岸部露伴は動かないの『懺悔室』にめちゃめちゃ影響されて、その昔に書いたものです。読んでみて余りの微妙っぷり、荒木先生の凄さに参って投稿しなかった作品です。ここに置いとくことにしました。
とある街の、とある教会。
その場所には、晴れやかな風が吹き込む街とは異なる香りを放つ、ある部屋があった。
『告解室』
木製のプレートにはそんな荘厳たる文字が刻まれていた。
そこには左右に扉があり、片方には教会の関係が入り、もう片方には懺悔をするものが入る。
ここは赦しを求める者、あるいは裁きを求める者のための場所である。
酔っぱらったような足音、てんで調子の外れた歌声、辺りに漂う強い酒の匂い。
男は酔った勢いで罪を告白しに来ていた。
それは今日の様に酷く酔った日であった。
彼はいつもの女房の説教に、その日ばかりは酷く激高した。
呆れて後ろを向いた妻を、酒瓶で彼は思い切り殴りつけたのだ。
朝になって、酔いがさめてから彼はようやく妻が冷たくなっているのに気づいた。
その時ばかりは、流石に彼も肝を冷やした。
しかし、なんと神は残酷なのであろう、彼は演技の天才であった。
酷く取り乱し、酒に酔っていた事を悔いた様子の彼の演技は、町中の人間を欺いた。
疑うのは、普段から後ろ暗い生活をしていた彼の仲間ぐらいなものであった。
結局人々は彼の、強盗に入られたという言い分を信じてしまった。
そして、今の今まで真実は闇に葬られていた。
元々信心深い人間ではなかったし、酒に任せてばかりの男であった。
酒の匂いを漂わせたままの告解など気にするわけがなかった。
しかし、そのおかげで教会の香りに気づかなかったのは幸福であっただろう。
扉が荒々しく開けられる音が教会に響いた。
男はずかずかとその中に入っていき、椅子を見つけるとそこに座った。
そして両手を広げて、どこか自慢するように言葉を紡ぎ始めた。
「告解をするぜ!神サマ!」
「・・・・。」
男は向こう側から返事もないのを気にも留めず話始める。
傍から見れば、己の罪を自慢げに話すというくだらなさ。
酔っていたのもあるが、それに勿論彼は気づきもしなかった。
「俺っちはよぉ~、昔、人を殺しちまったんだ!あー、そうは言っても一人だぜ!
酔った勢いでつい、な?あるだろう?」
「・・・・。」
男は同意を求める様に言うが、それに答えるものは誰もいなかった。
告解はさらに続いた。
「・・・・しかしよぉ~、それもこれも止せって言うのにうるさいアイツが悪いんだぜ?・・・・ああ、違うな。悪いのは酒だよ!こいつが人を狂わしちまうんだ!全く腹立たしいこったな!!」
「・・・・。」
「・・・・ッチ!!」
一切の反応がないのを男は段々腹立たしく思ってきたようであった。
彼は舌打ちを隠そうともしなかった。
この行為を何の面白みもないと思ってきたようである。
彼は、それを捨て台詞代わりに扉を開けて出ていこうとする。
しかし、扉の立て付けが悪いのか、それはなかなか開かなかった。
彼が不審がって力をこめようとしたところであった。
「・・・・罪の告白は以上ですか?」
「・・・・あ?」
その声は神の声ではなかった。
生きたうら若き女の声である、そんな風に彼は感じた。
・・・・彼は思わず舌なめずりをした。
「・・・・罪の告白は以上だがよ~、俺は本当に罪深い男だぜ。・・・・神の使途たるアンタに興味が湧いちまった。ちょっとお顔を・・・・!」
彼は欲深さを隠そうともせず、目の前の格子に飛びかかろうとした。
・・・・しかし男の言葉は最後まで言い終わらず、何かの爆音にかき消された。
彼が最後に見たのは、スライドする目の前の格子、そしてその奥にある、こちらを見つめる鉄色の冷たい銃口であった。
銃声は防音仕様の部屋に吸収され、誰の耳にも届かなかった。
きっと神の耳にもだろう。
扉が二度軋む音の後に、女がその部屋に入ってきた。
彼女は、男の顔面に大穴が開いているのを確認すると、ようやくその手に持っていた回転式拳銃を収めた。
そして、後ろの血潮まみれのカーテンで男を包むと、どこかにそれを運び始めた。
それは酷く慣れた様子で、ただの流れ作業であった。
ある田舎街では時折人が失踪するという。
しかし消えるものと言えば、つまりはどうしようもない人間ばかりであった。
それを一々気に掛ける人間は少なかった。
・・・・その街にはある噂があった。
神が罪深き人を攫い、その罪を清めているのだと。
勿論多くの人々はその噂を笑い飛ばした。
後編に続きます。