呪術の子   作:メインクーン

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前回:
メカ丸「五条悟救出と星野クリスに状況報告、どちらもやってくれ」

冥冥「分かった、私は代官山駅に戻っておくね」

漏瑚「不味いぞ夏油、五条悟をここから動かせない。これでは星野クリスの封印が!」

羂索「うーん……どうしよっか?」

虎杖「五条先生を助けに行くぞ!」

伏黒「じゃあ俺はクリス先輩に現状報告しに行くか」

順平「僕は五条先生を助けに行くよ」

日下部「俺は伏黒と一緒に行動するぞ」

クリス「この改造人間しぶとすぎ……めんどくさ」



渋谷事変⑥ vs超強化改造人間

────午後20時43分、国立代々木競技場第一体育館屋上。

 

代々木公園野外ステージに閉じ込められた人々を守るべく始まった超強化改造人間との戦い。

 

かれこれ戦闘開始から20分が経過していた。

 

 

「──ッッ!!」

 

「術式順転──『望速・鋲』」

 

「──ッッ!?」

 

 

言葉を発さず、獣のような雄叫びを上げて腕を振り回す改造人間。その攻撃を高速移動で回避したクリスは、頭上から幾千もの不可視の針を飛ばす。

 

だが、降り注がれる針の雨は敵を貫くに至らず。深い傷は付いたものの、たちまちその穴は塞がれてしまった。

 

 

「よっと!」

 

 

間髪入れず、今度は改造人間の脳天に拳が振り下ろされる。

 

それは正に至高の一撃。

 

緻密な呪力操作と黒閃による威力の増加を併せた攻撃は強力無比。

 

ビルに撃てば忽ちビルはバラバラに崩れ落ち、地面に撃てば隕石が落下したようなクレーターが出来上がる。特級呪霊でさえ、真面に食らえば一発で昇天しかねない程の破壊力を有していた。

 

 

「もっとくれてやるよ」

 

 

そんな攻撃が、連続で。

 

一発一発が人体から出るはずのない音を立てて、改造人間の頭を、身体のあちこちを盛大に凹ませる。

 

 

「──ッッ!?──ッッ!!」

 

「うん、回復が速い!並の特級呪霊の比じゃないね。秤金次(クラスメイト)と結構良い勝負するんじゃない?」

 

 

しかし、これもあまり効かず。

 

否、正確には効いているが、すぐに回復されてしまうので少しの攻撃では意味がなかった。

 

 

「さっきから何度も頭潰してるんだけどね……一体どうなってるの?」

 

 

改造人間の異常なタフさにクリスは首を傾げる。

 

戦闘開始からかれこれ5回は頭を潰しており、今の攻撃で6回目になった……手応えはあったし、間違いなく死んでいる。だが改造人間は以前問題なく暴れ回り、ダメージが後に引き摺っている様子も見られない。

 

加えてもう1つ。

 

 

「それにこいつ……何故かは分からないけど、やっぱり僕の術式に対して耐性があるみたい。完全に無効化できる程じゃないけど、どんどんダメージが軽減されてる。感覚的には半分くらいかな?」

 

 

改造人間を倒し切れないもう1つの理由────それは術式への耐性にある。

 

元々の肉体強度に加え、何故かクリスの術式の効き目が芳しくないのである。最初は僅かに違和感を覚える程度だったが、死から復活する度に軽減できるダメージ量は大きくなっており、今では約半分カットされている。

 

それでも改造人間を殺せる程のダメージを与え続けているクリスは流石と言うべきか。だが、今の均衡がいつ崩れるか分からない中で、改造人間との戦いにこれ以上時間をかけるのはリスクを伴う。

 

 

「しょうがない、周りへの被害が大きくなるから使わなかったけど……」

 

 

クリスは改造人間から距離を取ると、徐に両手を広げて前に突き出した。

 

数秒後、掌に眩い光の球が出現し、徐々にその輝きを増して肥大化していく。

 

 

「これでも食らえ!術式順転『望速・烈』!」

 

 

肌で感じられる程の莫大なエネルギーの凝縮。それを改造人間に向けて容赦なく解き放つ。

 

 

「ハアァァァーッ!!」

 

「────ッッ!?」

 

 

放たれたエネルギーの塊は、超スピードで改造人間に直撃すると同時に凄まじい大爆発を引き起こした。

 

閃光と共に爆音が周囲一帯に轟き、爆発の衝撃と大地の揺れによって第一体育館はほぼ全て吹き飛んだ。

 

空を見上げれば、小さなきのこ雲が第一体育館の上空をすっぽりと覆い被さっている世紀末のような光景。

 

これでも爆発の威力と効果範囲にはかなり気を使って撃っている方なので、本当に恐ろしい技の1つである事が分かる。

 

 

「……さて、果たしてどうなったのやら?」

 

 

やがて徐々に煙が晴れていき、結果が見えるようになった。

 

 

「改造人間は……よし、流石のあいつも『烈』の直撃には耐え切れなくてミンチになったか」

 

 

爆発跡地に大小様々な肉塊が転がっている様子を見て、クリスの表情が柔らかくなる。

 

周囲に人がいない事は確認済みだが、それでも街中では使わないように心掛けていた技を態々使用したのだから、これで倒れてくれないと困ると思っていた。

 

だが、結果的にバラバラになった改造人間が出来上がったので、これでようやく第2ラウンドも終了した。

 

 

「さて、破壊した体育館を元に戻しておかないとね。後で怒られちゃうから丁寧に……ん?」

 

 

術式反転で倒壊した体育館を戻そうとした時、不意に視線の先で何かが動くのが見えた。

 

見間違いかと疑う程の小さな違和感。少し待って本当に何もなかったら、ただの気のせいだったと意識を切り替えて体育館を修復しようと心に決める。

 

だが、それは決して違和感などではなかった。

 

 

「──ッ!?なっ……!?」

 

 

突如として辺りに散らばった肉塊が勝手に動き、それがクリスの目の前で集まり始めた。

 

その衝撃的な光景に唖然とする中、どんどんとその塊は大きくなっていき、うねうねと伸び縮みを繰り返しながら徐々にその姿を形成していく。

 

そして……

 

 

「────ッッ!!────ッッ!!!!」

 

 

耳を劈く咆哮が夜の空に轟いた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

超強化改造人間の特徴について、作成者の羂索は雄弁に語る。

 

 

「あの改造人間は主に3つの要素で構成されている。非術師、呪霊、星野クリスの肉体、この3つだ」

 

「はぁ……」

 

 

そんな彼の説明を、戸惑った表情で聞いている裏梅。

 

いきなり話し掛けられたと思ったら急に改造人間の説明を始めたので、どう反応すれば良いのか分からなかったし、それ以上に「本当にウザいなこいつ」と思った。

 

 

「私が所持する特級呪霊の魂を10体融合させ、真人に改造された5万人の非術師の魂でそれを覆う。非術師の魂は改造人間を動かすための動力源であり、核を守る盾にもなる」

 

「……星野クリスの肉体は確か、万がこの前の高専襲撃で本人から奪ってきていたな。あれを使ったという事か?」

 

「そうだよ。今回星野クリスにぶつける改造人間には、彼女の肉体を使った方が良かったからね」

 

 

羂索の説明には引っ掛かる点があった。果たしてそれは本当に意味があるのかという単純な疑問である。

 

 

「無駄ではないのか?いくら手足を捥ぎ取ったところで、奴ならすぐに反転術式か術式反転で治すだろう。お前もそれは分かっているはずだ。

 肉体の一部が欠けてもそこが治れば、取れた部位は基本的に呪術的な価値を無くす。つまり、お前が使った奴の身体は本当にただの肉片にすぎんという事だ」

 

 

裏梅が指摘した通り、欠けた肉体の一部は呪術的にとても価値が高いのだが、欠けた部分が元通りになるとその価値を無くす。これは結構普遍的な事実であり、裏梅でなくとも知っている術師や呪詛師は多い。

 

だが、そんな彼女の指摘を羂索は待ってましたと言わんばかりに鼻で笑って一蹴した。

 

 

「それくらい私も知っているさ。でもね、そんな普遍的な事実を捻じ曲げられる存在がいる。それが星野クリスの母、星野アイの肉体……いや、正確にはアイの肉体に刻まれた術式の方かな?」

 

「確か星野アイの術式は……『嘘を本物にする』だったか?なるほど、読めてきたぞ貴様の考えが。その女の術式で星野クリスの肉体の呪術的価値を復活させ、改造人間が彼女の術式を使えるようにするんだな?」

 

「え、何言ってんの?無理に決まってるじゃんそんな事」

 

「はっ?違うのか!?」

 

 

星野アイの術式を思い出して羂索の思惑を言い当てたつもりの裏梅だったが、その推測は一瞬で否定された。

 

柄にもなく素っ頓狂な声を上げる彼女に、羂索はクスリと笑って言った。

 

 

「知性の無い改造人間に星野クリスの時限操術は扱いきれない。無下限呪術ほどではないけど、あれも使いこなすには結構センス要るからね」

 

「だったらどう使うつもりなんだ?」

 

「もっと単純さ。星野クリスの術式に対する耐性を高めるために使ったんだ。肉体に馴染ませる事で、攻撃を受けてもある程度は中和できるようにした。毒蛇が自分の毒で死なないのと同じでね」

 

「だが、それでは星野クリスに勝てないだろ」

 

「言っただろ、時間稼ぎ要員だって。より長く、よりしぶとく星野クリスの足止めが出来れば良いんだ。それがあの改造人間を作った目的だからね」

 

 

更に羂索は改造人間の性能について事細かに説明した。

 

改造人間の核は呪霊の魂であり、肉体の組成はどちらかと言えば呪霊に近くなっている。だから欠損レベルのダメージを負っても、反転術式ではなく呪力で肉体の治癒が可能である事。

 

攻撃を中和しきれず殺されたとしても、10体の特級呪霊の魂を融合して作った核なので、10回殺されない限りは頭を潰されてもバラバラにされても復活する事。

 

更に死から復活した際、星野クリスの術式への耐性がより強くなる縛りを盛り込んだ事。

 

 

「……改造人間の特徴と強さはよく理解した。で、何でいきなりその話を私にした?」

 

「私が皆と一緒に五条悟の封印をしている間、通常の改造人間1000体と1体の強化改造人間の管理を君に任せたい。星野クリスに出すタイミングとペースはこちらの状況に応じて動いてくれるとなお助かる」

 

「まったく……相変わらず図々しい奴め」

 

 

溜め息を吐きながらも、渋々承諾する裏梅であった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

改造人間はまるで何事も無かったかのようにあっさりと復活を果たした。これには流石のクリスも驚きを隠せず、ポカンと口を開けたまま硬直する。

 

 

「うっそー……マジで?あれで死なないってどうなってるの?」

 

 

驚きすぎて月並みな感想しか出てこない。

 

頭を潰しても死なないのでバラバラにしたら、それでも死なずに復活してきたので、この反応になるのも無理はなかった。

 

 

「これは……完全に消し飛ばさないと無理かもね。少なくとも、バラバラにした程度じゃ何度殺しても復活するみたいだし」

 

 

実際には7回殺したため、あと3回殺せば改造人間は自動的に死ぬ事になるが、そんな事をクリスが知る由はない。

 

 

「2年前に戦った蜂の特級呪霊を思い出すなぁ……あいつも結構しぶとくて時間掛かったっけ?こいつはそれ以上だけどさ」

 

 

確かあの時の戦いでゆらちゃんと友達になったんだよねー、と関係ない思い出に浸っているクリスに、完全復活した改造人間が再び突撃してきた。

 

クリスもそれに素早く反応し、改造人間の殴打を腕で防御する。

 

それを皮切りにして始まる至近距離での殴り合い。力と力のぶつかり合いに煽られ、体育館跡地がどんどん荒れ果てた更地へと変貌していく。

 

 

(不死身のこいつを倒すには領域展開か虚式のどちらかのみ。でも今は領域を使わない方が良いから、だったら虚式をぶつける以外にない)

 

 

先程放った『望速・烈』よりも更に威力を高めれば、改造人間でも肉片残らず消し飛ぶ。だが完全に消し飛ぶ威力となると、野外ステージで待っている家族達も巻き添えで死んでしまうので出来ない。

 

領域展開も事件を起こした犯人の中に万がいる可能性がある以上、下手にしない方が良いという結論に至った。領域を使った直後は術式が焼き切れて使用不可になるからだ。

 

いくらクリスが反転術式を用いた術式回復の時間短縮ができるといえど、その僅かな隙を突かれてしまったら大変な事になる。これで仮に万の真球を顔面にぶつけられでもしたら目も当てられない。

 

彼女がどこに潜んでいるかも分からない以上、後先考えずにリスクを伴う必殺技を使うべきではない。少なくともそのリスクは今背負うものではない。

 

結果、消去法で虚式を放つという選択になった。

 

 

「そうと決まれば早速……よっと!」

 

 

殺し方を決めたクリスは、改造人間との殴り合いを止めて距離を取る。

 

そして、両手を重ね合わせて2種類の呪力を練り始めた。

 

 

「はあぁぁぁ……っ!!」

 

 

負の感情から生まれる通常の呪力と、負の感情を掛け合わせて生まれる正の呪力。この2つを同時に術式に流し込む事で、相反する2つのエネルギーが体内で生成される。

 

凄まじいエネルギーの奔流が体外にも漏れ出し、その影響で身体の周りにもスパークが激しく迸る。

 

 

「術式順転『望速』……術式反転『還』……ん?」

 

 

だが、そんなクリスの異変を察知したのか、改造人間がいきなり大きく口を上けた。

 

その口の中で、膨大な量の呪力が凝縮されて────

 

 

「────ッッ!!!!」

 

「なにっ!?」

 

 

今までやられたお返しとばかりに、口から凝縮された呪力が解き放たれた。

 

虚式を撃とうとしたクリスに目掛けて、極太のビームが全てを焼き尽くさんと真っ直ぐ突き進む。

 

 

「ちっ……!」

 

 

クリスは咄嗟に両腕を交差させて防御の体勢を取り、高温高速のビームを真正面から全身で受けた。

 

そしてビームの勢いで吹き飛ばされないように踏み止まり、攻撃が終わるまでじっとその場で耐え続ける。

 

 

「ふう、びっくりした……やってくれたね」

 

 

数十秒経ってビームが終わると、ちらりと後ろを振り返った。

 

ビームが通過した跡には何も残っていなかった。幸い野外ステージの方向ではなかったが、明治神宮の方向へ焼け野原がどこまでも続いている。

 

草木も、道路も、建物も、何もかもが塵芥になった……帳の向こう側までは見えないが、甚大な被害は間違いないだろう。

 

しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

クリスは防御を解いて、改造人間に向かって両手を突き出した。

 

 

「お返しするよ」

 

 

順転と反転、2つの相反する時間の流れが掛け合わさり、時が止まった仮想の空間が放出される。

 

 

「虚式────『滅』」

 

「──ッ!?」

 

 

すかさず繰り出された漆黒の球体は、改造人間を丸ごと飲み込む大きさを誇る。

 

改造人間も負けじと抵抗しようと踏ん張るが……それでどうにかなるほど虚式は甘くない。

 

 

「────ッッ!?────ッッ!!!!」

 

「無駄だよ。お前がいくら僕の術式に耐性があったとしてもね」

 

 

仮想の空間は改造人間が持つ耐性を容易く貫通し、あらゆる存在を削り取って真っ直ぐ突き進む。

 

やがて改造人間の肉体を完全に飲み込んだ『滅』は尚も直進し……その背後にある帳を貫通した。

 

ぶつかった衝撃で全体にヒビが入り、クリスを閉じ込めていた2枚目の帳はガラスの如く砕け散る。

 

 

「これでやっと帳も破壊できた……苦労したよ」

 

 

自分を悩ませ続けた帳を破壊できた事にほっと胸を撫で下ろすクリス。

 

そんな彼女を他所に、帳も改造人間も完全に消し去った『滅』は更に真っ直ぐ進み続け────

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「な、何だ今の黒い物体!?」

 

「ま、まさか今のは……!」

 

 

2枚目の帳の更に外側に位置する3枚目の帳すら破壊し、帳の外にいた2人の驚く声がクリスの耳に入った。

 

 

「……へぇ、帳は2枚じゃなくて3枚だったのか。にしてもあれは……恵君に日下部先生?一体どういう組み合わせ?」

 

 

帳の真実に感心するのも程々に、そこにいる謎の組み合わせにクリスは首を傾げた。

 

他にも疑問はある。

 

 

「渋谷駅の方にもデカい帳が降りてる……一体何がどうなってるの?」

 

 

ようやく脱出可能になったものの、初めて帳の外側の状況を知って困惑を隠せないクリスであった。

 

 

 




この時点でクリスは渋谷の状況を何一つ把握していないという事実。

無事に改造人間を全て倒し、帳も破壊したが、これを受けて羂索側が黙って見ているはずもなく……。
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