呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「ビールうめぇ! ほらミキさんも飲んで!」

カミキ「あはは……帰って良いですか?」



年末の家族旅行

片寄ゆらの自宅で片寄とカミキヒカルの3人で食事をし、カミキが帰ったその後、宣言通り朝までビールを飲んで一晩過ごしたクリス。

 

朝になって二日酔いに苦しむかと思いきや、術式反転『還』の力で酒に酔う前の状態まで肉体を巻き戻し、アルコールを体内から排除した。

 

片寄にも同様の力で肉体を巻き戻し、二日酔いを防止する。

 

そして帰り際、彼女にある物を渡した。

 

 

「クリスちゃん、これは……?」

 

「これは御守り。僕のお手製だよー」

 

 

片寄の手に握られているのは、掌にすっぽり収まるサイズの小さな御守り。呪いの被害を受けた者はその後も呪いの被害に遭いやすい傾向にあるので、そのための対策だった。

 

だが、その効果は特級術師のクリスが作っただけあり絶大である。

 

 

「それには僕の呪力が込められた呪符が入ってる。ゆらちゃんのために三日三晩掛けて丹精込めて作ったんだ。それを肌身離さず持ってるだけで1級以下の呪霊は近寄れなくなる。流石にこの前戦ったような特級呪霊は無理だけどね」

 

「す、凄い……ありがとうクリスちゃん! 無くさず大切に持っておくからね!」

 

「うん、マジで無くさないでよ? それ普通に売ったら5000万は下らないから」

 

「……も、ものすごーく大切に持っておくからね」

 

 

クリスから聞かされた衝撃的な値段に、片寄は目を剝いて驚愕する。

 

絶対に無くさないようにしようと心の底から誓うのであった。

 

 

「それじゃあバイバイゆらちゃん。また今度も居酒屋で会おうね」

 

「うん、バイバイクリスちゃん! 何から何まで本当にありがとう! 元気でね!」

 

 

また飲みに行く約束をした2人は互いに笑顔で手を振り合い、玄関先で一旦の別れを告げる。

 

こうして、テレビ局の潜入捜査から始まったクリスの長期任務は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

それから数週間が経ったある日。

 

12月に入り、年末が近付いてきた今日この頃。

 

 

クリスは約5カ月ぶりに実家へ帰省した。

 

 

「ただまー! おら出合え出合え! クリス様のお帰りじゃー! 全員頭を垂れて平伏せよ!」

 

「「いやぁあああああああ! 帰って来たぁあああああああーっ!」」

 

 

今回もまた何の前触れもなく自宅へ帰ったクリスだったが、開口一番2人の悲痛な悲鳴が上がった。

 

ちょうど事務所に来ていた有馬とMEMちょの悲鳴である。どうやら夏休み中に一緒に過ごした日々がトラウマになっているようだった。

 

そんな彼女らとは裏腹に、クリスを出迎えたのはアクアとルビーの2人。

 

 

「おかえりクリス。相変わらず破天荒な実家帰省だな」

 

「ねー。先輩もMEMちょもすっかり怯えちゃってるし」

 

「あっはっは、それほどでも!」

 

「いや褒めてねぇよ」

 

 

そんな軽いやり取りを交わしながら家に入り、持ち帰った荷物を置いてソファーに座る。

 

ルビー含む新生B小町の3人がさっと仕事に戻る中、クリスはお土産で買ってきた和菓子を口一杯に頬張った。

 

ふぅと一息吐いてだらけるその姿は、さながら会社帰りのおっさんの様で、本人のルックスと相まって違和感が凄まじい。

 

 

「お前本当に……いや何でもない」

 

「ん? どうしたの兄さん?」

 

「大丈夫だ、気にしないでくれ」

 

「そう? ふーん……」

 

 

アクアが何か言いたげな顔で見ていたが、打ち明けたところで面倒だと思ったのか直前で言い淀んだ。

 

それには興味を示さなかったクリスだったが、一言二言交わしてある事に気付いた。

 

 

「何というか兄さんさ……前より少しだけ雰囲気変わった?」

 

「……何の事だ?」

 

「いやまぁ、何となくだけどさ? 今まで凄くギラギラした目をしてたじゃん? 俺には大きな野望があるんだー的な感じの。

 でも今はそれが無くなってるというか……丸くなった感じがするんだよね。何かあったの?」

 

 

5か月ぶりに再会したアクアが丸くなっている感じがした。

 

というよりも、以前の明るいアクアに戻っているような気がした。ここでの「以前の」というのは、星野アイがまだ生きていた時の事を指す。

 

母親の死後、アクアは人が変わったように暗くなり、それがずっと続いていた。だが、その翳りが会わなかった5カ月の間で殆ど消えていた。

 

だからこそ気になって聞いた。

 

 

「……そうだな。何かあったといえばあったな」

 

「それって良い事だったりする?」

 

「ああ、とても良い事だ。実はこの前、姫川大輝っていう劇団ララライの役者と仲良くなってな。いずれお前にも紹介するよ」

 

 

姫川大輝という名前にクリスは聞き覚えがあった。

 

 

「姫川大輝……聞いた事はあるよ。よくドラマの主演とかやって色んな賞を取ってたし。確か東ブレの舞台でも主役を務めてたよね? 仲良くなれたのは良いんだけど、どうして僕にも紹介するの? 僕全然関係なくない?」

 

「いや、関係あるよ。お前にとってもな。良かったら今度会いに行ってみると良い。素直に喜んでくれると思うから」

 

「ふーん……」

 

 

何の事だか分からないが、アクアがそこまで言うのであれば何かしらの繋がりがあるのだろう。

 

もしかしたら血の繋がった隠れた兄弟という可能性もあり得る。それならアクアが明るくなった理由にも納得がいく。

 

クリスはそう思った。

 

 

「なぁ、話は変わるが、お前明後日から暇か?」

 

「暇だけど……どうしたの?」

 

「実はルビー達が明後日から新曲のPV撮影でロケ地に行くんだけど、俺もそれについて行く予定なんだよ。東ブレの慰安旅行も兼ねてな。ミヤコさんも当然行くし、お前も一緒にどうだ? 1人は寂しいだろ」

 

 

と、ここでアクアから突然旅行に誘われた。

 

今は繁忙期が過ぎ去り、一時的に呪霊の発生が落ち着いている状況。

 

この間に皆で旅行に行くのは悪くないと思った。

 

 

「撮影兼旅行か……それは良いんだけど、兄さんがそんな事言うなんて珍しいね。それも丸くなった影響?」

 

「いや、別にそういう感じじゃねぇよ。俺達だけで行ったらお前1人で家の留守番する事になるだろ? せっかくの2泊3日の旅行なんだし、お前だけ仲間外れは流石にどうかと思って……」

 

「あっはっは、らしくない事を言うようになったね兄さん! まぁ良いよそれで。兄さんはやっぱりツンデレって事が分かったし」

 

「だからツンデレじゃねえって」

 

 

早口で弁論する兄の姿にクリスは大笑いし、とびきりの笑顔を見せる。

 

アクアもアクアで反論するが、妹の笑顔の前には強く出る事が出来なかった。

 

 

「じゃあ一緒に行く人は家族全員とかなちゃんとMEMちゃんの6人? さっき言ってた姫川さんは誘わないの?」

 

「姫川さんは誘ってない。あの人は今映画の撮影もあって忙しいからな。ただ、あかねも一緒に行く予定だ」

 

「あかねって、もしかして黒川あかねの事? 確か『今ガチ』でキスしてた兄さんの彼女の……」

 

「そうだ。だからまぁ、お前も含めて7人旅行だな」

 

「へぇー」

 

 

アクアと現在交際中の相手が来る事を知ったものの、クリスは然して興味が無さそうな反応を見せた。

 

とはいえ、もしかしたら将来義理の姉になる可能性がある相手なので、何か菓子折りでも持って行くかと呑気な気分で考える。

 

 

「それで、肝心の旅行先はどこなの?」

 

「旅行先は宮崎。宮崎県の高千穂だ」

 

 

宮崎は良いとして、高千穂という地名は聞き慣れていなかった。

 

クリスは思わず首を傾げた。

 

 

「高千穂……ってどこだっけ? 有名な場所?」

 

「お前忘れたのか? あの地で俺達は……いや、覚えてないのも無理ないか。お前は違うもんな」

 

「……?」

 

 

何やら意味深な事を言って1人納得した表情をアクアは見せる。

 

クリスから見れば訳が分からない状況だが、それも無理はなかった。

 

 

(すっかり忘れかけていたが、こいつだけは俺やルビーと違って、前世の記憶を持った転生者じゃない。口と態度は悪いが、だからこそ真に純粋な本物のアイの子供なんだ。生まれた場所の事なんて普通は覚えてないに決まってる……)

 

 

前世の記憶を持つ自分達とそうではない純粋な妹。

 

そのどうしようもない違いを何気ない会話の中で改めて自覚したアクアは、ほんの一瞬だけ酷く歪んだ表情をクリスに向けてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「……という事があって、明後日から家族皆で旅行に行くんですよ」

 

『へぇー、良いじゃん。お土産期待してるよ』

 

 

その日の夜、クリスは旅行の事で電話していた。

 

相手は勿論五条悟である。

 

 

「どうやら兄さん曰く、僕達3人兄妹が生まれた場所らしいんですよね。全く記憶に無いんですけど、生まれた病院があるって聞くと何だか感慨深いですね」

 

『そりゃあ生まれ故郷なわけだしね。にしても君の兄さん良くそんなの覚えてるね。記憶力めっちゃ良い感じ?』

 

「まぁ、兄さんは僕並みに頭良いから、覚えていても不思議じゃないですよ」

 

 

実際は記憶力が良い悪いの問題ではないが、現時点でそこまでは推し測れない。

 

 

『で、行き先はどこなの? 北海道? それとも沖縄? 沖縄だったら良い場所たくさん知ってるよ。あそこのビーチはマジで綺麗だからねぇ。水族館も外せないかな』

 

「残念ながら沖縄じゃないです。あくまでPV撮影について行くだけなので。宮崎県の高千穂って所ですよ」

 

『なんだ、沖縄じゃ……ん? 宮崎県の……高千穂だって?』

 

 

旅行の行き先を言った瞬間、五条の口調が明らかに変わった。

 

高千穂に何かあるのは確実だった。

 

 

「高千穂に何かあるんですか?」

 

『ねぇクリス、急で悪いんだけど、そこに行くならついでで1つ仕事を頼んでも良いかな? 凄くタイムリーな仕事が舞い込んでるんだ』

 

「五条先生からの依頼なら快く……で、どんな任務ですか?」

 

 

やはりそうかと思いつつも、五条からの依頼は基本的に断らないのがクリスである。しかも特級術師の彼女に頼むというのは、よほど厄介な仕事である事を意味する。

 

どんな依頼だろうと心して聞いていると、五条からその内容が伝えられた。

 

 

『特級呪物”両面宿儺”の指を回収してほしい』

 

「えっ!? あれがまさか高千穂に!?」

 

 

またしても両面宿儺の指の回収。

 

以前は片寄ゆらを襲った特級呪霊からその1本が出てきたが、今度は遠くの地方からそれが見つかったという。

 

その場所が偶然にも、クリス達がこれから向かう旅行先だった。

 

 

『今朝、九州にいる補助監督から連絡があってね。それで誰が指の回収をするのか丁度話し合ってたとこだったの。で、クリスなら不測の事態が起きても問題無く対処できるでしょ?』

 

「そりゃまぁ、はい」

 

『そういう訳で、楽しいバカンス中に申し訳ないけどお願いね。詳しいデータは後で送るから』

 

「分かりました、宿儺の指ですね。任せてください。回収したらすぐ届けに行きますよ」

 

『ありがと。頼りになるよ』

 

 

そこで通話を終えて、クリスは色々と準備し始めた。

 

旅行なので私服で行くつもりだったが、呪霊との戦闘を考慮して高専の制服を着ていく事にする。

 

お洒落の欠片もないが背に腹は代えられなかった。

 

 

「まっ、大丈夫か。何とかなるでしょ」

 

 

実力に裏打ちされた確かな自信。

 

クリスは相も変わらず能天気な口調でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その一方で、情報を掴んで暗躍しようとする者もいた。

 

 

「今朝、九州の方から連絡が来たんだ。宿儺の指が宮崎の高千穂で見つかったそうでね」

 

「宿儺の指が!? 今すぐ回収に行くわよ! 獄門疆なんてふざけたもんをちまちま作ってる場合じゃないわ! 羂索も当然行くでしょ?」

 

「まあね。この前所持していた指を1本使っちゃったから、高専に回収される前に是非とも入手しておきたい。ただ、回収に向かう術師が星野クリスに決まったらしくてね。これがまぁ厄介なんだよ」

 

「じゃあどうするのよ。あなたが嫌でも私1人だけで絶対に行くわよ」

 

「落ち着いて万。大丈夫、ちゃんと手は打ってある。特級には特級をぶつければ良いんだよ。私達はその混乱の隙に指を回収すれば良い。

 裏梅が上手くやってくれれば、そろそろ向こうにもリークした情報が届いている頃だろうしね。彼なら間違いなく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────途方もない悪意が密かに嗤う中、更に別の場所でも……。

 

 

「夏油様、先程高専が特級呪物”両面宿儺”の指を発見したという情報を入手しました」

 

「それは本当かい? で、場所はどこかな?」

 

「場所は九州。宮崎県の高千穂にあるとの事です。すぐに向かわれますか?」

 

「勿論、あの指はただそこにあるだけで多くの呪いを引き寄せる。他の呪物とはまるで格が違う。私の呪霊操術と最高に相性が良いんだ。手に入れない道理はないね」

 

「では早速出発の準備を進めましょう。誰をお供に引き連れますか?」

 

「そうだねぇ。今回はなるべく慎重を期して行動したいから……ミゲル、急で悪いけど特級呪物の回収に行くよ。良いね?」

 

「本当ニ急ダナ。マァ良イ、俺モ一緒ニ行コウ。夏油直々ノ指令ダカラナ」

 

 

何の因果か、クリス達3人兄妹の生まれ故郷で三つ巴の戦争が勃発しようとしていた。

 

 

 




こいつらがぶつかった日にはゴローの遺体ごと高千穂が吹っ飛ぶかもしれん。

烏の幼女は泣いて良い。
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