呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「ようこそ呪術高専へ」

スカート五条「星野クリスでーす!」

ルビー&あかね「ッ!?」



五条先生は優しいよ?(クリス目線)

クリスのスカートを履いて登場した五条に、初対面のルビーとあかねが放心状態になってから数十分が経過した。

 

 

「……うん、2人とも身体に異常は見られないね。脳波も正常だった。ただ、これまで通りの生活を送れるとは決して思わない事だ。

 1度呪いの被害にあった者は呪いが見え易くなるし、その影響で呪いの被害にも遭い易くなるんだ。つまり、呪霊に殺される確率が非常に高くなる」

 

「……そうですか。ご忠告ありがとうございます」

 

「わ、私も気を付けます……」

 

 

家入の診察を受けたあかねとルビーは、家入から厳しい現実を教えられて萎縮した。

 

ここで変に取り繕っても意味がないので、この忠告は家入なりの優しさでもある。それでも呪霊に襲われた恐怖を味わった2人の表情は暗いものだった。

 

 

「まぁそこまで心配する事はないさ。もし不安を感じるようなら君達の妹を頼りな。鍛えるもよし、護ってもらうもよし。今なら最強のボディガードをタダで使いたい放題だよ」

 

「そういう事だから任せて姉さん、あかねちゃん。対呪霊用の呪符なら既に作ったし、呪霊が来ても僕が華麗に祓ってみせるから。何なら基礎的な体術とかも教えるよ」

 

 

冗談交じりの軽い口調で発した言葉に、クリスが自信満々に胸を張って宣言する。

 

先日の戦いを見ている2人にとって、これほど心強い味方も中々いないだろう。

 

 

「本当にありがとうクリスちゃん。このお礼は絶対に返すからね」

 

「良いって良いって。どうせ近い将来本当の家族になるんだし、これくらい当然だって」

 

「あ、あははー、やだなぁ……。そんな事言われたら私、照れちゃうよ」

 

 

家族云々の話であかねが赤面して俯く。

 

アクアとの交際を暗に認めている分、なおの事照れ臭かった。

 

 

「にしてもクリスってどのくらい強いの? あの冥さんって人は、クリスは日本人全員をどうのこうのとか言ってたけど……」

 

「はーい、それについてはGLGの僕が教えよう!」

 

「うわあああーっ!? へ、変態が来たぁー!」

 

「その言い方酷くない?」

 

「そもそもGLGって何!?」

 

「えっ、そんなの『グッド(G)ルッキング(L)ガイ(G)』に決まってるでしょ! やだなぁもう!」

 

「キモッ!? 変態!」

 

「めっちゃストレートに言うじゃん」

 

 

何気ないルビーの発言に反応して、スカート姿からいつもの服装に戻った五条が割り込んできた。

 

変態と罵られた五条はルビーに苦言を呈すが、その評価は当然の結果と言えるだろう。

 

 

「まぁ良いや。クリスはさ、マジで超強いよ。僕がいなかったら間違いなく現代最強……いや、世界最強の術師と謳われていただろうね」

 

「あなたのような胡散臭い変態が最強という事実に絶望しか感じませんけど……確かに先日の戦いを見てると、その言葉にも十分納得できますね」

 

「そうだね、一言余計な気もするけどその通りさ。クリスは数少ない特級術師だからね。その気になれば国すら単独でひっくり返せる」

 

「そんなに……」

 

 

散々強いと聞かされ、実際に戦う姿を目の当たりにしたからこそ納得したが、改めてはっきり言われると現実味を感じない話ばかり。

 

静かに驚くあかねを横目に、今度はルビーがずっと気になっていた事を尋ねる。

 

 

「ねぇ、さっきからクリスの事を特級特級って言ってるけど、それってどういう意味なの? やっぱり何かの階級?」

 

「良い質問だね。じゃあ簡単な呪術の説明も兼ねて、呪霊と術師の等級の事もパパッと教えちゃいますか!」

 

 

それからというもの、五条達はルビーとあかねに呪術に関するあれこれを教えた。

 

呪霊という存在、呪力の事、呪霊が発生する原因、呪術師という仕事、それらと敵対する呪詛師の存在、呪術界の事、等々……。

 

基本的な事項を淡々と説明していったが、中でもやはり興味を惹いたのは等級の話だった。

 

 

「呪霊と術師は実力によって、それぞれ4級から1級までの等級に分かれている。稀にその枠組みから飛び出た存在は特級に分類されるんだ」

 

 

用意したホワイトボードには、これまで説明した内容が板書されていた。

 

今は等級ごとの呪霊に対する戦力比較について纏めた資料が貼られている。

 

 

「ねぇクリスちゃん、資料に記載されてる呪霊の戦力比較って正確なものなの?」

 

 

説明を聞きながらあかねが疑問を呈する。その等級の呪霊を討伐するに当たってどれだけの戦力が必要か、という項目そのものに対して。

 

 

「僕の戦いを見たあかねちゃん達なら何となく分かるんじゃない? その比較表は思いの外当たってるよ。

 ただ勘違いしちゃいけないのは、それが示すのはあくまで各等級の呪霊の最低ライン。特に特級は枠組みから外れた存在の総称だから、実力の差は天井知らずさ」

 

 

資料に目を通しながらクリスは説明した。

 

1つの例えとして言われている事だが、呪霊に通常兵器が有効と仮定した場合、その強さは以下の通りに分類される。

 

 

4級──木製バットで余裕。

 

3級──拳銃があればまあ安心。

 

2級──散弾銃でギリギリ。

 

1級──戦車でも心細い。

 

特級──クラスター弾での絨毯爆撃でトントン。

 

 

これらはあくまで目安に過ぎず、おまけに呪いは呪いでしか祓えないため、基本的に通常兵器は通用しない。

 

 

「いやね、クリスちゃんの戦いを見たから嘘じゃないのは分かるんだけど、やっぱり実感の湧かない話ではあるよ。

 だって1級の時点で戦車でも危ないんでしょ? そんな魑魅魍魎が現実に何体も跋扈してるなら、今の人間社会はとっくの昔に滅んでるよ」

 

「それはそう。でもね、呪霊に規格外が存在するように、それらと戦う呪術師にも規格外は存在するんだよ。五条先生や僕がその最たる例だね」

 

 

あかねの言葉は正しい。だが、それと同時に抑止力となる存在もいる。

 

現在、特級呪霊に対抗できる特級術師として、高専が登録している数は4名。しかしこの内の1人、夏油傑は訳あって離反中。もう1人の特級は碌に任務も受けずに海外を放浪している。

 

現状、真面目に呪霊討伐に赴いている特級術師は、五条悟と星野クリスの2人だけである。

 

 

「なるほど、そこでクリスが特級云々の話に繋がるわけね!」

 

「そういう事だよ姉さん。段々分かるようになってきたじゃん」

 

 

幸いにも、特級の中でも規格外の2人が秩序側に就いている現状。

 

五条悟がいなければ今の日本は存在しない。星野クリスがいなければ年々増加する呪霊の被害を最小限に抑えられなかった。

 

どちらが欠けても全国に多大な影響が出てしまう程、今の日本の秩序はこの規格外2人に傾倒している状況である。

 

 

「……何というか、話を聞けば聞くほどクリスが遠い存在に思えてくるなぁ」

 

「それは確かに。特級の最低基準がクラスター弾って相当ヤバいよね。クリスちゃんの強さも納得だよ」

 

「言っとくけど術師と呪霊じゃ強さの基準が違うよ。特に特級術師の認定条件なんて『単独での国家転覆が可能である事』だから、他とはちょっとだけ違うんだよねー」

 

「……逆に何でそんな規格外が平然と街中を闊歩してるの? 日本の治安はどうなってるのよ?」

 

「安定はしてる。今のところはね」

 

 

段々話を理解する度に特級の恐ろしさ、引いてはクリスの化け物じみた強さに説得力が増し、ルビーとあかねの表情が引き攣っていく。

 

見られた本人は2人の反応を見て悪戯っ子の様な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

話がようやく一段落した後、再びルビーがクリスに聞いた。

 

 

「思ったんだけど、何があってクリスは呪術師になったの? というか、一体いつからこの業界に飛び込んだの? 芸能界も真っ青な殺伐とした業界に」

 

「ん? えーとね、4歳の頃からだよ」

 

「「4歳!?」」

 

「おお、すっごいリアクション」

 

 

クリスが呪術界に関わり始めた時期があまりにも早期だったので、ルビーとあかねは驚愕して思わず声を上げた。

 

当の本人は相変わらず面白がっているが、姉のルビーはそれどころではなかった。

 

 

「4歳ってあんた……何でそれを家族に教えてくれなかったの!? というか何があってそうなったの!? そんな素振り微塵も感じられなかった!」

 

 

ルビーの視点で見ても、当時のクリスの行動で特に不審に思う点は見られなかった。

 

否、正確に言うと当時は母親のアイが亡くなった頃で、ルビーもそれどころではなかったというのが正しい。

 

だからこそクリスの行動にもっと目を向けられなかったのだが、そのおかげでクリスは容易に呪術高専と自宅を行き来できていた。

 

では、一体どうしてそんな事になったのか。そんなルビーの尋問にクリスはあっさりと暴露する。

 

 

「ああ、それは僕達のママが殺されたあの日まで遡るんだけどね……」

 

 

それからクリスは淡々と当時の経緯を語った。

 

 

アイを刺し殺した犯人に復讐すべく、外に出て虱潰しに犯人を探し回った事。

 

近くの自然公園で入水自殺を図ろうとしていた犯人を見つけたので、咄嗟に渾身のドロップキックを顔面に食らわせて、犯人を記憶喪失にした事。

 

そのタイミングで丁度任務帰りだった五条悟と出会い、色々と話し合った結果、呪術師としてスカウトされた事。

 

 

「……で、その日以降隙を見ては高専に行って、色んな人から呪術のノウハウを教えてもらって、今に至るってわけ」

 

「いや、最後話を端折り過ぎ! ってか、クリスがこんな危険な業界に関わるようになった原因あんたかよ!」

 

 

一連の経緯を聞いてルビーは激昂した。あの日、自分の知らないところで妹が更なる地獄へ足を踏み入れていた事に。

 

そして、妹を危険な呪術界へ引き込んだ張本人、五条悟を鋭く睨み付ける。

 

だが、睨まれた張本人はヘラヘラ笑っていた。

 

 

「いやぁ、ごめんごめん。星野アイを殺した犯人をドロップキックする様があまりにも衝撃的で、つい話し掛けちゃったんだ。

 そしたら呪術の才能ありまくりの超強い術式持った天才だよ? 迷わず即行でスカウトしたよねー」

 

「ざけんなっ!!」

 

 

ルビーは激怒した。

 

五条悟のヘラヘラした態度にとうとう堪忍袋の緒が切れた。瞬間、大声を上げて力の限り拳を突き出した。

 

普段ならこのような暴力行為には至らないのだが、今回ばかりは思い切りぶん殴らずにはいられなかった。

 

 

「……はっ? 何これ、寸前で止まった?」

 

「無限。アキレスと亀だよ」

 

「はぁ?」

 

「勉強は大事って話」

 

「……クソがっ!!」

 

 

だが、五条悟の無限に阻まれ、渾身の一撃は当たる寸前で止まってしまう。

 

殴りたくても殴れない現実に、ルビーは只管に悪態を吐く事しか出来なかった。

 

 

「姉さんったら柄にもなく荒ぶってて大変そー。そんなの気にしなくても良いのに」

 

「いや、クリスちゃんの事が心配だからあんなに怒ってるんだよ? それに私もちょっと腹立ってきた。あんな最低な人がいるとか信じられない……」

 

 

呑気に五条とルビーのやり取りを見やるクリスと、五条に対して静かな怒りを抱くあかね。

 

最早五条悟に対するルビーとあかねの評価は地の底を這っていた。

 

しかし、クリスはそれを笑って否定する。

 

 

「いやいや、このくらいまだまだ序の口だよ? 呪術師は頭おかしい奴らの集まりだからね。むしろ五条先生はめっちゃ生徒想いの優しい先生だよ。何だかんだ言って僕らの事を常に気に掛けてくれるし」

 

「……優しい? あれが? クリスちゃんそれ絶対騙されてるよ。目を覚まして」

 

「いやぁ、ほんとほんと。マジで五条先生滅茶苦茶マシな部類だからね。超強いし、ノリが良いし、一緒にバカやって騒いでくれるし、修行にも真面目に付き合ってくれるし……。

 まぁとにかく、僕の人生に最も大きな影響を与えてくれた掛け替えのない師匠でもあり恩人だよ」

 

「ええ……」

 

 

常識的な思考であかねに諭されるが、クリスは頑なに首を横に振って異を唱える。

 

クリスにとって五条悟とは、自分の人生の中に無くてはならない大切な存在である。今更誰にどう言われようとも、そこを曲げるつもりは毛頭なかった。

 

実際クリスの言う通り、五条悟は呪術師の中ではとても優しい部類である。仮にルビー達が上層部や他の御三家の人に出会ったら、あまりのクズっぷりに間違いなく卒倒するだろう。

 

 

特に禪院家。そこの家からの嫌がらせにはクリスも辟易している。五条悟の一番弟子だからという理由で、幾度となく酷い目に遭わされてきた。終いには強引に縁談を持ち掛けられた事もある。

 

 

少々話が逸れたが、そのような経緯もあって、余計に五条悟は優しくて思いやりのある人だとクリスは思っている。

 

とはいえ、世間一般から見れば五条悟も十分性格が悪いのは分かっているで、あかね達の言い分も理解していた。

 

 

「というかあかねちゃん、今更だけど僕達の母親がアイって聞いても驚かないんだね。やっぱりもう知ってた感じ?」

 

「……今までのアクア君との会話から何となくそんな気はしてたから。そんな時にクリスちゃんと出会って、推測が確信に変わった感じ」

 

 

話は変わって母親の事について触れるクリス。

 

しれっとクリス達の母親がB小町のアイであると聞かれたものの、本来知らないはずのあかねは大して驚く様子もなかった。

 

その理由を聞いてやっぱりとクリスは思った。

 

 

「あははー、やっぱそうだよね。分かる人には分かるか。だって僕、マジでママと瓜二つなんだもん。顔とか声とか色々と」

 

「初めて会った時は本当にびっくりしたもん」

 

 

元々確信気味だったあかねの推測を確実なものへと押し上げるほど似ている母娘。

 

本来クリスの容姿ならアイの血縁者だとバレてもおかしくない。それが無いのは、クリスが幼少期からずっと呪術高専に入り浸っていたからなのと、12年経ってアイの存在が過去の記憶になったから。

 

だが、それでも知っている者がクリスを見ればすぐに気付く。今回のあかねがその典型例だった。

 

 

「ぶっちゃけさぁ、かなちゃんとMEMちゃんも僕達兄妹とアイの関係に気付いてると思うんだ。気を遣って口に出してないだけで」

 

「多分そうだと思う。特にMEMちょなんてずっとアイのファンらしいし、かなちゃんも昔アイと共演した事があるみたいだし」

 

「あー……共演ってあの時か。2歳の頃だっけ? 懐かしいなぁ。あの時のかなちゃん我が儘凄かったもん。子供ながらよく覚えてる」

 

「分かる! 私も初めて会った時にね、びっくりするくらい酷い事言われて……!」

 

 

母親の事がバレたところでお構いなく、クリスとあかねは有馬かなの愚痴を言い合った。

 

未だに言い争うルビーと五条悟を横目に。

 

 

「いやー、そうは言っても呪術師を続ける以上、危険な目に遭う機会は結構多いよ?」

 

「……そうだね。それは散々話を聞いて理解した。多分クリスも呪術師を辞める気は全くないだろうし、姉として妹のやりたい事を無理に辞めさせる訳にはいかない。

 だからこそ、これからは定期的にここへ来てクリスの様子を見に来るから。たとえそっちが拒んでも止める気はないから!」

 

「うん、良いよ。暇な時はいつでもおいで。クリスもきっと喜ぶし、その方が賑やかで楽しいと思うから。何ならあかねも一緒に連れて来ると良いよ」

 

「言ったわね。なら覚悟しなさい五条悟! クリスをこの業界へ引き込んだ責任、必ず最期まで背負ってもらうから!」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 

 




???「クリスちゃんはあかんわ。あれは男を立てられへん。最後まで俺に噛み付いて来よったし、可愛がってあげよ思ったら隙を見て逃げられてもうたわ。その点真依ちゃんは立派やね。強がっとるけど自分が女やと心底理解しとる」

※クリスが五条悟の事を心優しい人って思うようになった原因の8割。
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