クソ雑魚サイヤ人は原作通りに進めたい 作:DB原作無印勢
激戦が繰り広げられている天下一武道会も、第四試合まで進んだ。
次は悟空対覆面ピンクが戦うことになる。
正体は桃白白だが、変装して香水で匂いを誤魔化している。
バレることはないだろう。
「何かおっちゃん、前に何処かで会わなかったか?」
「知らんな。気のせいだろう」
「そっかなー?」
しかし悟空は相変わらず勘が鋭いようで、どうにも納得できないのか首を傾げている。
「ではいよいよ、第四試合を始めたいと思います!」
審判の一声で試合が始まり、正体について気にする余裕はなくなった。
最初に動いたのは桃白白で、素早く悟空に接近して怒涛の連打を叩き込む。
(舞空術は私も使えるから良いけど、どどん波を使うと流石にバレそうだしなぁ)
重い服以外にも縛りを余儀なくされるため、桃白白は実力の全てを発揮できない。
だが流石は、世界一の殺し屋だった男である。
心を落ち着かせて冷静に動きを見て、あの悟空と殆ど互角に打ち合っている。
現在の気を感じ取る限りでは、重りがついた状態ならやや弟が有利に思えた。
しばらく打ち合いを続けていたが、やがて桃白白も実力差を覆すのは難しいと思ったのか、一旦後方に飛んで距離を取った。
「やはり今のままでは勝てぬか。……ならばっ!」
彼が何をしようとしたのか察しがついた私は、嫌な汗をかく。
しかし周囲に悟られると不味いので、何とか平静を装って試合を見物しているフリをする。
「受けてみよ! 界王拳ーっ!」
「それは、姉ちゃんの技っ!?」
「行くぞっ!」
悟空の疑問には答えずに、一時的に戦闘力を倍加させた桃白白が襲いかかる。
ちなみに正体を隠して天下一武道会に出場することを許可したが、技に関しては何の縛りもしていなかった。
だが彼が使える技は、殆どが鶴仙流が関わっている。
もし使ったら、さてはオメー桃白白だなと一発でバレかねない。
何しろ世界一の殺し屋に憧れる天津飯と、彼の兄である鶴仙人、門下生であるチャオズがすぐ近くで観戦しているのだ。
迂闊な技は使えなかった。
(でも、いくら何でも界王拳はないでしょ!)
彼を指導しているときに何か技を教えて欲しいと頼まれたので、舞空術や気功砲は鶴仙流で教わっただろうし、元気玉は取り扱いに気をつけないと星を破壊しかねない。
ならばと消去法で界王拳を教えたのだが、やはりそう簡単に使いこなせない。
最初は悟空を圧倒できても、すぐに限界が来たようだ。
彼は気を急激に消耗して、全身汗だくで疲労が色濃く出てきた。
それでも守ったら押し切られると理解しているのか、決して攻撃の手は緩めない。
しかし、とうとう集中力が切れて界王拳が強制的に解除されてしまう。
そこに悟空の強烈なパンチが腹部に叩き込まれて、ヨロヨロと後退して場外に背中から落ちてしまう。
「みっ……見事だ!」
気を使い果たした桃白白はマスク越しだとわからないが、何となく全力を出し切ったと言わんばかりの清々しい顔に見える。
制限付きとはいえ悟空もほぼ同じ条件で、今持てる力を全て出しきって負けたのだ。
しかし彼は満足かも知れないが、同じ技を使われた私としては困ったものである。
審判が悟空の勝利を堂々と宣言している最中に、悟空はじっとこっちに視線を向けて口を開く。
「姉ちゃん。この人は一体?」
「……ええと」
どう言い訳したものかと考えたが、良い案が思い浮かばない。
悩んだ末に私は、結局正直に話すことにした。
「行き倒れていたところを拾って面倒を見てたら、いつの間にかうちの従業員になりました」
「姉ちゃんらしいな」
少し言葉をぼかしたが、嘘は言ってない。
そしてどうやら悟空は、姉がしょっちゅう世話を焼いたり面倒を見るので、そういうことがあってもおかしくないと思っているようだ。
「私らしいとは何ですか。
ただ、放っておけないだけです」
桃白白は、うちの農場の従業員として雇用している。
だが彼が辞めて何処かへ行きたいと言うなら、闇落ちしない限りは素直に受理するつもりだ。
しかし今のところはそんな気配は毛頭ないので、ブロリーの修行相手を引き受けてもらっていた。
「まあ、そういうことです。
正体は理由があって伏せていますが、悪い人ではないですよ」
「そっか、まあ姉ちゃんが言うなら、そうなんだろうな」
普通は弟に信頼されて嬉しい。
だが今は、本当のことを隠している後ろめたさで少し苦しい。
なので気づかれないように、桃白白に念話を送っておく。
『試合が終わったら、悟空にも正体を明かしてください』
『良いのか?』
『あの子は純粋で、善性の塊です。心を入れ替えた者を、責めたりはしません。ただし、事情の説明は貴方に任せます』
『わかった。あとで伝えよう』
あのフリーザでさえも、一度はトドメを刺さずに見逃したのだ。
光落ちしたことを正直に話せば、普通に受け入れてくれるだろう。
色々と納得できなかったり説明不足ではあるが、私の口から話す気はない。
それに天下一武道会はまだ続いていて、いつまでも試合を中断するわけにはいかない。
そういうわけで第五試合が始まり、天津飯とブロリーがぶつかり合う。
皆の興味は完全にそちらに持っていかれて、あれこれ詮索されずに済んだ。
私としては願ったり叶ったりであったので、自分ものんびり試合を観戦することにする。
(しかし天津飯もブロリーも、同じ緑同士だね)
片方は緑色の道着を着用し、もう片方は緑の覆面レスラーだ。
だからと言って別に何もないのだが、色が同じだと今頃気づいた。
「ちいっ! やるな!」
「……お前こそ!」
二人の武道家が、真剣勝負で拳を合わせている。
何かしら、通じるものがあったのかも知れない。
天津飯もブロリーも不敵に笑い、武舞台の上で殴り合う。
高速で行われる激闘に、観客は固唾を飲んで成り行きを見つめる。
審判が状況を解説するよりも早くに攻守が入れ替わり、喋る暇もない。
だが、しばらくしてブロリーが後方に跳躍して距離を取る。
「悪いが、次で終わらせてもらう!」
「ほう、ならば俺も、面白いものを見せてやるぜ!」
そう言って天津飯は両手を合わせて構えを取り、気を集中させ始めた。
「か…め…は…め」
「かめはめ波!?」
「まっ、まさか!?」
悟空やクリリンや亀仙人、ついでにヤムチャも含む大勢が動揺する。
やがて、天津飯の技が完成した。
「波!!!」
「でかいっ! 観客に死人がでるぞ!」
天津飯はわざとブロリーから狙いを外して、大勢の観客に向けて放つ。
どうせ避けるか防ぐかされるだろうし、強引に庇ってダメージを受けたり、隙ができたら儲けものだと思っているのかも知れない。
それに私が界王拳を使い、またギリギリで軌道を変えれば済むことだ。
しかしここで、誰もが予想しなかったことが起きた。
何とピンクの覆面レスラーが観客の前に立って、飛んできたかめはめ波を空に向けて弾いたのだ。
「何っ!?」
動揺する天津飯に対して、桃白白は真面目な顔で大声を出す。
「それ程の技を、何故正しき道に使わんのだ!
何故悪に走る! 技が泣いているぞ!」
いきなり謎の覆面レスラーに説教されて、天津飯は困惑していた。
「鶴仙人とは縁を切るのだ!
安易な影の道から抜け出し、陽の光に満ちた世界を走ってみよ!
兄弟子の桃白白も! きっとそれを望んでいるはずだ!」
そもそも桃白白は彼だし、変装しているだけだ。
しかし天津飯は、そのことに気づけない。
「黙れっ! お前に桃白白さんの何がわかる!
さっきから、くさいことばかり言いやがって!
試合中じゃなけりゃ、その減らず口を二度と叩けなくしてやるところだぜっ!」
完全にブチ切れているが、同時に迷ってもいる。
今の発言が効いているのは間違いなく、桃白白は鶴仙人の視線に気づいて大きく息を吐く。
「本当はもう少しお前と話したいが、これ以上は邪魔が入りそうだ」
「待てっ! まだ話は──」
どうやら身バレの危険を感じ取ったようだ。
桃白白は軽く跳躍し、無言で選手控室に戻っていく。
しばらく試合が止まったものの、やがて天津飯とブロリーは仕切り直して互いの視線を交差させる。
その様子を見た私は、嫌な予感をヒシヒシと感じた。
彼との付き合いは長いので、どんな技を修得しているかは良く知っている。
(まさかブロリーは、気を解放するんじゃ?)
実際にブロリーの気が急激に高まっていき、同時に髪がざわついている。
私はこれは不味いと思い、恥も外聞もなく大声で呼びかけた。
「それは駄目です! 許可できません!」
空から私を見下ろすだけでなく、大きな声が響き渡ったのでこの場の全員の注目が集まる。
だが今は形振りに構っていられる状況ではない。
「それをすれば、覆面が破れますよ!」
「……確かに」
ブロリーが気を全開放すると、何故か髪が逆立つのだ。
理由は良くわかっていないが、多分中途半端に超化しているからだと思われる。
髪色はそのままだし、放出するオーラも黄緑なので間違いはないだろう。
ついでに筋肉モリモリになるしで、とにかくブロリーの高まった気は霧散して、落ち着きを取り戻す。
そして状況が飲み込めずに戸惑う天津飯に、堂々と宣言する。
「参った。俺の負けだ」
「……は?」
「俺は約束を破ってしまった。
だから、降参する」
ブロリーは気を抑えて戦うのと、覆面で正体を隠すことを参加条件にしていた。
なのでつい天津飯との勝負が楽しくなり、ギアを一段あげようとしたのだろう。
彼は冷静になってその行いを、私との約束を破ったと判断したらしい。
そんなあまりの急展開に戸惑っているのは、天津飯だけでなく審判や観客も同じだ。
なかなかブロリーの負けだとは言い出せずに、しばらく誰も喋らなかった。
「ちょっ、ちょっと待て! お前はそれでいいのか!」
やがて対戦相手の天津飯が、戸惑ったように声をかける。
「ああ、今回は負けたが、次は勝つ」
ブロリーの純真すぎる返事に、天津飯は完全に言葉を失っていた。
弟にとって、天下一武道会の優勝はそこまで重要ではない。
強い奴と戦えればそれで良く、彼との試合は十分に楽しめて満足していた。
なのでギブアップしても、次の機会に天津飯と勝負できればそれで良いのだ。
次回までに気を抑えても、互角以上に戦えるように鍛えるという目標もできた。
私はブロリーとは長い付き合いなので、何となくだが考えていることがわかるのだ。
間違いなく弟は、とてもワクワクしていた。
天津飯との再戦がいつになるかは不明でも、遅くとも三年経てば機会は巡ってくるだろう。
その時までに、より過酷な修行で己を鍛えるつもりなのだった。