呪術の子   作:メインクーン

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あかね「い、一体何が起こってるの!?」

ルビー「せんせの遺体をよくも……」

クリス「他2人は良いとして、夏油さんと戦うのか……マジか、やるしかないのか」

他一同「「「「宿儺の指を寄越せ!」」」



高千穂事変 ①

──午後11時2分。

 

高千穂総合病院近くの森の中。

 

広大な帳が下ろされたその地の中心に、宿儺の指を求める術師達が集結していた。

 

それぞれが特級かそれ同等の戦力を有しており、一度ぶつかれば周辺の土地は壊滅必須な状況。

 

そんな中、クリスは巻き込まれたルビーとあかねの安全を確保するため、冥冥に追加で依頼を出した。

 

 

「冥さん、依頼を追加します。そこにいる2人を戦いの余波から守ってください。お願いします」

 

「ふふっ、それは構わないけど賞与は期待して良いんだよね?」

 

「ええ、今回は相手が相手なので。3000万の報酬に7000万の賞与を加えて、計1億でどうでしょう」

 

「分かった、全力で2人を守ろうじゃないか。思う存分戦いに集中すると良い。さぁ2人とも、急いで私の後ろに隠れて頂戴」

 

「は、はい……ほらルビーちゃん、早く隠れよ?」

 

「………………うん」

 

 

あかねは不安げな顔でこちらを見つめ、ルビーは色々な感情が入り混じったような歪んだ表情をしていた。だが、それでも状況を見て素直に冥冥の背後に身を隠す。

 

こうして冥冥との交渉を金の力を使って即行で済ませ、改めて相手の3人に向き直る。

 

 

「……ミゲル」

 

「アア、分カッテル夏油」

 

「先に言っとくけど、あなた達にも宿儺の指は譲らないわよ?」

 

 

クリスから見て左から万、ミゲル、夏油の順に立っており、呪詛師同士もお互いに睨みを利かせている。

 

ただし、現在宿儺の指を所持しているのはクリスのため、3人の狙いは共通である事に変わりはない。

 

クリスはより一層警戒心を強めた。

 

 

「さて、クリスちゃん。今から君を相手にするんだ。こちらは本気で行かせてもらうよ」

 

 

最初に仕掛けたのは夏油だった。

 

夏油の術式『呪霊操術』によって使役される幾千もの呪霊軍団。その中から夏油は選りすぐりの2体を召喚する。

 

 

「まず、この呪霊の名は”炎虎”。特級仮想怨霊の一体で、術式は炎を操るものだ」

 

「グルルルル……」

 

 

夏油の横に出てきたのは全身を炎で纏った巨大な虎。

 

一軒家と同程度の体格を誇り、虎らしく大気を震わす低い声でクリスを威嚇する。

 

 

「色んな事が出来るんだ。炎を圧縮してビームの様に飛ばしたり、爆発させて一面を火の海に変えたりね。勿論、直接相手を殴ったり切り裂いたり噛み千切ったりも出来るから、攻撃の幅はかなり広いよ」

 

 

術式の開示もすかさず行う。

 

これにより炎虎の術式の威力・性能が大幅に底上げされた。

 

続けてもう1体の呪霊の情報も教える。

 

 

「それから上空を飛んでる呪霊は”雷鷲”。これは海外で見付けた呪霊でね、サンダーバードって言えばイメージ付くかな?」

 

「ギャオォォォーンッ!」

 

 

全長20mはある巨大な呪霊の鳴き声。それを背にした夏油の説明。

 

クリスもそれは聞いた事があった。海外発祥の伝説の生物でかなり有名である。

 

 

「術式はイメージ通り、雷を自在に操る。高速で空を飛びながら色んな形の雷を落とす事が出来るし、雷を纏った状態での体当たりは凄いよ。ちなみに、これも当然ながら特級呪霊だ」

 

 

呪霊操術の強みを遺憾なく発揮する夏油を見たクリスは、いつものおちゃらけた態度は鳴りを潜め、真顔で淡々と思った事を口にする。

 

 

「流石ですね夏油さん。呪霊操術の強みは何と言っても手数の多さ。どんな相手だろうと多対一の戦況を作れるし、呪霊を攻略されたら新たな呪霊を出せばいい。

 僕や五条先生には無い、あなただけが持つ最大の強みです。だからこそ……」

 

 

夏油の才能を褒め称えながらも、ゆっくりと体勢を低くして前傾姿勢になる。

 

 

「こちらも遠慮なく行かせてもらいます」

 

 

そして遂に、クリスは術式を発動した。

 

 

「術式順転────『望速』ッ!」

 

 

順転による時間加速。

 

相変わらず音速を何倍も超えた超スピードで動き回るクリス。

 

夏油はすかさず呪霊に命令を下した。

 

 

「炎虎ッ! 雷鷲ッ!」

 

「ゴァアアアアアアアアーッ!!」

 

「グルァアアアアアアアアーッ!!」

 

 

命令を受けた2体の特級呪霊はクリスに容赦なく攻撃を開始する。

 

炎虎は口から炎を圧縮した大量のビームを放出し、クリスもろとも周辺の地形を破壊して火の海に変える。

 

雷鷲は上空から極太の雷の槍を数十本も生成すると、轟音を響かせながら地上に向かって一斉に解き放つ。

 

 

広範囲に及ぶ大規模攻撃により、一瞬にして地獄絵図と化した高千穂の森。

 

 

「うわぁ……滅茶苦茶だよ夏油さん。帳を下ろしてくれた伊地知さんに感謝してくださいよ」

 

 

そんな中、クリスは特級呪霊達の猛攻を難なく回避し、一面焼け野原となった森で平然と立っていた。当然ダメージは一切無い。

 

 

「ふふっ、良いね。クリスちゃんならこの程度は流石に避けるか」

 

 

攻撃を全て回避されたというのに、夏油はどこか嬉しそうにくつくつと笑う。

 

 

「ハァッ!」

 

 

今度は岩山の陰から、黒縄を持つミゲルがクリスに向かって縄を伸ばす。

 

アフリカで既に体験済みだが、黒縄の効果は触れた者の術式の相殺。前回はこの黒縄に散々苦しめられた。

 

 

「おっと危ない」

 

 

流石にこの程度の不意打ちで引っ掛かる訳もなく、クリスは身体をひょいと横に傾けて黒縄を躱した。

 

 

「『望速』ッ!」

 

 

縄を伸ばして出来た僅かな隙。

 

すかさず順転の高速移動でミゲルの懐に入り込み、拳を力強く握り締め、矢を撃つ弓のように限界まで引き絞る。

 

 

「はぁああああっ……黒閃ッ!」

 

「ウグッ……!?」

 

 

クリスが全力で放った拳が黒閃となってミゲルの胴体に決まる。

 

ミゲルも両腕を交差して咄嗟にガードするも、それを突き抜けて内部に響く重い衝撃が襲った。

 

 

「オワァァァーッ!?」

 

 

地面をガリガリ削りながら滑っていき、遠くの岩山に激突するまで吹き飛ばされた。

 

それを見たクリスは満足げな表情を浮かべる。

 

 

「ふぅ……前戦った時は散々な目に遭ったからさ、久々にお前を全力でぶっ飛ばせて清々したよ」

 

 

過去を振り返り思わず悦に入るクリス。

 

それを隙と捉えたのか、間髪入れずに今度は万が攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「今度は私の番! これでお手並み拝見ね!」

 

「次はあんたか」

 

 

いつの間にかクリス真上に陣取っていた万は、再び黒い液体で作った槍の雨を降らす。

 

ただし、今度はただ地面に落ちるのではなく、当たるまで追い続ける追尾型の雨。

 

容赦なく追い掛け続けるそれらを、クリスは高速で避けつつ、片っ端から叩き落していく。

 

 

「……うん、やっぱこれ液体金属で間違いないね」

 

 

そして、何度も黒い液体に触れ続けた結果、万が液体金属を操っている事を確信した。

 

 

「当たりよ! やるじゃない!」

 

「おっ?」

 

 

その呟きをしっかり聞いていた万が、邪悪な笑顔でクリスに前に降り立った。

 

今度は何を仕掛けて来るのだろうかと、クリスは相手の次の動きに注目する。

 

 

「宿儺の指は大事だけど、久々の戦いでもあるの。思う存分楽しませてもらうわっ!」

 

「受けて立つよ。返り討ちにしてやるけど」

 

 

言葉を交わした直後、万が液体金属の塊を巧みに操作し、手裏剣の形にして何枚も飛ばす。

 

周囲の岩や地面を紙のように切り裂いて迫るそれらを、クリスは後方に飛んで冷静に躱していく。

 

万がこの機を見逃すはずもなく、後ろへ飛んだクリスに一瞬で肉薄すると、液体金属を手足に纏って攻撃を繰り出した。

 

 

クリスも即座に反応し、至近距離で数十を超える打撃の応酬が始まる。

 

 

素手喧嘩(ステゴロ)か。お姉さん中々やるじゃん?」

 

 

意外にも拮抗した殴り合いに、クリスは少し嬉しそうな顔で万を褒める。

 

 

「あら、小娘に上から目線で褒められるなんてね。ちょっと舐めすぎじゃないかしら?」

 

 

が、万も万であまり馬鹿にするなと言わんばかりに打撃の威力を強めた。

 

 

拳と拳がぶつかり合い、蹴りが交差する。その度に地面が抉れ、大量の粉塵が天高く舞い上がる。

 

それでもクリスは余裕の表情を崩さず言った。

 

 

「じゃあ、あんたにもそろそろ術式使っちゃおうかな」

 

「はぁ?」

 

 

クリスは万と戦う際、少し試すつもりで術式を使用せず、純粋な呪力強化のみで戦っていた。

 

基礎的な呪力操作と体術のみで、天与呪縛のフィジカルギフテッド並みの戦闘能力を持つクリス。

 

そんな彼女が術式順転の時間加速を使い始めたらどうなるか?

 

 

「それっ、黒閃ッ!」

 

「なっ!? うぐっ……!」

 

 

クリスの鋭く重い一撃。

 

高速で放たれた彼女の縦拳は、万の左側腹部に直撃した瞬間黒い火花を散らす。

 

万が咄嗟に液体金属を固めて作った鋼鉄の防御も、確実に黒閃が出るクリスの打撃はそれを容易に突き破った。

 

これには流石の万も動揺し、黒閃を食らった事で苦悶の表情を見せる。

 

 

「……ふふっ、やるじゃない。少し効いたわ」

 

 

とはいえ、万もこの程度でやられるほど一筋縄ではいかない。

 

先程のクリスの打撃が全力では無かったのもあるが、それでも黒閃に耐えうる程の高度な呪力強化は、呪術全盛の平安時代を生き抜いた猛者としての貫禄があった。

 

 

「……本当にやるじゃん。良いね」

 

 

クリスも心なしか嬉しそうに笑みを深める。

 

 

と、2人が不気味に笑い合っている場に、突如稲妻を纏った巨大な火球が飛来してきた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

火球の存在に気付いた2人は咄嗟にその場から飛んで回避した。

 

火球はそのまま誰も居なくなった地面に激突し、巨大な火柱を高千穂の森の中心に立てる。

 

極太の稲妻を何本も迸らせ、岩や残った木々を残らず焼き切りながら、高千穂を更なる地獄絵図へと作り変えていく。

 

 

「あーあ、マジか……」

 

 

後に残ったのは、巨大なクレーターと黒焦げた線が目立つ硬い地盤のみ。冥冥とルビー達がいる場所以外、すっかり景色が変わっていた。

 

そして、この攻撃を命令した夏油は実行した特級呪霊2体を引き連れて、再びクリスの前に立つ。

 

その手に赤い三節棍を握り締めて。

 

 

「酷いじゃないかクリスちゃん、私だけ完全に無視かい? 遠慮しないと言ったのは君の方だろう?」

 

「…………そう、ですね」

 

 

 




クリス「僕が宿儺の指を持ってるから狙われるのは分かるけど……こうなると普通に3対1だな」

他3人+呪霊2体「勘違いするなよ。3対1じゃない、5対1だ」(なお全員特級クラス)



※ちなみに、ゴローの遺体を破壊されてルビーが内心どう思っているかはまた今度の話。

ただし、アクア=せんせに気付くまでは原作より精神状態がヤバいかもしれない。
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