異世界の
「結局のところ、闘争がないか、あるいは表面的に闘争を隠蔽してしまう社会は、人間精神を際限なく腐らせていくものなのだね、張り合いのないことだ。」
「あら、その状況自体は
ナザリック地下大墳墓
その日の朝、いつものようにアインズ様当番のメイドを伴って出御した時点で珍しく参謀デミウルゴスの姿がそこにあり、
「それは
「そもそも
「
「……ちょっといいか?」
と割り込むアインズ。
たちまちにデミウルゴスが、ハッ、とした表情で立ち上がり深々と腰を折る。
「失礼いたしました、アインズ様!
さきほどの私の言はあくまでも言葉の綾でして、恐れ多くもアインズ様の有り様をどうこう申したものでは……」
「いやいや!そういう話じゃなくて。」
アインズは骨の手の平をはらはらと振って、関心事はそこではない、とデミウルゴスに示した。
「さっきから、何の話をしてるんだ?
闘争も気概もないとか、人間精神が腐るだとか?」
あぁ、とアルベドが手を打つ。
「ここ二百年ほどの間に、大陸の人間社会が随分と変化いたしまして、それについてデミウルゴスと語らっていたもので御座います。」
「変化?」
実のところアルベドのいう二百年の間、長く楽しんできた悪党狩りをする機会がめっきり減っているものの、たちまちにそのことを記憶しておらず、そもそも大陸の人間社会そのものに関心がまったくないアインズは、ただ首を傾げる。
「左様で御座います……否、本質的には何も変わってはいない、とも申せますが。
とまれ、文明というものは畢竟、人間を腐らせるもので御座いますな。」
と、忌々しげに言い放つデミウルゴス。
言われたアインズにはさっぱり意味がわからない。
「……ごめん、オレにもわかるように話してくれない?」
「これは!失礼いたしました、アインズ様!」
そう言いながら、やっぱり口は三日月型に笑うんだよなぁ、お・ま・え・は!
「都度ご報告はいたしておりましたが、アインズ様におかれては特にご関心もないようでご記憶では御座いませんでしょう。そもそもの発端は二百年ほど前から当地の人間どもが電気を利用するようになったことから……」
「はぁ?」
アインズが骨の口を開いて固まる。
「電気……って、あの電気?」
対して真顔のまま問い返すデミウルゴス。
「他に……電気が御座いますでしょうか?」
いちいち引っ掛かる言い方だな。
しかも……楽しそうだし。
「どうやって?」
さりとて自身では話の理路が見出だせないアインズはさらなる説明を求める。
これに応えたのはアルベドだ。
「<
それはわかる。
位階魔法<
ユグドラシルにおいては
「アレをこちらで入手可能な素材から錬成する
「……な!」
パカリ、と、いつにも増してアインズの骨の口が大きく
「続いて、これを
「いや、待て待て!
流石にそうなってくると、
慌ててアインズは割り込んで問うが、懐から無暗に分厚い
「えぇ、左様で御座います。」
「……はぁ?」
当惑するアインズを
曰く、<百年の揺り返し>の年の二年後、
それは奇しくもアインズがツアーと共に殲滅した仇敵、鬼顔城にほど近い石灰岩台地の奥深く、
「が、実際にはプレイヤーは無責任にも
腹心にさらりとそう復命されて、なおアインズは慌てた。
「いやいやいや!
それはいかんだろう!」
が、デミウルゴスは変わらず平然としており、むしろ不思議そうな様子で逆に問う。
「左様で……御座いますか?」
「そりゃそうだろう!
そのプレイヤーはどうした?」
「さきほどアルベドが申しました通り、<雷電瓶>をこちらの世界にもたらしました。」
「……いや、そうじゃなくて!
オレが訊いているのは、なぜそいつが放置されたのか、についてなんだが。」
なおも憤るアインズに、デミウルゴスは、はぁー、と深い溜息をついてみせる。
「そんなヤツに関わる必要などない、と、アインズ様が仰せになりましたので。」
「……な!」
見ていられなくなったのか、アルベドが割り込む。
「問題のプレイヤーは人間種で、計測されたレベルもさほどのものではなく、自身のギルド拠点からの脱出に際し
うーむ。
そう言われれば如何にも自分はそう命じそうだ、とアインズは思う。
だって、面倒臭いもの。
「ギルド拠点の発見殲滅から三十年ほど経った時分に、現地人たちが<雷電瓶>を弄んでいることが
その時点で改めてアインズ様にその旨をご報告すると共にプレイヤーの捕縛殲滅を進言申し上げましたが、ツアーもコニーも能天気に寝ていやがるのに、なんでオレが
このデミウルゴスの言葉にも現れているように、目下、ツアー、そしてその娘コニー、共に<永い眠り>の
「むむ……。
しかし、随分と手際がいいじゃないかデミウルゴス?
何故そんなことをたちまちに言い返せる準備がしてあるんだ!」
と憤ってみせるも。
「この話題になれば当然ご下問あるだろうと考え、備えておりました。」
と、サラリと返されれば沈黙せざるを得ない。
そんなところまで計算
「はいはい、わかりました!
全部オレが悪いです。空が青いのも太陽が光るのも全部オレのせいです!」
不貞腐れつつアインズがそう放言すると、慌ててアルベドが執り成しに割って入った。
「まぁまぁ、アインズ様。
デミウルゴスも、アインズ様をからかって遊ぶのもその辺でおやめなさい。」
……アルベドもアルベドで聞き捨てならん物言いだな。
おまえ、こいつがオレをからかって遊んでる、って認識なのか?そうなのかーーー!
と、ペカペカ光るアインズだが、デミウルゴスにそれを気にする様子はない。
「そのような次第で御座いまして、こちらの世界の
その最たるものが、さきほどアルベドとも語らっておりました闘争の消失、あるいは非可視化、と申した
やはり、どうにもアインズにはデミウルゴスの言い回しのくどさもあって、その意味するところが把握できない。
それに気づかないはずがないアルベドが、すかさず助け舟を出すのもいつもの調子である。
「
<雷電瓶>を知ったのは、当初は問題のプレイヤーが逃げ込んだ城塞都市リ・ボウロロールの者たち、遅れてその者が晩年を過ごしたエ・レエブルの者たちですが、下等生物なりに考えを巡らせたものか、彼らはこの知の独占を敢えて図らず、大陸中への伝播を目論みました。」
「つまり……それがきっかけで平和な世界が訪れた、と?」
自信なさげにアインズがそう問うと、デミウルゴスが「御冗談を!」とカカカと笑った。
「当地の馬鹿どもは電気の軍事利用に思い至りませんでした。
結局のところ連中は、互いが新たに思い至る電気の利便の恩恵から漏れることを恐れて、上辺の協調を汲々と維持することを選んだので御座いましょうな、誠にもって遺憾の極み!」
これは……どうにも逆説的だな、とアインズは感じ入った。
デミウルゴスの物言いは相変わらず表現が難渋ですとんと胸には落ちないものの、言わんとすることはわかる。
剣で戦うにせよ魔法で薙ぎ払うにせよ……魔法は<
ここに、さしたる鍛錬や精進をせずとも容易に他者を傷つけ得る銃器が登場することで、デミウルゴスも言うように市民皆兵化が可能になり、人類の闘争は文字通り国家対国家の総動員の殺し合いに至った。これは、アインズの知る限りは鈴木悟が生きた時代からおよそ200年前、20世紀の中頃に頂点に達し、このままいけば本当に互いに皆殺しに至るかも知れない、ということに誰彼となく気づいてやや下火にこそなったが、経済的繁栄を謳歌する支配層とその腰巾着の目に直接触れない場所で延々と繰り返され、鈴木悟の時代にも少なからずそれは存続していたものだ。
デミウルゴスの言が
もっとも。
アインズが詳しくは憶えていないだけで、当地の人々の中でも大陸東方大地溝帯の彼方、カルサナス平原に暮らす人々は、ナザリックの面々が到来するよりも遥か昔に、
しかし。
とアインズは考え込む。
言葉通りに受け取れば、文明の利器が広まって都市間抗争も絶えたとなれば、それは平和な時代の到来、ということになるのだろう。
自身の前身、鈴木悟が暮らした<
アルベドもデミウルゴスも、当地の人間たちが人間精神を腐敗させつつある、と評して憚らないようだが、それを言ったら、自分自身は腐敗も腐敗、腐り切った澱みの中から生じた化け物ではないか!
「うーむ……」
アインズが腕を組んで唸り声を上げ始めると、うふふ、と微笑みながらアルベドが言う。
「アインズ様がご懸念なさるようなことでは御座いませんでしょう?
所詮は下等生物、そのうち
オレは……何を案じている、と思われているんだろう?
アインズのそんな疑問を
「それはどうだろうね、アルベド。」
とデミウルゴスが物申す。
「そもそも当地の人間、亜人どもは、現状維持、保守的な傾向が極めて顕著だ。こういった輩は、乱世なればこそ右往左往して秩序安寧を求め新たな試みに挑みもしようが、一旦ある程度の安定した状況を得てしまえば、そこに安住してただそれを繰り返すのみの存在となることだろう。退屈極まりないとは思わないかね!」
こちらもこちらで、アインズの心中に生じた、未だ自身でも何であるのかよくわからない漠然とした疑念とは少しズレたところを論じているような気がしないでもないが、そもそもデミウルゴスがそこに不満を感じている理由も、これまたよくわからない。
と言うか。
何故この二人、ナザリック地下大墳墓の運営管理を一手に握る守護者統括、鉄壁の防衛を司る参謀であるアルベド、デミウルゴスは、当地人間社会の傾向なんぞに関心を持ち、執務室で楽しげに語らっているのだろう?
彼らの
が、同時に、頭脳明晰で過剰なまでの忠誠心漲る二人の一挙手一投足は、疑う余地なく一切の無駄なくアインズのために振るわれているものだ。つまり、今この瞬間のアインズには理解が及ばなくとも、彼らがそこに関心を向けているということは、それは遠からずアインズにとっても何か意味を持ってくること、であるに違いない。
何一つ仔細は憶えていないものの、その一点についてだけは、アインズは骨身に滲みて知っている。
「あー、差し支えなければ、だが。」
とアインズ。
二人の忠臣の視線が、
「次回の
アインズのこの言葉に、やはりアルベドはうふふと微笑み、デミウルゴスは三日月型の怪しげな笑みを浮かべた。
あ……マズったかな?
まぁいいか。
何より。
これを話し合っている間は、いくら不満があったとてこの世界を滅ぼしたりはせんだろう。
「承知いたしました。パンドラズ・アクターには追って
「アインズ様にご満足いただける議論をご用意いたしますとも!」
二人の楽しげな様子に、改めて不安になったアインズはペカペカと光るのであった。
*
「本日のアインズ様当番、デクリメントで御座います!」
翌早朝、アインズの自室。
いつものように朝の身支度を任せつつ、アインズは告げた。
「着替えが済んだらユリを呼んできてくれるか?
今朝は執務室へは向かわずに、ちょっと外界の視察をしてくる。」
命じられたデクリメントは、一瞬「それって私がアルベドに嫌な顔をされる役ですか?」と胡乱な視線をアインズに向けたが、
「……確かに承りました!」
とすぐに笑顔で復命した。
もちろん、アインズも彼女の微妙な
「あー、ゴホンッ!
何と言うか……その、いつもすまないなぁ。」
と詫びたので、
「な、何をおっしゃいます、アインズ様ァ!
そのお優しいお言葉だけで、私は天にも登る気持ちで御座います!」
と声踊るデクリメントに抱きつかれ、いや、こっちの方がアルベドを怒らせるんじゃね?とペカる羽目になった。
転移先の座標は、当地が電気の利用が最初に始まった都市だ、とアルベド、デミウルゴスから聞かされ、自身の
もちろん細かい経緯など憶えていないアインズではあるが、用途から考えて転移先は城塞都市外の荒れ地だと踏んで跳んでみたものの、たどり着いてみると意外にもそこは
「あれっ!
……転移先、間違えたか?」
そんなはずはあるまい、とアインズは慌てて周囲の状況を確認する。
向かって西方には台地の上に
それはとりもなおさず、良かれ悪かれ都市が発展を遂げていること、加えて、さらに外郭を覆う城壁が造営されていないことは、当地の人間たちが外部からの脅威を想定していないこと、を意味していた。
アインズが当地を訪れたのは、もちろん、電気についての知識がこちらの世界にもたらされたことにより生じた変化、とやらについて
ユリを伴ったのは、第一には単騎で出掛けることは自ら定めたナザリックの
転移した時点で、アインズは無意識のうちに人間の街が電灯で照明されていることを期待していたが、そういうことは起こってはいなかった。夜明け前の町のあちらこちらには少なからず常夜灯らしきものが灯ってはいるが、いずれもゆらゆらと揺れていて、油か何かを燃やして得ているもののようだ。デミウルゴスは、こちらの世界で供給可能な総電力など
そのうち、周囲の二乃至三階建ての
特に他に当てもないので、アインズはその人々の後ろについて通りを歩み始めた。城塞都市が近づいてくると、無闇に背の高い建物がいくつか目につき始めた。城門へつながる大通りに出てみれば、驚いたことに七階建ての建物がある。基本的な構造は外見からは石積みで既に見た集合住宅と大きく変わるところはないが、一見して生活感はなく、雑居ビルのような感じだ。
やたらと鼻につくよい香りがするので周囲を見回してみると、背の高い建物の足元に随分な数の屋台のようなものが出ていて、アインズが追って来た男たちがそこで油紙のようなものに包まれ湯気を放つ何かを贖っている。男たちはそそくさとそれを受け取ると、それに
アインズは軽い
無論、自分自身は<
当時の習慣を今も引き摺って現地時間の午前四時から活動を開始することを常とするアインズだが、かつての鈴木悟もそんな時間から行動を開始し、出勤途中に、それが屋台であったはずはないが、それでも同様に朝食を贖って、ゆっくり味わうでもなく旨くもないそれを無理やり詰め込みながら職場へと急いだはずだ。その悟を
まったく同じことが……この世界でもおこなわれている!
この、感慨とも困惑とも判別し難い情動のために気づくのが遅れたが、アインズの聴覚がこの世界のものらしからぬ音を捉える。
ごとごと、と石畳の上を車輪が走る音だが、同じ音源から明らかに
アインズがこちらの世界で初めて目にした電気の恩恵を活かしたものは、アインズの理解としては<
興味深いのは、この車両が鎖で繋いだ宙に浮く数枚の板を牽引していたことで、そこからアインズは<
板の上には何やかやと荷物が載っていて、これらもこれから始まる仕事の準備なのだろう、ということは想像はつくが、電気の力と魔法の力を極当然のように組み合わせて使っている
これは……思っていた以上にエラいことになっているな。
既に空は明るくなっていて人通りも随分と増えてきたが、やはり、明らかに場違いな姿をしたアインズに関心を寄せる者はなく、時折目が合ってぎょっとした様子を見せる者もあるにはあるが、やはりそそくさと身を翻し、関わり合いにならぬが
不意にアインズは、左手の空間にぽっかりと
見上げてみれば、二棟の高層建築物が建て替えか何かをやっているようで、三階部分くらいまで石組みの外装が整った構造の上に、それぞれ鉄の骨組みの巨大な腕のようなものが突き出している。
明らかに、これは<
早朝ということもあってそれはまだ稼働はしていないようだが、間違いなくあれも
「おいおぃ、
思わずアインズがそう言葉を漏らした、そのとき、
カシャッ!
左手の建築中の建物を見上げていたアインズからすると後背、右手の方向から何やら小さな機械音が聴こえた。
「……ん?」
取り立てて危険を覚えたわけではないが、アインズも、三歩遅れた位置で変わらず
視線の先には。
何やら複雑な形をした箱を抱えた、こちらの世界にナザリックが転移してきた直後のアウラを想起させる、活動的な男装姿の女性の姿があった。歳の頃は二十と少し、だろうか?
「あー、ごめんごめん。
おじさんがあんまり面白い格好してるもんだから、つい黙って撮っちゃったわ!」
お……おじさん?
あ、ヤバッ!
おじさん呼ばわりの
「待て、ユリ!
すっ、と憑き物が落ちたかのようにユリの表情が
あー、ユリにしてよかった。
セバスだったら、もうこの女、木っ端微塵だわ!
そんなアインズの思いを知ってか知らずか、女は無遠慮に声を掛けてきた。
「戦争でもすんの?
そう言いながら、女の視線はアインズには向けられておらず、抱えた箱を何やらいじっている。
どうにも調子が狂って、たちまちにアインズは言葉が返せなかった。
「ちょっと待ってくれる、多分いい感じに撮れたはずだから。
<
第一位階にも満たない、彼からすれば奇妙な魔法が行使され、アインズの困惑はより増した。
「これは……思った以上の出来だわ、見て!」
と女がアインズに歩み寄り、手の平に収まるほどに小さな紙片を差し出す。
「……
そこには、奥手に鬼顔城、その左右手前に
色彩を欠き
逆に女は、何を勘違いしてか甲冑姿で
「あら!写真を知ってるなんて、
またしてものおじさん呼ばわり、しかも
「わかる、おじさん?
これこそが、新時代の芸術なのよ!」
「げ……芸術?」
「そう。この一枚は特にそうよ!」
アインズとしては、自分が写っている写真が芸術だ、と突然告げられてどう応じたものやら見当がつかない。
「写真は単に便利な写し絵じゃないの。そのとき、その一瞬にしかない時空間を切り抜いてこの小さな枠の中に封じ込める魔法なのよ!」
あぁ、とアインズは思う。
「この小さな窓の中に、リ・ボウロロールの歴史を象徴する鬼顔城、現代の技術の最先端の高層建築と建築機械、そしてそれを驚きながら眺める
やたらと
そうだ、オレは生気乏しく行きたくもない職場へ向かう男たちの姿に、かつての自分自身の前身、鈴木悟を重ね見て、いささか
それはそれで真実であろう、とは思われるものの、誰も彼もがそうではない、ということを、この目前の女が証明してみせてくれている!
「自分が
世辞半分、本気半分……この写真は、おそらくこの世界の存在が
「わかってもらえて嬉しいわ!
これ、記念に差し上げる。」
と写真をアインズに差し出す。
「……いいのか?」
遠慮がちに受け取りながらアインズは尋ねた。
「その代わり、お願いがあるのだけれど。」
と女はいやに媚びた姿勢を見せる。
「願い?」
「この写真の焼き増しを、私の作品として
きっとこの一枚は、遠からず写真芸術の旗手として世に広く知られる私の代表作になるわ!」
こいつは驚きだな。
言葉通りに受け取れば、この女は、写真が発明されて
ふ。
ふふふ。
わははははっ!
思わず愉快になったアインズは大きな笑い声を上げた。
自身の気宇壮大な夢を
「いや、すまない。決しておまえの夢を笑ったりしたわけじゃないんだ。
オレにも昔、おまえのとは違うが、いろんな夢を熱く語った仲間たちがいてな。それを思い出して楽しくなってしまったんだ。」
そう言いながら、アインズは片手で
何かの用のために、と忍ばせていた、こちらの世界の公金貨を一掴み。
「この写真と、いい話を聞かせてくれた礼に受け取ってくれ。」
慌てて差し出された女の手に十数枚の金貨が溢れる。
「待って、ちょっと待って!そういうつもりじゃなかったんだけど!」
女は、写真の押し売りを図ったかのような
「遠慮するな。オレもこの写真が気に入った。正当な対価だ。
多過ぎるのなら、それはオレがおまえの夢を応援したものだ、とでも思ってくれればいい。」
うふ、と女が微笑む。
「そういうことなら……ありがたく頂戴するわ、
……さん、が、
「じゃぁねー!」
結局女は名乗りもせずに、ぴゅー、と駆け去っていった。
落ち着いて考えてみれば、これはこれで観光客相手に記念写真を売りつける詐欺の手口だったのかも知れないが、仮にそうだったとしてもアインズにとってはどうでもいい話だ。
この世界は少し<
それがわかっただけでアインズとしては満足だ。
この
あの女の他に、印象に残る人間、亜人とも出会いはなかった。あれは余程の変わり者だったのか、あるいは、自分は言葉巧みに丸め込まれただけだったのか。これはアインズには判断がつかない。
ちょっとした思いつきで道行く人に、冒険者
それは城塞都市の中でも
「夢が……ないもんだな。」
思わずアインズはそう呟いたが、
「むしろ、夢なんざ見なくて済む時代に感謝すべきですぜ、旦那。」
と応じられて、溜息を吐くしかなかった。
*
このときから幾らか時間が経って
リ・ボウロロールの雑居ビルの一角で、小さな写真の個展が開かれた。
当初、誰の関心を呼ぶこともなかったそれは、そこに掲示された一葉の写真、
<
と題されたそれが
女が自らいささか自信過剰気味に嘯いたように、この一葉はリ・ボウロロールの新進気鋭の写真家、ガエル・ストロノーフの初期の代表作として知られるようになり、多くの焼き増しが市中のみならず、鬼顔城観光の土産物として少なからず大陸中に広まることになった。
無論。
この写真に写った