億劫のオーバーロード   作:wash I/O

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鳩摩羅天(カーティケア)ブルーの口から、遂に真相が明かされる。


5.宣戦布告

「ブルー……さんよ。

 いくら何でもそれはないだろ!間抜けにも程があるぞ!」

 

 アインズにそう怒鳴りつけられて、鳩摩羅天(カーティケア)ブルーはなおもって項垂(うなだ)れた。

 

 もう十年以上前からアインズたちが、ブルーたちが拠点NPCの言いなりになっていることに気づいていた旨を突きつけられ、ブルーは完全に戦意を折られてアインズに恭順する姿勢を見せた。これに対しアインズは、デミウルゴスとの間でも長く懸案になっていたブルーたちのギルド拠点の所在を尋ねたが、返ってきた答えは、

 

「それが……憶えてないんだ。」

 

というもの。

 

 曰く、ブルー自身の主観としては、サービス終了したはずのユグドラシル延長戦が始まったのは半年ほど前で、気がつけば自分は見慣れぬ廃墟の中に立ち尽くしており、しばらくしてギルド拠点防衛の(おさ)と定められたNPCからの<伝言(メッセージ)>を受け取ったのだ、と言う。

 目下、我ら水晶の夜(クリスタルナイツ)は正体不明の敵対ギルドと対立中であり、ギルド拠点<蒼玉(サファイア)>の所在を敵方に知られることなく拠点維持を図らねばならない状況下にある。ついては自分の指示に従い、点在する廃墟からの換金(エクスチェンジ)可能な資材の回収に協力することに賛同して欲しい、と。

 突然NPCが音声言語でそんなことを言い出したこと、それ以上に、つい先程までユグドラシルサービス終了日に図らずも円卓の間で落ち合ったピンクと思い出を語らっているうちに陥った口喧嘩の最中だったような気がするのに、今に至るまでの記憶がすっぽり抜け落ちていることにブルーは驚くほかなかったが「正確なところは不明だが、敵方から未知の世界級(ワールド)アイテムによる攻撃を受けたのではないか」と言葉巧みにNPCに説得された。

 そもそもブルーは、そしてピンクも、元は仮想世界で個人戦技(せんぎ)を楽しむ別のゲームのプレイヤーで、水晶の夜(クリスタルナイツ)のギルド長クリフから、それぞれ引き抜き(ヘッドハンティング)を受けてユグドラシルプレイヤーに転じた者だった。個々の戦闘については自信があったし存分に楽しみもしたが、それ以外のことについてはクリフの差配にお任せでやっていたので「従わないのであればそれはそれで構わないが、であればギルド拠点維持のための代案を示せ」と迫るNPCに抗することが(つい)ぞ叶わなかったのである。

 以降は、どうしてログオフ出来ないんだろうか、と疑問に思いつつも、都度届く<伝言(メッセージ)>に従って行動してきて今に至った……というのがブルーの説明だった。

 

「おまえの境遇には微かに同情せんでもないが……それでもだな。

 いくら何でもそりゃないだろうよ!」

 

 アインズは大凡(おおよそ)のからくりに気づきつつある。

 過去の事例から考えて、こちらの世界に渡り来た来訪者(ユグドラシルプレイヤー)がギルド拠点ではない任意の地点に突如顕現する、ということはあり得ない。ブルーもピンクも、当初は<蒼玉(サファイア)>とやらの内部に居たはずだ。問題のNPCは、どこかの時点で記憶能力の制約に気づき、プレイヤーを操る都合からうまいこといい含めて長期遠征に送り出し、彼らがギルド拠点位置を失念するよう意図的に仕向けたのだろう。

 以降、ブルーがNPCから指示の<伝言(メッセージ)>を受ける都度、拠点への帰投を希望しなかったはずはないが、やはりこれも、NPCから「敵方に決して捕捉追尾されないことを証明せよ」と迫られれば、それの出来ないブルーには唯々諾々と従う(ほか)あるまい。

 

「で……そのNPCというのは?」

 

「ルーシェン、という百レベル(カンスト)自動人形(オートマトン)だ。」

 

 これで、そのルーシェン、とやらがデミウルゴス級の知性の持ち主であることは確定だな。

 

「確認するまでもないか、とは思うが。そのルーシェンの創造主は?」

 

「……お察しの通り、クリフだよ。」

 

 これは思っていたよりも深刻な事態かも知れない、とアインズは考え込まざるを得なかった。

 

 ブルーの話を素直に信じる限り、クリフというプレイヤーは、ユグドラシル以外のゲームから戦技に秀でたプレイヤーを招いてギルド戦力の強化を図っていたらしい。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの維持強化に余念のなかったモモンガ、鈴木悟ではあったが、そういう発想を持ったことはまったくなかったように思うので、その点においてはクリフはなかなかに(ユニーク)なプレイヤーだった、と評価できるし、ユグドラシルのサービス終了を待たずに病没したことを、アインズは心底気の毒に、残念にすら思っていた。

 一方で、クリフが事実上の傭兵として招いたギルメンたちを、ギルド維持強化の手段と見做していたのは疑いなく、この点についてはギルメンの存在そのものが目的であったアインズ自身とは好対照を為していることになるが、その性向は、おそらく手づから創造したNPC、ルーシェンとやらにも余す所なく受け継がれているに違いない。

 

 デミウルゴスが、ウルベルト・アレイン・オードルの化身であるが如く!

 

 そしてクリフが、ユグドラシルを震撼させたかの千五百人の大襲撃の(あと)もギルド、アインズ・ウール・ゴウンの攻略を(こころざ)して傭兵集めをやっていたのだとすれば、その思いを引き継ぐルーシェンは、この世界にナザリック地下大墳墓があることを知れば必ず何らかの戦略行動を採ることだろう。

 

 うわーーー、面倒臭(めんどくせ)ぇーーー!

 その一方で心の片隅に……少しだけ喜びもある。

 

「念のために訊くが。

 ユグドラシル最終日にログインしていたのは、おまえとピンクさんだけか?」

 

 最後に残った懸念をアインズは口にした。

 

「円卓の間にいたのは俺とピンクだけだが……断言はできないな。」

 

 百レベル(カンスト)傭兵温存、の可能性アリ、か。

 僅かながらもいずれ対峙するやも知れぬ未知のブルーの仲間たちについて、聞き出したいのは山々ではあるが、自身が前もって検知ないし予測したことの追認を求める場合を除き、拷問や買収などの手段で敵方ギルドの情報を聞き出すことは、そのような手段を弄する(やから)がユグドラシル時代に少なからず存在したことはさておき、アインズ自身にとっては慮外な無作法に当たる。

 

「よくわかった、証言に感謝しよう。

 で、ブルーさんはこれからどうする?」

 

「……えっ?」

 

「気づいているかと思うが……いや、おまえは気づかんのだろうな。

 ユグドラシルからこちらの世界へやって来た者は、オレ自身を含め、限られた期間しか記憶が維持できないという制約を負っている。おまえが自身のギルド拠点位置がわからなくなっているのも、ルーシェンが意図的におまえを長期に渡ってギルド拠点から遠ざけ、おまえ自身がそのことに気づかずに対策を怠った結果だ。」

 

 アインズは、思うところあって、常には他の来訪者(ユグドラシルプレイヤー)に示すことのなかった忌まわしい真実について、端的にブルーに告げた。

 

「あんたは……」

 

「ん?」

 

「モモンガさんは……平気なのか?」

 

 まぁ、普通は正気ではいられんわな。

 

「オレはかれこれ三千年以上これをやってるんでな、今更だ。」

 

「はぁ?三千年!」

 

「何をそんなに驚く?

 オレはユグドラシルに非公式ラスボスの勇名を馳せた死の支配者(オーバーロード)だぞ。

 ピンクさん、とやらは、気の毒ではあるが既に正気ではないように見えたので問答無用に片付けさせてもらった。これまでにも数え切れんほどのプレイヤーをそうしてきたさ。

 おまえはそうでもないようだし、こうして仔細を素直に話してくれたし、そもそもオレの敵じゃないからこの(あと)は好きにしてくれて構わん。」

 

 と言いつつも、アインズは既にブルーが何を望むかは概ね理解しているつもりだ。

 

「俺も……強制ログオフ、してもらえるか?」

 

 しばし呻吟した後に発せられたブルーの言葉は、これまたアインズの予想通りだった。

 

「敢えて問おう。

 意味するところを正しく理解しているか?

 そして……それは間違いなくおまえ自身の意思か?」

 

「辛辣なことを言ってくれる……だが、これは俺の……意思だとも。

 ……モモンガさんに会えてよかったよ。」

 

「わかった。

 もし、クリフさんに会うことが叶ったら、オレからよろしく、と伝えてくれ。」

 

「それは悪い冗談だぜ、モモンガさん。」

 

 その口調は、最初にクリフの復活を試みなかったのか、と問われた際に発せられた言葉と、文字面(もじづら)が意味するところは同じでありつつも、とても穏やかなものだった。

 

「悪夢を終わらせてやろう。

 <真なる死(トゥルーデス)>。」

 

 

                    *

 

 

(わたくし)がどれほど心配したか、おわかりになりますかァ!」

 

「ほんとーに……申し訳ありませんでしたァーーー!」

 

 ナザリック地下大墳墓地上部の草原。

 土下座する大魔王アインズ・ウール・ゴウンに、(きっ)と指差し睥睨しつつ金切り声を上げる愛妃アルベド。これを遠巻きに眺めながら生暖かい視線を注ぐ、参謀デミウルゴス、財務責任者パンドラズ・アクター、そして白金(プラチナ)の傀儡ツアー。

 

 結果的に二人のプレイヤーを仕留めるに至ったものの、これまでまったく想定されていなかった類型(タイプ)の難敵が背後にあることが判明し、急遽の三賢者会議(トリニティ)開催に至ったものだが、その前に済ませるべき儀式が執り行われている。

 

姉さん(ニグレド)から、コニーの救援に向かったアインズ様の近傍に超位魔法を検知した、と聞かされた折、(わたくし)の脳裏を駆け巡った思いは、言葉には表しようも御座いません!」

 

「ごもっとも!ごもっとも!」

 

 戦闘中から、戦闘そのものよりもこの事態に陥ることを確信してどんよりとした気分になっていたアインズとしては、ひたすら謝るしかなかった。

 

「無論、アインズ様がその程度のことで、(くち)()(のぼ)せるも憚り多きことながら一敗地に(まみ)れることなどない、とは承知してはおりますが……」

 

「なら……いいんじゃねーの?」

 

「何かおっしゃいましたか!」

 

「いえ!その……すいませんでしたーーー!」

 

 結局二人はこの(あと)、五日で、いや三日で、では四日で手を打ちましょう、の交渉を経て、三賢者会議終了後の抜かず休まず九十六時間耐久出血大奉仕(サービス)を約して仲直りした。

 

「落とし(どころ)も見えましたところで、三賢者会議(トリニティ)を緊急開催いたします!」

 

と、いつものように開会を楽しそうに宣言するデミウルゴス。

 いささか不服げにアインズは(きっ)と睨みつけるが、デミウルゴスにそれを気にする様子はない。

 

 誰一人として座らねば疲れる身でもなし、席を設けるのも形式的に過ぎよう、ということになって、アインズ、アルベド、ツアー、パンドラズ・アクター、デミウルゴスの順に、(みな)腕組み屹立したまま野原に円陣を組んで語らっている。

 アインズは、

 

 なんか、ユグドラシル時代のペロロンチーノたちと最小部隊(ミニマムユニット)で挑んだ冒険(クエスト)事前打ち合わせ(ブリーフィング)を思い出すな!

 

と、さきほどの土下座を埋め合わせて上機嫌だ。

 

「本日は、ご愛娘(あいじょう)が襲撃を受けた白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツアーにも同席いただいておりますが、これについて異議は御座いませんね?」

 

 皆の無言の同意。

 これが本会議がナザリック地上部で開催されている理由である。ナザリック地下大墳墓の防衛結界は、ツアー本体が傀儡を操るところの<始原の魔法(ワイルドマジック)>を遮断しその制御を断ち切ってしまうため、ツアーの傀儡をナザリック内に招き入れることは叶わない。

 

 ちなみに。

 寝入ったままのコニーの宮殿を離れるに際しツアーは、気がかりなのでしばらくはここでコニーを見守る、とアインズに告げたが、これに異論を唱えた者があった。

 

 意外にも、竜人執事セバス・チャンである。

 

此度(こたび)来訪者(ユグドラシルプレイヤー)はこれまでにない難敵であることが想定され、悲しいかな(わたくし)めには、戦うことは出来ましょうが事前の備えに益するところが御座いません。むしろ、ツアーの識見をお役立て頂くべきかと存じますれば、お嬢様は(わたくし)めにお任せあって、ツアーはアインズ様と共に対策を議して下さいませ。」

 

 この言葉にしばしアインズとツアーは顔を見合わせて「今回は想像の斜め上だらけだな」と感心するやら呆れるやらの様相を示したのだが、考えてみればセバスの言はもっともだ、と納得して、セバスだけをコニーの元へ残し、<世界断絶障壁(せかいだんぜつしょうへき)>の効果消失を待った(のち)、<転移門(ゲート)>で……いつものように何箇所かの無作為地点を経由し検疫防護もおこないつつ……ナザリックへ帰投したものである。

 

 よもや、とは思うが。

 寝込みを襲って二人目、なんて勘弁してくれよ!

 

などとアインズは不安に思わないでもなかったが、流石に当の父親の前でそういう冗談(ジョーク)(こぼ)すことはなかった。

 

「では、(わたくし)から目下の状況をまとめさせていただきます。」

 

 さきほどまでの激昂が嘘のような……アレは今回の一件を足がかりに九十六時間出血大奉仕(サービス)を引き出すための嘘、だったんじゃねーのか?……怜悧な口調で語るアルベドが会議の口火を切った。

 

「十数年前より存在が知られていた来訪者(ユグドラシルプレイヤー)がツアーの娘、只今<(なが)い眠り>の最中にあるコニーを襲ったため、アインズ様がこれを迎撃なさいました。二人のプレイヤーはアインズ様の手により死亡しており、<真なる死(トゥルーデス)>が用いられたことから再登場(リスポーン)はないだろう、と想定されております。

 以前よりこの者たちは、プレイヤーであるにもかかわらず彼ら自身の拠点NPCの言いなりになっている疑惑がデミウルゴスから呈されておりましたが、アインズ様自らの尋問により、これが事実であることが確認されました。加えて、このNPC、ルーシェンなる者が、その出自に従い我らギルド、アインズ・ウール・ゴウンに敵対する強い動機を有する可能性が明らかとなりました。

 本日議すべきところといたしましては、彼ら、ギルド水晶の夜(クリスタルナイツ)群像特定(プロファイリング)、今後の挙動予測、迎撃戦略、といったところになります。」

 

「あー、素晴らしいまとめだ!流石アルベド、惚れ直したぞ!」

 

 土下座の余韻の残るアインズは、愛妃を大袈裟に褒め称えて阿る振りを見せたが、頭が戦略思考(モード)に切り替わっているがためか、褒められた本人はニコリともせず、

 

「恐れ入ります、アインズ様。」

 

と徹して怜悧に応じ、むしろアインズは、デミウルゴス、パンドラ、ツアーの、しらー、とした冷たい視線を浴びる羽目となった。

 

「ゴホンッ!……ともかく、だ!

 オレは友人(コニー)が<換金箱(エクスチェンジボックス)>に放り込まれてユグドラシル金貨に化けるのを見過ごすような薄情者(はくじょうもの)じゃないからな。いろいろと想定外もあって、アルベドを筆頭に皆に心配をかけてしまったのは申し訳なかったが、アレをやらない選択はなかったし、結果的にプレイヤー二人を片付けたのは重畳だ。そういうことにしよう、というか、しといてくれ!」

 

「いささかアインズの言い(よう)は強弁の感もなくはないが、結果的に娘を守ってもらった身としては、キミたちもアインズを許してやって欲しい、と乞い願うところだ。」

 

 アインズの自己弁護に続き、ツアーの微妙に援護射撃(フォロー)になっていない感がなくもないそれが続いたが、三賢者たちは既にそこは問題視はしていない様子である。

 

「いえいえ、(わたくし)もコニーのことは好いておりますので、父上のなさりようは至極当然のことかと。」

 

 さらりとパンドラズ・アクターがそういうので、アインズは「おいおい、勘弁してくれよ、おまえがコニーと子を成したら、オレとツアーがおじいちゃん同士になっちまうじゃねーか!」と馬鹿なことを考えているが、無論、パンドラが言っているのはそういう意味ではないのだ。

 アインズが好きなものは、基本、パンドラだって好きなのである。

 

「むしろ疑問に思いますのは、水晶の夜(クリスタルナイツ)のルーシェンなるNPCが、自身の(あるじ)たるプレイヤーを捨て駒とするかの如き戦術を弄し、結果的に本当に捨て駒としてしまったことですな。

 果たして、忠誠の鍵に縛られたユグドラシルNPCに、そのようなことが成し得ますでしょうか。少なくとも(わたくし)はそんなことには思いも及びませんが。」

 

 パンドラズ・アクターのこの言に深くアインズは首肯する。

 そこはアインズも気になっていたところだ。

 

「幸いにして、今なお自身の創造主であらせられるアインズ様と共にあるパンドラズ・アクターがわからぬのは無理なからぬところかとは思いますが。」

 

 と、前置きして。

 

(わたくし)には、わからなくも御座いません。」

 

 そう言い始めたのはアルベドである。

 

(くち)()(のぼ)せるも憚り多きことながら、(わたくし)は、ナザリックを去られた至高の方々にいささか(わだかま)りが御座います。

 あり得ぬことでは御座いますが、たとえば只今このとき、ウルベルト・アレイン・オードル様がナザリックにご帰還なさった、とご想像ください。」

 

 自然と皆の視線が彼女に集まる。

 

「もちろん(わたくし)はウルベルト様を歓迎申し上げ、何かご下命を賜れば謹んでそれに服しましょう。

 ですが、もし万が一、ウルベルト様がアインズ様に対し、一緒に<現実(リアル)>へ帰りましょう、とお誘い申し上げることがあるならば、(わたくし)にはウルベルト様と()(ちが)える覚悟が御座います。

 何となれば、(わたくし)が絶対の忠誠をお誓い申し上げるギルド、アインズ・ウール・ゴウンの命脈は、ただただアインズ様がナザリックに君臨なされていることに依るからで御座います。」

 

 一同一様に息を呑む。

 が、すかさずデミウルゴスがこう言った。

 

「それが、タブラ・スマラグディナ様であってもかね?」

「ぐっ。」

 

とアルベドが言葉を詰まらせる。

 

「よせよせ!」

 

とアインズ。

 

「益体もない揚げ足取りを嗜むのはおまえの悪い癖だな、デミウルゴス。」

「こ、これは!失礼いたしました!」

 

 慌ててデミウルゴスは深く叩頭して詫びを入れたが、アインズは愉快げに笑いながら続けた。

 

「そんなあり得ない仮定の話でおまえたちが(いが)み合うなんて馬々鹿々しいにも程があるぞ。

 それに、万が一そんなことがあるとして、だ。

 タブラさんやウルベルトさんが帰還したとして、もちろんオレも手放しで歓迎するだろうが、オレにナザリックを捨て去るよう勧めるなんてことがあろうものなら、それがタブラだろうがウルベルトだろうがオレのこの手で」

「いけません、父上!」

 

 大慌てで身を乗り出したパンドラズ・アクターがアインズを制した。

 

言霊(ことだま)は呪いとなることも御座いますれば、お(たわむ)れはそこまでに。」

 

 彼のこの言葉に、たちまちにアルベドとデミウルゴスはすみやかに跪き、

 

「思慮が至りませんでした、どうかお許しください!」

「失言、深くお詫び申し上げます!」

 

と深い反省を示した。

 

「いやいや、オレの方こそ悪かった。格好いいかな、と思って口にした言葉だけだが、確かにパンドラの言う通りだな、気をつけるようにする。」

 

 このやりとりを、ツアーは微笑ましげに眺めている。

 

「アルベドの言わんとするところは理解したつもりだ。」

 

 そう言いながらアインズは、手を差し伸べてアルベドとデミウルゴスに立ち上がるように勧め、二人もこれに素直に従った。

 

「ユグドラシルNPCの忠誠心は、第一義的にはギルドに向けられるものであって、必ずしもプレイヤーの一挙手一投足をすべて追認するものではない、と……そういうことだな?」

 

 アルベドの問題提起の含意するところに触れたアインズの問いかけに対し、

 

「そこには(わたくし)も思い当たるところが御座います。」

 

とデミウルゴス。

 

「これまで(わたくし)自身そのように捉えて考えたことは正直なところ御座いませんでしたが、さきほどのアルベドの示唆を受けて思い至ったところが御座います。

 思えば、これまで(わたくし)は、必ずしもアインズ様の意には沿わぬやも知れぬことを敢えて申し上げたり、暗に画策いたしたことが御座いますが、これらはすべてギルド、アインズ・ウール・ゴウンのためによかれ、と熟考してなされたものなので御座います。」

 

 ……いや、それは。

 ちょっと違わなくないか。っつーか過分におまえの趣味じゃないかぁ!あーん?

 

「ボクからもよいかな?」

 

 脱線の気配を感じてか(いな)かは(つゆ)知らず、ここで片手を挙げながらツアーが物申す。

 

「ボクも正直なところ、今振り返るからそう思う話だろう、と思う。それを前提に聞いて欲しい。こちらの世界の人々から八欲王、と呼ばれた来訪者(ユグドラシルプレイヤー)について、だ。」

 

「ほぅ、聞かせてもらおうじゃないか、ツアー。」

 

 既にアインズは興味津々だ。

 

「実際彼らの主戦力たる顔触れは八人いたが、当時はそんなことは知る由もなかったが、プレイヤーが二人、NPCが六人だったように思う。これも確たるところは断言できないが、ボクの理解としては皆、キミたち同様のいわゆる百レベル(カンスト)だ。」

 

百レベル(カンスト)八人を単騎で完封とは流石だな、ツアー!」

 

 上機嫌にアインズはそう応じたが、これを言われたツアーはいささか心中複雑だ。

 親兄弟知り合いを皆殺しにされて完封もくそもあるまいよ、と。

 だがキミは、そんなことは憶えてはいないんだよね、羨ましいことだ。

 

 が、これが記憶にないのは同様であるはずのアルベドが、何かを感じ取ったものか、

 

「いけないわ、アインズ。ツアーにその物言いは!」

 

と、彼を嗜めるようなことを口にした。

 さらに続いてツアーの方を一瞥し、瞬き(ウィンク)を送って舌を出したのだ。

 

 ごめんね、ツアー。

 彼ったらこうだから、許してあげてね。

 

 ツアーは彼女からそう言われたような気がして、その心遣いが嬉しかった。

 なので、言っても詮のない不平を述べるよりは、ナザリックの流儀に従うべきだろう、と判じた。

 

「よせよせ、アインズ。デミウルゴスでもあるまいに。」

 

「……ふぁ?」

 

 この一瞬に()わされた(こま)やかな機微の数々を(かい)することの出来なかったアインズは、間抜けな声を漏らした。

 実のところアインズは、しばしばアルベドとツアーの間にアインズには理解できない意思疎通(コミュニケーション)が成立することを訝しく思っているのだが、それは決して妬きもち、などではなく、むしろアインズは、これを薄気味悪く感じている。

 

「……思ったほどウケなかったね。何の話だったっけ?

 そう、八欲王だ。」

 

と、ツアーは本題への復帰を図る。

 

「アインズも言うように、百レベル(カンスト)八人を一人で打ち倒すのは、たとえボクであっても容易ではなかった。それが叶ったのは、彼らが決して一枚岩ではなかったからだ。

 明らかに彼らはそれぞれのプレイヤーとそれに追従するNPC三人ずつの二組で対立していた。追従する三人から見てプレイヤーが自身の創造主だったのか、アインズがペロロンチーノくんを介してシャルティアとそうであるような関係であったのかまではわからないが、それでも一目(ひとめ)で判るニ派閥を彼らは現じていた。

 そして互いに、捗々しくないギルド維持資金集め、ボクとの闘争について、責任を(なす)り付け合って、ときにボクの目前ですら刀杖沙汰に及んだものだ。そこに付け入る隙があって、辛うじて制することが叶った、という次第さ。当時の人間文明の過半を巻き添えにしてね。」

 

「なるほど、ツアーの話は示唆に富んでいる。」

 

 ツアーの体験談には、アインズとしては先の対ブルー戦を通じて覚えた違和感に重なるものがあった。

 

「当ててやろう。しばしば八欲王のうちのプレイヤー二人は、NPCへの指示を曖昧にしたり、本来プレイヤーが下さねばならん決断を、互いを意識して躊躇ったな。」

 

「流石はアインズ、ご明察だよ。」

 

「よせよせ、ツアー。デミウルゴスでもあるまいに。」

 

 続けて出しにされて、いささかデミウルゴスが憮然とした顔をしている。

 

瞬殺(しゅんさつ)した蟹女については知る由もないが、六本腕からは苛立たしいほどに決断力を欠く指示待ち男を感じた。

 ユグドラシルNPCは、プレイヤーが命じたことにはそれが何であれひとまずは従うが、それがギルドそのものと利害相反する場合はギルドの利益が優先されるし、逆に、NPCの側から説得してプレイヤーから形式的に言質を得てしまえば、主従関係をひっくり返せもする、ということになるな。

 オレたちが今日の今日までこの事実に気が回らなかったのは、ある意味当然ではある。

 自慢するわけじゃないが、オレはナザリックにおける最終的な決断権はオレにあると常に意識しているし、むしろ決断することこそがナザリックにおけるオレの責務だ、と自覚している。そして、オレ自身がアインズ・ウール・ゴウン、すなわちギルドと同一無二の存在なんだから、そこがブレることは決してない……なかったはずだ!」

 

 言いながら途中で自信がなくなってきたアインズは語尾を濁したが、もちろん三賢者たちは、ごもっとも、ごもっとも、と至高の主を称賛した。

 

「そこで次に気になる点だが、そのルーシェンとか言うNPCは、結果的にプレイヤーまで捨て駒にして……何がしたいんだ?デミウルゴス級の知性を有したものの差配にしては、今回の仕掛けは拙速に過ぎたし、実際ピンクも、そして本人が望んでのことではあるがブルーも死んじまったわけだしな。」

 

 アインズは議題を次の段階(フェーズ)へと進めた。

 敵の動機を知ることは、対ギルド戦のイロハのイだ。

 

「それについても、(わたくし)に思い当たるところが御座います。」

 

とアルベド。

 アインズは、他の皆が特に何も言い出さないのを確認して、黙って骨の手を差し出し続きを促した。

 

「さきほども申し上げました通り、(わたくし)はナザリックを去られた至高の皆様方に少なからず蟠りを覚えては御座いますが、さりとて、これを取り立てて非難申し上げるつもりもないのです。何故ならば、それは至高の方々がそれぞれにお(くだ)しになられた決断に(ほか)ならず、ギルドに忠誠を捧げる身としては、異存はあれどもそれを尊重するに吝かではないからで御座います。」

 

 さきほど同様の語りだしに一瞬、ぎょっ、としたアインズではあるが、なるほど、それはアルベドの言う通りではあるな、何ならアインズ自身もそう考えて乗り越えて来た道だ、と思う。

 

「対して、ルーシェンなる者の視点で考えますれば、創造主たるクリフなる者はユグドラシル在りし日のうちに落命を知らされ、にも関わらず、水晶の夜(クリスタルナイツ)のプレイヤーたちはクリフを復活させなかったので御座います。」

 

「いや、待て待てアルベド!」

 

とアインズ。

 

「クリフは<現実(リアル)>で死んだんだぞ、復活もくそもあるまい。」

 

「それは承知しております。」

 

「なるほど、確かに貴女(あなた)の言う通りかも知れないね。」

 

と割り込んだのはデミウルゴス。

 

「アルベドも(わたくし)も、アインズ様のおっしゃりたいことが理解できます。<現実(リアル)>で病死したクリフをユグドラシルの魔法で復活させることは叶わない、と。

 ですが、これが我々に理解できるのは、アインズ様を含む至高の四十一人の皆様方が、<現実(リアル)>に関する諸々の知識を(わたくし)どもに惜しみなくご下賜くださったがゆえ。」

 

(わたくし)も同感で御座いますな。クリフなるものが、ユグドラシル以外のゲーム世界から傭兵を招いてまで我らアインズ・ウール・ゴウンへの挑戦を企図した者なれば、なおのこと。

 彼らの拠点<蒼玉(サファイヤ)>とやらのギルドの<日誌(ログブック)>に刻まれた記憶には、ユグドラシルについての知識しか含まれてはおりますまい。」

 

 パンドラズ・アクターも続けてこれに同意する。

 

「つまり……どういうことだ?」

 

 自身NPCではないアインズは、彼らが自明と感じるところがたちまちには理解できない。

 対してアルベドは、さらりと結論を示した。

 

「ルーシェンが目論むは、創造主クリフの復活。」

 

「……んなコトできるわきゃねーだろ、常考(じょーこー)?」

「いや、アインズ。そう断言するのはいささか早計ではないかい?」

 

 素っ頓狂な声でアルベドの言を否定したアインズに、すかさずツアーが異議を唱えた。

 

「ブルーがクリフの死を記憶していたことは、とりもなおさず彼らの<日誌(ログブック)>に、クリフが死んだ、という事実が記録されていたことを意味している。これがユグドラシルの復活の秘術にどう解釈されるかは、実際のところ試してみないとわからないんじゃないかな。当然<日誌(ログブック)>にはクリフが何者であるか、その能力や人となりも記録されているのに違いないのだから。」

 

「な!」

 

 そんなことはよもやあるまい、とは思いつつも、アインズはツアーの言に一分(いちぶ)()を感じている。むしろ、自身がその発想の柔軟さを欠いたことが()()ずかしいくらいだ。

 

「プレイヤー復活の手段は、拠点からの再出撃(リスポーン)を除けば基本的にはNPCと同じで御座いますわな。もっとも、再出撃(リスポーン)は事前の課金を要しますれば、ブルー、ピンクに対して父上が懸念の要なしと判じられたように、この際は顧慮せずともよろしいでしょう。」

 

 ユグドラシルの魔法の品(マジックアイテム)に精通するパンドラズ・アクターが問われず語りにそう言う。

 

「もし、<蒼玉(サファイア)>が<真なる蘇生(トゥルーリザレクション)>系の最上位アイテムを所蔵しておったとして、ルーシェンなるものの企図が我らの想定通りであれば、それは既に試みられておりましょうから、これもこの際は除外してよろしいものかと。

 されば、取り得る手段はただ一つで御座います。」

 

「ユグドラシル金貨五億枚を投じての無格下げ(ノーペナルティ)の復活……か。」

 

 息子の含意を読み取ったアインズがそう呟く。

 

「私の調査を元に、彼らのギルド規模および資金の推移を概算してもらっていたように思うが、どうだったかな、パンドラズ・アクター?」

 

と問うたのはデミウルゴス。

 

「如何せん未確定要素が(おお)御座いますからブレが大きいので御座いますが、ブルーの廃墟からの資材集めのみが拠点を維持し続けていたと仮定した場合、最大でも拠点レベルは五百には達しません。かなり無理な仮定として、同じことをしておる未知のプレイヤーがあったとしても、どう足掻いても七百は超えんでしょう。

 しかも彼らは、同じ資金源から満願成就(五億枚)に向けての貯蓄もおこなわねばなりませんから、はてさて如何程の時間を要しますことやら。」

 

「ブルーの話ではルーシェンとやらはシズ・デルタ同様の自動人形(オートマトン)らしいから、未来永劫倦むことなくそれを続けていくのやも知れんが、ブルーが唯一のギルド維持資金獲得役だったのだとすれば、遠からず拠点崩壊を迎え、そうすればいくら金貨を得たとて復活の試みも叶わなくなる……憐れなものだ。」

 

 アインズは、皮肉でもなんでもなく存外心底悲しんでそう口にしたが、デミウルゴスには何やら違う考えがあるらしい。

 

「あるいは……」

 

 ん?

 

「あるいは……我々から奪うか。」

 

「……おまえ、本気でそれを言っているのか?」

 

 これに応えたのはデミウルゴスではなくアルベドだ。

 

「ルーシェンなるものが(わたくし)やデミウルゴス同様に振り切っ(カンストし)た知性の持ち主であるならば、そこにかの者の考えが至らぬ、とは申せません。」

 

「左様、所在すらわからぬ我らがナザリック地下大墳墓への正面切っての攻略などあろうはずも御座いませんが、その気になれば脅迫、詐欺、誘拐など、手段はいくらでもありましょう!」

 

と、何故か無闇に楽しそうなデミウルゴス。

 

 ……おまえらが敵じゃなくて、よかったよ。

 とアインズは溜息をつく。

 

 対してアルベドは心配げにこう言う。

 

「問題は、遺憾ながらこのような事例(ケース)においては守勢側が本質的に不利である、という点で御座います。彼らには拠点以外に守るべきものがないのに対し、(わたくし)どもには……アインズ様には守るべきものがいささか(おお)御座いましょう?」

 

 彼女が懸念するのは、アインズがナザリックは当然としてすべての下僕(しもべ)、さらにはこの世界すべてを守ろうという意思を有していることであり、それは彼女自身にとっては噴飯物(ふんぱんもの)ではありながらも、(あるじ)の決断であるからには従わざるを得ないものだ。

 

「しかし、連中はオレたちの存在をそもそも知らんだろう?」

「いやアインズ、それも早計だ。」

 

とツアー。

 どういうことだ?と問う訝しげなアインズの視線がそちらへと向かう。

 

「一つ頭に引っかかっていたことがある。

 超位魔法を試みようとした魔法詠唱者(マジックキャスター)は、自身が標的したコニーの宮殿に同僚がいたことを知らぬ様子で、むしろ自分が仲間に嵌められたことを疑ってすらいた。」

 

「……言われてみれば、そうだな。」

 

「となれば、魔法詠唱者にアレを命じたのは問題のNPCだ。」

 

「どうやってか、ブルーとオレが対峙しているのに気づいて諸共の殲滅を図った……と言いたいのか?」

 

「それ以外に何かあるかい?」

 

「デミウルゴス!」

 

 やおらアインズは最も頼りにする腹心の名を呼んだ。

 

「どうだ、そんな手段があり得たと思うか?」

 

 デミウルゴスは即答した。

 

「恐怖公に相当するNPCが彼らの傘下にあれば可能なのではないか、と。」

 

「……なーるーほーどー、その手があったか!」

 

 何故かアインズは、突然(まと)った神器(ゴッズ)級の漆黒の装束(ローブ)を脱ぎ始めた。

 骨の裸体を晒し、脱いだ衣装を上下に、ぶんっぶんっ、と振る。

 

 中から眷属(ゴキブリ)が、ぱらぱらぱら。

 きゃっ、と可愛らしい声をあげてツアーの後ろに隠れるアルベド。

 

「デーミーウールーゴースー!」

 

「ギ、ギルドに忠誠を誓うNPCには、た、たとえ(あるじ)の意に沿わずともギルドの利益のために為さねばならぬことが……」

 

「禁止だ!」

 

「……はっ?」

 

「今後、コレはなしだ!

 わかったか?わかってるよなァ、常考(じょうこー)ーーーーー!」

 

「はっ!確かに承りました。

 すべては至高の主、アインズ・ウール・ゴウン様の思し召しのままに!」

 

 ほんっと、やっとれんわ!

 憮然としつつも再び装束(ローブ)に袖を通しながらアインズは言う。

 

「厄介なことになった。」

 

 改めて皆の視線がアインズに集中した。

 

「超位魔法一発でオレを仕留められるとは敵も思ってはいなかったはずだ。にもかかわらず、自身の(あるじ)であるはずのプレイヤーを巻き添えにしてまでこれをやった、ということは……」

 

 ギラリ、とアインズの頭蓋骨に穿たれた二つの眼窩が血のような鮮やかな赤に光り、着直した漆黒の装束(ローブ)を翻して骨の両腕が左右に大きく(ひら)かれる。

 

「……これは、明白な宣戦布告だ!」

 

「アインズ。」

 

 自身の名を呼ぶツアーの意図を、既にアインズは解している。

 

「そうした方がいい、一旦コニーのところへ戻れ。

 まだ眠ったままならおまえの居城に運んだ方がいいかも知れん。

 しばしセバスはおまえに預ける。おまえが敵に遅れを取るとは決して思わんが、おまえにも他にやらにゃならんこともあろうし、コニーの騎士は多いにこしたことはあるまい。セバスにはオレからも追って言い含める。

 (ほか)、何かあればこちらから連絡する。おまえも何かあればお助け玉(レスキューボール)で知らせてくれ、短気で単騎をやってくれるなよ!」

 

「ああ、心得ているとも。」

 

 言うが早いか、白金(プラチナ)の傀儡ツアーは、光の矢と化して東方に飛び去った。

 その残光を見送りながら、アインズは満足げに腕を組み嘯く。

 

「さぁて……俄に面白くなってきたな!」

 

 なければ幸い、であることは百も承知である上で、それでも、千五百人の大襲撃以来誰かの挑戦も受けることがなくなったギルドに寂寥感を覚えていたアインズは、自身がアインズ・ウール・ゴウンだとわかった上で喧嘩を売ってくる(やから)が決して嫌いではない。

 

 むしろ、大好きだ!

 

 それがわかっているがゆえに不安げな視線を愛する(あるじ)に向ける守護者統括アルベド。

 創造主が楽しそうであるならばそれで満足な財務責任者パンドラズ・アクター。

 そして、自身に匹敵するやに思われる知性の持ち主との対峙に心躍らせる狡知の参謀デミウルゴス。

 

 銘々微妙に異なる思惑を抱えつつ、かつてなかった類型(パターン)の強敵の出現に、闘志を漲らせるナザリックの碌でもない面々なのであった。

 

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