呪術の子   作:メインクーン

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前回:
メロンパン「獄門疆を作ろう。私との共同作業だ」

ストーカー術師「嘘でしょマジで言ってるの?」

メロンパン「大丈夫、準備は出来ている。実はちょっとした便利ツールもあるんだ」

なお、オリジナルには”裏”がある事を知らない模様。



任務終了 その後

特級呪霊との戦闘を終えた数日後。

 

週末、昼過ぎにて。

 

 

「大変お世話になりました。治療して下さりありがとうごさいます、家入先生」

 

「良いんですよ片寄さん。1カ月後の定期検査でまた会いましょう」

 

「はい!」

 

 

治療を負えてすっかり回復した片寄は、高専の入口前で見送る家入に深々と頭を下げた。

 

結局、彼女の精神的な状態を考慮して、事件発生から数日経った今日まで退院は先送りになっていた。

 

ただ、どうやらこの数日の間に片寄と家入はすっかり打ち解けたらしく、今度プライベートで飲みに行く約束までしたという。

 

そんなやり取りを見届けた後、クリスは片寄の肩にポンと手を置いた。

 

 

「よし、それじゃあ戻りましょうか。片寄さん、家の近くに瞬間移動するのでしっかり捕まってくださいね」

 

「はい、お願いしますクリスさん」

 

「行きますよー……それっ!」

 

 

こうして呪術高専から、片寄の家がある都内マンションの前まで瞬間移動した。

 

 

────瞬間移動の発動には条件があり、移動したい場所に予め呪力でマーキングする必要がある。

 

そのポイントは都内の至る箇所に設置されているが、その多くが路地裏や廃墟の中など、人目の付かない場所となっている。

 

呪術高専を基点に張り巡らされたこのネットワークにより、クリスは空を飛んで移動せずとも直ちに現場へ駆け付ける事が出来る。

 

 

「おおー! 瞬間移動はこれで2度目ですけど未だに信じられませんね。あっという間に見慣れた街並みだぁ」

 

「えへへー、凄いでしょ!」

 

 

そのポイントの内の1つが片寄の家と近いため、本来数時間掛かるはずの移動時間が僅か1分以内に短縮された。

 

ちなみに、マーキングされたポイントは都内に限定されておらず、日本国内の重要な拠点や海外にも幾らか設置されている。

 

京都にある五条悟の実家もその内の1つだ。

 

 

「さぁさぁ、どうぞ上がって行ってください。手料理でも何でも振る舞いますよ。私、こう見えても料理得意なんです」

 

「おっ、良いっすねぇ。じゃあお言葉に甘えて頂きましょうか。作る物はそちらのお任せで」

 

「ええ、任せてください」

 

 

先日は散々な目に遭い、すっかり憔悴しきっていた片寄。

 

だが、この数日で家入やクリスと何だかんだで打ち解けたお陰か、雑談できる程度まで精神が回復していた。クリスに対する恐怖心も今では殆ど無くなっている。

 

とはいえ、それはあくまで表面上の物なので、どの道数カ月の精神的な療養期間は必要だが。

 

 

楽しく話しながらマンションの敷地に入り、エレベーターで昇っていく。

 

そんな時だった。

 

 

「にしても高いですねこのマンション。片寄さん家ってどこにあります?」

 

「私の家は15階の一番端っこにありまして……って、あれ?」

 

「どうしました……おお?」

 

 

15階まで昇り、家まで歩いていると謎の男が廊下の端に立っていた。

 

その男は厚手のコートを着込んでジーパンを履き、サラサラの金髪を後頭部で一つに纏めてオールバックにしている。

 

サングラスを掛けているため素顔は分からないが、とても穏やかそうで落ち着き払った雰囲気が感じ取れる。

 

男は片寄の家の玄関前に立ち、困ったような表情を見せていた。

 

 

と、それを見た片寄が声を上げた。

 

 

「あっ、ミキさんだ! こんにちは!」

 

「ミキさん?」

 

 

どうやら片寄は男の事を知っているようで、笑顔で手を振りながら駆け寄っていく。

 

クリスが首を傾げる中、男の方も片寄の声に反応して顔を向けた。

 

そして片寄の姿を確認した瞬間、ほっとしたように胸を撫で下ろし、柔和な笑みで手を振り返す。

 

 

「ゆらさん、今までどこにいらしたんですか!? 何度連絡しても全然返信が返ってこないから、心配して家まで訪ねに来たんですよ?」

 

「あー……そ、それは本当にすみません。でもこれにはちょっとした訳があって……」

 

 

数日前の事については箝口令が敷かれている以上、正直に事の経緯を打ち明ける訳にもいかず、片寄は困った顔で言葉を詰まらせた。

 

その一方で、ミキさんと呼ばれた男は片寄の後ろに立つクリスの存在に気が付いた。

 

 

────一瞬、ほんの僅かだが彼の口角が上がる。

 

 

しかし、その刹那的な表情の変化をクリスは見ていなかった。

 

どう説明しようか迷う片寄に、そっとアドバイスしていたからだった。

 

 

「……まぁ、説明は後で構いません。ところでゆらさん、後ろにいる方はどちら様で?」

 

「えー、この方は星野クリスさん。色々あって知り合った子だよ」

 

「初めましてー! 星野クリスでぇーす! 誰だか知りませんがよろしくお願いしまーす!」

 

 

名前を聞かれ、片寄からの紹介の後にテンション高めの挨拶を行うクリス。ピースサインした手を顔に翳してウインクを飛ばし、しっかりと決めポーズまで取る。

 

初めて会う相手に対して失礼極まりない態度だが、これが彼女の通常運転である。

 

そんな挨拶を目の当たりにした男はというと、特に驚いた様子はなく、ニコニコと優しげな顔で口を開く。

 

 

「初めまして、星野クリスさん。カミキヒカルと申します。以後お見知りおきを」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

────それから10分後。

 

 

「なるほど……ストレスで体調を崩していたんですか。それで療養のために暫く仕事を控えたいと。確かにゆらさん、よくバーで愚痴溢してましたもんね。皆から雑に扱われてる感じがするって」

 

「ええ、まぁ……とはいえ大丈夫。病院の先生もしっかり休めばすぐに復帰できるって言ってたから」

 

「そうは言っても油断は禁物です。仕事によるストレスの影響は計り知れません。少し長めの療養期間を取った方が良いかと」

 

「うう、その優しさが心に沁みる……ありがとうミキさん」

 

「あはは、これくらい全然ですよ。そうだ、今度飲みに行きませんか? また愚痴を聞かせてください。少しはスッキリすると思いますから」

 

 

嘘の事情を聞いたカミキは、納得した様子で首を縦に振った。

 

 

クリスと片寄が考えた嘘とは、数日前に片寄がストレスで体調を崩して倒れたというもの。

 

クリスと知り合った経緯も、片寄が道端で倒れていたところを見つけて病院に運んだからであり、今日は助けてくれたお礼に自宅へ招いたと偽る事に。

 

一切連絡しなかったのは、スマホを無くしてしまって連絡を取る手段が無かったから。恐らく倒れた際に落としてしまった、という説明も付け加えた。実際、呪霊にスマホを破壊されていたのであながち間違っていない。

 

 

という感じで、半分真実を織り交ぜながら上手く呪術の事を隠し、多少内容に矛盾があっても納得できる範囲の説明をでっち上げた。

 

 

「クリスさん、ゆらさんを助けてくれてありがとうございます。彼女は僕の大切な友人なんですよ。仕事でもプライベートでも良く交流がありましてね。だから今、彼女が無事でほっとしています」

 

「あっはっは、何のこれくらい。別にどうって事ないですよ。僕に掛かれば人命救助もちょちょいのちょいなんで」

 

 

カミキに頭を下げてお礼を言われ、クリスは自慢げに胸を張って強気の言葉を口にする。

 

それを優しげな表情で静かに見つめるカミキは何を思っているのか。サングラスを取って露わになった糸目から、彼の感情を読み取るのは少々難しかった。

 

 

「あそうだ、良かったらミキさんもどう? これからクリスさんに手料理を振る舞おうと思ってて。一緒に食事する人が多いと楽しいし」

 

「おっ、良いっすねそれ! ね、ミキさんもそう思うでしょ?」

 

「……そうですか? では御二人のお言葉に甘えて僕も頂きましょうか。昼食はまだだったので」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

更に1時間が経過した。

 

 

「全くもー! もやもやするよー!」

 

「あはは……」

 

 

大量の料理がテーブル上に並ぶ中、ビール缶を片手に片寄は盛大に愚痴を溢す。

 

昼間からビールをがぶ飲みする彼女を、向かい側に座るカミキは何とも言えない表情で見ていた。

 

 

「ここ1年で順調に仕事が増えてきてさ、そりゃ嬉しいよ? 嬉しいけど人使いが荒くないかな!?」

 

「まぁまぁ、そう言いましても皆さんお忙しいですし……」

 

「でもでも! いつもスケジュールだけ先に抑えられて、具体的に何の仕事するとかは一切決まってないんだよ? 冷静に考えておかしいでしょ!」

 

「あー、とはいえドラマではよくある話ですからねぇ。僕も役者時代の頃にそういう経験はありましたけど、当時は仕方がないって割り切って動いてたなぁ……」

 

「あれ本当にどうにかしてほしいよー」

 

 

役者あるあるの話をカミキと語り合い、大変だよねーと言いながら酒をグイッと飲み干す片寄。

 

既に彼女の周りには空になったビール缶が数本転がっているが、それでも飲むペースは留まるところを知らない。

 

そしてそれは、隣に座るもう1人も同じだった。

 

 

「分かるわー。その気持ち超分かるわー。僕も学校の()()でよく色んな場所に行くけどさ、いっつも前日の夜とか当日の昼になって急に決まるんだよ! しかも何をするかは日によって変わるし……生徒を何だと思ってるんだ全くもう!」

 

「そうだそうだ! 一刻も早く私達の労働環境を見直せー!」

 

「組織のトップはもうちょっと下の人の事を考えろ! 人の心とかないんか?」

 

 

片寄と同様にクリスも、普段の任務を熟す日々に対して愚痴を溢していた。

 

カミキがいるので呪術の事はぼかし、任務の事も実習と称して誤魔化しているが、言える範囲内で最大限の文句を声に出す。

 

 

その手にビール缶を握り締めて。

 

 

「あのークリスさん? あなたが飲んでるそれ、生ビールですよ? がっつりアルコール入ってますけど? それにさっき自ら学生と言ってたし、どう見ても10代にしか見えないんですが……」

 

「えっ、何て? ミキさん今何か言った?」

 

「…………いえ、何でも。どうぞお好きに飲んでください」

 

 

酔っ払ったクリスの圧に気圧され、カミキは何も言わなくなった。

 

彼の表情は引き攣っていた。

 

 

「はーい! んぐっ……んぐっ……ぷはぁーっ! いやー、このビール結構イケるね! のど越し爽やかで何本でも飲めちゃうかも!」

 

「そうでしょクリスちゃん! このビール私の一押しなんだよねー!」

 

「「イエェェェェェーイッ!!」」

 

「ヤバいなこれ、2人ともすっかり酔っ払ってテンションがおかしくなってる……」

 

 

完全に出来上がった2人を見て、もう知らないと何も触れない事にしたカミキは、終始ドン引きした顔で騒ぐ2人を眺めた。

 

だが、決して触れないようにそっと離れるカミキの行動をクリスは見逃さない。

 

 

「ちょっとミキさん、あなたもビール飲まないの!? さっきからお茶ばかり飲んで、それじゃつまんないでしょ!」

 

「いやいやクリスさん、僕は遠慮しておきますよ。どうも昼間からお酒を飲む気にはなれなくて……」

 

「えー? 全くもう、しょうがないなぁ。それじゃあビールの代わりにこれでも食べてどーぞ!」

 

「えっ、何ですかそのクッキー? 何というか妙に赤い気が……もごっ!?」

 

「はいもう遅ーい! ノリの悪いミキさんにはこの『ハバネロ入り激辛クッキー』でも食べててくださーい!」

 

「────ッ!? ────ッ!!??」

 

「ぎゃははははははーっ! ミキさん面白ーい! リアクションが僕の兄さんとマジで一緒なんだけどぉー! 超ウケるぅー!」

 

 

片寄の自宅で繰り広げられる馬鹿騒ぎ。

 

アクアの時と同様、激辛クッキーをいきなり口の中に押し込まれたカミキは、舌を襲うあまりの激痛に顔を真っ赤にし、涙目になる。

 

そのリアクションを見たクリスは、兄さんと同じだと腹を抱えてゲラゲラ笑う。酒に酔っている事もあり、これまで以上のゲス顔を浮かべていた。

 

隣で見ていた片寄も普段通りならドン引きしていたが、同じく酔っ払っているこの時ばかりは涙を流すカミキを大声で笑う。

 

 

「あっはははははー、ミキさんもそんな顔するんだ! 超意外だなー!」

 

「だよねー! いやー、ミキさん見ていてマジで面白いわー! 弄り甲斐があるねぇ!」

 

「そうだクリスちゃん! もし良かったら今度も一緒に飲みに行かない? 家入さんと飲みに行く約束してるんだけど、そこにクリスちゃんとミキさんも加えてさ!」

 

「ゆらちゃん、それは”アリ”だ。僕も良い店たくさん知ってるんだよねー! じゃあそれで決定で! ミキさんも良いよね? 約束だよー?」

 

「え、えぇ……嘘でしょう? ゲホッ、ゴホッ!」

 

「あれ、約束といえば……そういや今日、なーんか大事な事を忘れてるような気が……まぁ良いか!」

 

「よしクリスちゃん、今日はこのまま朝まで飲み明かそー!」

 

「おーっ!!」

 

 

その後、酒癖の悪いクリスにこれ以上付き合いきれないと判断したカミキは、逃げるように片寄の自宅から去って行った────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、都内の高級寿司店では。

 

 

「……うーん。志保君、全然来る気配がないなぁ。さっきから何度連絡しても反応無いし……これはどうやらドタキャンされたようだね。

 まぁ、流石に勧誘が強引すぎた自覚はあったし……まっ、しょうがないか。アイ君と瓜二つだったから、後々アクア君にも紹介しようと思ってんだけどね」

 

 

週末、一緒に寿司を食べに行こうと約束していた鏑木は、1人ぽつんとカウンター席に座って待っていた。

 

 

 




この時のカミキ某は原作109話の時と同じ姿です。糸目でオールバックでただの優男にしか見えない感じ。


鏑木P「あれっ、しれっとドタキャンされた? マジかー……」

アクア「東ブレで知り合った姫川さんが俺の異母兄弟だった。いずれルビーとクリスにも紹介するつもりだ。そして肝心の父親は既に死んでいた。良かった、これでやっと復讐を終えられる」

片寄「酒美味しー! ミキさん優しい―! クリスちゃん気が合うねー!」

クリス「ミキさんってどことなく兄さん(アクア)に似ているような気がするなー。まぁ気のせいかー」

ミキさん「星野クリス……アイと瓜二つ、まさに生き写しだ。流石は僕と君の子だよ」
→「えっ、何この子? 思ってたのと違うんだけど。ひょっとして僕よりヤバい感じ……?」
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