呪術の子   作:メインクーン

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自宅に帰ってアクアと口論しているところを新生B小町メンバーに見られたクリス。

そんなクリスに対し、ルビーはアイドル勧誘をまだ諦めていないが果たして……。




アイドル勧誘

ルビー達が事務所に戻ってしばらく経ち、ようやくクリスとアクアの口論が一段落着いた後。

 

 

「初めまして、新生B小町のメンバー諸君! 僕が星野家の最強美少女、星野栗栖多留だよー! 皆にはクリスって呼ばれてるから、2人も気軽にそう呼んでね! よろしく!

 にしても、今日は姉さんと一緒にトレーニング頑張ってたんだってね? お疲れサマンサーッ!!

 

「……という訳で、この子が末っ子のクリス。見ての通り変人だよ」

 

「イエェェェーイ! 拍手ぅー!」

 

「「…………」」

 

 

普段通りのハイテンションのまま、対面した有馬とMEMちょに自己紹介するクリス。

 

一周回って冷静になったルビーが軽く説明を加えると、クリスが更に大きな声を出して盛り上がり、1人でパチパチと手を叩く。

 

ただし、両者間のテンションの落差はあまりに酷く、室内の空気は完全に冷え切っていた。

 

肝心のツッコみ役のアクアは、先程クリスにハバネロ入りクッキーを食べさせられたため、今は甘いジュースを飲んでどうにか中和しようと試行錯誤している。

 

そんな地獄の空気の中、頭が真っ白な状態からようやく現実世界に意識が戻った有馬とMEMちょが、何とか平静を保ちながら口を開く。

 

 

「……え、ええ、久しぶりねクリス。有馬かなよ。こ、こちらこそよろしく……」

 

「……えー、初めましてクリスちゃん。MEMちょです。よ、よろしくねー……」

 

「うん、改めてよろしくね。かなちゃん、MEMちゃん! ほら、僕と握手しよ握手!」

 

 

ハイテンションなクリスに圧倒され、しどろもどろな口調になっているままだった。

 

しれっと後輩にちゃん付けで呼ばれているのだが、クリスの狂人ぶりを目の当たりした2人にそこをツッコむ余裕はない。

 

 

(ええ……何よあれ……私が知ってるクリスと全くの別人じゃないの。無口で無表情で無愛想だったあの子が今やこれって……いや、過去に何があったのよ!? ルビーが絶対驚くとは言ってたけど、こんなの想像できる訳ないじゃない……)

 

(うわー、凄い子が来たなぁ……びっくりするとは言われたけど、これは確かに度肝抜かれたね。というかクリスちゃん、当然の様に自分の事を『僕』って言ってた……天然の僕っ娘美少女JKとかマジで実在するんだ。あと、どっからどう見ても容姿がアイちゃんにそっくりな気が……)

 

 

頭の中ではずっとこのような事ばかりを考え、困惑が止まらない2人であった。

 

 

「……あ、そうそう! そう言えば私、クリスに1つ言いたい事があってね?」

 

「言いたい事? 姉さんが?」

 

 

未だに困惑する先輩2人を余所に、ルビー()が話題を変えてクリス()に話し掛ける。

 

それはルビーにとって、ずっと前から何度も提案してきた事。

 

ただならぬ雰囲気を醸し出すルビーを見て、クリスは思わず首を傾げた。

 

 

「ねぇクリス……私達と一緒にアイドルやろ! 4人でB小町を盛り上げていかない?」

 

「えー、興味ない。パスで」

 

「何でよ!? 断るの早すぎでしょ!」

 

 

ルビーの真剣なお願いはあっさりと一蹴された。

 

あまりの即断即決に思わず声が荒ぶるルビーと、その反応に「うへー」と言いながら舌を出し、嫌そうな顔を全面に押し出すクリス。

 

繰り返し言うが、星野アイと瓜二つの美少女が絶対にしてはいけない顔を(以下略)。

 

 

「ねえ、もうちょっとだけ考えてみない? クリスは歌もダンスも上手いし、容姿だって私と引けを取らないくらい可愛いんだからさ。そんなクリスがアイドルになったら絶対凄い事になると思うの!」

 

「有名になるならないの問題じゃなくて、興味無いからやらないの。それにアイドルになったらプライベートまで見知らぬ他人に態々気を遣わないといけないじゃん? じゃないと年甲斐もなくぶちギレてきてクソ面倒臭いし。

 ほらあれだよ、『何でキモオタのおっさん共に、自分の事であれこれ指図されなきゃいけないの?』って感じ。おまけにクラスメイトと気軽に会って遊べなくなるとか、僕はそんなの御免だね」

 

「ちょ、何もそこまで言わなくても……」

 

「言うよ。当たり前じゃん」

 

 

何度も頼み込むルビーの言葉を撥ね除け、アイドルになるデメリットをこれでもかと挙げて再度断る。

 

あんまりな言い草にルビーが抗議するが、クリスはそれを強制的に断ち切り、他の人には聞こえない小さな声で囁く。

 

 

「そのせいでママがどうなったか……忘れた訳じゃないよね?」

 

「……ッ!?」

 

 

星野アイが辿った末路を指摘され、ルビーの表情が強張った。

 

熱狂的なファンという名の狂ったストーカーに母が殺された事。母の死をネットで嘲笑された事。

 

ルビーとて、あの事件は苦い記憶として今も頭の片隅にこびり付いているのだ。

 

だからこそクリスは、今度は皆にも聞こえる声ではっきりと言った。

 

 

「姉さんがアイドルをやるのは自由だけど、僕はやる気がない。あと、単純に学校での実習と課外活動が忙しいから時間が無いの。分かった?」

 

「…………そう」

 

 

アイの死を引き合いに出された事が余程効いたのだろう。ルビーは黙り込んだ。

 

先程までの騒がしい状況とは打って変わって、部屋の中はシンと静まり返ってしまう。

 

クリスは基本的に自分本位な性格をしている。殆どの呪術師がそうだが、クリスもその例に漏れない。自分の為に姉の勧誘を蹴り、考える間もなくアイドルをやらないという選択肢を選んだ。

 

しかし、五条悟に長年師事した影響はここでも出てしまう。

 

五条悟と同様に、何だかんだ言いながらも親しい仲に対しては情に脆く、つい甘さが出てしまうのもクリスの特徴であった。

 

 

「ルビー……」

 

「ルビーちゃん……」

 

「うっ……」

 

 

がっくりと項垂れるルビーを心配そうに見詰める有馬とMEMちょの視線が、一瞬だけクリスの視線と交差する。

 

そしてもう1度ショックに打ちひしがれた姉の姿を見て、クリスは何とも言えない気まずい気分になった。

 

 

(正直言って、アイドルになる気はない。でもなぁ……根気よく僕を何度も誘っていた事は事実だし、姉さんが小さい頃からずっとアイドルに憧れてて、ママが亡くなった後もその想いは一切変わらなかったから……あーもう、気まずいなぁ)

 

 

困ったように眉を寄せて頭を悩ます。

 

本音を言えばアイドルをする気はない。だからアイドルへの勧誘をすぐに断った。

 

だが、亡き母(星野アイ)の様なアイドルになる事をずっと夢見ていた姉の前で、その在り方を全否定するような事を口にした。その結果、目の前でメンバー2人に慰められるルビーという構図が出来上がっている。

 

それを目にした後、今のは流石に言い過ぎたかと心の中で反省し、重苦しい空気に耐え切れなかったクリスはとある提案をした。

 

 

「……あー、えっと、あのさぁ、流石に今のは言い過ぎたかなって思うし、何度も誘ってくれた姉さんに対してあの言い分で納得できる訳が無いよね。だからお互いが納得するための提案なんだけど……今から僕と勝負してみない?」

 

「「「……勝負?」」」

 

 

唐突に持ち出された勝負に、暗い顔になっていた3人が同時に顔を見上げた。

 

上手く食い付いてくれたと内心ほっとしつつ、クリスは勝負の内容を説明する。

 

 

「カラオケで勝負しようよ。今から近くのカラオケに行って、4人全員が同じ曲を歌って点数の高さを競うの。ほら、アイドルは歌と踊りが命でしょ? だから歌の上手さは必須不可欠! ダンスの良し悪しも競えたら良いんだけど、数値化が難しいから今回は無しで」

 

「……それで、勝敗の付け方は?」

 

「勝敗の付け方は至ってシンプル! 3人の内、誰か1人でも僕より高い点数を取れたらそっちの勝利。もし3人が勝った場合、姉さんの誘いに乗って僕もB小町に入る事を約束する。

 反対に僕が勝った場合、アイドルに興味ない僕に負ける程度の木っ端集団と見なして、今後のアイドル勧誘をすっぱり諦めてもらう。……どう? かなり譲歩した勝負内容だと思ってるけど、やってみる気はある?」

 

「「「………………」」」

 

 

クリスの提案に3人が1度顔を合わせる。というよりも、正確にはルビーの方に視線が集中している。

 

この勝負を受けるかどうかは姉であるルビーに委ねるという、言外に示された2人の意図だった。

 

そんな有馬とMEMちょの考えをルビーも察知し、俯き加減に思案する。

 

しばしの間考えた後……。

 

 

「……うん、いいよ。今すぐやろう、その勝負。やっぱりクリスもメンバーになってくれた方が、B小町はもっと大きくなれるから。

 それに、ここまで譲歩されておいて諦めたら、小さい頃からの目標だったドーム公演なんて夢のまた夢! 絶対に勝って、クリスもB小町に入れてみせるから! 先輩とMEMちょも良いよね?」

 

「別に構わないわよ。何だか見下されてる感じがしてムカついてたし、見返すって意味でもその勝負受けて立つわ」

 

「私は元より反対する気はないよぉ? クリスちゃんがどれだけ凄いのかも気になるし、仲間は多い方が心強いからね!」

 

 

3人とも意志は固まった。

 

ルビーはクリスをメンバーにするため、有馬は見返すため、MEMちょは心強い仲間を増やすため、それぞれが絶対にカラオケでクリスに勝つと意気込んだ。

 

対するクリスも、勝負に挑む3人を前にして不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「良いねぇ、そう来なくっちゃ! 3人で力を合わせて僕に勝ってみなよ。 ……という訳で兄さん、僕達今からカラオケに行くけど、どう? 兄さんも審査員として一緒に見に行って……」

 

 

他にも誰か一緒に連れて行こうと考えたクリスは、アクアがいる方へと振り向いた。

 

 

「……あ、おう。4人とも頑張って来い……俺はここで寝てるから……」

 

 

しかし、先程までハバネロ入りクッキーを口内に押し込まれ、激痛をどうにか和らげようと試行錯誤していたアクアにそんな元気は残っていない。

 

今までにない青褪めた顔で、ぐったりとソファーに寝転がる兄を目にしたクリスは……。

 

 

「……さっ、早くカラオケに行くよー!」

 

 

何も見なかった事にした。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

────星野クリスは才能の塊である。

 

高専入学初日からいきなり特級呪術師の称号を得ている事からも、如何に彼女の才能と実力がずば抜けているかが分かるだろう。

 

しかし、それは何も呪術師としての才能だけとは限らない。運動はもちろん、座学、歌、ダンス、果ては演技に至るまで、その才能っぷりは多岐に渡る。

 

故に、今回B小町の3人に持ち掛けた勝負も譲歩していると見せかけて、実はクリスにとってかなり勝率が高いものだったりする。

 

おまけにルビーが引くほど音痴である事を知っており、対するクリスはカラオケで90点未満を取った事が無い

 

他の2人の歌唱力は分からないものの、今回歌う曲は旧B小町の代表曲である『サインはB』。母親(アイ)がよく歌っていた事もあり、クリスもこの歌はカラオケに行く度に必ず1回は歌っている。

 

つまりこの勝負、元から歌唱力の高い人が普段から歌っている曲で点数の高さを競い合う事になる。

 

どう考えても公平とは言えないルール。しかし、たとえ情に脆くともクリスは呪術師。呪術師は騙し合いが基本であり、騙し合いに競り負けた者から命を落とすような過酷な世界にいる。

 

むしろこの程度の騙しは序の口で、本人も言った通りかなり譲歩されている。

 

そんな中で始まったカラオケ勝負は、現在クリスの圧勝で進んでいた。

 

 

「さーて、気になる姉さんの点数は……えっ、49点? 嘘でしょ、流石に手を抜き過ぎじゃない? それとも本気で歌ってこの点数? だとしたら下手にも程があるよ」

 

「う、うるさいなぁ! どうしようもないじゃんこればっかりは! というか、私達が下手なんじゃなくてクリスが上手すぎるんだよ!」

 

「そうだそうだ! 何だよカラオケの採点結果99点って! こっちはヘタウマと音痴なんだから少しは手加減しろー!」

 

「いや、手加減しろって言われても、MEMちゃんの59点も中々に酷い結果だからね? 手加減したところで意味ないでしょ」

 

「ち、ちくしょー! 超悔しいんだけど!」

 

 

クリスがトップバッターとして始まったカラオケ勝負もいよいよ大詰め。

 

ここまでの戦績は2勝0敗でクリスの圧勝。初手でいきなり99点という超高得点を叩き出したせいで、ルビーとMEMちょの心が折れてしまい、勝負にすらならなかった。

 

残る挑戦者は有馬かな。ここで有馬が負ければクリスの完全勝利となり、彼女がB小町に加入する機会は永久に失われる。

 

しかし、有馬が勝つためには100点以外の道はなく、同点は認められない。

 

このような状況なので、クリスは殆ど勝利を確信していた。

 

 

「いやー、悪いね! 僕って勉強や運動だけじゃなくて歌も才能溢れちゃってるからさ! これくらいは朝飯前なんだよねぇ!」

 

「くっ、その笑顔ムカつく! 殴りたくなるくらいには超ムカつく!」

 

「大体どうやったらあんな上手に歌えるのよ? 何かコツはあるの? 馬鹿でも分かるように教えてくれない?」

 

ひゅーとやってひょいだよ。ひゅーひょい……分かんない? センスねぇー」

 

「「うわぁああああああああっ!!」」

 

 

ルビーとMEMちょは遂に頽れた。

 

クリスに散々煽られたうえに惨敗した事で、2人のプライドがへし折れてしまったのだ。まるでギャンブルで大負けして無一文になった人の様な哀愁さえ感じられる。

 

その様を実に愉快な表情で眺めつつ煽りまくったクリスは、最後の1人の有馬に目を向けた。

 

 

「さあ、残る挑戦者はかなちゃんだけだよ! さてさて、一体どこまで僕に善戦できるかなー?」

 

「うぐぐ……もう後がないよ! お願い先輩、私達じゃどうしても無理だった!」

 

「有馬ちゃん、後は君に全てを託すよ! 私達の無念をどうか晴らして!」

 

「………………」

 

 

マイクを片手に佇む有馬にも勝利を確信して煽るクリスと、負けないでと必死に応援するルビーとMEMちょの2人。

 

三者三様の掛け声が入り乱れる中、有馬は静かに立ち上がるとマイクを口元に寄せた。

 

その様子は恐ろしいほどに冷静で、それでいて絶対に負けないという強固な意志をその瞳に宿している。

 

そしてクリスの方を一瞥すると、はっきりとした口調で言い放った。

 

 

「確かにあんたは凄いわ、紛れもない天才ってやつだと思う。歌を聴いてすぐに分かったもの。間違いなくセンターに相応しいのは私じゃなくてあんたの方でしょうね。

 ……でもね、勘違いしてるみたいだから言っとくけど、そっちが挑戦者(チャレンジャー)だから!」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

────数十分後。

 

カラオケ勝負が終わり、4人は店を出て帰路に就いていた。

 

その道中。

 

 

「…………嘘だ、こんなの嘘に決まってる。これはきっと夢だ、悪い夢を見てるんだ。うん、そうに決まってる。じゃないとこの僕が負けるなんて……」

 

「残念ながらあんたの負けよ、クリス。いい加減受け入れたらどうかしら?」

 

 

ショックに打ちひしがれて頭を抱えるクリスの呟きを、有馬がばっさりと切り捨てて現実を突きつける。

 

その後ろでは、ニコニコと笑みを浮かべてクリスの肩にポンと手を置くルビーとMEMちょの姿があった。

 

 

「いやー、まさかあの絶体絶命な状況からの大逆転勝利があるとは思わなかったねぇ! そうだよね、クリスちゃん!」

 

「まあまあMEMちょ、それも仕方がないよ! だってクリスも99点なんて凄い点を取ってたんだし、あそこから負けるなんて普通思わないって! 誰だって嬉しくなって調子に乗っちゃうものだよ! だよね、クリス!」

 

「うわぁああああああああっ!!」

 

 

クリスの絶叫が夜の街に木霊する。

 

 

────カラオケ勝負の結果は新生B小町の勝利に終わった。

 

 

あの後、『サインはB』を熱唱した有馬がなんと100点満点を叩き出し、見事クリスに勝ってみせたのだ。

 

宣言通り、クリスを挑戦者(チャレンジャー)として下した有馬とルビー達の喜び様は凄まじく、3人で肩を抱き合って歓喜に打ち震えた。

 

反対にクリスは、全くもって予想していなかった結果に顔が青褪め、カラオケを出てから終始呪詛のようにぶつぶつと呟き続けている。

 

それを見て溜飲が下がったのか、惨敗したルビーとMEMちょのプライドは見事に回復。逆にクリスを煽り散らかすという状況が出来上がっている。

 

そんな中、100点を出した有馬が問い掛けた。

 

 

「……で、結局のところどうすんの? 負けたらB小町に入るって言ってたけど、あれ本当なの? 見た感じ本当に嫌そうだし、私はあんたに勝っただけでも十分だから、あの話は無しにしても……」

 

「いやぁ、そう言われましても……ねぇ? あれだけ啖呵切ってあれだけ皆を煽った後で、やっぱりB小町に加入するのは嫌だから負けた事を無しにするってのは流石に……」

 

「ああもう、煮え切らない返事ね全く! さっきまでの生意気な態度はどこ行ったのよ! 嫌なら嫌って言えばいいじゃない! 私も本気で嫌がってる人を無理矢理芸能界に引き摺り込むほど鬼じゃないわ!」

 

 

この状況から逃げに走る事に抵抗を見せるクリスだったが、痺れを切らした有馬が自ら勝者の権限を投げ捨てた。

 

しかし、ルビーはそれを黙って見過ごさない。

 

 

「えっ、先輩それで良いの? 私としてはクリスもB小町に入ってくれると心強くて嬉しいんだけど……」

 

「うるさい! この際はっきり言うけどね、アイドルに限らず芸能界は闇ばっかなのよ。そんな厳しい世界に嫌がってる人を強引に引き込むのは流石に頂けないでしょ! こんなのでもクリスは一般人なんだから! カラオケ勝負は気休め程度の時間潰しとでも思いなさい! 良いわね!?」

 

「うーん、そう言われるとそうなんだけど……でもやっぱりなぁ……」

 

「……ねぇ、今さらっと僕の事を『こんなの』って言わなかった? その言い方酷くない?」

 

 

有馬がルビーの言動をすかさず咎めるが、ルビーはそれでもやはり勿体ないと言わんばかりに唇を尖らせる。

 

そんなルビーに対し、後ろで静観していたMEMちょが諭すように話しかける。

 

 

「まあまあルビーちゃん、ここは有馬ちゃんの言う通りだと思うよ? カラオケ勝負を仕掛けたのはお互いに納得するためだってクリスちゃんは言ってたじゃん? それってルビーの夢や想いを知ってたからこそ出た優しさだと思うんだよ。

 それに、クリスちゃんもルビーがアイドルやるのは否定してなかったでしょ? 正直私も惜しいなとは思うけど、夢を応援してくれるならそれで良いじゃん!」

 

「うう……」

 

 

未だに燃え尽きて真っ白な灰になったままのクリスを他所に、有馬とMEMちょの2人でルビーを説得する。

 

何度も宥める2人の言葉が効いたのか、しばらく悩んでからルビーは渋々諦める選択肢を選んだ。

 

 

「……分かった。じゃあクリスをB小町に誘うのは止める。でももしクリスの気分が変わってB小町に入りたいってなったら、その時はすぐにでも迎え入れるよ! それで良いでしょ?」

 

「うんうん、それで良いと思うよぉ。クリスちゃんも大成すれば皆を照らす一番星になり得る逸材だからね。当然だよ」

 

「私は勘弁ね。こんな破天荒な女、もしメンバーになったら絶対どこかで問題行動起こすわよ。そしたらアイドル活動どころじゃなくなるわ。ただでさえ面倒なあんたの相手をするので一苦労なのに、それよりもっと厄介な存在が来たら……」

 

「厄介で面倒臭いのは先輩も一緒じゃん。人の事言えないと思うんだけど?」

 

「……今の発言、もう1度言ったら覚悟しておきなさい。あんたの脳天に全力の一撃ぶち込んでやるわ」

 

 

こうしてクリスがアイドルになるか否かの勝負は、クリスに勝利した有馬かなの鶴の一声によって結果的に白紙となった。

 

これにはクリスも内心ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「でも次から勝つのは僕だもんねー」

 

 

しかし、その後も散々煽っておきながら負けた事を3人にいじられ続けた事で、次カラオケ勝負をする時が来たら絶対に勝つと有馬に対して静かに闘志を燃やすクリスであった。

 

 

 




才能を努力で捻じ伏せた元天才子役・有馬かな。

そして調子に乗ってるといつか痛い目に遭う。今回の勝負でそれを分からせられたクリスでしたとさ。
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