呪術の子   作:メインクーン

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前回:
伏黒「申し上げます!五条先生が封印されました!」

クリス「早速五条先生を救助しに出かける!後に続け!」

ミヤコ「駄目よ!あなたをこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない!」

クリス「離してよお母さん!助けに行けない!」

あかね「何か地面揺れてない?」

日下部「猛烈に嫌な予感がする」

クリス「街が崩れていく……一体何があったの!?」


※あけましておめでとうございます



渋谷事変⑧ 崩壊と還元

────クリスとミヤコの口喧嘩が始まる前まで、時は少々遡る。

 

────20時57分、渋谷駅構内。

 

渋谷駅地下の改札を通ってすぐの場所で、虎杖と脹相の激戦が繰り広げられていた。

 

 

「チッ、焦ったな……圧縮が足りなかった」

 

(クソッ!こいつ……強い!!)

 

 

八十八橋で殺された2人の弟の仇を取るため、全力で殺そうと奮闘する脹相の猛攻。彼の勢いに圧され、虎杖は思うように戦えず苦戦を強いられていた。

 

伏黒達と別れた後、セルリアンタワー屋上にいた粟坂とかいう呪詛師を順平と協力して倒し、帳を破壊した所までは良かった。

 

順平の式神が持つ猛毒で相手に術式を使わせるどころか、血反吐を吐かせて立つ事すら難しくなるほど弱体化させたので、後は虎杖が軽く殴り飛ばすだけで戦いは終わった。瞬殺だった。

 

だが、問題はその後だった。順平に後処理を任せて単独で渋谷駅構内に降りた瞬間、そこで待ち構えていた脹相にいきなり攻撃された。先程までの呪詛師とは明らかにレベルの違う強さに、虎杖が苦戦するのは至極当然の結果だった。

 

たった今も、赤血操術の奥義『百斂・穿血』を至近距離で撃たれ、腹に大きなダメージを負いながら距離を取らされた。近距離からの接近戦(インファイト)を得意とする虎杖にとって、相手と距離がある状況は好ましくない。

 

何とか近付いて殴り合いに持ち込もうと試みるも……フェイントや初見の技など、あの手この手で隙を作ってすかさず畳み掛ける脹相の戦いにペースを掴まれ、傷だけが徐々に増える一方である。

 

 

(不味いな、このままじゃ……)

 

 

この状況の打開策を必死に考える虎杖。このまま同じ事の繰り返しでは、いつか自分の身体が限界を迎えて殺されるのが目に見えていた。

 

大した有効打も与えられず、時間と体力を浪費してジリ貧で負ける事だけは避けたいところ。しかし良い案が中々思いつかない。赤血操術の事を殆ど知らないので、1人の力だけで形勢逆転が難しいのは無理もなかった。

 

だが、そんな現状に突如として変化が訪れる。

 

 

「オイ!今どういう状況ダ!?」

 

「この声は……メカ丸!お前まだ無事だったのか!」

 

「省エネだ!俺にはまだやる事があル!」

 

 

ピンチになったタイミングで、突如メカ丸の声が耳に響く。

 

虎杖に渋谷の状況を伝えて以降、電源が落ちた家電の如く静かになった彼が再び声を張り上げたのだ。

 

 

「脹相……赤血操術か!加茂が使う術式と同じダ!」

 

「知ってるのか!?じゃあ……!」

 

「言っておくが奴の弱点は知らんゾ」

 

「えー……」

 

 

術式を知ってそうな素振りだったので期待した虎杖だったが、勝ちに繋がる有益な情報はない事を即座に告げられて落胆する。

 

 

「あの術式は加茂家相伝の1つとして重宝されていル。近・中・遠、全てに対応できるバランスの良さがあるからダ。そして脹相は呪霊の体質を持っているから呪力を血液に変換できル。失血死はないと思エ」

 

「小細工が通じる相手じゃないってわけね。有益な情報どーも」

 

 

脹相の強さの理由を聞いて虎杖の声のトーンが益々下がった。ここまでシンプルに強くて隙が無い相手は初めてなので、どうしても弱点探しに必死になるのも無理はなかった。

 

こうしてメカ丸と話している間にも、脹相は血液を圧縮して超高速で射出している。ウォータージェットのように壁や床を貫通して別のフロアの物まで切り裂く威力に、虎杖は焦りの表情を見せた。

 

 

「おわっ!?あ……あっぶねー!危うく真っ二つになるとこだった!」

 

「気を付けろ、一瞬の油断が命取りだゾ!」

 

「油断してるわけじゃねーんだけどな……」

 

 

攻撃を避けている最中、穿血が脇腹をカスってびっくりした虎杖は咄嗟に曲がり角の奥へ身を隠した。

 

危うく死にかけた緊迫感にバクバクと鼓動が激しく高鳴る中、状況を把握したメカ丸が打開案を虎杖に提示する。

 

 

「虎杖、俺にアイデアがある。今すぐ近くのトイレに逃げ込メ!失敗したら潔く死んでもらうが、成功すればこの状況から逆転できるかもしれン!」

 

「マジで?成功すれば本当に逆転できんのか!?」

 

「保証はできない。奴がこちらの想定よりずっと強かったらどうしようもないしナ。だが今よりは多少マシになるはずダ」

 

「分かった!」

 

 

虎杖はメカ丸の指示を受けて通路に飛び出し、一番近くのトイレに向かって駆け出した。

 

 

「馬鹿が!逃がさん!『穿血』ッ!!」

 

「──ッ!!」

 

 

穿血が虎杖の心臓を目掛けて高速で発射されるが、ギリギリで屈んで躱して突き進む。それでも脹相は諦めず、虎杖の肉体を両断しようと血のレーザーを射出し続ける。

 

 

「あと少し……!」

 

「良いか、トイレに入ったらすぐに室内を水浸しに……!」

 

 

トイレまであと数m、もう少しでメカ丸の作戦を実行に移せる。ここでやられるわけにはいかない。そんな想いで残りの距離を一気に駆け抜けようとする虎杖。脹相の猛攻にも一切怯む様子はない。

 

そして、遂にトイレに入るドアの目の前まで辿り着き……

 

 

 

 

 

「やっぱりここにいたのね、宿儺の器」

 

「「「────ッッ!?」」」

 

 

 

 

 

突如、3人の耳に誰かの声が入り込んだ。それもすぐ近くからだった。

 

一体誰だと驚愕して周囲をぐるりと見回すと、脹相と虎杖の間に女性が1人立っていた。一瞬誰だと思ったが、虎杖はすぐに思い出す。

 

 

「なっ、お前は確か……万!?」

 

「あら、私の名前を覚えてくれてたの?できれば宿儺に呼んでほしかったけど……まぁ良いか」

 

 

以前、クリスが領域展開を教えるために漏瑚との戦いに虎杖を駆り出した際、突如乱入してきたあの時の呪詛師がそこにいた。

 

あの時は宿儺が表に出て対応したため、彼女の詳しい素性などはよく分かっていない。だが、自分では絶対に勝てないと思った漏瑚よりも更に強い存在である事は直感で悟った。

 

一体何故そんな奴がここへ?あまりに突然の事態に呆然と立ち尽くしていると、メカ丸が焦った声色で虎杖に呼び掛けた。

 

 

「おい虎杖、この場は一時撤退するゾ!」

 

「えっ、でも五条先生が……!?」

 

「そんな事を言ってる場合じゃなイ!(あれ)は不味い、脹相なんかとは比較にならん本物の化け物ダ!お前も分かっているはずだ、今の実力ではどうひっくり返っても奴には勝てないト!」

 

「ぐっ……!」

 

 

逃亡を指示するメカ丸に一瞬難色を示したが、実力の差があり過ぎる相手に挑むのはあまりにも無謀。ただでさえ脹相相手に苦戦を強いられていたのに、更に強大な化け物まで来てしまってはどうにもならない。

 

五条をどうしても助けたかったが、ここで100%敗北する戦いに挑んで無駄に命を散らすよりはマシだと判断し、虎杖はメカ丸の指示を大人しく受け入れる事にした。そうすれば、いつかまた救出のチャンスが訪れるかもしれないから。

 

ただし、その逃亡を相手が見逃してくれるわけがない事に目を瞑ればの話だが。

 

 

「悪いけど、あなたはしばらく眠ってて頂戴」

 

「なっ、いつの間に……!」

 

 

万は瞬きにも満たない一瞬の内に回り込み、逃げようとした虎杖の目の前に仁王立ちで立ち塞がった。

 

 

「ふんっ!!」

 

「ガハッ……ァ……!?」

 

 

そして驚愕して怯んだ虎杖の腹にすかさず拳を捻じ込んだ。

 

万にとっては何でもない、本気とは程遠い軽い一撃。だが、それを受けた虎杖の腹からはとても人間の身体から出たとは思えないほど重く低い音が響き、その衝撃が駅構内を震わせた。

 

虎杖はあまりに大きなダメージを受け、白目を剥いてその場に倒れ込む。

 

 

「ゆ、悠仁ぃーっ!!」

 

「脹相、あなたもそこで眠っててくれる?宿儺の器を殺すという事は中にいる宿儺まで殺す事。そんなの私が許すわけないでしょ……フッ!」

 

「うぐっ……!?」

 

「それと、宿儺の器に付いているあんたも邪魔よ。大人しく引っ込んでなさい」

 

「クソッ……」

 

 

ついでに傍にいた脹相を殴って気絶させ、虎杖の耳に付いていたメカ丸も握り潰して破壊した。

 

 

「嫌な予感がしたから寄り道してみたら……危ない危ない、来て良かったわ」

 

 

直感を信じて立ち寄った場所で虎杖が殺されそうになっていたので、間に割って入って良かったと万は安堵する。虎杖も脹相もメカ丸も死のうが生きようがどうでも良いが、宿儺が道連れで死ぬ事だけは容認できなかった。

 

 

「じゃあ行きましょうか。とりあえず宿儺の器はどこかに移動させるとして……その後はクリス、今度こそあなたを殺しに行くわ。覚悟してなさい」

 

 

後は虎杖を安全な場所に隠していれば大丈夫と判断し、すぐに彼を担いでその場から退散する。

 

一方で、その場に残された脹相は薄れゆく意識の中で困惑していた。

 

 

(何故……俺は先程、あいつの名を……)

 

 

虎杖が万の攻撃で重傷を負って地に倒れ伏した時、脹相は思いきり虎杖の下の名を叫んでしまった。

 

無意識だった。相手は2人の弟を殺した張本人で、絶対に自分の手で殺したいほど憎んでいるはずなのに……叫んだ理由は分からない。

 

そして今も、脹相は連れ去られた虎杖の安否ばかりを気にしていた。その理由も分からない。

 

 

(虎杖悠仁……お前は一体……何……者……)

 

 

次から次へと分からない事ばかりの連続で困惑が収まらない中、彼の意識はゆっくりと夢の世界へ沈んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

────21時01分、渋谷区植島美術館前。

 

 

気を失った虎杖を安全と判断した場所へ寝かせた万は、渋谷駅を飛び出て街中に降り立った。

 

 

「さてと……この辺りで良いかしら」

 

 

道路の真ん中で街中をぐるりと見渡し、クリスがいる代々木公園の方向をじっと見つめる。

 

 

「ここから約500m先にクリスが……どうやらあの改造人間を倒したうえに帳まで破ったようね。丁度良いわ、今度は私が相手よ」

 

 

代々木公園に降ろされた術師を拒む帳とクリスのみを閉じ込める帳はすっかり消滅し、クリスによって破壊された代々木競技場第一体育館の跡地から濛々と煙が立ち込めている様子が伺える。

 

 

「羂索、あなたはずっと封印に拘っていたけど、私はあいつを殺すつもりで行くわ」

 

 

2年前に高千穂で戦った時は完膚なきまでにクリスに敗北した事で、羂索の封印計画に賛同して獄門彊の複製に協力した。

 

だがそれと同時に、負けた悔しさをバネに基礎的な修行から始め、羂索から色々と教わりながら鍛え直した結果、以前とは比較にならない強さを身に付ける事に成功した。

 

だからこそ、やっぱりもう1度戦いたい。もう1度戦って今度こそクリスに勝ちたい。そう思った。

 

 

「……ふふっ、あいつとの再戦には広い戦場が相応しいわね」

 

 

そう言って万は視線を下に傾けると、不敵な笑みを浮かべながらその場に屈んで地面に手を付けた。

 

そして、呪詞を唱えた。

 

 

「術式反転────『(げん)』」

 

 

呪詞を口にした瞬間、万の掌を中心に地面がひび割れ、アスファルトが一瞬で粉々になって塵と化した。

 

更にそれだけでは止まらず、ひび割れは急速に広まり続け、道路のみならず周囲の電柱や建物まで巻き込んで粉々にしていく。まるでシュレッダーで分解されていくように、触れ合う物全てがひび割れた個所から瓦礫となり、やがて粉微塵と化す。

 

 

「待ってなさいクリス、これからあなたを殺すための最後の準備をしているとこだから」

 

 

大量の土埃を上げて崩壊していく渋谷の街並みを眺めながら、万はクリスとの再戦に向けて強い意気込みを見せる。

 

 

「私もこの2年で反転術式を習得して、術式反転も使えるようになったのよ。羂索との厳しい修行を経てね」

 

 

構築術式持ちの万が反転術式を習得した事により使用可能となった力────術式反転『元』。

 

自身の呪力を用いてゼロから物体を構築する順転と異なり、反転の『元』は物体を分解して自身の呪力に戻す力。

 

発動条件は対象に直接手で触れる事だが、それはあくまで切っ掛けとなる最初の物体のみ。1度発動すれば術式を切らない限り、生物を除いて、分解の波は連なる物全てに広まり続ける。

 

そして、たとえ術式対象外の生物であったとしても……

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁーっ!!」

 

「誰か……誰か助けてくれえぇぇぇぇーっ!!」

 

「落ちるうぅぅぅぅーっ!!」

 

「パパーッ!!ママーッ!!」

 

「死にたくない!死にたくないよ!死にたく……!」

 

 

建物の倒壊に巻き込まれて瓦礫に圧し潰されたり落下死したりで、物言わぬ肉塊となってしまえばもはや生物ではない。非術師の遺体も術式対象として骨すら残らず粉々に分解され、万の呪力として万本人に供給される。

 

ちなみに、呪力の変換効率はかなり良い。構築術式の順転で激しい呪力消費を要求される反動からか、術式反転で還元される呪力量は術式反転の発動・維持で消費する呪力量の倍に近い。

 

つまり、発動時間が長ければ長いほど、分解する物体が多ければ多いほど、より多くの呪力を自身の身体に吸収して蓄積する事ができるのだ。

 

今回はクリスとの再戦なので、蓄積できるギリギリの量まで物体を呪力に変換し続ける。

 

それから数分後────

 

 

「……よしっ!ハアァァァァーッ!!」

 

 

瓦礫が散らばる荒野と化した渋谷の中心で、限界まで呪力を吸収した万は拳を握り締めて力の限り叫んだ。

 

瞬間、全身から莫大な量の呪力が立ち昇り、凄まじい圧と衝撃波で周囲の瓦礫が消し飛んでいく。

 

 

「待たせたわね星野クリス、今度こそあなたを殺してみせる!もう2年前のような無様な負けは晒さない!覚悟してなさい!」

 

 

覚醒状態となった万は早速ジェットエンジンと翼を背中に構築し、あっという間に上空へ飛び上がる。

 

そしてクリスのいる代々木公園まで超高速で飛んで行った。今度こそ彼女を自らの手で始末するために。

 

 

 




・万の新技:術式反転『元』

羂索との修行で万が習得した新技。発動条件は直接手で触れる事だが、分解する際に発生するひび割れは触れ合う物全てに伝播する。なお、分解の波の伝播は術式を拡張した結果。

生物以外の全ての物を分解し、自身の呪力に変換して蓄積する。変換効率はかなり良い。蓄積量には限度があるが、それでも莫大な量の呪力を蓄える事が可能であり、この時に覚醒状態となる。

なお、覚醒後の最大呪力総量は完全体宿儺の倍あるので呪力切れの心配は無い。

元ネタはヒロアカの死柄木の個性。


・本作の万の戦闘力

通常状態:(原作)宿儺の指16本分

覚醒状態:(原作)宿儺の指21.6本分
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