呪術の子   作:メインクーン

106 / 109
前回:
クリス「バラバラにしてやった!これで倒せたでしょ!」

改造人間「────ッッ!!」

クリス「マジで?」

羂索「そう簡単にはやられないよ」

クリス「じゃあ虚式で完全に消し飛ばすか」

伏黒「今のは一体!?」

日下部「まさか……!」

クリス「どういう組み合わせ?というか、渋谷で一体何が起こってるの?」



渋谷事変⑦ 母娘喧嘩

────午後20時55分、代々木公園ケヤキ並木内。

 

 

「そっか、五条先生が……」

 

「ええ、五条先生が封印され、渋谷駅構内に大勢の人々が閉じ込められ、地上では改造人間が人々を襲い始めて、まさに地獄のような状況です」

 

「地下に行けば、五条を封印した犯人グループ……前に高専を襲った特級共がうようよいる。ヤバいどころじゃないぜ」

 

 

超強化改造人間を虚式で容易く消し飛ばしたクリスはその後、虎杖らと別れて帳を破ろうと模索していた伏黒達と合流し、彼らから今の状況を聞かされていた。

 

中でも五条悟封印の報せはやはりショックだったのか、それまで無表情だった彼女から多少の動揺が生じている事が分かる。

 

それでも皆が五条奪還に動いている事を知り、すぐに意識を次の目標へと切り替えた。

 

 

「分かった、教えてくれてありがとう。僕も五条先生の救出に動くよ。何が何でもあの人を取り返そう」

 

「お願いします。でも、その前に御家族の安否確認ですよね?」

 

「まあね。皆が無事かどうか確かめてからじゃないと渋谷(あっち)で集中できないし」

 

「安否を確認したら、帳に閉じ込められた人達の安全は俺達が守ります。なのでクリス先輩は心置きなく渋谷で暴れてください」

 

「任せて。特級呪霊も真っ青な蹂躙劇をお見せしてあげるよ」

 

 

不穏な空気を感じる会話で和みつつ、ケヤキが並ぶ広大な一本道を練り歩くこと数分。

 

クリス、伏黒、日下部の3人は代々木公園野外ステージの帳に到着した。

 

クリスのみを閉じ込める帳と術師のみを拒む帳は虚式『滅』で破壊されたが、最も内側に降ろされた非術師のみを閉じ込める帳は依然として健在なままだ。

 

破壊しようにも、この帳だけは術師を内外から拒絶していない。つまり術式による攻撃もすり抜けるので逆に破壊が難しいのである。

 

この帳の"基"が見つかったなら話は別だが、どこにあるかも分からない上に緊急性が低い事もあって、今は放置しようという方向で話が纏まっている。

 

 

「この中に僕の家族やライブに来たファンが閉じ込められてる。僕が先生を助けに行った後は頼んだよ」

 

「分かってるので何度も言わなくて大丈夫です。先輩って家族の事になると途端に慎重になりますね」

 

「伏黒、あんまそう言ってやんなよ。それだけ家族が大切って事じゃねーか。大体お前も姉の事になると途端に性格変わるだろ」

 

「…………」

 

 

伏黒の刺すような鋭い視線が日下部を襲う。図星を突かれて何も言えず、睨み付ける事が精一杯のようだった。

 

そんな2人のやり取りを横目に、クリスは再び帳の内側に踏み入れた。

 

 

「やっほー皆、ただいまー。戻ってきたけど全員無事?」

 

「「「「クリス!!」」」」

 

 

クリスの声が聞こえるや否や、人混みの中からあかねとルビーを先頭に皆がぞろぞろと駆け足でやって来た。

 

あっという間に大勢に囲まれ早々に尋ねられる。

 

 

「クリスちゃん大丈夫だった!?物凄い爆発音と揺れが来たけど!」

 

「こっちはそれで騒然としてたよ。もしかしてクリスに何かあったんじゃないかって」

 

「おいクリス、頼むから無茶な事するのは止めてくれ!アイに続いてお前まで喪うのはもう……!」

 

「良かった、無事で……あなたがとにかく無事に戻ってきてくれて良かった……!」

 

 

あかね、ルビー、アクア、ミヤコからほぼ同時に声をかけられ、クリスは返答に言葉を詰まらせた。

 

とりあえず皆が無事だと分かった以上、疑問の声も心配の声も大事だが、残念ながら今はそれに1つ1つ答えられる時間はないのだ。

 

 

「皆こそ無事で良かった。戦いの余波で巻き添え食らってたら目も当てられなかったし」

 

「それもこれもクリスちゃんが身体張って私達を守ってくれたおかげだよ。ところで、後ろの2人は……」

 

「あ、こちら伏黒恵君と日下部先生。僕は今から渋谷に行かないといけないから、皆の護衛は2人に任せる事にしたよ。何か困った事があったら2人を頼ってね」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「じゃあ頼りにしてるよ恵君、日下部先生。くれぐれも無茶はしないでね」

 

「ええ、クリス先輩こそ気を付けて」

 

「ヤバくなったらすぐに引き返すんだぞ。お前まで封印されたら今度こそ日本が終わるからな」

 

「「「「……えっ?」」」」

 

 

心配していた皆が呆気に取られている間に、伏黒と日下部を紹介してさっさと渋谷に向かおうとするクリス。

 

2人を残して再び帳を出ようと踵を返す彼女だったが、直前で背後から腕を咄嗟に掴まれた。

 

 

「……お母さん、できれば離してくれると嬉しいんだけど」

 

「駄目よ、絶対に離さないわ。もうあなたが危険を冒そうとする姿は見たくない」

 

「…………」

 

 

クリスの腕を掴んで止めたのはミヤコだった。離してほしいとお願いするクリスに首を振り、頑として離そうとしない。

 

それは我が子の身を案じる母親の顔だった。先程クリスを危険な目に遭わせてしまった負い目や、そんな事情に気付けなかった悔しさ等が入り混じり、すっかり泣き腫らした目で彼女を真っ直ぐ見つめている。

 

 

(あちゃー、やっぱ無理だったか……勢いのまま行こうとしたけど止められちゃった。よりにもよってお母さんに)

 

 

当のクリスもこれには困った。ミヤコは数少ない頭が上がらない大人の1人なので、涙目で情に訴えられると言葉に詰まってしまうのだ。

 

おまけに心配する気持ちは本物なので、無理やり振り解いて置いて行くのも気分が悪い。

 

 

「先輩、あの……」

 

「……分かってるよ恵君。でもやっぱり、もう少しだけ待っててくれないかな?」

 

「あ、はい……日下部先生、どうしましょう?」

 

「まぁ、ここはクリスのお願いを聞いてやれ。俺もあの母親の気持ちはよく分かる。お前もそうだろ?」

 

「…………」

 

 

日下部の言葉に対して伏黒は無言を貫く。

 

またもや図星を突かれたらしいが、今度は睨め付けるのではなくそっぽを向いた。中々素直な言葉を吐き出せない彼らしい反応だ。

 

 

「お母さんの心配は計り知れないけど……お願い、この手を離して。どうしても助けたい人がいるの」

 

「い、嫌よ……そのためにあなたはまた命懸けの事をするのでしょ?あかねとルビーからあなたの事情は大体聞いたわ。正直呪術って言われてもピンと来ないし現実味がない話だけど……」

 

「今は僕が動くしかない。だからお願い、このままじゃ最悪何もかも終わってしまうかもしれないの。お母さんの心配は嬉しいけど、もう拘ってる場合じゃ無くなってきたから……!」

 

「それでも私は……私は……クリスがこれ以上危ない目に遭うのは嫌なのよ!!」

 

「確かにそう言われると辛いけど……でも……!」

 

 

涙を零しながらも力強い瞳で語気を強めるミヤコの勢いに、クリスはすっかり押され気味だった。

 

家族を喪う辛さをお互いによく分かっているからこそ、決して譲れない主張のぶつかり合い。方向性が違うだけで、どちらも家族のためを思って吐き出された言動の数々。

 

周囲の人達は何も言えず、ただ黙って2人の言い争いを見ているしかなかった。

 

 

(今こうしている間に五条先生が連れ去られているかもしれない……ああでも、お母さんを悲しませるのも辛いし……)

 

 

五条もミヤコも、彼女にとってはどちらも大切で掛け替えのない存在であるが故に、助けたい思いと悲しませたくない思いがぶつかってせめぎ合っている。

 

それでも今だけは、とても辛いが心を鬼にして言うしかない。

 

 

「お母さん、説教なら後でいくらでも聞くから今だけはお願い!」

 

「後じゃ駄目よ!今!ここで!私はあなたを危険から遠ざける必要があるの!たとえ嫌われてでもこの手は離さない!」

 

「早く五条先生を助けないと、この先もっと大変な事になる!お母さん達も決して無関係じゃない!それに大勢の人達が今も犠牲になっているんだ!お母さんはこれ以上犠牲者が出て本当に良いと思う!?」

 

「その犠牲者の中にあなたまで加わるかもしれないから問題なのよ!」

 

 

母親の制止を振り切って五条の救出に出向こうとするクリスと、危険な目に遭わせたくないので必死に止めるミヤコの言い争いは更にヒートアップしていく。

 

アクア達も伏黒達も、もはやどうやって収めれば良いのか分からなくなってきた。

 

しかし、この母娘喧嘩は突如として終了させられる事になる。

 

 

「僕なら大丈夫だから!さっきも無事に戻ってきたの見たでしょ!?」

 

「何度言っても駄目ったら────」

 

「あ……あの、ちょっと待って!」

 

 

言い争う2人の間に、あかねがいきなり割り込んで手で制す。一体何だと首を傾げる周りに、彼女は戸惑いながらも皆に尋ねた。

 

 

「えっと、もし勘違いだったら申し訳ないんだけど……何か、地面揺れてない?」

 

「「「「えっ……?」」」」

 

 

その疑問に全員が静かになり、足元に意識を集中させる。そして違和感に気付く。

 

 

「ほんとだ、心なしか揺れてる気が……」

 

「2人の言い争いに意識が行って気付かなかった……」

 

「じ、地震?こんな時に?」

 

「あれ?これ段々揺れが大きくなってない?」

 

 

あかねの言う通り、地面が揺れている事に気付いて戸惑う面々。しかもその揺れは時間が経つに連れて徐々に大きくなっている。

 

 

「日下部先生、これは一体……まさか……」

 

「なーんか分からんが、猛烈に嫌な予感がするぜ」

 

 

伏黒と日下部は地面の揺れに対して不測の事態を感じ取り、冷や汗を流す。何故だか知らんがこれは非情に不味い……そんな予感がしたのだ。

 

それはクリスも同じである。

 

 

「……ごめんお母さん!」

 

「あっ、クリス!待ちなさい!もう行っちゃ駄目!お願い、止まって……!」

 

 

ずっと腕を掴んで離さなかったミヤコの拘束を振り解き、制止の声も聞かずに駆け出した。

 

そして、急いで帳の外に出た彼女は目撃した。

 

 

「なっ……!?ま、街が……!!」

 

 

最初に目に飛び込んできたのは、次から次へと崩壊していくビルの光景。

 

遠目からでもはっきり分かるほど、大量の土煙を上げながら下から上へ急速に壁や窓がひび割れ、一瞬で粉々に崩れ散る。

 

ビルだけではなく、道路や所々に植えられた草木まであっという間にひび割れ、大きな衝撃音を立てながら原形を失っていく。

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁーっ!!」

 

「誰か……誰か助けてくれえぇぇぇぇーっ!!」

 

「落ちるうぅぅぅぅーっ!!」

 

「パパーッ!!ママーッ!!」

 

「死にたくない!死にたくないよ!死にたく……!」

 

 

建物の中へ避難していたであろう人々の悲鳴や絶叫も、ガラガラと崩れる瓦礫の音に交じって夜の空に響き渡り、やがて静かになっていった。

 

そんな崩壊の波は心なしか……否、確実にどんどん外側へ広がり続けている。

 

 

「一体何が……何が起こってるの!?」

 

 

地獄絵図を目にして動揺するクリスの声も、崩れ行く瓦礫の音に交じって搔き消されていく。

 

一体何故このような事になっているのか……その原因を考える余裕もなく、クリスはただ呆然と見ている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────午後21時04分、渋谷区植島美術館前を中心に、半径約500mの範囲で渋谷が突如として原因不明の崩壊を遂げる。

 

────被害は地上のみに限定され、地下に避難した人々の人的被害は極めて少ない。

 

────なお、範囲内の地上は全て更地と化し、後の調査でこの崩壊による死者の総数は約30000人と推定されている。

 

 

 




東堂の不義遊戯、展延でも中和不可能な技だった……どうしよう?

今までの交流会で書いた内容全部書き直す必要があるか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。