億劫のオーバーロード   作:wash I/O

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ナザリック地下大墳墓の面々が気づかぬままに、一つ間違えれば世界が滅びかねない事態が進行する。


余20話 転移歴1600年 喧嘩両成敗
喧嘩両成敗


 大陸東部、かつてバハルス帝国と称した領域には、今は多数の領邦都市国家が林立している。

 

 帝国の再統一を目指す動きが皆無であったわけでは決してなかったが、それらはいずれもそれぞれの道を歩み始めた各都市の支持を取り付けることが(つい)ぞ叶わなかった。一方で、軍団員や市民の歓呼によって皇帝(インペラトール)を推戴する慣習は今なお続いているが、これは何らかの分野で目を見張る業績を挙げた人物の称揚のためにおこなわれるものに転じており、政治権力を与えることはなくなっている。

 そんな旧バハルス帝国の北端、北方アーグランド評議国との間を隔てる内海に面した海岸線は、そのほとんどが落差の大きい断崖絶壁になっていて築港などに適さない。大地は北からの強い風が吹き(すさ)び、辛うじて低木が繁茂するだけのガレ()ばかり。

 常に内海から流れ込む濃い霧に覆われる土地は利用価値に乏しく、鮮血帝初代ジルクニフ・エル・ニクスの御代(みよ)には大陸西側に対する防諜的な観点から帝国軍の戦術演習場として利用されたこともあったそうだが、今日(こんにち)においては、更に東方カルサナス都市国家連合との間を隔てる大地溝帯同様に、大陸においても特に人口密度の低い地域となっている。

 

 そんな霧に包まれた荒野に、転移歴1600年のある日、突如として町が出現した。

 

 それはまさに城塞都市の一つの街区を切り取って植え付けたような外見をしており、四隅に小高い見張り塔を備えた堅固な城壁に囲まれ、南面する鋼鉄製の門を有している。そこから北へ真っ直ぐ伸びた大通りは町の中央やや北寄りに建つ一際立派な御殿へと繋がっていた。

 

 言うまでもなくこれは、今回の<百年の揺り返し>に際し、異世界ユグドラシルからこちらの世界へと渡り来たギルド拠点である。

 ユグドラシルにおけるギルド拠点は地下迷宮や要塞、塔といった閉構造(クローズドストラクチャ)を基本としたが、稀にこういった開構造(オープンストラクチャ)のものもあった。拠点レベル五百余、ギルド境界の見張り(ボーダーガード)の擁したこのネーターシティもその一つである。

 もっとも、開構造のギルド拠点が閉構造のそれに比して脆弱だった、ということはない。ネーターシティの場合、仕掛け(ガジェット)として常時雷撃効果を有する霧状の雲がその上空を覆っており、通常の手段で上方(じょうほう)から拠点内の任意地点に攻め入ることは叶わず、必ず城門を突破する必要があった。

 奇しくも、こちらの世界に出現したネーターシティはかつてそうであったように深い霧に包まれているが、これは大陸東北部の自然によるものであってギルド拠点が発しているものではない。その証拠に、突如出現した町に興味を抱いたものか、たまたま通りかかった一羽の猛禽が中央の一際立派な御殿の屋根に降り立ったが、雷撃で焼き鳥にされたりすることはなかった。

 

 つまりこれは、既にギルド拠点が資金蕩尽を迎え、その防御機能を失っていることを意味する。

 

 次の瞬間。

 その一際立派な御殿……すなわち玉座の間に相当する……のやはり南面した門がバンッと内から開かれて、一人の人影が勢いよく飛び出した。

 風の如く、の形容が相応しい速さで一目散に城門へと駆けるのは女森妖精(エルフ)

 武装の(たぐい)は身につけぬ徒手空拳で、簡素な上下一続き(ワンピース)(まと)っている。華奢な体格に対して不自然なまでに大きな乳房がはち切れんばかりに目立つ。

 

 これに続いて、まさに電光石火の如く追い(すが)る者がある。

 鈍い銀色の光沢を放つ身体(からだ)に巨大な鎌の腕を振り上げた機械蟷螂(メカニカルマンティス)

 

 森妖精は片手を首に添えて、さきほどこの蟷螂(かまきり)に斬り付けられた傷に<軽治癒(ライトキュア)>で応急措置を施した。たちまちに傷はふさがり出血は()んだが、突然自身の従順な下僕(しもべ)であったはずの存在から、あわや首と胴が泣き別れになりかねない一撃を受けた動揺は醒めやらない。

 目前に近づく城門は、ギルドの一員が命じれば独りでに開門するはずだが、既にギルド維持資金が尽き拠点が機能停止に陥っていることを確信している彼女は、上空を封じる雷撃の霧もまたそうであるに違いない、と踏んで、敢えて賭け(ギャンブル)に打って出た。

 力強く大地を蹴って城門を飛び越さんと宙を舞う。予感された感電の衝撃に一瞬身を(すく)めた彼女ではあったが、はたして、その(しな)やかな身体(からだ)は無事城門の真上を通過することが叶った。

 

 だが、安心するのはまだ早い。

 自分と同様に軽く城門を飛び越えた玉座の間の守り手の一角、機械蟷螂(メカニカルマンティス)のチュソクが、少しでも気を抜けば後ろから彼女の首を刈り獲るに十分な距離まで迫って来ている。

 百レベルNPCとは言え斬撃一辺倒のチュソクは、十全な武装さえしていれば同じく百レベル魔法詠唱者(マジックキャスター)野伏せ(レンジャー)である彼女にとっては本来さほどの難敵ではない。が、今の彼女はチュソクの最初の一撃に耐える防御装備を欠いていて、それを受け流して反撃に転じる余裕がなかった。

 

「嘘だろ、おい!」

 

 彼女の中の人、生物学的には男性であったプレイヤー、遠藤(おさむ)()の口調で森妖精は叫んだ。

 ギルド拠点の外まで出れば一旦は一息つけると読んでいたのに、拠点NPCであるはずのチュソクはガレ野を走る彼……彼女の後ろにぴたりとついて来るではないか。

 

 今以て、何が起こっているのかは正直なところよくわからない。

 ユグドラシル最後の日、最期の瞬間をギルドの玉座の間で独り思い出に浸りながら迎えた遠藤は、ログオフが出来ないこと、コンソールが応答しないことに驚いてあれこれ試みている最中、突如として拠点防衛NPCであるチュソクに斬りつけられた。

 本能的に身体(からだ)()らして直撃こそ(かわ)しはしたものの、チュソクの鎌は正確無比に彼女の首を狙ってきており、皮一枚掠めた傷口からは勢いよく鮮血が吹き上げ、彼女は痛みと同時に自身のHP(生命力)が奪われたのを感じた。

 ギルドの中距離火力担当だったマルジットの直感が、これはゲームだ、と割り切ってよいものではない、と告げている。

 甘んじて致命傷(クリティカルヒット)を受けHPが(ゼロ)に至れば、出来なくなったログオフが叶うのかも知れない。が、マルジットが受けた痛みは、中の人である遠藤に、そう考えるのは、自殺さえすれば極楽浄土に至れるのだから問題ない、とする決して賢明とは言い難い現実逃避に等しい、と訴えていた。

 

 しかし……どうすればいい?

 魔法詠唱者である自分が、少なくともチュソクを足留(あしど)め出来る程度の一撃を放とうとすれば、どうしても一旦立ち止まって振り返り、強化(エンハンス)を詠唱した上で攻撃魔法を発動する必要がある。

 が、チュソクの接近速度がそれを許してはくれない。強化詠唱の最中で一撃喰らうか、中途半端な攻撃を放って相打ちになるか。いずれにせよ、チュソクの種族技能(スキル)である首刈り(ヘッドハント)の回避が今一度叶うことに賭けるのは()が悪すぎる。

 

 せめてもう一人、前衛としてチュソクの前に立ち塞がってくれる者があれば……

 

「誰でもいいから助けてくれー!」

 

 そんなことをしても何の意味もないことは百も承知で、遠藤はなおも全速で宛てなく走り続けるマルジットにそう叫ばせた。いや、走っているのも叫んでいるのも疑う余地なく遠藤自身であり、そしてそれは確かに女森妖精マルジットでもあった。

 

 俺は、マルジットになっちまったのか?

 

 となれば、いろいろと試してみたいことが脳裏に浮かぶが今はそんな阿呆なことを考えている場合ではない。とにかくこの急場を何とか凌がなければ。

 

 そのとき!

 

「はははははははっ!」

 

 どこからともなく、高らかな笑い声が響き渡るのをマルジットは聴いた。

 そして次の瞬間。

 

「とおぅッ!」

 

 勇ましい掛け声と共に、丁度すれ違うような軌道を描いて宙返りしながら飛び込んでくる何者かを認め、マルジットはそれでも足を()めずに息を呑んだ。飛び込んできたそれは、丁度彼女とのすれ違いざま放物線軌道の頂点に至った地点で光り輝き、同時に、

 

「変身ッ!」

 

と声がする。

 

 そして。

 

 ガキンッ!

 

 大質量の金属同士がぶつかるような大きな音が背後からして、同時にチュソクの足が止まったことにマルジットは気付いた。慌てて振り返れば、チュソクの両手の鎌を籠手(ガントレット)で受け()めて踏ん張る、純白の全身鎧を(まと)った騎士がある。

 押し合いは不利と悟ったのか、チュソクは四本の足をひょいと伸ばして三歩引き退()いたかと思うと、たちまちに体制を整え直し、目前の騎士に向かって首刈り(ヘッドハント)技能(スキル)を放った。

 

 どこの誰かは知らんが……死んだな、と遠藤は思う。

 

 だが。

 

 チュソクの鎌の刃は、間違いなく一撃の(もと)に騎士の首を刈り飛ばす角度で直撃したのに、振るわれたチュソクの右腕は、目に見えない巨大な歯車に噛まれてしまったかの如く、進むでもなく(はじ)かれるでもなく、ただ()まった。

 チュソクはまったく(ひる)まずに、至近の間合いから左手の鎌先を騎士の胸に突き立てようと振り下ろしたが、やはりそれは、刃毀れするでもなく(はじ)き返されるでもなく騎士の胸に突き立ったままにただ……()まる。

 

 同時に、随分と()の抜けた声色で、

 

「痛い痛い、()めて()めて。」

 

と騎士が呟いた。

 その声は、少なくともマルジットには、まったく本気で痛がっているようには聞こえない。

 

 とまれ、図らずも得た反撃の好機(チャンス)だ。

 アレが何者であるかの詮索は後回しでいい。

 

「<魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)><魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)>!

 ……<魔法炸裂弾(マジックミサイル)>!」

 

 ぶるん、と横薙ぎに振るわれたマルジットの右腕の内側から飛び出すように、十分な時間的余裕を得て最大強化された回避不能の無属性攻撃が三連発で放たれた。

 それは視覚的には尾を引く青白い火の玉のように見えるが、詠唱時に標的(ターゲット)された敵を無制限に追跡し、至近に至るや大爆発を起こして物理被害(ダメージ)を与える攻撃魔法だ。瞬殺は叶わずとも、チュソクの継戦を断念させる程度の威力はある、と遠藤は確信していた。

 

 が。

 

「ふん!ふん!ふん!」

 

 何を思ってか、チュソクの鎌をその身に受け止めたままの騎士がやおら振り返って三度(みたび)手を振り、飛来した魔法の炸裂弾(ミサイル)を軽々と払い除けたではないか!

 払われた魔弾はそれぞれあらぬ方角へ飛び去り、やがて地面に当たって轟音と共に炸裂した。

 

「痛い痛い。」

 

 またも白い甲冑騎士は、魔弾を(はじ)いた手を振りながらやはり本気とも思えぬ苦言を呈する。

 

「アホか!おまえを狙ったんじゃねーよ!」

 

 マルジットは抗議の声を上げるも、騎士はそれを気にするでもなく再びチュソクに向き合った。

 チュソクはさらに数合鎌を振るったが、まったく騎士に傷をつけるどころか一歩すら退(しりぞ)けられないことに気づいたものか、じりり、と引き()がった。

 

 そして、恨みがましい声色で一言(ひとこと)

 

「何故……ソイツヲ守ル?」

 

と騎士に問う。

 騎士は簡潔に応じた。

 

「誰かが困っていたら助けるのは当たり前!」

 

 その言葉を(かい)したか(いな)かは明らかでないが、やがてチュソクは悔しそうに、

 

「私ノミデハ貴様ヲ刈リ獲レヌ。出直シダ。」

 

を捨て台詞に身を翻し、(はね)(ひら)いてギルド拠点の方角へと飛び去った。

 

「何してくれてんだよ!

 俺の放った魔法を撃ち落としやがって、ボケが!」

 

 そう声を荒らげながら女森妖精は白い甲冑騎士に歩み寄った。

 騎士は、彼女の筋違いな抗議は意に関せぬ様子で、

 

「お怪我はありませんでしたかな、お嬢さん?」

 

と問う。

 

 何だこいつ?

 と、中の人、遠藤は内心首を傾げた。

 

 (がわ)が女で中身が男、なんてユグドラシルでは珍しくもないだろうに、本気でこちらを女だと思い込んでいる助平心(すけべごころ)丸出しの中年男性プレイヤーなのか?

 

 改めて騎士の容姿を検分してみれば、光沢鮮やかな白鉻(クローム)の全身甲冑、胸の中央には瑠璃色に輝く蒼玉(サファイア)。昆虫、あるいは(ドラゴン)を想起させる仮面(マスク)は、猛禽の嘴のような面覆い(フェイスガード)顎受け(チンガード)に噛み合っていて素顔を伺わせない。

 後背には真っ赤な袖なし外套(マント)を羽織って、何故かその背後には、

 

  <正義降臨>

 

の文字効果(エフェクト)がぷかぷかと浮かんでいる。

 どうしたことか、正、の一文字だけが鏡像(きょうぞう)反転しているが、そんなことは遠藤にとってはどうでもいいことだ。

 

「あんた……ひょっとして!」

 

 遠藤には、その姿に見覚えがあった。

 

世界最強(ワールドチャンピオン)の……たっち・みー、なのか?」

 

 女森妖精の問いに、白鉻(クローム)の騎士は直接には応じず、

 

「名乗るほどの者ではありませんよ、お嬢さん。」

 

と身を翻して立ち去ろうとする。

 慌てて遠藤は騎士を呼び止めた。

 

「おい待て、待ってくれ!」

 

 決して愚鈍ではない遠藤の脳裏には、目前の騎士がかの世界最強(ワールドチャンピオン)であろうがなかろうが、防御役(タンク)としては(すこぶ)る優秀に見えるこいつをうまく利用できないか、と算盤(そろばん)(はじ)かれつつあった。

 

 ユグドラシル最終日、手持ちの主だった装備を処分し、ギルド宝物殿の金貨諸共に払い戻し(キャッシュバック)をおこなってしまったマルジットは、まったく無防備な状態だ。目下の状況は相変わらず不明なままではあるが、ログオフが出来なくなってしまい、マルジットの敗北、死亡がどのような結果につながるかはわからず、しかもそこに本能的に危険を感じている今、当座を凌ぐ最低限の装備は欲しい。

 ギルド拠点に戻って他のギルドメンバーの部屋を漁れば幾らかの貴重なアイテムが回収できる当てはあるものの、拠点崩壊に伴って叛旗を翻した百レベルNPC五体から成るかつての下僕(しもべ)たちに自分一人で立ち向かうのは、どう考えても不可能だ。

 が、この目前の騎士をうまくあしらえば、自身の誇る最大火力の超位魔法を放つ時間的余裕を稼ぎ出せるかも知れない。とにかく、百レベルNPCのニ乃至三体を一息に屠ることさえ叶えば、後は何とでもなるだろう。

 

「謝礼は払うからちょっと協力してくれ。」

 

 実際には支払いの当てなどないのだが、ひとまずは騎士にそう持ちかけてみるも、騎士はそこにはまったく関心がないようで、

 

「私は、助けを求めて待つ者たちの元へ駆けつけねばならん。」

 

とだけ告げて立ち去ろうとする。

 遠藤は、今や疑いなく自身のそれだ、と認識されるマルジットの身体(からだ)を一瞥して、不本意ながら誘惑を試みた。

 

「何なら、この身体(からだ)を好きにしてくれてもいい!」

 

「?」

 

 振り返った騎士は、何を言ってるんだこいつ?と言いたげに首を傾げている。

 女森妖精の豊満な肉体に鼻の下を伸ばした助平(すけべ)親父か、と思っていたが違うのか。

 

「頼むよ、拠点NPCに叛逆されて困ってるんだ。助けてくれ!」

 

 他人に頭を下げるなど、本来は真っ平御免な遠藤ではあったが、駄目元でそう追い(すが)ると、何が響いたものか即座に振り返った騎士は、

 

「誰かが困っていたら助けるのは当たり前!」

 

と、巨大な宝石があしらわれた胸甲(きょうこう)を張って応じた。

 

 

 

「あんたは、俺の超位魔法が発動するまで持ち堪えてさえくれればそれでいい。」

 

 改めて、先程這々の体で逃げ出した自身のギルド拠点へと歩みを進めつつ、マルジットは後ろを付かず離れずで追って来る騎士に語りかけた。

 

「百レベルNPCは五体いるが、特にヤバいのは時の支配者(クロノスマスター)のジャミルだ。俺の読みでは宝物殿に踏み込まない限りは出て来ないはずだが、あんた時間対策は大丈夫か?」

 

 そう語るマルジット自身はその力を有していた足飾り(アンクレット)を処分してしまっているので、ジャミルに先手を取られると致命傷だ、と考えていた。

 対して白鉻(クローム)の騎士は、マルジットの話を聞いているのかいないのか、

 

「お嬢さんは男のような口調で話すのだな。」

 

と、噛み合わないことを言っている。

 

「……頼むから話を聞いてくれ。

 さっきあんたが防いでくれたカマキリがチュソク。他に百レベルNPCは牛頭人(ミノタウロス)のジョラシー、鋳鉄動像(アイアンゴーレム)のユードル、三頭犬(ケルベロス)のハライドがいるが、基本的には力押しの足留め要員だから、あんたなら余裕で食い止めれるはずだ。」

 

「どうして。」

 

「ん?」

 

「どうしてキミは、彼らを倒さねばならんのかね?」

 

 前方にマルジットのギルド拠点、ネーターシティの城門が見えた辺りに至って騎士から発せられた間の抜けた問いは、遠藤を苛立たせた。

 

「あんただって、拠点NPCに叛旗を翻されたらそうするだろう!

 反逆者は討伐せねばならんし、俺には俺の財を取り戻す権利がある!」

 

 騎士は気のない様子で「そういうものかね?」などと嘯いている。

 

「そういうあんたはどうしたんだ?

 アインズ・ウール・ゴウンの連中とは一緒じゃないのか?」

 

 サービス終了したはずのユグドラシルの延長戦に巻き込まれている状況は今なお理解不能だが、今共にある白鉻(クローム)の騎士が見た目通り、世界最強(ワールドチャンピオン)の称号で知られたたっち・みーなのだとしたら、彼が所属した超有名ギルド、アインズ・ウール・ゴウンもまたこの延長戦に参加している可能性は高い、と遠藤は考えていた。

 が、騎士の返答はやはり噛み合わないものだ。

 

「彼と共に在る理由は、私にはない。彼は困ってはいないからね。」

 

 自分はアインズ・ウール・ゴウンの一員ではない、と言わんばかりの物言いに驚かされたが、それにしても自身の所属していたギルドを指して、彼、と呼ぶのは不自然だ。とまれ、たっち・みーが現在単独(フリー)なのだとしたら、このままうまく丸め込んで自身の前衛にしてしまうのも悪くない考えかもしれない、と遠藤は北叟笑む。

 

「改めて頼むが、超位魔法の充填(チャージ)が済むまでは踏ん張ってくれよ。」

 

 わかっているのかいないのか、騎士は片手を上げてひょいひょいと振って見せた。

 果たせるかな、二人はネーターシティの城門に至る。

 

 ギルド拠点が既に機能停止した今、本来はいくつかの手続きを経なければ解錠が叶わないはずの城門は、ただ重いだけの遮蔽物に過ぎない。マルジットは百レベルに相応しい、見た目にそぐわぬ怪力でそれを軽々と押し(ひら)いた。たちまちに何者かが襲いかかってくる様子はないが、拠点防衛NPCたちが城門からの侵入者に気づかないはずはない。

 二人が玉座の間へと続く大通りを進んでいくと、案の定、前方からただならぬ気配が迫ってくる。その源はすぐに視認された。

 

 無闇に肉厚な三日月刀(シミター)を両手に携えた牛頭人(ミノタウロス)ジョラシー。

 自身の背丈の倍はある金砕棒(メタルクラブ)を肩に担いだ鋳鉄動像(アイアンゴーレム)ユードル。

 噛み砕けぬものなど何もないと言わんばかりの牙を三つの口から覗かせる三頭犬(ケルベロス)ハライド。

 そして、先程も対峙した機械蟷螂(メカニカルマンティス)チュソク。

 

「騎士ノ足留メハ、ジョラシー、ユードルニ任セル。」

 

 チュソクがそう言うと、

 

「貴様に命じられる謂れはない。」

「右ニ同ジダ。罪人ヲ潰サセロ。」

 

とジョラシー、ユードルから抗議の声が上がった。

 が、これにチュソクは冷静に応じる。

 

「アノ騎士ハ、見タ目以上ニ重イ。オマエタチノ剛力(パワー)デナクシテハ刃ガ立ツマイ。

 私ト、ハライド、ノ速度(スピード)デ罪人ヲ捕ラエル。」

「手足のうちの一本はお先にいただくつもりだが、残りは生かしたまま残すことを約束しよう。」

 

 続けて発せられたハライドの言葉に、ジョラシー、ユードルは納得したようで、次の瞬間、四体の拠点NPCは二手(ふたて)に分かれ、それぞれ白鉻(クローム)の騎士とマルジットに向かって突進を開始した。

 

 対して。

 

 騎士は何でもない、という様子でその場に立ち止まり、マルジットは「あんた、わかってるよな!」と念押しを叫びながら後ろ走りに距離を取った。

 刹那、騎士の向かって左手からジョラシーの同時平行に振り下ろされた二振りの三日月刀(シミター)が、右手からはユードルの金砕棒(メタルクラブ)が横薙ぎに襲いかかる。

 

 が、次の瞬間、ジョラシー、ユードル、それぞれの目が驚きの余り見開(みひら)かれた。

 

 それぞれの超重量級の得物は間違いなく白鉻(クローム)の騎士を捉えているはずなのに、まったく手応えがなかったからだ。逆に騎士の身体(からだ)は、二人の放った攻撃の指向性(ベクトル)を丁度合算した方向へ、自然に、本当に自然に、綿毛が風の中を舞うように後退し、受け流されたジョラシーとユードルは否応なくこれに続いた。

 導かれた先は、驚くべきことに先行してマルジットを追ったチュソクとハライドの動線上だ。気付いたときは既に手遅れで、騎士と四体の拠点防衛NPCは互いに身体(からだ)(もつ)れさせながら地面に転がった。

 

「「「「なっ!」」」」

 

 チュソクたちは驚愕の声を上げるが、ただ一人、四体の怪物たちと絡み合って地面に転がる白鉻(クローム)の騎士だけが、相変わらず気の抜けた口調で呟く。

 

「痛い痛い、()めて()めて。」

 

「でかした!流石は世界最強(ワールドチャンピオン)だ!」

 

 先に引き退()いて安全距離を確保していたマルジットは、そう叫びながら、ブンブンブンッ、と右手を三度(みたび)振った。たちまちに巨大な光り輝く魔法陣が彼女の身体(からだ)を包み込む。

 

 だが。

 

 そのときマルジットは、自身に向かって突き刺さるように向かってくる何者かの視線を感じた。

 

「無思慮な者がやることなど多寡が知れたものだ。」

 

 そう嘯きながら街路の影から姿を現したのは、長い柄の戦鎌(ウォーサイス)を肩に担いだ骸骨姿の魔法詠唱者(マジックキャスター)。その骨の人差し指が、真っ直ぐにマルジットを捉える。

 

「何が起こったかもわからぬうちに死ね。

 <時間停止(タイムストップ)>!」

 

 彼……時の支配者(クロノスマスター)ジャミルの言葉通り、装備アイテムを処分し時間対策を欠くマルジットには、続いて彼女の首を一息に斬り飛ばさんと襲い来るジャミルの戦鎌(ウォーサイス)を躱す(すべ)も、そもそも何が起こったのかを知る(すべ)すらも、いずれもあろうはずはなかった。

 

 なかったはず……なのだが!

 

 ジャミルを視認した時点で「()られた」と観念していた遠藤が、恐る恐るマルジットの瞼を(ひら)いてまず見たものは、自身の前に立ちはだかる白鉻(クローム)の騎士の背、その首筋を正確に捉えつつもまったく刃が立たなかったジャミルの戦鎌(ウォーサイス)だった。

 

「痛い痛い、()めて()めて。」

 

「……いったいどうやって?」

 

 時間対策を欠く相手に<時間停止(タイムストップ)>で仕掛けたつもりが、知覚範囲外から白い騎士に割り込まれ、逆に自身が時間攻撃を受けた(てい)となったジャミルは、驚きの声を発しつつ引き下がった。

 そのまま地面で(もつ)れて転がっていた四人の()同僚に合流する。

 

 対して、マルジットは喜色満面だ。

 

「でかした!これで俺の勝ちだ。」

 

 あと十数秒で超位魔法の発動が可能になる。

 拠点NPCたちには、最早次の攻撃や回避に転じる時間的余裕がない。

 

「何故だ。」

 

とジャミル。

 問うた相手は、マルジットではなく、その前に立ちはだかった騎士だ。

 

「何故そいつを(かば)う。そいつは罪人だ。」

 

「罪人?」

 

 騎士は、つい先程自身の首を跳ね飛ばさんと迫った相手の言葉に、素直に耳を傾けた。

 

「そう、罪人だ。

 その馬鹿女は、我らがギルドの維持資金の横領犯だ。」

 

「それはよくないな。」

 

 騎士は、ジャミルたちの方へ数歩(あゆ)み寄って身を翻し、光り輝く魔法陣に包まれたマルジットに(きっ)と人差指を突き向けた。

 

「彼らから不当に奪ったものを返してあげなさい。」

 

 マルジットは、騎士のこの様子に呆気にとられる。

 

「真性の間抜けなのか、おまえは?

 ……まぁ、どっちでもいい。この際一緒に吹き飛んじまえ!」

 

 機は熟した。

 間抜けな騎士は、既に用済(ようず)みだ!

 

「超位魔法、<失墜する天空(フォールンダウン)>!」

 

 すべてを焼き尽くす超高熱の光球が、騎士の直上で膨張を開始する。

 発動してしまった一過性の超位魔法を食い止める手立てはない。

 

 一般論としては。

 

 だが!

 ひょい、と騎士は右手を上げて軽く振る。

 

 すると。

 すべてを呑み込まんと膨れ上がった光球が、どうしたことか左右()(ぷた)つに割れたではないか!

 

「馬鹿な!」

 

と叫んだのが、放ったマルジットであったか、後ろからこれを見ていた五人の百レベル拠点防衛NPCであったかは定かでないが、切り裂かれた光球はそれぞれ左右方向に飛散して消滅した。その余波で東西数棟の建物が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

「痛い痛い。」

 

 本気でそう思っているのかいないのか、白鉻(クローム)の騎士だけがやはり()の抜けた声色でそう言いながら、超位魔法の超高熱を切り払った自身の手の甲を撫でている。

 

 そしてやおら、

 

「さぁ、返してあげなさい。」

 

と再び人差し指を突き向ける騎士。

 問われたマルジットはいきり立った。

 

「あと一歩だったのに何してくれてやがる!

 それに、金貨は払い戻(キャッシュバック)しちまってもうねーよ!」

 

 マルジットのこの返しに対し、騎士はやはり、何でもない、という調子で 

 

「もうないのだそうだ。

 (ゆる)してあげてはどうかね?」

 

 ジャミルたちを振り返ってそう問うた。

 

戯言(ざれごと)だ。

 我らが至誠を踏み(にじ)りギルド拠点を崩壊させた罪は死を以て償われねばならん。」

 

「それはこっちの台詞(せりふ)だ。

 己の主人に楯突いた(むく)いはくれてやらんと収まらんぞ!」

 

「忠誠の鍵が失われた今、おまえはただの裏切り者だ。」

 

「NPC風情が何をぬかしやがる!」

 

 自身を挟んで交わされた罵倒の応酬に、はーっ、と騎士は溜息をつく。

 

「双方、鉾を収めるつもりはない、と?」

 

 改めてマルジット、ジャミルたちをきょろきょろと見回しながら騎士は問うた。

 いずれからも応答はない。

 

「……仕方ないな、気は進まないが。」

 

と騎士。

 

 同時に何かが、ガバッ、と裂けるが如く(おぞ)ましくも耳障りな音を立てながら、騎士の猛禽の嘴のような面覆い(フェイスガード)顎受け(チンガード)の間に横一文字に亀裂が走り、やがてそれは、パカリッ、と口を(ひら)いた。

 

 その中は、闇よりも深い漆黒の闇。

 その奥底に、俄に小さな光点が生じだんだんと大きくなっていく。

 

 その声は。

 いったいどこから生じているものなのか、騎士がぽそり、と一言(ひとこと)

 

「喧嘩両成敗だ。」

 

 ギルド境界の見張り(ボーダーガード)の残党たちの命脈は、たちまちに絶たれた。

 

 

                    *

 

 

「コノ立チ位置カラ、コウ……デスナ。」

 

 そう言いながら、蟲王(ヴァーミンロード)コキュートスは、右上腕に構えた(かたな)を一気に振り下ろした。その先には、彼の(あるじ)、大魔王アインズ・ウール・ゴウンの姿があるが、アインズにこれに対して応じる様子はまったくない。

 

 その刃先は正しくアインズの首筋を捉え、皮一枚の距離で、ピタリ、と止まった。

 

「受ケタ者ハソノママ一歩モ動カナカッタヨウデスガ、倒レタ形跡モアリマセン。」

 

 二人は、ナザリックの目ニグレドの長距離探査(ロングレンジスキャン)で発見されたギルド拠点遺構ネーターシティ……もっともその名は彼らの知るところではない……を望むガレ地に立っている。

 

 <転移門(ゲート)>を潜り抜けるや否や、すぐにコキュートスは(かす)かに遺された何者かの足跡複数に気づき、それを辿りながらここで直近にどのような戦闘がおこなわれたかについて、アインズに実演込みで再現してみせた。

 曰く、まずギルド拠点から駆け出して来た人間もしくは亜人の、足の寸法(サイズ)からして女が一人。これに追い縋った自身同様の蟲系の何者か。加えて、今丁度アインズが立っている場所で立ちはだかり、蟲が放った一撃を受け止めた者がある。

 しかも、おそらくは致命的一撃(クリティカルヒット)技能(スキル)と思われる蟲のそれを受け止めた者は、(かわ)すでもなくただそれをそのまま受け止め、一歩も退(しりぞ)くどころか反動で動かされた形跡すらなく、倒れてもいない。

 

 これは、女森妖精(エルフ)来訪者(プレイヤー)マルジットを追った機械蟷螂(メカニカルマンティス)チュソクの必殺の一撃の前に白鉻(クローム)の騎士が立ちはだかった痕跡を正しく捉えたものだが、そんな仔細は彼らの知るところではない。

 

 アインズは、ただただ一見脳筋(のうきん)に見える下僕(しもべ)コキュートスの存外頭脳明晰なことに関心する一方、彼が看破して見せた出来事に一抹の不安を覚えてもいる。

 

 ギルド拠点から逃げ出したのは、おそらくはギルド資金蕩尽を引き起こしたプレイヤー、追ったのはそれに立腹した拠点NPCだ。

 それぞれの詳細は記憶にこそないものの、千数百年に及ぶ歴史の中で繰り返し観測されてきた、ユグドラシル最終日に金貨の払い戻し(キャッシュバック)をおこなった者が辿る末路であるのは疑いない。

 

 だとすれば、これに割って入ったのは……。

 いずれにも組みせぬ第三者、ということになる。

 

「コノ、追手ノ攻撃ヲ受ケ止メタ者トハ、叶ウモノナラバ一戦交エテミタク。」

 

 あ、やっぱ脳筋(のうきん)だわ!

 

「……無用だ。

 おまえの剣は、ナザリックに(あだ)なす者に振るわれてこそ価値がある。違うか?」

 

「仰セゴモットモ!」

 

 たちまちに恐懼するコキュートスに、アインズは片手をひょいひょいと振って、気にするな、と示して見せた。

 

 二人並んで北へ向かえば、ギルド拠点遺構と思われるそれはすぐに見つかった。

 ここでもコキュートスは、さきほど彼の関心を惹いた足跡の持ち主が、蟲を含む種族ばらばらの五体を相手に大立ち回りをやってのけたことを読み解いてみせた。

 

「コノ人物以外ハ、彼ニ救ワレタト見エル者モ含メ、皆最後ニハ倒レテオリマス。コノ人物ノミガ倒レズ、足跡ガ中途デ消エテオリマスノデ……」

「飛び去った、ということだな?」

 

 この時点でコキュートスの言う、この人物、におおよその当たりを付けたアインズがそう割り込むと、やはりコキュートスは畏まって「仰セノ通リデ御座イマス、アインズ様」と(こうべ)を低くした。

 やはりそれに対して片手をひょいひょいと振って応じたアインズは、コキュートスが読み取った事実を元に、ことユグドラシルの戦理戦術に関してはコキュートス以上に明晰な自身の頭脳を全力(フル)回転させて、ここで何が起こったのかの追跡(トレース)を試みた。

 

 プレイヤーは一人、足跡からすれば人間か亜人だ。

 転移直後、忠誠心を失った拠点NPC一体に追われて逃げ出し、その中途で何の当てあってか助けを求める声を上げたのに違いない。よもや応える者があろうなどと当人は考えもしなかっただろうが、この世界にはこれに応じる物好きがある。

 

 白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツアーの孫にして、ナザリック地下大墳墓の執事、竜人セバス・チャンの息子、タッチだ。

 

 タッチに一命を救われたプレイヤーは、そのまま立ち去っていれば余生を過ごせたものを、何をとち狂ってかギルド拠点にタッチをつれて引き返したらしい。おそらくは、転移して来なかったギルメンの私室に残っているであろうアイテムに未練があったからだ。

 五体のNPCを食い止めたタッチに対し、プレイヤーの立ち位置が随分と離れているのは、プレイヤーが魔法詠唱者(マジックキャスター)で、タッチに防御役(タンク)を任せて自身は超位魔法による一気殲滅を狙ったからだ。

 アインズからすれば、本来超位魔法は牽制か圧倒優勢下での駄目押しに用いるものであり、そこに形勢の一発逆転を賭けるなどというのは言語道断の用法、ということになるが、このプレイヤーが装備を欠いて追い詰められていたこと、拠点NPCの突如の叛逆に感情的になっていたことを考えれば、まぁ、そこは無理もないか、とは思う。

 

 ここからが支離滅裂だが、戦いのあった大通りの左右、ギルド拠点の東西方向に対称的な破壊の痕跡があるのは、南から北に向けて放たれた大火力の攻撃魔法、おそらくは<失墜する天空(フォールンダウン)>が、タッチが立っていたと思われる地点で左右に切り裂かれ、東西方向に流れ弾となったことを示唆している。

 超位魔法に対してそんなことが出来るはずはない、と言ってしまえばそれまでだが、それを言ったらアイツは呆れたことに、この世に砕けぬものなど何一つない父親(セバス)の渾身の一撃を、真正面から受け止めて涼しい顔で耐えてみせた化け物だ。何が出来たとて驚くには値しない。

 むしろ謎なのは、途中までプレイヤーに加担していた……これも謎だが、余程そのプレイヤーは()()()いるように見えたのだろう……タッチが、突如プレイヤーの魔法を弾き飛ばし、そしてその直後に、いったいどうやったのかは皆目見当もつかないが、そのプレイヤーをNPC諸共に殲滅したのは何故か、の方だ。

 

 そう、まさにそこが問題だ!

 とアインズは独りごちる。

 

 そもそも記憶の続かないアインズが、こうしてツアーの孫、セバスの息子であるタッチに思いを馳せることが叶うのは、最初の邂逅以来、ツアーが常にそうであるのと同様に、ナザリック地下大墳墓の危機管理(クライシスコントロール)上の問題として、タッチが念頭にあり続けているからだった。

 

 ツアー、そしてその娘コニーは、ちょいちょい可怪(おか)しなところが見え隠れこそするものの、少なくとも問答無用に力に訴えて出るような阿呆ではないし、常識の不一致を覚えることはしばしばあれども、基本的には対話で互いに理解し合おうとする性向を有している。

 対してタッチは、少なくともアインズから見る限りにおいて、自身の認識や行動原理に微塵の疑いも持ってはおらず、他者の理解や共感など(はな)からまったく期待していない存在に見えた。

 

 それはすなわち。

 事前にその判断や行動を合理的に予測することが、極めて困難であることを意味している。

 困った人を見境なく助ける、という明快な性癖を隠しもしていないのに、だ。

 

 ……そんなところまで父方の祖父(たっち・みー)そっくりとは!

 まったくコニーとセバスは、厄介な化け物をこの世に解き放ってくれたものだ!

 

 いや……元を糺せばオレのせい、なのだろうか?

 

「……<伝言(メッセージ)>!

 あ、オレだ。残敵がいないことは確認した。調査班を頼む。」

 

 一旦思索を打ち切って、アインズはいつものようにパンドラズ・アクターに残留物回収と調査をおこなう部隊の派遣を命じる。自身の考えに間違いがなければ、ギルメンの私室からはそれなりに価値のあるアイテムが回収できる可能性は高い。

 

 さて。

 と再びアインズは呻吟する。

 

 アレは単に極端に打たれ強いだけのお気楽極楽野郎だ、と思っていたが、今回認識された事実は、タッチがその気になりさえすれば、プレイヤーを含むユグドラシルキャラクター六体、おそらくいずれも百レベル(カウンターストップ)を、一息に反撃も許さず仕留められる超弩級の化け物であることを示唆している。

 しかも困ったことに、その引き金となる逆鱗……腐ってもタッチは竜王(ドラゴンロード)なのだから、本当に文字通りの()()、ということになる……が、何処にあるのかがまったくわからないのだ。

 

 そんな危なっかしい存在が、今この瞬間もこの世界で野放しになっているだなんて!

 まったく、神も仏もない、とはまさにこのことだな。

 

 と、アインズは、自分もまた(はた)から見ればそうであることを清々(すがすが)しいまでに棚上げして、物思いに耽るのであった。

 

 

                    完

 

 




<次話予告>

「この者はかねてより想定されていた最悪の部類と考えるべきだろう。楽しい限りじゃないか!」

 狡知の参謀(デミウルゴス)の哄笑に反し、アインズに呼び掛けて来た来訪者(ユグドラシルプレイヤー)は、まったく想像の埒外のことを語り始める。

 億劫のオーバーロード余21話『告解(こっかい)

「私の……告解に耳を傾けていただきたい。」

 ……はぁ?

「こ、国会?」

告解(こっかい)()()げるの意で、罪を告白し赦しを乞うこと、で御座います、アインズ様。」
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