億劫のオーバーロード   作:wash I/O

6 / 144
転移歴211年。
アインズはパンドラズ・アクターの講談に付き合わされている。


5.バハルス帝国興亡史(2)

「痛かったので御座いますよ!」

 

「すまん……つい、な。」

 

 講談の続きを出し惜しみするパンドラズ・アクターにキレた我儘気儘な大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、半ば脊髄反射的に<三重魔法最強化(トリプレット・マキシマイズ)>した<現断(リアリティ・スラッシュ)>を放って、その触手を随分と斬り飛ばしてしまった。

 

「あーぁ、これでは肝心のバンバンッが出来ません。」

 

「生やせるだろ?すぐに!」

 

「……」

 

「続きを!」

 

「そ、それが、下僕(しもべ)とは言え人に物を頼む態度と言えましょうか!」

 

「<あらゆる生ある者の(The goal of)……」

 

「喜んでやらせて頂きますとも、父上ェ!」

 

 

                    *

 

 

 さぁて皆様お立会い!

 

 バンバンッ!

 

 颯爽と登場いたしましたるところの皆様ご存知、第七代鮮血帝ジルクニフ・エル・ニクス!

 

「誰だよ?」

 

 

 

「はぁ?

 何ですか、いきなり腰を折って!」

 

「いや……何か繰り返し『皆様ご存知』とか言ってるけど、誰それ?」

 

「ちょ!

 それは流石にいけませんでしょう、父上。」

 

「?」

 

「お忘れですか?

 父上はこのジルクニフをわざわざナザリックにお招きあってご下問なされたのですよ。」

 

「!

 そうなの?

 

 ……っつーか、憶えてるわけねーだろ!」

 

「いや……無論それはわかった上で申し上げてはおるので御座いますが、それにしてもその逆ギレは如何なものかと……」

 

「すまん、それはごもっとも。

 続けてくれ。」

 

「ハッ!」

 

 

 

 バンバンッ!

 

 颯爽と登場いたしましたるところの皆様ご存知、第七代鮮血帝ジルクニフ・エル・ニクス!

 

 バンバンッ!

 

 親兄弟の血を啜っても帝位に登らんと欲したその姿に、帝国臣民は狂喜乱舞ぅ!

 

 バンバンッ!

 

 久方ぶりの、真の歓呼を以て推戴された皇帝となったのでごーざーいーまーすぅーーー!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 それからのジルクニフと申しますと、とにかく仕事が早い!

 

 バンバンッ!

 

 腹の探り合いで停滞しておりました国政をば一気に整理整頓いたしましてぇ、無能な名ばかり貴族をこれまたばっさばっさと粛清いたします。

 まぁ、考えようによりますれば、このとき粛清されました皆々様はこちらの皇帝のお祖父(じい)様がご自身のご都合にて貴族に据えられた方々で御座いますれば、有り体に申しますとこれはいわゆる生贄の羊(スケープゴート)、溜まりに溜まった帝国臣民の停滞への不満の捌け口として処断された観がなきにしもあらずでは御座いますが、これを果断にもやり遂げましたるところが鮮血帝の鮮血帝たる所以(ゆえん)と言えばそれはそうなのでぇ御座います。

 

 疾風怒濤に内部の政敵を一掃いたしました七代は、次なる生贄の羊にアゼルリシア山脈を挟んで西側、今は亡きリ・エスティーゼ王国に狙いを定め、毎年のように出兵を繰り返します。

 

 バンバンッ!

 

 敵もさる者ひっかくもの、容易に軍門には(くだ)りません。

 

 ところがどっこい!

 

 バンバンッ!

 

 そもそも七代には王国を攻め取ろうなんてつもりは毛頭御座いません。事大主義に腐り切った王国など支配したところでなんの旨味も無し、御するに手間を増やすだけ!嫌がらせの侵攻を繰り返せば王国がいずれ内破すると読んでこれを続けたので御座いますが、転機を迎えましたるは、奇しくも我らがナザリック地下大墳墓がこちらの世界に降臨あそばしました年!

 

 バンバンッ!

 

 後の世に死都エ・ランテル、なんてぇ物騒な名前で語り継がれましたる事件を踏み台に、鮮血帝の名に(たが)い、ほぼ無血に見事王国東部を切り取ってぇみせましたぁからお立会い!

 そこの旦那ァ!

 

 ……

 

 ……

 

「あ、父上?」

 

「……え、何、続きを、早く!」

 

「いや、ここなんですよ、父上がジルクニフを召された時宜(タイミング)。」

 

「そうなの?なんで?」

 

「……こっちが聞きたいわーーー!」

 

「ま、そりゃそうだわな。」

 

「その辺の経緯を知りたい方は『記憶のオーバーロード』第11話をご参照あれかし、といったところで御座いますな。」

 

「ちょっと待ってて、最古図書館(アッシュールバニパル)で探して読んで来るから。」

 

「!

 いや、ここでそういう切り方をすると、流石にキレませんか?」

 

「オレが?

 んなこたないよ。」

 

「いや、読者が。」

 

「……誰が、と言った?」

 

「いやですから読

 

 壁ドン!

 

「それは……禁忌(タブー)だとは思わないか?思うよなー!」

 

「……いや、父上。それ、もう以前に使ったやつですから。」

 

「うーむ……記憶が維持できんというのは、(つら)いな。」

 

「まことに以て。」

 

「苦しうない、続きを!」

 

「ハッ!」

 

 

 

 いそいそいそ……。

 

 

 

 バンバンッ!

 

 その後軍略のみならず内政にも天賦の才を発揮いたしましたるところの七代は、王国東部切り取り成就に湧き上がる臣民の勢いを物の見事に操りまして、怒涛の勢いで国を富栄えさせたのでぇ御座います。

 

 面白からぬのはエ・ランテルを切り取られましたるところの王国で御座います。

 

 長年の激務の為せるものかすっかり禿げあがりおあそばしました七代が御年(おんとし)五十にお成りになろうかという時分に、ついに血気盛んなれど無知蒙昧で知られたボウロロープ侯爵が勝算もないまま只々御本人だけが今だ保ちたると信じるありもしない面目を守ろうと決戦の軍を起こします。

 これがエ・ランテルを望む平原での野戦に果たせるかな見事に大敗、鮮血帝の啓蒙的な人格に漬け込みましてぇ、あろうことか、自国領土の都市エ・ペスペルの民を質に取って立て籠もりましたからさぁ大変!

 

 バンバンッ!

 

 七代は大いに悩みます。これぞ積年の毒、後顧の憂いを一挙に片付ける好機なれども、民を巻き込んでの市街乱戦と相成りますれば無辜の民はもちろんのこと、精鋭を揃えましたる帝国軍団もただでは済みませぬ。愚かに過ぎるボウロロープ一党と、ご自身を歓呼して止まぬ忠義の兵士を天秤にかけてよいものか、と呻吟いたしますところで登場いたしますのは……

 

 あ、はい。

 わかってます。

 

 盛り上げます。

 盛り上げますから黙ってて下さい、邪魔なので。

 

「……今の、何?」

 

 

 

「あ、こっちの話です。どうぞお気になさらず。」

 

「続きを。」

 

「ハッ!」

 

 

 

 バンバンッ!

 

 登場いたしますのは、七代幼少の砌より師父と付き従い、登極の後は少なからずその治世に助言してきた世に名高い三重魔法詠唱者(トライアッド)フールーダ・パラダイン、その人で御座います!

 

 バン、バン、バン、バン、ババンッ!

 

 このとき御年(おんとし)裕に二百五十を数えたこの大老魔法使いが自ら願い出まして七代に申し上げましたるわぁ!

 

 バンバンッ!

 

 ボウロロープ如きに忠義の士の一兵たりとも損なうことあるべからず!

 

 バンバンッ!

 

 エ・ペスペルの民は憐れなれどもこの際は、忌まわしき禁じ手として秘したるところの無差別魔法爆撃を以て、後顧の憂いを一網打尽に断ち申し上げなん!

 

 バンバンッ!

 

 後世に、鬼よ悪魔よと蔑まれることあろうとも、七代の覇業に功成して、迷いに迷いたる王国の民草に、新たな地平を切り開きたる礎と成り得ることこそあらば、残す悔いぞ!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 あろう!

 

 バン!

 

 はずも!

 

 バン!

 

 御座!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 そぉらわずと、覚えたりぃーーーーー!

 

 バン、バン、バン、バン、ババンッ!

 

「ちょっとくどくない?」

 

 

 

「……はぁ?」

 

「いや、なんか急にパッと出が、七代とやらより目立っちゃってない?」

 

「いや……情報源(ネタ元)からのたっての要望(リクエスト)で御座いまして。」

 

「?

 

 ……ま、いいや。

 続き!」

 

「ハッ!」

 

 

 

 バンバンッ!

 

 かくして!エ・ペスペルを生贄に、王国南部は軍門に(くだ)ったのでぇ御座います。七代は降った者たちをたちまちに御するは返って障りありとご判断あって、帝国自由都市なる新たな有り様を示されました。以て王国南部は共和都市が林立するに至り、旧態然たる王国貴族は北部へと追いやられたのでぇ御座います。

 

 バンバンッ!

 

 さぁて皆様お立会い!

 

 バンバンッ!

 

 ここまでは本作世界(シリーズ)のお浚いにで御座候。

 これより語りまするが今作独自(オリジナル)!好き勝手に語るところの……大概ここまでも無茶苦茶では御座いますがぁ!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 バハルス帝国のその後、ということに相成りますれば、今しばらくのお付き合いを。

 

 バンバンッ!

 

 人間五十年化天(けてん)のうちをくらぶれば夢まぼろしのごとくなり、なんぞと申しますが、その五十も大きく過ぎ越しましてぇ、鮮血帝なる二つ名を戴きし七代とて赤き血の通いたる人の子……シロクロちゃん、のことでは御座いませんぞぉ……人の子たれば、命終には(かな)いませぬ。

 天は二物を与えずと申せども、幾才に恵まれましたる七代は(つい)ぞ実子に恵まれず、帝国四騎士と謳われたニンブル・アノックとレイナース・ロックブルズの間に生を享けし次男ヨンブルを養子に迎えましたるは遡ること数年前のことにて御座いました。

 

 そしてむべなるかな、いよいよご臨終のときがやって参ります。

 

 帝国西方の守りを任されましたヨンブルの兄サンブル・アノックは、七代崩御の報せを受けましてぇ昼夜を駆けて一路エ・ランテルから首都アーウィンタールに至ります。俄に血を分けましたる実弟ヨンブルの前に膝を折り、これなる者こそ八代よ、歓呼を以て推戴あれ!とのたまえば、集いたる帝国兵、皆、滂沱の涙を流してこれに応えたので御座います!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 さて皆の衆、ここで一つご思案賜りたい。

 

 兄サンブルが皇帝嗣子たる実弟ヨンブルに膝を屈して筋目を正したるは一見美談なれども、これ、アノック家によるエル・ニクス皇家の簒奪にてはぁ御座候わずや?

 

 両親に似て眉目秀麗、勇猛果敢、聡明叡知なるこの兄弟はそこに思い至らぬほど愚かでは御座いませんでした。ヨンブルは、何を思ってか子をもうけようとは致しませぬ。嘘か(まこと)か終生独身、女性(にょしょう)の香りも致しません。どころか、フールーダの愛弟子アルシェの伝手あって七代とも親交厚く、晩年教育にお力入れあった七代の思いを受けて設立されましたるところのゴルトロン孤児院から将来有望な若者を多数召し上げ、軍団に配して鍛え上げます。

 その中より最も優れ衆望を得た者を選び、これを養子に迎えるとほぼ同時に、命運尽きて崩御なさったので御座います。果たせるかな、サンブルの家督を継ぎしゴンブル・アノックが、父の(ひそみ)に倣って帝都に駆けつけます。ゴンブルは、兵士の間でこそ信望あれども帝国臣民の間では無名の孤児の前に膝を折り、これなる者こそ九代よ、歓呼を以て推戴あれ!とのたまえば、集いたる帝国兵、皆、またしても!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 滂沱の涙を流してこれに応えたので御座います!

 

 かくして皇位に立ちましたる九代は、最早伝説、帝国中興の祖ジルクニフを襲名申し上げましてジルクニフⅡ世ということに相成りましてぇ御座います。

 つまりますところ、七代が実子に恵まれなかった悲運は、世襲の弊害を廃し真に軍団の信望厚きものをこそ皇帝に推戴あれかしと、母兄弟を弑し奉り子を成さぬ我が身を以て範垂れるべくかくあった、との読み替えがここにおこなわれたので御座いました!

 

 バンバンッ!

 

 さてさて、九代を推戴奉ったゴンブルは、祖父母、父の薫陶厚く、これまた聡明な人物で御座いました。俄に九代と語らって曰く、今こそ帝国の将来を盤石たらしめる布石をおこなう機運ですぞと使嗾して、今日(こんにち)に至る国家体制を整備致しました。

 

 いわゆる東西バハルス帝国分裂にて御座います!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 一つには旧来の帝国領土を以て仮初(かりそ)めに東バハルス帝国と称し常備三軍三万余を配すこと!

 

 バンバンッ!

 

 二つには七代が王国より切り取りたる新領土(ノイエラント)を以て西バハルス帝国と称し常備四軍四万余を配すこと!

 

 バンバンッ!

 

 三つには次代以降皇帝は軍団にて鍛え上げられたる孤児を東帝国三軍の歓呼を以て推戴あること!

 

 バンバンッ!

 

 四つにはアノック家に臣民の(おさ)たる副帝の称号を下賜奉って世襲を許し一軍に忠誠を誓わせること!

 

 バンバンッ!

 

 五つには西帝国の残る三軍は皇帝に直に忠誠を誓わしめ副帝に叛意あれば誅伐あること!

 

 バンバンッ!

 

 六つには東帝国に懈怠あるときは西帝国四軍を以てこれを糾すこと!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 流石に皇帝は実子をもうけざるべきこと、とまでは、不文律にて定め申し奉らず!

 

 バンバンッ!

 

 さーても、さても!

 

 もっともらしき美辞麗句に飾られども、得をしたのは結局アノック家だけじゃね?とお疑いの聴衆もおありかとは存じますが、当時を知る者の証言によれば、存外初代副帝の栄誉に浴したところのゴンブル・アノック改めニンブルⅡ世は、これが帝国安寧の良計なり、と本気で信じていたようなのでぇ御座います。

 ニンブルⅡ世が治めますところの西帝国は東帝国に比して領土はおよそ三分の一。第二帝都と定められましたエ・ランテルはリ・エスティーゼ王国残党、スレイン法国といった潜在敵に対する最前線であり、アノック家が不利な条件を甘受しつつ自身を帝国の番兵たれ、と考えておったのは疑いようも御座いませんが、この時点で帝国内政を司る官僚団を帝都アーウィンタールに残置しつつも帝国魔法省だけはエ・ランテルへ移設し、以降帝国情報戦略の拠点がこちらに転じたのも、これまた事実なので御座います。

 

 さーれど、されど!

 

 如何に巧妙に編み上げたる計略も、人知に由来するものは砂上の楼閣の如く崩れ去るが世の定め。七代は親政を旨となさいましたが、同時に優秀な官僚団も育成あそばしますれば、帝国の遺産としてこの時分にも十二分に機能しておったので御座いますが、それは同時に東帝国で孤児より推戴されるところの皇帝が、親政を建前としつつも実のところは神輿の飾りに過ぎぬことも含意していたのでぇ御座います。

 

 事実筋目に従い孤児より推戴されたる十一代ジルクニフⅣ世は、正妻こそ娶らねど密かに内縁の妻を囲って子をもうけたので御座いますが、流石に身のほどを弁え世襲を試みようとは致しませんでした。これは偏にお飾り皇帝は世襲の後ろ盾を欠いたゆえで御座いますが、少なからずこの事実を見知っていた官僚どもは敢えてこれを諌めず内々のこととして処理いたしました。既にこの時点で制度の形骸化が始まっていた証し、と小生などは思いまするが、皆々様は如何お考えになりますことで御座いましょうや?

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 されば、でぇ御座います!

 

 振り返って慮りまするに、画期となりましたのはフールーダが愛弟子、御本人がその座を望んだ訳じゃぁ御座いませんが、前世代よりの事実上の御目付となっておりましたアルシェ・フルトなる女傑の大往生でぇ御座います。女性のお歳を云々申しますのはいささか憚られますれども、享年百五十とも六十とも伝えられてはおりますがぁ、とまれ、アルシェはよくもまぁ踏ん張りはいたしましたが、悲しいかなフールーダにアルシェがあったような後継者を得ることが叶いませんで御座いました。

 

 さて、如何相成りますでしょうかぁ?

 

 バンバンッ!

 

 はい、そうで御座います。大層ご立派な決め事も所詮は人が営むものにて御座いますれば、(かなめ)の御仁が世を去りましてぇ、またその薫陶目出度き辺りも徐々に後を追う時分になってぇ参りますと、いささか寒ぅなってぇ参ります。十二代が崩御なさいました折、東帝国はなんやかやと口実をもうけまして次代を推戴いたしませんでした。

 

 聞くところによりますと、推戴歓呼には、やれその時点の実効兵数の何割が首都に参集しておらんと罷りならんとか、他にもあれぞこれぞと建国時にはこれなく(のち)の世に悪気なく降り積もりました仕来(しきた)りが御座いまして、兵隊さんが動きますってぇと、裸一丁で参るわけにはいきませんですし、帝国も七代さんの時分よりは随分とまぁ豊かになって参りまして、元来質実剛健を旨として参りました帝国では御座いますが、その帝国が滅ぼしましたところの王国を内から蝕んだ事大主義、とでも申しますか、これまた皮肉な話では御座いますが、制式採用されたところのパリッと致しましてピッカピカに磨き上げた甲冑なんぞを身に纏いまして首都まで行軍せねば推戴歓呼に(あら)じなんてことになって参りますと、非合理極まりないことながら、もうどうにもなりません。

 もちろん兵隊さんにはそれに飯だの何だのを供する皆々様も付き従って参りますれば、平たく申しますれば要する費用も馬鹿にならず、しかも大枚叩いて得ますところはお飾りの皇帝陛下となって参りますと、算盤が合いません。

 

 これに加えまして、孤児、というものの性格も随分と変わって参ります。七代さんの禿頭の功徳も御座いまして、帝国皇帝たるもの身を粉にして禿げ上がるまで臣民の期待に応えるべし、なんてぇお題目が御座いますから、流石に我が子を孤児と偽って皇帝に成さしめんと図った不届き者は知られてはおりませんが、国が豊かになって参りますとそもそも孤児の数が減って参ります。減ってまいりますと、そこから優秀な人材が輩出される賽の目も減って参ります。こういったところもまた、十三代さんが推し上げられなかった遠因だったのでぇ御座いましょう。

 

 バンバンッ!

 

 さすれば!

 

 名目上は、西帝国の副帝アノック家当主は筋目上は糾問の軍を起こしまして東帝国をとっちめねばなりませんが、これがまたそう易々(やすやす)とは参りません。理屈の上では四対三、西が有利と決まっておりますが、アノック家直臣は一軍のみにて残る三軍は皇帝直臣と定められておりますれば、東の推戴歓呼を忌んだ空気は当然こちらにも伝わっておりまして、なかなか四軍一枚岩にはなりません。

 

 こちらも加えまするには、そもそも西の定数が多いのは、建前上は帝国自由都市とスレイン法国に不穏の動きあるやも知れず、副帝はこれに備える要ありて、と辻褄されたもので御座いますが、実態は、腰砕けの自由都市も法国も後背を襲うことはあるまいと前提されておりました。

 

 ところがどっこい!

 

 バンバンッ!

 

 俄に立ちましたる人の子シロクロが法国を報国に改めましてからは、陰謀の気配こそ伝わっては参りませんが、その国威が日に日に盛んなのは日を見るより明らかで、しかもこのシロクロちゃん、何をお考えかぁ傍から見る分にはさっぱりきっぱり訳わかめなお嬢さんにて御座いますれば、全軍上げていざ東進なんてぇことは成り立たなくなったのでぇ御座います。

 

 さーれども!

 

 バンバンッ!

 

 副帝ニンブルⅣ世までは、これまたなんやかやと理屈を捏ねまして、東に皇帝立たず副帝これを糾さずの現状追認でなんとか誤魔化して参りましたが、この後を襲ったニンブルⅤ世になって参りますと、本人の資質もさることながら、支える人材も枯渇して参りますればやることなすこと現実味が御座いません。

 

 そこでこちら様がひょいと北に目を向けますってーと、何やら牧歌的ながら大軍団を擁する者たちが控えて御座います。そう、ご存知ド・クロサマー王国で御座います。

 

「ひょっとして、その……」

 

「あ、父上。

 それ、もういいですから。」

 

「……あっそ。

 続けて!」

 

「ハッ!」

 

 

 

 よりにもよってニンブルⅤ世、過去にド・クロサマー王国が帝国を攻め立てたことが皆無であることをどう勘違いしたものか、急使を派して命じたので御座います。

 

 バンッ!

 

 東バハルス帝国を糾す(いくさ)に参陣し積年の恩義に報いるべし!

 

 バンバンッ!

 

 受け取ったド・クロサマー王国から致しますってーと!

 

 バンッ!

 

 何それー、美味しいの?

 

 バンババンッ!

 

 ってなもんで御座います。

 するっと無視されましたのもむべなるかな。

 

 こうなって参りますと命じた側は面目が立ちません。直臣の一軍を以てド・クロサマー王国、実態としては辺境の閑村で御座いますがぁ、構えだけは立派な城柵の前にずらりと陣取りまして威圧します。エ・ランテルに攻め込んだこともないへっぴり腰、帝国軍団の威容に恐れをなしてへいこらへいこら従うものと舐めてかかったもので御座いましょうか?

 

 バンッ!

 

 無論、そうは問屋が卸しません!

 

 バンバンッ!

 

 滞陣すること幾日か、そもそも相手を舐めてかかっておりました帝国軍から欠伸なんぞも聞こえ出しましたまーさーにその時、突如、目前の城柵からではなく、帝国軍左翼方向より、何も見えぬのに鬨の声が俄に上がったので御座いましたぁ!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 これなん蛇人(ナーガ)、かつては西の魔蛇(まじゃ)なんてぇ物騒な二つ名で知られましたリュラリュースが率い、得意とするところの隠形の魔法で<不可視化(インビジブル)>致しました蜥蜴人(リザードマン)の精鋭斬り込み隊でぇ御座います!

 

 バンッ!

 

 その数は、帝国軍一万余に対し僅か三十と(すこ)し!

 

 バンバンッ!

 

 さーれど、されど!

 

 そもそも士気高からぬ上、自分たちが何をしに当地へ参陣したか解しもせず、突っ立っておれば帝国の威に何もせずとも相手が(くだ)ると言い聞かされていた輩に、何の抗す術が御座いましょうや!

 

 バンッ!

 

 実に三百余倍の兵力差なんぞ物ともせず!

 

 バンバンッ!

 

 帝国軍は、あれよあれよと言う間に総崩れ!

 

 バンババンッ!

 

 怪我人多数を放り出して!

 

 バンッ!

 

 一目散にエ・ランテルへと……逃げ帰ったのでごーざーいーまーすーーー!

 

 バン、バン、バン、バン、ババンッ!

 

 さらに追い討ちを掛けましたのは、幾日かの後に不意にエ・ランテルにぷかぷかと飛んで参りましたU・F・Oかと見紛う巨大な網籠!

 

 バンッ!

 

 覗き見ますってぇと、日持ちする果物多数と包帯でぐるぐる巻きになりました怪我人多数が乗っております。

 

 バンバンッ!

 

 その中央には、蝋人形の如く表情を欠く黒衣の魔法詠唱者(マジックキャスター)唯一人!

 

 バンババンッ!

 

 当代女王陛下の言伝てを言上いたしますには、今後このような無法のなきよう、怪我人とお見舞いをお届けします、なんてぇ来た日にゃぁ、アノック家の面目丸潰れ!

 

 バンッ!

 

 しかもこれまた間の悪いことに!

 

 (くだん)の黒衣の魔法詠唱者、何をとちったか己の道服の裾を踏んづけてすっ転びますれば、顔面の化粧が落ちまして、骸骨の相貌が顕わになったのでぇ御座います!

 

 バンッ!

 

 え!

 あれってば……髑髏(ドクロ)様じゃね?

 

 バンバンッ!

 

 なんてぇ誰かがぽつりと呟けば!

 

 バンババンッ!

 

 エ・ランテル城下は、上へ下への大騒ぎ!アノック家に連なる者共は、何処へ向かうものやら徒手空拳のまま逃げ散ったのでごーざーいーまーすーーー!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 さーれば、でぇ御座います!

 

 この出来事は、東帝国に対しましては西帝国首都エ・ランテル失陥!として伝わりますがぁ、最早東帝国には全体としての意思決定なんぞを仕る機関が御座いません!

 

 左様!

 

 東帝国三軍団はよろしい具合に分割されましてぇ帝国の各都市に分散し、最早一枚岩を騙ったところで益もなし、かくなる上は、バハルス帝国なる表看板までは降ろすこともあるまいが、一国として営みゆくに何も困らぬ各都市にて、それぞれ創意工夫していくのも(わろ)かりなんと、殊更どなた様が申した訳では御座いませんが、銘々がそう納得いたしましてぇ、実態といたしましては遥か西方、帝国自由都市とさして変わらぬ陣容に落ち着いたのでぇ御座います。

 

 バンバンッ!

 

 さて行き場がないのは最早居りもせぬ帝国皇帝に忠義を誓いし西帝国三軍で御座います。カッツェ平野との境に御座います小さな砦の一つに落ち延びましたところのアノック一門は檄を飛ばしまして首都奪還を訴えたそうでは御座いますが、面目を失った彼らの言に耳傾けるものは最早皆無!

 

 そーもそも、奪還などと勇ましく申しておりますれども、黒衣の魔法詠唱者デイバーノックは女王の言い付けにしっかと従って、呆然とする街衆に村特産の果物だけ配って(はや)帰投済み、そこにはエ・ランテルの覇権を競う相手なぞ()らんのでぇ御座います!

 

 さーりとて!

 

 噂として立ち上りましたる、髑髏(どくろ)様がエ・ランテルを占領、すわ、死都エ・ランテル再来か!の言辞はそう簡単には覆りません。事態の収集を図らんと、三軍のうちのいずれかより密かに派せられた使いがド・クロサマー王国の門を叩きまして、今更このようなことをお願い申し上げる筋でないことは百も承知では御座いますれども、どうかひとつ、髑髏(どくろ)様の威と、女王陛下のご寛容を以てエ・ランテルを統治いただけませんでしょうかと願い出てみればぁ!

 

 バンッ!

 

 いやです。

 また入り用があれば買い物に伺いますのでそれまでに何とかしといてくださいね!

 

 バンバンッ!

 

 との背筋のぴんっと通った有り難きお言葉!

 

 バンババンッ!

 

 さーれば、されば!

 

 斯様(かよう)な仕儀と相成り面目次第も御座いませんが、この後どのように取り計らったものかご差配頂けないでしょうか、とのお伺いを急使を以て東帝国に尋ねれば、待っていたのは、当方はバハルス帝国を代表する者に(あら)ず、然るべき他を当たられたしとの慇懃無礼な、いわゆる(たらい)回しでぇ御座います!

 

 バンッ!

 

 驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如しなどとはうまいこと申したものでは御座いますが、ここまで一気に駆け抜けて参りました三百と有余年!

 

 大陸東部に覇を唱え、各代それぞれにいろいろと良かれと頑張っては参りましたけれども、今しばらく当地全体を呼び習わす便宜にバハルス帝国の名は用いられましょうが、実態として一枚岩の統治機構は最早これなく、春の夜の夢もすっかり醒めましてぇ!

 

 バンッ!

 

 雲散霧消、と相成り果てた次第にて!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 御座!

 

 ババンッ!

 

 そぉーろぉーーーーーッ!

 

 バン、バン、バン、ババンッ!

 ババン、バンバン、バン、バン、バババンッ!

 

 以上、バハルス帝国興亡史。

 お耳汚しでは御座いましたが、ご清聴誠にありがとうございました。

 

 

 

 パチパチパチ!

 

「いやー、パンドラ!

 良かった!

 面白かったよー!」

 

「……自画自賛もここまでぬけぬけとやりますと最早突っ込む気力も起こりませんでしょうな。」

 

「え?」

 

「いえ、こっちの話で御座います。」

 

 

                    *

 

 

「あ、お待ちを!」

 

 バタンッ!

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層(ロイヤルスィート)執務室。

 本日の当番メイド、デクリメントの制止を振り切ってノックも無しに扉を開け放って現れた中華服(チャイナドレス)姿の鮮血の戦乙女シャルティア・ブラッドフォールンは、

 

「アインズ様ァーーー!」

 

 ズカッ!

 

「むぎゅぅ!」

 

 その勢いのままアインズに抱きつこうと飛びつくも目を閉じたことが(あだ)となり、迎撃した守護者統括アルベドの極道蹴り(ヤクザキック)を愛らしい顔面にまともに喰らいそのまま床に落ちた。

 

「騒々しい、静かにせよ!」

 

 バッと金糸銀糸に彩られた漆黒の装束(ローブ)を翻しアインズはこの騒ぎを制そうとしたが、騒ぎも何も火種は床に転がって頭上を星がくるくると回っている始末。

 

「思いますに、何か急報を言上せんと第二階層より駆け(くだ)るうちに、何を目的に駆け降っていたか失念したものではないか……と愚考する次第で御座います。」

 

と分析したのは、もちろん同席していた参謀デミウルゴス。

 

 ソリュシャンはユリと共にベロ、ベラの狩りの護衛で外出中、その両親もエントマを伴ってトブの大森林を巡回中、ナーベラルがデミウルゴスの傍らにあるとなれば、<伝言(メッセージ)>を便宜(サービス)する者が傍に居なかったがためのようだ。

 

(シャルティアにも指輪、くれてやるべきかなー?

 いやいや、絶対にトンデモない災厄を引き起こすこと疑いない!)

 

 そして漸く正気を取り戻したシャルティアが数分呻吟した後に用件を思い出した。

 

「アインズ様は、上空三百メートルからあちきを呼ぶどちら様かに<お助け玉(レスキューボール)>をくれてやったのでありんすえ?」

 

 途端、アルベドとデミウルゴスの胡乱(うろん)な視線がアインズに突き刺さる。

 

「……すまん。

 シャルティアに伝えるのを……忘れてた。」

 

 

 

「あぁ、アインズ来てくれたんだね。

 おや、シャルティアとデミウルゴスも一緒かい、お久しぶり。」

 

 緊急脱出支援用アイテム<お助け玉>は、掌に収まる程度の大きさの光る球体で握り割るとその座標情報が即座にシャルティアに知らされる代物だ。

 

 想定される<百年の揺り返し>発見に際しての連絡用にいくつかツアーに分け与えていたものだが、シャルティアが感知した座標がバハルス帝国とカルサナス都市国家連合を隔てる険阻な渓谷地帯であったのはともかくとして、高度情報が上空三百メートルであることを訝しく思った彼女は、これはナザリックの仲間が発したものではあるまい、と判じて取り急ぎ真相を確認すべく遠路第九階層まで駆け(くだ)ったらしい。彼女らしからぬ賢明(クレバー)な判断だ。

 それに報いるにアルベドの極道蹴り、とはシャルティアも損な役回りを引き当てたものだ、とアインズは苦笑するが、駆け降りた理由の失念を(わら)った自分がそもそも前提の連絡を失念していたことへの詫びも含めて、また後日どこかへ狩りに連れていってやろう、と誓う。う~ん、シャルティアに見合う狩りの獲物……ネタ切れ気味かも。

 

 ツアー、もしくは傀儡自身がナザリックへ飛び込んで来なかった……彼の速力からすれば<お助け玉>にさほどの優位性(アドバンテージ)があるわけでもない……ところから、逆説的ではあるが火急の事態に陥っているわけではないことは想像がつく。

 それは同時に、想定される類型(ケース)のこれこれの範囲に収まるものだ、ということも含意するので、アインズはそれを前提に、そのまま執務室でデミウルゴスとシャルティアを相手に手短に出撃前の打合せ(ブリーフィング)を済ませた。

 

 この辺りの作法は、どれだけ時を経ようとも変わらぬナザリックのお約束だ。

 

 真紅の全身鎧を纏ったシャルティアに<転移門(ゲート)>を開かせ「ご武運を」と微笑むアルベドに一時の別れを告げてこれを潜れば、思った通り中空に浮かんで待っていたのは白金の傀儡(くぐつ)だった。

 そこから気安い調子で掛けられた簡素な挨拶に、翼を生やし蛙頭に変じたデミウルゴスはともかく、しばらくツアーと関わっておらず記憶の片隅にもその存在を憶えてはいないシャルティアは、視線こそ向けたもののたちまちには反応を返さなかった。

 

 が、ややあって、右手の人差し指でツアーを差し左手の平を開いて自身の可愛らしい口を覆う。

 続いて口を覆ったまま腰を振ってアインズの方をを振り返る。

 当然、ツアーを差していた人差し指はアインズを捉える。

 再び腰を振ってツアーの方へ向き直し……と、これをしばらく繰り返した。

 

 何を思ってか、一拍置いてデミウルゴスが同じことを始めた。

 

(……何やってんだ、こいつら?)

 

「アインズ!」

 

とツアー。

 目線をそちらに向けて続きを促せば、

 

「まぁ、今回は緊急性はないから構わないけれど、彼らにはときにもっと危険な状況もあり得るのだから、もう少し真面目に取り組むよう伝えておいた方がいいんじゃないかな。ボクらはともかく、キミの大切な仲間に万が一のことがあれば、ボクは申し訳が立たなくなる。」

 

と生真面目に指摘する。

 

「……いや、ツアーよ。

 おまえの言うことはもっともだが、オレだって何も考えてないわけじゃない。今回は緊迫の状況じゃない、と転移するまえにこいつらには話したから気が緩んでいるだけだ、とは思うが……おまえ、こいつらが何やってるのか、わかるのか?」

 

「え!

 わからないのかい?」

 

「あぁ、まったく。」

 

「困ったものだな……いいかい?

 ほら、今シャルティアの指先がボクを捉えたね。多分彼女が言いたいのはこうだ。

 白金の甲冑じゃなーい。」

 

「……そりゃそうだろう。」

 

「次にキミに向かうね。多分彼女が言いたいのはこうだ。

 漆黒の甲冑じゃないー!」

 

「!」

 

「デミウルゴスは調子に乗ってふざけているだけだと思うけど……どうかな?」

 

「お察しの通りですよ、ツアー!

 傀儡(くぐつ)越しであれ、久方ぶりにお目にかかれて嬉しく思います。」

 

(……何なの、これ?)

 

「あー、ゴホンッ!

 本題に入ろう。」

 

 呼吸器を備えぬ自分が今だに他人の注意を喚起するのに咳払いを用いるのは何故だろう、と益体もない思案で気分を紛らわせつつアインズは仕切り直しを図った。

 

「あれだ。」

 

 簡潔にツアーは真下を指差す。

 見下ろす岩棚には南北に深い割れ目が走っており、普通の肉眼ではわかりはしまいが、アインズの視覚は概算高低差百メートル弱の谷底に明らかに人為的な建造物の存在と、そこに蠢く何者たちかを認める。

 

「先行したようだな。」

 

 アインズの視線は、合流して以来ツアーが右手に掴んでいる恐ろしく優れた造作の星状鉄球(モーニングスター)へと向かい、ツアーもまたそのことに気づいた。

 

「ボクには断定できないがね。

 いわゆるギルド武器だと思う。」

 

と事も無げにそれをアインズに手渡す。

 握り手に魔力を秘めた宝玉が多数散りばめられたそれを鑑定魔法で確かめてみれば、伝説(レジェンド)級の逸品だが案の定ギルド秘密鍵は既に失われていて、ギルド武器そのものの力は宿っていない。

 

 すなわちそれは、眼下谷底のギルド拠点が既にユグドラシル金貨を蕩尽したと語っている。

 

「入手状況は?」

 

来訪者(プレイヤー)視点では最悪の類型(パターン)ではないかな。

 どうということはない回廊の中途の床に落ちていた。既に結構な土埃を被っていたから昨日今日そこに取り落とされたものではないだろうね。」

 

「おまえが見つけたものだ、返しておこう。

 居城の壁にでも飾るんだな。」

 

 再び星状鉄球をツアーの手に戻しつつ、アインズはツアーの観察の含意するところを推察した。

 

 発見状況は、ギルド資金の枯渇により忠誠を失ったプレイヤーがツアーの言う回廊において、自らの下僕(しもべ)に襲われ落命したことを強く示唆している。存命であれば、たとえ既にギルド武器ではなかろうともこれを放置して逃げ去るとは考えにくい。

 

「魔神か?」

 

 アインズは敢えて、NPC、の語を用いずに問うた?

 

「まぁ、その(たぐい)ということになるのかな。すべてがすべて、ではないが鉱物質の動像(ゴーレム)だ。デミウルゴスたちほどではないが、中にはかなり強い者もいたように思う。ここからではわかりにくいが、少なくない者たちがあそこから這い出ようと藻掻(もが)いている。が、谷が天然の蟻地獄のようになっていて、彼らの自重が枷になって出られずにいるようだ。」

 

 動像(ゴーレム)であれば基本的には(カルマ)中立(ニュートラル)で、たちまちに他者に襲い掛かる性向を有しているとは考え難い。が、彼らがフレーバーテキストで守護を命じられた何かを、プレイヤーが金貨蕩尽後に持ち出そうとすれば……

 

 オレが気にするようなことではないのは百も承知だが。

 ……怨念、でなかっただけましか。

 

「駄目元で話し掛けてはみたのだけれどね、応答してくれる者はいなかったよ。

 そもそも彼らはボクが眼中にないように見えた。」

 

 ギルド武器が動像(ゴーレム)の守護対象でなかったはずはないが、秘密鍵が失われたそれは動像から見れば最早別物なのだろう。

 

「デミウルゴス!

 おまえの見解を聞きたい。」

 

「プレイヤーが飛行能力を有しており当地より飛び去った可能性については、ほとんどなかろうとは思いますが、ひとまずは留保しておくべきかと。下僕(しもべ)たちについては、ギルド拠点が密閉構造なのであれば、そこは顧慮には及ばぬものかと愚考する次第です。」

 

 参謀の回答は、概ねアインズ自身が考えていたことと一致した。

 

 さて問題は、だ。

 こいつらをどうすべきか……。

 

「……デミウルゴス、ついて来い。

 よもやないとは思うが封鎖した後に処理する。」

 

「ハッ!」

 

「アインズ!」

 

 二人が降下を開始するよりも前にツアーがアインズを呼び止めた。

 否、アインズはツアーが声をかけてくるだろうと予想して、敢えて即座には降下を開始しなかった。

 

「ひょっとして……なのだけれど、ボクに気を遣ってくれていたりするのかい?」

 

「面白いことを言う。

 オレが殊更おまえに気を遣う理由などあると思うか?」

 

 アインズはデミウルゴスの方を向いたまま、ツアーに背を向けて話している。

 

「いや……ボク自身の判断としては、彼らは少なからず脅威ではあるし、たちまちにはそれがなくとも何かの拍子にあそこから溢れ出さないとも限らないが、強いてどうこうすべきものとも思ってはいないよ。」

 

「ふふふ、ツアー。

 気を遣っているのはおまえの方じゃないのか?」

 

「……そうかな?」

 

「万が一にも巻き込まれんよう、ツアーはシャルティアとここに残ってくれ。

 シャルティア、ツアーはおまえのことが好きだから、余計なことをして揉めてくれるなよ。」

 

 シャルティアが、あらまぁ、といった顔で頬を微かに紅色に染める。

 ツアーは、アインズの決断が覆らないと悟ったのかそれ以上は何も言わなかった。

 

 アインズはデミウルゴスを伴って高度を下げていく。

 その中途、十分に上空で待つシャルティアたちから距離が()いたところでデミウルゴスがぽそりと一言。

 

「聡明なれど所詮は獣。

 アインズ様のお優しさは理解できぬものと覚えます。」

 

(あぁ、デミウルゴスには見透かされているか……)

 

「よせよせ。

 言わぬが花、だ。」

 

 二人は静かに崖上に着地した。

 足元から、微かにではあるが谷底で足掻く動像(ゴーレム)たちが岩肌を擦る音が聴こえてくる。

 

「手筈はいいな?」

 

「ハッ!心得ております。」

 

「……では、始めよう。」

 

「<次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)>!」

 

 デミウルゴスの魔法により、二人の近傍からの<転移>による離脱が封じられる。

 二人共に、よもや足下の動像(ゴーレム)たちの中にそのような(わざ)を弄する者があるとは考えてはいないが、あらゆる事態に漏れなく備えるのはナザリックにおいては鉄則だ。

 

 続いてデミウルゴスがシャルティアたちに向かって上昇を開始する。

 <次元封鎖>された領域からは、<転移>が叶わないのみで物理的な移動は疎外されない。

 その様子を、アインズは軽く顎を上げて見送っている。

 ややあって、シャルティアの傍らに達したデミウルゴスが、安全圏への離脱完了を意味する片手を挙げた。

 

 刹那、アインズは両の手を左右に大きく振り上げる!

 

「<あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)>!

 

 <魔法効果拡大化(ワイデン・マジック)>、<嘆きの妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンシー)>!」

 

 アインズは、殊の外この連続技(コンボ)が好きだ。

 

 ゴーン……

 

 決断に続くこの満願成就待ち(十二秒間)が好きだ。

 

 ゴーン……

 

 誰人(だれびと)も逃れ得ぬ決定(けつじょう)した最期を待つ時間。

 

 ゴーン……

 

 追い詰められた者に一発逆転の最後の賭けを猶予する時間。

 

 ゴーン……

 

 ツアーは、オレが遍くユグドラシル由来のすべてを愛していることを知っている。

 

 ゴーン……

 

 足下の動像(ゴーレム)は脅威ではない、とわざわざ告げたのはそのためだ。

 

 ゴーン……

 

 だが、ツアーはオレの愛を知ってはいるがわかってはいない。

 

 ゴーン……

 

 聴こえるか、この忌まわしい動像(ゴーレム)たちの足掻く音が。

 

 ゴーン……

 

 戦いたかろう、壊したかろう、築きたかろう!

 

 ゴーン……

 

 だが最早、おまえたちに目的秩序を与える(すべ)はない。

 

 ゴーン……

 

 なれば、おまえたちにオレの……死の支配者(オーバーロード)の愛をくれてやる。

 

 ゴーン……

 

「せめてもの手向(たむ)けだ。

 ユグドラシル非公式ラスボスの必殺技でせいぜい派手に散華せよ!」

 

 ゴーン……

 

 ……カチリッ!

 

 

 

「綺麗ぇーーー!

 流石はアインズ様なのでありんす。」

 

 分解された大量の動像(ゴーレム)から放たれた光子が谷底を満たし、上空から眺めるその様子はさながら光る河のよう。

 その隣で凛と背筋を伸ばしつつ、眼鏡の(ブリッジ)に人差し指を当ててデミウルゴスが言う。

 

「ツアー。」

 

 白金の傀儡の兜が、そんな必要もあるまいに自身の名を呼ぶ声に応えて振り向いた後に、こう続ける。

 

「あなたは虫酸が走るほどに優しい(かた)だ。

 だが、アインズ様には比べるべくもない。

 

 アインズ様は……そう!身の毛がよだつほどにお優しい。」

 

「どういう……意味なのかな?」

 

 ツアーが返す声色に一切の感情は読み取れない。

 

「そんな恐ろしい声で恫喝なさらずとも。

 言葉通りの意味ですよ、(わたくし)もあなたのことは好いておりますので。」

 

 ツアーはもう一言返そうか、という仕草を見せたが、取って返して来たアインズが合流したためそれ以上は何も言わなかった。

 

「一旦撤収しよう。

 検分は調査計画を立てた後だ。

 

 ツアー、どうする?」

 

「……何がだい?」

 

「おまえが発見して知らせてくれたギルド拠点だ。

 戦利品確保の第一優先権もおまえにある。

 

 オレの関心はどちらかと言えばプレイヤー、ギルドの来歴の手掛かりだから遠慮は要らんぞ。」

 

「……遠慮しておこう。

 ボクはこれで、十分満足だ。」

 

 そう応じつつ、ツアーは伝説級の星状鉄球を掲げて見せる。

 

「そうか、おまえは欲がないな。

 オレは欲深い上にケチだからな。

 

 それが魔法の品(マジックアイテム)だろうが知識だろうが……」

 

 バッ、とアインズは両手を左右真横に大きく開いた。

 

「……命だろうが、得られるものはすべて手に入れる。

 それがオレ、オレたち、アインズ・ウール・ゴウンの流儀だからだ!」

 

 ツアーは、この極めて多面的な友人の、強がりなのか照れ隠しなのか、それとも本当に()なのか、よくわからない様を眺めながら、はて、次の<百年の揺り返し>も無事に乗り越えられたものだろうか、としばしそのまま呻吟した。

 

 

                    *

 

 

 ナザリック地下大墳墓宝物殿。

 

 ユグドラシル時代よりギルド、アインズ・ウール・ゴウンが溜めに溜め込んだ玉石混淆の宝、転移以降はトブの大森林からの恵みに支えられ増える一方のユグドラシル金貨が(うずたか)く積み上げられる一角に、鹵獲品、と名札された一連の文物がある。

 

 古くは転移直後にスレイン法国より()()された世界級(ワールド)アイテム<聖者殺しの槍(ロンギヌス)>を筆頭に、森妖精(エルフ)の王デケム・ホウガンの遺物、四十年ほど前に貸付金の担保として差し押さえたエリュシオンの遺品、つい最近加わったのは詳細分析待ちの仮称動像寺院(ゴーレム・テンプル)からの接収物。

 

 その雑然とした中を、ひょいひょいと進むのはこれらすべてを知悉するナザリック財務責任者にして大魔王アインズ・ウール・ゴウンがユグドラシル時代に手づから創造した下僕(しもべ)、すなわち事実上の御曹司、二重の影(ドッペルゲンガー)にしてナザリックの講談師、パンドラズ・アクターその人である。

 

 その彼が、何やら仰々しい造作の首から掛けたらさぞ肩の凝りそうな飾り物を手に、やおら()()()を振り返る!

 

 

 

 さーて皆様お立合い!

 

 バンバンッ!

 

 皆々様におかれましては、日常宝物殿に籠って職務に精励しておりますところの小生が、かくも帝国興亡の歴史に精通しておりますことを訝しくお感じのことかと存じますがぁ……。

 

 バンバンッ!

 

 さーてもさても!

 

 (くだん)のデイバーノック蝋面ポロリ事件に際しましてエ・ランテルより落ち延びしアノック一門にはいささか不行状の者が混じっておりましてぇ、都落ちのどさくさにいくらかのお宝を持ち去っていたので御座います。

 

 その悪行の報いか、この愚か者どもは這々(ほうほう)(てい)にて無我夢中に逃げますうちに、エ・ランテルよりそう遠くないところに鎮座いたしますところの我らがナザリック地下大墳墓外苑に迷い込みまして、控えますところの番犬……失敬、シャルティア嬢に悉く討ち取られたので御座います。

 

 バンバンッ!

 

 後日この麗しのシャルティア嬢が小生を訪ねて申しますには、あちきにはさして面白からぬ物なれど、何やら物申す首飾りを下賤の者より拾い上げたるに、魔法の品(マジックアイテム)を愛好するそなたには面白かろう物なれば差し上げるでありんす、とか何とか。

 

 受け取って耳を傾けますれば、我はバハルス帝国の守護神にて世に名高き三重魔法詠唱者(トライアッド)フールーダ・パラダイン也。憑依の秘法を以てこの首飾りに魂宿せしが、愛弟子アルシェ身罷りて、我が声を聞くに足る第五位階に達したる者どもなかりせば寂しく日々を過ごせしを、俄に稀有なる力をお持ちの方々の御手を渡り渡って、只今は御身に物申す、などど訴えて参るので御座います。

 

 ご老体、試みにそなたの存知たる帝国の歩みを語ってたもれと問えば、これがまた、よしなしごとを!

 

 バンッ!

 

 しゃーべーるーのー何のぉ!

 

 バン、バン、ババンッ!

 

 小生、早速これを懐に忍ばせまして、父上の無聊をお慰め申し上げなんと(とぶら)えば至高なる御方も興味津々。首飾りに宿るご老体を虎の巻(カンペ)に皆々様共々一席お楽しみいただいた、とまぁ、このような寸法なのでぇ御座いました。

 

 お楽しみ……いただけましたかな?

 

 バンッ!

 

 さーて。

 

 月日は百代の過客にして行きかう客はよく柿食う客だ、なんて申しますけれども、どんな御方で御座いましても、今以て帝国辺りでは伝説の髪皇……もとい神皇などと遺徳を慕われております七代さんもそうで御座いましたが、畢竟お別れのときがやってぇ参ります。

 

 と申しますか。

 

 今なお、もう一席ぶってはいかがか、とか、どうか魔法の深淵を、とか。身の程も弁えず小生に訴えて参りますこの首飾りがいささか小煩くなって参りました。

 

 バンバンッ!

 

 さーて皆さまお立合い!

 

 ここに御座いますのは至宝中の至宝!ナザリックの財務会計を日々支えて参りましたる皆々様よーく御存じ、何でも好き嫌いなくよくよくお召し上がりになる<換金箱(エクスチェンジボックス)>なのでぇ御座います。

 

 

 バンババンッ!

 

 皆々様……(はぁー)

 

 お知りになりとうは御座いませんか?

 

 バンバンッ!

 

 お知りになりとう御座いますよね!

 

 バンッ!

 

 では参りましょう!

 

 

 

 え?

 あ、もう諦めてください。

 

 ええ。

 それはもう……父上を楽しませていただいたことには感謝しておりますよ。

 

 ……いや、あなた煩いので。

 

 

 

 そうですか納得いただけましたか御免くださいさようなら!

 

 

 

 皆々様お待たせいたしました!

 

 フールーダ・パラダインの魂が宿る首飾り、お値段の方はおいくらになりますでしょうかぁ?

 

 ハウマッチ(How much)

 

 

 バリバリバリッ……チーン!

 チャリ、チャリ、チャリ。

 

 

 バンバンッ!

 

 かーくして。

 稀代の大魔法詠唱者(マジックキャスター)フールーダ・パラダイン!

 

 バンバンッ!

 

 ユグドラシル金貨、僅か三枚とぉ!

 

 バンババンッ!

 

 成ーりー果ーて!

 

 バンッ!

 

 そぉーろぉーーーーーッ!

 

 バン、バン、バン、ババンッ!

 ババン、バンバン、バン、バン、バババンッ!

 

 ご清聴ありがとうございました。

 




<次話予告>

デミウルゴスの息子、ウルベルト・アレイン・オードルの片諱(ミドルネーム)を受け継いだ皇子アレインがアインズの心を揺さ振る。

億劫のオーバーロード第3話『父子鷹(おやこだか)

(きた)るべき日、我が子アレインは、この世界の有象無象を煽り立てて一致団結させ、無謀にもアインズ様に戦いを挑む(かなめ)たれかし、と願っている。」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。