呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「雨宮吾郎の遺体の修復? 無理、絶対無理。完全に消えちゃったからね」

ルビー「……そうなんだ」

あかね「もう何が何やら……」

メロンパン「黒川あかねにも今の内にマーキングしておこう」



後始末 ②

──午前0時2分。

 

黒川あかねと星野ルビーは帳を出て夜の高千穂を練り歩き、日付を越えて宿に到着した。

 

宿に着くと、宿のエントランス前で有馬とアクアが集合している姿が目に映る。

 

 

「あっ、アクア君、かなちゃん……」

 

「お兄ちゃん、先輩……」

 

 

一生分の衝撃を短時間で味わった2人は、思わず安堵の声と共に破顔する。

 

実に10年振りの再会に思える程の合流だった。

 

 

「あーっ! いたわよアクア、やっと2人が帰って来たわ!」

 

「あかね、ルビー、今までどこに行ってたんだ? お前達の帰りがあまりに遅いから、俺達心配してずっと探し回ってたんだぞ」

 

 

突如起こった大きな揺れを受けて、いつまで経っても帰ってこないあかね達の安否が気になったアクア達は、ここ数十分間ずっと高千穂内を歩き回っては定期的に宿に集合していた。

 

そして、流石に警察に通報した方が良いか……と思い始めた矢先に2人が戻ってきて今に至る。

 

 

「ごめんね、心配掛けちゃって。実は宿の鍵を烏に取られちゃって……それを追い掛けて森の中を歩き回ってたら、いつの間にかこんな遅くになっちゃったの」

 

「はぁ、何よそれ? そんなの宿の人に素直に謝って、スペアキーを受け取れば良かったじゃない。どんな時でも夜の森は危険なんだから、あんま無理しちゃ駄目でしょ。もし熊に襲われでもしたら、あんた達今頃死んでるわよ」

 

「……うん、本当にそうだよね。今後はくれぐれも気を付けるよ」

 

 

事情を知らない有馬達に本当の事は言えない。何故ならクリスに口止めされているから。というか現実味が無さすぎて、正直に言っても与太話として処理されて信じてもらえないだろう。

 

それでも森の中を歩き回る事になった経緯は本当なので、それを言い訳にすれば十分納得してくれた。上手に嘘をつくコツは少しだけ真実を混ぜる事である。

 

 

「ところで、クリスがどこにいるか知らないか? 連絡しても全然返信が返ってこなくて……」

 

 

2人の無事を確認したところで、アクアがクリスの行方に話題を変えた。

 

兄としてクリスの事も勿論心配しているのだろう。だが何度も言うが、あかねとルビーは本当の事を言えない。

 

宿へ戻ってくる前、クリスにこう言われた。

 

 

『よし、ここまで来れば大丈夫でしょ。この先を曲がって真っ直ぐ行けば宿に着く。後はさっさと部屋に入って、明日に備えて早く寝てね』

 

『……クリスちゃんはどうするの?』

 

『僕は今から現場に戻って、破壊した山と森の修復作業に行ってくるよ。ちょっと時間掛かると思うから、兄さん達に聞かれたら適当に誤魔化しといて』

 

『適当にって、秘密の割に結構アバウトなんだね……』

 

『だってこんなの正直に言ったところで頭のおかしい奴としか思われないじゃん? そういう事だからよろしくねー!』

 

 

完全に投げやりで任され、その自由奔放ぶりにあかねは苦笑いするしかなかった。

 

とはいえ、命の恩人の要求をあかねが無下にする訳もなく、ごく自然な振る舞いで偽りを口にする。

 

 

「クリスちゃんとは宿に戻る途中で会ったよ。でも、もっと遊びたいからまだ帰らないって言って、またどっかに行っちゃった」

 

「マジかよあいつ……ったく、世話が焼ける」

 

「あ、あははは……」

 

 

クリスの性格を鑑みてそれらしい理由を言えば、アクアはすぐに納得して溜め息を吐いた。

 

隣の有馬も「まったく、相変わらずのお転婆娘ねー」と、若干呆れ気味である。

 

肝心の秘密を守る事は出来たが、元から低かったクリスへの信用を更に無くしてまった事に、あかねは心の中で謝罪するしかなかった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

一方その頃クリスは、再び現場に戻って山の修復作業に取り掛かっていた。

 

大胆かつ豪快に行われた作業は、それはそれは凄まじい光景だった。

 

 

「術式反転『還』ッ!」

 

 

ビームによって流れ出た溶岩に直接触れ、最大出力の術式反転を発動させる。

 

その瞬間、灼熱の溶岩の流れが止まり、地球の重力に逆行してどんどん迫り上がっていく。その光景はまるで逆再生したビデオの様だった。

 

 

──それから1時間後。

 

広範囲に流れ出た大量の溶岩は、巨大な地響きを立てながら徐々に元の山の形を形成していくと、やがて溶岩としての熱も失われた。

 

こうして、クリスがビームによって破壊した山は元の形を取り戻した。

 

 

「はい、修復完了! 火の海になった森も出来る限り修復したし、こんなもんで良いでしょ。さー戻ろっと!」

 

 

戦闘規模の割には結果的に被害規模は最小で済んだ高千穂。

 

クリスの術式反転がなければもっと悲惨な事になっていたので、これも彼女のおかげと言えるかもしれない。彼女が高千穂を滅茶苦茶にした張本人という事に目を瞑ればだが。

 

そんなこんなで意外とあっけなく後処理を終えたクリスは、伊地知と冥冥の所へ戻る。

 

 

「おーい、伊地知さーん! 土地の修復終わったよー!」

 

「本当にお疲れ様でしたクリスさん。とにかく、あなたが無事で何よりです」

 

「お疲れ様クリス。早速だけど、契約通り報酬の1億、きっちり支払ってもらうよ」

 

 

出迎えてくれた2人から労いの言葉を掛けられるが、お金が第一優先の冥冥は相変わらずだった。

 

 

「それじゃあ今この場で払いましょうか。ちょっと待ってくださいね……えーと、僕の口座から1億を冥さんの口座に送って……と」

 

「……どう?」

 

 

クリスは自分のスマホを取り出すと、画面を操作して冥冥の口座に1億円を送金した。

 

 

「はい、バッチリですね。口座を確認してみてください。もう入ってると思うので」

 

「……うん、1億丁度きっちり受け取ったよ。じゃあこれで私の仕事は終了。後は好きに過ごさせてもらおう」

 

「はーい、冥さんお疲れ様でした! また何かあったらご協力お願いしますね!」

 

「ああ、構わないよ。それも報酬次第だけど」

 

 

そう言って冥冥はクリス達の下を去っていった。

 

一晩だけ高千穂で過ごした後、高専には向かわず家へ帰るという。冥冥には任務の報告義務が無いので当然と言えば当然だった。

 

冥さんらしいとクリスは思った。

 

 

「では、私達も今から東京に戻って五条さんに報告しておきますか」

 

「そうだね。じゃあ伊地知さん、東京まで飛ぶからしっかり捕まって。振り落とされたら駄目だよ?」

 

「はい、いつでも良いですよ。お願いします」

 

「いざ帰らん、高専へ!」

 

 

クリス達は今夜あった出来事を報告するため、一旦東京へ戻った。

 

伊地知を連れて高専まで瞬間移動で帰ると、丁度目の前に五条悟がいた。とても良いタイミングだった。

 

 

「うおっ、びっくりした!? ちょっとクリス、瞬間移動するなら事前に言ってよね。ついさっきまで僕シャワー浴びてたんだから」

 

「あっはっは、五条先生の全裸なんて今更でしょ。そんな事よりも聞いてください。先生に頼まれた宿儺の指、ちゃんと回収してきました」

 

「おっ、マジで? いやー、流石クリス。仕事が早くて助かるよ」

 

「いやぁ、それほどでも。これをどうぞ」

 

「どうもー」

 

 

高専に帰還して早速、任務の目的である宿儺の指を五条に渡す。

 

特級呪物の中でも群を抜く劇物を、お土産を渡すノリで雑に扱う2人。隣で見ていた伊地知は冷や汗が止まらなかった。

 

引き渡しが完了したところで、クリスが続けて言った。

 

 

「それでですね五条先生、まだ他にも伝えないといけない事がたくさんあるんです」

 

「伝えたい事? 何かあったの?」

 

 

首を傾げる五条に、クリスは首肯して答えた。

 

 

「ええ、ありましたとも。僕、さっきまで宿儺の指を巡って呪詛師達と戦ってたんです。それも結構派手に」

 

「マジで? まぁ、あれはいくらでも悪用できるからね。そういう不届き者がいてもおかしくないでしょ。それがどうしたの?」

 

 

少し驚いたような表情を見せる五条だったが、特級呪物を悪用する呪詛師は少なくないため、そこまで珍しい事ではないと思い直した。

 

しかし、先程クリスが口にした「結構派手に」という言葉が妙に引っ掛かる。あのクリスが態々「派手に」と表現するとは、一体どれほどの相手だろうか。

 

そう思っていると、クリスから予想だにしない情報が耳に入った。

 

 

「その呪詛師の中に夏油さんがいました。あの人と10年ぶりに再会しました。とてもお元気そうでした」

 

「…………何だって?」

 

 

五条の表情が一気に険しくなる。

 

それからクリスは、ここに至るまでの経緯を全て五条に語った。

 

任務の報告は夜明けまで続いた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

翌日、朝。

 

星野ルビーは1人思い悩んでいた。

 

 

「昨日は色々あったなぁ……」

 

 

撮影が終わった後の数時間で、自身の人生観や価値観、見える世界が180度変わる程の経験をした。

 

謎の化け物の事、クリスの事、呪術師という存在、フィクションの様な殺し合い、呪いの事。

 

自分が見てきた景色はほんの一部に過ぎなかった事を、クリスの存在を通して彼女は知ってしまった。

 

だが、それでも今のルビーにとって最も心に重く伸し掛かっているのは、やはり”せんせ”の存在だった。

 

 

「せんせ……どうして……」

 

 

何度もせんせと連呼しては、掌に置かれたキーホルダーを優しく包み込む。

 

雨宮吾郎の遺体を発見した直後、名札からこっそり引き抜いたキーホルダー。前世のルビーが今際の際に恩師へ託した『アイ無限恒久永遠推し!!!』と記載されたキーホルダー。

 

汚れであまり見栄えは良くないが、それでも何年も放置されていたにしては綺麗な状態だった。

 

それだけ託された者が大切に所持していたという事になる。だからこそ悲しかった。

 

 

「せんせがあんな酷い目に遭うなんて、そんなのあんまりだよ……」

 

 

嘗て、生きる希望も失い空虚な人生を歩んでいた自分に、一筋の光を与えてくれた存在。まるで荒れ果てた土地の中で見つけた一輪の花の様な人。

 

ちょっぴり女性関係にだらしなくて、それでも困っている人に対して打算も下心もなく、咄嗟に手を差し伸べて救い出す。B小町のアイとは違う方向で、ルビーの心の支えであり原動力となる人だった。

 

そんな人がどうして……と、ルビーが悲観に暮れるのも無理はなかった。

 

 

「せんせの遺体があんな乱雑に扱われて消えるなんて……でも、私はクリスを責められない。責めたくない」

 

 

話の矛先がクリスへ変わる。

 

昨晩、雨宮吾郎の遺体を完全に破壊したのは、万という謎の女とクリスの2人。

 

遺体が破壊された瞬間のルビーの感情はぐちゃぐちゃで、あかねと共に呪霊の脅威から助けてもらった恩を棚に上げ、クリスに対して強い憎しみの感情を抱く程だった。

 

 

絶対に許さない。あんたがせんせの遺体を落とさなければこうはならなかった。酷い、惨い、憎い、辛い……。

 

 

次から次へと強烈な負の感情が湧き上がってきた。

 

だがその感情も、直後に起こったクリスと謎の集団との戦闘であっという間に吹き飛び、すぐに冷静になった。

 

 

ルビーは理解してしまったのだ。実の妹が家族に隠れて何をしていたか。何を相手に戦っているのか。その厳しさ、残酷さを。

 

 

「私、クリスの事全然分かってなかった……家族なのに、助けてくれたのに、実の妹を本気で恨んでしまった……」

 

 

ルビーは自分自身に対して反吐が出そうになった。

 

あの時は色々な事が起こりすぎてパニック状態だったとはいえ、助けてくれた恩人であり大切な家族を一瞬でも恨んでしまった事に後悔の念が渦巻く。

 

遺体が消し飛んでしまった事実は辛いし悲しい。だが、クリスの行動は何も間違っていない事も理解できる。あの激しい殺し合いを見た後だからこそ言えた。

 

もし自分がクリスと同じ立場だったら、果たして耐えられるだろうか? そんな『もしも』の世界をルビーは想像してしまう。

 

だが、いくら考えたところでそんな『もしも』は訪れない。

 

 

「……帰ったらクリスが話をしてくれるらしいし、まずはそれをしっかり聞かなくちゃ」

 

 

まずは話を聞いて理解しよう、妹の事を。それから今後どう接していくかを考えよう。

 

 

「でも、せんせを殺した奴は何が何でも私が殺す。可能な限り苦しめて」

 

 

思い返すは昨晩、宿に帰る途中でクリスから聞いた話。

 

 

『雨宮吾郎の死因? うーん……詳しい事は分からないけど、遺体の状態からして他殺なのは間違いなかったね。しかも白骨化してるから結構前に殺されてるのも確定。

 ……えっ、いつ死んだか分かるかだって? そうだねぇ……ざっと15,6年くらい前かな? まぁ、憶測でしかないんだけど……何か無性に気になってきたな。ちょっと詳しく調べてみるか』

 

 

クリスの事は姉としてこれまで以上に気に掛ける。してあげられる事は少ないだろうが、妹の活動をそっと見守りつつ、出来る限り支えていこう。

 

それはそれとして、せんせを殺した奴は絶対に許さない。確実に息の根を止める。

 

 

「見ててね、せんせ……」

 

 

こうして星野ルビーは、復讐するという揺るぎない負の感情を抱えながらも、前向きに決意を固めた。

 

左目には()()()を、右目には()()()を宿らせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あらら、まさかこんな事になるとはね。こうなってしまった以上、今ここで私があの子と接触する必要は無いかな? これはちょっと想定外。

 でもまぁ良いか、結果的に自らの役割に奔ってくれるならそれで。この調子ならすぐにアイの死との関連性にも気付くだろう。ならば予定を変更して、しばらく様子見しておこうか」

 

 

そっと様子を見ていた少女は静かに笑った。

 

 

 




この後の撮影は原作通り順調に進んだ。


ルビー「…………」

あかね「…………」(アクアから片時も離れず、ずっと腕を組んで寄りかかっている。たとえ公衆の面前だろうと気にしない)

アクア(今日のあかね、いつもよりスキンシップ激しいな。というか、昨晩から様子が変だ……)

有馬(黒川あかねめ……見せつけてるつもりか!)

MEM(わーお。あかねちゃん、今日はいつにも増してお熱いなぁ……)

ミヤコ(はぁ、このまま修羅場に突入しないと良いんだけど……。にしても、ルビーも黒川あかねもどこか様子がおかしいわね。確実に何かあったとしか思えない。後で少し聞いてみようかしら)
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