呪術の子 作:メインクーン
脹相「虎杖悠仁、お前を殺す!」
虎杖「ヤバいなこれ……」
メカ丸「手を貸すぞ虎杖!」
万「悪いけど全員寝てて」
他一同「ぐはっ……!?」
万「待ってなさいクリス、今度こそお前を殺してやるわ!」
────21時07分、代々木公園野外ステージ外。
一般人を閉じ込める帳の前で、クリスは目の前に広がる惨状をただじっと静かに眺めていた。
「まさかこんな事になるなんて……かなり面倒臭い事になったね」
ぼそりと呟いたその愚痴は、深い溜め息と共に渋谷の夜に消えていった。
────渋谷の街並みはすっかり変わり果ててしまった。もう以前の活気に溢れた大都会の景色は残っていない。
アスファルトの道路は砂や瓦礫が散らばる荒野へと変わり、数百mあるビル群は倒壊してそこら中に横たわっている。
生存者はいない。少なくとも崩壊した範囲内で感じられる人の気配はなく、恐らく建物の倒壊に巻き込まれて全員死んでしまったと思われる。
これを惨状と言わずして何と言うか。そんな地獄のような渋谷に作り変えたのは、一体どこの誰なのか……クリスは直感で分かっていた。
「来たか……」
上空を見上げるクリス。その視線の先には、ジェットエンジンと鋼鉄の翼を背中に携えて高速で飛んでくる存在……万がいた。
やがて万はクリスの姿をその瞳に捉えると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて急降下。彼女の前に静かに降り立った。
「久しぶりね、星野クリス……2カ月ぶりかしら?」
「そっちこそ久しぶりだね、万。また性懲りもなく僕に喧嘩を売りに来たのかな?」
「ええ、その通りよ。性懲りもなく喧嘩を売りに来たわ。今日こそ生意気なあなたに勝つためにね」
「へぇ……なかなか強気な発言だね」
交流戦以降2カ月ぶりとなる4度目の邂逅。目と目が合った瞬間に始まった両者の煽り合いは、術師同士の挨拶としてはまだ優しい方である。それでも相手に投げ付ける言葉のナイフはどれも容赦が無かった。
そんな挨拶も程々にして、万が早速本題を持ちかける。
「早速だけど、今から私と戦いなさい、クリス」
「断る……と言ったら?」
正直言って、クリスは彼女との戦いに消極的だった。
力関係どうこうの話ではなく、単純に構っている時間がないのだ。こうしてのんびりしている間にも、獄門彊に封印されている五条は身動きが取れず、良い様に弄ばれている。伏黒から話を聞いて事態の深刻さを理解した今、一刻も早く助けに行きたいばかりである。
だが、そんな彼女の甘えを目の前の呪詛師が許すはずもない。
「フフッ……」
(何だ……何をするつもりだ?)
戦いに乗り気ではないクリスの発言を聞いた万は、相変わらず不気味な笑い声をくつくつと溢しながら、徐に右掌を真横の方向へ突き出した。
その謎の行動にクリスが警戒してじっと見つめていると、突き出した万の掌に突如光り輝く球体が出現した。
「────ッ!?」
掌よりも少し大きめのそれには、人目見ただけで分かるほど莫大なエネルギーが凝縮されており、今にもはち切れそうな勢いがある。
それを見たクリスが驚愕に目を見開く中、紅く輝くエネルギーの弾が勢いよく掌から発射され、高速で渋谷の街中へ飛び込んで行った。
「な、何を……っ!?」
驚いて思わず声を上げたのも束の間、エネルギー弾が飛んで行った先の方向から、今度はビルを優に超える巨大な火柱が立ち昇った。
数秒後、耳を劈く爆発音と衝撃波が轟き、溢れんばかりの眩い光が渋谷の夜を明るく照らす。あまりの爆発の大きさと強烈な爆風によって、広範囲に渡って建物や草木が吹き飛ばされ、瓦礫の雨まで降った。
(何て威力……!今の攻撃、僕の技の『烈』に似ている。けどこれまでの戦いで一度も見た事がない……となると新技か!)
初見の大規模攻撃に大きく動揺するクリス。
万の術式反転の範囲外でまだ多くの生存者がいたその地域は、彼女が放ったエネルギー弾による大爆発でたった今消滅し、灰の街へと成り果ててしまった。死者数も数千人は下らないだろう。
後に残ったのは空高く舞い昇る巨大なきのこ雲と、更地と化した大地のみだった。
「もし断ったら……こうなるわ」
「クソったれ……!」
万の吐いた言葉に、クリスは苦悶の表情でギリリと歯を食いしばった。自分の目の前で更に大勢の命が虐殺されてしまったので、その反応になるのも無理はなかった。
「これで分かったでしょ、あなたには今すぐ戦うしかないって。だから早くしなさい、これ以上死体の山を増やされたくなかったらね……」
「────ッ!!」
その言葉を聞いてクリスは黙り込んだ。険しい顔で、目の前の相手に突き刺すような鋭い視線を浴びせながら。
それを横目に、万はポケットから小型の通信機を取り出すとスイッチを入れた。
「裏梅、今すぐ代々木公園に降ろした帳を解きなさい。あなたも私達のやり取りをどこかで見ているのでしょう?」
『はっ、正気か?あの中にいる奴らは星野クリスの行動を制限するための枷だぞ。それが無くなったらもう何も彼女を縛る者はいなくなるだろうが』
「話は最後まで聞いて、別に解放しろとまでは言ってないわ。帳の術式効果はそのままで良いから、視覚効果だけ解除してって言いたいだけ。ここの帳の"基"はあなたが持ってるからできるでしょ?』
『一応聞くが……理由は?』
「クリスの最期を彼女の家族や友人達にも見せてあげようと思って。それと恐怖に怯える人質共の顔を見れば、あいつもようやく戦う気になってくれるかなって」
『……まぁ良いだろう。それくらいなら帳の機能を一部解いても問題ない、少し待ってろ』
通話を切って通信機をポケットに仕舞う。
その数秒後、代々木公園野外ステージを覆っていた帳の頂点から黒が抜け始め、徐々に中で閉じ込められている人達の様子が見えるようになってきた。裏梅が視覚効果を有する帳の"基"を破壊したのだ。
帳の内側から声が聞こえる。
「えっ、帳がどんどん無くなってる……!?」
「もしかしたらクリスが何とかしてくれたのかも!」
「という事は、私達ようやく脱出できるんだね!やった、良かった……生きて帰れるんだ!」
「ほ、本当にそうなのかな……さっきも物凄い揺れと爆発音がしたけど……」
「猛烈に嫌な予感がする……」
帳の視覚効果が無くなって、ようやく脱出できると喜ぶ声と状況を読んで疑う声の半々に分かれているが、どちらにせよ一気に騒がしくなった。
だが、その騒ぎもほんの一瞬だけだった。
「痛っ!?ちょっと、全然通れないじゃない!早く脱出したい……の……に……」
「えっ……はっ……えっ……?」
「な、何なの……これ……?」
「……ねぇ、ここってどこだっけ?私達、渋谷にいたはずだよね?」
「嘘だろ……おい……」
「日下部先生、これは……」
「マジかよ……渋谷が丸ごと……!」
黒に染まった帳が完全に無色透明となった瞬間、彼らの目に飛び込んできたのは崩壊して荒野と化した渋谷の光景。
聳え立っていたビル群はボロボロになって根元から崩れ落ち、整備された道路は本来の地面の素肌を広範囲に晒していた。更に頭を潰された遺体やバラバラになって血と臓物が溢れ出た遺体など、あちこちに凄惨な最期を迎えた肉塊まで転がっている。
横を向けば未だに巨大なきのこ雲が天高く昇っており、激しく燃え盛る炎はその勢いが止まらず、更に広がって逃げ惑う人々の悲鳴をどんどん大きくさせている。
もはや以前の渋谷と比べて見る影もなく、東京の中でも人がとびきり多く集まる場所は完全に瓦礫と灰が積もる死の街と化していた。
「……うっ、ううっ……おえぇぇぇ……!」
「MEMちょ!?大丈夫!大丈夫だからね!」
「うぅ……」
「ミヤコさん!しっかりして!」
あまりにもショッキングな光景に、とうとう精神の限界を超えたMEMちょは蹲って吐き出し、ミヤコは頭を抱えるようにふらっと倒れ伏した。
いつもポーカーフェイスのアクアもこれには大きな衝撃を受け、変わり果てた渋谷の街並みをただ呆然と見つめており、言葉を失うほど酷く動揺している事が分かる。他の皆やファン達も似たり寄ったりな反応である。
伏黒と日下部は呪術師故にどうにか冷静さを保っているが、それでも渋谷の惨状を目にしてショックの色を隠す事はできなかった。
「チッ……」
動揺して怯える皆の反応を見たクリスが万に対して舌打ちするが、深呼吸を繰り返し行ってどうにか感情をコントロールし、落ち着きと冷静さを取り戻す。
そして改めて彼女に向き直ると静かな声で尋ねた。
「……そこまでして、僕と戦いたいのか?」
「そういう事よ」
「…………」
万の返答を聞いたクリスはしばし黙り込んだ。少し俯き加減でじっと佇む様子は、何か考え事をしているように見えた。
「……恵君、日下部先生」
「何ですか?」
「どうした急に?」
しばらく黙ったクリスは少しだけ後ろを振り返り、背後で皆を守っている伏黒と日下部に話しかけた。
「恵君はこのまま代々木公園で待機。式神を使って出来るだけ多くの人を護るように」
「はい、分かりました」
「日下部先生は渋谷駅に戻って五条先生の救出チームを援護してください。かなりハードですけど頑張ってくれたら嬉しいです」
「……しゃーないか、状況が状況だ。だが、ヤバくなったら俺はすぐ逃げるからな」
「ええ、お願いします」
クリスの指示の下、日下部は代々木公園の帳を出て渋谷駅の方向へ走り去り、伏黒は兎の式神である『脱兎』を召喚。顕現した大勢の白い兎が一種の防壁となるように皆を取り囲み、自分の隣には玉犬『渾』を置く。
そして、軽く頷いて護る準備ができた合図をクリスに送った。
「ありがとう恵君……皆をよろしく頼むよ」
緊張のあまり不安そうな顔を見せる伏黒に向けて、クリスは軽く片手を上げて微笑み、感謝の言葉を口にする。
だが、振り返って再び万と向かい合った時には笑みが消え、敵を睨む鋭い目付きに変わった。
「……待たせたね」
「待っていたわ、星野クリス。私はこの
ずいっと身を乗り出し、獰猛で好戦的な笑みを浮かべる万。余程クリスとの再戦を楽しみにしていた事が分かる程の熱意を放っている。
その昂る感情を冷静に受け止め、クリスは淡々と言葉を返す。
「お前との戦いに時間を掛け過ぎて、五条先生の救出に遅れたくはない……最高の力で早く終わらせてもらうよ」
「楽しみだわ……今のあなたの強さを見せてもらおうかしら」
売り言葉に買い言葉。
お互いに一歩も譲らない強気な姿勢に、2人のやり取りを見ていた多くの人々は緊迫した空気に圧されて息を呑んだ。
「じゃあ遠慮なく……ハアァァァーッ!!」
皆の注目が2人に集中する中、クリスはぐっと拳を握り締めて力の限り雄叫びを上げた。
瞬間、全身から迸る呪力の圧が広がり、どこからともなく発生した突風が会場を襲った。あまりの圧力に、周辺一帯の空気が一段と重くなったような錯覚を覚える程だった。
これには万もいたく感心し、その実力を素直に認める。
「……流石ね。2年前の
「────ッ!!」
だが、それに負けじと万も鍛え上げた力を解放する。
クリスと同じように莫大なエネルギーが圧力となって飛び出し、その圧がクリスのものと真っ向からぶつかり合う。
これを見たクリスは一瞬目を見開き、そして万という脅威に対する認識を今一度改めた。
「なるほど……どうやら早く終わりそうにはないね」
「フフフ……そろそろ行くわよ!殺してやる……殺してやるわ星野クリス!!」
そう言って万が一歩踏み出しぐっと拳を握り締め、クリスも静かに腰を落として身構える。
数秒の沈黙の末────
「はぁあああああああーっ!!」
「だぁあああああああーっ!!」
同時に飛び出し、突き出された互いの拳が真正面からぶつかり合う。瞬間、雷鳴の如き凄まじい衝撃と轟音が崩壊した渋谷に響き渡る。
天地を揺るがす壮絶な戦いが今────幕を開けた。
万の新技の詳細はまた今度。技のイメージは七つのボール。
・現在のクリスの戦闘力
高千穂戦(2年前):(原作)宿儺の指17.4本分
渋谷事変(現在):(原作)宿儺の指22.5本分