呪術の子 作:メインクーン
ここから少しづつ開示していくつもりです。
東京都立呪術高等専門学校。
東京都の郊外に位置する、日本に二校しか存在しない四年制の呪術教育機関の一つ。
表向きは私立の宗教系学校を装っているが、その実態は国内呪術の教育機関であり、才能ある若者を育て、強い呪術師を育成する場所となっている。
なお、多くの呪術師が卒業後もここを拠点に活動しており、教育だけでなく任務の斡旋・サポートも行なっている呪術界の要である。
────そんな良くも悪くも秘密だらけの高専に、今年は3名の新入生が入学した。
「初めましてー! 今年から呪術高専に入学した星野
「という訳で、新入生星野クリス君の自己紹介でしたー! ほら、拍手拍手!」
「イエェェェーイ!」
クリスと担任の五条がパチパチと手を叩く音だけが、人の少ない教室内で煩く反響する。
そんな2人の異様なノリを前にして、同じく新入生である
「……ねえ、どうしよ金ちゃん。この2人、私達とは別ベクトルでヤバい奴らだよ。何というかさ、相対的にこっちの方がマシに見えない?」
「まあ、確かにいきなりあれはちょいとビックリするかもな。だがどうって事でもねぇ。熱がある奴なら大歓迎だぜ、俺はよ!」
そう言って元気良く立ち上がると、秤はドラミングの様に己の胸に拳をドンと当てて声を張り上げた。
「秤金次だ! 金ちゃんって呼んでくれても良いぜ? よろしくな!」
「オッケー、よろしく金ちゃん! お互い仲良くバカな事やっていこう!」
「おっ、やっぱいいなお前。そういうの俺は好きだぜ」
「あっはっは、ここで褒めたって何も出ないぞー」
秤の気軽な自己紹介が終わり、すぐに意気投合したクリスと秤は笑顔でハイタッチを交わした。
ちなみに、3人目の綺羅羅の自己紹介は前の2人に比べてもっと簡潔だった。
「星綺羅羅でーす。よろしくねー」
「こちらこそよろしく、綺羅羅ちゃん! にしてもそのメイク、センスが光ってて良いね。あとで詳しく教えてよ」
「うん、いいよ。学校が終わった後で一緒に話そ」
簡潔な自己紹介と会話だったが、それでも共通の話題になる物が見付かったからか、もう1人ともすぐに打ち解けた。
その様子にある意味いい笑顔をしていた五条が、静かに頷きながら生徒達の前に立つ。
「うんうん、生徒同士すぐに仲良くなってくれて、僕はほっとしたよ。皆その調子で頑張って強くなってね。僕に負けないくらいさ。
……まあ、クリスは言わずもがな、秤と綺羅羅も既に十分強いから心配いらないと思うけど、一応ね?」
呪術高専東京校の1年担任、五条悟。
呪術界の御三家とも言われる由緒正しき名家の内の1つ、五条家の現当主であり、現代最強の異名を持つ特級呪術師の1人。
最強だけあってその実力は本物で、話によると五条悟の誕生で世界の均衡が変わってしまった程だという。
そして、クリスが呪術について知るきっかけとなった人物でもあり、出会って10年以上経った今でもクリスの師匠として日々色々な事を教えている。
そんな最強超人からの、自分に負けないくらい強くなってほしいという願いは無理難題に等しいのだが……。
「もちろん、僕の目標は今も昔も五条先生だから、近い将来必ず超えてみせますよ! 楽しみに待っててください!」
「ふふっ、ずっと変わらず僕を慕ってくれるなんて、苦労して育ててきた甲斐があるってもんだよ。何気に口調も一人称も僕と近いし、そこもポイント高いね」
クリスは自信満々で即答した。
勝ち気なその発言に五条の機嫌が更に良くなるが、早速2人の雰囲気から取り残された秤と綺羅羅は少しだけ微妙な反応を示した。
「いやまあ、強くなるつもりじゃいるけどよ、ぶっちゃけ五条先生ってどんくらい強ぇんだ? そこんとこ結構曖昧だからよ、あんましピンと来ねえんだよな」
「私も一緒かな。金ちゃん中学でダブってたし、私もそれで色々あってさ。ここにはスカウトで来たけどつい最近の事だから、とりあえず五条先生が超強いって事しかまだよく分かってない」
幼少期の頃から五条に鍛えられてきたクリスと違い、秤と綺羅羅はつい最近まで
具体的な物差し、強さの天井が分からないとあっては、その分強くなるイメージも難しくなってしまう。
2人の言い分を聞いた五条は「確かに……」と呟くと静かになった。
そしてしばらく考え込むと、何かいい方法を思い付いたのか顔を見上げ、クリスの方を向いた。
「よし、それじゃあ全員そこのグラウンドに集合ね。今から僕とクリスで
「えっ!? 僕と先生で今から? グラウンドで!?」
「そうだよ。でもまあ大丈夫っしょ、ガチでやり合うわけじゃないし。それにクリスも今年から晴れて特級術師じゃん? 秤達にとっても良い刺激になるって」
いきなり戦う事を宣言した五条に、クリスが大きく目を見開いて声を荒げた。
それでも五条は相変わらず飄々とした態度を崩さないが、クリスが懸念しているのは五条と戦う事、それ自体ではない。
「いやいや、グラウンドはマズいですって先生。前にもそれで勢い余って校舎ごと吹っ飛ばしちゃって、夜蛾先生の鉄拳制裁を食らった事忘れました? 僕はもう嫌ですよ、あの先生の拳骨。結構痛いですし」
五条と戦う事自体は大した問題ではない。戦う場所が問題だった。
呪術高専東京校の現校長を務める夜蛾正道に、昔こっぴどく叱られた経験のあるクリスにとって、夜蛾の怒りを買うのは出来れば避けたいところなのだ。
だからこそ少々暴れても問題ない場所で戦おうと提案するが、五条の破天荒ぶりは今に始まった事ではない。
「大丈夫大丈夫、ちょっとくらい校舎壊れても何とかなるって。わざわざ遠くへ移動するのも面倒だしね。もしヤバくなったら……その時は一緒に怒られようぜ!」
「いや、それくらい瞬間移動すれば良い……」
「はいスタート!」
「おわーっ!? 教室内でいきなり『赫』ぶっ放すとか正気ですか!? というか全然軽くなーい!」
「そう言いつつ、ちゃっかり無傷で受け流しているのは流石だね。……秤、綺羅羅、そこでしっかり見ておくといいよ。あの子が君達にとって超えるべき壁になると思うから」
「「あー……うっす」」
五条は2人にそう伝えると、半壊した教室から飛び降り、先にグラウンドに降り立ったクリスと対面する。
そして始まる特級術師同士の
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
一方その頃、場所は変わって陽東高校。
都内に位置するここは中高一貫で、日本でも数少ない『芸能科』のある学校となっている。
この芸能科は誰でも受けられるわけではなく、入りたければどこかしらの芸能事務所に所属している事が必要となる。
だが意外な事に、見られる側の人間ばかりが集まる芸能科であっても、実態は他の高校と大した違いはなく、カリキュラムも大きく逸脱しているわけではない。
しかしながら、将来あらゆるメディアで活躍するであろう若い才能が圧倒的に多いので、やはり他の高校とはどこか非日常的な雰囲気があるのは隠し切れない。
そんな芸能人御用達の高校に、星野アクアは一般科、星野ルビーは芸能科へ入り、本日入学式を迎えていた。
そして今、入学式を終えた昼下がり。
「────ていう感じで友達になったみなみちゃん!」
「いや、どういう感じだよ?」
入学初日早々、隣席にいるグラビアアイドルの寿みなみと友達になれてご機嫌なルビーが、1人で校庭を歩き回っていたアクアに絡んで友達を紹介していた。
「……まあ、お前に友達が出来て何よりだよ」
「お兄ちゃんは友達出来た?」
「……いや、別に友達作りたくてこの学校入った訳じゃないし……」
「あっ……これ出来なかった奴だ……」
どこか呆れた様子のアクアに交友関係を尋ねる上機嫌なルビーだったが、兄の浮かない反応と表情を見て、一気に可哀想なものを見る目へと変化する。
「ごめんね、辛い事聞いて……。もう教室での話しなくていいから……」
「いや別に話し相手くらいは出来たっつの! 男子はいきなり友達認定とかしねえから! もとより一般科はそっちと違って────」
「お兄ちゃんが凄く饒舌に喋ってる」
何とか兄の労を労ってあげようと苦し紛れにかけた一言は、逆にアクアの神経を逆撫でしたようで、過剰な量の言い分がアクアの口からスラスラ出てきた。
そうして必死に弁解する兄に、ドン引きの表情を向けるルビー。
「……みなみちゃん、お兄ちゃんとも友達になってあげてくれる?」
「あはは、それくらいええですよー」
「友達をお裾分けすんな。というか、そんな事言い出したらクリスはどうなるんだよ? あいつの学校ただでさえ郊外にあって人少ないってのに、そこでもしクラスメイトにハブられでもしたら……」
「大丈夫、クリスならきっと上手くやれてるって。全く、お兄ちゃんは本当にシスコンっぷりヤバいんだから」
「いや、兄として1人違う学校に行った妹を心配するのは当然の事だろ」
「はいはい、そういう事にしてあげるよ」
「あのなぁ……」
友達が出来なかった事をいじられていたアクアが、急にその矛先を1人だけ違う高校に通ったクリスに向けた。
何やかんや言ってクリスの事を心配するアクアと、それを重度のシスコンだからとして片付けるルビー。
現在、その末っ子はグラウンドで現代最強と現実離れした戦闘を繰り広げているのだが、そんな事を2人が知る由はない。
現状知っているのは、クリスが通っている高校が東京の郊外に位置する私立の宗教系学校という事だけ。家族である2人がこれ位しか情報を持っていないという事は、高専側の情報規制が十分に機能している証左である。
だからこそ、呪術高専についてあまり把握出来ていないアクアが、1人だけ郊外に行ったクリスの心配をするのはある意味で当然の事だった。
しかしその反面、アクアは内心ほっとしていた。
(確かにクリスの事は心配だが、それでもアイドルどころか芸能界に進む気すら無かったのは正直助かった。アイと同じ轍を踏ませない為に、どんな手を使ってでもルビーとクリスをアイドルにさせたくなかったからな。
郊外の学校で寮もあるから、
母親である星野アイの死を目の当たりにして以来、すっかり変わってしまったアクア。
そのため、卑怯な手を使ってでも妹2人がアイドルになる道を妨害していたのだが、そもそも芸能界に入るつもりすら無かったクリスの進路には特に反対しなかった。
『クリス、お前は高校どこにする? お前の成績なら都内の進学校にも余裕だと思うが……』
『あっ、その事だけどね? 僕はこの高校に行くって決めたから。お母さん*1にもさっき伝えたから』
『どれ……呪術高等専門学校? 何だこれ、もしかして宗教系の学校か?』
『そっ! だから兄さん達とは違う進路になるから、そのつもりで。僕は別に、芸能人になる気はあんまり無いし』
『そうか……まあ、お前がそこで良いって言うなら特に反対はしないが……』
このようなやり取りの末、クリスは呪術高専へあっさりと進路を決めた。
その時の会話を振り返り、アクアは1人郊外へ行ったクリスの身を案じつつも、ルビーと寿みなみとの会話に意識を戻す。
「ルビーちゃんのとこ、もしかして3人兄弟なん? お兄さんの他にもう1人おるの?」
「そう、妹がいるの! 3人兄弟の末っ子でクリスって言うんだけどね、1人だけ郊外の学校に行ったんだー」
「へぇー、何かめっちゃ気になってきたわぁ。ねえねえ、そのクリスって子は普段どういう感じの子なん?」
「あー……その、ねぇ……何というかなぁ……」
「……?」
3人目の妹の話題に食い付いたみなみが、この場に居ないクリスの事について根掘り葉掘り尋ねる。
しかし、質問されたルビーの言葉に詰まった様子に、どこか違和感を覚えて首を傾げた。
「うーん、クリスはねぇ、一言で言うと『変人』……『超人』……いや『狂人』かな? とにかく超変わった子だよ」
「変わった子?」
「うんそう。具体的にはそうだねぇ……一人称が『僕』だし、何でか分からないけど常にハイテンションで話すし、隙あらばナチュラルに人を煽るし……」
「す、凄い子なんやね……」
「そうなの! 他にもまだあってね、放課後とか休日になるといつもどこかに出掛けてるし、地元の中学校の近くにいた不良グループ50人と戦ってあっさり壊滅させるくらい強いし、なのに成績はお兄ちゃん並みに良いし……」
「ほ、本当に凄い……凄い? と、とにかく凄過ぎる子なんやねぇ、そのクリスって子!」
「あははー、まあね……」
ルビーの口から告げられる、クリスに関するぶっ飛んだ話の数々。
これにはニコニコと笑顔を浮かべていたみなみも、何と言えばいいのか分からないほど唖然としていた。
そんな2人のやり取りを目の前で聞いていたアクアは……。
「おいルビー、本人が居ない場でそういう事を吹聴するのは止めとけ。たとえ事実であっても、話して良い事と悪い事があるんだぞ? 次からはそこ、気を付けろよ」
「……それ、ナチュラルに私の言った内容が本当の事だって証明してない?」
「…………あっ」
フォローすると見せかけて、逆にマイナスイメージを定着させる発言をしてしまうのであった。
「────へっくしょん!! ……ええ、こんな時にくしゃみ? 誰か僕の噂話でもしてるのかな?」
「隙あり! 術式反転『赫』!!」
「あっやば、これ避けられなああああああああああっ!!」
「おおー、派手に吹っ飛んでいったねぇ……でもまあ、すぐに戻ってくる辺り、流石は特級といったところかな?」
同じ東京なのに呪術高専と陽東高校での落差が激し過ぎる……高専側のカオスっぷりよ。