呪術の子 作:メインクーン
クリス「夏油さんに会いました」
五条「マジ?」
ルビー「せんせを殺した奴は絶対に許さない」
2日目以降の撮影は特に何事もなく順調に進んだ。
どこか様子がおかしいルビーとあかねに疑問を持つ者もいたが、特に言及される事もなかった。
クリスはクリスで、呪いの存在を認知してしまった2人を付きっきりで護り続けた。その間、彼女が睡眠を取る事は一切なかった。
そうしてあっという間に撮影を終えた一行は、最終日に神社へ御礼参りを行い、その日の内に東京へ帰還した。
──高千穂での戦闘から数日後。
この日、クリスは渋谷駅前でルビーとあかねに会っていた。理由は勿論、3人で呪術高専に行くためである。
「お待たせー。待った?」
「ううん、私もルビーもさっき来たばかりだから大丈夫だよ」
「あかねお姉ちゃん、無理に取り繕う事もないからね? 約束の時間から30分以上待ったんだし」
手を振って遅れてきたクリスを笑顔で迎えるあかねと、むすっとした顔で見やるルビー。遅れた当の本人は「いやーごめんごめん」と飄々とした態度で軽く謝罪した。反省した様子ではなかった。
「じゃあ早速高専に行こうか。2人に呪術の事を教えるって言ったら、先生凄く張り切ってたしね」
「先生?」
「そっ、僕の担任の先生。姉さんはSNSで1度見た事あるでしょ?」
「ああ、あの超イケメンの……」
他愛のない会話をしながら3人は街中を歩き回る。
「ねぇ、クリスの担任の名前って何?」
「名前? 五条悟だよ。僕はいつも五条先生って呼んでるんだ」
「へぇー……じゃあさ、その五条悟ってクリスから見てどんな人なの?」
「どんな人か? そうねぇ……」
街中を一緒に歩く中、突然のルビーの質問にクリスは頭を悩ます。
クリスと五条悟との関係は12年以上にも及ぶ。関係はとても深い。それこそ向こう側の家族ぐるみで。なのでどんな人かと聞かれて、それに一言で答えられるほど簡単ではない。
だが、それでもクリスは五条悟に対する印象をぽつぽつと語った。
「顔が良い、太陽みたいな笑顔、完璧なパフォーマンス、まるで無敵に思える言動、吸い寄せられる天性の瞳……うーん、ちょっと抽象的だけど大体こんな感じかな? まぁとにかく、僕が最も尊敬してる人だよ」
「ふーん……」
何とも言えないクリスの回答に、ルビーは軽く頷くだけだった。
だが、隣で聞いていたあかねはその回答を聞いて思わずふふっと笑みが溢れる。
「クリスちゃん、アクア君と全く同じ事言ってる。やっぱり兄妹なんだね」
「兄さんが? どういう事?」
「アクア君も『今ガチ』の時に好みのタイプを聞かれて、クリスちゃんと全く同じ答えを返してたんだ。
まぁ、彼の時はB小町のアイがタイプってすぐに分かったけど、そっかぁ……。クリスちゃんが最も尊敬する五条悟さん、一体どんな人なんだろう? 会うのが楽しみだなぁ」
「ふふっ、会ったらきっと驚くと思うよ?」
あかねが快く教えてくれた過去のやり取りにより、意外なところでアクアとの共通点を知り、兄妹としての繋がりをしみじみと感じるクリスだった。
それから歩くこと10分、クリス達は渋谷の喧騒から少し離れた路地裏に入った。
「クリスちゃん、今から高専に向かうんだよね? ここ路地裏だけど……」
「東京の郊外じゃなかった? というか電車かバスで行かないの?」
「うーん、ちょっと色々と事情があって、公共交通機関で高専に行くのは面倒なんだよね」
渋谷から高専まで普通に移動しようとするとかなり時間が掛かってしまう。何より高専全体には天元が下ろしている高専結界がある。
だから都内と高専を行き来する際、クリスはいつもこの方法で移動している。
「だから高専に行く時はいつも瞬間移動してるんだ。今日もそのつもり」
「えっ、瞬間移動?」
「……んん?」
「戸惑ってないでほら、早く僕に捕まって」
クリスに発言に疑問符をいくつも浮かべるルビー達を催促し、2人の手を肩に乗せる。
「じゃ、行くよー。絶対に僕から離さないでね……それっ!」
「……ッ!? えっ……ええっ!?」
「あ、あれっ!? 私達、さっきまで渋谷にいたよね?」
人の熱気溢れる渋谷の街から、枯れた草木が生い茂る長閑な山の中に景色が一変する。
初めての瞬間移動を体験した2人はこれまでにない衝撃を受けていた。
「どう、驚いた? 僕こういう事も出来るんだよ。その気なればこの前行った高千穂にも瞬間移動でひとっ飛びさ」
「……あ、あはは。呪術って何でもありなんだね」
「とりあえずクリスが凄いって事だけは理解できたね。流石は私の妹」
概ね期待通りに反応を見て、クリスは偉そうに胸を張ってドヤ顔を見せる。
そして、くるりとルビー達の方を振り向いて仰々しく両手を広げると、満面の笑みで2人を歓迎した。
「ようこそ、東京都立呪術高等専門学校へ」
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瞬間移動であっという間に高専に到着したクリス達は、そのまま校舎に入っていった。
だが、向かう先は応接室ではなく保健室。
今回2人に高専に来てもらった目的は、バレてしまった呪術の説明だけでなく、家入に2人の診察をしてもらうためでもある。特にあかねは呪霊に両腕を切り落とされ、死の淵を彷徨っていた。これが原因で身体に何か異常が発生していてもおかしくない。
だからこそ、1度保健医の家入に診てもらう必要があった。
「失礼しまーす。家入さん、この間言ってた2人を連れて来ましたよ」
「へぇ、その2人がクリスの家族かい? 中々可愛げがあって良いじゃないか。クリスとは大違いだ」
「ちょっとそれどういう意味ですか?」
「さあ、何だろうね?」
ルビーとあかねを見てさらっとクリスを貶す家入。
クリスがすぐに口を尖らせるが、家入は知らんぷりしてそっぽを向く。
「で、君達がクリスの姉のルビーとあかねで良いのかな? 私はここで保健医やってる家入だ。よろしくね」
「初めまして家入さん、黒川あかねと申します。厳密には姉ではありませんが、その、クリスちゃんとは仲良くさせてもらってます」
「初めまして家入さん、クリスの姉の星野ルビーです。妹がいつもお世話になってます」
「あはは、2人とも礼儀正しいね。あのバカにも見習ってほしいくらいだ」
常日頃から頭のおかしい呪術師の相手をしているため、家入は礼儀正しく常識的な対応をする2人に新鮮味を覚えた。それと同時に、あのバカもこれくらい礼儀正しかったらなー、なんて思いながら2人を眺める。
その例のバカは現在、保健室にいなかった。
「……あれっ、そういえば五条先生はどこに行ったんですか?」
「ああ、あのバカなら『飛び切りのサプライズで皆を驚かせる』とか騒いでどっか行ったよ。でもそろそろ戻ってくる頃合いじゃないか?」
「サプライズ……一体何してくるんだろ?」
五条のサプライズと聞いてクリスはソワソワし始めした。
これまでの長い付き合いで五条の事には相当詳しいクリスだが、それでも時々行動が読めない事がある。
その1つがサプライズだ。
タイミングも場所も常にランダムで来襲し、大体こちらの予想を超えてくるものばかり。そのため、クリスも爆笑して一緒に騒ぐ事が多い。
果たして、今回は一体どんなサプライズを見せてくれるのだろうか。
そんな心持ちで待っていると、唐突に廊下からドタバタと駆け寄る足音が耳に入った。
「おっ、噂をすれば来たみたいだね」
「クリスの担任……一体どんな人だろう?」
「意外と面白い人だったりして……」
クリスの担任との御対面に、ルビーとあかねの期待が高まる。
容姿はSNSで見た通り、物凄いイケメンである事は確定済み。クリスから大体の印象は聞いたものの、実際はどんな人なのだろうと気になってしまうのは当然だった。
だが、その期待は一瞬にして崩れ去る事になる。
何故なら────、
「こんにちはー! 星野クリスでーす!」
保健室のドアを勢いよく開けて登場したのは、クリスの担任であり現代最強の術師、五条悟。
目元を覆い隠す黒い布、いつも着用している黒のジャケット。
そして…………黒のスカート。
そう、黒のスカートである。しかもただのスカートではなく、呪術高専で着られる女子生徒用のスカートである。大股を開き、飛び切りの笑顔でダブルピースを披露しているが、皆の視線はどうしても下に向かってしまう。
何故それを男性教師が履いているのか。それは勿論気になるところだが、一番の問題はそこではない。
五条悟が今履いているスカートは
「ぶわっははははははっ!! あっははははははははーっ!! ちょっと待ってよ先生、それ
五条が履いているスカートは女子生徒のクリスの物だった。
高専入学時に配布されたクリスのスカート。当の本人は五条悟と同じ様な服を着ているため、制服のスカートを履く事は滅多にない。だからこそ、箪笥の肥やしと化していたスカートをクリスの部屋から持ってくるのは容易だった。
「ははっ、相変わらずバカやってるなあいつ」
その光景を自然と受け入れて「バカだなー」と笑って済ます家入。
「どう? クリスの声も真似てみたんだけどウケた?」
「滅茶苦茶そっくり! ねぇ先生、今のもう1回やってみて!」
「どうもー! 星野クリスでぇーす!」
「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃーっ!!」
自室からスカートを勝手に盗まれ、悪ふざけで着用されたにもかかわらず、五条と一緒に爆笑して大はしゃぎするクリス。
その一方で────、
「「……………………」」
常識ではまず考えられない光景をいきなり見せ付けられ、ルビーとあかねは情報を処理し切れずに言葉を失っていた。
いつまでも情報が完結せず、次の行動へ身体を思うように動かせない。
故に何も出来ず、ただ只管に黙って目の前の珍行動を見届ける事しか出来なかった。
寮部屋から盗んだ女子生徒のスカートを履いて初対面の客人を出迎えるアラサー教師。
これが簡易版無量空処。
ちなみにクリスの声はアイ似。