呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「冥さんマジで頼りになる」

冥冥「ふふっ、気前が良いねクリス」

烏の幼女「私の烏、根こそぎ分捕られた……」



戦争の前触れ

──午後9時14分。

 

 

「……ふむ、どうやらここも外れのようだ。仕方がない、次の場所に行くよ」

 

「うっわ、マジかぁ……宿儺の指、一体どこにあるんだろう?」

 

「さあね。とはいえ順調に絞れていると思うから、このまま一気に探し当てよう」

 

「それもそうですねぇ……」

 

 

冥冥の術式を使用しても指の存在を確認できず、クリスが目に見えて落胆し嘆息する。

 

あれから何時間も探索に時間を費やし、度々休憩を挟みながら獣道を進んでは烏を使ったものの、宿儺の指は一向に姿を見せなかった。

 

高千穂の至る箇所を転々と移動したおかげで、かなり場所を絞る事に成功しているのが救いだろう。

 

 

と、ここでクリスの持つスマホから着信音が鳴り響く。

 

 

「電話? 誰からだろ……げっ、お母さん!? 何だか嫌な予感がするなぁ……」

 

 

電話の相手はミヤコだった。

 

話の内容に察しが付いているクリスは、嫌々ながらも母親からの電話に出た。

 

 

「はーい、もしもしお母さん? どうしたの急に電話なんか掛けてきて。用件は手短に……」

 

『ちょっとクリス、あなた今どこにいるの? アクア達はもうスタジオに戻って来てるわ。いないのはあなただけよ。暗くなる前に早く戻って来なさい』

 

 

開口一番、ミヤコの心配げな声が耳に届く。

 

日が沈んで暗くなってもなお戻って来る気配のない我が子を案じ、母親としての不安が抑えられなくなったのだろう。

 

それでもクリスは大丈夫だとはっきり口にする。

 

 

「問題無いよお母さん、今ちょっと商店街を散策してるとこだから。あーでも、もう少しだけ遊びたいから日付が変わるまでには旅館に戻るよ。それで良いでしょ?」

 

『私としてはなるべく早く帰って来てほしいんだけど。あと、商店街にいるって嘘でしょ?』

 

 

しかし、ミヤコには通用しなかった。

 

 

「……電波悪いから切るね! それじゃあまた!」

 

『あっ、ちょっと待ちなさい!? まだ話は終わってな……』

 

 

通じなかったので、電波が悪いとでっち上げて強制的に通話を切った。

 

少しだけ申し訳ない気持ちはあったが、状況が状況なので仕方がないねと思い、すぐに切り替える。

 

 

「ごめんお母さん、マジごめん。後で何か美味しい物でも奢るから許してね」

 

「全く謝罪の気持ちが籠もってない『ごめん』だね。若干棒読みだったし」

 

「…………」

 

 

すかさず冥冥にツッコまれたが、クリスは聞こえないフリをして誤魔化した。

 

家族からの追及も強引に切り上げたところで、再び呪物の探索に取り掛かる。

 

 

「それで、次はどこへ行く? 他に思い当たる場所はあるかな?」

 

 

冥冥に聞かれ、クリスは顎に手を当てて寸刻考える。

 

 

「……そうですね、今度は病院辺りを探しましょうか。あそこも負の感情が集まりやすいし、魔除けと称して封印されていても不思議じゃない」

 

「病院……そう言えば病院周辺はまだだったね。神社とか寺周辺の山をずっと歩き回ってたし」

 

 

2人が今まで捜索していた場所は、呪いと密接な関わりのある神社や寺などの伝統的な建造物の周辺ばかりだった。

 

高千穂中に点在するそれらを粗方探し終えた今、方向を変える事に。

 

 

「それに昼間の病院は意外と人目が多くて目立ちますからね。寝静まった夜の今がベストかと」

 

「決まりだね。どこにあるか分かるかい?」

 

「確か南方の丘の上に総合病院があったはず。結構離れた所まで来ちゃいましたし、ここからだと車で1時間くらいは掛かりますかね」

 

 

現在2人がいる場所は高千穂の北端に近い。

 

そこから南方の病院へ向かうにはそこそこ時間が掛かる距離にいた。

 

 

「とりあえず、そこだけ探し回って何も無かったら今日の探索は終わり。続きは明日にしよう」

 

「はーい!」

 

「じゃあ伊地知の所まで戻るよ」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

──午後10時2分。

 

MEMちょを除くB小町のメンバーはその日の撮影を終えた。

 

 

「はーい、未成年組は宿戻ってー。MEMちょは成年だから居残りね。18歳だもんね?」

 

「はぁい、MEMちょは18歳以上ですぅ」

 

 

撮影を終えて宿に戻る面々とは裏腹に、虚ろな目をしたMEMちょが力ない声で返事を返す。

 

 

「俺はもう少し見学していくからルビーを頼む」

 

「うん分かった。……それはそうとアクア君、クリスちゃんは大丈夫なの? もう10時過ぎたけど全然連絡無いし……」

 

 

ルビーの面倒を頼まれたあかねがクリスの身を案じるも、アクアは首を横に振って溜め息を吐いた。

 

 

「1時間前にミヤコさんが連絡したんだが、電波悪いとか適当言って電話切られたそうだ。大方、まだどっかで遊び惚けてると思う」

 

「そ、そうなんだ。本当にもの凄い自由人なんだね、あの子……」

 

 

どうしようもないと言わんばかりに肩を竦めるアクアに、あかねは苦笑するしか出来なかった。

 

それでも不安は尽きない。

 

 

「でも本当に良いの? ここら辺、夜になると野生動物が多く出るそうだし、もし襲われたら……」

 

「それなら心配ない。とは確実に言えないが、少なくともクリスに限って動物相手に後れを取る事はないな」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ああ。だってあいつ、あかねが想像してる10倍は強いから。見たら度肝抜かれると思うよ」

 

 

あかねの不安を余所に、アクアはそれでもクリスなら大丈夫と断言する。

 

呪術師としてのクリスを知っている訳ではない。だが、クリスは素の身体能力だけでも世界のトップアスリートを軽く凌駕する。

 

それに加えて力を緻密にコントロールする技量が合わされば、大抵の相手は真正面から叩きのめす事が可能。

 

依然、何の問題もなかった。

 

 

「そ、そっか。アクア君がそこまで言うなら大丈夫かな。じゃあ私達は戻るね」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

──午後10時16分。

 

スタジオを後にしたあかねとルビーは、2人きりで宿への道を辿っていった。

 

しかしその道中、どこからともなく現れた1匹の烏と遭遇し、油断している隙に宿の鍵を盗られてしまう。

 

 

「このクソ烏! 焼き鳥にしてやる!」

 

「だから近付いたら危ないって言ったのに……」

 

「待てぇええええええー!」

 

 

激昂するルビー、宥めようとするあかね。

 

鍵を咥えて飛び去る烏を捕まえんと2人は駈け出した。

 

 

「くっそー、挑発してるなぁ! 絶対捕まえてやる!」

 

「大人しく宿の人に謝ろ? これ以上先に進むと迷子になっちゃうよ」

 

 

そして追い掛けること早数十分、2人は総合病院近くの森の中にいた。

 

あかねはそろそろ戻ろうと何度も声を掛けるが、ルビーの執念がそれを認めず、烏を捕まえようと躍起になる。

 

 

「大丈夫! この辺なら多少は土地勘あるし!」

 

「へぇー?」

 

「はっ!? あっいや、生まれがこの辺でね! 車で結構通ったりしてたから!」

 

 

ルビーは前世で入院していた記憶から、病院周りの地形は大体把握していた。

 

だが、その事を知らないあかねに興味深そうに覗かれ、ぎくりと冷や汗を垂らしながら弁明する。

 

 

「うん、アクア君から聞いてるよ」

 

「そ、そう?」

 

 

とはいえ、生まれ故郷が高千穂である事はアクアから既に聞いていたため、変に疑われる心配は無かった。

 

 

「丘の上の病院で生まれたんでしょ?」

 

「……うん」

 

「アクア君の思い入れのある場所なんだって」

 

「へぇ……あの場所は私にとっても大事な場所なんだよ」

 

 

星野ルビーとして生きる前の記憶を振り返り、ふと懐かしい思いに浸るルビー。

 

当時研修医だった眼鏡の先生と過ごしたささやかな幸福は、ルビーの脳裏にしっかりと刻まれていた。

 

その後もあかねと談笑──アイドルになったきっかけや、年の差婚はどこまで許容できるかなどの恋バナを中心に──しながら森の中を歩き回りつつ、お世話になった研修医の男に何度も想いを馳せる。

 

 

「せんせ……もう1度会いたいよ……」

 

 

彼女にとって、その男は生きる意味をくれた人として、今でも強い恋慕の情を抱いている。

 

いつかまた会える、その時をずっと信じて。

 

 

──しかし、ルビーはこの直後に打ちのめされる事となる。

 

 

「あっ、さっきの烏が!」

 

「これは……祠? こんな所にあるなんて」

 

「どれどれ……祠の裏に空間がある。ここに巣にしてるんだ! 追い詰めたぞ!」

 

 

鍵を咥えた烏が降り立った謎の祠。

 

その奥にある狭い洞窟内に、2人は意気揚々と入っていく。

 

 

そして、唐突に残酷な現実を突き付けられる。

 

 

「ルビーちゃん……戻って。死体だよこれ」

 

「違う……そんな……だってせんせは……」

 

 

洞窟内で見付けたのは、白骨化した謎の死体。

 

冷静に死体の状態を確認するあかねとは裏腹に、首に掛かる名札を見て正体を知ったルビーは色を失った。

 

全身から血の気が引き、頭の中が真っ白になり、何も考えられない。

 

16年間揺らぐ事のなかったルビーの願いが、突如として瓦解させられた。

 

瞳に宿る白い星の輝きの消失と共に。

 

 

──だが、理不尽に突き付けられる残酷な現実は、これだけでは終わらない。

 

 

「……ん? 奥に何かある……何だろうこの箱」

 

 

白骨化した死体の更に奥に、蓋の無い謎の木箱が置かれている事にあかねは気付いた。

 

一体何だろうと思いつつ、片手で持てる大きさのそれを手に取ってみると……、

 

 

「ひっ! 何これ……人の指?」

 

 

箱の中にはどこの誰とも分からない、異様な存在感を放つ謎の指が乱雑に保管されていた。

 

禍々しい空気を纏うそれは、事情を知る者が見れば血相を変えて丁重に扱う程の厄災。

 

 

特級呪物”両面宿儺”の指が、よりにもよって白骨化した死体のすぐ側に封印されていた。

 

 

「あっ、布が剥がれちゃった……って、何この指。見るからにヤバい色してるんだけど」

 

 

封印から1000年経った今、厳重に巻かれていた呪符も簡単に剥がれ落ちる程に封印は弱まっている。

 

呪符が取れて顕になった毒々しい色付きの指。それを見たあかねは思わず顔を顰めた。

 

 

その時だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チョ、チョウダイ……ソレ、チョチョチョチョウダァイ……」

 

「……えっ?」

 

 

未だにショックで放心状態のルビーの声ではない。

 

どこからともなく聞こえた正体不明の気色悪い声に、黒川あかねは心の底から背筋が凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そして同時刻。

 

 

「やっと着いたー! いやぁ、ここまで来るのにかなり時間掛かった……ってうわっ!? 何だこの濃い呪いの気配は!?」

 

「ふむ……どうやら探すまでもなさそうだね。この辺りのどこかに宿儺の指があると見て間違いないだろう」

 

「しかもこれ、宿儺の呪力に反応して幾らか呪霊が引き寄せられてますね。早く回収しに行かないとヤバいかもしれません」

 

「そうだね。伊地知、今すぐ帳を下ろして頂戴。出来るだけ広大なもので頼むよ。私達はこのまま回収に向かうから」

 

「はい、分かりました。くれぐれもお気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──別の場所でも。

 

 

「ッ!? この禍々しい呪力はまさか!」

 

「唐突ニ来タナ夏油! コレハ間違イナク両面宿儺ノ指ダ!」

 

「どうやらここからそう遠くない場所にあるね。急ぐよミゲル! ほら早く乗って!」

 

「オウッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──更に別の場所でも。

 

 

「羂索、この呪力はもしかして!?」

 

「ああ、そうだね万。これは間違いなく宿儺の呪力だ。いやはや凄いね、ここからでもはっきり分かるとは。流石は呪いの……」

 

「待っててね宿儺! 今、未来の正妻があなたを助けに行くわ!」

 

「落ち着いて万、まずは背中の羽根を閉じてくれるかい? 気持ちは分かるが、ここは相手の出方を窺いつつ隠密に……」

 

「宿儺ぁああああああああーっ!!」

 

「……あーあ、行っちゃったよ。これ、逆に連れて来なければ良かったかも」

 

 

 




雨宮吾郎の死を悼む暇もなく戦地に投入されたのは……、

五条悟に次ぐ最強・星野クリス(特級術師)

索敵と偵察のプロ・冥冥(1級術師)

最悪の呪詛師・夏油傑(特級術師)

最強の足止め人・ミゲル(特級相当)

呪術全盛を生き抜いた猛者・万(特級相当)

1000年を生きる全ての黒幕・羂索(特級相当)


一夜にして超危険地帯と化した高千穂の明日はどっちだ!
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