ブジン・アーカイブ   作:あば茶

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転移Ⅰ:帰るべき居場所を求めて

 

 

 

シャーレのオフィスにカタカタというパソコンの音とカチッカチッという時計の音だけが鳴り響く

 

青色だった空は少しずつ暗さを帯びていき、軽く窓から外を見下ろしてみると、とっくに授業を終えたであろう生徒達が今更下校していくのがちらほらと見える

 

「……っと、いけない……」

 

仕事に戻ろうと椅子に座り直すと、先生が笑顔で私に話しかけてきた

 

「ユウカ、ちょっと休憩にしようか」

 

そう言って軽く背筋を伸ばしているのは、吸い込まれそうなほど美しく輝く黒髪をセミロングにしている女性………私達の先生だ

 

「そうですね……でももう少しで終わりますし、もうちょっとだけ……」

 

「休める時に休んでおかないと後々後悔することになるよ?『あとちょっとだけ大丈夫!まだ行ける!』とか思いながら無理して仕事を全部終わらせようとすると………」

 

「………すると?」

 

「気づいたら終電を逃すことになる」

 

「……体験談ですか?」

 

「うん、もう何回もやらかしてる」

 

「……分かりました」

 

自分達の先生のワーカホリックっぷりに思わず唖然としてしまうが、ここは大人しく従っておく

 

「………その代わり、今日は先生も残業しないでくださいね?」

 

「……………うん、分かった」

 

「何ですか今の間は」

 

「ナンデモナイヨ」

 

「………」

 

「じ、冗談だから!それに明日は予定があるから早めに帰るつもりだったし!」

 

「……はぁ、本当ですよね?」

 

「ほんとほんと!」

 

焦った顔で必死に言い訳をする先生

 

……この人はいつもそうだ、目を離したらすぐに無茶をする

 

「……先生、本当に無茶しないでくださいね?私達は皆心配してるんですから……調印式の時だって彼がいなかったら────」

 

「────うん、ごめんね?ユウカ」

 

「………っ、分かってるならいいです」

 

そんな申し訳なさそうな顔で謝られたら何も言えなくなる

 

お互い何も喋らなくなったせいで少し気まずくなる、空気を変えるために話題を変える

 

「そういえば明日は予定があると言ってましたけど………まさかまた無駄に高い買い物をするつもりじゃないですよね?」

 

「違う違う、ちょっと知り合いに会ってくるだけだよ」

 

「知り合い?どなたですか?」

 

「えっと~……」

 

「……まさかアr「違うよ!?アリウススクワッドじゃないからね!?」………まだ何も言ってませんけど」

 

「あ………」

 

「……毎回言ってますけど、ちゃんと護衛は付けてくださいね」

 

「ごめん……その、ユウカ、この事は……」

 

「分かってます、誰にも言いませんから」

 

「さっすがユウカ!」

 

「きゃっ……!もう、都合が良いんですから!」

 

勢い良く抱きついてきた先生を軽く流しながら書類を整理する

 

………まあ、正直ちょっと嬉しいけど

 

「でも先生ももっと危機感を持ってくださいね?あの場にはツルギさんとヒナさんが居たから良かったものの、彼が巡航ミサイルを迎撃しなかったらその二人だって先生を守れたか────」

 

「………うん、そうだよね」

 

「─────………っ、ごめんなさい、言いすぎました」

 

先程とは比べ物にならないほど落ち込んだ表情をした先生を見て「やってしまった」という感情が湧いてくる

 

どう謝ろうかと考えていると、逆に先生から声をかけてくる

 

「ユウカは優しいね、私のことをこんなに心配してくれるなんて」

 

「え……?」

 

「だって私のことを思ってくれてるからこそ厳しく言ってくれたんでしょ?」

 

………相変わらずのお人好し、これが生徒達に好かれる理由なんだろうなぁ

 

「……ありがとうございます、先生」

「……ふふっ、それじゃあ休憩もこの辺にして仕事を再開しよっか!」

 

「はい!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あの女、何処に隠れやがった!」

 

「絶対に見つけろ!」

 

殺気を乗せて発せられる怒声を聞きながら身を隠す

 

………別に大した理由がある訳ではない、いつも通り騙されていつも通り契約を破棄されただけだ

 

だから今日もいつも通りに隠れて─────

 

 

 

 

 

 

「っ!誰だ……!」

 

瞬間、背後から気配を感じて咄嗟に銃口を向ける、そこに居たのは────

 

 

 

「えっと……私だけど……」

 

「……っ!先生か、すまない……」

 

 

 

────あの日、私達を救ってくれた命の恩人の一人だった

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここなら大丈夫かな?」

 

先生の後を付いていき、たどり着いたのは廃墟だった

 

先生は買い物袋を下ろすと瓦礫の上に腰を掛けた

 

「本当にすまない、また先生に銃口を向けてしまうことになるとは………やはり私には人殺しの技術しか取り柄が───」

 

「────サオリ、それはもう言わない約束だよ」

 

「……そう、だったな」

 

………気を遣われてしまったか

 

「それよりもさ、お弁当とか買ってきたんだ!好きなの持っていってよ!」

 

「しかし、この前も世話に……」

 

「いいからいいから!」

 

「……すまない、なら頂かせてもらおう」

 

「サオリ、謝らなくてもいいんだよ?」

 

「そうだな………ありがとう、先生」

 

「それでよし!」

 

笑顔で親指を立てる先生

 

彼女はいつもそうだ、己の命を狙った者に対しても優しさを与えてくれる

 

あの男が居なければ先生どころかもっと大勢の者達を傷つけていたというのに………

 

「………そういえば先生、彼は今何を?」

 

あの時、私達の狂行を止めてくれたもう一人の人物のことをふと思いだし、先生に問いかける

 

「えっと……最後に入った情報によればまたアリウス自治区辺りで発見されたらしいけど……」

 

「………その様子だと会えなかったんだな」

 

「うん……」

 

そう答えて肩を落とす先生………少し申し訳ないことを聞いてしまったか

 

「……ねえ、サオリはまだ怖い?彼のこと」

 

そんな事を考えていると、先生が私に尋ねてきた

 

「怖くない……というのは嘘になる」

 

「………」

 

「だが、彼は私達に人を傷付けるという行為の恐ろしさを教えるためにあの様な事をしたというのは理解している」

 

「……そっか」

 

「それに彼はバシリカでアツコを……私達のことを助けてくれた、感謝こそすれど恨む道理は無い…………まあ、裏切られた時は少し動揺したがな」

 

「サオリ、彼は────」

 

「大丈夫だ、それも分かっている。むしろあいつが私達のことを裏切ってくれたお陰でトリニティもゲヘナも傷付けずに済んだ」

 

「……それなら良かった」

 

そう言うと先生は立ち上がりレジ袋を手渡してきた

 

「薬とか食べ物とかその中にいっぱい入ってるから!遠慮なく貰ってね!」

 

「……ああ、ありがとう」

 

「それとアツコ達からの伝言……『たまには顔を出してね』だって!」

 

「……ふっ、そうだな、今度久しぶりに会いに行くとしようか」

 

 

 

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サオリと別れた後、私はシャーレに向かっていた

 

その理由は仕事もあるけど……まずは彼の居場所を探す為に情報整理をしなければならないからだ

 

(また無茶してなければいいんだけど………って、私も同じようなことでユウカに怒られたし、人のこと言えないな)

 

なんて事を考えているとモモトークから通話が掛かってくる

 

画面には〝ヒナ〟の二文字が

 

「もしもし、ヒナ?」

 

『………あっ、先生、今大丈夫?』

 

携帯超しから遠慮がちに話しかけてくるヒナ

 

「うん、大丈夫だよ」

 

『それなら良かった……その、先生とお話したくて』

 

「ふふっ、素直に甘えてくれるようになって嬉しいよ」

 

『も、もうっ、からかわないで………』

 

「ごめんごめん、それで?どうしたのかな?」

 

『その、彼のことで話があって………』

 

その言葉を聞いた瞬間、身体が一瞬だけピタリと固まる

 

「もしかして………」

 

『……うん、彼の情報が入った』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼は今、ブラックマーケットの最奥にいるって』

 

 

 

 

 

 

 

 

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そこら中に倒れているカイザーの兵士達を無視しながら男は歩く

 

手にはカイザー製の無線機の様な物を持っている

 

「………もう二度と俺に関わるな、そうすれば此方から干渉するつもりはない」

 

一方的にそう伝えると、その無線機をポイっと投げ捨てる

 

「……俺は帰らなくちゃいけないんだ」

 

まるで幽鬼の様にフラフラとしている

 

「早く元の世界に帰って……姉ちゃんを……」

 

その濁った目は一見すると何も視えていないようで、確かに強い〝何か〟を感じさせる

 

「今度こそ……今度こそ救うんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ!あいつがターゲットだ!」

 

「もう仲間がやられたのか……!」

 

「囲え!」

 

 

そこにカイザー兵の増援がやってくる、彼等は男を発見した瞬間、全員で囲いだす

 

その様子を面倒そうに眺めていた男は頭をガシガシと掻きむしり、肩を落とす

 

「もう関わるなって言ったのに……」

 

すると男はいつの間にか丸いバックルの様な物を手に持っていた

 

「ほっといてくれって言ってるだろ……!」

 

苛立ちながらカイザー兵達を睨み付けるが、彼等はそんな事などお構い無しに銃口を向けてきた

 

「撃て!指の一本を動かす隙も与えずに仕留めるんだ!」

 

おそらくリーダー格であろう兵士が命令すると、全てのカイザー兵が中心の男に向けてアサルトライフルを放つ

 

更にリロードの隙を埋めるように手榴弾を投擲し、数名の兵士がそこにロケットランチャーを撃ち込む

 

「や……やったぞ……!」

 

「ミッション完了だ!」

 

爆煙で何も見えなくなるが、確かな手応えを感じたカイザー兵達は安堵する

 

「よし、命令通り〝例の兵器〟の回収を────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《SET AVENGE》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────まるで心が折れたかの様な〝パキッ〟という音と共に、漆黒が爆煙を吹き飛ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







別の小説の連載中に息抜きで書いた物ですがせっかくなので蔵出ししました

多分ほとんど更新されることはない……かは分かりません、気分次第で更新するかも……?
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