呪術の子   作:メインクーン

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前回
羂索「星野クリスに改造人間をひたすらぶつけて時間を稼ぐ」

漏瑚「期待して待っておるぞ」

羂索「や、悟。久しいね」

五条「……は?」

虎杖「五条先生が封印されたぁ!?」



渋谷事変④ 防衛戦

────五条悟が封印される数分前。

 

 

────午後20時17分、代々木公園野外ステージ内。

 

 

「あかね!無事か!?」

 

 

クリスが帳の外で改造人間と戦っている間、あかねが会場内の人々を言葉巧みに説得して帳の縁から避難させていると、ステージ裏にいたアクア達があかねの所へやって来た。

 

 

「あ、アクア君!やっと戻ってきたんだね!それにかなちゃん達も……ところで衣装は……」

 

「流石に着替えたわよ!こんな非常事態で呑気にアイドル衣装なんか着てられないでしょうが!」

 

「とりあえず、何かあってもすぐ逃げられる恰好にしたよ。これが只事じゃないのは何となく分かるしさ」

 

「そっか……」

 

 

ハロウィン限定衣装ではなくなった有馬を見て、もう少しだけこの目に焼き付けておきたかったなぁ……と、少しだけ残念に思うあかねだった。

 

だが、すぐに気持ちを切り替えてアクア達に伝える。

 

 

「それよりも皆、今はあの黒い壁からなるべく離れた方が良いよ。あそこに近付くのは危ないから」

 

「突然現れた謎の黒い壁……あれが一体何なのかは分からん。だが見た感じ、あれのせいでここにいる全員が外に出られないんだよな?だったらどうにかしてあれを突破する方法を模索すべきじゃないか?」

 

 

アクアの提案はごもっともだ。初めはあかねもそうしようと思っていたし、クリスも帳の突破に向けて色々と行動していた。

 

だが、今はそれが安易にできない状況に陥っている。

 

 

「そうしようと思ってたけど、状況が変わったの。あの壁の向こうから突然大きな化け物が入ってきて、危うく1人が犠牲になるところだった。さっき悲鳴が聞こえなかった?」

 

「悲鳴……微かにだが、確かに悲鳴が聞こえたな。まさかあれが……?」

 

「うん、そうだよ。その証拠にほら、あそこに化け物の死体がまだ……」

 

「どこに……なっ!?何だあれは……!?」

 

「ひっ!?何よあれ……あんな醜い化け物、本当に現実の物なの!?」

 

「血があんな大量に……内臓まで……ううっ……!」

 

「「…………」」

 

 

あかねが指差した方向に目を向ければ、そこにはクリスにやられた改造人間の死体が横たわっていた。

 

脳天を撃ち抜かれ、その衝撃で大量の血と臓器を撒き散らしたその姿はあまりにショッキングな光景。見れば見るほど不快感を煽る醜悪な見た目も、より一層不安と恐怖を駆り立てる。

 

アクアと有馬はドン引きして後退り、MEMちょはあまりの惨たらしさに吐き気を催したのか口元を手で押さえ、ミヤコと壱護はショックで言葉を失って呆然としている。

 

しかし、皆の不安はそれで収まらない。

 

 

「ねぇ、ちょっと待って……クリスは?クリスはどこに行ったのよ?あの子の姿がどこにも見当たらないわ!」

 

「た、確かにクリスがどこにも見当たらない!ざっと見渡しても全然……おいあかね、クリスはどこに行ったんだ!?」

 

「アクア君……それは……」

 

 

この場にクリスがいない事に気付き、一緒にいたはずのあかねに彼女の行方を問い詰める。大切な妹が1人いない焦りが行動に出てしまった。

 

一方で、鬼気迫る表情で詰め寄られたあかねは返答に困っていた。

 

何て説明すれば良いのだろうか?正直に「あなたの妹はここにいる皆を守るため、改造人間という化け物の軍勢を相手に1人で戦っています」と言えば納得してくれるか?否、そんな説明をされてもすぐに頷いてもらえるとは限らない。

 

そもそもクリスが家族に心配をかけさせないために今まで秘密にしていた事を、自分がここで安易に明かしてしまって良いのか?他人の秘密を、家族でもない自分が話すのは駄目なのでは?

 

話すにしても、もう少し状況が落ち着いてからの方が良いのでは?今ここで真実を話したところで、何か状況が変わるとは思えない。むしろ悪化するかもしれない。

 

そんな思考が頭の中でぐるぐると回り続ける。

 

咄嗟に上手く説明できず、堪らずルビーの方に視線だけ動かす。同じ秘密を共有する者として助け船を求めたが故だ。

 

 

「…………」

 

(あっ!首を横に振られた!そんなぁ……)

 

 

しかし、あかねですら上手く説明できなかった事をルビーが代わりにするのは少々荷が重かった。

 

そうしてこちらの顔を真剣な目で覗き込むアクア達に、珍しくあかねが挙動不審になって静かになり……しばらく沈黙が続いた。

 

だが、流石のアクアもこれには痺れを切らしてしまう。

 

 

「おい、何で黙るんだ?何とか言ってくれ!なぁ、クリスは一体どこへ行った!?」

 

「あかね、あんた急に黙ってどうしちゃったのよ?それにその表情、何か知ってるって感じの顔ね……包み隠さず、正直に言いなさい」

 

「お願いあかねちゃん。私もクリスちゃんの事が心配だから、その……もし何か困ってる事があるなら私達を頼ってほしいし……」

 

 

アクア、有馬、MEMちょの3人からそれぞれ言い寄られ、あかねは更に言葉を詰まらせる。別にあかねが悪いわけではないのだが、本人は非常に申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

 

「黒川あかね、頼むから何があったかだけでも教えてくれ!」

 

「私からもお願い……私はもう嫌なの、誰かを喪うのは……あの子がアイの二の舞になるような事だけは……だから……」

 

 

追い打ちとばかりに壱護とミヤコまであかねに言い寄る。壱護はアクアと同じく鬼気迫る顔で、ミヤコに至っては既に涙目だ。

 

これにはあかねも心を痛め、遂に良心の呵責に耐え切れなくなった。

 

 

(ごめんクリスちゃん……!)

 

 

心の中でクリスに一言謝ってから、クリスの現状と彼女が抱えている秘密を正直に話そうと決意する。

 

まずは今の状況を簡潔に伝えようと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ、皆どうしたのそんな所で?駄目だよ帳の縁に近付いたら。危ないよー」

 

「「「「────ッ!!」」」」

 

 

突然背後から気楽な声が聞こえたので振り返ると、視線の先には帳の外側から顔だけ出している状態のクリスがいた。あかねに人々の避難誘導を任せ、改造人間を倒すために出て行ったきりだったので、今の状況に首を傾げている様子である。

 

とはいえ、そのような疑問は当然あかね側……特に呪術を知らない者達の方がたくさん持っている。もう何が何だか分からず混乱している程だ。

 

全員の視線がクリスに集まる中、クリスが更に歩を進めて帳の中に入る。

 

 

「いやー、きつかった。まさかあんな大量に改造人間が出てくるとは思わなかったね」

 

「良かったクリスちゃん!無事だったん──ッ!?」

 

「おかげで時間が掛かったよ。ようやく()()()()()()()()って感じだけど……全く、一体どれだけの命を犠牲にしたのやら」

 

 

クリスの無事を喜んで声を上げかけたあかねは、次の瞬間あまりの光景に絶句した。全身が血に塗れた状態のクリスの姿に。

 

先程は帳の黒さで大して見えていなかったが、よく見ると頭から靴の爪先まで全身が鮮やかな赤色にべったりと染まっている。

 

衣服の袖や裾からはぽたぽたと血が滴り、鼻の奥にツンとするような吐き気を催す生臭さが漂う。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

あまりにもショッキングな見た目に、アクア達は勿論、後ろで見ていたB小町のファン達も目を見開いて言葉を失っている。中にはとうとう地面に蹲って吐き出す人まで現れる始末。

 

だが、それでも当の本人は何でもないかのように平然としていた。

 

 

「く、クリス……血が……」

 

「ん?これ全部返り血だから心配はいらな……あー、ごめんごめん。そうだよね、これじゃあ血生臭くて迷惑だよね。ちょっと待ってて、今綺麗にするから」

 

 

よろよろと歩み寄ったルビーが恐る恐るクリスに尋ねると、本人はまたしても何食わぬ顔で返り血の掃除を始めた。

 

クリスは血の臭いを気にしているが、周りの人達はそれどころではなかった。ただただ非日常な光景に唖然とするばかりである。

 

そんな周囲の反応や視線を他所に、クリスは徐に両手を自身の胸に当てた。

 

 

「術式反転『還』…………よし、こんなもんでしょ」

 

「「「「はっ……!?」」」」

 

 

更に唖然とする羽目になった。

 

クリスが両手を当てて謎の言葉を口にした瞬間、彼女の全身を染めていた大量の鮮血が数秒経たずに消し飛んだのだ。

 

そしてそこには、戦う前の綺麗で上品そうな衣服に身を包んだクリスの姿が……今何が起こったのか理解できなかった。

 

これにいち早く反応したのはあかね。

 

 

「クリスちゃん、今呪術使って……良かったの?そんなあっさり……ずっと秘密だったんじゃ……」

 

「こんな非常時に秘密とか言ってられないでしょ。無理だよここまで来ちゃったら。だからもう開き直る事にした!」

 

 

ずっと秘密にしていた事をあっさりバラすような真似をして困惑するあかねだったが、クリスは秘密を隠し通すのは無理だと切り替え、既に開き直っていた。

 

初手で敵に帳で閉じ込められ、追い討ちとばかりに改造人間の軍勢まで出されたので、考えれば考えるほど誤魔化しが利く状況ではない。

 

ある意味清々しい態度のクリスに、あかねは静かに頷くしかなかった。

 

 

「とにかく、今は帳の奥まで急いで避難してね。多分、もうすぐ一味違う奴が来ると思うから……勘だけど」

 

「うん、分かった……気を付けて」

 

 

クリスの発言に不穏な空気を察知したあかねは、何も聞き返さず、素直に指示に従う事にした。

 

 

「クリス……お前、あの大量の血は何だったんだ?どうして血が一瞬で消えた?一体何をしたんだ?答えてくれ!」

 

「ごめん、無理。でも事が全て片付いたら気になってる事ちゃんと話すよ。だから今はあかねちゃんか姉さんと一緒に行動して。2人もある程度僕の事情を知ってるからさ」

 

 

アクアはまだ混乱が収まっていないのか、避難そっちのけでクリスに対して矢継ぎ早に質問を重ねた。

 

しかしクリスにするりと受け流され、質問に答える役目はあかねとルビーにバトンタッチされる。呪術の存在を知っているので必然の選択と言えた。

 

そうして殆どの人の困惑が残っている中、クリスは再び帳の外へ出ようと皆に背を向けた。

 

 

「ま、待ってクリス!お願い、行かないで!」

 

 

背後からミヤコの泣きそうで震える声が響く。愛する子供を危険から遠ざけようと必死に呼びかける。

 

ミヤコは母親の直感で分かっていた。今までクリスが何かとんでもない危険を冒していた事、そしてこれからも同様の危険を冒そうとしている事を。

 

母親として、何としてでも止めたかった。もう二度とアイと同じ悲劇の道を歩ませたくなかったから。

 

たとえ娘の事情に気付くのが遅すぎたとしても、既にどうしようもない状況だったとしても。

 

 

「ごめんね、お母さん」

 

 

そんな母親としての想いは……残念ながら、クリスを止めるには至らず。

 

無情にもクリスは歩を進め、そのまま帳の外へ出て行った。堪らずミヤコがその後を追いかけ、帳に向かって手を伸ばす。

 

だが、当然彼女も非術師なので帳を通れるわけがなく、黒く分厚い壁に容赦なく阻まれてしまった。何度叩いてもビクともしない。

 

その瞬間、クリスを止められないと悟ったミヤコは力なくその場にへたり込んだ。

 

 

「クリス……お願い、無事に帰ってきて」

 

「……とにかく、今は急いで奥に避難しましょう。ここだと危ないので」

 

 

静かに涙を流す1人の母親の姿に心を痛めつつ、そっと肩に手を乗せて避難を促すあかねであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

────午後20時25分、代々木公園野外ステージ外。

 

 

「いやー、お母さんには余計な心配かけさせちゃったな。皆が無事か気になっただけなのに……結果的には失敗だったかもね」

 

 

帳から出たクリスは先程見たミヤコの表情を思い返し、自身の行動を省みていた。

 

大量に出てくる改造人間を片っ端から倒していたところ、急にその波がぱたりと止んだので、ちょっとした休憩も兼ねて帳の内側の様子を見に戻っただけだった。だが、その結果家族に要らぬ心労を掛けさせてしまっては申し訳ないというもの。

 

改造人間の返り血を綺麗しないまま皆の前に姿を見せたのも不味かった。守る事に集中しすぎて自分の事に意識が向いていなかった。細かい事に対して適当になる癖が悪いところで発揮されてしまった。

 

それでも過ぎた事は仕方がないと割り切り、次の戦いに意識を切り替える。

 

 

「僕の勘が正しければ、そろそろ出てくるはず……」

 

 

改造人間を全て倒し切った直後、クリスは何となく察知していた。もうすぐとんでもない何かがやって来る事を。今まで倒した改造人間とは一味も二味も違う存在の襲来を。

 

鬼が出るか蛇が出るか……いつでも戦えるように身構える。直後、タイミングを見計らったかのように2枚目の帳の外から()()は姿を現した。

 

 

「随分とまぁ……デカいね」

 

 

一目見て最初に出た感想は「大きい」だった。

 

青黒い肌、目の無い顔、鋭い歯が見え隠れする大きな口に、筋骨隆々で鋼鉄の様な光沢のある肉体、その重厚感。ムキムキのボディビルダーがそのまま大きくなったような体型を持つ存在に、クリスの口角が僅かに上がる。

 

 

「この感じ……なるほど、お前も改造人間か」

 

 

目の前の怪物が改造人間であるとすぐに見抜く。

 

背丈は目測で凡そ5m前後か……何はともあれ目の前に現れたのだから、このまま容赦なく倒そうと決意を固めた。

 

 

「さてと……第二ラウンド開始ってところかな?」

 

 

静かに拳を握り締め、腰を落として身構える。

 

そうしていつでも戦える準備を整えてから、新たな改造人間の前に立つクリス。

 

 

「…………」

 

 

対峙する改造人間は何も言葉を発さない。しかし、身体から漏れ出る殺意と漲る闘志が戦意の高さを物語っている。

 

互いに準備は整った。立ちはだかるは殺意に満ち溢れた5mの巨人。片や相手は165cmの可愛らしい女子高生。だが、その強さは地球上でも五本の指に入る。

 

そんな本物の強者同士の熾烈な戦いが今────

 

 

「────ッッ!!」

 

「ハッ!!」

 

 

互いに突き出した拳が真正面からぶつかり合った。

 

瞬間、凄まじい衝撃が波となって爆音と共に周囲に伝播する。空を揺らし、地面を割り、建物の窓を粉々に打ち砕きながら。

 

 

「良いパワーだ……じゃあこれはどうかな?」

 

 

最初の拳で相手の膂力を理解したクリスは、すかさず目にも留まらぬ速さで改造人間の懐に入り、顔面を蹴り上げた。

 

 

「術式順転────『望速・鋲』」

 

「──ッ!!」

 

 

隙ができた改造人間に、今度は自身の術式を叩き込んだ。

 

人差し指と中指を立てて前に突き出し、照準を合わせて超高速で射出された不可視の針は、肉体を貫かんと容赦なく相手の胴体に飛び込む。

 

 

「ッ!?……へぇ、殆ど無傷か」

 

 

撃ち込まれた針は改造人間の身体を貫くに至らなかった。むしろ大して効いておらず、殆ど無傷のまま耐えられた。

 

これにはクリスも目を見開いた。だが、その表情には欠片も恐怖心や絶望はない。むしろどこか嬉しそうに見える。

 

 

「良いね、面白くなってきた。家族の皆には心配かけちゃうけど……やっぱ戦いはこうでなくっちゃ」

 

 

『鋲』は硬さが売りの特級呪霊ですら、数発撃ち込まれただけで行動不能になる程の威力。いくら改造人間の肉体が頑丈だったとしても、硬さだけで殆ど無傷になるとは考えにくい。

 

となると、何か絡繰りがある可能性が高い……そこまで推測したクリスは、久々に出会った強敵を前にしてニヤリと不敵に笑う。

 

本来ならこんなところで油を売って良い状況ではない。家族や友人が閉じ込められている以上、急いで帳を破り、こんな事を仕出かした犯人達を征伐しなければならない。そんな事は分かっている。

 

だがそれでも、今この戦いが楽しいと感じてしまう彼女は、どうしようもなく根っからの呪術師だった。

 

 

 




・超強化改造人間

羂索と真人が1ヵ月かけて共同で開発した、最強の改造人間。5万人の非術師の命と特級呪霊10体、万が持ち帰ったクリスの肉体の一部を使用する事で誕生した、正真正銘の化け物。

製作者の指示に従うようにインプットされており、許可が下りれば他の者が使役する事も可能。特定の人物のみに攻撃させるなど、ある程度複雑な命令も遂行できる。見た目はヒロアカのハイエンド脳無。

戦闘力:宿儺の指14.5本分(原作基準)
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