呪術の子 作:メインクーン
ちょっとここから話が急展開気味だけど大丈夫かな……まぁ良いか!
五条悟の全力黒閃パンチを食らい、情けない顔を晒した数日後。
高専の校舎内、とある一室にて。
「……という事があって、その後先生に抱っこされながら寮に戻ったって訳です。いや、あれは行けるって思ったんだけど、やっぱ五条先生は強いなぁ」
「そういうあなたも十分すぎるくらい強いですよ。そもそも強さであの人と比較できる時点でおかしいのですから、もっと自分に自信を持ってください」
「いやーん、相変わらず褒めるのが上手ぅ! そういう渋い格好良さが良い!
「クリスさん、私が社会的に死ぬのでそういう冗談は止めてください。あと、五条さんと同じようなノリで絡んでくるのも勘弁を。これで15回目ですよ?」
「えー、つれないですね。せっかくだから七海さんから『ナナミン』に呼び方変えようかなって思ってたのに……」
「引っ叩きますよ?」
クリスは現在、1級呪術師の
七海建人は過去に呪術師を止めて一般企業に勤務していた経験のある、呪術師にしては珍しい経歴を持つ。
そのおかげか五条やクリスの様に常識という概念を知らなそうな頭のおかしい人達とは違い、常識的な感覚と1級に相応しい実力を持ち合わせた、まさに誰からも頼れる大人な男である。
十年近い付き合いがあるクリスも例外ではなく、五条とはまた違った信頼と尊敬の念を七海に対して抱いていた。
ちなみに、先程の「結婚しよ」発言はあくまでクリスの悪ノリであり、本気で言ったわけではない。
「それにしても、今日は一体どういった用でここに? ひょっとして五条先生に呼び出された感じですか?」
「ええ、そうですよ。本当はお断りしたかったのですが、緊急だから来てほしいと何度も電話されまして」
話は変わり、七海が高専に来ている理由について話す。
高専の教師ではない七海が態々高専に来るのは、殆どが任務の委託で先輩の五条に呼び出されるからである。
本日も例に漏れず五条にいきなり呼び出されたため、朝から不機嫌さを全面に押し出した顔で新聞を読んでいた。
「そういうクリスさんは大丈夫なんですか? こんな所で油を売ってないで、そろそろ任務に行った方がよろしいかと」
先程から一方的に喋ってばかりのクリスに、七海が苦言を呈す。
特級術師のクリスが日々の任務で忙しい事は知っているので、その心配のうえでの発言だった。
とはいえ、理由の半分は五条と同じノリで話し掛けてくるクリスの事を鬱陶しく思っているからでもあるが。
そこは敢えて言葉にしないのが七海である。
「あー、それなんですけどね、実は僕も五条先生に呼び出されてここにいるんですよ。詳しい内容は聞かされてませんけど」
「クリスさんも? となると、同じ任務で呼ばれた可能性が高いですね。特級と1級の合同任務なんて非常に珍しいですが」
クリスもクリスで、本日は五条に呼ばれて七海と同じ部屋にいた。
理由を聞いて、クリスと同じ任務を受ける予定で呼び出されたと七海は推測する。
「そうですよねー。いやまぁ、無い話じゃないですよ? こういう事は以前にも何回かありましたし。ただ、どれも厄介な任務だっただけで……」
「残業は嫌いなので、出来る限り早めに終わらせたいところです」
「ですね。あー、絶対面倒臭いだろうなぁ」
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しばらく経って、呼び出した五条が勢いよくドアを開けて部屋に入ってきた。
「おはようクリス、七海! 調子はどう? 今日は急に呼び出しちゃってごめんねー!」
「調子は最悪です。また面倒な任務を押し付けに呼んだのでしょう?」
「おはようございます! ……って、七海さんも五条先生に呼ばれて来たそうですけど、一体どんな任務をやらされるんですか?」
開口一番ハイテンションで挨拶する五条。
それを見て七海は更に険しい表情になり、クリスは元気に挨拶し返すも少し面倒臭そうに感じる顔を隠さない。
しかし、五条は微妙な反応を見せる2人を全く意に介さず話を続ける。
「まあね。2人も既に察してるようだけど、今回の任務はしがらみ案件だよー。多分、結構長引くと思う」
予想通りの内容に2人の顔が更に歪み、溜め息が漏れる。
「ですよねー、分かってました。もしかしてまたクソ爺共がやらかした後の尻拭いですか? それとも依頼主がお得意様で、上も雑な対応は出来なかったパターンですか?」
「そうだね、今回は後者かな。かなりデカい
そこで真っ先に白羽の矢が立ったのがクリスってわけ」
「えー……普段はあんなに冷遇しておきながら、こういう時だけ『信頼できる術師』扱いですか。笑っちゃいますね」
いつも通りの上層部の腐敗っぷりに、思わずドン引きした感想が出てしまうクリス。
普段はクリスの事を散々見下している癖に、私利私欲の為なら手の平を返して何食わぬ顔で媚を売る。
上の連中は今日も変わらず腐った蜜柑だなと、クリスは辟易する。
しかし、それと同時に疑問が湧き出た。
「……あれ、ちょっと待ってください。今、白羽の矢が立ったのは僕だって言いましたよね? 七海さんはどうしたんですか? 今回の任務は元々僕1人で行う予定だったんですか?」
「うん、そうだよ」
七海も一緒に呼び出されているので、てっきり七海との合同任務と思っていた。だが五条はクリスの名前しか挙げていなかった。
では、どうして七海まで呼ばれたのか。
「やっぱりさ、クリスの事を嫌ってる爺共が長年のお得意様に派遣するなんてちょっと怪しいと思ってね。依頼内容は結構真面目なんだけど、どうにもしっくりこなくてさ。
上だって一枚岩じゃない。何か企んでると思って、念のため七海も入れるように僕がゴリ押ししたんだ。出来れば僕が行きたかったんだけど、それは流石に無理だった」
「ちょっと待ってください、だから私もここに呼ばれたのですか? 冗談でしょう?」
「いやぁ、マジだよ七海。僕からのお願いだ、保護者的な感じでクリスを見ていてほしい」
「……他にも頼める相手はたくさんいたはずです。どうして私なんですか?」
「お前が一番信頼できるから」
五条の無理矢理で任務の末席に加えられていた事を知り、思わず反論する七海。
しかし、五条に真剣な顔で懇願された事で言葉に詰まった。
加えて、クリスが幼かった頃から関わりのある1人として、不安に思う事は無いかと聞かれると嘘になる。
「……分かりました。相変わらずあなたのやり方には辟易しますが、言ってもどうせ無駄ですし、そういう事なら最後まで全うしましょう。それに、クリスさんの事も確かに心配ですから」
「そこまで言われると、七海さんだけ頑張らせるわけにはいきませんね。そういう事なら僕は何だってやりますよ。大丈夫、僕と七海さんならどんな呪霊や呪詛師が相手だろうとコテンパンです!」
上層部の指示に従うのは非常に癪だと思いつつも、尊敬する七海がクリスのために五条の頼みを受け入れたので、彼女もその流れについて行く事に決めた。
「よし、決まりだね。それじゃあクリスを頼むよ七海。ちなみに今回の任務は潜入捜査だよ。東京テレビ局のね」
「あー、そういう感じですか」
「なるほど、これは面倒臭いですね」
長年呪術師をやっていると単なる呪霊討伐に限らず、様々な長期任務に当たる事が多くなってくる。
例えば、凶悪な呪霊や呪詛師から要人の身を守る護衛任務や、呪いを利用した犯罪組織又は呪いの被害に遭っている一般組織の潜入捜査などが挙げられる。
そういった補助監督だけでは手に負えない任務に対して、戦える力を持った術師が代わりに派遣される事は多い。
今回もそれと同じだった。
「最近になってテレビ局関係者の怪死者・行方不明者数が大幅に増えたんだ。しかも他のテレビ局や芸能事務所にまでその波は伝播しているらしい。
そこで東テレのトップ連中は何らかの原因で呪霊が増加したか、もしくは呪詛師が関与していると判断して、
「……言われてみれば確かに、ここ最近の呪霊の被害者は芸能関係者が多い印象はありますね」
五条の話を聞いたクリスには心当たりがあった。
記憶に残っているのは4カ月前、新生B小町の初ライブ直後に向かった任務で見た被害者達。
被害者全員が芸能関係者で、劇団ララライ*1やソニックステージ*2などの大手事務所に所属していた。
その中には、東京テレビ所属のプロデューサーもいた*3。
その後も定期的に芸能関係者が呪いの被害に遭うケースはあった。元々そういう事が多い業界ではあるが、言われてみれば確かに、例年に比べて明らかに増加している。
「だから今回、テレビ局に潜入して増加した呪霊の討伐と原因の解明を行ってほしい。もしも呪詛師が関与しているなら、その呪詛師の始末まで頼むよ」
これが今回の任務の目的。
もうこれ以上被害者を増やさない為にも、いち早く原因の解明と除去を進める。
その為の潜入捜査である。
「ちなみに被害者増加の原因が東テレ局内に無くて、他のテレビ局や芸能事務所にあった場合はどうします? 必ずしもテレビ局内に呪いの原因があるとは限りませんし。
あと、過去の被害者達が所属していた組織に潜入して、そこで情報収集するのも1つの手ですよ。例えばそうですね、劇団ララライとかソニックステージみたいな大手芸能事務所に潜入するとか」
「そうだね、その可能性も十分にあるから出来る範囲でやってくれると結構捗ると思う。でも、他所に行く時は真っ先に僕に知らせて。上に言ったら何してくるか分かんないし」
「ええ、分かりました。では改めてよろしくお願いします、七海さん」
「こちらこそよろしくお願いします、クリスさん」
こうして、1級術師と特級術師のコンビが誕生した。バックには御三家当主の五条悟がいるという充実っぷり。
この3人のチームにちょっかいを掛けられる相手は中々いないだろう。
「という訳で早速ですが、2人には今すぐ任務に向かってもらおうと思いまーす! あっ、送迎とか準備は全部伊地知に頼んでおいたから、そのつもりで。ほら早く早く!」
「「…………」」
途中までは恰好良い雰囲気が漂って良かったのに、最後の最後で残りの全てを
しかし、これが五条悟クオリティなので七海もクリスもそこはツッコまなかった。
クリス、七海と共に呪いの坩堝の芸能界へ。
クリス「芸能界に潜入ねぇ……兄さんと姉さんの事が心配だし、正直この任務は受けて正解だったかもしれない。後はクソ爺共の動きに警戒しておかないとね」
七海「どうして私までこんな事に……。とはいえ、上が何かしら企んでいるのは間違いなさそうですし、一応警戒はしておきますか。特級術師とはいえ、クリスさんもまだ16の子供ですし」
五条悟「なーんか引っ掛かる気がしないでもないけど、七海もいるしとりあえず大丈夫でしょ。あの2人なら今更呪霊や呪詛師に後れを取るなんて事も無いしね。まっ、何とかなるか!」