呪術の子   作:メインクーン

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前回:
あかね「腕を切り落とされた。痛い、すごく痛い。死にそう」

ルビー「誰か……あかねお姉ちゃんを助けて」

クリス「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」



幾年ぶりの再会

──午後10時55分。

 

あかねを襲っていた呪霊を瞬殺したクリスは、すぐに周囲を見渡した。

 

宿儺の呪力に引き寄せられた複数体の呪霊、それらに襲われたあかねとルビー、少し離れた場所で崩壊した祠と洞窟。

 

一瞬で大体の状況を把握したクリスは、まず始めに背後で倒れているあかねに触れた。

 

両腕を失い、一面に赤い液体を大量にばら撒いてしまったせいで、彼女の心肺は既に停止していた。

 

 

「術式反転────『(げん)』」

 

 

クリスの術式反転『還』──その効果、対象の時を巻き戻す力。

 

腕を無くした激痛によるショック、大量失血、心肺停止による死亡。そんな絶望的な状況に立たされていたあかねは……、

 

 

「……ん、あれ? 私、何でまだ生きて……って、クリスちゃん!? えっ、どういう事?」

 

「やっほーあかねちゃん、2度目の人生はどんな気分? あっ、服もサービスで元通りに修復しておいたよ」

 

 

先程までの危篤状態が嘘のように解消され、あっさりと目を覚まして起き上がった。

 

切り落とされた両腕は一瞬で修復され、失った血液は回復し、心臓は一定の脈拍で動いている。

 

血の汚れと呪霊の攻撃でボロボロになった衣服も、クリスの術式反転ですっかり元通りとなった。

 

12年前、ストーカーの凶刃によってアイを喪った無力なあの時とはもう違う。今となってはアイよりも絶望的な状態の人ですら、クリスの手に掛かれば一瞬で何事も無かった事にできる。

 

蘇生した本人は何が起こったのか分からず混乱しているが、それだけ強大な力をクリスは持っていた。

 

 

「クリス、どうしてここに……それに今さっきのあれは一体……?」

 

「姉さん、悪いけど詳しい話は後で。先にこいつらを片付けないとね」

 

 

ルビーも訳が分からずクリスに尋ねるも、あっさり遮られて無視された。

 

あかねを治癒したクリスは、再び宿儺の呪力に釣られて集まった呪霊達に向き直る。

 

その刹那────

 

 

 

 

 

「はいちょっとそこ通るよー」

 

「「「「ギャアアアアアアアーッ!?」」」」

 

 

 

 

 

散歩するかのような軽快な足取りで、呪霊の群れの中を超高速で突っ切った。

 

ただし、呪霊とぶつかる度に黒い火花が散り、呪霊は耐え切れず消滅していく。

 

瞬きにも満たない一瞬の内に、ルビー達を追い詰めていた呪霊は一匹残らず祓われた。

 

 

「まっ、こんなもんかな。にしても驚いたよ、まさか姉さんとあかねちゃんが呪霊に襲われてたなんてね。僕が来なかったらマジで死んでたよ? 感謝してよね」

 

「…………」

 

 

クリスが偉そうに胸を張って2人を見やるが、先程の現実離れした動きに更なる困惑を隠せない様子だった。

 

そうこうしていると、森の奥からクリスと共に来ていた冥冥が姿を現した。

 

 

「いきなり私を置いていくなんて酷いじゃないかクリス。それで、宿儺の指は見つかったかい? ここから一番濃い呪力を感じるけど」

 

「あっはっは、すみません冥さん。僕の家族が呪霊に襲われてたものだから、つい。でも肝心の指はまだですね。といっても、もう何となく察しは付いてますけど」

 

 

軽く悪態を付いてきた冥冥の言葉を受け流しつつ、クリスは宿儺の指があると思しき所へ歩いていく。

 

そして、あかねの目の前で立ち止まった。

 

 

「あかねちゃん、呪霊に襲われてたけどさ、何か変な物拾ってない? 赤黒くて気色悪い指とかさ」

 

 

先程から宿儺の濃い呪力をあかねから感じ取っていたので、ほぼ確信に近い予想で本人に尋ねた。

 

その問い掛けにあかねはこくりと小さく首肯し、ポケットに入れていた宿儺の指を取り出した。

 

 

「おー! そうそう、これだよこれこれ! これをずっと探してたんだよ。その指、こっちに渡してくれる?」

 

「う、うん……どうぞ」

 

 

言われた通り、今までずっと所持していた宿儺の指をクリスに手渡す。

 

 

「……ねぇ、それ一体何なの?」

 

「これかい? これは特級呪物”両面宿儺”の指だよ。あかねちゃんが襲われたのも、こいつが放つ強力な呪力に多くの呪いが引き寄せられたからさ。

 僕と冥さんは……ああ、今来た女性の人の事ね。んでまぁ、僕達はこれをずっと探し回ってたんだ。持ってるだけで激ヤバな代物だからね」

 

「…………あっ」

 

 

クリスの言っている内容があまり分からないあかねだったが、何となく言わんとしている事は理解できた。

 

あかねは数分前の記憶を振り返り、確かに指を手にした瞬間化け物に襲われた事に気付く。あの時は逃げるのに必死でそれどころではなかった。

 

 

「ねぇ、もう1つ聞きたいんだけど、宿儺の指をどこで見付けた? それも教えてくれる?」

 

「指はあそこから……あの洞窟内で見付けたよ。もう崩落して入れないけど」

 

 

あかねが指を刺した方向には、確かに天井が崩れて入口が塞がった洞窟があった。

 

その会話を聞いていたルビーがいきなり堰を切ったように声を張り上げる。

 

 

「あっ、せんせ……せんせがあの中にいるの! せんせの遺体があの中に閉じ込められてるの!」

 

「……その”せんせ”っていうのが誰かは知らないけど、死体があの洞窟の中にあるの?」

 

「うん、ルビーちゃんの言う通りだよ。お医者さんらしき人の白骨死体があって、その奥に指が木箱の中に入ってたの」

 

「ふーん……」

 

 

ルビーのいう『せんせ』が誰の事か分からないクリスだったが、あかねの補足説明にあった白骨死体の単語にピクリと反応する。

 

 

「洞窟、白骨死体、側にあった宿儺の指……冥さん」

 

「うん、そうだね。もしかしたら呪いの被害に遭った過去の犠牲者かもね」

 

「よし、じゃあその死体も一応回収しておこうか。後で家入さんに死因とか色々調べてもらおう」

 

 

という事で、クリスは蓋をされた洞窟の入口を開通する作業に取り掛かった。

 

 

「術式反転『還』」

 

 

大量の岩が所狭しと積み上がっていたが、クリスの術式反転によって岩の時間が巻き戻され、様々な軌道を描きながら元の洞窟を再構築していく。

 

この現実離れした光景に、あかねは先程まで瀕死だった事実そっちのけで度肝を抜かれていた。

 

 

「あの、冥さん……でしたっけ? クリスちゃんって、一体何者なんですか?」

 

「ん? 彼女は呪術師だよ。それが何か?」

 

「その呪術師っていうのが何か分からないんですけど……クリスちゃんってやっぱり強いんですか? 化け物を一瞬で倒したし、あれもどう見ても現代の科学技術を超えてるし……」

 

「強いなんてものじゃないよ。彼女がその気になれば、この国の人間を皆殺しに出来る力を持ってるからね。まさに規格外さ」

 

「み、皆殺し……!?」

 

「そうだよ。彼女1人で日本の総人口1億2000万人を鏖殺できる。たった1人を除いてね。まぁ、詳しい話は後で本人に聞くといいよ」

 

 

そのたった1人とは、勿論五条悟の事である。

 

冥冥の説明を聞いて信じられないと言わんばかりの表情を見せるあかね。だが、信じようと信じまいと冥冥には至極どうでも良かった。

 

 

その間にもクリスは術式反転で崩落した洞窟の天井を修復し、1分程度で入口を開通させた。

 

 

「えーと、どれどれ……おっ、あったあった。多分これかな? この白骨死体が姉さんの言ってた”せんせ”ね。結構ボロボロじゃん。どれどれ……」

 

 

洞窟を開通してまず始めに確認したのは中にいる白骨死体の状態。

 

あかねから聞いた情報通り、医者と思しき白衣を着用し、名札を首に掛けている。

 

その名札には明朝体で『雨宮吾郎』と記載されていた。

 

 

「高千穂総合病院の産婦人科医”雨宮吾郎”? この白骨死体の名前かな。後で調べてみるか」

 

 

死体を発見し、身元確認も済ませたところで、クリスは雨宮吾郎の死体を担いで洞窟から出る。

 

 

「おーい、見つけたよー! 姉さん達の言ってた”せんせ”ってこれで合ってる? 雨宮吾郎って名前だけどさー」

 

 

外で待機していた3人に話し掛けると、真っ先にルビーが反応した。

 

相変わらず浮かない顔だったが、雨宮吾郎の死体を無事に回収できた事に、少しだけほっとしているように見えた。

 

 

「あっ、せんせ……良かった。ずっと埋まったままにならなくて、本当に────」

 

 

良かった。

 

ルビーがそう言おうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿儺ノ指ヲ寄越シナ! 星野クリス!」

 

「なっ!?」

 

 

突如、どこからか片言の日本語が聞こえた。

 

聞き覚えのあるその声に驚いていると、クリスの右腕にこれまた見覚えのある黒い縄が巻き付いた。

 

その衝撃により、担いでいた雨宮吾郎の死体がカラカラと軽い音を立てて地面に転がる。

 

それを見たルビーが目を見開き動揺するが、クリスは今それどころではなかった。

 

 

腕に巻き付いた見覚えのある黒い縄。その先にいたのは……、

 

 

「……ヨウ、久シブリダナ星野クリス。オ前ト会ウノハ半年ブリカ?」

 

「そっちこそ久しぶり、ミゲル。前に会った時はアフリカのサハラ砂漠だったね。今度は宿儺の指を取りに来たのかな?」

 

「アア、マァナ。ダガ、今日ココヘ来タノハ俺ダケジャナイゾ。モウ1人イル」

 

「もう1人……?」

 

 

相手の言葉に疑問を浮かべるクリス。

 

だが次の瞬間、彼女は心底驚愕する────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、クリスちゃん。久しいねー」

 

「…………えっ?」

 

 

一瞬、言葉を失った。

 

何故ならそこにいたのは、クリスの人生に多大な影響を与えた恩師だったからだ。

 

 

「夏油さん……」

 

 

かつての師匠、夏油傑がクリスの前に姿を現した。

 

実に10年ぶりとなる再会だった。

 

 

「そうだよクリスちゃん、10年ぶりかな? しばらく見ない内に随分大きくなったねぇ」

 

 

高専から離別する前のあの頃のような、優しい笑みを浮かべて話し掛ける夏油。

 

だが、どう考えても久方ぶりの再会を素直に喜べるような雰囲気ではなかった。

 

酷く動揺するクリスだったが、それでもすぐに気を取り直して言葉を紡ぐ。

 

 

「……ほ、本当にお久しぶりですね、夏油さん。ど、どうして、あなたまでここに来たんですか? やっぱり、宿儺の指が目当てで……?」

 

「あぁ、その通りだよ。私の呪霊操術と宿儺の指は相性が最高でね。クリスちゃんもそれは何となく分かるでしょ?

 だから是非とも欲しいと思って来たんだけど……いやはや参ったね。まさかこんな形で君と再会するとは。あっ、冥さんもお久しぶりです。お元気にしてますか?」

 

「こちらこそ久しぶりだね夏油君。私はとっても元気だよ」

 

「そうですか。それは良かった」

 

 

声が震えるクリスと目が笑っていない冥冥。

 

2人とは対照的に柔和な笑みを崩さない夏油は、クリスに向けてそっと手を差し出した。

 

 

「という訳でクリスちゃん、横取りするようで申し訳ないけど、それをこちらに渡してくれるかい? 出来る事なら君とは争いたくない。君もそう思ってるでしょ?」

 

「…………」

 

 

クリスは黙ったまま答えない。

 

だが、ゆっくりと首を横に振って拒否の意を示した。

 

それを見た夏油は肩を竦め、至極残念そうに溜め息を吐く。

 

 

「やれやれ、仕方がないね。ちょっと心苦しいけど、遠路はるばる高千穂まで来たんだ。ここは多少手荒に行こうか」

 

「ソウイウ事ダクリス。悪イガ2対1デ行カセテ貰ウゾ。準備ハ良イナ?」

 

「ちっ……」

 

 

再会の喜びも束の間、かつての師匠と強敵のペアとの戦いに、クリスは思わず舌打ちを漏らした。

 

そして、右腕に絡まった黒縄を何とか解いて距離を取り、いつでも戦えるように身構える。

 

 

だが、今回の戦いの参加者はこれだけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿儺の指を……私に寄越せぇええええええええーっ!!」

 

「ッ!?」

 

 

今度は知らない女性の声。

 

頭上から聞こえたその声に反応して見上げると、上空から流動的に動く黒色の何かが、槍の形となって降り注いできた。

 

クリスは咄嗟に術式を発動し、すぐにその場から離れる。

 

 

刹那、大量に降り注ぐ槍の雨は、重厚な金属音を奏でながら次々と地面に突き刺さっていく。

 

数秒経って雨が晴れると、蜂の巣状態になった地面が一面に広がっていた。

 

 

加えて、その場にあった雨宮吾郎の死体が槍の雨によって頭部のみとなってしまう。

 

 

「あっ、やっば。雨宮吾郎の死体、あそこに置いたままだった」

 

 

クリスの呟きも束の間、突如乱入してきた女性が地面に降り立つ。

 

身体の周囲には先程と同じ黒い液体を漂わせており、とても邪悪な笑みを浮かべている。

 

そんな女性の足元には頭部のみとなった雨宮吾郎の白骨死体がある。

 

 

「ふふっ……」

 

 

微かに笑い声を漏らしながら、女性は足元に転がる頭部の骨を掴み取った。

 

そして……、

 

 

「フンッ!」

 

 

骨に呪力と謎の黒い液体を纏わせ、クリスに向かって大きく振り被って投げた。

 

 

「挨拶代わりよ♪」

 

 

豪速球で飛んでくる強化された頭部の骨。

 

常人では不可避かつ即死の速度で投げ込まれたそれを、クリスは冷静に見極めてから左手を横薙ぎに振り払った。

 

 

「フッ!」

 

 

骨がクリスの裏拳に当たった瞬間、空間を歪めて飛び散る黒い火花。

 

黒閃が発動し、桁外れの衝撃に晒された骨はバラバラに砕けて跡形もなく散った。

 

 

こうして、雨宮吾郎の白骨死体は2人の手により完全に消滅してしまった。

 

 

(今の感触……何か金属っぽいな。ひょっとしてあの黒い物体、液体金属か?)

 

 

だが今はそれどころでは無いので、白骨死体の消滅そっちのけで戦う相手と術式に意識を集中させる。

 

 

「……で、お前は誰だよ? いきなり攻撃してきやがって」

 

「私は万。単刀直入に言うわ。お前が持ってる宿儺の指を寄こせ、今すぐに」

 

「はっ、やなこった!」

 

 

遂に、高千穂で宿儺の指を巡る三つ巴の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 




ゴローの遺体、最後はクリスの黒閃を受けてバラバラに消し飛んじゃった……。

ちなみに、ルビーは彼の遺体が万とクリスに消し飛ばされる瞬間をがっつり見てます。
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