呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「カラオケ勝負で僕に勝ったらB小町に入ってやるよ」

重曹ちゃん「勝ったけど?」

クリス「嘘だぁあああああっ!!」

重曹ちゃん「しょうがないわね。この勝負、特別に無しにしてあげるわ」

クリス「負けたうえに情けまで……くっ、殺せ!」



星野家の日常

B小町メンバーとのカラオケ勝負に負け、更に情けを掛けられて頽れた翌日。

 

朝、自宅兼事務所にて。

 

 

「おはよーう! 今日も良い朝だねぇ! 朝ご飯はもう出来た? 皆で一緒に頂きましょう! ほら早く早く!」

 

「……朝からテンション高いわね。どこからそんな活力が湧き出てくるのかしら?」

 

「あははー……クリスちゃんってば、昨日はあんなに叫んでは不貞腐れてたのにね。気持ちの切り替えが早いというか、サバサバし過ぎというか……」

 

「クリスは前からこんな感じだよ。朝から超ハイテンションで1人盛り上がっては、お兄ちゃんやミヤコさんにダル絡みしてるからね」

 

「アクたんも社長も大変だねー」

 

 

朝からいつも通りのハイテンションで接するクリスを見て、疲れたような困ったような表情を一切隠さない有馬とMEMちょ。

 

騒がしいクリスを遠い目で眺めるルビーからも、一種の諦念に近い感情が全身から滲み出ていた。

 

 

「ご飯出来たわよ。クリスの分もちゃんとあるから安心してね」

 

 

このようなやり取りをしていると、キッチンの方からミヤコが朝食を持って来た。

 

香ばしく焼けたパンに、ベーコンエッグと彩り豊かなサラダ。焼けた食材の香ばしい匂いが鼻孔を擽る。

 

現在特訓中のため寝泊まりしている有馬達と、昨日いきなり帰って来たクリスの分も含めた全部で5人分。

 

 

「はーい、ありがとうございま……ん?」

 

「何よ、どうした……はっ?」

 

 

出来上がった朝食がキッチンから運ばれてくる中、一際大きな茶碗に入った大盛の白米と分厚いステーキ肉がテーブルに置かれた。

 

それについ目を奪われ、一瞬動きが止まるMEMちょと有馬。

 

シンプルでバランスの整った朝食メニューの中で、何故か男飯のような豪快な組み合わせがいきなり現れた事に戸惑いを隠せないでいる。

 

そんな2人にミヤコが言った。

 

 

「ああ、それはクリスの分よ。クリスは昔から大食漢で朝からガッツリ食べるタイプなの。パンとベーコンエッグだけじゃどうしても足りなくてねぇ」

 

「朝からあんなの食べたら確実に胃もたれするんだけど……」

 

「それであのスマートな体型って、一体どうなってるんだろうね? 人体って不思議ぃー」

 

 

勿論クリスが呪術師として活発に動き回るからこその食事量なのだが、他の人が知る由は無い。

 

朝からエンゲル係数爆上がり必至である。

 

 

「さっ、朝ご飯食べて練習に行こ! 早くしないとぴえヨンが来ちゃうよ!」

 

「そうね、頂きましょう」

 

「あれ、そういえば兄さんはどこに行ったの?」

 

「アクアならもう朝食済ませて早々に出掛けたわ」

 

「えー、兄さんったらつれないなぁ。せっかく可愛い妹が帰ってきたんだから、ご飯の時くらい一緒にいてくれても良いのに」

 

「別に良いわよ、あんなスケコマシ三太夫なんかいなくても。どうせ黒川あかねとよろしくやってるでしょうし」

 

「有馬ちゃん、顔がヤバいよ……」

 

「まぁいいか。それじゃあ頂きまぁーす!」

 

 

有馬から何やら不穏な空気を感じつつも、ルビーとクリスの催促で5人全員がテーブルを囲んで座り、朝食を口にし始める。

 

1人だけ凄まじい速度で白米と肉が消えていく中、朝食を食べ進めながらルビーがクリスに話し掛けた。

 

 

「そういえばクリス、ちょっと聞きたかった事があるんだけどさ、良い?」

 

「なに? もうアイドル勧誘は勘弁だよ」

 

「ううん、そうじゃなくてこのツイートに載ってる写真なんだけど……これクリスだよね?」

 

「んー、どれどれ? 僕自撮り写真なんてアップした事ないけど……えっ!?」

 

 

ルビーが見せたあるツイートの写真を見て、クリスは食事の手を止めて思わず目を見開く。

 

画面に映っていたのは、都内の人気カフェテラスで仲睦まじくパフェを食べるクリスと五条悟のツーショット写真

 

この投稿に相当数のいいねとリツイートが付いており、間違いなくバズっているといえる。

 

そう、天逆鉾の回収依頼をされた時に寄っていたカフェテラス内でのやり取りを、周囲の客に撮られてネット上にアップされていた。

 

 

「その反応、やっぱりクリスで合ってるね。まぁこれで見間違えるなんて無いけど……それよりも! クリスと一緒にいるこのお兄さんは誰!? サングラス越しでも分かるくらい超絶イケメンじゃん!」

 

「あっ、その写真に写ってる女の子ってクリスちゃんだったの? いやー、君も隅に置けないねぇ。こんなアイドル顔負けの高身長爽やかイケメンの彼氏がいるとは!」

 

「あら、そう言えばそんな事もあったわね。私も母親として気になるわ。クリス、この男とは一体どういう関係なの?」

 

「あんたら、結構グイグイ行くわね……」

 

 

有馬以外の全員が、クリスと一緒にいる五条悟の事が気になっている模様。

 

この疑問にどう答えようかと考えたクリスは、ある程度真実を語る事にした。

 

 

「えっとね、一応説明しておくとこの人は彼氏じゃなくて僕の担任の先生だよ。この日は課外活動があってね、その帰りに先生がパフェを奢ってくれたの。だから交際している訳ではないよ、決して」

 

 

最悪呪術に関する情報が漏れなければ良いと判断し、五条との関係性を素直に伝える。

 

本当は10年以上の付き合いがある師匠と弟子の関係なのだが、嘘は吐いていないので問題ない。

 

 

「……それ、マジで?」

 

「大マジだよ、姉さん。冗談抜きで僕の担任。課外活動の時はよく一緒に行動するんだ」

 

 

信じられないと言わんばかりに驚愕するルビーに、クリスは一切目を逸らさずはっきりと口にした。

 

すると、先程の浮ついた雰囲気とは打って変わり、逆に感嘆したように息を吐いた。

 

 

「はぁー……まさかこんなイケメン教師が存在するなんてねぇ。しかもクリスの担任で一緒にいる時が多いとか、凄いなぁ」

 

「だよねぇ、世の中それだけ広いって事だよ。あーあ、私も学生時代の頃にこんなイケメン教師がいたらなぁ……ちょっとだけクリスちゃんが羨ましく思えてきたよ」

 

「MEMちょはあと数年で三十路だもんね。さっき姉さんから聞いたんだ。それ知ってるから今の発言に物凄い重みを感じたよ」

 

「うわぁああああっ! クリスちゃん止めて! その事実にだけは目を逸らしてたのに!」

 

 

クリスの容赦ない言葉がMEMちょの心を抉る。

 

涙目で頭を抱えて蹲る姿は悲惨そのもので、これには他の人も引き攣った笑みを浮かべる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

同日、夕暮れ時。

 

日本国内、東京都内のとある廃ビル内にて。

 

 

「グギャアアアアアアッ!?」

 

「はい、除霊完了。今日もお疲れ様でしたーっと」

 

 

クリスは何事もなく呪霊を祓うと、事後処理を手伝ってもらうため外で待機中の補助監督に連絡する。

 

そして補助監督が駆け付けるまでの間、目の前の男達に顔を向けた。

 

 

「で、残るは君達をどうするかだけど……」

 

「……た、頼む。殺さないでくれ。どうか、どうか命だけは……」

 

「お、俺もだ。もうこの業界からは足を洗う。大人しく余生を過ごす……そ、そうだ! 野菜、野菜を作るよ! 田舎に引っ越して、そこで野菜でも作って隠居するから……!」

 

「煩いからちょっと黙って。それに命乞いしても意味ないよ。君達の処刑はもう確定してるから」

 

 

呪いが籠った縄で天井に吊り下げられた呪詛師の男2人の命乞い。それをクリスは一蹴する。

 

 

 

 

 

────昼下がり、自宅でゲームをしながら寛いでいたら緊急の任務が舞い込んだ。

 

ミヤコにはショッピングに出掛けると誤魔化して、急いでクリスが向かった先は都内の廃ビル。

 

そこで伝えられた任務内容は以下の通り。

 

今朝、この廃ビル内から強力な呪霊の呪力が確認されたため、街に繰り出して被害が拡大する前に速やかに討伐する事。また、呪詛師と思しき者の目撃情報もあるため、もし呪詛師がいた場合は速やかにその場で処分する事。

 

クリスに連絡が来たのは、()()クリスが最も現場から近い場所にいたためである。

 

そうして始まった呪霊討伐だったが、いざビル内に入ってみると、案の定呪霊を使って一般人を弄ぶ呪詛師の2人組*1と遭遇。そのまま戦闘になった。

 

とはいえ、呪詛師2人でどうにかなるほど特級は甘くない。男2人はあっさりクリスに縛り上げられ、例の呪霊もクリスの手で瞬殺された。

 

そして今に至る。

 

 

「こうなったら即死刑になる事くらい知ってるでしょ? しかもバラした肉体をホルマリン漬けにしてビンに詰めてる時点で減刑は望めないね」

 

「「ひっ……!」」

 

 

呆れたように深い溜め息を吐くクリスとは対照的に、呪詛師達の表情が徐々に恐怖で歪んでいく。

 

しかしクリスの言う通り、これまで散々一般人を攫っては非人道的な虐殺ばかりを繰り返していた2人に情状酌量の余地はない。

 

死刑は当然の判定だった。

 

 

「じゃあね。あの世で被害者達に土下座しな」

 

「ちょ、ちょっと待っ……!」

 

「話をしよ……!」

 

 

最後の最後まで命乞いを続ける2人だったが、クリスそれに一切耳を傾けない。

 

淡々と、粛々と、極めて冷徹に刑を執行するのみ。

 

 

「術式順転『望速・(はく)』」

 

「ガッ!? ギギ……グギギ……!」

 

「アガッ……ガァアアア……!」

 

 

クリスの手が2人に触れて術式が発動した瞬間、呪詛師達が目に見えて藻掻き苦しみ始めた。

 

目はカッと見開き、口から大量の泡が吹く。

 

全身はプルプルと小刻みに震えて止まらない。

 

有りとあらゆる汗腺から大粒の汗が滲み出ており、それが肌を伝って床に垂れ落ちる。

 

 

「「カッ…………」」

 

 

十数秒経って、2人は息を引き取った。

 

白目を剥き、苦痛に歪んだ顔で頭を垂れる。

 

 

「……うん、完全に止まってるね」

 

「お疲れ様です、クリスさん」

 

 

すぐさま心肺停止している事を確認した時、連絡した補助監督がクリスのいる部屋へ入ってきた。

 

 

「いやぁ、そちらの方こそお疲れ様でしょ、伊地知(いじち)さん」

 

「いえいえ、これも仕事ですから」

 

 

伊地知潔高。

 

呪術師の仕事を影から支える補助監督の1人にして、五条悟の後輩でもある。

 

クリスとはもう10年の付き合いで、その人当たりと面倒見の良さから最も信頼できる補助監督として、よく任務の後処理の手伝いを頼まれている。

 

 

「それで、呪詛師の方はどうなりましたか? もし彼らがいた場合はその場で処分せよとのお達しでしたが……」

 

「問題なく。呪詛師はたった今死にました。ちなみに血液は一切体外へ漏れ出てません。内臓も()()()()は無事です。肉体はなるべく綺麗な状態で届けた方が、家入さんも実験が捗って助かると思いまして」

 

「分かりました。では事後処理は私がやっておきますので、クリスさんは先に自宅に戻ってゆっくり寛いでてください」

 

「いいの? ありがとう! それじゃあまたお願いしますね、伊地知さん! バイバーイ!」

 

「ええ、それではお元気で」

 

 

呪霊を祓い、2人の命を自らの手で奪ったクリスは軽い足取りで帰路に就いた。

 

その後ろ姿が見えなくなるまで静かに見届けた伊地知は、暗い顔でふうっと一息吐く。

 

 

「……特級とはいえまだ高校生の女の子にこの任務を与えるなんて、上層部の方々も少しは考えてほしいものですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────数時間後、夕飯時にて。

 

 

「お疲れサマーランド! 今日のトレーニングはどうだった? ちゃんとぴえヨンについて来れた?」

 

 

任務を遂行したクリスが帰宅して早々に尋ねるも、このテンションの高さに乗れる程の気力は、厳しいトレーニングを終えて帰って来た3人には無かった。

 

特に有馬の精神的な疲労具合は凄まじかった。

 

 

「あんたマジで1日中元気ね。今日の私はもうそこまで元気ないわよ……」

 

「クリスちゃん、ショッピング行ってたんだってね? ねぇねぇ、何買ってきたの?」

 

 

疲れて口を開く元気がない有馬と違い、MEMちょはショッピングと聞いて興味が湧き、クリスとの雑談に興じる。

 

 

「えーとね……苺大福とかかな?」

 

「ええっ!? ちょっ、何その量!? クリスちゃん苺大福を何箱買い込んできたの?」

 

「さあ、10箱くらいじゃない?」

 

「多っ!? それに返事が曖昧!」

 

 

アリバイ工作のために大量に買い込んだ苺大福の山*2を見せつけ、MEMちょを驚愕させるクリス。

 

 

「ほら皆、夕飯できたわよ。この後もダンスの特訓があるんだから急がないと」

 

 

一気に騒がしくなった苺プロの事務所内だったが、それもエプロン姿のミヤコの登場により少し落ち着きを見せる。

 

 

「あっ、今日は唐揚げじゃん! ミヤコさん、これってクリスが帰って来たから?」

 

「そうよルビー。じゃないとあっという間におかずが無くっちゃうもの。とにかく大量に作らないとね」

 

「やったね。僕こういうの好きだからありがとうお母さん! これは米が進む」

 

「クリスちゃん、ノリが完全に男子高校生のそれだねー」

 

「ええそうね。2人とも嬉しそうで良かったわ」

 

 

晩御飯が唐揚げと聞いて目を輝かせるクリス達を見て、ミヤコの表情が子を見守る母親の様に柔らかくなる。

 

その様子を遠くからジッと眺めていた有馬は、我が儘に振る舞いながらも年相応に顔を綻ばせ、誰だろうと関係なく人を惹き込むクリスを見て、ふと昔の頃の自分を思い返す。

 

 

(……いつ頃からだったかしら。私がああいう顔をしなくなったのは)

 

 

嘗ての天真爛漫だった自分と、今のクリスの姿を重ね合わせてそう思った。

 

しかし、今更過去の自分を名残惜しく感じたところで意味がないとすぐに思い直す有馬だった。

 

 

「……はあ、あんたは気楽で良いわね。家でごろごろゲームしてショッピング楽しんで。こっちは今とっても大変なんだから」

 

「あははー、それくらい分かってるよかなちゃん。そっちこそJIFに向けて頑張ってね! その間も僕はゲームして寛ぎながら見守っておくから。重曹を舐める天才子役の実力、期待してるよー」

 

「……表に出なさい。10秒で黙らせてやるわ」

 

 

こうしてアクアを除く5人の女性が再び1つのテーブルに集まり、食事を取り始める。

 

今日のように、誰も見ていないところでただ1人任務を熟すクリスだが、この日はいつもと変わらないテンションで皆との食事を楽しんだという。

 

 

 

*1
呪霊は呪符を媒介として召喚された。決して呪霊操術ではない。1級術師とそこそこ戦えるくらいには強い。

*2
ただし、苺大福はクリスの大好物の1つなので、アリバイ工作の必要がなくとも素で何箱も買い込んでいた。




クリス「ああ、言い忘れてたけど明日は朝から出掛けるから」

ルビー「ふーん。何かあるの?」

クリス「高専のクラスメイトと遊びに行く約束してるんだ」

MEMちょ「へぇー、ちなみにどこに行くかは決めてるの? 困ってるならお姉さんがアドバイスするよ?」

クリス「大丈夫、行くとこは決まってるから」

ルビー「どこなの?」

クリス「ゲーセンだよゲーセン。別に映画観に行ったりとか遊園地行くとかじゃないから」

MEMちょ「なんだゲーセンか。場所によってはデートの可能性もあったんだけどなぁ」

有馬「あんたは『今ガチ』に脳を支配されすぎね……」

ミヤコ「あら良いじゃない。友達と上手くやれてるみたいで安心したわ。でも盛り上がり過ぎてお金を使い過ぎないようにね」

クリス「大丈夫だって。友達と()()()()で遊ぶだけだから」



※クリスの拡張術式その2

・術式順転『望速・拍』

直接触れた相手の心臓の動きを極端に速める事で、超高血圧高負荷の状態を引き起こし、僅か10秒程度で心筋を壊死させて突然死に追い込む技。

簡単に言うと、疑似的に心筋梗塞と同じ症状を引き起こす。ぶっちゃけ本来の心筋梗塞よりも超ヤバい。

ただし五条悟やミゲルのように、クリスと同等かそれ以上の実力を持つ相手にはやっても抵抗されるので、完全に格下専用の攻撃となっている。
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