呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「呪霊倒したらヤバいもの出てきた」

呪いの王「面白い女だ、真っ先に殺してやる」



思惑

東京テレビ局地下の下水道から離れ、呪術高専東京校にて。

 

 

「うん、一通り検査したけど特に異常は見られないね。その人、明日には家に帰って問題ないよ」

 

「分かりました。態々こんな遅くにありがとうございます、家入さん」

 

「いいよ、仕事だし。それにクリスの頼みだ、これくらい朝飯前さ」

 

 

呪霊の被害に遭った片寄ゆらを連れて保健室に駆け込んだクリスは、高専専属の医師の家入硝子から検査結果を聞いていた。

 

家入硝子は五条悟や夏油傑と同期の術師。他人に反転術式を施せる唯一無二の術師で、呪術高専を陰で支える屋台骨である。

 

クリスとの交流も長く、その付き合いは今年で12年にもなる。歳の離れた同性という事で何かと気に掛けてもらい、家入とはとても仲が良い。

 

 

「だってさ、良かったね片寄さん。明日から問題なく仕事復帰できるよ」

 

「いや、あんな目に遭った後で仕事に戻れと言われましても、その、とてもそんな気分じゃ……」

 

「ま、それもそうか。呪霊に襲われたのも人が死ぬ瞬間を見たのも殺されたのも初めてだもんね。普通に話せてるから忘れがちだけど、精神的にヤバいのは無理もないか」

 

「あはは、最初から分かってるなら言わなければ良いのに。クリスもあいつに似てデリカシーないね」

 

 

まだ傷心中の片寄に鬼畜な発言を口にするクリスと、それを軽く笑って流す家入。

 

他2人とのテンションの落差が激しすぎるため、片寄は居心地が悪そうな顔ですっかり縮こまっていた。

 

そんな彼女の内情などお構いなしにクリスは話し掛ける。

 

 

「で、これからどうするの? 今夜はここで一泊して、明日から仕事復帰するのは大変ってなると、しばらく休む感じかな?

 あ、言っとくけど今日起こった事は無闇矢鱈に言いふらしちゃ駄目だからね。規定で秘密にするようにって言われてるから。休む理由聞かれたらそれっぽい嘘で適当に誤魔化して」

 

「は、はぁ……そうですか。まぁ大丈夫ですよ、私も周りに言いふらすような真似はしませんから。あまり思い出したくありませんし。

 仕事に関してもそうですね、しばらく休んでから仕事に復帰しようと思います。3カ月……長くても半年くらいかな。その間に気持ちを整理して何とかするつもりです」

 

 

クリスに仕事の事を聞かれ、しばらく仕事を休む旨を片寄は伝えた。

 

件の惨状を目の当たりにした後で半年以内の復帰を考えるのは相当凄い事だが。

 

と、ここで家入から横槍が入る。

 

 

「あ、でも今後どんな影響があるか分からないから、暫くはここへ通うように。現時点では異常がないってだけだから。安易に病院に頼る事も難しいからね」

 

「あっはい、分かりました。えっと……週一くらいで通えば良いですか?」

 

「月一で構わないよ。でも何かあったらすぐに連絡しな。1人で抱え込もうとすると今度こそ死ぬと思った方が良い」

 

「な、なるほど。肝に銘じておきます」

 

 

真剣な表情で話す家入の忠告を聞いて、片寄は緊張した面持ちでこくりと頷く。

 

 

「じゃあ明日の送迎は僕がやるよ。もう任務完了の報告は済ませたし、明日はテレビ局のバイトもなくて時間あるから」

 

「そうかい? じゃあ頼むよクリス。君なら都内の送迎も一瞬だしね」

 

「それって、ここへ行く時にクリスさんが見せた瞬間移動……の事ですか?」

 

「そうだよー、あれ驚いたでしょ? 僕レベルにもなるとああいう事も出来るんだぜ」

 

 

下水道を抜けて高専に向かう際、クリスは瞬間移動して片寄を連れてきた。

 

初めての瞬間移動を体験した片寄は、それはもう凄まじい狼狽えぶりで混乱した。その後クリスの説明を聞いて大量のクエスチョンマークを浮かべたのは無理もなかった。

 

 

「……呪術って、本当に何でもありなんですね」

 

 

ほんの少し前の出来事を鮮明に思い返し、片寄はどこか遠い目でクリスを見やった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

その後、片寄を寝かせた後で五条と七海の2人と一堂に会し、クリスは改めて今回の任務結果を報告した。

 

 

「……という訳で、原因と思われる特級呪霊はきっちり祓いました。いやー、あのタイミングでの領域展開にはびっくりしました」

 

「なるほどね、よく分かったよ。ちょっと癪だけど、結果的に爺共の采配は正解だったみたいだね」

 

「確かにそうですね。私では確実に殺されていたでしょう。会話ができる高度な知能に毒針を飛ばす術式、極め付けに領域展開まで使う蜂の呪霊。正しく特級だ」

 

「でも流石はクリス、僕の一番弟子ってとこだね。相手に領域展開されても、簡易領域も領域展開もせずに倒すんだから」

 

「えへへー、それほどでも。もっと褒めてくれても良いんですよ?」

 

 

任務の結果を報告してから、五条と七海にべた褒めされてにんまりと嬉しそうな顔を綻ばせるクリス。

 

信頼も信用も尊敬もしている2人の大人からの賛辞を受けて、クリスはすこぶる上機嫌になっていた。

 

しかし、それと同時に疑問も残る。

 

 

「それにしても……結局上層部の企みって何だったんでしょうね? 大した事もなく片が付きましたけど」

 

「んー、まぁ良いんじゃない? もう過ぎた事だし、これ以上考えてもしょうがないでしょ。それも元を辿れば僕の予想なわけでさ、あいつらも偶には真面目に仕事する時があるから。マジで偶にだけど」

 

 

テレビ局潜入前に3人で語り合った、お得意先にすこぶる仲の悪いクリスを派遣させた理由について。

 

その時は上層部が確実に何か企んでいて、クリスを罠に嵌めようとしているかもしれないと考えていた。

 

 

「我々の考え過ぎって事ですか。どうにも不安は拭えませんが、確かにこれ以上考えても答えは出ない気がしますね。クリスさんはどう思いますか?」

 

「そうですねぇ、うーん……2人がそこまで言うならもう良いですかね。クソ爺共の事を深く考え過ぎてもストレスになるだけですし」

 

 

だが、結局何も起こらず原因を祓い終えたので、3人はそこで考えるのを止めた。

 

実際、遭遇した呪霊は特級術師クラスでないと厳しい化け物だった。そのため「今回ばかりは真面目にクリスの実力を評価して派遣したのでは?」という、何ともらしくない事まで思い始めていた。

 

 

「本当、何だったんでしょうかね。でもやっぱり何か引っ掛かる気がしないでもないような……」

 

「うーん……そうだよねぇ」

 

「こればかりは2人と同感ですね」

 

 

その後も結局、翌朝まで腑に落ちる回答の出せない3人であった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

一方その頃、東京都内某所。

 

とあるマンションの一室にて、謎の3人組がテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

3人の目の前には大型の液晶テレビが台の上に設置されており、とある映像が流れている。

 

その映像を見ていた3人の内の1人。

 

ぱっと見で30代くらいに見える女性は、やや短めの黒髪に黒で統一された質素な服装、これといって大きな特徴もなく、どこにでもいる普通の外見をしている。

 

 

────額を横一線に分断する、縫い目のある痛々しい傷痕を除けば。

 

 

「いやー、やっぱり強いね彼女。流石は次点最強、五条悟の一番弟子なだけはある」

 

 

外見にそぐわない口調で語る彼女は、感心したように笑っていた。

 

今年発売されたばかりの液晶テレビには、クリスが職蜂と超高速で戦う様子が大画面で映し出されている。

 

映像だけ見れば、とても精巧なCGで製作されたアクション映画か何かに思える。

 

だがこの場に集まる3人は、その映像が呪術的な技術で撮影されたものである事を知っていた。

 

 

「あら、あの子相当やるじゃない。私達がいた時代にあれ程の術師って何人いたかしら?」

 

「少なくとも宿儺様ほどではないな。とはいえ、平安の世にあれがいたら確実に面倒だったのも確かだ」

 

 

額に縫い目のある女性の言葉に反応する2人。

 

1人はワンレンロングの黒髪で磨呂眉の美人であり、何故かマイクロビキニ以外何も着用していない際どい恰好をしている。

 

もう1人は赤が混ざった白髪のおかっぱ頭が特徴的で、非常に端正な顔付きをしており、高級感溢れる着物を見事に着こなしている。

 

 

「はは、そうだね。2人の言う通り、テレビに映ってる彼女の名は星野クリス。4人しかいない特級術師の1人で現代最強の五条悟の一番弟子だ。個人的な見解だが、彼女も宿儺と一対一で戦える実力があると思うよ」

 

「それは本当か? だったら我々で今の内に排除した方が得策だろう。宿儺様のお手を煩わせる訳にはいかない」

 

「その意見に賛成。この私が宿儺に愛を教えて正妻になる予定なのに、それをあんな小娘1人に邪魔されるなんて御免よ。さっさと殺しちゃいましょう」

 

 

何やらとても物騒な言葉を羅列する2人だが、ビキニ女の言葉に着物の人が敏感に反応し、敵意剥き出しで鋭く睨み付けた。

 

 

「黙れ下﨟。宿儺様に対してそれ以上下らん妄言を吐き続けるなら、まずは貴様から殺してやるぞ」

 

「ふっ、あなた如きが私を殺す……ですって? 世迷い言もここまで来ればお笑い物ね。良いわ、返り討ちにしてあげるから」

 

「まぁまぁ落ち着きなよ。ここで暴れられたらこっちが困るし、今はぐっと我慢して協力してほしいな。頼むよ裏梅(うらうめ)(よろず)

 

 

いやはや参ったねと言いながら、軽薄な笑みを浮かべる女性。

 

一方で、先程まで醜く言い争っていた裏梅と呼ばれた着物の人と、万と呼ばれたビキニの人は、争いを止めて互いに冷ややかな視線を女性に向ける。

 

 

「で、結局どうするのだ羂索(けんじゃく)? あれ程の特級呪霊を一方的に祓えるやつだ。早急に手を打たんと面倒な事になるぞ」

 

「平安の世を再び作るとか何とかこの前言ってたけど、あんなのにちょこまか動かれたら埒があかないわ。3人で一気に叩きましょう」

 

「そういう訳にもいかない。先程も言ったが、星野クリス1人だけで宿儺と十分に渡り合える実力があるんだ。残念だが、私達で一斉に攻めたところで返り討ちに遭うのがオチだよ」

 

 

一刻も早くクリスという脅威を取り除くべきだと主張する2人を制して、羂索と呼ばれた女性はその考えに待ったをかける。

 

画面に映されたクリスの戦闘から、1人だけ彼我の実力差を敏感に察知していた。

 

 

「だが、星野クリスの実力をより正確に把握するために、宿()()()()()()()()()()()()特級呪霊を態々ぶつけて戦わせたのだろう? 今ので十分あの女の実力は知れたはずだ。だったら何らかの対抗策を講じれば勝機はある」

 

「あの小娘の戦い方は理解したし、仮に領域展開が可能でも羂索の領域なら普通に押し勝てると思うけど? 一体何をそんなに恐れているの?」

 

 

宿儺の事が少しでも絡むと相手との実力差関係なく攻撃的になり、周りが見えなくなる2人。

 

頑なにクリスと戦う事を避ける羂索の態度に少々苛立ちを見せていた。

 

それでも羂索は至極冷静な思考で2人に説明する。

 

 

「2人とも熱くなり過ぎだよ。全く、宿儺の事が絡むとすぐこうなるんだから。良いかい? 確かに星野クリスの実力を把握するため上層部に指示を出して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を私は取った。

 でも、今回はそこまでだ。もしここで下手に星野クリスを急襲するとどうなる? 返り討ちに遭うだけならまだ良い。だが最悪の場合、五条悟がこちらの居場所を特定して直接攻めてくるかもしれない。それだけは絶対に避けたい」

 

「だからこのまま大人しく待機するって事か?」

 

「ああそうさ」

 

 

今ここでクリスを襲おうとしない理由。勿論、そもそもクリスが強すぎて倒せる見込みがないからというのもある。

 

そしてもう1つ。偏に五条悟がバックにいるから。

 

 

「今このタイミングで彼に来られるのは厄介なんてものじゃない。星野クリスは五条悟、ひいては五条家と太いパイプがある。長年の付き合いで五条家の多くに顔が知られている程だ。

 そんな彼女がもし何者かに襲われたとなれば、五条家がこちらの存在を察知して追う可能性がある。そうなると必然的に、私が裏で上層部を操っている事もバレてしまうだろうね。そうなると計画が全て台無しだ」

 

「ふーん、そういう事だったの。どうやら1000年生き続けて随分と臆病になったようね。あなた本当にあの羂索?」

 

「まっ、私にも色々とあったのさ。これくらいは大目に見てほしいね。天元が星漿体(せいしょうたい)との同化に失敗した今が長年の悲願を達成できる絶好のチャンスなんだ。そりゃ慎重にもなるよ」

 

 

やれやれと溜め息を吐いて肩を竦める羂索。

 

それを見た裏梅と万も彼女の溜め息が伝播したのか、呆れたように嘆息した。

 

 

「まぁとにかく、彼女との直接的な接触は出来るだけ避けてもらいたい。それに、これからやる事はたくさんあるからね。2人には是非とも協力してほしい。宿儺の完全復活のためにもね」

 

 

とは忠告するものの、直接会わないように気を付けてほしいだけで、何もするなとは一言も言っていない。羂索も今後機会があれば色々と罠を仕掛けるつもりでいる。

 

目の前の2人が果たして律儀にクリスを襲わないかどうかは分からないが。

 

 

「……まぁ良いだろう。これも宿儺様のためだ、貴様の計画に少しは助力してやる。少しはな」

 

「良いわよ、私も宿儺と結婚するために出来る限り協力してあげる。あなたと結んだ縛りの事もあるし。でも、もし宿儺復活が嘘なら容赦しないから。良いわね?」

 

「ああ、分かってるさ」

 

 

最終的な目的は違えど、どちらも宿儺復活のため羂索に協力する事を誓った。

 

ドスの効いた声で詰め寄る2人の圧は、常人ならば恐怖のあまり失神する事請け合いだが、羂索はそよ風の如く平然とそれを受け流す。

 

そうして話が一通り纏まったところで、羂索は早速指示を出した。

 

 

「それじゃあ今後の行動について話そうか。まず裏梅には呪霊操術を持つ特級呪詛師、夏油傑の偵察を私の代わりに行ってほしい。彼が私の計画を推し進める最も重要な鍵となり得るからね。常にあちらの動向を把握しておきたい」

 

「分かった、良いだろう。夏油傑の偵察だな」

 

 

五条悟の唯一の親友であり、クリスにとってもう1人の師匠である夏油傑。

 

最悪の呪詛師と呼ばれる彼の偵察を裏梅は任された。

 

そしてもう1人。

 

 

「それで、万にはある呪物を作ってもらいたい。多少時間が掛かっても良いから、出来るだけクオリティの高い物が欲しいんだ。1人だとかなり大変だから、私も製作に協力するよ」

 

「良いわよ。で、作ってほしい物って? 私の手に掛かれば殆どの物は作れるけど」

 

「大した自信だね、とても頼りになるよ。それじゃあ改めて頼むけどさ……」

 

 

五条悟と星野クリスという呪術界の二大巨頭が君臨する現代。

 

1人では心許ない戦力の増強と、呪力を物質に変換して物を創造する構築術式で作ってほしい物があるため、羂索は適当な一般市民を攫って受肉させ、一足先に万を現代に復活させた。

 

そのような判断をした羂索が、彼女に時間を掛けてでも作ってほしい物。

 

それは……、

 

 

獄門疆(ごくもんきょう)って複製できる?」

 

「……はっ?」

 

 

 




呪術廻戦の不幸の9割ってメロンパンが原因だと思うんだ。この作品内でもそんな感じ。

あれに比べるとカミキのやってる事って可愛い物だなと思ってしまう。いや全然良くないけどね?


Q.もし特級呪霊の存在が呪詛師によるものだとバレたらメロンパン結構ヤバかったのでは?

A.現在、夏油傑とカミキ某が芸能界の裏で暗躍してる事をメロンパンは知っていたので、仮に呪詛師の存在がバレたとしても夏油に疑いの目が向くようにちゃんとカムフラージュしてます。というか、そのために上層部を操作してクリスにテレビ局潜入の任務を課した。


Q.宿儺の指を実験で使われて裏梅は怒らないの?

A.ぶっちゃけ腹立ってるけどメロンパンいないと宿儺復活も難しいのでぐっと堪えてる。我慢できて偉い。
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