億劫のオーバーロード   作:wash I/O

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ルーシェンに指示されるまま()の奥深くへ踏み込んだ来訪者(ユグドラシルプレイヤー)鳩摩羅天(カーティケア)ブルーが見たものは?


4.そいつは既に死んでいる

(なん)……なんだ、こりゃ?」

 

 目前に広がるまったく予想していなかった光景に、鳩摩羅天(カーティケア)ブルーはしばし三組六本の腕を不愉快そうに組んだままの呻吟を強いられた。

 

 少なからず感じられる森妖精(エルフ)の気配が明らかに避けている、と思しき森の一角で彼を待っていたのは、植物で編まれた巨大な宮殿、としか表現のしようのない構造物だった。いずれかのギルド拠点か、と疑うが、どうもそういう感じではない。

 知恵袋ルーシェンからの<伝言(メッセージ)>があるものか、としばしそのまま待ってみたが何の連絡もなく、こちらから呼び掛ける手段もないので、意を決したブルーは隠形(いんぎょう)を保ったままに宮殿の中へと歩みを進めた。

 

 森妖精(エルフ)がこれを避けている理由は明白だった。

 濃厚な不死者(アンデッド)の気配を、ブルーの索敵能力は覚知している。

 

 一方で、これが真にギルド拠点であったならばあって然りの拠点防衛NPCとの邂逅も、(トラップ)の発動もまったくない。こちらが隠形(いんぎょう)しているとはいえ……妙だな、とは思いつつ、それでも油断はせずにブルーは探索を続けた。

 そして、最奥の大広間、もしこれがギルド拠点であるなら玉座の間、あるいは円卓の間と思われる穹窿(ドーム)状の空間で、彼が呆気にとられた光景と出会(でくわ)すことになった。

 

死の騎士(デスナイト)、だよな……コレは?」

 

 それ自体は彼にとっては決して驚くべき存在ではなかったが、その数が尋常ではない。

 何かを取り囲むようにぐるりと肩を組んで円陣を造り、それ自身は外へ向かって屹立している。これが更に数段(うえ)へと積み重なって、植物で編まれた穹窿(ドーム)の中に、入れ子状に不死者(アンデッド)組体操(マスゲーム)的に形作った穹窿(ドーム)がある(てい)だ。

 

 中に……何かあるのか?

 

 <完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)>相当の種族技能(スキル)<厭離穢土(おんりえど)>が発動しているためか、死の騎士(デスナイト)は目前にあるブルーに何の反応も返すことなく、ただ直立不動を保っていた。

 知恵袋からの指示を期待するもやはりこれはなく、さりとてこのまま立ち尽くしていたとて意味もないし、たとえ襲い掛かられたとしても抗する(すべ)はある、と意を決したブルーは、思い切って隠形を()いてみた。

 

 が。

 やはり、死の騎士(デスナイト)は不動のままだ。

 

「……これじゃ、埒が明かんな。」

 

 ぽそり、そう呟いてみるも応じる者はおろかそれを聞く者もない。

 

 短気を起こさぬよう自身を戒めながら、今しばらくブルーは目下の状況に思いを巡らせた。

 明らかにこの束になった不死者(アンデッド)は内部に何かを守っている。その禍々しい気配を感じ取った森妖精(エルフ)たちが、あからさまにこの宮殿への接近を避けているように見えることもこれを裏付けよう。

 一方で、こうして自身が屈強な姿を目前に晒してみても、何かの守護を命じられているはずの死の騎士(デスナイト)は応戦の気配を見せない。これの召喚者にたまたまここに迷い込んだ者を傷つけることを遠慮する理由などないように思われるのに、これはどうしたことだろうか。

 

 かなりの時間を黙考に費やしたものの何も思い浮かばず、実のところ指示を期待して待っていた知恵袋からの<伝言(メッセージ)>も届かないので、ブルーは、何が守られているのかだけでも確認しよう、と意を決した。

 

技能(スキル)、<欣求浄土(ごんぐじょうど)>!」

 

 三組六本の腕先の指がそれぞれに(いん)を組み、日に一度使用可能な不死者(アンデッド)を含む中低位(ちゅうていい)の不浄の者を一撃の(もと)に消し去ることが可能な技能(スキル)が発動された。激しい閃光が放たれるや、光の粒と化した数多の死の騎士(デスナイト)はものの見事に消滅する。

 ブルーはこの様子を漫然と眺めていたが、やがて、

 

「……ん?」

 

と首を傾げた。

 光の粒は霧散したにもかかわらず、その中央からまだ光が放たれていたからだ。

 

「な……これは!」

 

 ブルーは息を呑んだ。

 そこにあったのは……。

 

 安らかな寝息を立てて眠る、妖しげな輝きを放つ紅水晶(ローズクォーツ)の鱗に身を包んだ一匹の巨大な(ドラゴン)

 

 

                    *

 

 

「お呼び立てして申し訳ない。まぁ、掛けてください。」

 

 融水谷(ツィラータール)(おさ)、ジョウン・カタラクトは村の総司令官(インペラトール)に推されたこともあって、元は村長のための邸宅であった、ほぼ村の中央に位置する他の住民の小屋よりも少しだけ造りの良い家屋に住んでいた。そのささやかな応接室でジョウンから席を勧められているのは。

 

 トブの大森林から移民団を率いてきた仮面の魔法使い、先生、である。

 

 到着した二百二十人の移民団には、元から空き家だったものに加え、ジョウン指揮の(もと)に彼らが旅する間に突貫で建築された新たな小屋が充てがわれた。トントン拍子に話が進んだため、中には数家族の雑居を強いられた者もあるが、追々一緒に増築していけばいいだろう、と特に不満が上がることはなかった。

 決して暗愚ではないジョウンは、元からの住民と移民の間に分断が生じることのないよう、敢えて移民向けの住居を一区画にまとめることなく、村全体に分散するよう差配していた。移民たちは消費せずに残った携行食料を森からの土産として銘々近所に配って歩いた。逆に住民たちは、移民たちが久々に口にする温かい料理で彼らをもてなし、遠路の到来を労った。

 また、村人はふんだんに湯を沸かして、移民たちが長旅の汚れを落とす便宜を図った。こういったもてなしは、はるか昔から地方の村落において、相手が移入者であるか(いな)かを問わず遠方からの来客に対して供されてきた、伝統的な心尽くしである。

 

 その順調な滑り出しを見届けて先生はそそくさと立ち去ろうとしたのだが、ジョウンに「一席設けておりますので是非に」と引き止められ、しぶしぶこれに付き合わされた。

 

「まずは一献。」

 

 ジョウンが床几(テーブル)に用意された先生の分の(グラス)葡萄酒(ワイン)を注ごうとすると、先生の布越しの手が差し出され、

 

(たしな)まないんだ、もったいないから()めてくれ。」

 

と制された。

 では食事だけでも、と家禽を丸焼きにしたものを取り分けようとすると、

 

「食べないんだ、もったいないから村の連中にでも配ってくれ。」

 

と応じられ、ジョウンはいささか困惑した。

 

「……無理にはお勧めしないが。」

「本題を。」

 

 仮面の魔法使いが浮世離れしているのはさもありなん、とは思いつつも、あまりに社交辞令を欠くその人柄にジョウンはどう話を切り出したものか、と戸惑う。

 

「とまれ、長旅お疲れ様でした。」

 

「好き勝手でやっていることだ。」

 

 ……どうにも会話が成立しない。

 こちらも無遠慮に本音をぶつけるべきか、とジョウンは腹を括る。

 

「では、単刀直入に申し上げよう。

 私と……組まないか?」

 

「……はぁ?」

 

 心底()の抜けた口調で先生はそう呟いた。

 

「貴殿とて、含むところがあってこの帰還事業を始められたのではないのか?」

 

 先生は思う。

 なんでオレがこんなことをやる羽目になったのか、聞けばおまえは卒倒するし、そもそも理解できんぞ。

 

「エンリネから聞いているか、とは思うが、私はこの村で、形ばかりのこととは言え総司令官(インペラトール)の推戴を受けた身だ。形式的に、ではあるが、帝国領土については併呑する大義名分がある。」

 

「あっそ。」

 

「……先生は随分とおとぼけなのだな。

 ご自身出御して来られたのはてっきりその気がおありだから、と思ったのだが。」

 

 うーむ、どうにもこの男は気宇壮大な勘違いをしているようだ、と先生も気づき始めている。

 

「貴殿の望むすべての待遇を用意しよう。

 共に大陸に覇を唱えようじゃないか、悪い話ではないと思うのだが。」

 

「ま、頑張ってくれ。」

 

「それとも、貴殿ご自身が皇帝(ジルクニフ)の座を……お望みなのかな?」

 

 ジル……って……何だっけ?

 なんか……引っかかるな。

 

 あ、そうか。

 あの手があったか!

 

「<()

 

 

 

「ジルクニフはそんなじゃなかった。」

 

「……はっ?」

 

「ジルクニフ・エル・ニクスは、おまえみたいな安っぽい男じゃなかった、と言っている。」

 

「……え?……はぃ?」

 

「おまえらが何をしようがオレの知ったことじゃない、好きにしてくれ。

 そして、おまえにはオレの帰還事業にノってくれた恩義があるから一つだけ忠告しておいてやろう。」

 

「……?」

 

「糞にはなるなよ、オレに殺されるぞ。

 オレは……我儘なんだ!」

 

 そのとき!

 

 ガバッ、と唐突に先生が立ち上がったので、ジョウンは思わず身を翻し、恐怖に頭を抱え込んだまま後ろに椅子ごと倒れ込んだ。

 が、先生はその様子をまったく気にすることなく、南東の方角をジッと睨んで佇んでいた。

 

「よもや……そこに先手(せんて)がくるとは思わなかったぞ!」

 

 怒っているのか喜んでいるのか、俄に判別しがたい気勢を上げて、ひっくり返ったままのジョウンを余所(よそ)にづかづかと先生は邸宅の出口へ向かう。

 そして扉をバンッと()(はな)つや、大声で自身の眷属の名を呼んだのだった。

 

「セバス、ユリ!

 来訪者(プレイヤー)狩りだ!」

 

 

                   *

 

 

「こ……こいつは!」

 

 ブルーは、不死者(アンデッド)の壁の向こうから姿を現した妖しげな輝きを放つ紅水晶(ローズクォーツ)の眠れる(ドラゴン)を見つめたまま、しばし絶句していた。

 

 死の騎士(デスナイト)はこいつを守護していたのか?

 ユグドラシルの怪物(モンスター)……ではないようだが、では、何なんだ?

 しかもこの騒ぎにも関わらず眠ったままとは、いったい全体どういうことなんだ?

 

 疑問ばかりが山程に脳裏に浮かび、たちまちにどうすればよいか考えがまとまらない。

 しかも、疎ましくもあるギルドの知恵袋が、こんなときに限ってだんまりとはどういうことだ!

 

 だが。

 

 改めてブルーの視線は、舐め回すように眠れる竜を検分する。

 <換金箱(エクスチェンジボックス)>は、一般的には生体を金貨に換えることはないが、皮革等に素材価値がある場合は話が別だ。この竜の(あか)い水晶の輝きを放つ鱗は、見るからに値千金(あたいせんきん)。かなりの額のユグドラシル金貨に化けるんじゃないだろうか。

 

 問題はこれをどうやってギルド拠点へ運ぶかだ。

 ()()()()()では果たせまい。

 

 いやむしろ。

 これを口実にすれば、必ずしも必要なわけではないが、漸くのギルド拠点への()()が叶うかも知れない。問題はうまくあいつを説き伏せられるか、だが……

 

 そのとき!

 

「な!

 ……<転移門(ゲート)>だとぉ!」

 

 後背に突如禍々しい気配を覚えて振り返れば、そこに出現したのは紛うことなき<転移門>。

 目下、自身のギルドに任意地点に対してそれを(ひら)き得るほどの使い手が皆無であることを鑑みれば、これは自分たちではない他のユグドラシルプレイヤーの急襲、ということになるではないか!

 

 ブルーは大慌てで六本の腕それぞれに苦無(くない)を取り、<転移門>の出口へ向かって投擲しての先制を試みるが、(なか)から現れた存在は(はな)からそれを読んでいたようで、最初に現れた人物はあらぬ方向へ飛び出して行方を晦まし、続いて現れた人物は、呆れたことに六本の苦無(くない)を一息に片手の指の間に捉えて受け止めて見せた。

 

「馬鹿なっ!」

 

 そして。

 その人物が、バラバラと捕らえた苦無(くない)を床に落とす背後に、<転移門>を開いた者と思しき、仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)が悠然と姿を現し、同時に<転移門>が霧散した。

 こうして第九位階魔法を行使している以上、相手がレベル七十未満、ということはないはずだが、どうしたことかブルーは、先に現れた二人を含め、相手から強さを読み取ることがまったく叶わない。逆説的ではあるが、力量がまったく予測できないほどの徹底された欺瞞措置が施されていることは、すなわち強さの(あかし)そのもの、でもある。

 

「な、な、何なんだ、おまえらは!」

 

 自身が怖気ていることを悟られまい、と発した台詞が(かえ)って噛み気味になってブルーは気まずさを覚えたが、相手はまったく余裕の態度を崩さず、そもそもブルーを警戒すらしていないように見えた。まさか、百レベル(カンスト)プレイヤーなのか?

 

「……あぁ、そうか。この格好じゃわからんわな。」

 

 何に納得したのか、仮面の人物はそう呟くと、道服に隠れた両腕を左右に大きく開いた。

 攻撃か?とブルーは身構えたが、

 

「刮目して見るがいい!」

 

 途端の閃光!

 その眩しさに一瞬ブルーは視線をその人物から()らすことを強いられたが、この牽制に続いての攻撃の可能性に慌てて視線を相手に戻せばそこにあったのは!

 

 金糸銀糸に縁取(ふちど)られた豪奢な漆黒の装束(ローブ)に身を包み、その相貌は紛うことなき骸骨。

 そして、骨盤の上の中腹に妖しい光を放って浮かぶ禍々しげな紅玉(こうぎょく)

 

「あ、あ、あ、あんたは!」

 

「オレを知っているなら話は早い。

 無駄に先制してきたのは見逃してやるから降伏しろ。」

 

 よもやの展開にブルーは後退(あとずさ)りするも、後背に眠れる(ドラゴン)があることに気づいてこう言った。

 

「へ……へへへ。

 あ、あんたもお目当てはこの(ドラゴン)なんだろ?」

 

「……はぁ?」

 

「折半といこうじゃないか!

 見つけたのは俺が先だが、六四(ロク・ヨン)……いや、七三(シチ・サン)でもいい。」

 

 言っている本人としては相手に()の良い交渉を持ちかけたつもりだったが、それが結果的に相手の機嫌を損ねたらしいことに気づかないほどブルーは鈍感ではなかった。

 

「こいつは退散だ!

 <厭離穢土(おんりえど)>!」

「セバス、殺すな!」

 

 ドスッ!

 

 ほんの一瞬、鳩摩羅天(カーティケア)の姿は誰からも見えなくなったが、次の瞬間、外套(ローブ)にすっぽりと身を覆った人物がその鳩尾(みぞおち)(こぶし)を打ち込み、以てブルーの隠形はたちまちに()かれた。

 勢いで外套(ローブ)がはらりと床に落ち、姿を現したのは竜人執事セバス・チャン。事前に展開されていたものであればともかく、目前でこれ見よがしに用いられた隠形は、彼の<竜の知覚(ドレイコニックセンス)>の前には児戯に等しかった。

 

「心得ておりますとも。」

 

 ぐはぁ!と苦悶の声を漏らして膝を折るブルーを見下ろしつつ、セバスが(あるじ)(めい)にさらりと応えた。

 命じた側としては、あー、セバスがコニーとの情事を失念してくれててよかった、憶えてたらこいつ即死だわ!などと思っているのだが、それはセバスには伝わらない。

 

「おまえ、たかだかレベル七十七でオレに単騎で挑んでくるなんて、どうかしてるぞ。」

 

 ブルーの能力値(パラメータ)は既に相手に把握済みであるらしい。

 それでもブルーは、最後の手段に望みを賭けて脱出を図った。

 計三十本もある手の指のいずれかに嵌めていた指輪が、器用に操作される。

 

「あばよっ!」

 

 ブルーの眼の前に<転移門(ゲート)>が(ひら)く。

 彼はそこへ飛び込む。

 飛び込んだ……つもりだった。

 

 が。

 

 一旦は出現した<転移門>は、ブルーの身体がそこに達するよりも前に、四散して消え去っていた。

 

「<次元封鎖(ディメンジョナルロック)>だとぉ!

 い、いったい、いつの間に?」

 

 これに応えたのは、意外なことに、骸骨姿の魔法詠唱者(マジックキャスター)でも紳士服姿の執事でもなく、最初に駆け去った者でもなく、植物を編んで造られた壁を掻き分けるようにして現れた第四の人物……。

 

「<世界断絶障壁(せかいだんぜつしょうへき)>。」

 

 ……白金(プラチナ)の甲冑武者だった。

 

「あぁ、来てくれたか。」

 

と、骸骨が骨の片手を挙げて挨拶を送る。

 

愛娘(まなむすめ)の危機ともなれば、大好きな昼寝の最中であっても駆けつけるさ。」

 

 おまえ……(コニー)と昼寝を天秤に掛けるのか、と骸骨は思うが口には出さない。

 

 常ならばそんなことはしないが、念のためにと数体に意識を繋いでいた死の騎士(デスナイト)が一息に破壊されたことを検知した彼は、その在所、眠れる(ドラゴン)、エイヴァーシャーの魔女、こと紅水晶の竜王(ローズクォーツドラゴンロード)コンスタンツァダラゴーナ・ミナスジェライスの寝床へ跳ぶ直前、その父親である白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツァインドルクス・ヴァイシオンに<伝言(メッセージ)>を飛ばしていた。

 加えて、共にあった下僕(しもべ)戦闘メイド(プレアデス)ユリ・アルファに命じて、宮殿の外で飛来するツアーが目視(もくし)しやすいよう合図を送れ、と命じた。後でツアーから聞いたところによれば、ユリは森の巨木を三本ほど引っこ抜いてそれを空高くお手玉(ジャグリング)していたらしい。

 

 命じといてなんだが……無茶苦茶だな。

 そのユリも、ツアーの後に少し遅れて中に入って来た。

 

「詰み……だと思うが、まだやるか?」

 

 膝をついたままのブルーに歩み寄りつつ、骸骨が問う。

 

「あんた……ほんとにあの、アインズ・ウール・ゴウンの……モモンガ、なのか?」

 

「この()に及んで()()()()()()とは、本当にいい度胸をしている。」

 

 ユグドラシルにおいては、目前にあるプレイヤー名を敬称無しで呼ぶことは敵意の表明と(かい)されるのが常だった。無論、アインズ自身はそんなことは気になどしてはいないが、今は敢えて相手に対する会話上の絶対優位を維持するべく、横柄な物言いをしている。

 このやりとりを、ツアーは興味深げに眺めていた。

 

「いや、すまない!他意はないんだ!

 うちのギルド長()()()男があんたを常々そう呼んでいたのに引き摺られただけだ、勘弁してくれ!」

 

 六つの手の平を大慌てではらはらと振りながら取り繕うブルーを見て、戦意は()いだな、とアインズは判断する。

 

「そいつは、来てないのか?」

 

 相手の口が軽くなれば、得られる情報を得られるだけ得るのは、既にアインズにとっては常套手段の一つになっている。自然と発せられたこの問いに対するブルーの答えは意外なものだった。

 

「死んだ。」

 

「……はぁ?」

 

 いつものように、パカリとアインズの骨の口が(ひら)いた。

 

「誰に()られた?蘇生(リザレクション)は試みなかったのか?」

 

 これにブルーは憮然とした態度で応じる。

 

「モモンガ……さん、と言えど、それは悪い冗談で胸糞悪いぞ!」

 

「……はぁ?」

 

「クリフが死んだのはユグドラシルのサービス終了半年前のことだ。急な(やまい)だったと聞いてる。」

 

「な……!」

 

 思いも寄らぬ話に、アインズの口はさらに大きくあんぐりと開かれ、神々しい緑色の光がペカペカと放たれた。

 

「クリフは、一度あんたと差しでやりあいたい、と常々言ってたよ。随分と熱心にあんたらのことを研究もしてたし、その話を聞いてたから、あんたを見てすぐにモモンガ……さんだとわかったんだ。

 あいつは……さぞ無念だったろう、と思う。」

 

「ごめんなさい。」

 

「……えっ?」

 

 急に、誰の声だかわからない声に詫びられて、ブルーはきょろきょろと周囲を見回したが、そこには変わらず骸骨姿の魔法詠唱者、執事、白金(プラチナ)の甲冑武者、不死者(アンデット)らしき女、そして今なお眠る(ドラゴン)の姿があるのみだ。

 

「知らなかったとは言え悪いことを言った、許してくれ。クリフさんは……残念だったな。」

 

 漸くブルーは、それがモモンガから発せられた声であることに気づいた。

 

「謹んでお悔やみを。オレも、やりあってみたかったよ。クリフさん、とやらと……な。」

 

 人間、鈴木悟の()の口調は、ブルーにはまったく嘘には聞こえなかった。

 

「あ……あぁ。ありがとう、モモンガさん。

 こんな形であんたと巡り合うことになろうとは夢にも思ってなかったが、あんたにそう言ってもらえて、クリフも草葉の陰で微笑んでんじゃねーか、と思うよ。」

 

 自然とアインズは骨の手をブルーに差し出し、ブルーがそれを取って立ち上がろうとした……。

 

 まさにそのとき!

 

「アインズ。」

最大警戒(フェイタルアラーム)!)

 

 ツアーがアインズの名を呼んだのと、ナザリックの目ニグレドの急報が届いたのはほぼ同時だった。

 

(御身の近傍で超位魔法の準備段階(フェーズ)を検知、発動までおよそ三十秒!)

「胸騒ぎがする、恐らくは超位魔法だ。」

 

 委細が告げられたのもほぼ同時。

 

「おまえの転移避けは任意に解除できるか?」

 

 アインズのこの簡潔な問いにツアーもまた簡潔に答える。

 

「時限性なので無理だ。」

「頼めるか?」

「任せておけ、娘を頼む。」

「オレの友だ、任せておけ。」

 

 既に背を向けて走り去ろうとしていたツアーは、アインズのこの返しに右手の親指を挙げて応じ、そのまま宮殿の壁を突き破って見えなくなった。

 

「ど、ど、どういうことだ!」

 

 狼狽えるブルーにアインズは言う。

 

「おまえに他に仲間がいることには気づいてたんだが。

 どうやらおまえは、捨て駒にされたようだな。」

 

「な!」

 

 唖然として固まったままのブルーを余所(よそ)にアインズは思案を巡らせた。

 この状況で仕掛けてくるとすると、相手の手札(てふだ)は<失墜する天空(フォールンダウン)>か<天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)>といったところか。よもやツアーが迎撃し損ねることはないだろうが、万が一に際してコニーをこれから守るには……。

 

「<飛行(フライ)>!」

 

 ふわりと空中に浮かんだアインズは、眠れる(ドラゴン)の真上に陣取った。

 直上からの魔法攻撃を、我が身で受け()める構えだ。

 

「セバス、ユリを守れ!

 おまえは余計なことをしてくれるなよ!」

 

 大魔王然とした声色に戻ったアインズに(きっ)と指差されてそう釘打たれれば、仲間に捨て駒にされたらしいと告げられて茫然自失のブルーに抗うことなどできようはずもなかった。

 

 セバスは、スッとユリを抱き寄せ、天に突き刺さるような視線を向けて(こぶし)を構えた。

 ユリの頬が、ぽっ、と赤く染まる。

 

「この顛末をアルベドに知られたら、えっらい怒られるだろうな。

 デミウルゴスに口止めしとかないと。」

 

 この状況下でも、アインズの心配事は存外能天気だ。

 そして……ニグレドに告げられた時間が経過しても、何も起こらなかった。

 

警報解除(アラームキャンセル)、準備段階(フェーズ)の無効化を確認。)

 

 当然の帰結がニグレドから(しら)され、アインズは簡潔に謝意を伝える。

 

「ニグレド、ありがとう。助かったよ。」

(恐れ入ります。可愛い方の妹(アルベド)が心配しております。お早目のご帰投を。)

 

 あちゃ!もうバレてんじゃねーか!

 

「なんで……なんでこんなことになってるんだ!」

 

 ブルーは座り込んで三組六本の腕に立膝を抱え込み、どんより落ち込んでいる様子。

 しばらくして、繰り返される雷鳴が近づいてくる。

 

(はな)せ!(はな)しやがれ、糞野郎!」

 

 見れば、白金(プラチナ)の傀儡ツアーが高々と掲げた神器(ゴッズ)級の両手剣(グレートソード)の刃先に、(つらぬ)かれてぶら下がる蟹がツアーに向かって悪態をつきながら繰り返し<雷撃(ライトニング)>を撃ち込んでいるが、それを受けている当の本人は何とも思っていない様子だ。

 赤い甲殻を(まと)った人型の異形種怪蟹(ザラタン)。声色と丸みを帯びた柔らかい体線(ボディライン)から判じる限り、少なくともユグドラシルにおける性別は女性であるようだ。

 

「まさかとは思ったが……やっぱりおまえか、ピンク!」

「ブルー?なんでてめぇがこんなところにいる?アタイを嵌めやがったのかぃ!」

 

 どうやら同じギルドの者らしいな……見苦しい、とアインズは嘆息する。

 

「さて、ピンク……さん、とやら。」

 

とアインズ。

 蟹女は剣に貫かれたままの身を(よじ)って自身の名を呼んだ方向を一瞥し、

 

「てめぇがラスボスか!」

 

と唾、ならぬ泡を吐いた。

 正直なところどうでもいい、と思いつつ、アインズは尋ねる。

 

「大人しく降伏するならひとまずは身の安全は保証しよう。

 どうする?」

 

「アタイがこのゲームの主人公だぞ!

 何、つまんねーこと言ってんだよ、糞が!」

 

「……」

 

「モブはモブらしく引き立て役やってろよ、糞が!」

 

 あー、こいつは駄目なヤツだ。

 アインズは無意識のうちに<絶望のオーラ>を全開させた。

 

 見ればツアーも「この()は救いようがないね」と言いたげに肩を(すく)めている。

 

 やおらぶら下がったままの蟹女に歩み寄ったアインズは、骨の手で優しく触れた。

 

「悪夢を終わらせてやろう。

 <真なる死(トゥルーデス)>。」

 

 じたばた、と暴れていた蟹女の身体(からだ)がピタリ、と動きを()め、次の瞬間、光の粒となって(はじ)け飛んで消えた。

 ユグドラシル非公式ラスボスたるこのオレに仕掛けるに際し、即死対策すら怠っているとは間抜けにもほどがある!と、アインズは深い溜め息を吐く。

 

「な!……あ!……えぇ!」

 

 目前にギルドの仲間の消滅を見せつけられたブルーは、声にならない声を漏らしている。

 漸く口にした意味のある言葉はこれだ。

 

「……強制ログオフ、させることができるのか?」

 

 薄れて消えてゆく光の粒を名残惜しそうに眺めていたアインズは、ブルーの言葉にそちらを振り返り、

 

「さあな。実際のところ、どうなるのかはオレも知らん。

 敗北したことがないんでね。」

 

と応じた。

 

「では、ブルー……さん。」

 

 その傍らにはセバスが立って、妙な真似をすればただではおかぬ、と凄んでいる。

 

「お喋りの時間だ。」

 

「……指図、を受けるのは好きじゃないんだがな。」

 

 この()に及んでの強がりに、アインズが返した反応は身も蓋もないものだった。

 

戯言(ざれごと)だ。」

 

「それは……どういう意味、なんだ?」

 

「おまえの行動すべてが、おまえが指示待ち人間であることを示している。何も決められないヤツに限って、人から指図されるのは好まない、なんてことを口にするもんだ。本当にそう思っているヤツは、そんなことを言う前に決断し、行動するものだ。違うか?」

 

「ぐっ!」

 

 ブルーは図星を突かれて言葉を詰まらせる。

 

「あ、あんたに、俺の何がわかるんだって言うんだよ!」

 

 それでも敢えてそう言い返してみれば、返って来たのは驚愕の指摘だった。

 

「じゃぁ言ってやろう。

 おまえ……拠点NPCの言いなりになってるだろ?」

 

「……な!」

 

 どうして!

 今さっき初めて邂逅したばかりのこいつは、何故そんなことを知っているんだ!

 

「フハハハハッ!

 非公式ラスボスは、すべてお見通しなのだ!」

 

 両腕を左右に大きく(ひら)いてアインズは力強くそう断言する。

 

 が。

 

 ツアー、そして、こともあろうにセバスとユリまでもの、しらー、とした冷たい視線を感じ……

 

「……と言いたいところだが!」

 

 ブルーが目を点のようにしてアインズを見つめている。

 

「実はうちにも居るんだよ。

 似たようなのがな!」

 

 ……何言ってんだ、こいつ?

 とブルーは固まる。

 

 

                    *

 

 

 ここで時間を遡り、前話終劇間近、ナザリック地下大墳墓玉座の間において、アインズが言うところの似たようなの(デミウルゴス)が、何をアインズに吹き込んだのかを見てみることにしよう。

 

「本百年紀の催事(イベント)は、まだまだこれからのようで御座います。」

 

「……ほぅ。それは……重畳じゃないか。

 もっと近くへ来い。ゆっくり聞かせてもらおうか!」

「ははっ!」

 

 すすすっ、とデミウルゴスは玉座のすぐ(そば)まで歩み寄る。

 そして、誰を憚ってか小声で、アインズがツアーの居城に引き籠もってその(ぬし)の目覚めを待っていた(あいだ)に捕捉した事実の報告を始めた。

 

「我らがナザリックから見て東方、かつてバハルス帝国と称した領域の城塞都市廃墟にて、繰り返し恐怖公眷属(ゴキブリ)がプレイヤーの蠢動を確認しております。」

 

 アインズが引き起こした大災厄、<(めぇ)()く七日間>以降も恐怖公眷属の多くはそのまま城塞都市やその衛星町村に潜んでいた。多数の犠牲者を瓦礫の下に抱え込んだそこは、彼らにとっては()()()()に困らぬ楽園だったからだ。

 

「……なんでプレイヤーだと断言できる?

 NPCかも知れんじゃないか?」

 

 この至極当然の(あるじ)の疑問に、デミウルゴスはさらりと答えた。

 

「行動から一目瞭然で御座います!」

 

 曰く、NPCは知性の設定値(パラメータ)の多寡に関わらず、(ほしいまま)に振る舞え、とでも命じないかぎりは、その時点で設定された目標に対し最短手順で対応することを常とする。対してプレイヤーは、その存在が人間に由来するがゆえに、NPCのそれに比して明白に行動にブレが生じる。

 目下継続監視している存在は、城塞都市廃墟を探索するに際し、まったく無意味な石塊(いしくれ)や木片を取り上げて眺めてみたり、時折ぼーっと遠くを眺めて手を休める、といった挙動を示すので、プレイヤーであるに違いない……のだとか。

 

「過去の来訪者(ユグドラシルプレイヤー)邂逅事例から得られた知見からの、当然の帰結で御座います、アインズ様。」

 

「なるほど。」

 

 ちなみに。

 気まぐれの外出を除き、ナザリック外で作戦行動するに際し事前に練り上げた戦略、戦術を(ベース)に徹底して合目的的に行動することを旨とするアインズを(はた)から観察するとNPCのように見える、という身も蓋もない事実について、デミウルゴスは敢えては触れなかった。

 

「確認されているプレイヤーは二名。一方は隠密能力に優れた鳩摩羅天(カーティケア)で一旦隠形されると跡が追えませんが、油断からか、あるいは能力限界からか、しばしば不用意に姿を晒すため把握されました。もう一方は怪蟹(ザラタン)魔法詠唱者(マジックキャスター)で、これは常に鳩摩羅天(カーティケア)から距離を取って行動し火力支援に備える動きをしておりますが、二人が合流することは御座いません。」

 

 これは舐めてはかかれない相手だな、とアインズは判断する。

 ユグドラシルの戦術理論的にいえば、デミウルゴスが報告するプレイヤーの行動は、最小単位(ミニマム)でこそあれ敵対勢力に自身の戦略意図を悟られないようにしつつ遊撃をおこなう場合の定石の一つだ。

 

「つまり……そいつらは難敵との邂逅可能性を前提に行動している、ということだな?」

 

「流石はアインズ様!ご推察の通りかと愚考する次第です!」

 

 オレが居ない間にそこまで詰めてるおまえの方がよっぽど流石だよ、とアインズは思う。

 

「そいつらは……アレの前にやって来ていて、アレを目撃した、ってことか?」

 

 アインズの言うアレとは、自身が引き起こした<(めぇ)()く七日間>のことだが、デミウルゴスに対しては改めてそれを説明する必要もない。

 

「ほぼ間違い御座いますまい。

 つまり連中は、アインズ様……無論、彼らがそれがアインズ様であることを知ることはなかったはずで御座いますが、アインズ様相当の強敵があることを前提に慎重に行動しているもの、と考えるのが妥当で御座いましょう。」

 

 随分な時宜(タイミング)で厄介な連中がやって来たもんだ、とアインズは嘆息した。

 幸運(ラック)能力値(パラメータ)の高さには自信があるんだが、引きが良すぎるのも考えもんだな。

 

「廃墟巡りをやってる目的は、換金可能な廃材集めか?」

 

「左様で御座います。これも中々手が込んで御座いまして、鳩摩羅天(カーティケア)は<無限の革袋(インフィニティザック)>に詰めたそれを何処ぞに隠しおき、これを別の、恐らくはやはり隠形したNPCが回収しておる由。」

 

「……拠点の位置を特定されないよう配慮している、ということか。

 いよいよもってキレる連中だな。まぁ、廃材集めだけやってるのなら実害もなかろうが。」

 

 というか、そいつらが暴れたとて、それで困りそうなこの世界の住人はあらかたオレが屠っちまった直後なんだから、何の騒ぎの起こしようもないわな。

 

「面白いのはここからなので御座います!」

 

 ……ほんっと、楽しそうだな。お・ま・え・は!

 

「おそらく、拠点に残ってこのプレイヤーたちを指揮しておるのはNPCである、と推測されます。」

 

「……はぁ?」

 

 ここに至っていつものように、アインズの骨の口がパカリと(ひら)いた。

 

 ここまでの話の流れから、当然アインズは三人目、もしくはそれ以上のプレイヤーが、デミウルゴスの探索に対して巧みに位置特定を避けている拠点にあることを想定はしていたが、それでもデミウルゴスの発言は想像の埒外だった。

 

「……どういう理路でそういう話になるんだ?」

 

「アインズ様におかれては……」

 

 もう、そのオレにはわかってて当然、ってのは飽きたよ!

 

「あー、時間の無駄だからそれは()めだ!

 ズバリ、おまえの考えるところを聞かせてくれ!」

 

「ははっ!」

 

 かくして語られたところはこうである。

 

 問題のプレイヤーがどの廃墟に訪問するか、そこに法則性を見出だせればギルド拠点位置を割り出せる、と考えたデミウルゴスはそれを試みたが、これがうまくいかない。それは一見まったくの出鱈目(ランダム)であるかのように思われたからだ。

 これにある疑念を抱いたデミウルゴスは、このプレイヤーたちがギルド維持のみに専念したちまちに剣呑な動きを見せることはない、と確信した上で、敢えて半年ほどの間この案件にかかずらうのを()めた。

 半年後、彼は自身に宛てた手紙をパンドラズ・アクターから受け取ることになる。思考密度があまりに濃厚なデミウルゴスは、二ヶ月ほどで短期記憶(ワーキングメモリ)の容量を使い果たしてしまう一方、宝物殿に籠もって代わり映えのしない暮らしを続けるパンドラズ・アクターは、半年前に同僚から託された手紙を失念することはなかった。

 その手紙には、背景をまったく抜きにある課題が記されていた。この領域内にある城塞都市廃墟から、敵対勢力の監視の目が光っている前提で、こちらの拠点位置を気取られない探索順序を考え、追ってパンドラズ・アクターに預けた回答と照合せよ、というものだ。

 その時点のデミウルゴスは「何のこっちゃ?」と訝しく思いながらも、明らかに自身の筆跡で書かれた手紙の課題に素直に従った。こんなものは簡単だ。賽の目のそれを超えて数学的に(しん)出鱈目(ランダム)は容易に導出できるではないか、と。

 

「そして、(わたくし)めの考えました訪問順序は、かの連中のそれとピタリと一致したので御座いますな!」

 

 語られるアインズは、目の届かないところにこいつを放置するのは物騒極まりない、と深く反省していた。

 何をやらかしてくれるか、考えるだに(おぞ)ましい限りだ、今回はこれで済んでよかった、と。

 

「意味するところはひとつ。彼らのギルド拠点には(わたくし)同様に知性の設定値(パラメータ)振り切っ(カンストし)た何者かがあり、(わたくし)めとまったく同じ理路で廃墟探索の順序を決め、プレイヤーを差配したので御座いましょう。」

 

 本当に……これで、済んでいるのだろうか?

 

「加えまして、同じ廃墟を(とき)()けて再訪した際のプレイヤーの挙動が、まったく似通っていることも確認して御座います。鳩摩羅天(カーティケア)はいつも同じものに興味を示し、同じものに驚き、毎回似たような非合理な行動を採るのですな。資材の回収も常に場当たりで、前回取り尽くしたであろう箇所を飽きもせず掘り返しております。

 つまり、この者は自身の記憶能力の問題にまったく気づいていないか、気づいていても何の対策もしておりません。一方で、拠点からこれを差配しておると思われるNPCの方針には一切ブレがなく、おそらくは(わたくし)めがそうであったように、何故そうであるのかについては知れずとも、おのれの記憶能力に制約があることに気づき、何らかの対策をしておるものと推察されます。」

 

「……なんでそいつは、自身の(あるじ)たちにそれを教えないんだ?」

 

(わたくし)めがそれをアインズ様に自ら告げなかったのは、アインズ様がそれにお気づきになられておられぬはずもなく、むしろ、(わたくし)どもがそれに起因して失敗(ミス)を犯さぬよう密かにお心配り下さっていることを承知していたからで御座いますが、この連中について申せば、このNPCはプレイヤーの知性をかなり低く見積もっており、ギルド存続のためにはむしろこの事実を告げぬ方がよい、と考えたからではないか……と愚考する次第です!」

 

 ペカーーー!

 

「NPCがプレイヤーを顎で使っているとは……それはまた。

 ちょっと……考えてなかった形態(パターン)だな。

 

 いや……オレ、がそうなのか?」

 

 思わずアインズは漏らす。

 対するデミウルゴスは常と変わらぬ様子で楽し()に。

 

「またまたアインズ様、ご冗談を!」

 

 だよな!

 ナザリック地下大墳墓の(あるじ)は、オレ、アインズ・ウール・ゴウン、だよな?そうだよなーーー!

 

「悲しいかなこの者は、自身を遥かに凌駕する叡智に溢れ、(あまね)く全てお見通しであられ、忠誠を捧ぐギルドと無二の存在である至高の主を得る機会に恵まれなかったのです。憐れなことで御座いますなぁ。」

 

 やべ……自信なくなってきたわ!

 

 とまれ。

 この来訪者(ユグドラシルプレイヤー)が目下のところギルドの維持のみに専念していてたちまちの危険性がないこと、自分たち以外にユグドラシル勢があることを前提に行動しているため先手を打つと返ってこちらの存在を気取られる可能性があること、についてアインズとデミウルゴスの見解が一致したため、絶対防衛圏であるトブの大森林に彼らの手が及ばない限りは放置でよかろう、それ以外に急変あったときは別途検討、とその場では結論された。

 

 かくしてアインズが毎朝の行動開始に先立ち読み返して確認する書き付け(メモ)に「目下(もっか)来訪者(ユグドラシルプレイヤー)は拠点NPCに操られる馬鹿二人、大陸東部で活動中、たちまちの危険性なし」が書き加えられ、何をするにも常に念頭に置かれるようになったのである。

 

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