呪術の子 作:メインクーン
クリス「まっ、何とかなるか!」
メロンパン「特級同士をぶつけてやるんだよ」
ストーカー女「宿儺に愛を教えるのはこの私!」
サマーオイル「念には念を入れておかないとね」
ミゲル「全員分ノオ土産デモ買ッテヤルカ」
それからあっという間に2日が過ぎ、旅行当日。
宮崎行きの飛行機に乗るため、クリス達は空港に集まっていた。
そこでクリスは、現在アクアと交際中の黒川あかねと初めて出会う。
「初めまして! 僕はクリス、ピカピカの高校1年生だよー! 君が兄さんの今カノの黒川あかねちゃん? しくよろでぇーす!」
「えっ……あっ、うん、よろしく……」
そして、いつもの調子で挨拶しては黒川を混乱させていた。
「あかね、そいつに対して真面目に付き合うだけ疲れるだけだ。あんま無理すんな」
「だ、大丈夫だよアクア君。と、とっても個性的な妹さんだね……あははー……」
「そうだよ兄さん、そんな事言わないでよ。全くもう、酷いなぁ、人の心とかないの?」
「どの口が言ってんだおい」
「うーん……甘口?」
「お前のカレーの好みを聞いてどうする? 答えになってねぇぞ」
アクアのツッコみにも臆せず、普段の自分の行動を棚上げしてボケに走る。
そんなクリスとアクアのやり取りを目にした黒川は、クスクスと笑って見ていた。
「ふふっ、妹さんと仲が良いんだねアクア君。いつも見てる君より明るくなってる感じがする」
「そんなんじゃねぇよ。こいつは気付いたらこんな性格になってたから、俺もそれ相応の対応をしているだけだ。断じて明るい訳じゃない」
「またまたぁー、そう言って本当は強がってるだけじゃん。彼女に意地を張るなんて、罪深い男だこと。このツンデレちゃんめ!」
「お前はマジで一回黙れ」
あかねとアクアの仲睦まじい会話にも、空気を読まずに割り込んで茶々を入れる。
これには流石のアクアも、額に薄らと青筋を浮かべていた。クリスには全く効果が無いが。
初めての出会いにしては案外軽いやり取りで終わり、一行は宮崎行きの便に搭乗していった。
そんな中、黒川は思った。
(あの強烈すぎる性格のせいで忘れそうになるけど、あの子は本当に生き写しのレベルだ。ルビーちゃんもそっくりだけど、クリスちゃんはその比じゃない。よくあれで街中を歩いて正体がバレなかったくらいに。
というかクリスちゃん、半年前にSNSで話題になってた絶世の美男美女カップルの写真の子だ。私が『今ガチ』で炎上していた時期に近かったからよく覚えてる)
黒川あかねは、アクアが使えると絶賛する程の明晰な頭脳と高度なプロファイリング能力を持つ。
それにより、とある出来事からアイとアクアの関係性に一早く気付いた者として、クリスの容姿を見た瞬間は心の底から驚愕した。
ここまで似るものなのか、遺伝子とはどこまでも残酷なものだと。
それと同時にクリスを見てある事に気付いた。
(それにしてもクリスちゃん、何か武道でも嗜んでいるのかな? 体幹のブレが全くないし、歩き方や拳の握り方、立ち居振る舞いからして見た目以上に強い。でも、ただ強いだけじゃない気が……何だろう、この違和感は?)
クリスの超人じみた身体能力、呪術師としての底知れない強さ。
彼我の圧倒的な力の差を、あかねは直感でひしひしと感じ取っていた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
────数時間後。
苺プロ御一行は宮崎県の高千穂に到着した。
「いらっしゃい高千穂へ! 私は映像Dのアネモネって言います」
「アネモネ~!」
「MEMちょおひさー!」
そこで出迎えてくれたのは、今回B小町の新曲PVの撮影に協力してくれる映像クリエイターのアネモネ。
MEMちょとは随分親しい仲らしく、撮影のためのロケ地を準備してくれたのも彼女の力があってこそだった。
そんなこんなで互いに軽く自己紹介を済ませる傍ら、クリスは周囲の景色をキョロキョロと見渡していた。
(うわー、感じる感じる。宿儺の指の気配だ。あの劇物がこの地にあるのは確実っぽいね。気配がデカいせいで正確な位置は分からないけど)
呪術師だからこそ、この地に到着した瞬間から感じていた。宿儺の指が放つ強裂な呪いの気配を。
補助監督が宿儺の指を見つけたと報告したのも、この気配を感知したからだろうと推測する。
厄介な事に、広範囲に渡って放たれる呪いの気配は、正確な指の保管場所を割り出し難くさせていた。
(まっ、1人でこんな山だらけの田舎を虱潰しに回るのは骨が折れるから、今回は僕の伝手で
とはいえ、クリスも1人で指を探そうとするほど馬鹿ではない。
このような状況を想定し、ここへ来る前に既に助っ人を呼んでいた。後で集合する予定となっている。
今はただ、アネモネと皆の会話を黙って聞き届けた。
「ここは芸能の神様が祀られてる事でも有名なんだよ。名前は確か、日本神話に出てくる……」
「
「あっ、知ってる?」
「ええ……」
高千穂の観光名所を語るアネモネの横から、アクアがごく自然な感じで神社に祀られた神の名を口にする。
歌や芸能の神として知られるそれは芸能界にも広く認知されており、毎年大勢の有名人が頻繁にこの地へ訪れるという。
それを聞いた有馬が是非とも参拝に行きたいと高揚するが、ここへ来た目的とスケジュールがそれを許さない。
「今回はPVの撮影2本ありますんでね! スケジュール詰め詰めなんですわ! 早く衣装に着替えてスタジオに入ってもらいましょう!」
「そ、そんなぁ……」
PVの映像2本撮り。
それを2泊3日の内2日で完遂させるという狂った予定の詰め方をしているため、B小町のメンバーに休む時間など存在しない。
その現実に打ちひしがれ、既に真っ白な灰になりかけている有馬を引き連れて、アネモネ達はスタジオへ向かう。
去り際、ミヤコが残った3人に対して言った。
「それじゃあ私達はスタジオにいるから。あまり夜遅くまで遊ぶんじゃないわよ」
「ああ、分かってる」
「はい、分かりました。皆さんも撮影頑張ってください」
「お母さんも達者でねー」
三者三様の反応を見せるが、突然クリスを見やるミヤコの目が鋭く光る。
「良いわねクリス? あなたに言ってるのよ」
「へっ?」
最後のミヤコの発言に、クリスは思わず素っ頓狂な声を上げる。
固まるクリスを他所にB小町の面々はさっさと行ってしまい、その場に3人だけが残った。
「えっ……僕だけやたら厳しくない?」
「これも日頃の行いのせいだな」
「ごめんクリスちゃん、ちょっと否定できないかも」
「…………」
凍て付くような寒さ、吹き抜ける北風。
しんと静まり返った空間に、風の音だけが虚しく響いた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
それから更に30分後。
高千穂にある駅の前で待っていたのは、補助監督の伊地知ともう1人。
「お待ちしておりました、クリスさん」
「ふふっ、やっと来たねクリス。呼び出した割には遅かったじゃないか。こっちは随分待ち侘びていたよ?」
「いやーあはは、すみません
現在はフリーで活動しており、常に金の味方と豪語する程とにかく金を愛する術師である。
今回、彼女の術式の力を借りるためにクリスは個人的に依頼を出していた。
「まぁ良いわ。それよりも宿儺の指の探索を手伝う依頼だけど……報酬は期待して良いんだよね?」
「ええ勿論! 後で報酬の3000万をそちらの口座に送っておきますので」
「なら問題無い。私の術式を使いながら一緒に探そうじゃないか」
その後、クリスと冥冥は伊地知の車に乗って町中を回り始めた。
今頃アクアとあかねは観光に出掛けていると思われるので、なるべく観光名所には近付かないように注意する。
そうして車を走らせる事1時間、3人は山中に入る手前で止まった。
「さて、目当てのブツの候補地に着いたね。それじゃあ行くよクリス。伊地知はそこで待機して頂戴」
「了解でーす! 行きましょう冥さん」
「分かりました。御二人とも、くれぐれもお気を付けて」
伊地知と別れた後、2人だけで指の捜索に取り掛かる。
草木を掻き分け、獣道をずんずん突き進んである程度まで山奥へ進むと、ここで冥冥が術式を発動させた。
「行くよ────『黒鳥操術』」
黒鳥操術────それが冥冥の術式である。
周囲の烏を自在に操り、烏と自身の視界を共有する事ができる術式。また、視界に映る光景をモニターの画面に映し出し、他人に見せる事も可能である。
正直に言ってあまり戦闘の役に立たない術式であり、本人もそれを「弱い」と自覚している。
だが、索敵や偵察に関しては群を抜いており、どこにでもいる烏を使用する事で隠密性と捜索範囲は格段に跳ね上がる。
今回のような呪物の探索には、まさに打って付けとも言える力だった。
「とりあえずこの辺りに住み着く烏を片っ端から集めた。後はこの子達を軸に呪物の在り処を割り出そう」
「分かりました。いやぁ、冥さんに依頼してマジで良かったー。これ1人でやる仕事じゃないよ絶対」
「上層部は昔からそこら辺の見積りが甘いからね。今に始まった事じゃないさ」
クリスが心の底から依頼して良かったと安堵し、冥冥がニヒルな笑みを浮かべて上層部の欠陥を嗤う。
その間にも2人の周囲には大量の烏が飛び回り、けたたましい鳴き声を上げて空を真っ黒に染め上げていく。
数にして三桁を超える烏が集まったところで、冥冥は全ての烏に命令を下す。
「強力な呪力を放つ物を探して頂戴。呪霊がいた時はすぐに知らせる事。そこに宿儺の指が封印されてる可能性が高いからね。命を枯らしてでも頑張るんだよ。
さぁお行き。私のために死んでくれるかい?」
「「「「ガァガァガァガァ!!」」」」
命令が下されたその瞬間、集まった烏達は一斉に空高く舞い上がり、広大な山々を縦横無尽に飛び回っていく。
その光景は傍から見ればまるで世界の終わりのようで、何も知らない人が目撃すれば非現実的な光景に腰を抜かすだろう。
それを隣で見届けたクリスは、今ここには居ない兄の事を思い浮かべていた。
(兄さん、今頃あかねちゃんとのデート楽しんでるかな? この烏の群れを見てびっくりしないと良いけど……)
そんな事を思いながら、クリスも烏達と共に宿儺の指を探し回るのであった。
────一方その頃、アクア達は。
「アクア君ってば小さい頃はわんぱくだったんだね……。野に入り山を駆け回るって言っても、こんな獣道に────ッ!?」
「……ん? どうしたあかね?」
「ねぇ、あれ見て……」
「どうしたんだ……うおっ!? ひょっとしてあれ全部、烏の群れか?」
「あんなにたくさんの烏が集まる瞬間なんて初めて見たかも。映画だったら世界の終わりとか、町が滅びる予兆みたいな雰囲気だね」
「ここから一山二山以上は離れてるが、それでもはっきり分かるくらい集まってるのか……凄いな」
「一体あそこに何があるんだろうね? 大量の餌を見つけたとかかな?」
「さあな。もしかしたら本当に町が滅びる予兆だったりしてな」
「もしそうだったら一大事だね」
かつてアクアが務めていた病院の裏山で、長閑な会話を楽しむ2人だった。
冥冥「クリスから依頼を受けた。特級呪物の捜索・回収の補助で報酬3000万円。流石は特級、気前が良いね」
クリス「こういう時に冥さんマジで助かるわー。烏様様だね……えっ、赤字じゃないかって? これくらいすぐに稼げるから大した損失じゃないよ」
伊地知「クリスさんの御家族もいらっしゃるのですか。理不尽に巻き込まれない事を祈るばかりです」
推定幼女邪神「あっ、ちょ、待っ……私の烏を奪っていくなぁああああああーっ!!」
※おまけ
推定幼女邪神「何で宿儺の指がよりによってこんな所にあるんだよ!?」
クリス「知らねーよ! そんなに文句があるなら宿儺に言えば良いだろ! 1000年前にタイムスリップしてよぉ!」
推定幼女邪神「はぁー? そんな事したらバラバラに切り裂かれて粉微塵になるだろうが! 無茶言うな!」