呪術の子   作:メインクーン

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前々回の『争奪戦 ②』ですが、ミゲルとの戦闘シーンが何かしっくりこなかったので、大幅に加筆修正しました。

話の大筋に変化はありませんが、そちらから先に読んで頂けると幸いです(3500字近く戦闘シーンを盛って8000字超えた)。

では、続きをどうぞ。

※今回はちょっと短めです。



一時帰宅

秤と綺羅羅に「家に帰る」と宣言した数日後。

 

現在クリスは高専の敷地を出て、都内のあちこちを歩き回っていた。

 

実家に帰る前に、何かお土産を買って行こうという考えからだった。

 

 

「うーん、お土産どれにしようかな……もう面倒臭いから気になった物は全部買っていくか。あれもこれも……それからこの饅頭も……」

 

 

お土産選びは数分と経たずに終わった。

 

目に映った美味しそうな物を片っ端から選んでは購入していく。

 

「どちらにしようか」ではなく、「迷うくらいなら全部ひっくるめて持って行け」くらいの勢いで買っていく様は、クリスの欲張りかつ豪快な一面が分かり易く出ていた。

 

そして、買い物が終わる頃には夥しい数の紙袋を引っ提げており、本人はそれを大した苦でも無さそうに持ち運んでいるというアンバランスな状況が、クリスの異常さを際立たせる。

 

それが目を見張る程の絶世の美少女とあっては、すれ違う人々の困惑を引き起こすには十分すぎるものだった。

 

 

「ねえねえそこの君! 君可愛いね! 今から俺らと遊びに行かない? 新宿に行くんだけどさ、美味しい店知ってるよー!」

 

 

それでも話し掛けてくる者達は後を絶たない。

 

都内ともなれば、下心前提で接してくる男性陣はそこかしこに存在しており、クリスも話し掛けられる側の1人として良くある出来事だった。

 

今もこうして複数人の男性達に囲まれる形で話し掛けられ、その内の1人の伸ばした手がクリスの肩や背中に触れていた。

 

だが忘れてはいけない。クリスは呪術師である。

 

そして呪術師とは、殆どがイカれた頭と行動力を持った集団であるという事を。

 

 

「フンッ!」

 

「オゴォッ!?」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 

真っ先に話し掛けてきた男の股間に、クリスの重く鋭い膝蹴りが決まる。

 

何の迷いも躊躇もなく、ほぼ反射的に繰り出された不可避の攻撃には為す術がない。

 

特級術師が繰り出す強烈なクリティカルヒットを食らい、男は泡を吹いて崩れ落ちた。

 

 

「なっ、おい!? てめっ……待ちやがれこのクソ女が!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ! その前にこっち来てくれ! こいつ息してねえぞ!?」

 

「「「何だって!?」」」

 

 

倒れ伏した1人に他の男性達があたふたしている内に、クリスは颯爽と人混みの中を駆け抜け、その場を後にする。

 

待てと叫ぶ声が背後から聞こえても無視。

 

蚊が居たから叩いて潰した、程度の気分で1人の男の股間を犠牲にしたのだ。

 

こうしたちょっとしたトラブルもありながら移動する事2時間……。

 

 

「やっと着いたー! いやぁ、10年ぶりに帰った感じがするね!」

 

 

時刻は夕方、午後5時過ぎ。

 

呪術高専の寮に引っ越して早半年、クリスは久々に実家兼苺プロの事務所に帰って来た。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

一方その頃、ルビー達はJIFに向けて日々トレーニングに励んでいた。

 

ジャパン・アイドル・フェスティバル──通称JIFとは、謂わばアイドルのための音楽祭。

 

全国津々浦々のアイドルグループ達が10個あるステージに集い、それぞれの会場に集まった大勢のファンの前で自分達の歌やダンスを披露するというもの。

 

その知名度に裏付けされた人気は凄まじく、累計で毎年数十万人単位の人々がたった数日間で各地を行き交うほど。

 

そんなアイドルを語る上では外せない音楽祭に、ルビー達『新生B小町』はとある縁から飛び入りで参加する事が決まっている。

 

今から1カ月後に迫ったアイドルの祭典のため、今日も今日とてルビー、有馬かな、MEMちょの3名は体力増強目的の走り込みを行っていた。

 

 

「はあぁぁぁぁ……今日もやっと終わったー。あーもう、足がパンパンだよ。2人とも大丈夫?」

 

「私は大丈夫よ。これ以上坂道ダッシュしたらヤバいけど、別に堪えられない程ではないわ。元々体力作りでトレーニングは欠かさずやってたから、これくらいはね?」

 

「私はちょっときついかもー。もう20代後半に入ってるし、こんなにハードな運動も学生以来だからね。やっぱ年の差は浮き彫りになるよぉ」

 

「わーお、シンプルな自虐ぅー」

 

 

夕方になり、本日のトレーニングを終えた3人。

 

これから事務所に戻ってダンスや歌の練習があるため、いつまでもその場で休んではいられない。

 

外部コーチであるぴえヨン(アクア)は先に帰り、トレーニング場として使用している坂の麓にいるのは3人だけ。

 

疲れが残っているからかノロノロとゆっくり立ち上がり、重い足取りで事務所へ戻る。

 

その道中、ルビーは2人に笑顔で言った。

 

 

「……でもね、ここ最近は毎日ヘトヘトになるまで運動してるけど、私は今凄く楽しいよ! 

 先輩とMEMちょが来てくれたおかげで、ようやくアイドルとしての第一歩を踏み出せたっていうか? 念願が叶ったっていうか?

 とにかく、2人が居なかったら私は今も家でゴロゴロして何も出来なかっただろうし、そういう意味でも本当にありがとう!」

 

「……どうしたのよ急に? そんな褒めちぎられても何も出ないわよ? でもまあ、そういう事なら任せなさい。これでも子役時代から積み上げたノウハウはあるから。どれも失敗した経験ばかりだけど」

 

「何だこの子、あったけぇよぉ……。真っ直ぐで純粋なその想いが25歳の疲れた心に染み渡るぜ……」

 

 

ずっと夢であり憧れだったアイドルにようやくなれる現状に高揚しているルビー。

 

そんな彼女の口から伝えられた純粋な感謝の想いは、確かにメンバー2人の心に大きな影響を与えていた。

 

と、ここで有馬が何かを思い出したように声を上げる。

 

 

「そういえばその事でふと思い出したけど、あんた妹のアイドル勧誘の件はどうなったのよ? この前ぴえヨンさんと話していた時に『アイドルにならないかもう1度誘ってみる』とか言ってたじゃない。あれから何か進展はあったの?」

 

「あー、その事なんだけどさぁ……」

 

「…………妹?」

 

 

有馬の問い掛けにルビーは苦笑いし、事情をよく知らないMEMちょは首を傾げる。

 

以前ぴえヨンと動画配信でコラボした時の会話を有馬は覚えていた。それ故にふと気になったのだ。

 

ルビーの妹は結局アイドルになるのか否か。

 

 

「あれから全く進展はなくて……いやね、サボってた訳じゃないの。クリスったら最近全く連絡してくれないのよ。この前もこっちから電話したんだけど何故か繋がらなかったし*1……だから家に帰ってきた時に勧誘しようって思ってね」

 

「あら、そうだったの? てっきりもう諦めたのかと思ってたけど、その様子だとまだ未練たらたらみたいね。私達がメンバーになっても尚そこまで必死になるなんて、よっぽど凄い子になってるのね、あの子は」

 

「まあ、先輩はまだ大人しかった頃のクリスしか知らないもんね。今のクリスを見たら絶対驚くよ、あまりにも変化あり過ぎて。そうじゃなくても、多分MEMちょもびっくりすると思う……色んな意味で」

 

「えっ、私も!?」

 

 

蚊帳の外からいきなり話の輪に入れられたMEMちょがビクッと肩を震わせる。

 

有馬も有馬で、幼き日に撮影現場で見た無口のクリスしか記憶に無いため、相当変わっているであろうクリスの姿が全くイメージ出来ない。

 

そうこうしている内に山を降り、住宅街を歩きながら事務所の前まで戻った。

 

 

「やっと帰って来たー! よーし、今日もダンスと歌練頑張るぞー!」

 

「今日はどうする? 私としては歌を中心に特訓したいかな?」

 

「そうね、まずあんた達は歌をどうにかしないとね。ダンスはぴえヨンさんが指導してくれるから良いとして、歌は本人の努力次第よ。ただでさえ下手ウマと音痴なんだから、もっと気張りなさい」

 

「あははー、辛辣ぅー」

 

 

そんな軽口を叩き合いながら玄関の扉を開くと、奥から誰かの話し声が聞こえてきた。

 

 

「おいクリス、このお土産の山どうするんだよ? 言っておくがこんな大量に要らないぞ」

 

「まあまあ、そう遠慮せずに! ほら、この大福とかどう? アクア君もたくさん食べないと大きくなれないよー?」

 

「お前は何目線で話してんだおい。親戚の叔母さんか」

 

 

リビングのドア越しに響く声は途切れ途切れでよく聞こえないが、何やら言い合っている様子に3人は首を傾げた。

 

 

「……中が騒がしいわね。何かあったのかしら?」

 

「もしかして社長とぴえヨンさんが言い争ってるとか? 意見の食い違いとかで」

 

「えー、そんなぴえヨン見たくないなぁ……。というか、今日はもうぴえヨンは帰っちゃったから、普通にお兄ちゃんとミヤコさんじゃない?」

 

「とにかくさっさと入って練習しましょう」

 

「「はーい!」」

 

 

一体誰と誰が言い争っているのだろうと疑問に思いながら、そっとドアを開ける。

 

するとそこにいたのは……。

 

 

「だーかーら! もうすぐ夕食だから今は要らないって言ってるだろ!」

 

「そんな事言わずに一口食べてみなよ! 仙台名物『喜久水庵・喜久福』のずんだ生クリーム味! これ超オススメだよー!」

 

「相変わらず言葉が通じねぇなお前は!」

 

「いやぁ、照れるねぇ! でもそんなに褒められても何も出ないよ、兄さん? 肉欲を満たすのが目的なら彼女にでも頼んで……」

 

「何でいきなりそうなる!? 話が飛躍しすぎだ止めろ! あと褒めてねーから! というかお前、あまり間食しすぎると太るぞ。そういうのは程々にしておけ」

 

「……ふっ。僕は過去でも未来でもなく、今を全力で生きる人間なのさ。だから自分の欲には正直に応えるのが僕の信条なわけ。

 僕は決めてるんだ。自分を抑えて生きるのは止めようもっと自分に正直に生きよう……ってね!」

 

「おい待て、良い話風にして誤魔化そうとするな。もっと栄養バランスを考えた食生活を送って……もごっ!?」

 

「はい声が小さくて聞こえませーん! そんな兄さんにはこの『ハバネロ入り激辛クッキー』でも頬張っててくださーい!」

 

「────ッ!? ────ッッ!!??」

 

「あははははははー! 兄さん顔ヤバいってー! 超ウケるんだけどぉー!」

 

 

リビングで繰り広げられるアクアとクリスによる馬鹿騒ぎ。

 

激辛お菓子を無理矢理口の中に押し込まれ、涙目で顔が真っ赤になるアクアと、その反応を見てゲラゲラと豪快かつ下品に笑うクリス。

 

星野アイと瓜二つの美少女が絶対にしてはいけないゲス顔を浮かべ、実の兄を煽り散らかす様子はさぞや衝撃だっただろう。

 

それを目にした3人は、完全に思考停止した状態で2人のやり取りを眺めていた。

 

 

「「「………………えっ、何これ?」」」

 

 

そして、ぼそりと呟く3人の声が重なった。

 

 

 

*1
クリスがミゲルとサハラ砂漠で戦闘していた時。そりゃいくら掛けても繋がらない。




泣き顔アクアとかいう貴重なシーン。

これを見れた有馬かなは笑っても良いんじゃないかな? 知らんけど。


※時系列
ぴえヨンアクア、先に自宅兼事務所に帰り、アクアに戻る。

クリス、夥しい量のお土産をぶら下げて帰宅。

連絡も無しに帰ったので驚かれ、夕飯前なのに買ったお菓子をたくさん食べ始めたため、見兼ねたアクアが苦言を呈す。

クリスとアクアがお菓子を食べるか否かで大論争。

ルビー達、2人の論争中に帰宅&目撃して放心状態。

今に至る。
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