呪術の子 作:メインクーン
万「熱っつぅぅぅぅーっ!?」
夏油&ミゲル「「おわぁぁぁぁー!?」」
クリス「無限の彼方へ飛んで行けー!」
──午後11時42分。
夏油とミゲルを退けたクリスは、最初に撃退した万の元へ向かった。
勿論、止めを刺すために。だが……、
「あれっ、どこにもいない? おかしいな、まだ起きて動けるほど回復してないはずだけど……読みが外れたかな?」
大岩に激突し、倒れて気絶しているはずの万が何処にも見当たらなかった。
気配を感知できないので追う事もできない。どうしようかと悩んだ末、クリスはこれ以上の追跡を泣く泣く諦めた。
「まぁ良いか。とりあえず冥冥さん達の所へ戻ろう。後始末もしないといけないし」
クリスは戦場を後にした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
──午後11時44分。
戦いを終えたクリスは、焼け野原となった高千穂の森を後にして、冥冥達と合流した。
「お疲れクリス。君の戦い、ここからずっと見ていたよ。一時はどうなるかと肝を冷やしたね」
「あはは、また思ってもない事を。というか、そちらこそ大丈夫でしたか?」
「まあね。集めた烏を半分以上持ってかれたけど、私達に特段大きな怪我は無い。軽度の火傷や擦り傷を少々ってところかな」
「あの戦いでその程度で済んだなら上々、1億支払う価値がありますよ」
「ふふ、それは良かった。報酬が楽しみだよ」
報酬に見合った護りをしてくれた冥冥にお礼を言うと、今度はその後ろにいる2人に視線を傾ける。
あまりに馬鹿げた光景を見続けたルビーとあかねは、まだ現実を受け止めきれないのか、どこか放心気味だった。
「姉さーん、あかねちゃーん、起きてるー? というか生きてるー? 生きてるなら返事してー?」
「……はっ! あっ、うん、生きてるよ。私は大丈夫だから」
「こ、こっちも大丈夫……大丈夫、なんだけど……」
しっかり返事は返ってくるが、どこか余所余所しい態度。
それも無理はない。2人は未だ混乱の最中にあった。
「……まぁ、どうして2人がここに来たのかは置いといて、こうしてバレてしまった以上は話すしかないよね。下手に言い触らされても困るし」
出来る事なら隠し通すつもりだったが、このような事態に陥ってしまった以上、2人にはきちんと説明する必要があった。
中途半端にはぐらかしてしまえば、後々延々と詰められる。そうなれば更に呪術の事が周囲に広まってしまうリスクが発生する。
いっその事正直に話して事情を知る側に引き込む方が、結果として情報の秘匿に繋がるとクリスは判断した。
とはいえ、今日はもう遅い。
今すぐ呪術高専に移動して家入に診療してもらう事も出来るが、あまり帰りが遅いとミヤコ達に不審がられてしまうだろう。
加えて、怪我程度なら術式反転『還』で完璧に治療できる。
「とりあえず、今日は一旦宿に戻ろう。あかねちゃんも両腕切断されて大変だろうけど、撮影が終わるまでは我慢してくれる? それまでずっと側にいるから」
「だ、大丈夫……それと、助けてくれてありがとう」
明日からあかねとルビーを呪いの脅威から護る事を条件に、呪術側の事情を汲んで我慢してもらう事にした。
中々に身勝手で酷い要求だとクリスは思ったが、それでもあかねは要求を呑んだうえに、助けて貰ったお礼まで口にする。
黒川あかねは底抜けに優しかった。
「どういたしまして。姉さんも一先ずそれで良い?」
「うん。でもその……クリスは大丈夫なの? 何故か怪我を治せるみたいだけど、さっきまでボロボロになってたし……う、腕とか脚も、た、たくさん切り落として……!」
ルビーにも確認を取る。
するとあっさり要求を呑んで貰えたが、逆にクリスを心配する声が返ってきた。今までも心配される事は多々あったが、家族として、血を分けた姉妹として心配されるのは、クリスにとって新鮮な経験だった。
戦う前は随分複雑な表情でクリスを見ていたルビーだったが、それも今ではすっかり鳴りを潜めている。
特級同士の戦いが余程衝撃だったのだろう。途中でクリスが自ら手足を切断し続けた光景もかなり堪えたらしい。
とはいえ、今後の行動は決まった。
「ありがと、こちらのお願いを聞いてくれて。それと心配はいらない。だって僕、最強だから。
じゃあ宿に戻ろう……っと、その前に伊地知さんと合流しなきゃ」
話を終えて戻る前に、今も帳を下ろしている伊地知に合流する事も忘れない。
「えっと……伊地知さんって?」
「補助監督……あー、マネージャーみたいな人だよ。今も帳を下ろしてくれてるし、先に任務の報告だけ済ませておこうかと」
「……帳?」
「外部の人間から情報を秘匿するための結界だよ。ほら、上をよく見て。よーく目を凝らせば黒っぽい膜が全体を覆ってるでしょ。あれが帳。2人とも非術師だけど、今ならまだ見えると思う」
「んー……あっ、ほんとだ。何か薄らと見える」
あかね達とそんな会話をしながら帰路を辿っていると、隣を歩く冥冥が疑問を投げかけた。
「それはそうとクリス、あの変わり果てた土地をどうするつもりなんだい? 君が消し飛ばした山も、放置したら上が黙ってないと思うよ」
冥冥の疑問は最もだった。
最早戦場は放置して良いレベルではない程に荒れている。呪術界の情報秘匿は目を見張るものがあるが、今回ばかりは誤魔化すにも限度がある。
何より、クリスが丸ごと吹き飛ばした山の対処もある。かと言って、ずっと帳を下ろし続けるのも現実的ではない。
しかし、クリスにとっては些末な事だった。
「問題無い。確かに戦場はクレーターだらけの溶岩だらけだし、山も僕が丸ごと消し飛ばした。でも、それも一晩あれば元に戻せる。そう、僕の術式反転『還』ならね」
クリスの『時限操術』は無生物にも有効である。
むしろ実力によって操れる程度が変わる生物に比べ、無生物の時間に対しては
そう、クリスの術式は無生物の時間を操作する時にこそ本領を発揮するのだ。
だから崩落した洞窟の修復は勿論の事、クレーターだらけで火の海になった高千穂の森や、丸ごと吹き飛ばした山もクリスの術式反転で元に戻す事が可能。
加えて、術式反転は術式順転に比べ、出力が最低でも倍以上という特徴がある。
順転の力のみで山を丸ごと吹き飛ばす程の莫大なエネルギーを放つ時限操術。仮に術式反転を最大威力で放てばどうなるかは、火を見るよりも明らかだろう。
「そうかい。それを聞いて安心したよ」
「2人を宿まで送った後、もう1度現場に戻ります。山と森の修復はその時にするつもりです」
説明を聞いて冥冥は納得した。
山の基礎となる土や岩が灼熱の溶岩と化して残っているので、それに触れる事で地形を元に戻せる。クレーターに関しても同じ理由である。
完全に消滅した草木まで全て修復するのは難しいが、そこまで行くと誤魔化せる範囲は広い。例えば大きな山火事が起きたとでっち上げれば、呪術の秘匿は十分に可能である。
その一方で、後方で2人の会話を聞いていたあかねとルビーは唖然とした表情になっていた。
「クリスちゃん、破壊した山の修復なんて出来るんだね……いや、山を破壊したのも意味分かんないけど……ねぇ、本当に何者なの?」
「ん? 僕は呪術師だよ。詳しい話は東京に帰ってからするけど、僕は時間を操れるからね。破壊した物体の修復も朝飯前だよ」
「じ、時間を……操る……?」
色々な説明を省いた返答だが、今この場で説明するのは面倒臭いので、詳しい説明は後回しにする事に。
時間を操れると聞いて戸惑うあかねだったが、反対に物体の修復の件を耳にしたルビーはすぐに反応した。
「修復……よく分からないけど修復できるって事は、ひょっとしてせんせの遺体も元通りに……!」
「無理、100%無理。それは断言できる」
「…………えっ?」
期待に胸を躍らせて一瞬だけ目を輝かせたが、クリスが即座に放った否定に言葉を失うルビー。
彼女の瞳の輝きは急速に失われていった。
「完全に消え去った物はどんなに頑張っても元には戻せない。雨宮吾郎の遺体は、あの時点で塵と化して消えてしまったよ」
「…………そう……なんだ」
あまりに無情な宣告。
クリスは事情を知らないが故に淡々と事実を口にしたが、ルビーにとっては非常にショックな現実で、ただ只管に悲しい気持ちで一杯だった。
そんな事など露知らず、呑気に駄弁って歩くこと数分、遂に帳の端に到着した。
「さーてと、そんな事を言ってる間に出口に着いたよ。今から報告済ませて2人を宿まで送り届けて、その後で壊した土地の修復か。はぁー、やる事が多いね。だっる」
この後に待ち受けている業務の量に辟易し、思わず溜め息を吐くクリスだった。
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一方その頃、戦場から少し離れた山奥にて。
「こっ酷くやられたね、万」
「うっ……ぐぅぅ……」
クリスに一方的に痛めつけられて敗北した万。
そんな彼女を羂索はこっそり回収し、背負って帰路に就いていた。
「どうだった、星野クリスと戦った感想は? 慎重に行動しようと言った私の言葉の意味がよく分かっただろう?」
「……煩い、私はまだ負けていないわ。
言わんこっちゃないと言いたげな羂索の発言に、万が即座に否定する。
負けず嫌いなのか、その発言にはかなり苛立った感情が含まれていた。
しかし、万の言葉を羂索が逆に否定する。
「いや、君の負けだよ。仮に領域展開を使ったとしても、向こうにも領域展開されてジリ貧で負けていただろう。どのみち君の勝率は端から低かった」
「……でも真球が当たれば分からないじゃない」
「確かにそうだね。ただ君も体験して分かったと思うけど、あの速度で縦横無尽に動き回る彼女に真球を当てるのは現実的じゃない。どんなに凄い攻撃も、当たらなければ意味無いからね」
「……ちっ」
負けじと苦し紛れに噛み付く万だったが、羂索に悉く反論されて何も言えなくなった。
苦虫を噛み潰したような顔で羂索を睨むも、睨まれた本人は相変わらず飄々とした態度を崩さない。
徹底的に反論されたうえに、言っている内容が正論でぐうの音も出ない。
これには万も、誠に遺憾だが認めるしかなかった。
「何はともあれ、宿儺の指を彼女が最初に手にした時点で勝負は付いていた。非常に惜しいが、ここは大人しく退却するよ」
そして羂索の方も、今回は宿儺の指の回収を泣く泣く諦めるしかなかった。
と、ここで万がふと気になった事を口にする。
「ねぇ、羂索から見てあの女はどれくらい強いと思う? 具体的に教えて」
それはクリスの強さ。
呪術全盛を生き抜いた平安の猛者、万でさえも彼女に敗北した。本来なら、あの宿儺のストーカーをやって生き残った彼女に勝つのは至難の技である。
だからこそ改めて聞いてみた。
「うーん、そうだねぇ……星野クリスはまだまだ多くの手札があると思うし、これからもどんどん増えていくだろう。加えて領域展開と極ノ番も控えてるから、正確な実力は測りかねないけど……」
「勿体ぶってないでさっさと答えて。大体このくらいって感じで構わないから」
星野クリスにはまだまだ分からない事が多い。だから羂索でさえも彼女の実力を正確に測定できる訳ではない。
それでも先程の戦闘を見て、ある程度の予想は付いていた。
「全ての要素を加味すれば、ざっと見積もって宿儺の指17本から18本分ってところかな? それくらいの実力があっても不思議じゃない」
「えっ……嘘でしょ?」
羂索の見積りを聞いて万は愕然とした。
強いのは分かっていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。
羂索が慎重に行動しようと口を酸っぱくして警告していた意味を、ここでようやく理解する事になる。
「これで分かったと思うけど、星野クリスも五条悟と同様、然るべき時に然るべき場所を用意し、こちらのアドバンテージを確立した状態で封印に臨むのがベターだ。
だからこそ獄門疆を複製するか、それに並ぶほどの封印呪具を作成する必要がある。もしくは宿儺をぶつけて殺すっていう手もあるけど……封印に舵を切った方が確実だろう。良いね?」
「……分かった。でも私だってこのまま黙っちゃいられないわ。必ずあの女にぎゃふんと言わせてやるんだから……!」
「良いね、そういう向上心は嫌いじゃないよ。でも封印のための準備はちゃんと手伝ってね?」
こうして羂索と万は東京にあるマンションへ帰って行った。
そんな中、羂索は今回の戦闘とは別で、とある人物に注目していた。
(星野クリスの脅威は言わずもがな。夏油傑の呪霊操術も必ず手に入れる。それはそれとして、個人的に気になったのは彼女……確か名前は
あの時、遠目で少し見ただけだが確信した。恐らく彼女も……ふふっ、こうしちゃいられない。来たる
ドス黒い悪意は無邪気に嗤う。
メロンパン、恋リアの『今ガチ』視聴勢だった。
ネットの悪意に晒されながらも必死に足掻く若人の青春を見て「笑っちゃうよね。たはー」する羂索概念はあって良いと思います。
Q.どうして羂索はわざわざ万をおんぶして連れ帰ってるの? 呪霊とか結界術を駆使して運べば楽なのでは?
A.つい数年前まで子育てしていた母親の癖です。恐らく無意識にやってる。
Q.今後黒川あかねはどうなるの?
A.それは神のみぞ知る……と言いたいところだけど、皆さんならもうお察しだと思う。
とりあえずカミキにしろ羂索にしろ、どう転んでもアクアの胃が死ぬのは避けられない。頑張れ皆のお兄ちゃん。