億劫のオーバーロード   作:wash I/O

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アインズは、旧友ウルベルト・アレイン・オードルを夢に見る。


世界を汚す者(2)

「モモンガさん、どう思います?」

 

 忘れもしない盟友、ウルベルト・アレイン・オードルの声がする。

 

 あぁ、自分はまたアルベドに被昇天(イカ)されてしばしの微睡みに堕ち、<アインズ・ウール・ゴウンの日誌(ログブック)>に刻まれた、ギルド黄金時代の記憶を夢に見ているのに違いない。

 

「どう……と言われても、特に何とも思ってないですけど。」

 

 返答しているのはアインズではなく、鈴木悟の()の声色で話す記憶の中のかつての自分、モモンガだ。

 場所はナザリック地下大墳墓円卓の間。着座するモモンガとウルベルトの(そば)には、第二階層から引き連れてきた、()()()()シャルティアを愛でるペロロンチーノの姿が見える。

 

「私も本来こういう物言いは好きではないですが、それにしても、いくらなんでも最近の新参たちは創意工夫がなさ過ぎる。」

 

 憤懣やる(かた)ない調子でそう語るウルベルトに対し、耳を傾けるモモンガが内心「他のプレイヤーが不甲斐ないのは、むしろ我らアインズ・ウール・ゴウンにとってはよいことなのでは」と考えていたことがアインズにはよくわかる。

 

「あまりにマニュアル的、というか、攻略Wiki(ウィキ)に書かれた通りのことを手当(てあ)たり次第に課金してやってる連中を見ていると、(イラ)っとしませんか?」

 

「駄目ですよー、ウルベルトさーん。」

 

とペロロンチーノが割り込む。

 

「そういうの、古参気取りとか、老害、とかいって若い人たちに嫌われますよー。」

 

 笑いながらそういうペロロンチーノにつられてモモンガもまた、あはは、と笑いを溢すが、笑われるウルベルトはなおも不満げだ。

 

「茶化すな、ペロロンチーノ!

 だいたいですよ。マニュアルに従って無難なことだけをやるというのなら、それは<現実(リアル)>と何が違うんだ、とお考えになりませんか、モモンガさん?」

 

「ウルベルトさんのおっしゃることはわからなくもないですけど、そのマニュアル的な知識の積み上げにオレたち自身が関わってきたのも事実ですし、新参の人たちがそれに倣うのは仕方がないんじゃないですかね。」

 

と応じるモモンガの言葉は、少なからず同様に新参プレイヤーの言動に不満を抱きつつも、それを如何に消化しているかについて語った死獣天朱雀からの受け売りだ。

 

「モモンガさーん、ウルベルトさんの愚痴に真面目に付き合うことないですよー。

 ウルベルトさんは、新参がオレたちみたいな突飛な工夫をするようになったらなったで、生意気だ何だと文句を言うに決まってるんですから。」

 

「おまえはシャルティアと遊んどれ!

 私はモモンガさんと真面目な話をしてるんだ!」

 

 当時のモモンガにとって、愛すべき仲間として認識されていたのはあくまでもナザリック地下大墳墓に(つど)う四十一人の化身(アバター)とその立ち振る舞いであり、背後にあるはずの<現実(リアル)>の本人(プレイヤー)は必ずしも関心の対象ではなかった。自身の不注意からほとんど全員に本名を知られてしまっている彼は、逆に大半のギルメンの本名を知らない。

 そんなモモンガ、鈴木悟であっても、特に知性の面において秀でたギルメンについては「いったいこの人は<現実(リアル)>で何をしている人なんだろう?」と、敢えて聞き出そうとも調べようとも思いはしないが、それでも興味が湧く相手は何人かいた。

 不思議と悟は、ベルリバー、ぷにっと萌え、ガーネット、ブループラネットらについては、その知恵と知識の深さを認めつつも、そういう思いを持たなかった。彼らはいわゆるオタクであり、趣味と生活が地続きにつながっていないことが容易に想像できたからだ。悟は彼らから多くのことを学んだし少なからず影響を受けてもいたが、それでも、それは悟の(コア)の部分に触れるものではなかった。

 逆に悟が、中の人はいったいぜんたい何者なんだ?という思いを常に抱き続けたのが、タブラ・スマラグディナ、死獣天朱雀、そしてウルベルト・アレイン・オードルである。

 

 中でも、ウルベルトは別格だった。

 

 現れ方は両者過分に異なるものの、タブラ・スマラグディナ、死獣天朱雀が明らかに鈴木悟を知性においては格下の存在と見做し、一方は悟を見下し、一方は悟を導かんと振る舞っていることには、流石の悟も早い時点で気づいていた。

 対してウルベルトは、今もそうだが、小難(こむずか)しい話に対する応じ(かた)など悟とペロロンチーノの間で差などないように思われるのに、ペロロンチーノを「シャルティアと遊んでおけ」と突き放す一方で、悟に対しては、どこまで本気なのかよくわからないが、真面目に語らい合うに足る相手だ、と考えていたように見える。

 

「私はね、モモンガさん。

 人間は、(ほしいまま)に振る舞って、初めて人間だ、と思っているんですよ。」

 

とウルベルト。

 

 それは知っている。

 ウルベルトの奉じる悪の思想だ。

 

 今でこそ誰にも意識されなくなったが、ギルド黎明期においてそれは、確かにギルド、アインズ・ウール・ゴウンの行動原理を規定し正当化する精神的支柱であった。

 悟は、当初はこれを、ウルベルト、という悪魔役割(ロール)を演じるウルベルトの中の人が、方便として持ち出したものだと考えて疑わなかったが、長い付き合いを通して、ウルベルトの中の人が存外本気でそう考えているらしい、ということには気づいていた。

 対して、悟自身にはウルベルトのそれに対応するような、主義、思想、のようなものは、少なくとも自覚的にはまったくない。だから悟は、自分はウルベルトとペロロンチーノのどちら寄りか、と問われれば、疑う余地なく、(はた)からは何も考えていないように見えるペロロンチーノの部類だろう、と捉えていた。

 

「そういう意味で、<現実(リアル)>には既に人間はいない、とすら思っているんです。」

 

「それはまた極端な。」

 

「いやいや本当の話です。我々のような底辺はもちろんのこと、アーコロジーの支配者たちにしても、ただただ世襲してきた役割を演じ続けることに汲々とし旧套墨守するのみで、(ほしいまま)に振る舞えている(もの)などおらんのです。」

 

 ウルベルトはしばしばモモンガに対し「我々底辺」のような物言いをしたものだが、実のところ悟はこれを言葉通りに信じていなかった。

 たとえば、悟はユグドラシル末期のタブラとウルベルトがそれぞれ<現実(リアル)>における資金難に陥っていたことを憶えているが、タブラのそれが単に趣味の文献収集が度を逸しすぎて支払いに窮しているだけに見えたのに対し、ウルベルトのそれは、生活に困っている、というよりは、彼が(せき)を担っている何かの資金繰りが行き詰まって、それでも何とかしなければならない、と奮闘しているかのように見えていた。

 実はウルベルトの中の人が、底辺どころかアーコロジーの支配者側の存在であったのだとしても、それはさして驚くには値しない。そのくらいの計り知れない存在感が、この極めて臆病でありつつも常に大言壮語を吐き、他者が暗に望むところを看破してお膳立てすることに如才ない悪魔の姿をした友人には、確かにあったのだ。

 

「せめて……せめてユグドラシルは、皆が恣に振る舞い人間としてある、そういうものであるべきだ、とお考えにはなりませんか、モモンガさん?」

 

 んなことオレに言われてもなぁ……とモモンガは苦笑いの絵文字(アイコン)を返す。

 

「人間が、人間としてあれない世界など……いっそのこと滅んだ方がいい。」

 

「あはは、まさに悪魔的ですね!」

 

 ごっこ遊び(ロールプレイ)への賛辞のつもりでモモンガはそう返す。

 

「いや、ウルベルトさんは皆に人間らしくあって欲しい、と願っておられるみたいだから、そういうわけでもないのかな?」

 

「モモンガさんも、仮にギルメンの皆がマニュアルに書かれたことだけを黙々とこなす存在になったら、と考えるとゾッとするでしょう?」

 

 モモンガは、ウルベルトのこの問いを軽口で受け流した。

 

「そうなってくれたら、ギルド長としてのオレの苦労は減って、楽ですけどね。

 でも……」

 

 即座にこう付け加える。

 

「……確かに嫌です。

 そんなアインズ・ウール・ゴウンは……オレたちのアインズ・ウール・ゴウンじゃない!」

 

「恣に振る舞う(もの)同士が、恣に振る舞うべく殴り合ってこその人間なんですよ。」

 

「それって……やまいこ流?」

 

 何か思い詰めた様子を見せていたウルベルトが、ここに至って初めて笑顔の絵文字(アイコン)を返したのを認めて、悟はホッとした。

 きっとウルベルトの中の人は、<現実(リアル)>で何かこの話題に関わるような嫌なことがあったのに違いない。友人として、本当はそれについて聞き出してやるべきなのかも知れないが、ウルベルトが自身の<現実(リアル)>について語ることは稀も稀で、(かろ)うじて、何かの拍子で問わず語りに知らされた、彼の両親が凄惨な事故で亡くなった事実を知るのみだが、それとて真実であったかはわからない。

 本人が語らぬことを無理強いに聞き出さないのは、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの不文律だ。

 

「モモンガさんも私と同じように考えてくれるようで……ホッとしましたよ。」

 

 悟としては、適当に相槌を打った感があるので、ウルベルトが何に納得してくれたのかがよくわからなかった。

 対して、夢の中でこれを振り返る只今の大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、何やら得体の知れないもやもやとした思いが自身の内から湧き上がってくるのを覚えている。

 

 どうしてオレは、こんな話を記憶の底から思い出(サルベージ)して反芻しているんだろう?

 

 

 

「……ん?」

 

 不意に、暗闇でも損なわれることなく瞼で封じることすら叶わない視覚が復旧して、アインズはそこに、自身の寝顔を満足げな微笑みを浮かべて眺めている愛妃アルベドを認めた。

 今は名すら思い出せないかつての鈴木悟の母も、幼い日の悟の寝顔をこんな笑顔を浮かべて眺めていたものだろうか。

 

「……ありがとう、アルベド。

 お陰でよい夢を見れたよ。」

 

「それはよろしゅう御座いました。」

 

「懐かしいウルベルトさんと話ができた。」

 

 アインズがそう言うと、アルベドはきょとんとした表情を浮かべた。

 

 あぁ、とアインズは思う。

 自分はこれまで幾度となくアルベドにこうして癒やされてかつての黄金時代を夢に見てきたことだろうが、自身の性格から考えればその内容をアルベドに語ったことはないだろうし、彼女も強いてそれを聞き出そうとはしなかったに違いない。

 

「……どのようなお話をなされたのですか?」

 

 そう問われて、不意に思い出した記憶を語りたい衝動に駆られたアインズは躊躇いを覚えた。

 自分が癒やされたら、次はアルベドの番だ。

 

「いや、またでいいよ、アルベド。」

 

「どうぞご遠慮なさらずに。

 思う存分語られた後、出血大奉仕(サービス)いただけるということで手を打ちましょう!」

 

 ふふふ、アルベドには敵わないなぁ、とアインズは苦笑する。

 

「……じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらおうか。」

 

 アインズがそう応じると、アルベドはそそくさとアインズに安楽椅子の姿勢を採らせ、自身はその中にころんと転がり込んでアインズの骨の両手を引き寄せ、自身の豊満な胸の上に置いた。

 

「ウルベルト様と……どのようなお話をなされたのですか?」

 

 アインズは、さきほど夢の中で語らったウルベルトとの会話をアルベドに話して聞かせた。

 アルベドはただ黙って耳を傾けつつ、時折立てた指先を自身の唇に当てて何やら思案する様子を見せる。

 

「なかなかに……示唆的な記憶、で御座いますわね。」

 

とアルベド。

 アインズ自身、そこは気になっていたところではある。

 

「ウルベルト・アレイン・オードル様の人となりについては、必ずしも通じておりませんが。」

 

 そう断った上でアルベドは続けた。

 

「我が創造主、タブラ・スマラグディナ様が(わたくし)を前に、苦々しく語られたウルベルト様評について思い出すところが御座います。」

 

 おそらくそれはタブラ・スマラグディナの私的空間(プライベートスペース)で語られたことで、ギルドの<日誌(ログブック)>の記録に依って立つ現在のアインズには知る由もない話。否応なく好奇心が掻き立てられる。

 

「タブラさんは、ウルベルトさんのことを……何と?」

 

「タブラ・スマラグディナ様はかよう仰せになりました。

 ウルベルト・アレイン・オードルは、治世(ちせい)能臣(のうしん)乱世(らんせ)奸雄(かんゆう)である、と。」

 

 パカリ、とアインズの骨の口が(ひら)く。

 

「……はぁ?

 それって三国志の……」

 

 アインズには、自身アインズ・ウール・ゴウンの軍師、諸葛孔明(しょかつこうめい)と称して憚らなかったぷにっと萌えに聞かされた知識を通して、記憶に刻まれるところが呼び覚まされる。

 

「左様で御座います。古代中国、()の国を(おこ)した梟雄、曹操孟徳(そうそうもうとく)の若かりし時分に捧げられた人物評、とされるものですわね。」

 

 アインズの理解としては、タブラとウルベルトは決して不仲でこそなかったが、同時に馬の合う間柄でも決してなかった。むしろ、ウルベルトはタブラの蘊蓄話を忌み嫌っていたし、タブラもきっと、ウルベルトがそうであることに気づいていなかったわけはない。

 そのタブラが、ウルベルトをこのように評していたとは!

 少なくともこれは、手放しの賛辞ではなかろうが、決して軽んじた相手に捧げられる評でもあるまい。

 

「その含意を推し量りますのは憚り多きことながら。」

 

とアルベドは語る。

 

「タブラ・スマラグディナ様がウルベルト・アレイン・オードル様の才を高く買っておいでであったことは疑いようも御座いません。曹操(そうそう)が帝国を興した英雄であることを思えば、そこに王者、支配者の才を見出しておられたのは明白です。

 一方で、この故事の含意するところを鑑みれば、評される(もの)がそうでありながら、真にそうであるための何かを決定的に欠いていることを指摘するものであることもこれまた明らか。」

 

 なんと!

 アインズは()で驚いている。

 

 おそらく、アルベドの解釈はタブラの真意を射たものであるに違いない。

 そしてアインズは、続くアルベドの言により一層驚かされることになる。

 

「さきほど承ったアインズ様……この場合、モモンガ様、と申し上げたほうが正しいかとは存じますが、モモンガ様とウルベルト様の会話を思いますに、これまた推し量りますのは憚り多きことながら、ウルベルト様ご自身も己に何か足らぬところがあることをご承知で、その足らぬところを(ほか)ならぬモモンガ様にお求めであったものか、と。」

 

「……ど、どゆこと、それ?」

 

 あまりに想像の埒外のアルベドの発言に、アインズはいささかキョドり気味だ。

 それを気にする様子はアルベドにはない。

 

「つまりこうで御座います。

 ウルベルト様は、誰も彼もが恣に振る舞う世界を理想となさいました。これはまさに、タブラ・スマラグディナ様が覚えた王者の才の一つで御座いましょうが、でありながら、恐れ多きことながら、ウルベルト様はそれをご自身で実現する才には恵まれなかったのであり、また、そのことをご自身でご承知であられたので御座いましょう。」

 

「ふむふむ。」

 

 確かに。

 

 ウルベルトには、やたらと大言壮語を雄弁に弄ぶわりには、それで以て他者を動かすのはまったくの不得手で、どちらかと言えば正論を言っているのに相手からは反感を買うことが常であった。

 アインズ、当時のモモンガはウルベルトが極端な物言いでこそあれ真っ当なことを言っていることだけは理解できたので、どうしてウルベルトの言は自然に受け入れられることがないのだろう、と不思議に感じたものだが、今振り返れば、確かにウルベルトには、それが何である、と明言することこそ難しいものの、確かに、何か他者との意思疎通に際して決定的に欠けているものがあって、ほんの僅かな言葉足らずや逆に余計な一言が、真意が伝わることを妨げるきらいがあった。

 そして、本質的に他者と本音をぶつけ合う胆力を欠いたウルベルトは、そうなることがわかっていたからこそ、より自身の真意を迂遠に示すように、さらにはモモンガを含む誰かを自身の代弁者に仕立てて語らせるようになり、それはさらに、他者がウルベルトの真意を理解することを困難にしていったのだ。

 

「対してモモンガ様……アインズ様は、今なおそうであらせられるように、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの皆様が恣に振る舞う(さま)をこよなく()でられ、しかも、それを取りまとめて力と為す度量を備えておいでです。

 ウルベルト様は、そんなモモンガ様にだけはご自身の真意を語り、モモンガ様に理解されることを以てご自身の心の均衡(バランス)を保っておられたものではないか、と憚り多きことながら、推察申し上げる次第で御座います。」

 

 アインズは、自身の力がアルベドの柔肌を傷つけぬよう気遣いながら、それでも力強く彼女を背後から抱きしめた。

 

「やはり、アルベドはオレの宝だ!

 オレ自身では、そんなことには思いも及ばなかった。」

 

「ご謙遜で御座いましょう。

 むしろ、自分が誰かからこのように当てにされている、愛されているなどということを軽々(けいけい)に口にするのは浅薄な自惚れ(もの)の所業。アインズ様は、ウルベルト様が御身にどのような思いを(いだ)いておられたかご承知の上で、それでありながら大親友であられたウルベルト様を憚って、敢えてそれを明確にはなされていなかったものか、と。

 同様に、アインズ様は白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツアーが、御身の何を高く評価し、期待し、当てにしているかを、敢えてご自身で明言しようとはお思いになりませんでしょう?」

 

 ふふふ、やっぱりアルベドには敵わないや。

 だが、負けっ放しは大魔王アインズ・ウール・ゴウンの矜持に触る。

 

「待たせたな、アルベド。今度はオレが奉仕させてもらう番だ。」

 

「お心遣い、痛み入ります。」

 

「心遣いなもんか!

 今のオレは、おまえの敏感な部分を責め立てて、あられもない悲鳴を上げさせたくてうずうずしているぞ!」

 

「優しくしてね、アインズ。」

 

「残念ながらそれは約束できないな。

 オレは……」

 

 突如アインズは腰を突き上げ、既に愛液で濡れそぼったアルベドの秘所に()()を貫かんばかりに差し入れた。たまらずアルベドが獣のような嬌声を漏らす。

 

「……我儘なんだ!」

 

「あぁ……!

 素敵よアインズ、愛しているわ!」

「オレもだアルベド、もっとその可愛い声を聞かせてくれ!」

 

 それから数時間、アインズの寝室にはアルベドの陶酔とも嗚咽とも悲鳴ともつかぬ声が響き続けた。

 

 

                    *

 

 

 ユグドラシルのキャラクターは、自身に従属する最大一千六百万余の何かと連動する潜在能力(ポテンシャル)を有する。

 これは、ゲーム上でそういった従属物がキャラクターの固有識別子(ID)に24ビットの接尾辞(サフィックス)を加えて管理された仕様に由来し、ルベドを構成するユニット総数や、アインズが種族技能(スキル)で召喚する不死者(アンデッド)の総数も理論上はこの制約を受けるが、これがユグドラシル時代に上限として意識されることはなかった。

 

 有限の技能(スキル)発動回数、それ以上に有限の時間の中で、そんな数の何かを生じさせることなどあり得なかったからだ。

 

 対して、こちらの世界に渡り来て以降のナザリック地下大墳墓には、唯一、この上限と直面した(もの)がある。

 

 ナザリック随一の情報将校、恐怖公である。

 

 彼の配下、正しくは子孫の数は既に一千六百万を軽く超え、この世界のありとあらゆる場所に潜んでいるが、恐怖公と視聴覚を共有し正しく管理下におくことができる眷属の総数は、やはりこの理論値の制約を受けている。新たにこの世に(せい)()ける眷属のうち、正しく恐怖公眷属情報網(ネットワーク)に加わり得るのは、たまたまその瞬間に24ビットの番地(アドレス)空間に再利用を待つ空きがあった(もの)のみであり、そうでないものは、ただ、少しばかりの知恵を備えたゴキブリとして生まれ落ちるのである。

 多くの場合、始祖の恩恵に漏れたゴキブリたちは、そうでないゴキブリたちの共食いの贄として饗されることになるのであるが、運良くそこから逃れた(もの)は、幾ばくかの知恵を備えているがゆえに、儚くも「いったい自分は何を目的にこの世に生まれたものか」と、数ヶ月余の寿命を悩み続ける哲学的ゴキブリと化すのだ。

 

 閑話休題(それはさておき)

 さしもの恐怖公も、常に定員いっぱいの一千六百万余の眷属からの情報をすべて捌き切ることは敵わないので、実際のそれは分散管理されている。それぞれの現場において何かを見、何かを聞いた報告は、数多(あまた)の眷属を中継(リレー)した末に恐怖公まで届くが、この間に篩分け(フィルタリング)がおこなわれる。

 つまり、集合知であるところの恐怖公眷属情報網総体の関心を強く惹いた情報だけが、印象的な出来事(イベント)として恐怖公に認知される。その他の有象無象は、まったく知覚不能なわけでは決してないが、それは例えるならば、読者諸兄が目前をふわふわと落ちていった埃の一つ一つが、見えていないではないのに意識されることがないように、恐怖公自身が強いてそれに注目しよう、という意思を発動しない限りは意識に(のぼ)ることはないのである。

 

 そのような次第であるから、至高の主アインズ・ウール・ゴウンや階層守護者の面々が少なからず関心を向けた事象であることは百も承知の上で、それでも恐怖公は、大陸南西の僻地の小国、アレイン皇国神都で催された(サバト)の監視、などという退屈極まりない仕事には、当初、それほど注力はしていなかった、というか、恐怖公眷属情報網から届く情報は、それが恐怖公の意識に(のぼ)るほどの強い刺激を伴わなかった。

 それでもナザリックの下僕(しもべ)のご多分に漏れず職務に忠実な点では誰にも劣らない恐怖公は、ときには意識的にその様子を垣間見、はしていたのである。

 

 それは、恐怖公にとっては本当に退屈極まりなく、また、その意図が理解不能な光景であった。

 

 アレイン皇国神都は、直径およそ5キロの真円に近い城壁に囲まれた城塞都市だが、城壁の内部、かつて所狭しと立ち並んでいたであろう建築物は一部を除き(ことごと)く撤去され、平らに整地された地面には芝生が植えられて一面の緑の広場と化していた。

 そこに、(おびただ)しい数の人間、亜人が(ひし)めき合っている。季節は初秋、暑くもなく寒くもなく過ごしやすい気候に(みな)軽装で、中には全裸となって(くつろ)いでいる(もの)すらある。あちらこちらで扇情的な打楽器(ドラム)拍子(ビート)を刻んでおり、少なくない(もの)たちがそれに合わせて踊り狂う。呆れたことには、衆人環視を気にするでもなく、愛交、乱交に及んでいる(もの)たちさえも。

 この(サバト)の主催者となる皇国の(もの)であろうか、その喧騒の中を足(しげ)く盆を抱えて行き交う法服姿の一団があって、串焼きにした肉やパン、酒や催淫効果のある煙草などを配り歩いている。今のところ充分に量は行き渡っているようで、群衆は思い思いにそれを受け取り、飲めや歌えの大騒ぎを楽しんでいるように見えるが、どう考えてもその供給が無限に続くはずはない。

 

「まったく……わけがわかりませんな。」

 

と恐怖公は独り呟いた。

 さりとて、この光景にまったく見覚えがないわけではない。というのも、規模(スケール)や屋内外の差こそあれ、その様子はまさに恐怖公自身の居所、ナザリック地下大墳墓第二階層黒棺(ブラックカプセル)のそれに通じないでもなかったからだ。

 今もまさに恐怖公の目前には、至高の主より下賜された狩りの獲物を貪りつつ、交尾してはその総数を増やそうとする眷属たちが踊り狂っている。アレイン皇国の(サバト)は、恐怖公にはまるでそれと同じもののように見えていた。

 

 ただ、異なるのは。

 黒棺(ブラックカプセル)のそれが一見無秩序であるかのように見えつつも、実のところは一千六百万余の世界に散らばる眷属たちから収集される情報を集積処理する有機脳集合(クラスタ)として機能しているのに対し、アレイン皇国のそれは、ただただ物資を浪費するだけの愚かな行為に思われたことだ。

 

 何故(なにゆえ)この(もの)たちはこんなことをやっているのだろう?

 

 独り恐怖公は呻吟する。

 群衆のそれはわからなくもない。彼らはただ弱く、愚かで、この狂宴の先に何が待ち受けるかに思い至らぬ阿呆どもだ。その阿呆どもに酒肴(しゅこう)を供給する(もの)たちもまた、ただ、その企図するところを理解するでもなく、ただただ命じられたままに黙々と蠢く阿呆どもだ。

 だが、これをやらせている黒幕、アレイン皇国の君主、とされる人の子アレイン、とやらには、これだけの浪費をおこなう何らかの明確な目的があるに違いない。だが、恐怖公にはたちまちにはそれが思い浮かばなかった。

 

 あるいは。

 そのアレイン、とやらも、単に底抜けの阿呆なのだろうか?

 

 恐怖公は、眷属情報網と接続しているエントマ・ヴァシリッサ・ゼータを介して、状況の簡潔な要約を情報戦の上司となるデミウルゴスに報告した後、意識を他の領域の監視へと移した。

 シャルティアあたりであればあの露悪的な集会を喜ぶやも知れないが、至高の主を含め、ナザリックの仲間たちがこれに関心を抱くとは俄には思えない。そんなことよりも、未だ兆候を掴めぬ本百年紀の来訪者(ユグドラシルプレイヤー)の捕捉こそが、自身に課せられた喫緊の課題である、と恐怖公は考えていた。

 

 そのような次第で。

 恐怖公の意識は全世界大に広く薄く拡がっていたため、

 

「なんと!」

 

「そんな!」

 

「どうして?」

「よもや!」

「そんなことがあり得るのか?」

「まさか!」「どうしてここで?」「不敬!」「不届き千万!」「許されざる悪行!」「何とも恐れ多い!」「麗しの御名(みな)が!」

 

 雪だるま式に拡大する興奮が眷属情報網(ネットワーク)の一角に励起されたとき、たちまちには恐怖公は何が起こったのかを把握することが叶わなかった。

 それでも彼は決して慌てふためくことなく、黒棺(ブラックカプセル)の生え抜きの眷属たちが一時滞留(バッファ)している情報をかき集め、何がこれを引き起こしたのか、その追体験を試みた。

 

 興奮の(ソース)は、すべてアレイン皇国神都を監視する眷属たちから発せられたものだ。

 きゅきゅきゅきゅきゅっ!と、恐怖公が覗き見んとする映像、音声が巻き戻る。

 

ピーーーッ、キーーーーーーーン!

 

 その出来事は、電気増幅器(アンプ)拡声器(スピーカー)が発する鳴音(ハウリング)で始まった。

 むっ、と顔をしかめつつ、恐怖公は追体験を続ける。

 

「……あー、あー、マイクテスッ、マイクテスッ!

 

 昨今、こちらの世界の住人が<現実(リアル)>にあったような電気機器を利用するようになった話は恐怖公も聞き及んではいたが、アレイン皇国とやらはその恩恵からは漏れた後進国ではなかったか?

 

あー、お集いの弱者、愚者、無能の諸君!

 

 何者かが拡声器を通じてそう告げ、同時にそれまであちらこちらで打ち鳴らされていた打楽器(ドラム)の音が()んだ。見渡す限り芝生の広場の何処にあっても聞こえてくるその声に驚きのざわめきが起こるも、それが何を言っているのか聞き取らんと望むが故か、自然と静寂が訪れる。

 

(サバト)主催者(ホスト)、人の子アレインより、諸君に一言ご挨拶申し上げる。

 

 言葉通りに信じるのであれば、只今集音器(マイクロフォン)を通して語っているのはこの意味不明の狂宴を企画した、アレイン皇国国家元首、人の子アレイン本人であるらしい。

 

「……おまえらぁ。

 楽しんでくれているかーーー!

 

 この問いかけに、うぉーーー!と群衆が歓呼で応じた。

 

酒も煙草も食い物も、唸るほどあるから遠慮なく楽しんでくれたまえ!

 

 再び群衆が、うぉーーー!と歓呼する。

 

おまえたちにはその権利がある。

 何故(なぜ)なら、弱者、愚者、無能たるおまえたちは、長く顧みられなかった(もの)たちだからだ!

 

 三度(みたび)歓呼が起こるが、それはさきほどまでのそれよりやや弱い。

 おそらくは、応える(もの)たちが、発言の意図を掴みかねているからではないか、と恐怖公は思う。

 (ほか)ならぬ恐怖公とて、こいつ、いったい何を言っているんだ、と思わぬでもない。

 

そして今日は、おまえたちに、何故(なにゆえ)おまえたちが弱者、愚者、無能として、夢も希望もなく、たた食って(くそ)して寝てヤッて()えるだけの、満たされ得ぬ日々を続ける境遇に甘んじねばならんのか!

 ……その秘密を、小生が教えてやろう、などと(だい)それたことを考えておるので御座いますよーーー!

 

 神都はざわめきに包まれた。

 誰一人、人の子アレイン、と称する人物の真意はおろか、彼が何処から語りかけているかすらわからないからだ。

 

「……教えてやろう!

 すべては……大魔王アインズ・ウール・ゴウンの(せき)()するものだッ!

 

 なんと!

 

 恐怖公は息を呑み、同時に、何に自身の眷属たちが反応して色めき立ったかを理解した。

 突如、あろうことか至高の主の御尊名が持ち出され、眷属たちは驚きを隠せなかったのだ、と。

 

おまえたちの父は、何ら名を遺すことなく無為に死んでいった。

 それは何故(なぜ)だ?

 大魔王アインズ・ウール・ゴウンがあるからだ!

 

 おまえたちの母は、おまえら以外には何も遺すことなく死んでいった。

 それは何故(なぜ)だ?

 大魔王アインズ・ウール・ゴウンがあるからだ!

 

 おまえたち弱者、愚者、無能は、無為に、何の意味もなく生きていくことを強いられている。

 それは何故(なぜ)だ?

 大魔王アインズ・ウール・ゴウンがあるからだ!

 

 これは……ドえらいことになりますぞぉ、と恐怖公は息を呑む。

 神都の群衆たちも、自分たちの置かれている状況が呑み込めずに、ただざわざわと不安げに周囲を見回すのみ。

 

そんなおまえたち弱者、愚者、無能を、小生が埋め合わせてやろう。

 心ゆくまで、喰らって呑んで糞してヤッて、そして踊り狂うがいいッ!

 

 ここに至ってうねり狂う打楽器(ドラム)拍子(ビート)が再開され、改めて、うぉーーー!と群衆から歓呼の声が上がった。

 

 

 

(なん)……なの、コレ?」

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層(ロイヤルスィート)アインズの自室。

 (つど)った三賢者(トリニティ)と共に、恐怖公より届けられた魔法再生(ビデオ)でアレイン皇国神都の様子を垣間見た、この世の弱者、愚者、無能の不幸の源泉と名指しされたところの大魔王アインズ・ウール・ゴウンは、ただただわけがわからずに、パカリと骨の口を(ひら)き、神々しい緑色の輝きをペカペカと放ちながら絶句するほかなかった。

 

 ややあって、辛うじてその彷徨(さまよ)う視線がふらふらとデミウルゴスに向かうが、(あるじ)の疑惑の視線を向けられた当の本人は、問われるよりも先に抗弁する。

 

「まさか!

 (わたくし)が、こともあろうにアインズ様の御尊名をこのような悪巫山戯(わるふざけ)に用いる不義不忠の(もの)だとお考えでしょうか!」

 

 決してデミウルゴスの忠義を疑ったことなどないが、アインズの名を使って遊んだ前科は山程あったような気がするぞ、とアインズは思うも、直感的に、デミウルゴス自身がこの事態を裏で糸引いていることはあるまい、とも考えている。

 

 デミウルゴスの悪戯(いたずら)にしては……いくらなんでもオレの心を(えぐ)り過ぎだ!

 

 アインズは、死の支配者(オーバーロード)の肉体が欲するところを満たすべく、心赴くままにこの世界の有象無象を狩り続けてきた存在だ。それを否定するつもりはないし、少なからず親類縁者を屠られて自身に恨みを抱いている(もの)があっても驚きはしない。そういった連中に自身の存在を知られるヘマなどやったこともない……はずだが。

 一方で、もちろんこれを恩着せがましく主張するつもりは毛頭ないものの、でありながら、アインズは狩りの獲物を選ぶに際しては細心の注意を払っていて、基本的には弱者、愚者、無能から一方的に搾取したり略奪したりするムカつく連中を狩ってきたのであり、弱者、愚者、無能から感謝されることこそあれ、彼らの不幸が自身の(せき)()するものだ、などと言われる筋合いはない、という思いが少なからずある。

 

「敵の真意が奈辺にあるにせよ……あからさまな挑発、で御座いますなぁ。」

 

 知性の有無に関わらず、この世界の存在の生殺与奪は至高の主アインズ・ウール・ゴウンの思いのままであって当然、と考えるパンドラズ・アクターは、そういった創造主の考えに思い馳せることなく、ただ簡潔に常識的に考えられるところを口にした。

 

「敵、と言うからには、パンドラズ・アクターはこれを裏で糸引くのは来訪者(ユグドラシルプレイヤー)だと考えているのかしら?」

 

 アルベドにそう問われて、パンドラズ・アクターは即座に、

 

「それ以外に……あり得ますかな?」

 

と応じたが、これはアルベドに言下に否定された。

 

「真意がわからないのは(わたくし)も同じだけれど、この(もの)が、ギルド、アインズ・ウール・ゴウン、ではなく、大魔王アインズ・ウール・ゴウン、と名指ししているのは、発言者が少なくとも来訪者(ユグドラシルプレイヤー)ではないことを示唆しているわ。

 こちらにやって来たばかりの彼らに、アインズ様の只今の名乗りを前以て知る(すべ)はないもの。」

 

「なるほど。それは……守護者統括殿(アルベド)のおっしゃる通りですな。」

 

(わたくし)の把握しております限りにおきましては。」

 

と恭しくデミウルゴスが復命する。

 

「こちらの世界にある(もの)で恐れ多くもアインズ様の御尊名を承知している(もの)は、まず第一に竜王(ドラゴンロード)ツアーとその一族ですが、今回の件では除外して考えて差し支えありますまい。」

 

 アインズも黙って、うんうん、と頷いて見せる。

 

来訪者(ユグドラシルプレイヤー)としては、存命してはおりますまいがカーター・ツィマーマンのヤチマ、光輝(ルミナス)のアリソン、そして今なお存命の可能性がある同じく光輝(ルミナス)不死者(アンデッド)ブルーノがありますが、ブルーノについては(カルマ)が善に全振りで、よもやこのような暴挙に加担するとは考え難く思われます。」

 

 ほうほう、と、ツアーを除いて誰もたちまちに思い出せないアインズは続きを促す。

 

「最後に、ツアーの舎弟として吸血鬼(ヴァンパイア)の冒険者キーノ・インベルンとその一党が御座いますが、かの(もの)たちの性向を考えれば、やはりこういった陰謀に加担するとも思えず、また、キーノの力量を考えれば、こちらの世界の強者(つわもの)があの(もの)たちを捕縛して秘密を聞き出す、などということもあり得ぬ話か、と。」

 

「……つまり、人の子アレイン、とやらが、何故オレの名を知っているのか、何を目的にわけのわからぬ主張を大群衆を前にやっているのか、いずれもさっぱりわからん……ということだな。」

 

 アインズとしては、それで三賢者を責めるつもりなどない。

 (ほか)ならぬアインズも、わけがわからないのだから。

 

「ですが。」

 

とアルベド。

 

「これが、パンドラズ・アクターも申しましたように、御身(おんみ)(おび)き寄せんとする挑発、陽動であることは明らかで御座います。」

 

「あぁ、そうだな。それ以外にはあるまいよ。」

 

 アインズも即座にアルベドの言葉に賛同した。

 

来訪者(ユグドラシルプレイヤー)の気配もなく、捨て置けば糧食が尽きて瓦解することがわかりきった烏合の衆です。何を為す必要がある、とも思いませんが。」

 

「何を言ってるんだ、アルベド?」

 

 ニッ、とアインズの骸骨の形相が妖しげな微笑みを浮かべる。

 

「この報告を、玉座の間ではなく、オレの部屋でおこなった理由はなんだ?

 答えは簡単だ。この話をシャルティア、コキュートス、アウラ、セバスが聞けば、()めるのも聞かずにあいつらが殲滅に出撃する、と思ったからだ。そうだろう?」

 

 三賢者は、真を射抜かれて沈黙した。

 至高の主の御名を弄ばれて立腹しているのは彼らとて同様であるが、彼らにはそれを直截的な行動に移さぬだけの知性と自制心が備わっている。

 

「おまえらのその判断は正しい。」

 

「では!」

 

 アルベドはすかさず(あるじ)の評価に便乗して無介入を既定路線化しようと期するも、

 

「だが!」

 

との、アインズの力強い言葉に遮られた。

 

「よりによってこの阿呆は、このオレ、アインズ・ウール・ゴウンに喧嘩を売ったんだぞ。

 こいつが何処の誰で、何が目的か、なんてことはこの(さい)どうでもいいことだ。」

 

 アルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクターは三者三様に深い溜息をついた。

 元よりわかっていたことだ。我らが至高の主に、これを黙殺することなど叶うまい。

 

 骨の諸手をガバッと振り上げつつ、アインズは立ち上がった。

 

「出撃だッ!

 然るべき(むく)いで……遇してやろうじゃないか、あーーーん?」

 

 わははははっ、と高笑いする我儘気儘な骸骨に、翻意を強いる(すべ)など、既にあろうはずもなし。

 

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