呪術の子   作:メインクーン

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前回:母親の事をよく知るお偉いさんとばったり出会ってしまった。

案の定めっちゃ驚かれた。ひょっとしなくても結構ヤバい……?



才能

ADとしての仕事に励む最中。

 

番組撮影のエキストラに抜擢され、急いでロケ地に向かったところ、いきなり鏑木プロデューサーから母親の名前で呼ばれたクリス。

 

 

「何故アイがここに……いや、そもそも彼女は12年前に亡くなったはずじゃ……?」

 

「えっと、違いますよ? 誰と勘違いしてるかは知りませんが、私の名前は摺久野志保です。というか勝手に死人にしないでください。あの、聞いてますかー?」

 

「志保さん、彼はどうしてこんなにも動揺してるのでしょう? 何か心当たりはありますか?」

 

「いえ、毛頭ありませんよそんな事。何か盛大な勘違いをされているのかと。多分この人がよく知る誰かと私が似てて、それでついびっくりしたと予想しています」

 

「なるほど……」

 

 

あまりの驚愕から思考の渦に陥る鏑木。

 

そんな彼にクリスはすかさずツッコみを入れて対処し、疑問を投げかける七海にも知らないフリをして冷静に答える。

 

だが、内心では若干気まずかった。

 

 

(うーわ、マジか。まさかママの事をよく知る人がプロデューサーだったなんて予想外すぎる。あの事件も12年前の出来事だし、今まで全然バレなかったから大丈夫だと思ってたんだけど、しくじったなぁ……。

 まぁ、こうなってしまった以上は仕方がない。鏑木さんには悪いけど、この場は知らぬ存ぜぬを貫き通して誤魔化そうっと)

 

 

すぐに思考を切り替え、鏑木を騙す方向に舵を切る。

 

恐らくアイと何らかの関係があると疑っているであろう相手に、如何にすればこの状況を切り抜けられるか考えを巡らせる。

 

 

「すまない、取り乱した……だけど1つ良いかい? 単刀直入に聞くんだが、志保君はアイ君とどういう関係なんだい? 初対面の人にいきなり聞く内容ではないが、どうしても知っておきたくてね」

 

 

本当に初対面で聞く内容ではない。

 

だが、随分昔に死んだはずの懇意な間柄の女性が、何の前触れもなく目の前に現れたこの状況下。

 

気が動転してつい尋ねてしまうのも仕方が無いと言えた。

 

そう思いつつ、クリスは素知らぬ顔で平然と嘘を口にする。

 

 

「すみません、そもそもアイって誰ですか? まずそこから教えてほしいです」

 

「えっ!? こんなにもアイ君と瓜二つの容姿で、アイ君を彷彿とさせる圧倒的な才能を持っておいて、彼女の事を知らない?

 いやいや、それは流石に無理があるでしょ。何かしら関係があると思うのが普通だって」

 

 

アイの事を知らないフリして誤魔化すクリス。

 

予想とは違う反応に鏑木は一瞬瞠目するが、すぐに疑り深い目で彼女をじっと見やった。

 

やはり一筋縄ではいかない。

 

 

「そう言われましても、知らないものは知りませんのでどうにも……。というか私、テレビ局でバイトしてるただのADですよ? プロデューサーがそこまで言う程の()()が本当にあったら、とっくの昔に芸能界デビューしてますって」

 

「芸能界は実力があるからといって必ずしも注目される場じゃない。むしろ正しく実力を評価してくれる方が稀だ。

 でも、君はそういう理不尽を撥ね退けられるだけの()()を秘めているんだよ。嘗てB小町で絶対的なセンターを務めていた彼女のようにね」

 

「へぇー、そうなんですか」

 

「凄く興味無さそうな反応だね……。でも何というか、そういう塩対応なところもアイ君に似てるよ。彼女も興味の無い事に対してはとことん雑な反応してたから」

 

「そんなのただのこじつけですよ。誰だって興味無いものには冷めた反応するじゃないですか。アイって人や私に限った話ではありません」

 

「あはは、それもそうだね」

 

 

徹底的に嘘を吐いて、時折自虐めいた発言も織り交ぜながらのらりくらりと追及を躱す。

 

何を言っても鏑木は「アイに似ている」と言うが、その特徴も特定の個人に限った話ではないので誤魔化しが効く。

 

とはいえ、やはりアイと瓜二つな容姿のせいで中々疑いは払拭できない。現に鏑木の口は笑っているが、目は一切笑っていなかった。

 

 

(……さて困った、ここからどう疑いの目を躱そう。何かもう面倒臭いし、いっその事開き直って正直に話そうかな? いや、お金欲しさに情報を週刊誌にリークされるリスクもあるから、そんな危ない橋は渡れないか。

 流石に兄さんと姉さんの活動を阻害するのは申し訳ないし……。あーあ、この人が兄さん達とほんの少しでも面識があったら、まだやり様はあったんだけどな。でもそんな事を聞き始めたら、芋づる式にママとの関係がバレてしまう)

 

 

厄介な事になってしまった現状に、面倒臭さと兄姉に対する配慮が心の中で混ざり合い、クリスは頭を抱えたくなった。

 

ただ挨拶を交わしただけでこんなにも話が長くなるとは予想していなかった分、その気持ちは徐々に膨らみを増していく。

 

 

(どういう事だ? これでアイ君を知らないなんて事があるのか? でも嘘を吐いているようには見えない。反応も本気で戸惑ってる感じだ。最近の若い子は殆ど彼女を知らないし、本当の本当に知らない可能性も……)

 

 

一方で、鏑木もクリスの演技を前に、本当に知らないのか嘘を吐いているのか判別できずにいた。

 

しかし、容姿を筆頭にアイと多くの共通点がある彼女に対して、どうしても何らかの関係性の有無を疑ってしまう。

 

 

(とはいえ、やはり似ている。容姿だけじゃない、仕草や反応、声のトーンまでアイ君にそっくりだ。これをただの偶然で片付けられるか? 否、やはり何かしらの密接な関係があるとしか思えないが……どちらにせよ、これは思わぬ収穫だね)

 

 

これでもし本当にアイとの関係が無かったら、アイ以来の途轍もない才能の原石を見つけた事になる。逆に嘘を吐いていたとしても、それはそれで一流の役者と肩を並べる実力と才能がある事の証明になる。

 

関係の有無を聞いたのは、単純にどうしても気になってしまったから。

 

つまり、結論がどちらに転ぼうとも鏑木はすっかりクリスに目を付けていた。

 

 

「まぁいいや。もうそろそろ撮影だし、今はそういう事にしてあげる。……ああ、それと僕の名刺も渡しておくよ。また今度お話を聞かせておくれ、志保君」

 

「そうですね、機会があれば是非喜んで」

 

 

話し込んでいる内に撮影の時間が近付いたので、一旦話を中断してその場を離れる事に。

 

任務とは全く関係の無い、予想外の方向からやってきた面倒事。

 

 

(うわぁ、マジか。ただの新人AD、それもバイトの僕に名刺を渡してきたって事は、つまりそういう事だよね? 

 これで下手に向こうからのお誘いを断ったら、どう誤魔化しても黒って証明する事になるし、参ったなぁ……)

 

 

名刺を渡された時点で、完全に興味を持たれた事を理解したクリスは天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「……はい、カット! OKです! これで撮影は終わりです、お疲れ様でした!」

 

「「「「お疲れ様でしたー!」」」」

 

 

撮影開始から数時間後。

 

エキストラの人数が足りないからと緊急で呼ばれたクリスと七海だったが、特に何の問題もなく撮影は終了する。

 

喫茶店での撮影はクリスが店員で七海が客の役を務め、どちらもやり直しを要求されずに卒なく熟した。

 

店員役のクリスは、台本には無かったセリフを急に言わされる事もあったが、持ち前の才能を活かして難なくこれを切り抜ける。

 

命懸けで嘘を吐く呪術師の経験も役立った。

 

 

────撮影終了後。

 

 

「いやぁ、良かった良かった。とても素晴らしい演技だったよ志保君。多分イケるとは思ってたけど、まさかここまでとはね。君にセリフを振って正解だったよ」

 

「ああ、やっぱりあの急なアドリブ要求は鏑木さんの指示でしたか。どことなく私を見て笑ってたので、ひょっとしてとは思いましたけど」

 

「ごめんごめん、ちょっと君の実力を確かめたくてつい……ね?」

 

 

クリスに目を付けている事を一切隠さず、実力を試すために指示を送ったと述べる鏑木。

 

これにはクリスも苦笑い。勘弁してくれと内心愚痴る。

 

 

「またまた面白い冗談を。実力を確かめたいって……何だかその口ぶりだと私をプロデュースするみたいに聞こえますけど、それは私の勝手な妄想ですよね?」

 

「いや、全然そんな事はないよ?」

 

 

冗談めかして口にしたクリスの言葉を、鏑木は即座に否定する。

 

 

「むしろさっきの演技を見て確信したね。志保君、君には才能がある。やはり僕の目に狂いは無かったようだ」

 

「…………」

 

 

1人で納得してうんうんと頷く鏑木に対し、クリスはその場で固まってしまった。

 

当たってほしくなかった嫌な予感が見事に的中してしまったからだ。

 

 

(だよね、そうだと思ってました! くそっ、こんな事なら下手な演技で場を凍らせるべきだった。そうすれば少しは見る目が変わったかもしれないのに。余計面倒な事になった!)

 

 

なお、下手な演技をしたところで何度もやり直しになるだけであり、そもそも演技の上手い人が下手な演技をすると、逆に違和感があるのですぐ気付かれる。

 

先程も述べた通り、鏑木に目を付けられた時点で、どちらに転んでもあまり効果は無かった。

 

 

「どうだい志保君、これを機にADのバイトから芸能人としてデビューしてみないかい? どこの事務所にも所属してないと思うけど、僕なら大手の優良事務所をいくつか紹介できるよ。そういう伝手は広くてね」

 

「…………」

 

 

そして、追撃となる鏑木プロデューサー直々のスカウト。

 

クリスはただ黙って彼の言葉を聞いていた。

 

 

「君はルックスも才能も実力も非常に高いレベルで備えている。役者でも何でも、やり様によってはすぐに一大ブームが来ても不思議じゃない。何ならアイ君と同じアイドル路線もあるが……どうだい?」

 

 

一瞬、鏑木の目が獲物を捉えた肉食獣のように鋭くなる。が、すぐに柔和な笑みを浮かべてクリスを見つめる。

 

撮影が終わり、機材の片付けやその他の撤収作業で慌ただしい現場の中で、2人の間だけ静かな時間が流れる。

 

それでも既にクリスの回答は決まっていた。

 

 

(いや、こんなの無しの一択でしょ。ただでさえ今の時点で相当疑われてるのに、芸能人デビューとかしたらもっと面倒な事になるの確定じゃん。偽名とかママの事とか色々と。姉さんのアイドル勧誘も結局は断ったんだし、ねぇ……?)

 

 

まぁアイドルと役者のどちらかだったら役者を選ぶかな? などと思いながら、鏑木のお誘いを断ろうと口を開き……、

 

 

「えー、せっかくお誘い頂いたところすみま……」

 

「まぁすぐに結論を出す必要もない。そうだね、来週末あたり寿司でも食べに行こうじゃないか。その時に()()()()考えた末の答えを聞かせておくれ。君の返答を楽しみに待ってるよ。それじゃあ」

 

「…………えっ?」

 

 

断ろうとした瞬間、クリスの言葉を遮るように鏑木の声が重なった。

 

そして、クリスが何かを言い掛ける前に食事へ誘い、何故か「じっくり」の部分を強調したうえで、期待の声を掛けてからその場を颯爽と去って行く。

 

去り際、クリスを見やる鏑木の口角が一瞬上がっていたように見えたのは、果たして気のせいだろうか。

 

真相は定かではないが、クリスはわなわなと震えて立ち尽くしていた。

 

 

(……や、やられたっ! あの人、今、わざと僕の発言と被せてから、無理矢理食事の約束までこじつけやがった! こっちが下手にドタキャン出来ない事を知ってて、止めとばかりに辞退の言葉をへし折った!)

 

 

摺久野志保として活動している手前、下手に出たら完全にしてやられたクリス。

 

そう簡単に逃すつもりはない。そのような魂胆がありありと見える行動だった。

 

後を追うにも、鏑木は予め呼んでいたタクシーに乗って、既に現場を離れている。

 

 

(うっわ、汚ねぇ! 流石は芸能界に長年居座り続けるプロデューサー、呪術師に負けず劣らずの卑怯っぷりだ! 悔しい! でも上手い! 上手いから余計に腹立つんだけどね!?)

 

 

そんな事を考えながら、頬をぷくっと膨らませて苛立ちを表現する。

 

それからしばらく経って、他のスタッフと共に撤収作業を手伝っていた七海がようやく戻ってきた。

 

 

「お疲れ様です志保さん、ようやく片付けが終わりました。さぁ、早くテレビ局に帰って……一体どうしたんですか? 頬なんか膨らませて?」

 

「……いえ、何でもないです。今は早く帰りましょう。事情は後で話しますので」

 

 

首を傾げる七海から顔を背け、変わらず頬を膨らましたままの状態で帰路に就く。

 

厄介事を回避しようとしたら、輪を掛けて厄介な事態に発展した午後の撮影であった────。

 

 

 




何事もなくあっさり危機を回避したかったクリス。しかし、鏑木に完全にロックオンされてしまう。

その一方でテレビ局での調査も順調に進み、終わりを迎える時が……。
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