心に引きづられて、オレに拙くも無謀な戦いを挑んだ。」
ツアーは興味
「対してオレは……アインズ・ウール・ゴウンのモモンガは、千五百人の大襲撃以降、鬼顔城を含むそれを背後で画策した連中を片っ端から調べ上げ、復讐の機会を狙っていたのさ。
もっとも、モモンガは至高の四十一人の欲するところを汲み取ってそれをギルドの意思として取りまとめることは巧みだったが、モモンガ自身が為したいところを皆に強いることなどなかったし、そもそも大襲撃以降は段々とギルメンたちがログインしてくる頻度も減って来て、特に火力偏重の百レベルの拠点防衛NPC二十体を擁する鬼顔城を攻略する、なんてことは現実的には不可能だった。
<アインズ・ウール・ゴウンの
これを語るアインズは、まるで他人事のようだ。
「こちらに渡り来たオレと運命を分かった<
彼は決して闘争を好む人間ではなかったが、それでも、ユグドラシルを失った鈴木悟が、かの千五百人の大襲撃を企画した連中の
「アインズ……」
またも心配そうな声色で名を呼ぶツアーに、アインズは大慌てで骨の両手を突き出して振って見せた。
「いや、すまんすまん、今のはオレが悪かった!
誤解してくれるなよ。オレが語っているのはあくまでもモモンガ、鈴木悟の思いであって、オレの思いではないんだからな。」
それは……同じものではないのかい?と問いたげにツアーは首を傾げる。
「鬼顔城の姿を認めたとき、鈴木悟の怨念のようなものがオレの中で鎌首をもたげたのは偽らざるところだ。そりゃそうだろう?オレはアインズ・ウール・ゴウンだが、鈴木悟でもあるんだからな!
が、それに素直に従ったとしたら……。
オレとあの道化師野郎は何が違うんだ?」
「なるほど。」
「いや待て、ツアー。早合点してくれるな!」
アインズの悟りに似た境地に感銘すら覚えつつあったツアーは、このアインズのツッコミに再び首を傾げる。
「今のは少し格好をつけ過ぎた。
オレは鈴木悟そのものではないが、それでも、やはり鈴木悟なんだよ。」
「どうにも……よくわからないなぁ。」
「なーに、簡単なことさ。
鈴木悟がそうであったように、お膳立てを欲したオレは無意識のうちに、デミウルゴスにオレが鬼顔城のことを見知っていることを匂わせた。こうすれば、あいつは鬼顔城が千五百人の大襲撃の主犯格であると気づき、それに対してオレが真に何を望んでいるか見抜いて、いい感じに舞台を整えてくれるだろう。
……はぁ?
今更ながら、キミたちのそのややこしいノリには呆れる他ないねぇ。
「だが、どうやらデミウルゴスの方が一枚
あいつは、その辺りを察しつつも、ナザリックを挙げて鬼顔城を殲滅することはオレの望みでは決してない、というところまで見透かしていたのか、情報収集にこそ余念ないものの決して事を構えようとはしなかった。」
「な!
じゃぁ、どうして?」
「これも簡単なことさ。」
やはりアインズは事も無げに言う。
「オレが望んだのは、ナザリックの
あいつらは
もちろん、そんなことはオレの望むところじゃない。
オレが……鈴木悟が望んでいたのは。
なんともはや!
ツアーはお手上げの
「
実際、オレが自分が本当のところ何がしたかったのかに気づいたのは、まさにその瞬間だった!」
はて……これを喜んだものやら、悲しんだものやら。
「どうにも参ったね、これは。」
ツアーはそう応じるしかなかった。
そこに含むところを感じたのか、アインズが訝しげに、伺っても意味のない傀儡の兜の中を覗き込まんとするかの如く身を乗り出して問う。
「不服……だったか?」
ツアーの傀儡の
「……いや。」
自然とツアーの手は彼の後ろ頭に添えられた。
そして、はにかみつつポソリと
「むしろ、シャルティアの
パカリ。
とアインズの骨の口が
「オレ……そんなことまで話したっけか?
……ま、いいや。」
ここで、アインズの片手が骸骨頭の横に添えられる。
<
「……あぁ、わかった。これからオレの座標をシャルティアに送るから。
じゃ、あとでな。
ツアー、パンドラが戦利品回収班を率いてもうすぐ合流する。
まだ起きていられるようなら一緒に中を検分するか?」
「五百年ほど寝た直後だからね、付き合わせてもらうよ。
ただ……ボクの体だけは人目につかないところに置きたいな。」
傀儡の視線が
事も無げにアインズは返した。
「んなもん、こうすればいい。
<
たちまちに、二人のすぐ
「自分で動くか?
何ならオレが魔法で吹き飛ばしてやろうか!」
「冗談はよしてくれ。もちろん自分でやるさ。」
ツアーの傀儡は、姫でも抱き上げるように自身の
「そんなことが……出来るのか?」
再びパカリと骨の口を
*
「鮮やかな戦勝をお寿ぎ申し上げます。」
「!」
ナザリック地下大墳墓
愛妃アルベドに三つ指ついて迎えられた大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、しばし言葉を失って立ち尽くした。
合流したパンドラズ・アクター、ナーベラル・ガンマを伴ってあらかた鬼顔城を検分し、発見されたギルド武器の成れの果て、その他いくつかの希少な刀剣の
その時点で時刻は現地時間の深夜過ぎ。デミウルゴスを含め少しばかりの睡眠を取る者もいることだし、何より今回の振る舞いに勝手が多かったことに自覚はあるので、バツを悪く感じたアインズはそのまま直接指輪の力で自室に跳んだものだが、そこにはアルベドの姿があった。
「つまらないものでは御座いますが、ささやかな祝いの品をご用意いたしました。」
伏せていた愛らしい顔をアインズへ向けてアルベドはそう言うが、祝いの品、とやらはどこにも見当たらない。と言うか、目前のアルベドはほぼ全裸で、僅かに紅白の絹糸を
とすると。
祝いの品、とはアルベドそのもの!
「……ゴホ、ゴホッ!
あぁ、アルベド。いささか今回は勝手が過ぎたようだ、悪かったな!」
意味もなく咳き込みつつ、下目遣いにアインズはアルベドの様子を伺った。
幸い、その金色の猫の瞳に
「何をおっしゃいます!
ささ、お召し替えをお手伝いいたしましょう。」
アルベドはそそくさとアインズの金糸銀糸に縁取られた漆黒の
骨の両手を豊満な胸へ導き、振り返って一言。
「五百年ぶりのツアーとの共闘、お楽しう御座いましたか?」
いっときアインズは「これは何かの罠ではないのか?」と呻吟したが、愛妃の常と変わらぬアインズの内奥深くまでを見通すかのような涼やかな瞳に疑念を払拭した。
「あ……あぁ、楽しかったさ!
今回の戦術は、元を考えたのはオレだが、言わずもがなに選んでみせたのはあいつだ。本当に頼もしい
アインズが楽しげにそう言うと、柔らかな肢体をより深く預けながらアルベドが問う。
「かの誇り高き
アルベドの濃厚な雌の香りに鼻孔を擽られ、ますますアインズは上機嫌だ。
「まさか!
あいつが言い出したんだぞ、特別に騎乗を許す、ってな。
まぁ、あいつなりに五百年の眠りの借りを返してくれたつもりなんじゃないかな。」
まぁ!とアルベドは可愛らしい口をまん丸に
もっともアインズは、アルベドが本気で驚いているとは思っていない。アインズがもっとも楽しく感じる返しをしてくれているのはわかっている。
だからこそ、真摯な詫びの言葉が自然と漏れた。
「……本当に済まなかったな、常ならぬ采配でおまえたちも困惑したろう?」
うふふ、と微笑むアルベドは言葉を返さない。
「実はあれは」
「いいのよ、アインズ!」
身を
「御身が
ふ。
ふふ。
あははははっ!
「そりゃ、バレるわなー。
だよなー?そーだよなー!」
アインズの声色が、鈴木悟のそれに転じる。
「ツアーにも見透かされたんだよ!」
「さもありましょう。
アレは、獣なれどもアインズ様の友であるに
アルベドは慈母の如き優しい笑みを浮かべてアインズをみつめた。
彼女は、アインズがこうして
「ですから今は、どうか私に全てを委ねて
「あぁ、甘えさせてもらうよ。
オレを真に癒やしてくれるのは、アルベドの愛、ただそれだけさ!」
これもまた、アインズがアルベドを気遣って言っていることであることも、彼女は理解している。
至高の主にして愛しい大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、決して自分のみが支える存在なのではない。
ナザリックの仲間たち、
それは何故か?
アインズ・ウール・ゴウンは、そう遇されて当然の勇猛知略と慈愛を兼ね備えた存在だからだ!
あぁ、我らが至高の主の
その至高の主の女への愛を独占する我が身の
二人は、そのまま夜明けまで余人には決して理解しようもない彼らだけの愛の営みを楽しんだ。
*
リ・ボウロロールの人々から見て一連の出来事は僅か四日間、鬼顔城の出現から数えても二週間ほどでしかなく、誰もその真に意味するところを理解することはなかった。
少なからずド・クロサマー王国の命脈を受け継いたトブの大森林出身の亜人勢は「伝説の
城塞都市リ・ボウロロールの窮地を救った
が、在地の者たちの認識の最大公約数として落ち着いた。
神話級の会戦を目の当たりにした興奮もようやく落ち着いた時分になって、数組の冒険者が恐る恐る鬼顔城……彼らもまた、誰からともなくかのギルド拠点遺構をそう呼ぶようになった……に立ち入ったが、当然のことながらそこは既に
城塞都市からも全貌を望むことが叶ったそれは、やがてリ・ボウロロールの観光資源となり、歴史的経緯から他自由都市群に対して経済発展に遅れを取り穀倉地帯としての地位に甘んじていた彼らを、リ・エスティーゼ、エ・レエブル、リ・ロベル、エ・ペスペルに並ぶ大陸西方五大自由都市の一角に押し上げるに至る。
これは結果的にこれらの都市すべてを滅ぼすに至る一大事変の伏線にもなるのだが、この時点でそこに思い至る者などいようはずもなかった。
大陸の方々から噂を聞きつけて物見遊山に訪れる人々に、はじめのうちこそ在地の者たちによって、突如出現した鬼顔城、溢れ出し町村を襲った
真相に気付いたのは。
事件時点で東方カルサナス都市国家連合を旅しており、五十年遅れてこの話を耳にし呆気にとられる他なかった<黒の百合>の面々のみだった。
完
<次話予告>
「あんたは、俺の超位魔法が発動するまで持ち堪えてくれればそれでいい。」
億劫のオーバーロード余20話『喧嘩両成敗』
「痛い痛い、
そんな危なっかしい存在が、今この瞬間もこの世界で野放しになっているだなんて、まったく神も仏もない、とはまさにこのことだな。