呪術の子 作:メインクーン
片手間に2人の人間を殺害した翌日。
「じゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい」
朝、朝食を済ませたクリスは早々に家を出て街へ出掛けた。
待ち合わせは渋谷のハチ公前。待ち合わせ場所で会う相手はこの2人。
「よおクリス、一週間ぶり! 金はちゃんと持って来たか?」
「金ちゃん、その言い方だとカツアゲしてるみたいだから気を付けて。金ちゃんがそれ言うと絵面がヤバいし」
「まあまあ綺羅羅ちゃん、金ちゃんも悪気があった訳じゃないから良いの良いの! さっ、集まったところで早速行こうか!」
「だな。早く新台打ってみてぇし」
待っていたのはクラスメイトである秤と綺羅羅の2人。
今日は以前から約束していた、3人でパチンコ店に行く日である。他の人にはゲーセンに行くと伝えており、誰もそれを疑っていない。
「にしてもどこの店入る? とりあえず渋谷で集合したけどさ、ここら辺は人が多いから入っても遊べないかもよ?」
「そう? まあ、僕は遊べるならどこでも良いけど……金ちゃん的にオススメの店はある? 当たりが出やすいとか、台が充実してるとかさ」
「それなら任せろ。都内のパチンコ店には大体行った事あるからよ。あとな、人が多い渋谷でも意外と遊べるとこはあるんだぜ?」
「ふぅー! 金ちゃん頼りになるねぇ!」
秤の先導の下、渋谷の街中を練り歩く。
そうして入った秤オススメのパチンコ店、『マジベガス恵比寿店』。
ここは台の種類もそれなりに充実しており店の規模も大きい方だが、大抵は渋谷駅周辺に集中しているパチンコ店に客が行くため、平日の昼間は空台が多いとの事。
加えて当たりの出やすさも悪くなく、換金率も良いと秤は説明した。
「おーおー本当じゃん! 結構空いてる台が多いね。じゃあどの台で遊ぶ?」
「そりゃ勿論『CR私鉄純愛列車』だな。そのために今日来たんだし」
「じゃあ僕もそれで遊ぼっと! 綺羅羅ちゃんは?」
「私は2人がやってるとこ見てるよ。どちらかというとやるより見る派だから」
「そっか。よし、勝って勝って勝ちまくろう!」
「おうよっ!」
全員が高校生になったばかりの未成年にもかかわらず、何食わぬ顔でパチンコ店に入りパチンコを打つ。
幸いな事に、一緒にいる秤の格好が割と
こうして目的の『CR私鉄純愛列車』の台に座ったクリスは、早速サンド*1に5000円を投入してハンドルを回し始めた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
『やっばい! 遅刻遅刻~!』
朝、寝坊したせいで会社に遅刻しそうな
今まさに駅を出ようとするこの電車を逃せば、遅刻は確定してしまう。
『うおおおおおっ! 間に合えー!』
電車の出発まで残り30秒。目の前には改札。
ここを一切詰まる事なく通過出来れば、電車に乗れて定時ギリギリに間に合うのだが……。
『うわっ!? おっとっと!』
現実は非情である。
そう上手く改札を走り抜けるなんて事は叶わず、夕輝は改札で足を止めてしまう。
その間に頼みの電車は発車し、次の駅へ向かって行った。
見事に乗り遅れた夕輝は、ホームから去り行く電車をただぼうっと眺める事しか出来ない。
『……遅刻、確定したなぁ』
暗い顔でぼそりと呟くその後ろ姿は、何とも言えない哀愁さえ感じられる。
夕輝は大人しく次の電車がやって来るのを待つのであった────。
「────だぁああああああっ! やっぱり当たらなかったかちくしょー!」
「そりゃそうだろ。一番期待度の低い『ICカードリーチ』なんだぜ? むしろそれで当たる方が凄ぇってもんだ」
「でも金ちゃんはさっきそれで大当たり引いてたじゃん。本当にどうなってんの? いくら何でも豪運すぎない?」
「俺は昔っから運が良いからな。悪いなクリス」
「なんの! 僕も絶対に大当たりを引いてみせるからね。まだまだこれからだよ!」
勿論、夕輝が遅刻する云々の話は全てパチンコの演出である。
現在クリスと秤が打っている台の『CR私鉄純愛列車』は、中村キャンディ原作の少女漫画を基に製作されたパチンコ。
青年ラブコメの金字塔とも呼ばれるこの漫画は作品としての評価が高く、パチンコとして登場するのもある意味必然といえた。
一部のファンは「ギャンブルのコンテンツとして消費するなど言語道断だ!」と非難しているが、パチンコとして楽しんでいるクリス達の様な人には関係ない。
大当たりを引くため、クリスはひたすらヘソ*2に向かってハンドルを左に回す。
「打てる玉は余ってるから大丈夫。今ので残りが1500円分でしょ? これ4円パチ*3だからまだ375玉は打てる。何なら状況次第では追加で5000円投下しても良い。金はあるからね」
「クリスちゃん、いつも任務で忙しくてお金使う時あまり無いもんね」
「そうだよな。何か昨日も緊急に任務で結構大変だったって聞いたぜ?」
「昨日? ……ああ、あの呪詛師2人組の事ね。あれは別にそうでもなかったよ。マジでただの時間潰しでしかなかった」
「そうなのか? なら良いが……」
ハンドルを回しながらも3人のする会話内容は相変わらず呪術に関する事ばかり。
秤と綺羅羅は大丈夫かどうか気に掛けるが、当のクリスは昨日の事については本当に何とも思っておらず、何なら殺した2人の存在をもう忘れかけていた。
そのような会話を続ける事10分後。
「……おっ、これはもしかして? もしかしてのもしかして……来た! 期待度80%超えの『華金終電リーチ』ッ!」
液晶画面に表示された、期待度の高い予告を示す金の
そこから続けて映し出されたのは、大当たりを引く確率が最も高くなる演出の『華金終電リーチ』。
『私鉄純愛列車』の主人公夕輝の幼馴染でありヒロインの1人の
『今日は……楽しかったね、夕輝』
『うん……俺も』
駅の入口で別れを惜しみながらも別々のホームに向かった2人。
2人がホームで待つのは終電。これを逃せば電車での帰宅が不可能となる。何事も無ければ、このままお互いに違う方向の終電に乗って1日が終わる。
「行け……行け……行くんだ夢! 行けぇ!」
「おっと、これはもしかしたら……?」
「マジで来るかも……?」
大当たりが来るかもしれない演出に、クリスも秤も綺羅羅もその行く末を見届ける。
もし、この終電に夢が乗らず夕輝の前に再び姿を現せば、その時は大当たり確定の激熱リーチがやって来る。
演出を見ている3人の間に緊張が奔る。
『────2番線から電車が発車します。ご注意ください』
電車が駅のホームから出発する。
「来い! 来るんだ夢! 頼む、来てぇー!」
クリスが祈る様に拳を握り締める。
そして遂に、その時はやって来た。
「えっ……いない? 嘘でしょ?」
向かいの駅のホームに、夢の姿はどこにもなかった。
まさかの結果に、また振り出しに戻ったかとクリスは意気消沈して項垂れてしまう。
しかし、それを横から見ていた秤は気付いていた。
「おいおいクリス、ガッカリすんのはまだ早いんじゃねぇのか?」
「えっ?」
「よく見ろよ。ほらあれ」
秤にそう言われ、恐る恐る画面に視線を向ける。
すると、そこに映し出されていたのは……。
『夕輝……終電、なくなっちゃった……』
夢が、先程までいたホームから反対のホームまで走り、再び恋慕の情を抱く
その瞬間、画面に映し出される奇数のゾロ目。
今、クリスの台の大当たりが確定した。
「っしゃ来たああああああああ!! 確変大当たりだぁああああああっ!!」
加えて、今回揃った数字が奇数図柄の3である事により、大当たりを引く確率が大幅に変動する『確変』に突入。
落胆からの大逆転勝利に、クリスのボルテージが一気に最高潮に達した。
「これだからパチンコはマジでヤバいね! いやもう本当に!」
「だろだろ? これがパチンコ、ひいてはギャンブルの醍醐味なんだよなぁ」
「私も2人が楽しそうにやってて良かったよ」
「いやぁ、溢れる
────その後、クリスは自身の運が爆発したのか確変を引き続け、連チャン*4でこれまでの時間を取り戻すように大量の出玉を獲得していった。
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それから数時間後、再び渋谷のハチ公前にて。
クリス達はパチンコ店を後にし、帰路に就いていた。
「いやー、勝った勝った。今日は大勝だったね2人とも。過去最高じゃないかな?」
「お前はそうだな。パチンコの醍醐味を味わって勝負にも勝った。結構理想的なパチンコ日和だったんじゃねぇか?」
「それにしても凄いよ。2人合わせて40万近く勝つとかさ。これもう運が良いどころの話じゃないよね」
「金ちゃんは割と普段通りじゃない? 今日より倍以上稼ぐ時とかあったと思うよ?」
「確かにそうなんだよね。金ちゃんは本当に豪運の持ち主だから」
「おいおい、2人してそんな褒めんなよ。照れるだろ」
あれから、秤とクリスは大当たりを常に引いて順調すぎるくらい出玉を稼いでいき、それを換金所で全て現金と交換してもらった。
クリスが今日1日で投下した合計金額が1万円に対し、稼いだ金額は合計で11万円。差し引きで10万円も稼ぐ大勝を記録している。
元から豪運の秤はそれよりもっと稼いでおり、25万円というとんでもない金額を1日でものにしていたが。
ただし、どちらも大勝ちした事に変わりはない。
「そうだ! ねえねえ、今から3人でどこか食べに行かない? 今日勝った金で焼肉とかどう?」
「良いんじゃない? 私、焼肉は大歓迎だよ。金ちゃんはどうする?」
「勿論行くに決まってるだろ。で、どこに行くんだ? 行く当てはあるのか?」
「そこは大丈夫、僕に任せてよ! 小さい頃から五条先生によく美味しい店に連れて行ってもらったからさ」
クリスの提案により、3人で焼肉を食べに行く事が決まる。
すぐに満場一致で行く事になったので、その前にクリスは電話を掛けた。
「……あ、もしもしお母さん? あのね、急だけど僕今日は晩御飯要らなくなった。……うん、そうそう。友達と今から焼肉でも食べに行こうってなってさ。そういう事だから、帰るのは夜9時とか10時頃になると思う。……はーい、それじゃあ切るね」
電話の相手は母親のミヤコ。
晩御飯を作って帰りを待たせ続けるのも悪いので、事前に一報入れておいた。
これで気兼ねなく3人で美味しい物を食べに行けるようになる。
「よし、じゃあ行こうか! えっとね、いつも懇意にしてもらってるお店が銀座にあってね……」
「えっ、銀座? マジで?」
「大丈夫なの? 金は問題ないとしても、そういう所って予約しないと空いてないんじゃない?」
「確かにちょっと急だけど、まぁ大丈夫でしょ。その店のオーナーには呪術関連で貸しがあるし、頼めば融通を利かせてもらえると思うから」
「呪術関連で貸し? 何かあったの?」
「オーナーの家族が呪詛師に殺されそうになってたところを助けた事がある」
「ああ、なるほど。それで……」
「というわけで、レッツゴー焼肉!」
こうしてクリスら3人は、銀座にある高級焼肉店へと向かった。
本来なら事前に予約しないと入る事が出来ない店だが、先程も述べたようにクリスはオーナーに大きな貸しがあるため、逆に歓迎される勢いですんなりと個室まで案内される。
そして、クリスがパチンコで稼いだ金の殆どを使い切るまで、3人とも腹一杯美味しい肉を堪能した。
────一方その頃、苺プロの事務所では。
「クリスは友達と焼肉に行くから晩御飯は要らないそうよ」
「えー、良いなぁクリス! ゲーセン行って焼肉とか羨ましい!」
「まあまあルビーちゃん落ち着いて。私達もさ、JIFが終わったら打ち上げで焼肉食べに行こ? ね?」
「そうだねMEMちょ。お兄ちゃんも『今ガチ』の皆と焼肉行ってたし、私も偶には食べに行きたい」
「……全く、そうやって浮かれるのは良いけど、この後もトレーニングなんだからすぐに気を引き締めなさい」
「大丈夫、それに関しては本気でやってるから抜かりはないよ。ここ最近のトレーニングで結構体力付いたし、ダンスの動きもほぼ完璧に近いから」
「そうね。後はそのどうしようもない音痴を何とかすれば完璧よ」
「わーお、いきなり辛辣になった。相変わらず先輩って口悪いよねー」
「あんたに言われたくないわ……というか、そういうのは私じゃなくてクリスに言いなさい。あっちの方が大分ヤバいから」
「うわーどうしよう。有馬ちゃんの言ってる事に凄く納得してる自分がいる……」
暴行、殺人、未成年パチンコ、etc……。
昨日からずっと、常人には想像もつかない程とんでもない事を行っているクリスの事情など露知らず、3人は
何か順調にパチンカスルートを突き進んでいる気がする。やっべぇなこの末っ子。
アクアやミヤコ達にバレたらどうするんだろ? ドン引きか激怒は間違いないぞ。
あと、パチンコ1回も行った事ないからこれ書く時マジで訳分からなくて苦労した。甘とかMaxの違いもよく分かっていなかった。
パチンコやった事がある方、この話を読んで「いや、実際のパチンコはこんなんじゃない」と思うかもしれませんが、どうか大目に見てもらえると幸いです。
特に法改正のあった2018年時点でCR機の新台導入が終わって、以降はP機が主流になってるからこの物語内では矛盾してるけど、それもどうかご容赦ください……。