クソ雑魚サイヤ人は原作通りに進めたい 作:DB原作無印勢
<シロナ>
原作通りにシンバルだけでなく、タンバリンもやられる。
そしてピッコロ大魔王は正体不明の何者かに制裁を加えるため、重い腰を上げた。
ちなみに私は彼らを殺ったのは弟の悟空とヤジロベーだと知ってるし、ふとした拍子にどちらかが死亡したらどうしようと、内心ではガクガクブルブルである。
なので飛行船を目的地の上空まで操縦して艦内放送のボタンを押した私は、相当緊張して声を出す。
「ピッコロ大魔王様、目的地上空に着きました」
「おい、シロナよ。それは外部スピーカーだぞ」
偶然近くにいたピアノから、そんな指摘をされた。
うっかりしていた私は、やや赤面しつつ慌ててボタンを切り替える。
そして同じ内容を、ピッコロ大魔王に伝えた。
「シロナが、こんな初歩的なミスをするとは珍しいな」
「すみません。少し緊張していたようです」
何しろ弟の悟空と、ピッコロ大魔王の直接対決なのだ。
歯車が一つでもズレたら原作が容易に崩壊し、未来に変わるのはほぼ確実を言える。
「安心せい。大魔王様は必ず勝つ。人間など一捻りよ」
どうやらピアノなりに気遣ってくれているようで、良く見たら私の手が小さく震えていた。
「……そうですね。私も、ピッコロ大魔王様の勝利を信じています」
やはり大一番の勝負を前に、戦々恐々としているようだ。
まあそれはとれとして、私は何故かピッコロ大魔王に呼ばれたので飛行船の甲板に出る。
すると真下でこっちを睨んでいる人間を見て、率直に尋ねてきた。
「シロナ、奴は何者だ?」
見なくてもわかるが、私は真下の孫悟空を確認して答えていく。
「名前は孫悟空で、天下一武道会に二度出場し、いずれも準優勝です。
そして私を追って来たのも、彼ですね」
私の説明を聞いたピッコロ大魔王は少しだけ考えて、おもむろに口を開く。
「では、シンバルとタンバリンを倒したのは、奴だということか」
「可能性は高いかと」
正確にはシンバルはヤジロベーに斬り殺されたのだが、この場にいる私が知るわけがないので黙っておく。
「おまけにシロナを追って来ただと?」
「ええ、まあ」
一応情報として付け加えたが、そんな重要な項目ではないはずだ。
しかし次の瞬間、ピッコロ大魔王が怒りに任せて大きな声を出す。
「あんな豆粒のようなガキに、シロナを殺らせるものか!
逆にワシが、息の根を止めてやるわ!」
怒りに震えるかはともかくとして、ピッコロ大魔王は飛行船から一人で飛び降りるはずだ。
しかし何故か彼は、私を片手で抱えて地面にゆっくりと降下していく。
「……ええっ!?」
何故こんなことになっているのか、全く意味がわからずに混乱する。
だがオロオロしている間に地上について、ピッコロ大魔王にゆっくりと地面に降ろされた。
「シロナはそこで見ておれ。
このピッコロ大魔王様が、直々にお前の敵を殺してやる」
「はっ、はいっ!」
取りあえず戦いに巻き込まれないように、少しだけ離れる。
本当は飛行船の上からのんびり見物したかったが、連れて来られてしまったからにはしょうがない。
反射的に尻尾を隠せたのは、奇跡としか言いようがなかった。
今後はずっと服の内側に引っ込めたほうが良いかも思いつつ、ピッコロ大魔王の後ろで緊張しながら成り行きを見守る。
「おいっ! おめえ!
クリリンを殺して、オラのドラゴンボールを盗んでったヤツの親分か!」
「なるほど、そこにもう一つ、ボールを持っておったか」
殴る蹴るしかできない非力な武道家は、安全な場所で様子を見ることしかできない。
そしてピッコロ大魔王の勝利を、心から願っていた。
「結構、武術がいけるらしいな。ワシが送り込んだ戦士を、二人も倒してくれたようだな」
「おめえも倒してやるさ! そんでもって、ドラゴンボールを返してもらう!」
両者の気が、急激に高まっていくのを感じ取る。
そして双方の準備が整ったらしく、いよいよ戦いが始まった。
最初は、ピッコロ大魔王は遊びのつもりだった。
おかげで悟空は有利に戦えていたが、やがて彼は本気になる。
そこからはもう、一方的な展開だった。
かめはめ波の構えを取ったときに魔封波かと思って少しだけ警戒したが、現実には上着が吹き飛ぶだけで済んだようだ。
しかしかめはめ波が予想以上の威力だったのか、その後は油断がなくなり半分の力どころか全力で相手をしていた。
悟空は反撃どころか防御すら間に合わずに、戦いとは呼べない一方的な蹂躙が始まる。
姉としては今すぐ加勢して弟を助けたいが、両手を握りしめて必死に耐えた。
(今ここで私が出ていったら、原作が崩壊しちゃう!)
若返ったピッコロ大魔王がマジュニアを生んでくれないと、未来に地球を守る戦力が足りなくなる。
それに悟空が敗北して死の淵から復活して、超神水を飲まなければ大幅なパワーアップはできない。
いつもギリギリの綱渡りで強敵に勝利してきたのに、良かれと思って機会を奪って事件を解決し、何かの拍子に絶望の未来編に突入してしまったら目も当てられない。
私は表情に出さずに内心で葛藤していると、やがてピッコロ大魔王が両腕に気を溜めて悟空に放った。
片方は辛うじて上に飛んで避けたが、もう片方が直撃して大爆発が起きる。
そして彼は真っ逆さまに落下して、地面に叩きつけられた。
それっきり、ピクリとも動かなくなる。
「くっくっくっ、所詮は人間が行き着けるレベルはこんなものだ」
ピッコロ大魔王は悟空に近づいて、心臓に手を当てる。
「心臓が止まっておる。……流石に死んだか」
次にドラゴンボールを引きちぎり、嬉しそうに笑う。
私はその様子を見ながら、気づかれないように焦らず急いでこっそり悟空に近づく。
そして静かに手を伸ばして、彼の胸に触れる。
(気を解放するとバレるから、ほんの少しだけ!)
心臓を再び動かすのに必要な気を、時間をかけて少しずつ送り込んだ。
やがて悟空の生存を確認した私は、その場を静かに離れてピッコロ大魔王に話しかける。
「お疲れ様でした。ピッコロ大魔王様」
「うむ、確か残りのドラゴンボールを集めている連中がおったな。奪いに行くぞ」
そして行きと同じように私を抱えて、飛行船に向かって飛んでいく。
「このピッコロ大魔王様が若返るのも、時間の問題だ!
もうすぐだ! シロナよ! ワシとお前が望む、魔の世界の到来は近いぞ!」
別にそんなのは望んではいないのだが、ピッコロ大魔王のことも嫌いにはなれない。
内心複雑ではあるけれど、今は双方の被害を減らすことに尽力するだけだ。
「はっはっはっはっ!」
大笑いするピッコロ大魔王に抱えられながら、悟空はヤジロベーが助けてくれるし、次の問題は亀仙人たちのほうかなと考える。
あっちもこっちも忙しく休む暇がないけれど、泣き言をいっても始まらない。
やがて飛行船に戻った私は、進路を残り五個のドラゴンボールに向ける。
そして表情には出さないように気をつけて、何とかなれーと心の中で強く願うのだった。