「ん……アインズ?
よもやとは思うけれども、ボクが目を覚ますまで待っていてくれたのかい?」
大陸北西遥か彼方、アーグランド評議国のとある
「……いや、まさか。
そろそろかな、と思って来ていただけさ。」
そう言いながらアインズは、金糸銀糸に
その様子に不穏なものを感じたツアーは、心配そうに問いかける。
「何か……あったのかい?」
「……まぁ、見てもらった方が早い。
寝起き早々悪いが、出れるか?」
「……
ツアーがその巨躯を人目に晒すことを憚って外出に用いる<
「いや、そのままで構わん……と思うぞ。」
と、アインズは気のない返事を返す。
「何処へ?」
「南であれば何処でもまぁ……同じようなもんだ。」
やはりどこかおかしい、と訝しく感じつつも、ツアーは普段は決してそんなことはしないが、一度目の<永い眠り>から目覚め、寝起きの自分を
アインズが憶えていないのは仕方がないにしても、あのときのアインズは初めて乗ったツアーの背に随分と
そもそもお喋り好きな骸骨だ。
話したくなったら勝手に話し始めるだろう。
そう割り切ったツアーは、ただアインズに言われたままに南に向かって飛翔した。
あっという間にアーグランド評議国領空を抜け、
随分と昔に自身が評議国に編入したポリス・ウロヴァーナの辺りまでは特に違和感はなかったのに、それを過ぎ越した辺りから地表が嫌に殺風景で、
「あの瓦礫の山のあたりに
不意にアインズがそう告げたので、ちらと振り返って背に乗るアインズの骨の指先が指し示す場所を正しく把握したツアーは、正確無比に友人が望んだ場所にその巨躯を着地させた。アインズの言葉通り、一面瓦礫の山だ。
ひょい、とツアーの背から飛び
「あれ……がわかるか?」
アインズの指差す先には、石灰岩大地の上に何やら作為的な、鬼の顔のような小山が見える。
「あぁ、以前に一緒に殲滅した……」
「そう。オレたちは
それは、ツアーが一度目の<永い眠り>から覚めた頃にこちらの世界に渡り来て、たちまちに軍勢を率いて在地住民からの略奪を開始したがために、それ以上に、アインズがユグドラシル時代からの遺恨を
「これを見てくれ。」
と、アインズは、自身の
それは、無闇に精巧な小さな絵だった。
中央に
が。
奇妙なことにその絵には
これまた無闇に大きい建築中と思しき建物。三、四階建てだろうか。奇妙な鉄製の機械の腕がその上から伸びていて、ツアーにはたちまちにはそれが何であるかがよくわからない。絵の中のアインズはそんな建物に囲まれていて、鬼顔城は丁度その隙間から顔を覗かせていた。
「どういう……ことなのかな、アインズ?」
「……やっちまったんだよ。」
ツアーの問いに、アインズはそう答える。
「何を……やっちゃったんだい?」
そう問いつつも、大方の予測はツアーにはついている。
今、周囲を取り巻く瓦礫の山は、この絵に描かれている壮麗な建物の成れの果てに違いない。
「此処のみならず、大陸の文明を……滅ぼしちまったんだよ、このオレが。」
「……はぁ?」
ぽかん、とツアーは大きな口を
「オレはまさに……世界を
吐き捨てるようにそう言うアインズに、ツアーはたちまちにはどう応じたものやら思いつかない。
「ともかく。」
ツアーはその場に静かにしゃがみ込み、
「周囲には誰もいないようだし、まずは何があったのか順を追って話してみないかい?」
と、自身としては極力優しさを込めたつもりでアインズに語りかけた。
「あぁ、そうだな。
おまえが寝ている間に、随分といろんなことがあったんだ。」
ぽつぽつ、とアインズは、大魔王らしからぬ弱々しい口調で語り始めた。
*
アインズとツアーのリ・ボウロロール廃墟での語らいから遡ること十数年。
物語は、いつものようにナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間から始まる。
時は丁度<百年の揺り返し>の年。
これまたいつものように厳戒態勢下にあった皆に、狡知の参謀
「
開口一番、アインズはやや上擦った声でそう問うたが、階下で膝を折るデミウルゴスは申し訳無さそうにこう応じた。
「いえ、残念ながら、未だそのような存在は捉えられておりません。
が、いささか気になることがこちらの世界で起こっておるようで、それについて議すべく招集をかけさせていただきました。」
「……気になること?」
例によって例の如く、アインズはその仔細をまったく記憶はしていないが、こうして皆に招集をかけるとき、既にデミウルゴスがいかなる事態であるにせよその全貌を概ね把握しているのが常だ、という直感は揺るぎなくある。
であるがゆえに、このデミウルゴスの物言いは、良かれ悪かれ嫌な予感をアインズに
目下、
おいおい、寝すぎだろ?
というか……オレに任せとけば問題ない、とか思ってんじゃねーだろーな!
とアインズは憤ったものだが、眠ってしまったツアーはただただ鼻提灯をぷかぷかさせるのみで、揺らしても突いても無反応だった。しかもその数年後、今度はツアーの娘、エイヴァーシャーの魔女ことコニーまでもが<永い眠り>に入った。
おまえら……示し合わせて
とまたしてもアインズは憤ったが、
せめてもの意趣返しに、と双方の
ツアー、コニーの居る、居ないで、否応なく対
アインズはコニーと執事セバス・チャンの息子、タッチに
「困ったことがあればいつでも私の名を呼びたまえ、ははははっ!」
と、またぞろパタパタ羽ばたいて
「ひとまず……聞かせてもらおうか。」
アインズは
「現地住民の一部が、ある場所を目指して一斉に大移動を始めております。」
デミウルゴスの第一声に、アインズのみならず
「それが何だというのでありんすえ?
我らがナザリックに関わりあることとは思えないでありんしょう!」
珍しく、シャルティアが真っ当なことを言っている、とアインズは苦笑する。
が、デミウルゴスがこれに着目している、ということは、決してナザリックと無関係でもないのだろう、ということもアインズは理解している。
「飢饉ヤ災害ヲ
「そういうことであれば、アインズ様のお慈悲で以て救いの手を差し伸べるのも一手か、と。」
コキュートス、セバスから発せられた問いには、これを統計的に分析していたパンドラズ・アクターが応じる。
「
大移動、と言っても、個々は数人から多くて数十人の集団に過ぎません。一つ一つに注目すれば普通の旅人、
ですが、総数は既に百万人単位に及んでおり、しかも皆が皆同じ地域へ向かっており、かつ、帰路を歩む者は御座いません。」
「わ、渡り鳥、みたいな感じかなぁ?」
「
既に何代目かよくわからなくなりつつあるアウラ、マーレがそんなことを一族でやいやい言い合っている。
「問題は、これらの下等生物どもが目指している場所が。」
とアルベド。
「アレイン皇国、と名乗っている点で御座います。」
……はぁ?
これまた飽きるほどに繰り返されたパカリ
同時に神々しい緑色の光でペカったアインズの視線は、自然とデミウルゴスへと向かうが、当のデミウルゴスはアインズに何か言われるよりも前に、すすすっ、と玉座のアインズの
「ちょっと。」
と、アインズの肩に親しげに手を掛ける。
「ん?」
「いえ、少しよろしいですか、アインズ様。」
デミウルゴスはそのままアインズの肩を
(よもや、とは存じますが。
アインズ様のご采配……では御座いませんよね?)
……はぁ?
そりゃ……こっちの台詞だろがよ!
(んなワケあるか!
っつーか、どう考えてもおまえの仕業だよなー?そーだよなー!)
胸ぐら掴んでおこなわれたその恫喝は、デミウルゴスの
(ご、御冗談を、アインズ様!
うーん、そう言われればそれもそうだわな、と思わないでもないアインズではあるが、だからこそ、デミウルゴスはその裏をかいてくる、という思いもなくはない。
(しかし……そんなことをした憶えはないぞ。)
(
これが無罪証明にまったくならないことは、二人ともに承知している。
「<
あ、シズ?そうオレオレ、
「……アインズ様。」
「あ、ごめんちょっと待って、デミが何か言ってる。
なんだ、デミウルゴス!
え?大食堂にいる?なんで?」
デミウルゴスの日記として蓄えられたナザリックの記憶の照会を求めて
「ですからアインズ様、この時間はシズは非番で御座います。」
と横からデミウルゴスが事情を説明する。
「ご失念かとは存じますが、只今はシズちゃんズ偶数号が着任しているものか、と。」
「はっ?何だそれは!」
はーっ、とデミウルゴスは深い溜息。
「司書Jがエドモン・ウェルズのギルド拠点遺構から持ち帰った六体の忍者
な!
憶えてられるかー、そんなことーーー!
とアインズは身勝手にも憤るが、流石にこれは口にはしなかった。
どう考えても忘れている自分が悪い。
それすらわからなくなるほど、アインズは身勝手ではない。
「……あ、ごめんごめん、シズ。
邪魔して悪かったね……いやいや、気にしなくていいから。
シズちゃんズにかけるから、メイドたちにもよろしく言っといて、じゃーねー!」
大慌てでシズへの通話を切り、脳内の
確かに、<
「かの者たちの言語能力の制約もあり、シズほどに文脈までを
と、不敵な笑みを浮かべたデミウルゴスが言う。
どう考えても。
勝手がわからんオレに自ら呼びかけさせて、その様子を見て楽しもうとしているのが見え見えだ。
さりとて、デミウルゴス自身に嫌疑のある事柄の検索をデミウルゴスに任せるのも原理的におかしい、と考えたアインズは、しぶしぶ自らシズちゃんズへの通話を試みる。
「……<
あ、シズちゃんズ2号か?」
(……)
「検索を……頼む。」
(……誰?)
あぁ、そうか。
こいつらは元からのナザリックの一員じゃないから、そこから始まるんだな。
「……アインズだ。」
(……誰?)
「アインズ・ウール・ゴウンだ。」
(……誰?)
「……ちょっと待て。
おい、デミウルゴス!どうなってるんだ?
こいつ、よりによってナザリックの
「あぁ、それは。」
三日月
「かの者たちはシズに忠誠を誓っておりますれば、シズとの関係性を伝えねば理解されません。」
よくもまぁ……そんなヤツを使う気になったもんだな、おぃ。
いや、ナザリックにおいては自分の裁可なしに物事が進むことは……デミウルゴスの
「そ、そうだったな!
あ、シズちゃんズ2号……待たせたな。
シズ・デルタの
で……何だったっけ、デミウルゴス?
……あぁ、そうだ!そうだったな!
シズちゃんズ2号……アレイン皇国、について簡潔に頼む。」
(六大神が建国したスレイン法国の後継国家。転移歴700年代からアレイン皇国と改称。我らとシズちゃんの
……このオレに向かって横柄なやっちゃな。
っつーか、我らとシズちゃんのナザリック、ってどういうことだよ!
「……あぁ、満足だ。
今後もよろしく頼む。」
(シズちゃんのためだ、任せておけ。)
ブツッ。
と<
切れ方すら横柄に思われるのは気のせいか?
「いかがで御座いましたか、アインズ様?」
と、踊った声でデミウルゴスに問われたアインズは、当然おまえは事前に調べて知ってるくせに、何なんだそのノリは!と苛立ちつつも、シズちゃんズ2号に倣って簡潔に応じた。
「ナザリックとの相互干渉の記録皆無、だそうだ。
……これで満足か?」
「つまり……この件につきましては、アインズ様も
とデミウルゴスは、突如玉座の間の片隅に引きこもってごにょごにょやっているアインズたちを訝しげに眺める
んなわけあるかーーーい!
「待て待て、デミウルゴス!
わかった、わかった、これは偶然だ!
国名がウルベルト・アレイン・オードル共和国であるならいざ知らず、アレイン、はたかが四文字、しかも元はスレインなんとかだったと言うから、なんでかは知らんがスをアに換えたらたまたま
これ以上わけのわからない方向に話が
「なるほど、そういうことで御座いますね!
流石はアインズ様で御座います!」
何に感心されているものやらさっぱりわからないが、諸手を胸の前で組み合わせて感激するデミウルゴスの肩を
「すまん、待たせたな。仕切り直しだ!」
「アレイン皇国、と申しますのは取るに足りぬ小国にて、大陸南西部で<
と説明を始めたのはパンドラズ・アクター。
曰く、国家元首はアレイン、と名乗る独裁者で現在の国号になって以降変わっておらず、かつてのバハルス帝国の皇帝が常にジルクニフ、と名乗ったのと同様に、代々襲名されている名前あるいは称号であろう、と考えられている。
軍事的な国力は皆無に等しく、国内経済も
「ですが。」
とアルベドが補足を加え始める。
「国家元首アレイン名義の資産が、大陸各所に散在することが確認されております。国内を賄って余剰した資金はすべて分散投資に振り向けられていると見え、ある意味において、経済的に大陸を支配しているのはこの者だ、と言えなくもありません。」
本来その
「な!
流石にそんなやつだったら、デミウルゴスが……」
<
「それが……面白くも何ともないので御座います。」
と、言われずもがなに
「かの国は、やろうと思えば大陸全土を思いのままに動かし得る財力を有しつつ、ただそれを利殖するのみで何を為そうともいたしません。贅沢嗜好品を買い漁るでもなく、慎ましやかな生活を送りながら、ただただ蓄財するだけの、あくびが出るほどに退屈な連中なので御座います。」
「……まったく意味がわからんなぁ。
しかも、だ。軍事力がないのに財だけ溜め込んでたら……賊や他国に蹂躙されんのか?」
アインズは極常識的な観点から疑問を呈するが、
「アレイン皇国自体に金貨があるわけでは御座いませんので。その大半は大陸各地の株式、証券として存在しており、証書を奪ったとて換金は正当な所有者にしか叶いません。
つまり、彼らの財を
とパンドラズ・アクターに応じられて、アインズの当惑はなお増した。
「でありながら、この者たちは権益の独占を図らぬばかりか、株主筆頭になることすら巧みに避けておりまして、如何なる
父上も、存外お好きで御座いましょう、そういうの?
と、アインズは息子に問われたような気がした。
実際アインズは、ナザリック宝物殿に大量のユグドラシル金貨を溜め込み、
それと、規模や質は比べるべくもないが、似たようなことをやっている連中がこの世界にもいるらしい、という話だと言われてしまえば、アインズには返す言葉がなかった。
「しかし……だったらどうしてそこへ大陸の人間たちが集まるんだ?」
「それはこちらで御座います。」
アインズの疑問に対し、デミウルゴスから一片の紙片が差し出される。
「人間の街、エ・ランテルにて恐怖公眷属により回収されたものですが。」
何か書かれているが、当然のことながらこちらの世界の文字でアインズには読めない。
「……何が、書いてあるんだ?」
紙片を突き返されたデミウルゴスが慌てて復命する。
「これは失礼いたしました!
アレイン皇国へ
弱者、愚者、無能のための
「……はぁ?」
再びアインズの骸骨の口がパカリと
「同様のものが大陸の各所で確認されており、意図的に人を招き寄せておるようです。
もっとも、こんな胡散臭い招きに真っ当な暮らしをしている者が応じるはずもなく、食い詰め
とパンドラズ・アクターが補足する。
「……なんで?」
「「はっ?」」
「いや、なんでそんなことするわけ?」
自然に口から漏れたアインズの疑問に、デミウルゴス、パンドラズ・アクターがほぼ同時に反応した。
「それがわからぬから、こうして皆で議しておるので御座いますが。」
「父上はどのようにお考えでしょうか?」
……おまえらがわからんのに、オレにわかるわけねーだろがよ!
「食べる、のではありんせんか?」
「そ、そんなことするのは、シャ、シャルティアくらいのものじゃなーい?」
さも当たり前であるかのように発せられたシャルティアの言葉に、すかさずアウラが突っ込む。
「さりとて、今回の
「そ、それは……な、なくはないでしょうけどぉ。」
存外シャルティアは真面目に考えていた、と気づいてアウラは言葉を濁したが、これにはアルベドが
「シャルティアの言うことはもっともだけれど、仮にそうだとして、シャルティアなら現地人を使嗾してこんな人の集め方をするかしら?」
「あちきなら問答無用に街を襲うでありんす!
……言われてみれば、おかしな話でありんすなぁ。」
ポンコツな彼女も、流石に自身の言の矛盾に気づいた様子。
「<
へらり、とした笑顔を浮かべながら人間を投げ込む
「
と返したのはパンドラズ・アクター。
「マーレは承知しておらんでしょうが、<換金箱>は皮革などに素材価値がある場合を除き、生体には反応しませんので。」
「でも、衣服、装備品諸共なら……いくらかの金貨にはなるんじゃないですか?」
自身の着想にこだわるのはいかにもマーレらしい、とアインズは苦笑いを浮かべつつ、間違ってもそんなことはしてくれるなよ、それをやってツアーに
「
とコキュートスが議論に加わった。
「アインズ様。タトエバ、我々ノ知ラヌ
「コキュートスの発想はなかなかに興味深いが、オレの考えとしては可能性は低いと思う。
ユグドラシルにおいて、ユグドラシル金貨はすべての
そういう意味で、直接的に金貨を生み出す<換金箱>は例外中の例外だったのであり、だからこそ稀有な価値があってオレたちもいくつかの予備を保管している。あの<運営>が他の金貨獲得手段を提供していた、とは俄には考えにくいな。」
コキュートスは恐懼しながら「余計ナコトヲ申シマシタ」と引き下がったが、アインズは、気にしなくてよい、と骨の手をひょいひょいと振ってみせた。
実際のところ、この時点では誰も気づくはずもなかったが、結果的にもっとも真相に近いところを突いていたのはコキュートスだったのだが。
「皆様はこの一件の背後に
自分も何か言わねばならぬ、と思ったものか、セバスが一歩前に出て話し始めた。
「時期的なことからそう考えるのは当然ではありますが、それは実は単なる偶然で、アレイン皇国、とやらが有徳の国家であり、大陸中の食い詰めた人間、亜人を憐れんで施しをせんとしているだけ、ということではないでしょうか?」
「
と、吐き捨てるようにデミウルゴスが言う。
「食料生産、調達ともに無限におこなうことは不可能で、ある期間に限定された領域内で養い得る人口密度には自ずと上限が課せられる。これは大陸各都市においても人口がある閾値を越えて増加しない足枷にもなっているが、アレイン……皇国とやらがやっている目下の人集めは、明らかにこの上限を軽く超過している。
短期間なれば何とかできなくもなかろうが、私の試算では
たちまちにセバスは唇を噛んだ。
正直なところ、面倒事に関わりたくない、という願望混じりで似たようなことを考えていたアインズは、嫌味混じりのこのデミウルゴスの言に「あー、言わなくてよかった」などと
しかし……と、アインズ。
この雰囲気、昔を思い出すなぁ、と。
<運営>主催のキャンペーンシナリオやイベント、敵対ギルドとの抗争開始などに際し、ギルメン皆がこうして玉座の間や円卓の間に
今のアインズがそうであるのと同様に、当時のモモンガ、鈴木悟も、議論が正解や有益な結論を導くことよりも、益体もない突飛な発想が飛び交うのを好んだものだ。案外デミウルゴスは、これをオレが楽しむだろう、と考えて、特段気にする必要もないこの一件を議論の遡上にのせたものかも知れないな。
「ここまでの話をまとめると。」
と怜悧な声でアルベドが告げる。
「アレイン皇国なる人間の国家が目的不詳の大規模な人集めを試みており、実際、百万人規模の人口移動が観測されているものの、応じる者たちは物の役にも立たぬ穀潰しばかり。<百年の揺り返し>の時節であることを踏まえれば、背後に
特に誰にも異論はないようで、皆黙ってこくこく、と頷いている。
そしてアルベドの視線が、愛する至高の主へ向かった。
「アインズ様は……」
「ん?」
アインズの視線も自然と愛妃へ向かう。
「……いかがお考えですか?」
「はぁ?」
オレにわかるわけがないだろーーー!と叫びそうになったアインズだが、これまた自然と
自分は、たとえ知恵で
「ゴホンッ!」
と意味もなく咳払い。
さて困った、どうしよう。
注目する下僕たち、誰の顔を見てもそこには「すべてお見通しのアインズ様は何と仰るのだろう!」との期待が溢れている。毎度の無茶振りだよなー、とは思うが、この無茶振りに応えるのも、これまたナザリック地下大墳墓の主人たる自身の務め。
「まず……現時点では、この騒動の裏に今回の
と、アインズは正直に告白した。
十全な情報収集なしに憶測で投機的な判断を
「ぶっちゃけ、この世界の住人がどこに集まろうが散ろうが、何をしようがしまいが、オレたちの知ったことじゃない。さりとて、これまでこのようなことが起こったことはないんだから注意を払うのは必要だ。当然、しばらく成り行きを監視する必要はあるだろう。」
ひとまず、別にオレでなくても言えるだろう的な、極めて常識的な見解をアインズは示した。
「その上で、重要なことは、だ。」
と言葉を切って、改めて
「
アレイン皇国、が何を思ってこんな馬鹿げたことをやっているのか、少なからずオレも興味がないわけじゃないが、それは強いて知らねばならんほどのことではないし、むしろ、ナザリックに何ら資すところのない好奇心に負けて余計な先手を打ち、既にやって来て潜伏しているやも知れない本百年紀の
そうだよな?オレ、おかしなこと言ってないよなーーー!」
我ながら、何でもないつまらない結論を勢いで強弁している感がないでもないが、とどのつまるところ、アインズとしては出来る限り、関わる必要のない面倒事には関わりたくない、が本音も本音だ。
「というわけだから、この件は無視だ。
恐怖公眷属による監視は継続、万が一何か想定外の動きがあるようならば改めて議す。
異議のある者……はいるか?」
「「「すべては至高の主の思し召しのままに!
アインズ・ウール・ゴウン様万歳!
といった具合で、何やかやと盛り上がった割には、決まったことは、関わり合いになりたくないから無視、という極めて消極的な決定だった。
もっとも、アインズは当然として、かのデミウルゴスを含め、この時点ではナザリックの誰もがこの判断を妥当、と考えて疑うことなどなかった。退屈な日々に少しだけ彩りを添える珍事の発見が報告されたに過ぎず、それについてこうして皆で喧々諤々論じ合うのも、これまた楽しいお遊びではないか、といったところが皆の見解の最大公約数であったことは間違いない。
そして、追って届けられた凶報に、誰もが自身の能天気さを悔いる……こともまたなかったのである。皆、自分の能天気さもまた、綺麗さっぱり忘れ去ってしまう存在であるがゆえに。