呪術の子   作:メインクーン

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前回:
日下部「クリスには悪いが渋谷駅の方を優先する」

虎杖「クリス先輩のバックアップに行こうよ!」

冥冥「代官山の帳をどうにかしたら代々木公園の方に寄り道しようか」

五条「展延使えるくらいで調子乗るなよ呪霊ども」

クリス「改造人間の大軍……どうやら僕をここから出したくないようだね」



渋谷事変③ 封印

────10月31日よりも前のある日の事。

 

 

「……というわけで、五条悟を地下5階に閉じ込めた後は、非術師を使って上手く時間を稼いでくれ。最低でも20分は欲しい。その後は私と1()()()()獄門疆の出番だ」

 

「分かった、こちらも全霊をもって作戦遂行に当たろう。だが、その間星野クリスはどうする?帳の強度も永遠ではない。多少時間を稼いだとしても、それだけでは五条悟の封印までもたんぞ」

 

 

日本国内某所に構える秘密のアジトで、羂索と漏瑚が10月31日の作戦について語り合っていた。

 

今しがた五条悟の封印計画を伝え終えたところで、漏瑚が今度はクリスへの対策を尋ねる。たった1度の戦いで完膚無きまでに叩きのめされた身として、どうしてもそれを聞かずにはいられなかった。

 

 

「そこはちゃんと別の計画を練ってあるさ。まず、星野クリスは10月31日当日に代々木公園のライブ会場に行く事は覚えてるね?」

 

「ああ、確か奴の身内が加入している下らん音楽隊(新生B小町)の演奏があるという話じゃろ?だからその会場に帳を降ろし、まず非術師どもの逃げ道を塞ぐ……だったな?」

 

「うん、そうだよ。そして非術師を閉じ込める帳の更に外側に、星野クリスのみを閉じ込める帳を降ろす。強度のテストは以前高専を襲撃した際に五条悟で試したから大丈夫。あれからもう少し改良して、更に強度を高めたものを使うつもりだ」

 

「星野クリスのみ、か……他の術師が来た場合はどうする?」

 

「それも問題ない。そもそも代々木公園の方には計3枚の帳を降ろす予定だ。非術師のみを閉じ込める帳、星野クリスのみを閉じ込める帳、そして術師のみを拒む帳をね」

 

漏瑚の質問に羂索が1つ1つ答える。

 

たった今しれっと漏瑚がB小町の事を『下らない』と評したが、この場において特にその発言を気にする者はいない。

 

 

「そうか……だがそれらの帳も星野クリスの前ではせいぜい数十分が限度。帳を破られ、五条悟の封印中に乱入されては全てが水の泡だぞ」

 

「大丈夫、そのために態々非術師を閉じ込めたんだよ。星野クリスの拘束に彼らを利用するんだ」

 

「どのように?」

 

「簡単だよ、改造人間を送り込んで星野クリスにそいつらを祓ってもらう。閉じ込められた非術師を襲わせるように命令すれば、彼女は必ず帳を破る前に排除を優先する。大切な家族もその中にいるから、そりゃもう必死でね」

 

 

B小町が10月31日に代々木公園で野外ライブをすると発表した時から、既に羂索の計画は始まっていた。

 

初め、星野クリスを閉じ込める場所は、渋谷駅からある程度離れた所ならどこでも良かった。しかしB小町のライブの予定を知った瞬間、これを利用しない手はないと考えたのだ。

 

立地もよく、程良く人が集まり、クリスの家族という最高の人質までいる。まさに彼女を監禁するためだけに用意されたといっても過言ではない好条件だった。

 

 

「とにかく、彼女の意識を外ではなく内に向けさせるんだ。改造人間を定期的に送り込む事で、次第に彼女の意識は『脱出』から『防衛』に切り替わるだろう。とりあえず真人に1000体くらい用意してもらって、3分おきに100体ずつ送れば30分は稼げるだろう」

 

「なるほど。全ての改造人間を一度に送り込まないのは、あまり無理のない範囲で星野クリスに倒させ、まだ守り切れているという意識を持たせるためか」

 

「改造人間を一度に全部送ると、当然会場内の非術師は大勢死ぬ。下手すると星野クリスの身内にも犠牲者が出る。逆にそこまで行くと、彼女も腹を括って帳の突破を優先するかもしれない。

 だからこそ、多くの犠牲者を出してしまった事による『覚悟』よりも、最小限の犠牲で済んでいる事による『現状維持』に重きを置くように思考を誘導させるんだ」

 

 

現代最強の一角である星野クリス……そんな彼女の家族を人質として利用するのは当然だが、代々木公園の方はライブやハロウィンイベント等があっても渋谷駅より非術師の数が圧倒的に少ない。

 

予想では5000人程度だが、それでも渋谷駅のように無駄遣いできる数ではない。このような理由もあって、星野クリスには本格的に非術師を守ってもらう方向で作戦を固めている。

 

しかし、それでもなお漏瑚の不安は絶えない。

 

 

「五条悟を封印するまでの時間稼ぎの方法は理解した。だが、封印してから星野クリスのいる場所まで向かうにも多少時間がかかる。そこまでその策でもつとは思えん」

 

 

五条悟を封印したとして、その後は星野クリスのいる代々木公園に向かうわけだが、それにも当然時間がかかる。

 

封印後の後処理を行い、包囲している術師達の目を掻い潜り、代々木公園まで移動し、星野クリスを封印する準備を整える。たとえ五条悟の封印を最短時間で達成したとしても、これらの準備で更に数十分は必要になる。

 

間に合わない……いかに改造人間を大量に用意すれど、所詮元はただの人間。元々が大した事ないので一体一体の実力はせいぜい2級程度が限界だろう。

 

そうして準備にもたもたしている間に改造人間を全て消費され、邪魔者が居なくなった星野クリスは今度こそ帳を破って渋谷駅に飛んでくる。そうなると厄介極まりない。

 

 

「やはり足りない分は万に頼み、時間稼ぎしてもらうのが良いのでは?あいつの強さは相当なのだから」

 

「何度も言うけど、万を出すのは封印計画が上手くいかなかった時のサブプランであり切り札だ。切り札をおいそれと使用するのは危険だよ。それに彼女と星野クリスがぶつかれば、状況によっては私達まで巻き添えを食らいかねない」

 

「ならどうする?まさか我々だけで抑えろなどと馬鹿な事は言うまいな。あれを真正面から相手するのは流石に御免だぞ」

 

 

万の強さは何となく理解していたのでクリスにぶつける作戦を提案したが、切り札を簡単に切る事はできないと断られてしまう。

 

じゃあどうすれば良いんだと再び問い質してみれば、羂索が代わりになる相手を既に用意していた。

 

 

「万の代わりに改造人間をぶつけるんだ。今までの個体と違い、飛び切り強力でしぶとい奴をね」

 

「また改造人間か……真人の術式でいくら改造すれど、元々が大した事ないのじゃから結果は見えておるだろうに」

 

「確かに、単純な勝ち負けだけならそいつをぶつけても星野クリスが勝つだろうね。でも甘く見ない方が良いよ。真人と共同で開発中だけど、少なくとも漏瑚よりずっと強くなる予定だから」

 

「強さの物差しに儂が使われているのは業腹だが……お主がそこまで言う程の存在、期待して良いんだな?」

 

「任せて。5万人の非術師と10体の特級呪霊の命をふんだんに使用した傑作を見せてあげるよ」

 

「分かった……楽しみに待っておるぞ」

 

 

以前、高専襲撃後に万と真人には打ち明けた大規模な改造人間計画。真人との共同開発で進めるそれは順調に進んでいた。

 

強さについては羂索自ら保証する程で、その笑顔には自信がありありと現れている。更に万に取ってきてもらった()()()も加えれば……期待が募るばかりである。

 

 

「あーでも、やっぱり出来れば漏瑚も手伝ってくれると嬉しいかな。2人だけで進めるにはちょっと作業が多くてね」

 

「やれやれ、つい先程『任せてくれ』と言ったばかりじゃろうに……まぁ良い、少しだけ手を貸してやる」

 

 

こうしてある日の作戦会議は終了した。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

────10月31日午後20時12分、渋谷駅副都心線ホーム・東京メトロB5F。

 

 

(何て事だ……こんなはずでは……!)

 

 

時は戻り現在、漏瑚は五条封印を遂行すべく、人混みを掻き分けながら地下空間を縦横無尽に走り回っていた。

 

背後からは五条が鬼気迫る表情で追いかけ、呪霊や非術師関係なく周囲を威圧している。

 

 

(花御が死に、儂と脹相だけでどうにか時間を稼いでいるが……このままでは不味い!真人と羂索は何をしている?もうとっくに20分は過ぎているぞ!)

 

 

戦闘開始から27分が経過……既に羂索が要求した20分は過ぎている。

 

漏瑚は焦っていた。圧倒的な実力差で五条に追い詰められ、どんどん劣勢になりつつある現状に。いくら人間を盾にして難を逃れようと、五条の追跡を振り切る事はできない。

 

花御は死んだ。戦闘開始から5分程度であっさりと。五条のフェイントに引っ掛かり、その隙を突かれて圧し潰された結果……壁の染みと化してしまった。

 

その後、呆然と立ち尽くしたり悲しんだりする暇もなく、五条との恐怖の鬼ごっこが始まった漏瑚にとっては正に悪夢のような時間。

 

そもそも相手がクリスの師匠である時点で、高い確率でこうなる事は分かっていた。分かっているつもりだった。そんな想定を遥かに超える存在を前にして、漏瑚はすっかり及び腰になっていた。

 

頼む、土下座でも何でもするから早く来てくれ……そんな切実な願いがようやく届いたのか、遂に戦況が変わる時がやって来た。

 

 

「……ん?あれは……東横線の地下鉄?何で急に?」

 

「おお、ようやく来たか!待ち侘びていたぞ!」

 

 

突如、東急東横線から地下鉄が猛スピードで突っ込んできた。周囲の一般人達はようやく助けが来たと思い込んでホームドアの前に群がるが、このタイミングで電車が来た事に五条は違和感を覚えた。

 

電車なんてとっくに運行停止になっているはず。また何か仕掛けてくるに違いない。

 

そう思い、より一層警戒を強めて身構えていると……ホームに着いた車両の中から、大量の改造人間がドアを蹴破って飛び出てきた。

 

早速人混みの最前列にいた数人が改造人間に頭を齧られ、絶命して倒れ伏す。

 

 

「い……いやぁああああああああっ!!」

 

「うわぁああああああ!誰か助けてくれぇー!!」

 

「何だよあの化け物!?く、来るなぁーっ!」

 

「ぎゃああああああああああっ!!」

 

 

あっという間にホーム内はパニック空間と化し、大勢の人々が右往左往しながら必死に逃げ惑う。

 

改造人間に襲われてどんどん死体の山が積み上がっていく光景を横目に、五条は相手の行動に対して困惑を隠せなかった。

 

 

(何を企んでやがる?僕の行動を制限するための人間(こいつら)のはず……数減らして困るのは呪霊(お前ら)の方だろ!?自棄(ヤケ)になったのか!?)

 

 

地下鉄のホームという戦闘するには狭い空間内に敷き詰められた大勢の人間。彼らの存在は五条の行動を制限して戦いにくくするという重大な役割を持っていた。

 

逆に減ってしまっては五条も行動しやすくなり、あっという間に残りの敵を殲滅できてしまう。そんな事は呪霊側も分かっているはず……はずなのに、である。

 

だからこそ、五条は相手の行動の意図を図りかねていた。

 

真人が人混みの中を掻き分けて攻撃し、「人間のキショい所、1つ教えてやるよ」などと呟いているが気にしない。

 

目の前の呪霊を祓おうと拳を握り締め────

 

 

「「「「うわぁああああああああっ!!」」」」

 

「──ッ!?チッ……!」

 

 

今度は背後から大勢の悲鳴や落下音と共に、上の階で閉じ込められていた人々がホームに降り注いできた。

 

まるで鍋の具材が足りなくなったから新たな具材を投入するかのように、何百何千という命がたった数分の間でゴミのように捨てられていく。

 

 

「赤血操術────『百斂・超新星』!!」

 

「無為転変────『多重魂・撥体』!!」

 

 

この機を逃す真人達ではない。逃げ惑う人々を盾にした上で、一斉に攻撃して徐々に五条の精神を追い詰める。

 

最早閉じ込められた人達を助けるどころではなくなった。死者が増え、生者も増え続けるこの状況で人命救助を気にしていたらキリがない。正に頭が狂いそうになる光景。

 

今すぐ速攻で元凶を叩き潰さないと終わらない……そう判断した五条の行動は早かった。

 

 

「────領域展開」

 

 

片手で印を結び、力強い声でその名を口にする。

 

どんな者でも一度食らえば対処のしようがない、真の必中必殺と呼べる最強の領域の名を。

 

 

「無量空処」

 

 

────瞬間、静寂が訪れた。

 

パニックで泣き叫ぶ人々の悲鳴が、呪霊達の嘲笑う声が、改造人間が人間の肉を貪る咀嚼音が、全て同時にピタリと止んだ。

 

誰1人として動かない……否、動けない。無限にも等しい莫大な情報量を一気に叩き込まれたが故に。だがそれも一瞬の事。

 

一か八か、0.2秒の領域展開。

 

呪霊や改造人間達の動きを止め、尚且つ非術師達が廃人にならないギリギリの調整。全員の動きが止まったと同時に、五条はホーム内を超スピードで駆け巡る。

 

漏瑚達は今この瞬間に起き上がってカウンターを仕掛けるかもしれない。そのリスクを考慮し、改造人間のみに標的を絞って攻撃する。

 

結果────現代最強の呪術師は副都心線B5Fに放たれた改造人間1000体を、領域解除後299秒で鏖殺。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

静まり返ったホームに1人の男の荒い息遣いが響き渡る。

 

返り血で赤く染った顔を拭う余裕も無いのか、その場に立ったままゆっくり息を整える。

 

だからなのか……死角から忍び寄る静かな悪意に気付かなかった。

 

否、気付いたとしても遅かった……その時には既に、自分の目の前に存在していたから。

 

 

「────ッ!?」

 

 

不気味で得体の知れない謎の立方体が、音もなく足下に転がされていた。

 

突然の事に一瞬困惑する五条。予想外の事態に思わず動きが止まってしまう。

 

────この瞬間を彼はずっと待っていた。

 

 

「獄門疆────『開門』」

 

 

どこからともなく優しい声音が耳に入る。

 

聴く者に安心感を与え、頼りになるような落ち着いた印象を与える。しかし、その裏に隠されているのは底無しのドス黒い悪意。

 

それらを一切悟らせずに五条の間合いまで踏み込み、彼は自然と笑顔で呼びかけた。

 

 

「やっ、悟。久しいね」

 

「…………はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────午後20時19分、渋谷区鶯谷うぐいす公園前。

 

 

「おわっ!?」

 

「どうしました?」

 

「何かあったのかい?」

 

「いや、なんか耳に変なのが……」

 

「……聞コエルカ?虎杖悠仁」

 

「──ッ!?」

 

「五条悟ガ……封印サレタ」

 

 

帳の外でもようやく事態が動き出した。

 

 

 




五条悟は原作通り封印されました。

一応この状況から封印されないルートも考えてみたのですが……残念ながら私の頭では思い浮かばなかったので断念しました。原作での羂索の封印計画が最適解というか、あまりにも隙がなさすぎます。何か良い逆転劇は無かったのでしょうか?

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