「アンタがキーノ・インベルンかい?
噂にゃ聞いてたが、聞いてた以上に叩き潰したくなるほど可愛らしいお嬢さんだなァ!」
慣れないトブの大森林の中を五日かけて
キーノたちは村で、自分たちが探し求めるエンリネが、森の民から血塗れ、覇王、将軍閣下と当てにされていて、その都合で多くの時間を
<転移の指輪>を持ち歩くこちらの世界の冒険者など聞いたこともないキーノたちは、いよいよもってエンリネが大魔王アインズ・ウール・ゴウンのお気に入りだ、と語った
さりとて。長くキーノたちはトブの大森林をアインズ・ウール・ゴウンの領域、と認識していたのでかれこれ千年以上立ち入ったことがなく、
「帰還事業が存外うまくいったのはアンタらが提供してくれた生き残り村の地図のお陰だ。機会があれば一度礼を言いたい、とは思ってたんだ。」
キーノたちの来訪の事情を知らないダンベルグはそう言って彼女たちを饗そうとしたが、
「いや、そういうのはいいから。」
とこれを制したキーノは取り急ぎ用件を告げた。
「血塗れのエンリネに至急会いたいんだが……所在はわかるか?」
あー、それは残念だったな、とダンベルグは応じる。
「三日ほど前になるが、アイツに手紙が届いて。」
「……手紙?」
違和感を覚えつつ、キーノは仔細を尋ねた。
ダンベルグの曰く、手紙は何人かの森の民の手を渡りに渡って届けられたもので、どうやってそれが為されたのかはわからず、そこには誰も関心を
差出人は東方、やはり帰還事業で少なくない難民が移住した
「これを聞かされたときのアイツの剣幕といったら」
「いやいや、そういうのはいいから!」
大きな口を
「ダンベルグちゃん!」
と、急に大きな声でクレマンティーヌが口を挟む。
「なんだい
「なんでダンベルグちゃんは、エンリネちゃん宛ての手紙の中身をそこまで知ってるわけ?」
既にその理由をおおよそ察しているクレマンティーヌは確認のためにそう尋ねた。
答えもほぼ予測した通り最悪のものだ。
「そりゃ……読んで聞かせたのは俺だからな。」
「エンリネちゃんは……」
「森生まれ森育ちのエンリネが東方の書き言葉を読めるわきゃねーだろ。俺はこう見えて
「「ヤラれた!」」
ほぼ同時にキーノとクレマンティーヌが声を上げる。
幼馴染のブライアが、エンリネが帝国由来の書き言葉が読めないことを知らないはずはない。仮に本当に来訪を乞うのであれば言伝を預けた
この状況下でそんなことをする理由がある者は、この世界に一人しか居まい。
「鯖折りだ……鯖折りだ……」
クレマンティーヌは、既に自身の命運は尽きた、と諦め
つまり、自分たちはクリフの羽虫の追跡を、完全には振り払っていなかったのだ。
これをかの大魔王がどう評価するか……強いて
一方のキーノは、まだ諦めるつもりはない。
アインズが恐ろしいわけではない。これは冒険者としての矜持を賭けた思いだ。
「ダンベルグ、エンリネに危機が迫っている。
彼女が東へ向かうのに使った道はわかるか?」
キーノの真剣な表情に、どうやらこれはただならぬ事態らしい、と悟ったダンベルグも、それまでとは打って変わった真摯な面持ちに転じた。
「俺達の湖から東に流れ出る川がある。途中、いくらか難路があるが、森に慣れた者はこれに沿って沢を下るのが定石だ。なんなら道先案内人を出すが。」
これをキーノは謝絶する。
「それで十分だ。私たちの速度について来れない者は返って足手纏になる。」
「俺たちに他にできることはあるかい?」
「エンリネは<転移の指輪>を持っているんだろう?
もし彼女が自身で窮地を脱して帰還したら、おまえたちで彼女を匿ってくれ。仔細を語る
「……あぁ、わかった。
急いでアイツを追ってくれ!」
かくして<黒の百合>は、ダンベルグに示された沢を全速力で下り始めたのであるが、このとき、またキーノは一つ重要な要素を見落としていた。
これを。
厳戒態勢下の森の
*
「……あれ?」
目を覚ましたエンリネは、まず疑問を感じた。
自分は
「目が覚めましたか?」
と声をかけられて、慌ててエンリネは声がした方向へ顔を向けるが、あたりは真っ暗で何も見えない。
「失敬、これでは
パチリッ、と弾指する音がして突然辺りが明るくなり、エンリネは眩しさに片手で目を覆った。恐る恐る指を開いて覗き見れば、自分は洞窟か何かの中にいて目前には……小さな子どもがある。
「……キミ、誰?」
子どもは問いには直接には答えない。
「
目が慣れてきて、エンリネはゆっくりと体を起こした。
目前の子どもは一見して十歳と少し、といったところだろうか。取り立てた特徴もなく印象に残らない顔立ち、短く髪が切り揃えられていて、性別すら定かではない。見たこともない身体にぴったりと張り付いた光沢のある全身
初見の観察を終えて、ハッ、とエンリネは我に返った。
「ジューゲームは?ゴトーは?フリニゲは?」
有難迷惑でありつつも自身に忠義を誓う
「彼らには用はないので眠らせたままに置いてきました。
よもや死にはしますまい。」
はいそうですか、というわけにはいかないが、少なくとも殺されたりしたわけではない、と理解してエンリネは安堵の溜息をつく。
只今の光源のわからぬ洞窟の照明もそうだが、どうやら子どもは
これは……触れ得ざる者?
五年前、難民帰還事業の途上で出会った
ともかく。
たちまちに害されることがないのであれば腹を括るしかあるまい、と、エンリネは、自身の名の由来ともなった古代の英雄に倣って、真正面から触れ得ざる者と向かい合う覚悟を決めた。
そうすべきことは、キーノに教えられたのはもちろん、先生、に自ら誓ってみせたところでもある。
「
血塗れ、覇王、将軍閣下、と持ち上げられてこそいるが、これは言っている連中は
やはり子どもは、直接にはエンリネの問いに答えなかった。
「
<
もちろんそれはわかるが、唐突に二十五年も前の大災厄がここに持ち出される理路がわからない。
ともかくエンリネは、黙って頷いて続きを促す。
「私は
……はぁ?
「その者は、何故かは知らないが
つまるところ、
「ちょ、ちょっと待って!いったいどういうこと?
私、そんな大災厄を引き起こせる知り合いなんていないし、ましてやそいつが私を守りたいなんてあり得ないでしょう、常識的に考えてーーー!」
諸手をぶんぶん振ってエンリネは抗議するも、子どもにそれを気にする様子はない。
「その名を聞けば、思い当たるところもあるのでは?」
あれ?
この流れ、なんだか
「<
その名は……アインズ・ウール・ゴウン」
ペチッ!
エンリネは後先考えずに飛び出して、かつて同じことをしたブライアにそうしたように、でありながら、小さな子を叱るときのように手加減した上で子どもの頬を打った。
子どもはかわすでもなく、それを受けて平然としている。
「のモモンガ。」
……はぁ?
「平手打ちの理由を訊かせてくれますか?」
子どもはまったく表情が変わらないので、怒っているのか驚いているのか、単に知りたいだけなのかがエンリネには皆目見当がつかない。
「あの……その……ご、ごめんなさい!」
エンリネは、唐突に頭を下げて詫びを入れた。
「人違いでした。」
馬鹿正直に、エンリネは自身の判断を伝えた。
「あなたが……クリフ、なの?」
ここに至ってはじめて……はじめてエンリネは子どもに、それがなんであるかはわからないが
「ブライアから聞いたのですね?」
「……ということは」
「その通り。彼の名を騙った手紙を届けたのは私です。」
「あちゃーーー……」
と、エンリネは見るからに落ち込む様子を見せる。
「あなたが倒したい相手は、モモンガ、というのよね?
ブライアにもそう語ったのよね?
私、最後まで聞かずに、アインズ・ウール・ゴウン様の名が出た時点でカーーーッと来ちゃって、あなたもそうだけど、ブライアにも平手打ちかましちゃったのよ。悪いことしたなぁ。」
だが、子どもは驚くべきことをエンリネに告げた。
「
と。
「私がアインズ・ウール・ゴウン様と呼ぶ先生と、あなたがモモンガと呼ぶ<
それ、おかしくない?
だって先生は……アインズ・ウール・ゴウン様は、私たちと一緒に難民の帰還事業をやってたのよ。自分で災厄を引き起こしておいて、それを救済する人……
キーノが
が、やはり子どもにはそれを気にする様子がない。
「それはあなたの感想に過ぎますまい。
事実は事実。その理由など、私の知るところではありません。」
「どうして?」
なおもエンリネは問う。
何故、自分はそうするのだろう、と疑問に思いつつ。
「どうしてあなたは、そのモモンガ、を打ち倒したいの?」
エンリネの記憶では、先生は「オレの古くからの友人がちょっと厄介な奴に絡まれてな。まぁ、そいつは大した相手じゃなかったんでとっとと片付けたんだが、結果的にそいつの連れの恨みを買う羽目になった。」と語ったはずだ。
この子どもの友人が、結果的に先生のとてつもない魔法で
「
「それは嘘。」
エンリネは断言する。
「世界を守るために人質を取って戦うなんて、そんなの……変でしょ!」
ここに至って、子どもは黙り込んだ。
そして、初めて表情が生じた。
ふふ。
ふふふ。
と忍び笑い。
「
と子ども。
「エンリネ、よ!
あなたは……クリフ、でいいのかしら?」
きっと名乗りはしないのだろう、と思いつつ、エンリネはそれでも、こうして言葉を交わす相手であれば名を呼び交わすべきだ、と信じてそう名乗る。
意外にも……子どもは、名乗った。
「エンリネ、私はルーシェン。」
「ルーシェン?
ルーシェン・クリフ?それともクリフ・ルーシェン?」
馬鹿正直なエンリネの脳内に、偽名、という概念は存在しない。
「ただルーシェン。クリフは……今は亡き我が創造主の名です。」
そうぞう……しゅ、って何だ?
「……ごめんなさい、あなたの話がよくわからないわ。
そうぞうしゅ、というのが何なのか。そのクリフ……は、今は亡き、と言うんだから故人なのよね?それにはお悔やみを申し上げるけど、そのクリフ……が、アインズ・ウール・ゴウン様に殺されたから恨んでいるの?」
エンリネはエンリネなりに考えに考え、先生の告げたとっとと片付けた相手、というのがクリフなのだろうか、と考え、そう言ってしまってから、それじゃ
「不思議、だ。」
「……はぁ?」
「エンリネに仔細を告げる理由も必然性も私にはないのに。
不思議と語る自分に気づいて驚かされています。」
とルーシェン。
「冗談じゃないわ!巻き込まれているこっちとしては、仔細を知る理由も必然性も大アリよ!」
このエンリネの返しに、再びルーシェンは、今度は屈託のない笑みを浮かべた。
「ふふふ、エンリネは本当に面白い
*
「……すまん。
さっぱり意味がわからないからもう一回言ってくれ。」
と、唖然とした口調の大魔王アインズ・ウール・ゴウン。
「エンリネの身柄を預かった。無事に返して欲しくば次の新月の午前
と、訝しげな目線を隠す素振りもない守護者統括アルベド。
「駄目だ、さっぱりわからん!」
ナザリック地下大墳墓
先にパンドラズ・アクターがアインズに扮して
「エンリネ……って何だ?
物言いは完全に人質を取った
知性
当然のことながらアインズの記憶としては、エンリネの名どころか、共に楽しんだ帰還事業もすっかり押し流されて忘却の彼方だ。
「問題はそこでは御座いません!」
と吠えるアルベド。
「エンリネ、というのは明らかに女の名!」
「いや、待て待てアルベド!
ルーシェンとやらはともかく、おまえまで何だ!
オレは知らんぞ、本当に……いや、多分……」
今にも噛みつき掛かりそうな愛妃に抗弁しつつ、大魔王は自身の発言に自信を失いつつある。よもや自分が浮気をする、などということはあり得ない、そう信じたいのは山々だが、毎度のことながら、記憶にないことはまったく自身の無罪証明にはならないのだ。
「相手は知性
つまるところアルベドは、記憶が続かずその管理野放図
「おい、おまえらも黙ってないで助けてくれ!」
自然とアインズの視線は同席するパンドラズ・アクターとデミウルゴスに向かうが、アインズ同様に唖然とした様子のパンドラズ・アクターはともかく、デミウルゴスは努めて平静を保ちつつもその口元が、ひくひく、と微妙に震えている。
まるで……
「デーミーウールーゴースー!
おまえ、何か知ってるな?知ってるんだよなーーー!」
「御下問、とあればお答えせねばなりますまい。」
デミウルゴスが何か語る様子を見せて、漸くアルベドは席に腰を下ろして、
「承りましょう。」
と落ち着きを取り戻す。
「まず、エンリネと申しますのは」
「待て!」
アインズは一旦デミウルゴスを押し
「まず背景からだ!」
アインズは、デミウルゴスの話が「エンリネと申しますのはどこそこに居るしかじかの女で御座います」で始まると確信している。今一度、アルベドを炎上させようと狙ってのことだ、と。
チッ。
「あー、おまえ
「御冗談をアインズ様!
「いいから説明しろ!背景から、だ!」
「ハハッ!」
と、まっこと無駄なやり取りを経て、漸くデミウルゴスは本題に取り掛かった。
「アインズ様はこのようなつまらぬことをご記憶にお
「……はぁ?
オレが?何で?」
これまた馬々鹿々しくも自分がやったことの理由を、
「慮るも憚り多きことながら、ユグドラシル時代のアインズ様は、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長というお立場もあって、決して
対して、こちらの世界においでになってからのアインズ様は、有り難くも
ここに至って、漸くアインズにも話の筋が見えて来た。
なるほど、そう言われれば如何にもそれは自分がやりそうな話だ。
「エンリネ、と申しますのは、この帰還事業の中でも特に活躍目覚ましかった人間種の女
「
「……いかがいたしましたか、アインズ様?」
「いかがいたしましたか、じゃねーだろ!
おまえ、また余計な形容を積み増ししてアルベドを燃やそうとしてるよな?そうだよなーーー!」
チッ。
「おまっ」
「エンリネは、奇しくも我等ナザリックと
デミウルゴスはさらり、と至高の主のツッコミを自身の発言で上書く。
「……当初、敢えて
「ちょっと待て。」
とアインズ。
「……何か、わかりにくいところが御座いましたでしょうか?」
「なんで……」
「はっ?」
「なんでおまえがそんなことを知っている?」
「ナザリックの記憶の管理は
「そこじゃない!」
と、アインズは憤る。
デミウルゴスの言っていることが本当で、自分が五年前に帰還事業、とやらに奔走したのだとして、自分の性格からすればこれを自分はナザリックの皆には内緒でやっていたはずだ。
にもかかわらず、アインズ自身が記憶も記録も……いや、ひょっとすると
「……」
デミウルゴスが押し黙る。
「説明……が必要じゃないか?デミウルゴス!」
「只今は……」
「只今は……何だ?」
「只今は
……はぁ?
どの口でそんな事を言うんだ、おまえはーーーッ!
だがここで、デミウルゴスの絶体絶命の
「ん……あ、オレだ。あぁ、ソリュシャンか、どうした?」
それは、トブの森の東側に展開するアウラ、マーレ一族に連絡役で同行した
アルベド、パンドラズ・アクターは、当然のことながら何か
デミウルゴスは……薄ら笑みを浮かべたまま。
「ふむふむ……はぁ?何じゃそりゃ?」
パカリ、とアインズの骨の口が開くのを見て、アルベドもパンドラズ・アクターも、ひとまず
「いや、ぶっちゃけどーでもいいだろ、それ。
……うーん、そうだな。一段落ついてから考えるとして、余計なことはされたくないから一旦捕縛だ。
はぁ?オレに殺される、と震えてる?
アホか!オレはそんなに暇じゃない、と言っとけ!」
どうやら<
「何で……御座いました?」
と興味深げにパンドラズ・アクターが問う。
「こっちはこっちでわけがわからん。
キーノ・インベルン、って何だったっけ?
「
と、デミウルゴスが、もう何度目だ、と問いたくもなる解説を入れる。
「……シズちゃんズ、って何だ?」
「アインズ様がシズ・デルタの助手を申し付けた、エドモン・ウェルズのギルド遺構で発見された課金支援
これにはアルベドが捕捉を入れる。
「エドモン・ウェルズって」
「「「アインズ様!」」」
これではキリがない。
「あー、何の話だったっけ?
そうそう、キーノだ、キーノ・インベルンな。なんかそんな連中いたな、まだやってたのか。
とにかくそいつらがトブの森を凄い勢いで走ってて、マーレが捕獲したらしい。とりあえず目下の情勢には関係ないからそのまま取り押さえとけ、と命じた。」
「関係……なくはない、のでは御座いませんか?」
と口を挟んだのはパンドラズ・アクター。
「関係、ないだろ?」
「いえ父上。かの
ハッハッハッ、とアインズは高らかに笑う。
「ツアーの舎弟だぞ、あいつらは!
よもやオレに喧嘩を売る真似などすまいよ。まぁ、念のために一段落してから事情を訊き出す、で十分だろ?」
はて、キーノたちは大魔王の信を得ている、と喜ぶべきなのであろうか?
「で……何の話をしてたんだっけ?」
これは、ユグドラシル由来の存在が宿命的に抱え込むところの短期記憶の制約、ではなく、偏に大魔王アインズ・ウール・ゴウンがあまりに気が多いがために結果的に注意力散漫に陥る本質的欠陥によるところである。
「トブの森の民の一人を人質に、
と、すかさずデミウルゴスが告げる。
たちまちにアルベドの胡乱な視線がデミウルゴスに突き刺さるが、デミウルゴスも、そしてアインズにもこれを気にする様子はない。
既にアインズの、あいも変わらずその実体がどこに存在するのか定かでない頭脳は、知性
「あぁ、そうだったな。」
横柄にそう応じつつ、アインズは不敵な笑みを浮かべる。
「……あいつは随分とオレたちを楽しませてくれた、そうだろう?」
言葉通り楽しかったかどうかはともかく、これまでになかった
「なれば……せめてもの礼に、望むというのであれば受けて立ってやるさ!」
「「アインズ様!」」
アルベド、パンドラズ・アクターが揃って異議を唱える。
「人質云々はともかく、明らかにこれは罠で御座います。そこへ至高の御身が単身突入するなど言語道断!」
「アルベドの申す通りです。ここは私に
「
パンドラズ・アクターの発言の途中でアインズはこれを斬って捨てた。
「この阿呆は、ユグドラシル非公式ラスボス、大魔王アインズ・ウール・ゴウンに手袋を投げて寄越したんだぞ!」
あぁ、わかってはいたことだが、最早何を言っても至高の主の意思は変わるまい、とアルベド、パンドラズ・アクターは観念した。
「あー、勘違いするなよ。オレは決して冷静さを失ってるわけじゃないからな。
ルーシェン、とやら自身が陽動で、別働隊がトブの森の果樹園、エイヴァーシャーの森のコニー、あるいはナザリックに襲いかかる、という可能性もなくはない。だから、アウラ、マーレ、コキュートス、セバス、シャルティアはこのまま臨戦態勢だ。」
「では、御身には誰が?まさかお一人で!」
心配
「馬鹿を言え。
デミウルゴス!」
アインズは、種々問題が多いながらも、それでも最も頼りになる右腕の名を声高に呼ぶ。
「はっ!」
「前衛を申し付ける。供をせよ。」
「はっ、喜んで!
ですが……よろしいのですか、アインズ様?」
即答に続いて、訝しげにデミウルゴスは問うた。
至高の主はその問いの意を
「何がよろしいんだ?」
「ルーシェン、とやらは、御身が一人で来なければ人質の安全を保証せぬ、と申しておるようで御座いますが。」
フンッ、とアインズはこれを鼻で
「んなもんオレが知るか!殺したければ勝手に殺せばいい。
そしてそうなれば……」
「そうなれば?」
「……あいつの創造主、ユグドラシル終了まで生きることの叶わなかったクリフとやらが草葉の陰で、自身の創造物の余りの矜持のなさを恥じ入って、落涙するだけだろうさ!」
「「「ははっ、すべては至高の主の思し召しのままに!」」」