呪術の子   作:メインクーン

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前回:応援してくれるファンが居ない有馬の為に、アクアとクリスが全力でオタ芸を踊ってくれました。



ライブ後の話

応援してくれるファンが見付からず落ち込む有馬。

 

そんな彼女を応援して笑わせようと、アクアとクリスは全力でオタ芸を踊った。

 

結果として派手に動いたオタ芸はステージに立つ有馬にも届き、見事笑顔を取り戻させる事に成功する。

 

それからの彼女は終始明るい表情で歌うようになり、パフォーマンスも一段と良くなったように見えた。

 

途中、クリスが変顔を披露した事で大爆笑しそうになり、あわやライブが台無しになる場面もあったが、何とか耐えていたのでそこはご愛嬌というべきだろう。

 

こうして新生B小町のファーストステージは無事成功を収め、このライブをきっかけに多くのファンの心を鷲掴みにしていく事となる。

 

 

「────で、どうだった? 私達のステージ」

 

 

そして現在、ライブ終了後。

 

事務所に帰る途中の車内にて、無事にライブを終えた有馬はアクアに感想を求めていた。

 

 

「……まぁ、初めてにしては良くやったんじゃないか?」

 

「何それ、もっと褒めなさいよ」

 

「それは出来ない。有馬達はこれからもっと凄いライブをやれるだろうし、それを考えたらここで高得点出すのは勿体ない」

 

「……あっそ」

 

 

約1カ月ぶりとなる2人の会話は、存外短く終わった。

 

淡泊な感想に不満げな有馬だったが、アクアがB小町に寄せる確信めいた期待の声を知り、素直に飲み込んだ。

 

それを傍から見ていたミヤコはほっと一安心したように柔らかい笑みを浮かべ、対照的にMEMちょは少し不安そうな顔になる。

 

 

「あの2人、やっと会話する気になったみたいね。良かったわ」

 

「でも何だか仲悪いですよね」

 

「いいえ、あれはそういうのじゃないわよ」

 

「えっ?」

 

 

ぱっと見れば剣呑な雰囲気を醸し出す2人は確かに仲が悪そうに見えるが、ミヤコの言う通り実際はそんな事もない。

 

会話や表情をもっと深く観察してみれば、案外2人は互いの事を信頼している事が分かる。

 

 

「ねえアクア、『今ガチ』の黒川あかねとは上手くやってるの?」

 

「いや、あれからまだ会っていない」

 

「そうなの? 意外ね」

 

「そりゃあただの仕事相手だしな。SNSにアップする写真を2人で撮りに行くって話はしてるけど、それくらいだ」

 

「ふーん、そうなの」

 

「仕事……」

 

 

ミヤコの誘導じみた質問に何気なく答えるアクア。

 

質問された本人としては「どうして今更そんな当たり前の事を?」という認識でも、それをよく分かっていなかった者にとっては思いがけない朗報だったりする。

 

 

「ふん、そうよね! あの黒川あかねがあんたなんかに本気になるはずないもの! テレビ上の演出ってやつね! あるある!

 あんたも哀れねー! 駄目よーああいうの本気にしちゃ!」

 

 

事実、恋は盲目とは言わないまでも、人間関係で若干視野が狭く攻撃的になっていた有馬は途端に上機嫌になった。

 

それはもう、プレゼントがあると知って大はしゃぎする純真無垢な子供の様に。

 

その急激な変わり様に首を傾げていたMEMちょは、ここでようやくミヤコの発言の意味を理解する。

 

 

(……はっ!? もしかしてそういう事!? 有馬ちゃん、アクたんの事が……!)

 

 

こうしてB小町の初ライブは成功に終わり、アクアと有馬の拗れた関係もとりあえず無事に解消されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、ずっと気になってた事があるんだけど、1つ良いかしら?」

 

「何だ?」

 

「あんたの生意気な妹、どこに行ったのよ? 車内のどこにもいないじゃない」

 

「ああ、クリスなら帰る直前で『ちょっと買いたい物があるから寄り道してくる』とか言って駅まで歩いて行ったぞ」

 

「あっそう。あの子にはオタ芸踊りながら変顔してきた事についてじっくり話し合いたかったけれど……まぁ良いわ。

 今はすこぶる機嫌が良いし、今回は特別に見逃してあげようかしら。命拾いしたわね、クリス」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

一方その頃、クリスはというと……。

 

 

「あーあ、何で姉さん達の初ライブ観に行った帰りでこんな奴(呪霊)の相手をしなくちゃいけないの……」

 

「キィイイイイイイイイッ!!」

 

 

唐突に舞い込んだ任務により、呪霊の相手をしていた。

 

ほんの1時間前まで、元気のない有馬を笑わせるためにオタ芸と変顔を披露した後、ライブの感想をアクアと語り合おうと意気込んでいた。

 

だがそこへ突如高専からの連絡が入り、仕方なく現場へ向かう羽目に。

 

ライブの成功を見届けた直後だった事もあり、今の彼女はとても不機嫌な様子である。

 

 

「憎イ! 憎イ! 殺ス! 殺ス!」

 

「はいはい、分かった分かった。煩いからさっさと消えてね」

 

「オ前モズタズタニ殺シテ……!」

 

「術式順転・望速」

 

「ガッ……グギギッ!?」

 

 

その苛立ちを包み隠さず呪霊にぶつける。

 

クリスの攻撃を正面から受けてしまった呪霊は、壊れたラジオの様な悲鳴を上げて消滅した。

 

 

「本日も任務お疲れ様ですクリスさん」

 

「そちらこそお疲れ様です伊地知さん。この後の予定はもう無いので、僕も後処理手伝いますよ」

 

 

こうしてまた呪霊を祓ったクリスは、現場に駆け付けた補助監督の伊地知と共に、呪霊の毒牙に掛かった被害者達の遺体を処理する。

 

上半身と下半身が引き裂かれている者、ドラム缶に詰められたコンクリートと一体化した者、首から下の肉体が腐って原型を留めていない者、喰われたような抉れた跡が多数残っている者。

 

今回の被害者も中々に酷い死に様を晒しており、耐性の無い者がこれを見れば精神が壊れる事請け合いである。

 

それらを何事もなく淡々と処理しているクリスの胆力はどれ程のものだろうか。

 

被害者らの衣類や所持品を回収し、そこから身元の特定もある程度済ませておく。

 

 

「えーと……こっちの男の人は西村祐成さんで、東京テレビ所属のプロデューサー。それでこっちの女性は一之瀬美桜さん、アイドル事務所スターレイン所属の現役アイドル。

 向こうの中年男性が久賀俊明さん、芸能事務所ソニックステージの取締役。んで最後の女性が雪乃あかりさん、劇団ララライ所属の現役女優、か……」

 

 

身分証明書や名刺などから顔と名前を一致させ、1人1人丁寧に確認していく。

 

現場には全部で4名の遺体が転がっているが、その全てが芸能関係者の者だった。

 

 

「うわぁ、全員芸能人か事務所のお偉いさん方じゃん。しかも結構な大手ばかりだし、今回も後々の影響凄そうだなぁ」

 

 

思わず深い溜め息を吐く。

 

『今回も』とクリスが溢したように、芸能関係者の呪いによる被害は多い。

 

芸能界は基本的に呪術界と構造や性質がよく似ている部分があり、それ故に人の負の感情も溜まりやすくなっている。

 

嫉妬、憎悪、僻み、畏怖、怒り、愛憎、恐怖、絶望……。様々な負の感情が荒れ狂い飛び交う弱肉強食の世界。

 

日々の多大なストレスや人間関係の亀裂は日常茶飯事で、いつ何処で誰と蹴落とし合いが始まるか分からない。

 

毎年どこかしらで呪霊の被害に遭う芸能関係者が後を絶たないのだ。

 

 

「こういうのを見てると、兄さんと姉さんもこういう奴らの被害に遭わないか心配だよねー。いや本当にマジで」

 

 

全国で毎年1万人を超える怪死者・行方不明者の中でも特に被害の多い芸能界。

 

呪いの坩堝としてはこの上ない環境下で、アクアとルビーは日々を過ごし始めている。

 

今回のように、人に危害を加える呪霊達の被害に遭わない事を切に願うクリスであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

日本国内、某所。

 

とある山奥の施設内にて。

 

 

「……おや?」

 

「ドウシタ夏油? 何カアッタノカ?」

 

「いや、大した事じゃないけど、私が飛ばした呪霊が何者かに祓われたみたいだ」

 

 

いつもの様にテーブル席でお茶を嗜んでいた夏油が、自身が派遣した呪霊の消失を敏感に察知した。

 

それをテーブルの向かい側で見ていたミゲルは、一体何の事だろうかと興味を寄せる。

 

 

「飛バシタ呪霊ダト? マタ誰カカラ依頼ヲ受ケタノカ?」

 

「ああ、そうさ。あいつを殺してくれ、こいつを消してくれって、色んな猿共から言われてね。全く、あの図々しい態度と欲に溺れ切った顔は吐き気がしたよ。

 ……まぁ、芸能界は他より呪いを集めやすいし、今回の猿共は金払いが良かったから依頼を一手に引き受けたんだけどね」

 

「芸能界カ……マタ厄介ナ業界カラ依頼サレタモンダナ。大丈夫ナノカ?」

 

「あっはっは、呪いか金のどちらかをきっちり絞れるまでは生かしておくつもりだよ。用が済んだら消えてもらうだけさ」

 

「ソウカ、大変ダナ。アマリ無理スルナヨ」

 

 

忌み嫌っている非術師の欲に塗れた依頼を、目的のためとはいえ律儀に引き受け完遂する。

 

そんな真面目すぎる夏油の心労を想像し、ミゲルは労いの言葉をかけて励ました。

 

しかし、先程の夏油の発言でふと疑問が湧き出てくる。

 

 

「ソウイエバ、サッキ『何者カニ祓ワレタ』ト言ッテタガ、ソッチノ方ハ大丈夫ナノカ?」

 

「何がだい?」

 

「祓ワレタ、トイウ事ハ間違イナク呪術師ノ仕業ダロウ? 今回ノ事デ俺達ノ存在ニ気付カレタラ、少シ面倒ナ事ニナラナイカ?」

 

 

それは、夏油一派に繋がる手掛かりを呪術界側が手に入れてしまう恐れがある事。

 

もしも夏油達の活動の詳細が呪術界に知られてしまったら、組織壊滅とまではいかないにせよ、面倒な目に遭うのは必然となるだろう。

 

ミゲルはそのように予想していた。

 

しかし、夏油は意外にも余裕な笑みを浮かべて言った。

 

 

「そこは問題ないさ。依頼で呪霊を派遣する際は残穢を残さないよう細心の注意を払ってるし、仮にバレたとしても向こうはそう易々とこちら側に手を出せない。

 悟かクリスちゃんが本気で消しに来たら分からないけど、その時は君がいるからね。頼りにしてるよ。というか、あの2人にそこまでするモチベーションは今のところ無い」

 

「随分ト信用シテルンダナ、2人ノ事ヲ」

 

 

呪術師最強の男と次点最強の女が相手でも余裕な夏油に、ミゲルが呆れたように息を吐く。

 

それもそのはず、その2人と夏油との間には並々ならぬ関係があるからだ。

 

 

「そりゃあそうさ。前にも言ったが悟とは唯一無二の親友だったし、クリスちゃんとも少なくない時間を過ごしてきたからね。ある程度2人の考えそうな事は分かってるつもりだよ。

 ……ちなみにこれは関係ない話だけど、クリスちゃんに近接格闘を教えたのは私だってこの前言っただろ? 実はあの子の初恋の相手も私なんだ。どう、驚いた?」

 

「エェ……アノ非常識女ノ初恋ガオ前ダト? 何カノ冗談ダロ?」

 

「いやいや、これが冗談じゃないんだよ。何せ本人の口から直接告白されたからね。とはいえ当時はまだ5,6歳くらいだったし、私もあまり本気にしないで軽く聞き流したけどね。

 でも後から悟と硝子に言われて、どうやら結構マジな話だった事を知ってさ。不貞腐れたあの子にごめんねって何度も謝った記憶があるんだ。……何とも可愛らしい話だと思わないかい?」

 

「悪イナ。今ノアノ女ノ姿シカ知ラン俺ニトッテハ、可愛サノ欠片モ感ジラレナカッタ」

 

「冷たいなぁ、人がせっかく思い出話に花を咲かせてるというのに……」

 

 

夏油が暴露した衝撃的なクリスの過去を聞いても、ミゲルにとっては信じられないし想像したくない話だった。

 

もう2度と関わりたくない相手の初恋事情など知っても、何の情緒もへったくれも感じられない。

 

サハラ砂漠で見せたクリスのぶっ飛んだ戦いぶりと非常識な行動が、色々な意味でミゲルにトラウマを植え付けていた。

 

 

「お話し中失礼します、夏油様。たった今、新たな依頼者()がいらっしゃいました」

 

「……やれやれ、来る日来る日も後が絶たないね。猿共の相手は本当に疲れるよ」

 

 

と、ここで夏油一派の1人が部屋に入り、次の依頼者が来た旨を報告しにやって来た。

 

あまり気乗りしないが、それでも呪いと金を集めるためなら仕方がないと妥協し、夏油は重い腰を上げる。

 

 

「それで、次の猿はどんな奴なんだい?」

 

「歳は30代前半の男性で、主に芸能関係の仕事に就いているそうです。話を聞いたところ元役者で、今は芸能事務所の社長を務めているとか」

 

「あー、なるほどね。またその手の話か。まぁいい、依頼を受けるかどうかは向こうが提示する報酬次第だ」

 

 

応接室へ向かう途中。

 

依頼主が芸能関係者、それも芸能事務所の重役と知り、夏油は辟易して肩を竦める。

 

しかし今回の依頼主は今までの非術師達とは違い、どこか異なる雰囲気を身に纏っていた。

 

 

「お待たせしました。では商談の前に、まずはお互いに自己紹介しましょう。

 私の名は夏油、夏油傑と申します。あなたは?」

 

「初めまして夏油さん。本日はお忙しい中、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます。

 私、神木プロダクション代表取締役のカミキヒカルと申します。以後お見知りおきを────」

 

 

 




これでようやく一区切り。次からはまた呪術廻戦の比重が多くなるかも。


※例の黒幕男が呪詛師と関わって悪事を働くか否かと聞かれれば、間違いなくするという謎めいた確信があるのは私だけだろうか?
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